著者
永田 素彦 吉岡 崇仁 大川 智船
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.170-179, 2010 (Released:2010-02-20)
参考文献数
18

環境開発における住民参加手法の一つとして,シナリオアンケートを開発し実施した。シナリオアンケートは,環境開発がもたらす環境の多様な属性の変化についての自然科学的情報を提供し,かつ,それらの環境の属性の変化に対する人々の選好および複数の環境開発シナリオへの相対的支持率を明らかにすることができるアンケート手法である。シナリオアンケートの開発にあたっては,社会科学者と自然科学者が緊密に連携した。開発したシナリオアンケートは,研究フィールドである北海道幌加内町の朱鞠内湖集水域を対象地域として,幌加内町住民を対象として実施した。コンジョイント分析の結果,森林伐採がもたらす水質悪化や植生の変化が最も懸念されていることが明らかになった。最後に,シナリオアンケートの,環境開発における住民参加への貢献可能性について考察した。
著者
財津 理
出版者
法政哲学会
雑誌
法政哲学 = Bulletin of Hosei Society for Philosophy (ISSN:13498088)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.25-35, 2017-03-20

Deleuze parle, 《l'histoire de la philosophie, c'est la reproduction de la philosophie même. Il faudrait que le compte rendu en histoire de la philosophie agisse comme un véritable double, et comporte la modification maxima propre au double》. Les mots que Deleuze cite de Hume, Bergson, Husserl, Kant, Nietzsche etc. dans le Chapitre Ⅱ de Différence et répétition, pourraient donc être doubles qui comporte la modification maxima, et pourtant notre essai cherche, enanalysant ces mots, à déterminer le statut de la matière et de l'esprit au sens deleuzien du terme.
著者
臼井 将勝 阿座上 弘行
出版者
独立行政法人水産大学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

エビアレルギーリスクと摂食方法の関係について明らかにするために、主要アレルゲンであるトロポミオシンの熱安定化因子を構造解析等により検討した。その結果、単純な立体構造、高い水溶性、高い構造可逆性が抗原性保持に寄与することが明らかとなった。また動物試験の結果、加熱は生体内での抗原性低減化にも有効でないことが示唆された。さらに、エビ可食部に含まれる抗原濃度は、加熱調理の有無に係わらず非常に高濃度であること、加熱により溶出率が高くなること、鮮度低下時にも十分に維持されることなどが明らかとなった。以上の結果から、陽性患者がエビを摂食することは、加熱や鮮度に係わらず非常にハイリスクであることが示唆された。
著者
関 雅文 朝野 和典
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.100, no.12, pp.3522-3526, 2011 (Released:2013-04-11)
参考文献数
14
被引用文献数
3

わが国では肺炎診療においてさまざまな血液検査所見が利用されているが,その中でもCRPが特に重要なマーカーとして汎用されている.CRPは肺炎の重症度とは必ずしも一致しないとされていたが,最近の院内肺炎や市中肺炎ガイドライン検証のための全国調査では,再び予後予測因子としての有用性も実証されつつある.プロカルシトニンなど他のバイオマーカーも含め,その長所短所を理解しながら,これらを実地診療に応用していくことが肝要である.
著者
立川 雅司 加藤 直子 前田 忠彦 稲垣 佑典 松尾 真紀子
出版者
日本フードシステム学会
雑誌
フードシステム研究 (ISSN:13410296)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.283-288, 2020 (Released:2020-04-10)
参考文献数
11
被引用文献数
3 2

Genome editing is being applied in various fields of life sciences, such as medicine, agriculture, food and energy. Regarding the regulatory status of genome editing in Japan, policies are being issued by the Ministry of Health, Labor and Welfare and the Ministry of the Environment, and applications to the fields of agriculture and food are being widely considered. However, there has hardly been any explicit discussion on the differences between applications for plants and animals. We argue there are several points that should be taken into account. In this paper, we clarify the unique regulatory issues that separate genome edited animals from plants, in particular, safety assessment, consumer perception, and animal welfare.
著者
中島 満大
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.287-302, 2018 (Released:2019-12-31)
参考文献数
27
被引用文献数
1

