著者
山際 幹和 原田 輝彦 坂倉 康夫
出版者
耳鼻咽喉科臨床学会
雑誌
耳鼻咽喉科臨床 (ISSN:00326313)
巻号頁・発行日
vol.84, no.6, pp.837-851, 1991-06-01 (Released:2011-11-04)
参考文献数
36

Without following the traditional diagnostic procedure based on oriental medicine, we administered an oral Kampo (traditional Chinese herbal) medicine, Tsumura Saiboku-to (7.5g/day), daily for 2 weeks to 108 patients with abnormal sensation in the throat, such as a lump or choking.After excluding 8 patients, 4 with unpleasant side effects and 4 who discontinued the medication, we evaluated the efficacy at the end of the first and second week of administration and one week after the termination of treatment in 38 males and 62 females. The medicine was considered to be very effective when the abnormal sensation improved subjectively by 80% or more, moderately effective if improvement was 50% to 80%, slightly effective if it was 30% to 50% and not effective if less than 300.The respective effectiveness rates were 22%, 32%, 11% and 35% at the end of the first week; and 35%, 33%, 12% and 20% at the end of the second weed; and 43%, 30%, 7% and 20% at the end of the third week. Further analysis of the data suggests that this medicine is more effective for females than males, for younger patients and those over 50, for non-drinking than habitually drinking patients, for those not previously treated, for those without cancer phobia, for those treated within one month after the start of abnormal sensation, for those with the sensation higher in the pharynx, and for those with lower neurotic scores on psychological tests.Side effects were reported by 6 (6%), 4 of whom stopped the medication: 4 had gastrointestinal symptoms and 2 had dry mouth and/or throat.From the point of view of western medicine, the effectiveness of Saiboku-to on abnormal sensation in the throat is good enough. It would probably be even better if administered after a selection based on diagnosis according to the concepts of oriental medicine.
著者
藤原 孝之 坂倉 元 伊藤 寿 本庄 達之助
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.24-28, 1999-01-15 (Released:2009-05-26)
参考文献数
16
被引用文献数
4 3

ブドウ果実の糖分析中のショ糖分解に及ぼすインベルターゼの影響を検討した.1.ブドウ果実の搾汁液においては,ショ糖の加水分解が急激に起こり,主にインベルターゼの作用によるものと判断された.搾汁液のショ糖分解程度およびインベルターゼ活性には,大きな品種間差異が認められた.2.今回供試したブドウ7品種の中で,‘スチューベン’のみは特異的にインベルターゼ活性が低く,ショ糖含量が高かった.3.‘スチ〓ーベン’を除くブドウ各品種のインベルターゼ活性は,イチゴ,ニホンナシ,メロンおよびウンシュウミカンより極めて高かった.4.ブドウの糖分析において,エタノール抽出を行う場合,抽出時のショ糖分解を抑えるために,抽出前に果肉切片をマイクロ波処理することが必要と判断された.
著者
廣澤 春任 名取 通弘 紀伊 恒男 高野 忠 橋本 樹明 大西 晃 井上 浩三郎 村田 泰宏 三好 一雄 井上 登志夫 野田 隆彦 栗林 豊 田嶋 隆範 近藤 久美子 佐々木 崇志 箭内 英雄 萩野 慎二 小倉 直人 岡本 章 杉山 祥太郎 HIROSAWA Haruto NATORI Michihiro KII Tsuneo TAKANO Tadashi HASHIMOTO Tatsuaki OHNISHI Akira INOUE Kouzaburo MURATA Yasuhiro MIYOSHI Kazuo INOUE Toshio NODA Takahiko KURIBAYASHI Yutaka TAJIMA Takanori KONDOH Kumiko SASAKI Takashi YANAI Hideo HAGINO Shinji OGURA Naoto OKAMOTO Akira SUGIYAMA Shohtaro 中川 栄治 NAKAGAWA Eiji
出版者
宇宙科学研究所
雑誌
宇宙科学研究所報告 (ISSN:02852853)
巻号頁・発行日
vol.101, pp.1-27, 1998-06

