著者
中村 浩明 岡本 高志 山本 友紀 加藤 太郎 五十嵐 進 伊藤 大起 古野 薫 横井 秋夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0998, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】顎関節症患者の顎関節だけを一時的にアプローチしても、また症状が元に戻ってしまうことを多く経験する。今回、顎関節に疼痛、違和感を訴えている患者を、疼痛増強主訴である歩行から関連を捉え、足部からのアプローチを行い、良い結果が得られたので報告する。【症例紹介】26歳、男性。理学療法士。診断名:左顎関節症、変形性頚椎症。18歳頃より左顎関節に違和感出現。25歳に総合格闘技で、右足部にアンクルホールドを極められ左顎関節症状が悪化。その後、全身体調不良となった。主訴は、口を開けるとクリック音がして痛い。左顎が常に重だるく違和感がある。よく顎を鳴らしたくなる。両足首に不安定感があり歩行中、歩行後に全身に違和感、疲れやすさがあるとの事であった。【理学療法評価および治療】Passenger Unitへアプローチを座位から行い、顎関節へのメカニカルストレス軽減を狙ったが、歩行するとLocomotor Unitの不安定性から身体が崩れてしまう傾向があり、良い治療結果が残せなかった。特に本症例の場合、疼痛、違和感が増強するという訴えは、歩行時のLoading Response~Mid Stance、Mid Stance~Terminal Stanceにかけて著名であった。Loading Response~Mid Stanceでは距骨下関節が過回内し、Ankle Rocker機構機能不全、また、Mid Stance~Terminal Stanceでは横足根関節が過外反しForefoot Rocker機構機能不全の状態がみられた。その機能不全状態を、足部からのテーピングにより各Rocker機構が機能的に作用する環境に整えた。【結果】テーピング後は、下顎が真っ直ぐ下制するようになり、顎関節の疼痛、違和感の消失。開閉の最終時の左顎関節のクリック音が消失した。歩行時も前方への推進力が発揮できるようになり、全身状態も楽であるとのことであった。【考察】歩行時に違和感を訴えたLoading Response~Mid Stance、Mid Stance~Terminal Stanceは、荷重期の特に下肢の支持性、推進力の維持、下肢と体幹の支持性が必要な相である。これらの相に必要な骨での支持は、足部ではRocker機構の事を指し、身体のアライメント、軸の形成には不可欠であると考えられた。各相でLocomotor Unit、または、Locomotor UnitとPassenger Unitのアライメント、軸形成を足部から同時に図ったことにより、顎関節へのメカニカルストレスは開放され疼痛、違和感が消失したと考えられた。【まとめ】顎関節症患者を足部からコントロールし、姿勢アプローチをした。特に主訴であった歩行時の足部Rocker機構に注目してアプローチを行なった。軸の形成は、各々の組織が、分化的に働けるような環境を作る意味で重要であると考えられた。
著者
有川 一 田下 智栄子 中村 浩二 高橋 哲平 三川 浩太郎 寺田 知新 渡邉 孝士郎 今井 一 惠良 聖一
出版者
日本教育医学会
雑誌
教育医学 (ISSN:02850990)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.192-201, 2020 (Released:2020-03-01)
参考文献数
11

