著者
和田 成一
出版者
北里大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

低線量放射線の細胞応答は高線量域のデータから推察されてきた。しかし、この高線量域から低線量域への外挿データでは説明のつかない現象、放射線超感受性現象が広く知られてきた。この現象のメカニズムはバイスタンダー効果と生物学的機能不全によると考えられているが詳細は明らかにされていない。本研究では、この現象を誘導する引き金は放射線による細胞膜応答であり、細胞膜応答から細胞外に細胞膜応答分子のスフィンゴミエリナーゼが分泌され、この分子によって細胞はDNA修復不全に陥るため、放射線超感受性が誘導されることを明らかにした。つまり、放射線超感受性現象は細胞膜応答によりバイスタンダー効果と生物学的機能不全が連動していることを明らかにした。
著者
伊東 静一 小川 潔
出版者
一般社団法人 日本環境教育学会
雑誌
環境教育 (ISSN:09172866)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.1_29-41, 2008-07-20 (Released:2011-08-31)
参考文献数
64
被引用文献数
5 3

We studied the roots of Japanese environmental education, which is called conservation education, focusing on the key persons and movements from its beginning until the middle of the 1970s.  Dr. Jukichi Shimoizumi first used the phrase“conservation education” in Japan and propagated it in the 1960s-70s, especially in teacher-training based on ecology and nature sensibility education. As he worked entirely within the education and research world, he could not gain an awareness of the parties concerned with the environmental problem and continued to have an optimistic view that the knowledge of nature would automatically lead people to conservation.  Mr. Godo Nakanishi contributed toward creating the cultural basis and methods of conservation education through nature watching without the collection of organisms as specimens.  Mr. Hitoshi Kaneda and Dr. Toshitaka Shibata established conservation education in the latter half of the 20th century in Japan. They developed methods of nature watching in the outdoors by way of ecological and ethical ideas, instead of the method of traditional nature education or science, such as collecting and making specimens. They promoted nature ethics and the belief that nature was of public concern, and emphasized the importance of conserving nature, using it wisely, and maintaining its productivity for the next generation. This idea was born in their conservation movement from the 1950s and the first proposal of sustainability.  Dr. Kiyoshi Ogawa tried to innovate field watching for conservation from the 1960s. He presented field watching concerned with not only nature, but also with the regional environment including history, culture and human living environments. His idea was reproduced in conservation movements in rural and urban regions of Tokyo through the 1960s-1980s.  This process of the establishment of conservation education in Japan shows the pioneering viewpoint of ESS, which has been regarded as the largest key phrase in environmental education in the world after the 1990s.
著者
近藤 哲
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.107, no.7, pp.1096-1101, 2010 (Released:2010-07-05)
参考文献数
22
被引用文献数
1