科学衛星「はるか」は, スポース VLBI に必要な工学諸技術の実験ならびにスペース VLBI による電波天文観測を行うことを目的として, 1997年2月12日, 宇宙科学研究所の新型ロケット M-V の初号機により打ち上げられた。「はるか」では数々の工学的課題への取り組みがなされたが, それらの中で, ケーブルとメッシュからなる, 有効開口径8cmのパラボラアンテナの軌道上での展開が, 最大の工学的課題であった。打ち上げ約2週間後の2月24日から28日にかけてアンテナ展開実験を行い, 展開に成功した。本稿は「はるか」のアンテナ展開実験を, 衛星システム全体としてのオペレーションの観点から詳述するものである。
著者
上倉 庸敬
出版者
美学会
雑誌
美学 (ISSN:05200962)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.51-61, 1979-06-30 (Released:2017-05-22)

On use du mot "metaphore" en deux sens. Le sens aristotelicien de transposer (metapherein), c'est-a-dire, d'appliquer des mots a des choses qu'ils ne designent pas proprement. Et le sens de la ressemblance (semblance), que S.K. Langer emploie comme ce qui s'abstrait de l'ordre physique et causal pour designer ce qui est vu seulement par une perception. La ressemblance est la qualite virtuelle de l'objet esthetique. Mais, il me semble que Langer confond le premier avec le deuxieme quand elle applique le mot "semblance" aux oeuvres en prose. C'est Gaston Bachelard qui comprend la ressemblance comme image, et etudie son devenir. Par les etudes des images il decouvre que le langage poetique est ce qui porte en soi la dialectique de l'ouvert et du ferme. Ce langage a une relation intime et inseparable avec l'homme qui est "l'etre entr'ouvert". Mais d'une part on peut dire que cette relation n'est pas propre au langage poetique, elle s'etend du langage en general. D'autre part le mot a deux fonctions : la designation et le son. La philosophie de l'art poetique devrait commencer par l'etude de la relation entre ces deux sens de preference a celle de l'image.
著者
中村 謙吾 肴倉 宏史 川辺 能成 駒井 武
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.39-48, 2015 (Released:2015-02-20)
参考文献数
24

製鋼スラグの利用用途で,腐植物質との混合による磯焼け回復技術が注目されているが,製鋼スラグから溶出する重金属等の環境影響を検討する必要がある.本研究では純水による検討に加えて,海域利用を想定し,実海水を用いて振とう試験および浸漬式のシリアルバッチ試験を実施した.さらに,海域利用において要求される環境安全品質の考え方に基づき,海域利用への適合性について考察を行った.試験結果より,Cd,Pb,Cr,Bは,試験条件を変えた場合に,溶出濃度が港湾用途溶出量基準を超過することは確認されず,製鋼スラグ及び腐植物質の相互作用により,重金属類の溶出濃度は減少傾向を示した.また,本研究で想定した海域利用の環境安全品質を設定し,本試験結果を適用した結果,重金属類による海域汚染の原因となる可能性は低いことが示唆された.
著者
伊藤 不二夫 伊藤 全哉 中村 周 柴山 元英 倉石 慶太 河合 将紀 山田 実 星 尚人 吉松 弘喜 三浦 恭志
出版者
一般社団法人 日本脊椎脊髄病学会
雑誌
Journal of Spine Research (ISSN:18847137)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1.2, pp.22-31, 2021-01-20 (Released:2021-01-20)
参考文献数
10

はじめに:脊椎後方除圧術として観血法,顕微鏡下除圧術,内視鏡下除圧術,経皮的内視鏡下除圧術等を行ってきたが,今回導入した片側進入双穴内視鏡Unilateral Biportal Endoscopy(UBE)の臨床経験を報告する.対象と方法:脊柱管狭窄症56例,椎間孔狭窄症3例,ヘルニア5例の計64例を手術した.傍棘突起部で椎間板レベルの1 cm頭側に4 mm径の内視鏡ポータルを作成する.それより2 cm尾側の8 mm径作業用ポータルから,ラジオ波,4 mmダイアモンドバー,直・弯曲ケリソン,剥離子,鉗子等を使用する.結果:手術時間は初期2時間が,20例以降1時間に短縮した.下肢症状・腰痛VASは有意に減少した.Macnab評価の満足率は83%であった.術後血腫はなかった.硬膜損傷は2例にあり,fibrin patch法で修復した.結語:持続水灌流の鮮明視野下で,レンズ先端は組織に近接し毛細血管も拡大され,止血が丁寧にできるため,術後血腫が少ない.外筒は使用せず器具の作業範囲に制限がなく,骨掘削量が少なくて済む.
著者
須長 史生 小倉 浩 堀川 浩之 倉田 知光 正木 啓子
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.79, no.6, pp.734-751, 2020 (Released:2020-05-12)
参考文献数
7