In our previous study, we found that FetCO2 (PaCO2) increased during kendo with vocalization. Cerebral blood flow may increase during kendo exercises because PaCO2 has cerebral vasodilator effects. In this study, we measured the blood flow of the common carotid artery during intermittent bicycle ergometer exercise with vocalization as a basic study to elucidate the physiological characteristics of kendo. As a result, at the 80% V・O2peak with vocalization (same load as “kakari-keiko”), we observed a significant increase in FetCO2 (P = 0.022) and blood flow in the common carotid artery (P = 0.040). At the 60%V・O2peak with vocalization (same load as “kirikaeshi”), there was no significant increase in FetCO2; however, we observed a significant increase in blood flow in the common carotid artery (P = 0.035). In addition, in an ultrasonic image of the common jugular vein during exercise with vocalization, we observed the over-swelling of an internal jugular vein with partial blood regurgitation. This indicated that blood flow was temporarily stagnant. These results suggest that the increase in common carotid arteryblood flow was induced during exercise with vocalization. The increase in FetCO2 caused by vocalization, however, was not considered to be the main factor. One of the factors causing the increased common carotid artery blood flow was revealed to be related to an increasing-canceling of intrathoracic pressure due to vocalization-no-vocalization.
著者
横田 哲士 中村 浩 多田 弘幸 菖蒲 敬久 片山 聖二 川人 洋介 近藤 勝義 吉田 悟 今井 久志 川上 博士 富沢 雅美 中島 裕也
出版者
一般社団法人 溶接学会
雑誌
溶接学会全国大会講演概要
巻号頁・発行日
vol.2015, pp.158-159, 2015

溶接における重大欠陥のひとつである割れの発生機構の解明は重要な課題である.大型放射光施設Spring8を用いてX線位相差法による透過観察およびレーザ溶接時における割れの発生過程の撮影を行い,割れの発生速度や割れ発生時に周辺で起こる溶融池の変化について報告する.
著者
酒井 真理 藤本 尚弘 石井 克典 浅野 智之 村田 勲 中村 浩之 李 千萬 金田 安史 粟津 邦男
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会 年会・大会予稿集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.676, 2009

ホウ素中性子捕獲療法(BNCT)とは腫瘍に取り込ませたホウ素に対して中性子を照射し、そこから放出されるα線やLi線によって腫瘍細胞のみを死滅させることのできる治療法である。現在BNCTは原子炉で行われており、これを加速器中性子源によって行えるようにする必要がある。本研究ではそのための細胞レベルでの基礎検討を行った。
著者
戸倉 毅 鈴木 隆子 中村 浩子 牧野 優子 高倉 穂
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.20-28, 1988-01-15
被引用文献数
5

本論文では ワードプロセッサ等のOA機器に個性的で美しい日本語出力を実現することを目的とした 毛筆体文字の計算機による生成方式について論じる.毛筆体文字は ストロークごとに生成する.各ストロークは骨格線上の3?7点のx y座標と太さ情報をパラメータとし それらを3次スプライン補間し輪郭情報を得る.ストロークの起筆・収筆部は 12角形の筆触形をあてはめることにより筆らしさを表現する.文字をストローク単位に生成しているため 文字の変形が可能であり ひらがなに対してつづけ字を実現している.また 各ストロークのパラメータを半自動的に抽出し文字データを容易に作成できるエディタ 外字を簡単に作成できるエディタも同時に実現した.JIS第1水準の漢字およびひらがな 片仮名計3148字の行書体文字を作成し 実用レベルの出力品質が得られていることを確認した.データ量は 平均的な11画の漢字について約150バイト 作成した3148文字に対し432kバイトであり 実用上妥当な量である.
著者
小路 晋作 伊藤 浩二 日鷹 一雅 中村 浩二
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.279-290, 2015-11-30 (Released:2017-05-23)
参考文献数
65
被引用文献数
3