本稿は, 近代以前の社会において, ‹家族›がどの程度実現していたのかを宗門改帳を用いて素描していく. この論文では‹家族›を母子関係と父子関係が維持されている状態として定義した. 史料として肥前国野母村で作成された『野母村絵踏帳』を使用し, 徳川時代の村落における‹家族›の実現性を析出した. その方法として, 人口学における生命表分析を親との死別に応用している. 本稿では, 子どもの親の生命表を作成し, ‹家族›の実現性を検討した.この研究では, 以下のことが明らかになった. ひとつは, 子どもが10歳に達した時点で, 75%の子どもは両親が生存していたが, 残りの25%の子どもは, 母親もしくは父親のどちらかがいない状態, あるいは両親が共にいない状態にあったということである. 20歳になると, 両親が生存していた子どもの割合は全体の48%にまで下がっていた. もうひとつは, 子どもが生まれた段階で, それ以降, 平均して父親が生存する期間は24年, 母親は35年, 両親が共にいなくなるまでの期間は39年であることを明らかにした.平均寿命の延伸で, 私たちの人生が変化したように, ‹家族›の実現性の高まりは私たちのライフコースや社会に大きく影響している. 歴史の中の‹家族›の実現性は, 現代社会における家族の役割や家族が抱える問題を相対化する力をもっているといえる.
著者
喜早 ほのか 別所 和久 高橋 克
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

哺乳類の歯には、通常は退化・消失する第3歯堤が存在する。通常の歯数よりも多く形成される歯を過剰歯といい、実際にヒトにおける第3歯堤由来と考えられる過剰歯症例を経験し、報告した。本研究では歯数の制御に着目し、機能を抑制することで歯数が増加する分子と、逆に機能を亢進することで歯数が増加する分子を標的とした。USAG-1とBMP-7は歯の形態形成と大きさに重要な役割を果たす可能性があることを報告した。さらにヒトの多発性過剰歯の発生由来として幹細胞が関与する可能性を報告した。また、CEBP/βとRunx2の解析により、上皮間葉転換が離脱した歯原性上皮幹細胞に過剰歯を発生させることを報告した。
著者
久後 香純
出版者
日本映像学会
雑誌
映像学 (ISSN:02860279)
巻号頁・発行日
vol.108, pp.122-143, 2022-08-25 (Released:2022-09-25)
参考文献数
63

本稿は、1960年代後半から70年代初頭の日本において生まれた「アノニマスな記録」という写真のリアリズム言説を研究対象とする。東松照明、内藤正敏、中平卓馬、多木浩二ら戦後世代の写真家たちは、写真は個人の「表現」ではなくアノニマスな「記録」として存在するべきだと主張した。本研究では、この新しい写真概念の形成過程をたどる。その目的は、ありのままを写すとされる写真の記録性をテクノロジーに担保された必然として受け入れるのではなく、歴史的に構築されたモノとしてその言説の歴史性と政治的含意を問うことにある。まず本稿前半部分では、アノニマスな記録という言説が生まれるきっかけとなった「写真100年」展を取り上げる。そこで明らかにするのは展覧会を企画した日本写真家協会内部で、木村伊兵衛、土門拳、渡辺義雄に代表される戦中世代と先に名前をあげた戦後世代の間に明確な対立関係があったことだ。ただし、この対立を踏まえたうえで、本稿後半部分では、戦後世代が戦中世代から受け継いだ言説があったことを明らかにする。とくに注目するのは両世代ともに写真家が主体的な「観察者」であることを重要視した点である。以上の過程を通して、日本写真史におけるリアリズムの系譜を示す。
著者
高波 澄子
出版者
旭川大学保健福祉学部
雑誌
旭川大学保健福祉学部研究紀要 = The journal of Faculty of Health and Welfare Science, Asahikawa University (ISSN:18837247)
巻号頁・発行日
no.13, pp.15-22, 2021-03-31

