著者
大倉 隆介 小縣 正明
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.10, pp.837-846, 2013-10-15 (Released:2013-12-30)
参考文献数
9
被引用文献数
1

救急外来を受診する過換気症候群症例の臨床的特徴を明らかにすることを目的として,2004年4月以降6年間に神戸市立医療センター西市民病院(旧・神戸市立西市民病院)の救急外来を受診し過換気症候群と診断された474名(受診件数627件)を対象とし,その症状や検査所見,当院における治療方法および結果を遡及的に検討した。患者の平均年齢は35±16歳,性別は男85名(102件),女389名(525件)であった。受診件数は明らかな季節変動を示し,夏に増加し冬に減少した。身体的疾患の合併に関しては気管支喘息が最も多く64名(13.5%)にみられた。精神科的疾患の既往では神経症性障害,ストレス関連障害および身体表現性障害が最も多く104名(21.9%)に認められた。救急車による搬送例は348件(55.9%)を占め,非搬送例と比して精神疾患合併例が有意に多く,救急外来での在室時間が有意に長かった。治療としては,鎮静を目的とした薬物投与が322件(51.4%)で行われ,ペーパーバッグ法が122件(19.5%)で施行された。いずれの治療法も,施行した群は施行しなかった群に比して救急外来の在室時間が長かった。過換気発作停止後にSpO2の低下を伴う無呼吸がみられた症例が35件(5.6%)あった。入院を要した症例は7件(1.1%)あった。対象期間中に過換気症候群で当院救急外来を複数回受診した患者は71名(15.0%)あり,その受診回数は平均3.2回,最大18回であった。1か月以内の再受診は37名(72件)あった。複数回受診者が精神疾患を合併する割合は69.4%であったが,受診回数1回の患者では35.6%であった。過換気症候群は,ほとんどの症例において予後は極めて良好であるが,気管支喘息などの他疾患との鑑別困難例や過換気後無呼吸による低酸素血症の発生に注意が必要である。
著者
金澤 寛之 小倉 靖弘 小川 晃平 上本 伸二
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.6, pp.277-283, 2011-06-15 (Released:2011-08-19)
参考文献数
17

熱射病に起因した急性肝不全に対して生体肝移植を施行した症例と人工肝補助療法を施行した症例をそれぞれ経験した。症例1は16歳の男性で運動中に卒倒した。前医入院後,一時的に意識状態が改善したが再び昏睡状態となり第4病日に急性肝不全の診断で人工肝補助療法を開始し同日,生体肝移植を施行した。術後2日目に意識状態の改善を得た。症例2は15歳の男性で運動中に卒倒し,その後熱射病による急性肝不全の診断で人工肝補助療法を開始した。昏睡状態が遷延したが第14病日に意識状態の改善を得た。両者とも神経学的後遺症なく軽快退院することができた。熱射病による急性肝不全は,播種性血管内凝固症候群や熱射病による脳症の合併により肝移植適応を含めた肝不全の評価が困難となる。本病態に対しては人工肝補助療法を行うことで肝性脳症による不可逆的脳障害の回避や肝性昏睡からの覚醒効果に期待し,その間に致死的合併症を制御しながら肝再生あるいは肝移植につなげていく治療戦略が妥当であると考えられる。
著者
伊藤 謙一 川嶋 和晴 大庭 芳和 播谷 亮 木村 享史 板倉 智敏
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.50, no.9, pp.523-526, 1997-09-20 (Released:2011-06-17)
参考文献数
13
被引用文献数
1 2