水稲の省力型農法である「不耕起V溝直播栽培」(以降、V溝直播と略す)では、冬期にいったん給水し、代かきを行った後、播種期前に落水して圃場を乾燥させる。イネの出芽後(石川県珠洲市では6月中旬以降)から収穫直前まで湛水し、夏期の落水処理(中干し)を行わない。また、苗箱施用殺虫剤を使用しない。このようなV溝直播の管理方式は、水田の生物多様性に慣行の移植栽培とは異なる影響を及ぼす可能性がある。本稿では、石川県珠洲市のV溝直播と移植栽培の水田において、水生コウチュウ・カメムシ類、水田雑草、稲株上の節足動物の群集を比較し、以下の結果を得た:(1)V溝直播では6月中旬以降に繁殖する水生コウチュウ・カメムシ類の密度が高かった。この原因として、湛水期間が昆虫の繁殖期や移入期と合致すること、さらに苗箱施用殺虫剤が使用されないことが考えられた。(2)V溝直播では夏に広く安定した水域があり、そこにミズオオバコ等の希少な水生植物が生育し、有効な保全場所となった。(3)両農法の生物群集は、調査対象群のすべてにおいて大きく異なり、両農法の混在により生じる環境の異質性が、水田の動植物のベータ多様性を高める可能性が示唆された。一方、V溝直播には以下の影響も認められた:(1)4月から6月中旬にかけて落水するため、この時期に水中で繁殖する種群には不適である。(2)初期防除が行われないため、一部の害虫(イネミズゾウムシ、ツマグロヨコバイ)の密度が増加した。本調査地におけるV溝直播水田では、慣行の移植栽培と同様に、8月中旬に殺虫剤散布が2回行われており、生物多様性への悪影響が懸念される。本調査の結果は、一地域に二つの農法が混在し、それぞれに異なる生物群集が成立することにより、今後の水田動植物の多様性が保全される可能性を示している。
著者
中村 浩 舘 和幸
出版者
一般社団法人 日本レオロジー学会
雑誌
日本レオロジー学会誌 (ISSN:03871533)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.161-164, 1999-09-15 (Released:2000-03-28)
参考文献数
8
被引用文献数
3 3

Effects of base hydrophobicity on a flow behavior and a microstructure of aqueous suspension of core-shell type carboxylated polymer particle have been studis. The suspension was neutralized by NaOH, dimetylaminoethanol(DMAE), dimetylaminopropanol(DMAP) and dimetylaminobutanol(DMAB). Steady shear flow was measured with a coni-clinder rotational rheometer, and microstructure was examined with a dynamic oscillating shear method and the small angle X-ray scattering(SAXS) method. The hydrophobicity is DMAB>DMAP>DMAE>NaOH. The distance ξ between center to center of neighboring particles in ordered structure made of the particles was measured by SAXS method. In case of NaOH, the suspension indicated shear-thinning flow. Loss tangent tan δ was below 1(G'>G") in all frequency region and a diffraction peak in SAXS profile was detected. These results show the three dimensional network structure of ordered structure is formed in the suspension. As the hydrophobicity increased, viscosity and degree of shear-thinning decreased, tan δ became above 1 in almost frequency region and the height of diffraction peak decreased without changing ξ. These results suggest that, as the base hydrophobicity increased, the three dimensional network structure reduces to the isolated domain structure, though the distance between neighboring particles in ordered structure does not change.
著者
赤石 大輔 中村 浩二
出版者
The Japan Society of Medical Entomology and Zoology
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.195-199, 2014-12-25 (Released:2015-02-06)
参考文献数
10
被引用文献数
2 2

中部日本の環境の異なる3地点からキノコ子実体を採集し,実験室内で子実体内部に成育するハエ類を羽化させた.その結果,モモグロオオイエバエMuscina angustifrons (Loew)は,新たに19種のキノコを利用していることが判明した.本種は,キノコ子実体のみで羽化すること,また,カメの人工餌でも羽化することが確認された.本種の終齢幼虫は,与えられたミスジショウジョウバエDrosophila bizonata Kikkawa and Pengの幼虫を捕食した.以上の結果から,野外ではキノコ子実体以外に,おそらく植物組織,糞,動物遺体などを利用する雑食性であるともに,キノコ食双翅目群集内において,ギルド内捕食者でもあると推測された.
著者
宮戸 健二 河野 菜摘子 山田 満稔 浜谷 敏生 中村 浩幸
出版者
国立研究開発法人国立成育医療研究センター
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