肝門部胆管癌に対する手術術式は,約30年前黎明期の胆管ボーリング手術,約20年前の肝区域切除・尾状葉切除の導入,約10年前の肝葉切除による標準化,最近の癌手術の原点に戻ったen bloc手術と進化を遂げてきている.それにともない手術成績も向上してきており,胆管癌全体の5年生存率は胆道癌全国登録調査2002年報告では26%であったのが,2009年報告では33%にまで改善されている.国際的にみても日本の専門施設では手術死亡率が5%未満であるのに対し,残念ながら欧米からの報告では5~10%以上の死亡率が依然として続いている.胆道ドレナージ,門脈塞栓術などのきめ細やかな周術期管理の有用性を高いレベルのエビデンスとして発信することがのぞまれる.
著者
原 耕介 松島 知生 小保方 祐貴 西 恒亮
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0087, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】近年,股関節唇損傷の病態や治療に関する報告が増えている。損傷メカニズムは股関節運動時に大腿骨頚部と臼蓋前縁が衝突することとされている。臨床では,股関節屈曲時に鼡径部につまりや疼痛を訴える患者に対し,徒手的に骨頭の後方滑りを補助することで症状の軽減やROMが改善することを経験する。また,LeeやSahrmannは股関節屈曲運動に伴う大腿骨頭の後方すべりの減少に起因する関節前面のインピンジメントを成書のなかで示している。Sahrmannは,自動SLR時の大転子の軌跡を追うことで,大腿骨頭の後方滑りを評価しているが,股関節屈曲運動に伴う大腿骨頭の動態について報告しているものは見受けられない。そこで今回,他動股関節屈曲運動時の大転子の軌跡を分析し,大腿骨頭の動態を明らかにすることを目的とする。【方法】対象は健常成人男性10名20股(年齢24.5±2.2歳,身長171.2±3.cm,体重66.8±7.0kg)で,股関節屈曲時に鼡径部につまり・疼痛を感じる群(P群:6股)と感じない群(N群:14股)に分け,基本特性として,股関節0°および90°屈曲位における股関節内外旋角度を測定した。被験者は骨盤・股関節中間位の背臥位とした。骨盤中間位は両側上前腸骨棘(以下;ASIS)と恥骨結合が並行になる位置とし,股関節内外転中間位を維持するために膝蓋骨中央をマーキングし,さらに膝蓋骨中央が上方を向いた位置を股関節内外旋中間位とした。その後,骨盤の代償が可能な限り起こらないように,非検査側の大腿部および両側のASISを非伸縮性のベルトで固定し,さらに徒手的に両側ASISを固定した。測定は他動股関節屈曲運動を最終域まで行った。最終域は検者がエンドフィールを感じた時点もしくは被検者が鼡径部につまり感を感じた時点とし,その際の可動域を測定した。その際,大転子最突出部(以下;Tro)を触診し軌跡を追い,屈曲10°ごとにTroをマーキングした。マーキング後に両側ASISを結んだ線の延長線上でTroから60cm,床から60cmの位置に設置したデジタルカメラにて縦・横とも1ピクセル0.2mmに設定した画像を撮影した。撮影した画像を,Image Jを用いX軸は頭側を正,尾側を負とし,Y軸は腹側を正,背側を負として,各股関節屈曲角度におけるTroの座標を求めた。股関節屈曲0°の座標を原点とし,原点からのTro移動量(以下,原点移動量)をmm単位で屈曲角度ごとに求めた。さらに,各屈曲角度間におけるTroの移動量(以下,角度間移動量)も同様の方法で求めた。統計処理はSPSSver21.0を用い,各股関節屈曲角度におけるX軸・Y軸の原点移動量および角度間移動量,股関節屈曲可動域および90°・0°内外旋可動域をN群とP群で比較した。群間比較にはMann-WhitneyのU検定を用い,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者に目的及び内容,対象者の有する権利について口頭にて十分説明を行い,書面にて同意を得た。【結果】股関節屈曲可動域はN群が優位に大きい値(N群:107.50±6.72°,P群:98.33±3.67°)を示した。股関節内外旋可動域は群間で差は認められなかった。X軸原点移動量では屈曲10°から40°においてP群で有意に頭側へ移動し,Y軸原点移動量は屈曲10°から最終域の全屈曲角度でP群有意に腹側へ移動した。角度間移動量では両軸とも屈曲0°から10°の間にN群で有意に尾・背側に移動した。【考察】他動股関節屈曲時にP群では屈曲0°から10°における大転子の背側移動量が減少し,その後も背側に大転子が背側へ移動せずに,N群よりも腹側に大転子が位置していることが分かった。Joshuaらによれば,大転子の移動量は股関節中心の移動量を反映しているため,大転子が背側へ移動しない,つまり,大腿骨頭が後方へ滑らないまま屈曲することが鼡径部のつまりや疼痛の一因である可能性が示唆された。後方滑り減少の原因として,本研究では,群間で屈曲可動域に有意差は認められたが,内外旋可動域に差がないことから,諸家により報告されている短外旋筋群の伸張性低下が股関節屈曲可動域や大腿骨頭の後方滑りに影響を与えた可能性は本研究においては低いと考えられた。今回の結果から,股関節屈曲0°から10°での大腿骨頭の後方滑りが減少していた原因を断定することは困難であり,また,大転子の軌跡が真に大腿骨頭の動態を反映しているかは議論の余地がある。今後は関節エコーなどを用いて,関節内の大腿骨頭の動態とそれに影響を与え得る因子を明らかにするとともに,本研究で用いた方法の妥当性を検証していく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】他動股関節屈曲運動時に鼡径部につまりや疼痛を訴える場合,大転子の背側移動量が減少していることが明らかとなった点において意義があると考える。
著者
雨宮 俊彦 水谷 聡秀
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.139-166, 2006-03-25

音感素は、音素と形態素の間のレベルに位置する、音象徴における基本単位である。英語やスウェーデン語などにおいては、二子音、あるいは三子音からなる多くの音感素の例が報告されている(Hinton, Nichols and Ohala, 1994; Abelin, 1999)。日本語は、二子音、三子音からなる音のパターンを欠いているので、そのような音感素も存在しない。Hamano(1998)は、日本語における各子音と各母音を音感素に設定し、日本語におけるオノマトペを組織的に分析している。Hamanoの分析は大変興味深いが、音感素と感性的意味の選択は分析者の直感によっている。この予備的研究で我々は、こうした基本問題に関する経験的な証拠を提供し、これを日本語における音象徴全般の問題に関連づけることを試みる。1)60のオノマトペが用いられた。オノマトペはすべてCIVIC2V2形式で、意味は感情に関連するものだった。12人の被験者がこれらのオノマトペを24の形容詞対により評定した。形容詞対24次元空間における60のオノマトペ間の距離行列がMDSにより分析された。2次元解が採用された。第1次元は明るさと、第2次元は硬さと最も高い相関を示した。2)157の日本語の拍が用いられた。99名の被験者がこれらの拍の明るさを、100名の被験者がこれらの拍の硬さを評定した。67の拍の評定平均値がカテゴリー回帰分析によって分析された。従属変数は明るさと硬さであった。独立変数は子音と母音だった。重相関係数は、明るさと硬さともにほぼ1であった。拍への影響は、明るさと硬さともに子音の方が大きかった。