岡県の一観光牧場で, 9日間に成兎60羽中53羽 (88.3%) が沈うつ症状を示して発症後数時間で死亡し, 死亡3例について病理学的に検索したところ, 兎出血病 (Rabbit hemorrhagic disease: RHD) に特微的な病変が認められた. すなわち, 組織学的に壊死性肝炎, 肺・腎臓における播種性血管内凝固が認められ, 抗RHDウィルスIgGによる免疫染色で肝細胞に陽性反応が認められた. また, 電子顕微鏡学的には, 壊死肝細胞細胞質にカリシウイルス様粒子が観察された. 死亡例の肝臓乳剤を接種された2羽の兎で本病の再現がなされ, 肝臓からカリシウイルス粒子が精製された. 今回の例は1994年 (北海道) に続いてわが国における第2件目であった.
著者
西尾 孝之 北野 雅昭 酒井 護 高倉 晃人 加田平 賢史 西谷 隆司
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.229-244, 2015-04-15 (Released:2015-04-28)
参考文献数
40
被引用文献数
1

東北地方大震災で発生したがれきの広域処理を行うにあたり,大阪市域の放射性セシウムのバックグラウンド調査を行うとともに,市内のごみ焼却工場における焼却灰,下水汚泥焼却灰,浄水発生土の放射能に関して,これらの廃棄物回収系による集積・除去機能について検討した。大阪市で観測された降下ばいじん中放射性セシウム濃度から,市域に降下した放射性セシウムは約4.3GBqと推定されたのに対して,2011年に下水汚泥やごみとして回収された放射性セシウムは年間約0.9GBqにのぼると推定された。大阪市域の降下ばいじん中放射性セシウムは2012年6月以降検出限界値未満となり,原発事故2年目以降の追加的な放射性セシウムによる汚染は非常に少なくなったと考えられたが,2013年のごみ焼却飛灰中放射性セシウムは,2011年3月15日を基準日として減衰補正すると2011年の4割程度の濃度レベルであると計算された。剪定枝などの環境ごみ以外に,放射性セシウムを含有するものが市域外から移入されていると考えられた。
著者
金 富子 中野 敏男 倉田 明子 橋本 雄一 吉田 ゆり子 澤田 ゆかり 野本 京子
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

まず、2年目の研究実績として、最大の成果といえるのは、初年度の成果をふまえて、2017年8月に本格的に中国東北へのフィールドワーク調査(長春、延辺、ハルピン、8泊9日)を実施したことだった。とくに延辺では、現地の研究者2名の全面的な協力によって、3日間にわたって日本人入植地と朝鮮人入植地をフィールドワーク調査することによって、両者の違いを現地で直接に経験しただけでなく、現地で当時を知る複数の経験者にインタビューすることができた。また、現地研究者との研究交流と写真論文集出版に向けた協力体制を深めることができた。なお、フィールドワーク調査の事前準備として、同年7月に中国東北への朝鮮人移民に関する専門研究者を招いて開いた公開研究会をもって認識を深め、さらに同年8月にはハルピンと万宝山事件の歴史と現在に関する研究分担者による内部研究会を開き、問題意識を共有した。また、フィールドワーク調査後の同年10月には、成果を共有するための記録集の作成と公開フォーラムを開催した。次に、2018年1月には、第3課題「『満洲』の社会と文化」を主題に関連して、中国から「満洲」文学の専門研究者を招き国際カンファレンスを開催するとともに、非公式の集まりを含めて、「満洲」に関する文学・文化の視点、現在のデジタル資料の利用方法などの研究交流を行った。さらに、この主題に関連して、同年3月に「満洲」のキリスト教史の専門研究者を招いて公開研究会を行い、「満洲」の宗教と欧米人という側面からテーマを深めた。以上のように、所定の計画通りに目標を達成することができた。
著者
山口 絢子 猪又 直子 広門 未知子 嶋倉 邦嘉 塩見 一雄 池澤 善郎
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.49-53, 2007-01-30 (Released:2017-02-10)
参考文献数
12
被引用文献数
3