からだの内側は、粘膜上皮に覆われ、ウイルスや細菌、微小粒子状物質(PM2.5)の侵入から守られている。我々が発見したマイクロエクソソームは、卵や、生殖器と泌尿器を含む管腔構造の粘膜上皮から分泌される。マイクロエクソソームは、エクソソームと共通の成分を含むものの、構造が全く異なる逆ミセル状の構造体である。我々の研究から、マイクロエクソソームは、2つの役割(細胞膜の修復とウイルスの捕捉)を担っていることが推測される。本研究ではマイクロエクソソームを手がかりに、一見別々に見え、我々にとって身近な『子供の産まれやすさ』と『感染症への罹りにくさ』をつなぐ分子メカニズムの解明をめざす。
著者
梅野 和也 中村 浩一 井元 淳 白澤 浩太郎 石田 猛流 加来 謙治 土井 康太
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.313-317, 2018 (Released:2018-04-27)
参考文献数
22
被引用文献数
2 1

〔目的〕3種類の運動イメージ評価法とmental practice(MP)でのパフォーマンスの変化との関係を検討することとした.〔対象と方法〕健常学生20名とした.MP前後における運動課題の成績比較からMPの有効性を検討し,Movement Imagery Questionnaire-Revised Japanese Version(JMIQ-R),メンタルクロノメトリー,メンタルローテーションの3種類の評価結果とMPの効果との関係を検討した.〔結果〕MP前後の運動課題に有意な改善が認められ,メンタルクロノメトリーとパフォーマンスの変化量との間に中程度の相関関係が認められた.〔結語〕メンタルクロノメトリーで測定した運動イメージ能力が,MPの効果と関わりがある可能性が示唆された.
著者
吉富 淳 高橋 毅 佐藤 篤彦 中村 浩淑 妹川 史朗 須田 隆文 千田 金吾
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器内視鏡学会
雑誌
気管支学 (ISSN:02872137)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.150-153, 1998-03-25 (Released:2016-10-01)
参考文献数
10

アルカリ性洗浄剤の誤嚥による気道浮腫の気管支鏡所見を経時的に観察しえた。症例は89歳女性で, 1996年6月17日に自殺企図にて家庭用洗浄剤ドメスト^[○!R](pH約12, 1%水酸化ナトリウム, 5%次亜塩素酸塩を含有)を飲み嘔吐, 誤嚥をきたし, 3時間後に当院救急外来を受診した。気管支鏡検査では, 咽喉頭から気管支までの粘膜の著明な発赤, 浮腫と白苔の付着を認めた。声門が開存していることから, 気管内挿管はせず様子をみた。翌日の気管支鏡検査では気道内に白色粘稠分泌物が増加しており, 中枢気道粘膜の生検では粘膜下にリンパ球を主体とする炎症細胞浸潤が存在した。bronchial toiletを施行し, ステロイド, 抗生物質, H2ブロッカーの投与等を行い, 気道閉塞や食道狭窄に陥ることなく軽快した。
著者
羽田 健三 中村 浩志
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
(ISSN:00409480)
巻号頁・発行日
vol.20, no.88, pp.41-59, 1970-12-25 (Released:2008-12-24)
参考文献数
13
被引用文献数
5 3

