著者
藤本 昌代
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

この研究は低流動性社会としての日本、高流動性社会としての米国シリコンバレー、中流動性社会のフランスで就業する人々の組織間移動、就業観の比較を行ったものである。本研究の対象者は科学技術系の研究者・技術者である。頻繁な転職が多く、世界中で注目を集めるシリコンバレーでは起業する成功者だけでなく、解雇や倒産に不安も抱える人々も多かった。しかしながら、分析の結果、組織と長期的な関係を築く日本の研究者、技術者より、解雇が多いシリコンバレーや中流動性社会のフランスの研究者、技術者の忠誠心の方が高いことが明らかになった。このことから組織に対する忠誠心は勤続の長さでは規定されないことが発見されたのである。
著者
松野 健治
出版者
東京理科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

外部形態が左右相称な動物においても、その内臓器官が左右非対称性を示す場合がある。脊椎動物の左右軸の成立機構に関しては、すでに多くの知見が得られている。しかし、旧口動物の左右非対称性形成機構については、ほとんど理解されていない。本研究では、遺伝学的解析手段が駆使できるショウジョウバエの消化管の左右非対称性に着目し、左右性に関与する遺伝子を網羅的に同定することを目的としている。平成16年度までの研究によって、およそ80%の頻度で、中腸と後腸が同調した逆位を示すMyo31DF^<souther>突然変異を同定している。Myo31DF^<souther>の責任遺伝子は、非定型ミオシンIをコードするMyo31DFであった。Myo31DFホモ接合体では、成虫の内臓においても、左右非対称性の逆転が観察されることから、Myo31DFは、成虫の左右非対称性の形成にも必要であることが示唆された。正常な左右非対称形成には、Myo31DFの後腸上皮細胞での発現が必要であり、Myo31DFは、後腸上皮細胞のアクチン皮層に局在した。また、後腸上皮細胞のアクチン細胞骨格の正確な形成を阻害すると、後腸と中腸が逆位を示すことから、Myo31DFは、後腸上皮細胞で、アクチン細胞骨格依存的に機能していると考えられた。ショウジョウバエ・ゲノムプロジェクトにより、ショウジョウバエには、3つのMyosinIが存在することが知られている。その中で、Myo31DFと相同性の高いMyo61Fは、Myo31DFと拮抗的に消化管の左右性を制御していることが示唆された。後腸の収束的伸長における上皮細胞の移動が、後腸の左右非対称性形成に関与していることが示唆されたことから、これら2つのミオシンが、収束的伸長の際の細胞再編成に、左右非対称な偏りを与えているのもと考えられた。
著者
山中 あゆみ
出版者
東京歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

実験的バイオフィルムにおいて、ペリクルに最初に付着する細菌は口腔レンサ球菌で、つづいてPorphyromonas gingivalis、actinomycetemcomitans、Prevotella intermediaなどの歯周病原性細菌がバイオフィルム構成菌として現れてくると考えられている。そこで齲蝕原性細菌を含む初期付着細菌と後期付着細菌をそれぞれ96穴マイクロプレートにおける単一菌のバィオフィルム形成量を調べた。バィオフィルム形成量の評価は、形成したバイオフィルムを蒸留水で洗浄、室温にて乾燥後、0.1%のクリスタルバイオレットで15分間染色、余分な染色液を洗浄後、99%エタノールで色素を抽出し吸光度を測定して行った。そのデーターをもとに、クランベリーのポリフェノールによるバイオフィルム形成への阻害効果を調べた。初期付着細菌としてStreptococcus mutans 2株、S.sobrinus, S.criceti, S.mitis, S.sanguinis, S.oralis, Actinomyces viscosus、後期付着菌である歯周病原性細菌としてPorphymonas gigivalis 3株、Porphyromonas macacae, Prevotella intermedia, P.loescheii, Actinobacillus actinomycetemcomitans 2株、合計12菌種を用いて実験を行った。ポリフェノール添加培地中での各々の細菌のバイオフィルム形成量をポリフェノール無添加培地をコントロールとして比較検討した。使用した菌株全てにおいて、ポリフェノールは濃度依存的にバイオフィルム形成を有意に阻害した。P.gingivalis電子顕微鏡写真においてもバイオフィルム形成阻害が示された。現在混合菌種における評価を行うべく準備を進めている。
著者
山下 裕司 下郡 博明 菅原 一真 広瀬 敬信
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は,生活習慣病であるメタボリック症候群が聴覚に及ぼす影響について明らかにし,その予防方法を開発,将来の臨床応用に発展させることである。そのためにモデルマウスTSODを用いて研究を行った。結果としてメタボリック症候群モデル動物は,加齢に伴い出現する難聴が対照動物に比べてより早期に出現することが明らかになった。組織学的検討からは内耳の血管に動脈硬化が生じ,内耳の血流が減少することが原因のひとつであると考えられた。また,発現遺伝子の検討からは,多くの種類の成長因子が減少していることが明らかになった。これらの結果は新しい難聴予防の方法の開発につながると考える。
著者
門馬 綱一 長瀬 敏郎 ジェンキンズ ロバート 谷 健一郎 井尻 暁 宮脇 律郎
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