18 0 0 0 OA 経済倶楽部講演

出版者
東洋経済出版部
巻号頁・発行日
vol.第94輯, 1935
著者
上村 朋子 本田 多美枝
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
no.3, pp.194-207, 2004

本稿では、「概念分析」の手法について概観し、それぞれの手法が生み出されてきた背景について論じた。「概念分析」は1960年代の看護理論の開発に伴い、その構成ブロックである「概念」を明らかにする必要性から、欧米を中心に探究が進められているものである。看護の分野で使用されている「概念分析」の手法は、高校生の概念分析スキルの向上を意図して導かれたウイルソンの方法から展開している。その主なものは、システマテイックな方法として評価され、先行研究において最も採用されているウォーカーとアーヴァントの方法、また時間や状況による概念の変化に着目したロジャーズの革新的方法、実践現場で概念がどのような意味で使用されているのかを重視したバイブリッド・モデル、さらには、いくつかの概念を多面的に分析する同時的概念分析などである。「概念分析」は、これまで曖昧に使用されてきた「概念」を明確にすることを通して、看護の現象に迫る方法を提示している。それぞれの手法の活用にあたっては、分析の目的に適した手法を選択して、クリティカルな思考を展開することが重要である。
著者
中原 淳
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.23-35, 1999-06-20
被引用文献数
12

近年の学習環境論において学習者自身が学習過程の再吟味を行うことの重要性が主張されている.本論文の目的は,学習過程を重要視する学習環境のデザインと,それが学習者にもたらす変容を明らかにすることである.研究方法としては,「エスノグラフィー(ethnography)」を採用する.より具体的には,ある学習環境における空間配置・学習材・ストラテジ- (strategy)の3つの学習活動を構成する「リソース(resource)」について考察を加える.それをふまえた上で,他者に対する学習過程の内省的認知活動である「語り(Narrative)」とそれらリソースとの関係を論じる.上記の認知活動は,研究対象の実践において特異に観察された.「語り」は,3つのリソースが「協調(coordination)」して構成される内省的な認知活動である.学習者にとっての「語り」の教育的効果は,学習そのものをどう定義するかという認識のレベル-「メタ学習観」の転換・変容に存在する.以上の議論をふまえ,学習活動支援の方法としての「語り」を概観し,「語り」を誘発する学習環境のデザインについて本稿からの示唆を述べる.
著者
大倉 韻
出版者
首都大学東京・都立大学社会学研究会
雑誌
社会学論考
巻号頁・発行日
no.32, pp.109-134, 2011-10-31

現代日本のアダルトゲーム(ポルノゲーム)はただ性行為を消費するだけではなく、感動的な物語や登場キャラクターへの恋愛感情をも消費対象とするような独特の進化を遂げている。それを消費するオタクたちは概して現実の恋愛や性行為に対する意欲を欠くため、しばしば「虚構に逃避している」と批判されてきた。だが実際には彼らは逃避しているのではなく、恋愛に関して独自の価値観を持っているようであった。そこでアダルトゲーム消費者にインタビューを行ったところ、次のような知見が得られた。(1)中学高校時代を「一般人」として過ごした者は恋愛の実現に意欲的な傾向があり、「オタク」として過ごした者は意欲的ではなかった。(2) 前者は友人や先輩などから恋愛に関する情報を多く得ており、後者にそのような経験はなかった。Berger and Luckmann の「第二次的社会化」の概念を用いれば、人は「意味ある他者」と恋愛に関する情報交換をすることで恋愛の実現を自明とみなす価値観を内面化していくと考えられる(「恋愛への社会化」) 。前者はその主観的必然性が強化されるものの後者は強化されず、よって「多くのオタクは一般人と比較して恋愛の実現にあまり動機づけられていないため、虚構の恋愛描写で十分満足できる」という可能性があることが見出された。

18 0 0 0 OA 紀伊続風土記

著者
仁井田好古 等編
出版者
帝国地方行政会出版部
巻号頁・発行日
vol.第3輯 牟婁,物産,古文書,神社考定, 1911