著者
徳増 克己 トクマス カツミ Katsumi TOKUMASU
雑誌
静岡文化芸術大学研究紀要 = Shizuoka University of Art and Culture bulletin
巻号頁・発行日
vol.10, pp.179-188, 2010-03-31

以下に紹介するのは、20世紀前半のアゼルバイジャンを代表する民族運動の指導者マンメド・アミン・ラスルザーデ(1884-1955)の晩年の著作『あるトルコ民族主義者のスターリンと革命の回想』の冒頭部分の翻訳である。この回顧録は、もともと1954年にトルコの新聞《デュンヤ》紙に連載された。著者ラスルザーデは、20世紀の初めからロシア帝国内の産業都市バクーで政治活動に入り、その中で労働運動の組織化に携わっていたボリシェヴィキの活動家スターリンとも接触をもつようになった。彼はアゼルバイジャンのみならず、イランやオスマン帝国(とトルコ共和国)、さらにはヨーロッパでも幅広い活動に従事したが、今回はまず、スターリンとの出会いにいたるまでを扱った、回顧録の冒頭部分を訳出した。The following article is the first part of a translation of A Turk Nationalist's Memoirs on Stalin and the Revolution, written by a famous leading Azerbaijani nationalist Mmmd min Rsulzad (1884-1955). The original text of the memoirs was once serialized in a Turkish newspaper Dunya in 1954. The author Rsulzad began to engage in political activities at the beginning of the 20th century in his hometown Baku, which was a booming industrial city under the Tsarist regime at the time. Meanwhile he came into contact with a Bolshevik political activist Stalin, then known as Koba, who had tried to get the support of oil workers in Baku. In fact Rsulzad's political career is not confined to activities in Baku and Caucasian Azerbaijan. Rather afterwards he also engaged in broad activities in Iran, the Ottoman Empire (and Turkish Republic) and Europe. Though these activities may be very interesting, for the present I translate the outset of the memoirs, which refers to his first contact with Stalin.
著者
稲垣 栄洋 楠本 良延
出版者
農村計画学会
雑誌
農村計画学会誌 (ISSN:09129731)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.365-368, 2016

市場の国際化が進む中で,世界の農業は効率化や省力化が強く求められている。そして,農業の近代化に伴って昔ながらの伝統農業は失われつつある。しかしながら,手間を省くことなく,むしろ手間を掛けて良品質な農作物を生産してきた伝統的な日本農業の中にも,重要な強みが含まれていることだろう。静岡県で古くから行われてきた「茶草場農法」もまた,良質な茶を生産するために行われてきた伝統農法である。かつて日本の農山村では,畑の肥料や家畜の飼料,茅葺屋根の材料などに用いるために「かや場」と呼ばれるススキ等を優占種とした半自然草地を有していた。しかしエネルギー革命後,人々の生活が近代化する中で,ススキは用いられなくなり,里山の半自然草地は今や国土の1%にまで減少している。ところが,静岡県の茶園周辺には,今でも管理された「茶草場」と呼ばれる半自然草地が見られる。そして,秋から冬にかけて茶草場の草を刈り取り,天日で乾燥させてから,茶園の畝間に敷いていく「茶草場農法」という伝統的な農法が今も守られているのである。草を刈り,束ねて干し,茶園に敷くという作業は今でも手作業で行われており,大変な重労働である。しかし,茶園に草を入れることで茶の香りや味が良くなるとされており,茶農家は良いお茶を作るために手間ひまを掛けてきた。この農家の作業によって,半自然草地が維持され,草地の生物多様性を保全されていたのである。草刈りによって維持される日当たりの良い草地では,さまざまな里山の植物を見ることができる。また,茶草場で見られる植物には,茶の湯の席に活けられる茶花も多い。「茶草」を活用した茶生産が,失われつつある草原の植物を保全し,「茶花」を守り伝えてきたのである。農業や農山村は,生物多様性を保全することが指摘されている。しかし,農業の生産性を高めようとすれば,生物を犠牲にすることが多い。一方,生物を保全しようとすれば,農業の生産性を犠牲にしなければならないこともある。茶草場農法は,高品質な茶を生産するという農業生産性を高める努力が,生物多様性を保全してきた貴重な例の1つである。かつて良質な茶は,高い価格で取引されてきた。しかし近年では,ペットボトル用の安価な茶の需要が高まる一方,高級茶の価格が低迷しており,高級茶と下級茶の価格差は縮小傾向にある。そのため,昔ながらの茶草場農法を行う農家も,減少しつつある。
著者
出澤 真理
出版者
金原出版
雑誌
整形・災害外科 (ISSN:03874095)
巻号頁・発行日
vol.59, no.13, pp.1749-1758, 2016-12
著者
中山 享之 加藤 栄史
出版者
The Japan Society of Transfusion Medicine and Cell Therapy
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 = Japanese journal of transfusion and cell therapy (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.450-456, 2013-06-30
被引用文献数
2