人は,年齢を重ねるごとに心身機能の衰退や,病状の進行によって医療や介護を受けるために医療機関や介護施設への入院,入所を余儀なくされる。このような状況下,医療機関・介護施設における看護師による患者・入所者への身体拘束に関わる訴訟が提起されるようになった。【目的及び方法】本論文では最高裁が,看護師による高齢者への身体拘束の違法性を正面から判断した初めての事例を取り上げた。本判決は,本事案における看護師の看護のあり様をどのように判断しているのかを探り,そこから高齢者の尊厳を基盤とする看護には何が求められるかを考察した。【結果】身体拘束によって奪われるものは「個人の尊厳」である。抑制をしない看護の追及が個人の尊厳を基盤とする看護につながる。その看護とは,(1)患者・入所者の意思を尊重し,患者の意向に沿う看護,(2)高齢者のアイデンティティに依拠する尊厳を基盤とした看護;一人の患者としてのアイデンティティ(自己認識)から派生する尊厳をとおして患者が,自分自身を表出できるような関わりをもつ。(3)患者の内に在る尊厳(人としての価値)を見据えて患者と看護師の関係性を構築する,の3つである。【結論】「抑制のない看護」を模索するということは,一人の患者・入所者に真摯に向き合い,親身に対応し,その人の意思を尊重しようとする看護のあり様である。そして患者一人ひとりの尊厳を基盤とする看護につながることが期待される。
著者
Shintaro Matsunaga
出版者
Japan Society for Animation Studies
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.29-40, 2023-01-31 (Released:2023-02-11)
参考文献数
25

日本のアニメ産業を支えるアニメーターの多くはフリーランサーとして働いていることが知られているが、彼らがどのようにして不安定性を含む労働に対処しているのかについては十分な議論がされてこなかった。本稿では、労働社会学で議論されてきた、複数の仕事の組み合わせ方を捉える「ポートフォリオワーク」の視点に基づき、アニメーターが日々の労働のなかで直面する無収入などのリスクに対して行っている個人的・集団的な対処について、スタジオでのエスノグラフィーに基づき明らかにした。アニメーターはしばしば当人に責任のない形で無収入になるリスクに晒されるが、ベテランについてはあらかじめそのリスクが顕在化する時期を見越して短期的な仕事を確保しておくなどの対処を行っていた。若手アニメーターはそうした対処が難しい場合があり、その場合はスタジオの支援を受けながら仕事を獲得していた。このことはフリーランサーであるアニメーターも組織の管理を受けることを意味するが、その管理はアニメーターが持つ作品制作に関わる意向が尊重されることを前提として成り立っていた。これらの知見は、アニメーターがフリーランサーとして働くことの意義を示しており、今後いかなる働き方がアニメーターに適しているのかを考察する際の参照点として有効である。
著者
鉱山懇話会 編
出版者
鉱山懇話会
巻号頁・発行日
vol.中巻, 1932
著者
Nam-Hee Kim Hawazin W. Elani Ichiro Kawachi
出版者
Japan Epidemiological Association
雑誌
Journal of Epidemiology (ISSN:09175040)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.101-108, 2023-02-05 (Released:2023-02-05)
参考文献数
42
被引用文献数
1

Background: In 2012, the Korean government expanded dental insurance for the elderly to promote improved access to dental care. We examined the causal effect of this policy on dental care needs, focusing on low-income older adults.Methods: We compared data before and after policy implementation using double difference (DD) and triple difference (DDD) analyses. We used the nationally representative data from the Korea National Health and Nutrition Examination Survey from 2010 and 2016–2018. Individuals aged ≥65 years were included in the treatment group, and individuals aged <65 years were included in the control group.Results: Dental insurance expansion was associated with a paradoxical increase in perceived unmet dental needs among elderly individuals (8.8 percentage points increase, 95% CI: 4.7 to 13.0). However, there were improvements in dental prosthetics outcomes (denture wearing [4.0 percentage points, 95% CI: 0.2 to 7.9] and dental implants [5.0 percentage points, 95% CI: 2.1 to 7.9]; P < 0.01). Upon analyzing low-income elderly individuals using DDD analysis, we found that the insurance expansion led to a 21.6% smaller increase in unmet dental needs among low-income adults, compared to high-income adults (95% CI, −35.0 to −8.5; P < 0.01).Conclusion: Dental insurance expansion in South Korea resulted in improvements in access to dental prosthetic services overall. It also led to a smaller increase in unmet dental needs among low-income older adults, compared to high-income adults.