シリカクラスレート鉱物とは、結晶構造中にメタンなどの天然ガス分子を含む鉱物である。これまで,産出の極めて稀な鉱物と考えられてきたが,メタン湧水環境において普遍的に産出する可能性が高い。堆積物中の有機物は,地中深くまで運ばれると地熱により分解されてガスとなり,断層や泥火山などの地質構造を通して冷湧水とともに地表(海底)に湧出する。海水中に湧出したガスは微生物に酸化され,最終的には二酸化炭素として再び大気中に放散される。このような地球規模での炭素循環過程を解明する手掛かりとして,シリカクラスレート鉱物は新たな物証を与える。本研究はシリカクラスレート鉱物から古代のメタン湧水環境に関するより詳細な情報を得ることを目的とし,極東ロシア サハリンをモデル地域として研究を行うものである。2年目となる平成29年度は、前年に引き続き、サハリン南西の町ネヴェリスクおよびクリリオンスキー半島の南西海岸の調査を行なった。ネヴェリスクでは、前年度に確認したシリカクラスレート鉱物の一種、メラノフロジャイトと、化石の産状調査を重点的に行なった。また、クリリオンスキー半島においては、前年度調査ではメラノフロジャイトの痕跡(仮晶=結晶の形だけを残し、中身が玉髄に変質したもの)しか発見できなかったが、未調査の場所を重点的に調べた結果、未変質のメラノフロジャイトを見出した。産状は火山岩中に貫入した熱水鉱脈であり、ネヴェリスクのものとは趣が異なる。調査の結果については日本鉱物科学会2017年度年会にて発表を行った。また、採取した試料について、詳細な分析を進めているところである。
著者
小山 治
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は、社会科学分野の大学教育(学士課程教育)における学習経験が就職活動・初期キャリアに対してもたらす職業的レリバンス(意義・有効性)を社会調査によって実証的に明らかにすることである。本研究は、①大学4年生に対する聞きとり調査による学習経験に関する指標の抽出、②それを踏まえた大学4年生に対する就職活動に関する質問紙調査の実施、③大卒就業者に対する初期キャリアに関する質問紙調査の実施という流れで遂行された。これらの研究の結果、大学時代の学習経験の一部は就職活動結果や初期キャリアに対して正の関連がある一方で、そうした関連の程度は必ずしも高くはないという点を明らかにした。
著者
橋本 智也 白石 哲也
出版者
四天王寺大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

日本のIRは担当者の量的拡大による導入期を過ぎ、現在はIR活動の質的向上が急務となっている。IR活動が有効に機能するためには専門性を備えた人材がいるだけでは不十分であり、その専門性が各大学の文脈の中で活用される必要がある。本研究は①「大学が期待する成果」、②「必要となる専門性」、③「IR担当者が実際に持つ専門性」の相互構造に着目し、IRの専門性が大学の文脈に合致して活用されるための促進要因と阻害要因を解明する。さらに自大学がIRに期待している内容を明確化するためのルーブリックを開発する。本研究により大学側の期待とIR担当者の専門性のミスマッチを解消し、日本のIRを有効に機能させることを目指す。
著者
森 哲 森 直樹 土岐田 昌和
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