間葉系幹細胞(MSC)は,骨芽細胞,脂肪細胞,筋細胞,軟骨細胞など,間葉系に属する細胞への分化能を有し免疫抑制作用も併せ持つことから再生医療や治療抵抗性免疫疾患に対する臨床応用が期待されている.MSCは,種々の組織から樹立できるが,なかでも脂肪組織は,大量のMSCを含むとともに,そこより樹立したMSCは増殖が速く細胞活性も高いため有望な細胞ソースと考えられている.脂肪組織由来MSCを利用した基礎研究,前臨床試験は,血行再建,心筋再生,軟部組織修復,尿失禁,抗炎症,免疫療法(組織片対宿主病,腎障害,肝障害,膠原病など),造血支持療法などの分野で進められており有望な結果が報告されている.また脂肪組織の中には,多能性幹細胞(Muse:Multilineage-differentiating stress-enduring)が他の組織よりも豊富にあることが判明し注目を集めている.Muse細胞は,その表面形質からMSC中に混在していると考えられる.Muse細胞は,ES細胞と比べ腫瘍形成能は低いと考えられており,いわゆる山中遺伝子の導入によって効率的にiPS細胞に変化する.そのためMuse細胞における研究の進展が期待されている.<br>
著者
中畑 洋一朗 梶原 昭博
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. B, 通信 (ISSN:13444697)
巻号頁・発行日
vol.92, no.10, pp.1716-1720, 2009-10-01
被引用文献数
1

バスや自動車の車内での高速インターネット接続や動画配信など乗客の快適性や利便性向上のために近距離高速大容量無線伝送が注目されている.しかしながら車内は金属板とガラス窓から構成された閉空間であり,また直接波が座席や乗客により遮断されるため100Mbit/s以上の高速広帯域伝送を実現することは難しいと考えられる.そこで本研究では長距離バス車内での超広帯域インパルス無線を想定し,遅延特性や伝搬損などについて実験を行った.その結果,遅延スプレッドは6〜16nsでバスの車内後方ほど小さく,また乗客によるシャドーイングによって直接波電力は4〜7dB減衰することを確認している.
著者
伊藤 文香 村木 敏明 白石 英樹
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.43-49, 2007-03

本研究の目的は,利き手と非利き手における包丁操作時の左右の足圧を分析し,非利き手と利き手での差の比較から,立位での当該操作の特徴に基づき,臨床での評価・介入の指針を呈示することである。対象者は包丁を頻繁に使用する右利きの健常女性15名(平均年齢50.1±6.5歳)であった。利き手と非利き手で20秒間,できるだけ速く薄く,きゅうりの輪切りを実施した。パフォーマンス指標(切断枚数と厚さ平均)と足圧分布測定装置を用いて,足底荷重を測定した。パフォーマンス指標では,利き手に片側優位性がみられた(各p<0.001)。足底にかかる左右の荷重は,利き手では有意差はなかったが,非利き手では,右側(非操作側)に有意に荷重が観察された(p=0.0110)。上肢に連動した荷重移動の協調性の阻害が包丁操作の効率性を低下させる一要因であることが示唆された。
著者
稲葉 ナミ 桑田 百代 三東 純子 湯本 和子
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
家政学雑誌 (ISSN:04499069)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.185-187, 1966

住所作業の代表として、物の水平移動と物をおし切る動作をとりあげ、エネルギー代謝と脈搏数を測定し、作業台の至適高を求め、身長比に換算した結果、次の結論を得た。2種の作業による至適面高は、各被検者とも身長の50~54%の範囲内にある。<BR>今後、さらに、筋電計を用いて、同様の実験を行ない、その上で最終的な結論を得たいと考えている。
著者
堀尾 強 河村 洋二郎
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.423-430, 1994

