著者
今西 規
出版者
日本組織適合性学会
雑誌
日本組織適合性学会誌 (ISSN:21869995)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.130-134, 1994 (Released:2017-03-31)
参考文献数
10

HLAは多重遺伝子族を構成し, しかも各遺伝子座が多数の対立遺伝子を持つ. この遺伝的多型は世界のどの集団にもみられるが, その対立遺伝子の構成は集団ごとに異なる. ここでは, HLAの対立遺伝子が世界の民族の中でどのように分布しているかを示し, 対立遺伝子頻度の統計学的解析を通して, ヒトの進化の歴史について論じる. 1. HLAの遺伝的多型 ヒトの主要組織適合性複合体(MHC)であるHLAは, 免疫機構の中で非自己抗原の認識を担当する分子である. HLAの遺伝子には多数の対立遺伝子があり, 個体ごとに異なるタイプの遺伝子を持つ場合が多い(1). このような遺伝的多型は, HLAに限らず他の多くのタンパク質をコードする遺伝子でも観察される現象である. しかし, HLAの遺伝的多型は他の遺伝子とは異なり, 対立遺伝子の種類が極端に多い. 実際に, HLAは, ヒトの遺伝子の中でもっとも変異に富む遺伝子であるかもしれない. そして, この遺伝子の変異を比較研究することによって, さまざまなヒトの集団の間の進化的系統関係を探ることができるのである.
著者
奥田 圭 藤間 理央 根岸 優希 ヒントン トーマス G. スマイサー ティモシー J. 玉手 英利 兼子 伸吾
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.137-144, 2018 (Released:2018-07-23)
参考文献数
27

2011 年の東北地方太平洋沖地震は、福島県の一部地域における人間活動を大きく変えた。福島第一原子力発電所の津波被害やその後に生じた放射能汚染は、結果的に放棄耕作地や住民の避難に伴う空き家を増加させ、避難区域内における家畜の逸出を招き、野生の哺乳動物の個体群も拡大させた。本研究では、福島県におけるニホンイノシシと逸出したブタとの交雑の可能性を検証した。2014 年から2016 年の間に福島県内の個体群から集められた75 頭のニホンイノシシのミトコンドリアDNA 配列を分析した結果、71 個体からはニホンイノシシ固有の既知の配列が得られたが、それらから著しく分化したブタに該当する配列が4 個体から得られた。この結果は、野生化したブタからニホンイノシシ個体群への遺伝子汚染を示唆している。また、今回の知見は、当該地域における核DNA マーカーを用いた詳細な遺伝解析とモニタリングに基づく個体群管理の必要性を示唆している。
著者
松本 じゅん子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.23-32, 2002-03-31
被引用文献数
1

本研究では,大学生を対象に,悲しい時に聴く音楽の性質や,聴取前の悲しみの強さと音楽の感情的性格による悲しい気分への影響を調べた。予備調査の結果,悲しみが強い場合ほど,暗い音楽を聴く傾向が示され,悲しみが強い時に悲しい音楽を聴くと悲しみは低下するが,悲しみが弱い時に悲しい音楽を聴くと悲しみが高まる,または変化しないことが予測された。実験1,2の結果,音楽聴取後の悲しい気分は,音楽聴取前の悲しみの強さにかかわらず,聴いた音楽によって,ほぼ一定の強さに収束した。結果的に,非常に悲しい時に悲しい音楽を聴いた場合,音楽聴取後の悲しい気分は低下し,やや悲しい時には変化しないことが示唆された。つまり,悲しい音楽は,悲しみが弱い時には効果を及ぼさないが,非常に悲しい気分の時に聴くと悲しみを和らげる効果があり,状況によっては気分に有効に働くことが推察された。
著者
元森絵里子
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.90, pp.25-41, 2012-06-15 (Released:2013-06-17)
参考文献数
30

近年,行為と責任の主体としての「子ども」という問題系が浮上している。 しかし,これを,近代になって誕生した保護と教育の客体としての「子ども」という観念の揺らぎや「子ども期の消滅」と読み解くことは妥当だろうか。本稿は,明治以降の歴史にさかのぼって,教育を中心とする諸制度の連関の中で,「子ども」という制度がどう成立してきたか,少年司法ではどうであったかを整理し,「子ども」観の現代的な効果を考察する。 明治後半から大正後半にかけて,年少者を教育に囲い込み,こぼれ落ちた層に少年司法や児童福祉で対応していくという諸制度の連関が形成されていく。「子ども」は「大人」とは異なるものの自ら内省する主体とみなされ,そのような「子ども」を観察し導くのが教育とされ,尊重か統制か,保護か教育かといった議論が繰り返されるようになる。少年司法では,旧少年法以降,「大人」とは異なった,責任・処罰と保護・教育を両立させた「少年」の処遇が導入され,保護主義か責任主義かという議論が繰り返されるようになる。 近年,「子ども」をめぐる議論が高まっているにしても,少年法の改定は繰り返される議論の範囲内であるし,少年司法改革や教育改革は行われても,それ自体を解体する動きはない。したがって,社会の「子ども」への不安が,過剰な社会防衛意識につながったり,各現場の「大人」の息苦しさを帰結したりしない仕組みづくりこそが重要であろう。
著者
三好 真琴 宇佐美 眞 藤原 麻有 青山 倫子 前重 伯壮 高橋 路子 濵田 康弘
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.915-921, 2013 (Released:2013-08-23)
参考文献数
23
被引用文献数
1