本研究は,2016年から3か年にわたって計画されている「インターネットを活用したセクシュアル・マイノリティに関する学生の意識調査」の2年目にあたり,本稿はその調査結果を記した「セクシュアル・マイノリティに対する大学生の意識と態度:第1報」(須長他[2017])の続編となる.本研究の目的は18歳から20代前半の男女の,性的マイノリティに対する意識や態度を明らかにすることである.目的を達成するために,首都圏の医療系A大学の一年生445名(男子129名,女子313名,その他3名)に対してアンケート調査を行った.本調査は昨年度同様に,プライバシーの確保と回収率の向上のために,インターネットを活用することとし,学生はスマートフォンもしくはタブレット端末を用いてアンケートに回答した(回収率76.6%).質問肢の作成およびデータの分析では前年度の調査をまとめた須長他[2017]を参考にし,その比較において若者,特に今回は18歳から20代前半まで大学生の,性的マイノリティに対する意識や行動の実情の把握を試みた.調査の結果,今年度の調査対象者の持つ特徴として,前年度に比べて性的マイノリティに関する客観的知識量が少ないこと,性的マイノリティとの接触機会はほぼ同程度であること,身近な同性愛者に対する嫌悪感情が低いこと,そして性的マイノリティに対する意識に,男女差がみられる項目が多いことが明らかになった.本調査は,前年度と異なり,差別や人権をテーマにした必修科目の授業の前に実施された.そのため調査実施のタイミングが回答傾向に影響を及ぼした可能性があり,考察にはその点も考慮に入れている.
著者
倉 昂輝有吉 正則山田 大豪
雑誌
第56回日本作業療法学会
巻号頁・発行日
2022-08-29

【はじめに】近年,わが国の発達障害児の支援において,家族支援が重要視されている.このような背景から作業療法(以下,OT)においても家族中心のケアに基づき保護者への支援が実践されている.OTで実践される家族支援の1つにホームプログラム(以下,HP)があり,発達障害領域の作業療法介入に関するシステマティックレビューにおいて,そのエビデンスが示されている(Novak I,2019).しかし,わが国のHPの研究は症例報告が主であり,HPを経験した当事者の視点を報告したものはない.さらに,母親らを対象としたこれまでの研究は,子育てに対する葛藤や困難さに焦点が当てられてきた.そのため家庭内という外部からみえにくい環境の中で母親らが子育てをどのように展開しているのかは不明な点も多く,それらの要因と関連する専門家のサポートも明らかにされていないのが現状である.【目的】本研究の目的は,発達障害児を養育する母親のHPを通じた子育てにおける思いや経験,行動にかかわる諸要因を当事者の視点から明らかにすることである.【方法】研究参加者は,個別の外来OTと並行して目標に基づくHPを実施した母親とした.外来OTは隔週の頻度で1回あたり40分間,全12回,約6ヶ月間,HPは外来OT3回目から10回目まで行った.HPは先行研究で提唱されている5フェーズを参考に実施した(Novak I,2006).データ収集は,母親らを対象に半構造化面接によるインタビューを実施し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した.サンプリング方法は便宜的サンプリングから理論的サンプリングに移行した.本研究は兵庫医療大学倫理審査委員会の承認(第19028号)を得て実施した.また,研究参加者には書面による同意を得ており,COI関係にある企業等はない.【結果】10人目のデータ分析において新たな概念が生成されなかったため,サンプリングを終了した.分析によって25個の概念,9個のサブカテゴリー,4個のカテゴリーを生成した.以下,概念を〈〉,サブカテゴリーを《》,カテゴリーを【】として示す.発達障害児を養育する母親らは,身体的負担の増加や心理的苦痛,強いストレス,社会的孤立を抱えて子育てを行なっていることが明らかにされた.このような子育て環境に対応するための重要な要因として《否定的感情との折り合い》,《忙殺される日々との折り合い》,《社会的通念との折り合い》の3つのサブカテゴリーから成るコアカテゴリーを生成した.これは母親自身が見つけた問題解消法であり《子育て視点の拡大》の変化<をもたらす働きがあると見出された.この変化は〈わが子と見つけた目標〉と〈できることからスタート〉する《実現可能な一歩》という具体的な支援手段を母親らにもたらし,友人や夫,祖父母などに対して,どのような子育ての支援を求めるかの判断を明確にしていた.【考察】《否定的感情との折り合い》,《忙殺される日々との折り合い》,《社会的通念との折り合い》という問題解消法は,【複雑な子育て環境に対する適応】を促す上で核となる概念であり,子育てにおける視点の拡大に発展する.この視点の拡大が現状に則した目標と活動に対する方略を子どもと見つけることにつながると考える.さらに母親らは友人や祖父母,夫との子育てにおける相互的な関わりのなかで,周囲の人々の役割特性を捉え,臨機応変に依頼するという方略を見つけていたと考える.OTにおける家庭への支援は,母親の子育ての状況や周囲との相互作用を評価し,個々の家庭の営みにかかわる文脈に適した子育て方略を母親自身によって見出せるようにサポートすることが重要である.
著者
新倉 謙一
出版者
日本工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