箸の性質や持ち方と箸を扱う諸動作の動作時間との関係を明らかにするため, 男女大学生11名を対象に箸を用いた諸動作を解析した. 実験には14cm, 21cm, 33cmの長さの箸を用い, ダイズ, ニンジン, トウフをはさんで, あるいはつまんで運ぶ動作, ソーセージを切る動作, ハンペンをさく動作について, 作業時間, 動作中の手腕の筋電図, 指と箸の間の圧力を測定した. 作業時間は, ダイズ, ニンジンを運ぶときには箸の長さによる違いはみられなかったが, トウフを運ぶときには長い箸が, 切る, さく動作のときには短い箸ほど動作時間が短かった. また, 箸と接触する手の各部位の圧は, 持ち方により違いがあった. つまんだり, はさんで運ぶ場合, 伝統的な持ち方では各部位の圧の違いは箸の長さ, 食品の大小や性状によらず同じパターンであったが, 他の持ち方では各指の圧パターンのばらつきが大きかった. さらに手腕各筋の筋電図では, 短母指屈筋の振幅が大きいことが特徴で, ニンジンを運ぶ動作, ソーセージを切る動作, ハンペンをさく動作の場合, 長い箸のときは短い箸よりも短母指屈筋の筋電図振幅が大きかった. 箸の長さに関しては, 長い箸では, トウフを運ぶとき以外は, 作業動作が終ったときに箸を持つ位置が先端方向に移動していた. 中等度の長さの箸ではソーセージを切る動作でのみ先端方向へ, 短い箸ではトウフを運ぶ動作でのみ逆に後端方向へ移動していた. なお, 箸を用いた各動作の動作時間と身体計測値との相関はほとんど認められなかった.<br>この動作時間, 圧の比較, 筋電図振幅の比較, および作業後の箸を持つ位置の比較から, 大きい食品を運ぶときは長い箸, 食品を切る, さくという動作では短い箸がよく, 動作に適した箸の長さが異なることが明らかになった. また, 箸に接触した指の各部位の圧の比較から, 伝統的な持ち方ではつまんだり, はさんで運んだ場合, 箸の長さ, 食品の大小や性状に関係なく, 各指にかかる圧のパターンは同じであり, 他の持ち方に比べて安定していることが示唆された.
著者
新山王 政和 寺島 真澄
出版者
愛知教育大学実践総合センター
雑誌
愛知教育大学教育実践総合センタ-紀要 (ISSN:13442597)
巻号頁・発行日
no.13, pp.195-202, 2010-02

筆者が理想として思い描く音楽科授業の姿とは,表面的でその場限りの楽しさを負いかける「一過性の単なる遊びの場」から脱却し,ストレス・フリーに音楽の知識や知覚力を身に付け,それを使いこなして『共働・共創・共感・共有』を楽しむ場が実現されたものである。また現在筆者が最も懸念していることは,クラス担任による音楽科授業の多くでは,子ども達に「思いや意図」を持たせても,それを音や音楽によって伝える演奏表現の技術(伝える技や方法)の指導が充分に行われていないことである。 集会活動の一つとして「全校音楽集会」を定期的に開いている小学校は少なくない。しかし中には単に学芸会の予備的な位置づけで行っているものや,鑑賞教室の一つとして開催される「劇場型」のもの,単なる発表の場などに止まっているものも少なくない。そのような中,愛知県岡崎市立矢作南小学校では全校音楽集会へ音楽専門の教師(研究会や研修等で音楽部会に所属する教師)が積極的かつ戦略的に関与することで,単なる一行事から「クラスの音楽科授業では体験しにくいレベルの高い音楽活動に触れられる場」へ発展させるとともに,「音楽専門の教師による指導を見聞きしたクラス担任教師がそのノウハウをクラスへ持ち帰られるスキルアップの場」へ脱却させていた。このように全校音楽集会を学校内教育活動のコアと位置づけたことにより,音楽専門の教師による音楽レベルの質的保証と技能向上が図られただけでなく,教師のスキルアップや授業改善の場としても活用され,その効果は教師と児童の垣根を越え,さらに授業の枠も越えて広く学校内音楽活動全体へと波及していた。本報告では,この「子ども⇔子ども,子ども⇔教師,教師⇔教師」で取り組んだ「共働,共創,共感,共有」をめざした活動へ特に着目し,その概要をリポートする。
著者
中村 洋 山本 景子 倉本 到 辻野 嘉宏 水口 充
出版者
情報処理学会
雑誌
研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI) (ISSN:18840930)
巻号頁・発行日
vol.2011, no.2, pp.1-8, 2011-01-14

ユーザが携帯電話を所持していても,実際に相手と通話できるか否かは相手の物理的・社会的状況に依存する.そのため,相手の無事を知るために通話をしたいと感じても,相手が通話に応じてくれるかどうかわからないため,漠然とした不安が生じてしまう.そこで本研究では,相手の携帯電話に付与したセンサにより相手の状況を自動的に判別し,相手が通話できかつ電話に出てもよいと考えているかどうかという通話是非情報を通知する手法を提案する.それにより,「相手の無事による安心感」,「相手に自分を助けてもらえることによる安心感」,「相手の意思・意図」の 3 つの感覚が伝達でき,その結果として安心感の拡大や行動を決定する上での判断の助けとなる.アンケート評価の結果,安心感を拡大することができ,行動を決定する上での判断の助けとなることがわかった.さらに試作システムによる携帯電話所有者の通話是非状態の判別精度を評価し,高い精度で判別できることを確認した.Whether a person with mobile phone can receive someone's call is dependent on the physical and social situation of him/her. Therefore, when we want to communicate with our partner to know his/her safety, we feel insecure because we cannot know whether he/she can accept our call or not. To solve the problem of insecurity feeling, we propose a method which helps to emphasize our sense of security by notifying the partner's acceptability of receiving our call. The acceptability is estimated with several sensors attached to mobile phone. The method aims to transmit three senses ― "sense of security about the partner's safety", "relief by the partner's help", "intention of the partner". From the result of questionnaire about the proposed method, it is found that the method can enhance sense of security so that we can decide what to do. In addition, it is found that the prototype can estimate participants' acceptability with high accuracy.