著者
塩見 美喜子
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

申請者は、精神遅滞を最も高頻度に伴う遺伝性ヒト疾患である脆弱X症候群原因遺伝子FMR1の機能解析を続けてきた。その過程において、FMR1遺伝子が翻訳調節に関与するRNA結合蛋白質をコードすること、さらには、ショウジョウバエFMR1相同蛋白質がRNAi活性中心であるRISC複合体の構成因子Argonauteと結合する事を明らかにした。FMR1遺伝子の機能を探索する上で、RNAi経路に関する新知見を得ることは必須であると考え、RNAi機構分子メカニズムの解析を進めた。基盤(A)によってサポートされた3年間における成果は以下の通りである。ショウジョウバエで恒常的に発現するArgonaute蛋白質(AGO1とAGO2)がそれぞれsiRNA、miRNAと結合する事によって遺伝子発現抑制機構において標的RNA切断nuclease(Slicer)として働くことを分子レベルで明らかにした。ショウジョウバエ抽出液を用いて行うRNAiにはATPは不必要である事を明らかにした。AGO2がsiRNA duplexのunwinding因子であることを明らかにした(以上、Miyoshi et al. Genes & Dev 2005)。生殖細胞特異的に発現するArgonauteの機能に関して研究をすすめ、Piwi、Aub、AGO3がrasiRNAと結合する事によってレトロトランスポゾンの遺伝子発現を抑えること、つまり「ゲノムの品質管理機構」に機能的に寄与することを明らかにした。これらArgonauteの機能が生殖細胞の維持・形成に必須であることが示唆された(Saito et al. Genes & Dev 2006;Gunawardane et al. Science 2007)。ショウジョウバエrasiRNA生合成経路に関するモデルを提唱した(Gunawardane et al. Science 2007)。(成果抜粋)
著者
塩見 美喜子
出版者
徳島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

脆弱X症候群は最も頻度の高い遺伝性精神遅滞症でありFMR1遺伝子内CGGリピートの伸長によるFMR1遺伝子の転写阻害を起因とする。FMR1はRNA結合蛋白質であり、特定のmRNAを細胞質loci(Stress Granule様)に集積することによってその翻訳抑制を促していると考えられている。翻訳抑制の標的mRNAや分子メカニズムは未だ解明されていない。我々は、脆弱X病態モデル動物として、ショウジョウバエFMR1相同遺伝子(dFMR1)の欠損体を作製し、この変異体が概日リズムの異常、記憶障害、性行動異常を示すこと、生化学的な解析から、dFMR1がRNAi必須因子AGO2や、性行動調節遺伝子lingererと相互作用することを明らかにした。最近、ヒト細胞において、RNAiやmicroRNAによる遺伝子発現抑制はP-bodyと呼ばれる細胞質lociで起こることが示された。ショウジョウバエ細胞においてもAGO2やlingerer、dFMR1が細胞質中の特定の同一lociに局在する事を明らかにした。これがショウジョウバエStress Granule様lociあるいはP-bodyに相当するか、現在解析している。ヒトP-bodyマーカー分子として知られるGW182のショウジョウバエ相同体はmicroRNA機構必須因子AGO1に特異的に結合する。GW182はUSBドメインとRNA結合性ドメインを一つずつ有する。Lingererも、GW182とのアミノ酸配列上の相同性は低いもののUSBドメインとRNA結合性ドメインを一つずつ有する。今後、dFMR1による標的mRNAの翻訳抑制と、AGO2-RNAi機構による遺伝子発現抑制の関係やmicroRNA依存的遺伝子発現抑制との相違性などを明らかにする。
著者
塩見 美喜子 石津 大嗣
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2013-05-31

PIWI-interacting RNA(piRNA)は正しい遺伝情報を次世代へと受継ぐ使命を担う生殖細胞でDNA損傷を引き起こす転移性因子トランスポゾンから生殖細胞のゲノムをまもる役割を担う。しかし、その動作原理は未だ不明である。本研究課題では、特に[I] piRNA生合成と[II] piRNAによる核内サイレンシングの仕組みに焦点を絞り解析を進めることによってpiRNA機構の全貌解明を目指した。また、[III] 人工piRNAを産生する仕組みの構築および人工piRNAによる任意遺伝子の抑制も目指した。いずれの項目においても当初の計画以上の進展があり、複数の論文として発表することができた。
著者
塩見 美喜子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