20歳女性.乳児期よりアトピー性皮膚炎.幼少時より生魚を接触した際に〓痒を認めたが経口摂取は可能であった.2年前に回転寿司屋でアルバイトを開始してから,数滴の魚液に接触しただけで手の腫脹が出現した.1年前からはシタビラメやサンマ,アジ,サケ,ホッケ,ブリを加熱調理して摂取時に口唇〓痒や腫脹,アナゴ摂取時に喉頭閉塞感や嗄声,エビやカニを摂取時に口唇腫脹,アワビに似た貝を摂取時に喘鳴や嗄声,呼吸困難,全身性蕁麻疹が出現した.特異IgE抗体やプリックテストでは硬骨魚綱,甲殻鋼,軟体動物等多種で陽性.焼シタビラメによる口含み試験では口唇違和感が出現し,経口負荷試験では口唇腫脹や喉頭閉塞感,嚥下困難感,腹痛が出現した.パルブアルブミンとコラーゲンに対する血清特異IgE抗体は,ELISA法にて検出.以上よりシーフードによる職業性の接触蕁麻疹と口腔アレルギー症候群と診断した.
著者
坂倉 篤義
出版者
国文学研究資料館
雑誌
国際日本文学研究集会会議録 = PROCEEDINGS OF INTERNATIONAL CONFERENCE ON JAPANESE LITERATURE (ISSN:03877280)
巻号頁・発行日
no.8, pp.98-114, 1985-03-01

Currently available dictionaries of pre-modern Japanese (kogojiten) tend to be biased towards representing the lexicon of classical literary texts. For example, entries under the word okashi in such dictionaries, with one or two exceptions, give, first of all, definitions such as (1) interesting, (2) tasteful or suggestive, (3) superior, or (4) lovely, and only supply in last place the definition (5) comical or funny. In some cases this last definition is omitted altogether.In the literature of the Heian court, especially the Makuranosōshi, noted for its thematization of okashi, the value of okashi, together with aware, occupies a dominant position, and in the case of this literature, it is indeed true that okashi can be understood, as a rule, within the compass of definitions (1) through (4) offered above. This usage of okashi remains, however, a distinctive feature of classical narrative literature of genres such as the nikki (diary) or monogatari (tale, recit). For other narrative genres, e.g. setsuwa (fables, anecdotal tales), definitions (1) through (4) of okashi are often inapplicable. Of the 94 instances of okashi in the Konjakumonogatari, (a setsuwa-shū) for example, as many as 42 call for the 5th definition above. (Such examples are especially frequent in books 24 and 28 of that work.) The infrequent appearance of okashi with sense (5) in Heian nikki snd monogatari is attributable to the subject matter of these genres. In texts of the medieval period and after, although okashi appears in sense (1) through (4) in the archaistic prose of the Tsurezuregusa and other texts, as an instance of bungo (the "literary style"), such occurences elsewhere are rare, and in general, okashi, in this period and after, always has sense (5), "laugh provoking" or "odd". In short, the word okashi has been used consistently with the senses of "laugh-provoking", "strange" ever since it was defined in the early Heian lexicon Shinsenjikyo as "waraubeshi anaokashi," and these are its original senses. The use of okashi in other senses in Heian literature represents a temporary expansion of the meaning of the term in literary language.If editors of dictionaries of pre-modern Japanese intend to present faithfully the lexicon-historical realities, they will have to make a departure from the tradition, which dates back to the Edo period, of inflating the importance of classical literary texts.
著者
小倉 有子 庄林 愛 Ogura Yuko Shobayashi Megumi
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大学紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.49, pp.297-304, 2021-02-28

グルテンは、小麦などの麦類に含まれる蛋白質の一種であり、米国ではグルテンを含まない食品を「グルテンフリー(以下、GF)」と表示している。GFと表示された食品(以下、GF食品)を用いた食生活は(以下GF食)、セリアック病などの治療に用いられている。近年、欧米においてGF食は健康に有用である、さらには痩身にも有用であるとの情報が拡散し、グルテンを避ける必要がない者がGF食を取り入れる傾向がある。これをうけて日本でも同様の情報が拡散しGF食品が増加してきた。本研究では、グルテンを避ける必要がない者がGFを選択した場合、非GFと比較して、摂取する栄養量にどのような差異が生じるかを明らかにすることを目的とした。本研究では、GF食/非GF食として最もポピュラーだと思われるパンを試料とした。 結果、グルテンを避ける必要がない者がGFパンを長期的かつ日常的に選択した場合、非GFパンを選択した場合と比較して、食物繊維や鉄の不足および脂質の過剰といった悪影響が出る可能性があることがわかった。
著者
小倉 昌弘 柴田 瞳 前田 隆平 佐藤 翼
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.261-266, 2020-04-01 (Released:2020-04-01)
参考文献数
16