1. This study of the breedingbiology of Japanese Greenfich Chloris sinica minor was conducted during March 1966 and August 1968, in an area of 660 ha of farmlands in Nagano prefecture, 400 m of altitude. 2. The study is based on breeding records of 262 nests, eleven all-day observations on breeding pairs and 824 marked individuals.3. The breeding procedure cousisted of five periods: preparatory-nest-building-egg-laying-incubation-chick-raising and famiy-life periods.4. Pair formation is advanced through the male's series of behaviors which are: courtship song-coutship posture to an attracted female-leading the female into a selected nest-tree-following after the female. After pair is formed the female selects the nest site.5. When the female fails to find the nest site within the male's territory, she would wander out of it for seardh of a good site, fllwed by the male. Therefore, the first territory is abandoned.6. Early in the breeding season, before middle April, they work for nest-building only in the morning and diappear in the afternoon to join the flock.7. The female only builds the nest and the male follows her closely.8. The nest-building period varies from about 14 days in the earlier part of the season, before 5 April, to as short as 4 days after entering May.9. This is due to the situation that in early season they feed on seeds left from the previous year and need time in foraging, their nest-building and egg-laying are prolonged. Later in the season, they can efficiently feed on rich source of new grass seeds and therefore finish neting in a short time and lay eggs at onde.10. The egg is usually laid one each day early in the morning. There were three exceptions (out of 68 caseg) in which eggs were laid in less than 24 hours.11. Day incubation is commenced after laying the first egg of clutch but true or night incubation sets in after the clutch has been completed.12. The female only incubates and is fed by the male. This feeding is usually (76.9%) performed at exposed places outside of the nest (The female may remain to be fed in the nest when she is conscious of observer) and never in the nest-tree. The feeding spots are concentrated along the territory border 20-40m from the nest and at least 8m it. Judging by the observer's personnal experience this has advantage to protect the nest from predator.13. The incubation period varied between 12 and 15 days but 40.6% were 12 days and 46.9 % 13 days.14. A clutch hatched in 1-3 days, with 89.4% in 2 days.15. Both sexes engaged in feeding the chicks and the frequency was 11 times a day This very low rate as compared with those in insect-eating passerines is due to the presence fo the crop in which the parents carry and chickc store the food.16. The chicks' growth of body weight slown in later stage and slightly decrease before nest-leavin, but the quills grow continuously. The tail is still short on flying.17. Teh feeding period of nestlings was 12-17, usually 14-15 (51.7%), days. After flying chicks were fed by both parents for 7-10 days and a few pairs commenced the second brood.
著者
白崎 良演 中村 浩章 羽田野 直道 町田 友樹 長谷川 靖洋
出版者
横浜国立大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

我々は、2次元電子系がメゾスケールの大きさである場合、強磁場下で系のネルンスト係数に量子振動が見られる(量子ネルンスト効果)ことを平成17年度から平成18年度にかけて線形応答理論を用いた理論計算で示していた。平成18年度にフランスのグループ(Bhenia, et. al. ESPCI, Paris)から、ビスマス(Bi)単結晶のネルンスト係数およびエッチングスハウゼン係数の測定結果が発表され、ネルンスト係数の量子振動が現実の系で示された。我々はこの実験結果の検討を行い、試料の3次元性の効果を取り入れた理論拡張を行った。我々は磁場中の3次元バリスティック系を考え、運動の自由度を磁場に垂直な2次元面内の自由度と磁場に平行な自由度に分け、2次元面内の運動成分は有限サイズのバリスティックなものと見なしてネルンスト係数を考察した。その結果、3次元系でもネルンスト係数の量子的な振動が現れ、ネルンスト係数のピークは弱磁場側に尾を引く左右非対称の形を持つことが分かった。この形はBiの実験結果と一致する。このように、量子ネルンスト効果が3次元系において理論・実験両面から確認された。一方、Biのネルンスト係数のピークは実験値が理論値に比べ非常に大きい。この原因の理論的解明は今後の課題として残っている。我々は量子ホール系における輸送係数の基本関係に関しても考察を行った。従来、電気伝導度テンソルの非対角成分の磁場微分と対角成分との間では線形な関係式が提案され、研究が進められていた。我々は線形応答理論を用いて量子ホール系の輸送係数を理論・解析的に導出し、成分間の関係が非対角成分の磁場微分と対角成分の二乗が比例する非線形な関係であることを示した。この理論では、電子の不純物散乱により、ランダウ準位近傍の電子状態密度がローレンツ型になると仮定している。我々はGaAsによる実験結果を用いて、数テスラ程度の磁場のもとでこの関係が良く成立していることを確かめた。