20-30塩基長の小分子RNAによる遺伝子発現抑制機構をRNAサイレンシングと呼ぶ。正しい遺伝情報を次世代へと受継ぐ使命を担う生殖細胞では、PIWI-interacting RNA(piRNA)がDNA損傷を引き起こす転移性因子トランスポゾンからRNAサイレンシング機構を介して生殖細胞のゲノムをまもると同時に、生殖組織の分化を正常に導く。しかし、その動作原理は未だ不明である。piRNAによるトランスポゾンのサイレンシング機構はpiRNA生合成機構とpiRNAによるトランスポゾン発現抑制機構の二つに分けられるが、本研究では、特にpiRNA生合成機構に焦点を絞り、その仕組みを包括的に理解することを目指す。これまでのpiRNA研究を通して培った研究基盤や成果を活かしつつ本研究を進展させる。本年度は、特に人工的piRNA系を確立することを目的として研究をすすめた。我々はこれまでにtraffic jam mRNA 3’UTRを由来とするジェニックpiRNAの発現に必須なシス配列(100塩基長)を決定したが、この配列に相同性が高い配列を、ジェニックpiRNAを発現する他のmRNAに見出す事はできなかった。つまり、ジェニックpiRNAの生合成機構は、核酸の一次配列ではなく、他の要因をもとに、前駆体を選別している可能性が見出された。そこで、その様な要因を探りあてるため、ジェニックpiRNAを発現する他のmRNAにおいてシス配列として機能する断片を決定することにした。現在、コンストラクトを作成中である。コンストラクトの作成後は、OSCにそれらを発現させることによって、またnorthern解析をすすめることによって、ジェニックpiRNA産生に必要な部分配列を同定する。traffic jam mRNA 3’UTRを由来とするジェニックpiRNAの発現に必須なシス配列との相同性を探る。
著者
熊谷 武洋
出版者
山口大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、地域の公教育や生涯教育で利用することを想定した鑑賞性の高い地方史映像教材を開発することである。制作にあたっては、文献調査および現地踏査を行い、時代考証を行った。そして史実を基に戦跡に関連した物語を創作した。物語を図像化するにあたっては、実写や当時の写真資料を交えながら、3DCGによる画像形成を行った完成したコンテンツの鑑賞方法や頒布形態は、その便益性や鑑賞性の観点から、情報携帯端末上にて展開することが可能な形式を採った。
著者
西村 浩一 高橋 修平 本山 秀明 小杉 健二 根本 征樹
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

風力発電と太陽光パネルを用いた吹雪計測システムの開発を試みた。低温風洞で出力特性等の検証後、国内は新潟県と北海道、国外ではフランスアルプスで性能試験を行った。2013年には南極の昭和基地近傍の氷床上で、約2カ月にわたる吹雪の自動観測に成功したほか、フランスと共同でアデリーランドの観測タワーで吹雪フラックスの鉛直分布を求めた。また英国と共同で砕氷船により南極海の棚氷を周回し、海塩エアロゾルの供給源としての吹雪の寄与の測定を行った。一方、メソスケール気象モデルWRFで南極氷床上における気象要素の時系列変化を求め、これに基づいて算出された吹雪量を2000年の南極みずほ基地での観測結果と比較した
著者
斎藤 靖二 平田 大二 笠間 友博 新井田 秀一 山下 浩之 石浜 佐栄子
出版者
神奈川県立生命の星・地球博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

箱根火山の構成岩石を築城に使った例をもとに、地域の自然史資源が歴史に深く関わっていることを、総合的に学べる融合プログラムを開発し、博物館における生涯学習への有効活用が検討された。学校教育では理科と社会に区別される異なる分野を互いに関連させ、子どもたちにとって機会が減っている野外観察を体験させながら、自然現象と歴史的事件を同時に学ぶ新しい博物館活動が示された。
著者
宮本 陽子
出版者
広島女学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