緒言:子宮頸部小細胞神経内分泌癌(small cell neuroendocrine carcinoma; SCNEC)は比較的稀な腫瘍で悪性度の高い腫瘍として知られている。今回我々は細胞診で術前診断が可能であった子宮頸部原発のSCNECの1例を報告する。症例:患者は20歳代,女性。持続する子宮出血で,擦過細胞診が施行された。細胞診では特定構築のない集塊配列と核の相互圧排像,裸核状で乏しい細胞質と核の細顆粒状の細胞所見からSCNECと診断された。一方で,細胞質が豊富で大型核を有する異型細胞集塊の細胞所見から扁平上皮癌の存在も疑われた。生検による組織診断では小型で単一のN/C比の高い細胞が密に増殖しておりSCNECと診断され,その後広汎子宮全摘出術が行われ,免疫組織化学的検索により扁平上皮癌成分を含むSCNECと最終診断された。本症例は腫瘍径6 cmで傍大動脈リンパ節転移陽性であったが,術後36ヶ月間再発および転移は認められていない。結論:子宮頸部SCNECの細胞診断には特定構築のない細胞配列と核の相互圧排像および細顆粒状核クロマチンの出現が必要である。
著者
米田 彬史 板倉 光 荒井 考磨 海部 健三 吉永 龍起 三宅 陽一 白井 厚太朗 木村 伸吾
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
pp.18-00038, (Released:2019-03-15)
参考文献数
69
被引用文献数
4 11

日本におけるニホンウナギの自然分布域を明らかにするために,文献調査からシラスウナギの来遊記録をまとめ,耳石安定同位体比分析に基づく判別手法から全国の河川・湖沼から収集した個体を天然加入個体と放流個体に判別した。その結果,九州一帯,瀬戸内海沿岸,青森県以南の太平洋沿岸,京都府以南の日本海沿岸は自然分布域の主要部,福井県から青森県までの日本海沿岸は自然分布域の縁辺部と推定された。しかし,主要部であっても天然加入個体の割合が3割程度以下の場合もあり,資源が放流個体に依存している状況がうかがえた。
著者
卯野木 健 林田 敬 河合 佑亮 對東 俊介 安藤 守秀 飯田 有輝 笠井 史人 川崎 達也 神津 玲 近藤 豊 齊藤 正和 櫻本 秀明 佐々木 信幸 佐浦 隆一 中村 謙介 大内 玲 岡本 菜子 岡村 正嗣 栗原 知己 栗山 明 松石 雄二朗 山本 憲督 吉廣 尚大 矢坂 泰介 安部 諒 飯塚 崇仁 井上 拓保 内山 侑紀 遠藤 聡 大倉 和貴 太田 浩平 大塚 貴久 岡田 大輔 小幡 賢吾 片山 雪子 金田 直樹 北山 未央 喜納 俊介 草葉 隆一 桑原 政成 笹沼 直樹 高橋 正浩 髙山 千尋 田代 尚範 立野 淳子 田村 貴彦 田本 光拡 土谷 飛鳥 堤 悠介 長門 直 成田 知大 名和 智裕 野々山 忠芳 花田 匡利 平川 功太郎 牧野 晃子 正木 宏享 松木 良介 松嶋 真哉 松田 航 宮城島 沙織 諸見里 勝 柳 尚弥 山内 康太 山下 遊平 山本 夏啓 劉 啓文 若林 侑起 渡辺 伸一 米倉 寛 中西 信人 高橋 哲也 西田 修 日本集中治療医学会集中治療早期リハビリテーション委員会
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.30, no.Supplement2, pp.S905-S972, 2023 (Released:2023-12-10)