抗原や核酸を輸送するためのワクチン粒子の開発を目指す。ワクチン粒子は生体内で分解することで、輸送した抗原や核酸を細胞内で放出できるようになる。本研究では細胞内で分解しやすいように、低分子を組み合わせることで粒子をつくる手法を開発する。通常低分子は、高分子と比べるとお互いの相互作用が弱いため安定した粒子が作りにくい。しかし多点での結合が可能な低分子を用いることで、それらの課題を解決していく。
著者
藤野 浩子 田熊 大祐 戸野倉 雅美 馬場 亮 松木薗 麻里子 高橋 香 鴇田 真弓 笹原 沙衣子 市橋 弘章 伊藤 寛恵 佐藤 雅美 文原 千尋 押田 智枝 小暮 啓介 山地 七菜子 藤田 桂一
出版者
動物臨床医学会
雑誌
動物臨床医学 (ISSN:13446991)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.25-29, 2014-03-20 (Released:2016-02-05)
参考文献数
17

血便・粘液便を主訴に来院したミニチュア・ダックスフンド4例に対し,内視鏡下生検材料による病理組織検査にて,直腸炎症性ポリープと診断した。4例中1例では,内科治療にて症状の改善がみられ,現在プレドニゾロン,シクロスポリンの投与を継続し,良好な経過を示している。4例中3例では,最初に内科療法を行ったが,十分な症状の改善がみられなかったため,直腸粘膜引き抜き術による外科治療を実施した。いずれも,術後症状の改善がみられ,現在まで再発を認めず維持している。
著者
重永 英年 長倉 淳子 高橋 正通 赤間 亮夫
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース 第114回 日本林学会大会
巻号頁・発行日
pp.444, 2003 (Released:2003-03-31)