リベルタン小説において可能な2通りの身体の在り方である。まず、ひとつはリベルタン小説以外においても見られるような、内面を非言語的に表現する身体である。これは、人間には語るべき内面というものがあり、それは身体を通じて非言語的に発信されるという前提のもとに成立する。また、これを受信するのは他者の内面である。ラクロ『危険な関係』のリベルタンは極悪非道の人非人であるが、しかし、こうしたコミュニケーションの上に成り立つ人間関係のなかで活動する。これは彼らの活動揚所が社交界という、きわめて社会的、文化的な場所であることと連動している。ラクロのリベルタンは言語的、非言語的コミュニケーション双方に精通しており、感受性、慈善、涙等、当時評価を得ていたものの意味を堕落させる。ディドロの『修道女』もこうした前提で描かれている小説である。また、サドにおいても人物たちが社会的領域のなかで活動する署名入り発表作品群においては、善人も悪人も人間の内面に基づく非言語的コミュニケーションを行なうが、こうした作品群におけるサドのリベルタンたちはむしろ、当時の価値体系に掠め取られており、ラクロのリベルタンのような言語的曲芸までは見せない。一方、サドの匿名作品群においては、人間に内面というものをいっさい認めない世界が出現する。人物たちは法や道徳はおろか、社会的文化的な環境から切り離された場所で活動し、彼らが見せる反応はすべて生物的反応に還元される。身体はそれまでの文学、芸術、文化において先験的に与えられてきた特権をすべて剥奪され、筋肉、神経、生物分子、あるいは、鉛、硫黄等と等価になるが、そうした世界においては人間を記述すること、延いては小説を展開することが不可能になり、人間は文字通り数字に換算され、小説の記述は『ソドムの120日』の最後に付されているような計算表に変わる。
著者
藤澤 和子
出版者
三重県亀山市立亀山西小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

1.研究目的知的障害のある人たちが、遠隔コミュニケーションを拡げるために携帯電話などの携帯端末で利用できるシンボルを使ったWeb版のメールシステムを開発し、特別支援学校での事例実践によりシステムの教育的な有用性と実用性を検証する。2.研究方法携帯端末に対応できるインターフェースの開発を行い、Ipad、Iphone、パソコンを使って、メールの送受信を行った。A養護学校の知的障害児童5名を対象に、クラス担任3名と、A養護学校で児童がよく知っている教師や保護者、他の養護学校教師7名が参加して、メール交換を行った。顔のイラストで送受信者を選択できるようにしたので、参加者は、事前に登録する手続きを取った。3.研究成果携帯端末用のインターフェースは、表示されるシンボルのサイズが小さくなり、一画面にたくさん並べることは難しくなるため、選択したシンボルの大きさを画面にタッチすることで自由に拡大縮小できる機能を付け、シンボルのカテゴリーに階層性を持たせることで、できるだけ多くのシンボルから選んでメールを作成できるようにした。23年1月~3月にメール使用を実施した。対象児童は、Ipadを使い、遊び時間などに自発的に、保護者や別クラスや他の学校の教師といった目の前にいない人に向けてもメールを送り、返信メールの受信を楽しみにした。児童以外の参加者も、家や学校などからIphoneやパソコンを使って、児童へのメールの返信や自発的な送信を行った。児童からのメッセージは、学校でがんばっていることや遊んでいることの報告や、遊ぼうという呼びかけ、何を勉強しているのかという問いかけなど、伝達意図は明確だった。参加者全員の総メール回数は199回に達し、本システムが時間と場所を選ばず、パソコン環境の有無などの影響を受けずにメール交換ができた利便性と遠隔コミュニケーションツールとして活用できる有効性を明らかにしたと考える。
著者
林 智子
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は,患者心理の理解における看護師の患者心理推測方法の特徴と看護援助との関連を検討し、プログラムを開発することであった.総合病院に勤務する看護師を研究参加者とし,患者と看護師が登場する場面を刺激とした半構造化面接法によりデータを収集した.その結果,看護師は患者の行動を心理推測の根拠とするが,一つの目立つ患者の行動だけにとらわれてしまうと,妥当でない心理を推測する可能性が示された.さらに,患者心理と看護援助の関連では,楽観的心理の推測は妥当でない看護援助を導く危険性を示唆していた.
著者
後野 昭次
出版者
豊田工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

〇研究目的:豊田高専・機械工学科の学生に対しては、様々な場面で、設計・製図・工作を行う機会がある。しかし、設計初心者である学生が設計・製図を行なう場合、寸法の記入方法に間違いが多い。なぜなら、設計初心者の学生にとって、工作・組立・測定経験が少ないため、どのような寸法記入を行えば、工作者・組立者・測定者にとって適切な寸法記入になるか実感が持てないからである。そこで、あえて間違った寸法記入の図面により製作した部品の組立・測定がスムーズにいかないことを体験させると同時に、正しい寸法記入の図面により製作した部品の組立・測定がスムーズに行えることを体験させることで、正しい寸法記入方法を理解させるための教材開発を行った。〇研究方法:主にこの教材は、機能上必要な寸法の記入方法がわかる教材を製作した。教材は、平行ピン2本と平行ピンがはまるアルミ製の部品2~3個で構成されて、寸法を記入した場所によって、組立ができたり、組立ができないものである。それは、平行ピン間に寸法が入っているものであったり、端面から平行ピンまでに寸法が入っているものなどで、計3種類製作した。〇研究成果:この教材を学生に試してもらったところ、正しい寸法記入が理解できたと答えた学生が多く、この教材の有効性が確かめられた。この教材により、机上の設計製図の学習だけでなく、実物で実感できるようにすることにより、学年が進んで、卒業研究のための部品製作のための設計製図において、適当に寸法を記入するのではなく、考えられた図面が描かれることが期待できる。
著者
井上 克也 秋光 純 菊地 耕一 美藤 正樹 岸根 順一郎 戸川 欣彦
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