重症患者に対する標準化された質の高いリハビリテーションの提供は,取り組むべき重要課題である。日本集中治療医学会では,2017年に「集中治療における早期リハビリテーション ―根拠に基づくエキスパートコンセンサス―」を発行したが,系統的にエビデンスを評価したものではなく,あくまでも専門家のコンセンサスに基づくものであった。そこで,日本集中治療医学会では,質が高く,かつ,医療従事者が理解しやすく,その意思決定に資することを目的に,システマティックレビューおよびGRADE(grading of recommendations, assessment, development and evaluation)アプローチを用いた診療ガイドラインを作成した。 重症患者に対するリハビリテーションに特化し,かつ,GRADEアプローチを用いた診療ガイドラインとしては,世界初の試みである。本ガイドラインは日本集中治療医学会集中治療早期リハビリテーション委員会を核に,ワーキンググループ,システマティックレビュー班,アカデミックガイドライン推進班から構成された診療ガイドライン作成グループの合計73名からなるメンバーで作成した。リハビリテーションでは多職種連携が非常に重要であることはいうまでもない。本ガイドラインも多職種,かつ多様な専門分野を持つ医師や医療従事者,ICU患者経験者を含む多くのメンバーが作成に寄与した。 本ガイドラインでは,グループメンバーによる議論に基づいて,8領域を注目すべき臨床重要領域とした。その上で,各領域から重要な14の臨床疑問(clinical question, CQ)を作成した。 パブリックコメントの募集を計2回行い,CQに対する回答としては,10のGRADEによる推奨,4つの背景疑問の解説が示された。また,CQごとに情報を視覚的診療フローとして作成し,各CQの位置付けがわかりやすいように配慮した。多職種が関与する重症患者に対するリハビリテーションにおいて,本ガイドラインが活用されることを期待する。
著者
福島原発事故による甲状腺被ばくの真相を明らかにする会 富山大学科学コミュニケーション研究室 本行 忠志 田口 茂 加藤 聡子 山田 耕作 大倉 弘之 林 衛 高橋 博子 藤岡 毅 福島 敦子

今年3月22日時点で、福島県民健康調査で発見された甲状腺がん患者は302名、検査外で見つかっている43名と合わせて福島県で350人近くの小児・若年性甲状腺がんの発生が明らかになっている。通常、年間100万人に1~2人とされている小児甲状腺がんの数10倍の発見率だといえる。これほどの甲状腺がん多発の原因は福島原発事故による甲状腺被ばく以外に考えられないにも関わらず、福島県民健康調査検討委員会および甲状腺検査評価部会は放射線の影響とは考えにくいなどと結論づけている。これら見解を盾に政府及び福島県政は原発事故がもたらした放射線被ばくによる健康被害を認めず、被害拡大を防ぐ措置も取らず、原発事故被害者への補償も放棄している。 小児甲状腺がん発見率の異常な増大は事実として認めているにも関わらず、放射線の影響を否定するための論理として、「過剰診断論」や「超高感度超音波スクリーニングによる効果論」「肥満論」など様々な異説が福島県立医科大学の研究者や検討委員会主流派の「専門家」らによってあたかも強い根拠があるかのように主張された。 放射線被害を否定するこうした見解に対し、委員会外部の専門家たちが厳しい科学的批判を加えたが、それらを一挙に封じるため、日本政府(外務省)は国連科学委員会(UNSCEAR)に多額の資金を提供し報告書作成を画策した。放射線起因説につながる諸文を排除し、それを否定する日本の研究者が自分たちの結論に沿うよう恣意的にデータや文献を提供し、彼らの主導の下、創作されたのがUNSCEAR2020/21 報告書である。それは甲状腺被ばく線量を低く見積もり、甲状腺がん多発が放射線の影響ではないという主張である。同報告は被ばくによる健康影響否定の根拠として、東京電力や国・行政機関、それらを支える専門家の最大の拠り所として用いられている。 日本のマスコミや国民は、国際機関の報告には疑問を持たず権威を感じる傾向がある。原発事故被害者や支援者の中にすら、小児甲状腺がん多発問題を科学論争として正面から闘えないという動揺が一部に存在する。しかし、UNSCEAR 報告書は科学的文献とよぶには極めてお粗末である。そのお粗末さを暴いたのが「明らかにする会」ブックレット第3号である。 今回の出版記念講演では、一見難解と思われるこれらの論争の本質的内容を、専門知識を持たない普通の人たちが理解できるように、執筆者全員が工夫して講演を試みる。
著者
柳田 紀之 飯倉 克人 小倉 聖剛 王 怜人 浅海 智之 佐藤 さくら 海老澤 元宏
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.1341-1347, 2015 (Released:2015-12-29)
参考文献数
13