高CO2濃度は植物の成長を促進するが、その程度は栄養状態に左右され、特に窒素が十分でない場合には高CO2の効果が低減することが知られている。CO2濃度上昇が植物の生育におよぼす影響を評価する際には、窒素と高CO2濃度との相互作用を実験的に明らかにするとともに、自然環境下では、植物がどのような窒素の栄養状態にあるのかを把握する必要がある。また、温暖化にともなう気温の上昇は、土壌の養分環境を変化させ、植物の栄養状態に影響をおよぼす可能性が予想される。 葉の窒素含有率は、植物の生育にとって窒素の過不足を表す指標として利用され、光合成速度と密接な関係があることから、モデルのパラメータとして用いられることも多い。本研究では、全国から採取されたスギ針葉の窒素含有率を調べ、平均値とその度数分布を明らかにし、窒素栄養の状態を評価すること、温度環境と針葉窒素含有率との関係を検討することを目的とした。 窒素含有率の測定には、1990年から1994年にかけて林野庁によって行われた「酸性雨等森林被害モニタリング事業」で採取されたサンプルを用いた。上記事業では、全国を20km×20kmのメッシュに区分し、陸地が全体の4分の1未満の場合等を除いた1,033の地理区画ごとに調査地が設定され、林分調査、雨水、土壌の成分分析等が実施された。各地点では、原則として、調査地内の優勢木を対象とし、8月から10月の期間に樹冠上部の当年葉が採取されている。スギ針葉は、香川県と沖縄県を除く45都道府県の500以上の地点から採取された。調査林分の林齢は20から40年生が約8割を占める。針葉の窒素含有率は、CNコーダを用いて定量した。 各調査地の表層土壌の窒素含有率、同C-N比については上記事業のデータを、年平均気温についてはメッシュ統計値(気象庁監修 (財)気象業務支援センター,1996)を利用した。531地点の針葉窒素含有率の度数分布は、正規分布型を示し、平均値は14.0mg gDW-1、標準偏差は2.4mg gDW-1であった。スギ壮齢林の場合には、針葉の窒素含有率が12mg gDW-1未満で成長不良、15mg gDW-1以上で成長良との報告がなされている。本結果では、針葉の窒素含有率が15mg gDW-1以上の地点は全体の3割以上を占め、12mg gDW-1未満の地点は2割に満たない。調査地の設定にあたり、生育不良な林分は選定されていない可能性があるが、針葉の窒素含有率から判断すれば、窒素が大きく不足しているスギ林は多くはないと考えられる。また、スギ苗木では、針葉の窒素含有率が約15mg gDW-1までは光合成速度は増加するが、それ以上では飽和することが知られている。針葉窒素含有率のモードは14から15mg gDW-1にみられ、この値は光合成にとって過不足の無い最適な窒素含有率に近かった。 表層土壌のC-N比を4水準に区分し、各区の針葉窒素含有率を比較すると、C-N比が高い区では針葉の窒素含有率が低い値をとった。年平均気温によって区分した場合は、針葉の窒素含有率は、9.5℃未満の地点では13.6mg gDW-1、14.5℃以上の地点では14.2mg gDW-1と、年平均気温が低い区で値が低い傾向がみられた。低温環境では、表層土壌の窒素含有率、同C-N比が高い値を示しており、土壌有機物の分解が抑制され、窒素の可給性が低いことが、上記の結果と関係していると考えられる。このように、温度環境に対して針葉の窒素含有率は変化する傾向があるものの、その変化量自体は非常に少なかった。温暖化による気温の上昇により土壌の養分環境が変化したとしても、スギ針葉の窒素含有率は大きくは変化しないことが予想される。
著者
熊倉 俊一
出版者
一般社団法人 日本臨床リウマチ学会
雑誌
臨床リウマチ (ISSN:09148760)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.241-251, 2018-09-30 (Released:2019-06-01)
参考文献数
35

血球貪食症候群(HPS)は,網内系におけるマクロファージの血球貪食を病理学的特徴とする難治性疾患である.臨床症状として持続する発熱,肝・脾腫大,リンパ節腫脹,血球減少,凝固異常,肝機能障害,高フェリチン血症などが見られる.HPSは,一次性(遺伝性)と二次性(反応性)に分類され,自己免疫疾患に関連して生じる二次性HPSは,自己免疫関連血球貪食症候群(autoimmune-associated hemophagocytic syndrome, AAHS)と言われる. HPSの診断は,臨床所見と検査所見により総合的に行われるが,自己免疫疾患を基礎疾患とする場合は,自己免疫疾患自体の症状とHPSとしての症状が同一であることがあり,診断の妥当性や信頼性が問題となっている.今後,HPSに特異的な所見による診断基準の策定が求められる. HPSは,しばしば致死的な経過を辿るため,速やかな治療の開始が必要である.AAHSの治療は,ステロイド療法が一般的であり,58%の症例が同療法にて改善する.ステロイド療法無効例には,シクロスポリン療法,シクロホスファミド・パルス療法または免疫グロブリン療法などが実施され,それらの中では,シクロホスファミド・パルス療法の有効性が高い.近年では,TNFまたはIL-6阻害薬などの生物学的製剤の有効例が報告されている.生物学的製剤は,低分子シグナル阻害薬とともに,今後AAHSの治療選択に重要な位置を占めるものと考えられる.