本研究計画の目的である分子性・無機 Chiral 磁性体の物質設計・制御戦略を確立した。目的以外についても以下の項目が本研究により達成された。キラル無機磁性体 CrNb3S62 の単結晶におけるキラルらせん磁気秩序およびキラルスピンソリトン格子の実空間および逆空間観測に成功した。キラル源を含まないキラル分子磁性体の合成についても新しく発見した。
著者
柴田 克成
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

膨大な時空間情報の中での効率的な学習は,実世界での高次機能創発の鍵を握る。本研究では,特に時間軸の扱いに注目した。事象の重要度を「主観的」に判断し,過去の事象に対する学習に利用する「因果トレース」の考え方を提唱し,状態価値の学習で飛躍的に学習性能が向上した。また,「概念」は行うべき行動の差に基づいて形成されるとの考えの下,強化学習によってリカレントネット内で離散的・抽象的な状態表現が形成された。さらに,自律的なコミュニケーション学習によって物体の動きの情報を伝達できることを示した。時間軸の処理に対して新たな展望をもたらしたが,シンボル処理創発にはダイナミクスの学習能力の更なる向上が必要である。
著者
西本 豊弘
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

1989年に大分県下郡桑苗遺跡出土の資料を分析して、弥生時代にブタが飼育されていたことを明らかにした。その後、唐津市菜畑遺跡・奈良県唐古遺跡・愛知県朝日遺跡などで、ブタが多量に出土していることが分かった。イノシシかブタかの区別は、骨格の家畜化現象を把握することによって行う。ブタはイノシシよりも頭部が短くなるが、その結果として吻部は短くまた幅が広くなる。後頭部も短く丸く高くなる。歯も、頭部の短縮化による影響で、丸みを持つものが現れる。そして、上・下顎骨に歯周症(歯槽濃漏)の疾患を持つものが現れる。さらに、年齢構成では、若い個体が多くなる。このような家畜化に伴う変化の把握は、肉眼的観察によるものであった。これは、主観的要素が入るので、計測値や他の分析で家畜化を証明する必要があった。そこで本研究で、計測値によるブタとイノシシの違いを明らかにすることを試みた。主に愛知県朝日遺跡の動物遺体を用いて、現在分析中である。多くの部位で検討しているが、現在の段階では、第1頸推の形状でイノシシとブタを区分できることが明らかとなった。
著者
本田 光子 森田 稔 三輪 嘉六 今津 節生 藤田 励夫 鳥越 俊行 志賀 智史
出版者
独立行政法人国立文化財機構九州国立博
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

博物館におけるIPM体制維持のためのボランティアの導入、育成(直接参加型市民活動)プログラム策定について、スタートすることができた。2ヶ年で9回の市民参加研究会を開催しその成果については、「市民協同型IPM活動研究会-発表の記録と資料」として320頁の報告書を作成した。また一般公開収録DVDにより博物館ボランティア研修会等市民向けに活用し、博物館危機管理としてのIPMの普及をはかっている。
著者
外崎 明子 佐藤 正美 七澤 朱音 浅野 茂隆
出版者
独立行政法人国立国際医療研究センター
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

座りがちな生活習慣は肥満やメタボリック・シンドロームの発症リスクの上昇と関連し、座ったままで過ごす時間がインスリン抵抗性を高めるためであると推測されている。乳がん化学療法を受ける患者では座りがちな生活スタイルとなる傾向にある。本研究はパイロットスタディとして、乳がん化学療法中の患者を対象に活動強度別活動時間とインスリン抵抗性、体重増加率、身体組成の変化との関連性を検証する。インスリン抵抗性はHOMA-R(Homeostasis Model Assessment Score)で評価する。データ収集中の現時点で、体重増加率は3.OMETs(metabolic equivalent)以上の活動時間数と強い負の相関関係にあり、化学療法中の体重増加抑制には中等度以上の身体活動量が影響する傾向が認められた。
著者
川合 南海子(久保南海子)
出版者
愛知淑徳大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