【目的】アドレナリン自己注射薬を誤射した3症例の臨床経過を検討し,報告する.  【症例1】50代女性がエピペン®0.3mgをトレーナーと間違えて自分の右大腿部に誤射した.収縮期/拡張期血圧は7分後に144/78mmHgと一過性の上昇を認め,14分後には軽快した.7分後に動悸を訴えた以外,自覚症状は注射部位の局所の痛みのみであった.  【症例2】6歳男児がエピペン®を用いて遊び,右第二指に誤射し,貫通した.貫通部位の発赤,腫脹を認めたが,保温のみで誤射80分後には軽減したため,帰宅した.【症例3】4歳女児がエピペン®を用いて遊び,右大腿に誤射した.誤射23分後に収縮期/拡張期血圧は123/70mmHgと一過性の上昇を認めたが軽快し,1時間後,帰宅した.  【考察・結語】アドレナリン自己注射薬の誤射による副反応は一過性であり,3例とも重篤な副反応は認めなかった.アドレナリン自己注射薬の誤射防止のため取り扱いには十分な注意が必要である.
著者
古川 忠延 阿部 修也 安藤 剛寿 岩倉 友哉 志賀 聡子 高橋 哲朗 井形 伸之
雑誌
研究報告 デジタルドキュメント(DD)
巻号頁・発行日
vol.2011, no.3, pp.1-6, 2011-10-01

本研究では,センサーや統計等を通じては獲得できない社会的事象の抽出と活用の可能性調査を目的として,犯罪情報を対象に Twitter 投稿の分析をおこなった.分析を通じ,(1) Twitter 上の犯罪関連投稿には,投稿者自身の犯罪の目撃や被害に関する投稿,公共・公的機関が発表した情報等を引用した投稿,ニュース記事の引用という3種類が存在すること,(2) それらの間で記述されている犯罪種別傾向の違いから,Twitter からのみ抽出できる犯罪情報が存在していること,が分かった.また,犯罪関連投稿を自動抽出する実験結果についても報告する.We analyzed criminal Twitter posts. The purpose is to investigate the possibility of extraction of various social phenomena which can not be acquired by a sensor or statistical prediction. Through the analysis, our findings are: (1) There are three types of criminal tweets: user's experience, announce by public institution, and cited news article. (2) By analyzing the difference between these three types of criminal tweets, there may be criminal information existing only on Twitter. We also show the result of an experiment to extract criminal tweets automatically.
著者
仲西 康顕 面川 庄平 河村 健二 清水 隆昌 倉田 慎平 田中 康仁
出版者
中部日本整形外科災害外科学会
雑誌
中部日本整形外科災害外科学会雑誌 (ISSN:00089443)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.1-9, 2021-01-01 (Released:2021-04-27)
参考文献数
32

肩や上腕部での筋肉注射による局所の運動器の合併症として,腋窩神経や橈骨神経の障害が報告されている.さらに筋肉注射としてワクチンが従来投与されてきた海外では,三角筋下滑液包内への不適切な注入によると考えられるSIRVA(Shoulder Injury Related to Vaccine Administration)が2010年頃より問題となっている.新型コロナワクチンの接種のため筋肉注射の機会が増えるに従い,これらの問題が国内でも増加することが危惧される.不適切な部位への投与を避けるために理解すべき解剖構造と,我々が適切と考える三角筋内への筋肉注射部位について述べる.
著者
長倉 淳子 重永 英年 赤間 亮夫 高橋 正通
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース 第114回 日本林学会大会
巻号頁・発行日
pp.443, 2003 (Released:2003-03-31)