近年、腸内フローラは肥満やメタボリックシンドロームに関与する環境因子として注目されている。腸内フローラは、未消化食物成分を代謝し、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸などを宿主に供給しており、その機序の一つとして腸内分泌細胞のI細胞やL細胞上の栄養受容体が関与している。脂肪酸レセプターは、短鎖脂肪酸がGPR41、GPR43、中鎖、長鎖脂肪酸がFFAR1、GPR120と近年同定された。特に腸内フローラの代謝物である短鎖脂肪酸はレセプターやトランスポーターMCT-1を介して多様な機能を発揮し脂質代謝へも効果を及ぼすと考えられている。さらに、短鎖脂肪酸の代謝仮説に基づいて腸内フローラと脂質濃度の関連を解析した我々の結果を交えて、腸内細菌と脂質代謝について概説する。腸内フローラと多価不飽和脂肪酸の関連が新たに得られ、更なる検討が必要であろう。
著者
淀 太我 井口 恵一朗
出版者
水産総合研究センター
巻号頁・発行日
no.12, pp.10-24, 2004 (Released:2011-03-05)

外来魚ブラックバスの釣り利用と駆除を巡る軋轢はバス問題と呼ばれ社会問題化している。バス釣りの普及には各時代の社会背景が強く影響しており、特にバブル景気を背景とした市場主義の導入は、バス釣りを釣りの一分野から手軽な一般娯楽へと変化させ、空前のブームを産んだ。バス問題で顕在化した多くの問題点は現代人の生活や自然との関わり方に深く根ざしており、その解決は人間社会の持続的な発展の可否を占う試金石である。
著者
新沼 智之
雑誌
玉川大学芸術学部研究紀要
巻号頁・発行日
no.12, pp.35-41, 2021-03-30

俳優や劇作家や演出家などの芝居作りの中心にいる者と、デザインをしたりプランを組んだりするスタッフ、そしてそれを再現するスタッフ、そして広い意味での研究者など、その周縁にいる者とのかかわり、あるいは後者の仕事ぶりというのが、一般の観客にはなかなか見えて来ない。それはなぜなのか。そのことを探るべく、芝居作りおよび「演劇」の構造の分析を歴史的観点および美学的観点から試みる。美学的には「上演」とは何か、「演技」とは何か、「演出」とは何かの分析をする。そこには、単に内輪のこととして処理されて外へと語られない慣習というのではない構造上の原因が浮かび上がってくる。

18 0 0 0 OA 本邦大地震概説

著者
大森 房吉
出版者
東京大学
雑誌
震災豫防調査會報告
巻号頁・発行日
vol.68, pp.i-"180-1", 1913-03-31

付録30頁
著者
佐藤 あずさ
出版者
Waseda University
巻号頁・発行日
2004-02

制度:新 ; 文部省報告番号:甲1870号 ; 学位の種類:博士(学術) ; 授与年月日:2004/2/16 ; 早大学位記番号:新3744
著者
平尾 素一 環境生物コンサルティング・ラボ:NTG研究会
雑誌
ペストロジー学会誌 (ISSN:09167382)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.24-26, 1990-11-01

現在のゴキブリ駆除は病原菌の媒介を阻止するためというより,ゴキブリの姿を見て「嫌だ」「気持がわるい」という,いわゆる不快感という観点から駆除対象とされることが多い.この場合,一軒の住宅で,どれくらい姿を見ると人々は「駆除」というアクションをおこすのか,いわば許容水準(Tolerance level)はどれくらいかについて知る必要がある.そのためには人々のゴキブリに対する意識について数多くの調査を行なう必要がある.アメリカバージニア工科大学の昆虫学教室のグループが,1979年夏にメリーランド州Baltimore(265世帯),バージニア州Norfolk(240世帯),Roanoke(143世帯)の計648軒のアパート住人に対して,ゴキブリに対する態度(Attitude)と知識(Knowledge)について調査している.害虫管理の基本的な出発点は,住人の対象害虫に対する意識と知識を理解することであるという認識にもとづくものである.同大学グループはまた,1985年夏に中国浙江省杭州のアパート105世帯を対象に同じような調査を行なっている.これらの調査に用いられたとほぼ同じ手法で日本全国513世帯について調査を行ない,日米の比較を試みた.
著者
李 晋寧
出版者
スポーツ史学会
雑誌
スポーツ史研究 (ISSN:09151273)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.19-41, 2020 (Released:2021-04-30)

People in China experienced unprecedented confusion under the directed political ideology, power and class struggle in the decade of the so-called‘ Proletarian Cultural Revolution’ during 1966 and 1976. The violence that occurred during the Cultural Revolution left a deep shadow on the development of sports activities such as football. This paper will explore Liu Qi’s Football Fan’s Diary( 1966-1998) as a primary source and use it in an analysis of a new sport history that considers the political sensitivities of the era. The contents of Football Fan’s Diary describe the transition of the circumstances of football from prior to the Cultural Revolution to changes that occurred following it. In particular, the‘ Proletarian Class Strife’ slogan‘, Friendship First, Competition Second’, caused social confusion. The diary provides an excellent account of the characteristics and significance of the relationship between football and politics of the era. To put an emphasis upon competitive and entertaining aspects in football was not encouraged in the era. As a result, football was partly separated from the nature of sports as a play. Football was forced to be a tool through physical education to adapt to the political purpose of implementing the proletarian revolution. Under the standardized authoritative value and belief brought by the Cultural Revolution, the democratic value of sports was suppressed, which eventually caused the delay in the development of football as modern sports with a‘ play theory’ in China.