加齢にともない抑制機能は一様に低下するわけではない。本研究では、フランカー課題とサイモン課題の遂行における前頭前野の血流量の変化を近赤外線分光法(NIRS)で計測した。その結果、従来と同様にフランカー課題では加齢による違いはなかったが、サイモン課題では高齢者の反応時間は若齢者より有意に延長した。フランカー課題では高齢者でより脳活動が顕著であった。不一致条件が一致条件よりも有意に脳血流量が増加したのは、サイモン課題の前頭前野右背外側のみであったが、両年齢群間での違いはなかった。すなわち、若齢者と高齢者で脳血流に差がないときには、刺激―反応の抑制に加齢の効果がみられることが明らかになった。
著者
五十嵐 哲也
出版者
愛知教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

学校に行きたくない気持ち(不登校傾向)と行かなければならない気持ち(登校義務感)の観点から適応状態を再検証し、登校意欲の改善に有用な学習活動支援を検討した。その結果、不登校傾向が低く登校義務感が高ければ適応が高く、満足感が高い学級で登校意欲が高まることが明らかとなった。また、学習への自信の獲得は有効な支援である一方、特に中学生への学習方略の獲得は、一時的に登校意欲を高めるのみであると示唆された。
著者
白川 智弘
出版者
防衛大学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

真性粘菌 Physarum polycephalum の変形体は単細胞多核の巨大アメーバである.近年の研究により,変形体はある種の計算,記憶,学習能力を持つことが示されつつある.本研究では,変形体が有するこれらの能力について,そのメカニズムを明らかにすべく,いくつかの実験が遂行された.実験により, 1.変形体の運動におけるアロメトリー則 2.新たな走性である走磁性 が発見されると共に,3.連合学習に相当する現象 を発見することに成功した.また,実験により観察されたこれらの現象についてのシミュレーションを行うことにより,上記それぞれの現象のメカニズムを理解することに繋がるいくつかの知見が得られた.
著者
佐々木 あや乃 羽田 正 枡屋 友子 佐々木 あや乃
出版者
東京外国語大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1999

11世紀に成立した、フェルドゥスィー作の『シャーナーメ(王書)』は、イラン人が自らの文化を強く意識した代表的作品であり、ペルシア語世界屈指の古典である。栄耀栄華を誇っていたペルシアが7世紀中葉にアラブに征服された後、沈黙の2世紀を経て、シュウービーヤと呼ばれる文化的ナショナリズムのうねりが起こってきた中で、ペルシア語文化圏に伝わる神話や伝説・語りを通して、フェルドゥスィーがまとめあげたのが、この『シャーナーメ』なのである。これまで、11世紀の成立時から現代に至るまでの各時代において、『シャーナーメ』の有した社会的意義を明らかにすることを目的とした研究を行ってきた。14年度はイラン本国に焦点を絞り、イラン文部省(高等教育省)、イラン国会図書館、フェルドウスィー大学(在マシュハド)等の協力を得て、以下の調査を行った。(1)イラン国内の『シャーナーメ』写本の所在についてのデータをまとめる。(2)イラン・イスラーム革命(1979年)の前後で、イランの国語教科書にとりあげられた『シャーナーメ』に変化がみられるか、変化があるとすればいかなる変化がみられるのかを探る。イラン文部省(高等教育省)で、革命前・後、革命後現政権が落ち着きを見せ始めた1990年代、及び現在の4期にわたり、小・中・高校の国語教科書を閲覧、調査にあたる。(3)イラン国内のマイノリティー(ペルシア語を母語としない人々)にとっての『シャーナーメ』とは何かについての研究を進めた。A.エンジャヴィー氏の『フェルドゥスィーの書』3巻をもとに分析を進め、現地での各マイノリティーヘのインタビュー等も含め、『シャーナーメ』とマイノリティーとの関わりを探索する。(4)『シャーナーメ』らしさが表れている物語の翻訳を試みる。中学・高校の教科書に必ずとりあげられている「ロスタムとアシュクブースの物語」では、戦闘場面の勇壮さが鋭い音とリズムの組み合わせ、スケールの大きな比喩表現を用いて描かれている。勇士たちの言葉の掛け合い、嘲笑や挑発までもが見事に表現しつくされた物語であり、傑作中の傑作であるといえよう。