スギとヒノキは日本の主要な造林樹種であり、スギは沢沿い、ヒノキは斜面中腹に植林するのが良い、とされてきた。このことは、スギは水要求度が高く、ヒノキは比較的乾燥に耐えるという樹種特性と、斜面上の水分傾度に基づいていると考えられる。しかし林地の斜面上には、水以外にも環境傾度が存在する。植物の生育に大きく影響を及ぼす窒素条件も斜面位置によって異なることが知られている。そこで本研究では、土壌水分と窒素がスギとヒノキの成長に及ぼす影響を明らかにするため、水分と窒素をそれぞれコントロールして苗木の育成試験を行った。森林総合研究所内苗畑において発芽させたスギ、ヒノキ当年生実生苗を、発芽から約1ヶ月後に赤玉土 (pH(H2O)=5.3)を培地とした1万分の1アールワグネルポットに一本ずつ移植した。約2ヶ月の予備栽培後、ポットを6群に分け、3つの窒素条件と2つの土壌水分条件(湿潤、乾燥)とを組み合わせた6つの処理を約3ヶ月行った(n=10)。窒素条件は培養液の窒素濃度を0.5、2、8mM(0.5N、2N、8N)と変えることによって設定した。窒素源には硝酸アンモニウムを用いた。水分条件は灌水間隔を変えることによって設定した。湿潤条件ではおよそ2日に一回の頻度で灌水し、育成期間中、最も乾燥した日で土壌含水比がθ=0.36(-0.005MPa)程度であった。一方乾燥条件ではθ=0.30(-0.06MPa)程度に乾燥した時点で培養液を灌水した。育成試験は自然光型育成温室で行い、温度25/20℃は、湿度は70/80%とした。育成期間中は経時的に主軸の伸長成長を測定した。処理開始から約7週間後に各処理半数の個体(n=5)について掘り取りを行い、その約5週間後に残りの個体も掘り取った。1回目の掘り取り後の約5週間は、各個体について蒸散量を重量法によって測定した。掘り取った個体は部位別の乾重、根元直径、苗高を測定した。各部位は粉砕して分析試料とした。これらの結果を用いて、個体乾重、R/S比(地下部乾重/地上部乾重)、育成期間後半の水利用効率(蒸散量あたりの乾物生産量)等を算出した。葉と根の窒素含有率をNCアナライザによって測定した。スギの乾物生産は窒素処理濃度の増加に伴って増加したが、水分条件による違いは有意でなかった。しかし、伸長成長は乾燥によって抑制された。一方、ヒノキの乾物生産は処理の影響は有意でなかった。ヒノキは伸長成長についても処理間差は明らかでなかった。スギ・ヒノキ共に乾燥処理によって相対的に根への乾物分配が増え、R/S比が増加した。R/S比は、両樹種とも乾燥処理内では窒素処理濃度が低いほど高かったが、湿潤処理内では窒素条件による違いはみられなかった。スギの水利用効率は、水分条件には影響されなかったが、窒素処理濃度の増加に伴って増加した。ヒノキの水利用効率は水分条件や窒素条件に対する一定の傾向がみられなかった。葉の窒素含有率は、両樹種とも窒素処理濃度の増加に伴って増加し、水分条件の影響は受けなかった。根の窒素含有率は両樹種とも窒素処理濃度の増加に伴って増加し、湿潤処理でやや高い傾向がみられた。スギは乾燥によって伸長成長が低下し、窒素処理濃度の減少によって乾物生産、水利用効率も減少した。一方、ヒノキは水分条件や窒素条件による伸長成長、乾物生産への影響は小さかった。これらのことから、スギはヒノキに比べ、窒素、水分条件に対する感受性が高いと考えられる。斜面下部に比べ、窒素や水分の少ない斜面上部における成長低下はヒノキよりもスギで大きいことが示唆された。