中国には6月と9月に渡航し、イツウロコヤマカガシが、ブファジエノライドを持つマドボタル亜科の種と持たないホタル亜科の種を区別して捕食するかどうかを検証するための嗜好性特定実験を行い、前者のみを選好して捕食することを明らかにした。また、イツウロコヤマカガシが、ヒキガエル類とホタル類が共通に持つブファジエノライドを手がかりとして餌認知しているかどうかを実験的に確かめたが、これを支持する結果は得られなかった。野外調査は四川省と雲南省で行い、レオナルドヤマカガシを捕獲し、胃内容物からPyrocoelia属のホタルを初めて検出した。さらに、雲南省ではDiaphanes属のホタルの採集にも成功し、本ホタルがブファジエノライドを持つことを化学分析により確認した。頸腺の胚発生の分析においては、ステージ32のヤマカガシ胚、ならびに同ステージのシマヘビ胚およびマムシ胚の頸部組織で発現する遺伝子をRNA-seq法を用いて網羅的に比較し、ヤマカガシ胚の頸部のみで強く発現する遺伝子を40個ほど特定した。そのうち、頸腺の形成に関与していると予想されたCADM1、NGFR、PDGFRA、AZIN2の4つについて、ヤマカガシより配列断片を単離し、in situハイブリダイゼーションによるmRNAの発現解析を行ったが、組織標本の状態や染色プロトコールが十分でなかったことから、mRNAの局在を確認することができなかった。計画ではインドネシアにも渡航して、Macropisthodon属の種の頸腺の形態観察と頸腺成分の分析を行う予定であったが、調査許可取得の事務的手続きに時間がかかっており、実行はできなかった。しかしながら、インドネシアの共同研究者が単独でボゴール博物館に収蔵されている標本を用いて関連種の頸腺形態の観察を行い、11月には来日して、日本爬虫両棲類学会大会で成果を発表した。
著者
八木 淳子 桝屋 二郎 松浦 直己
出版者
岩手医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

東日本大震災後に誕生し、直接の被災体験のない、激甚被災地在住の子どもとその母親223組を対象として、子どもの認知発達や情緒・行動上の問題、母親のメンタルヘルスや被災体験などについて調査を継続した。研究調査3年目となる今年度の第2回追跡調査への参加は179組であった(補足率80.3%)。ベースライン調査の結果において、発達の遅れが認められた子どもたちやメンタルヘルスの問題に苦悩する母親ら、ハイリスク家庭に対して、保育所や地域の専門機関等との連携によって支援を実施し、第1回追跡調査結果においては、子どものIQの平均値の改善が認められ、情緒と行動上の問題(臨床域)を呈する子どもの割合も減じた。3年目は子どもたちが小学校に入学し、保育所をベースとした集団が拡散したことから、調査への参加のはたらきかけや会場の集約など、現地調査実施上の課題が多くなったことが、捕捉率の低下につながったと考えられる。母子ともに改善傾向にある家庭が確実に存在する一方で、母親へのインタビューにおいて、本調査に参加している児の兄弟・姉妹について相談されることも少なくなく、被災地で子どもを養育すること自体が不安など心理的負荷のかかるものであり、その影響を受けて苦悩する家庭との二極化が懸念される。現在、3年目調査結果を解析中であるが、2年目の結果からも母親のメンタルヘルス、特にMINIの結果は大きくは改善しておらず、存続していくことが予想されるため、相談支援を継続するとともにその介入効果についても検証を進める。これらの結果を受けて、大災害から数年後を見越した「子どものこころのケア」や「発達支援」の計画においては、震災後に誕生した乳児とその家庭をも支援対象として含めておくことの重要性について提言していく。