著者
大倉 得史
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.33-44, 2018 (Released:2019-03-11)
参考文献数
24

近年,我が国では保育の量的拡大を目指して幼児教育・保育分野の市場化を促すような施策が相次いでおり,いくつかの自治体では公立保育所を民営化する動きが加速している。こうした中,より低コストで保育を行う事業者に保育所の運営が委託されるケースが増えつつある。こうした事業者の変更は,保育の質,あるいは慣れ親しんだ保育者から引き離される子どもたちに,どのような影響をもたらすのだろうか。本研究では,株式会社に運営を委託されたある院内保育所の事例を取り上げ,そこで生じた保育の質の低下が子どもたちの情緒的安定を脅かすまでに至った経緯を明らかにする。その上で,保育の質を保つためには,委託契約期間の延長,最低委託額の取り決め,新旧事業者の義務などの明確化,保育士の給与の改善などが必要であるという結論を導いた。
著者
熊倉 伸宏
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.61-67, 1997-09-08 (Released:2017-04-27)
参考文献数
11

ホスピスや在宅ケアにおいて患者は、単に延命に始終する治療を拒否し、いかに死ぬかを自分の意志で選ぶことができるようになってきた。この目的のために「死ぬ権利」が、患者の自己決定権を根拠として導入された。しかし自己決定権の原型は、Mill JSが「自分自身、その身体とこころに対しては個人に主権がある」とした点にある。ここに新たな問題が生じてきた。もし「死ぬ権利」が「死の選択権」を意味するのならば、耐えがたい心理的苦痛から逃れたい者が、論理的に「自殺する権利」を主張できる可能性が生じたからである。そのような考えから「自殺する権利」が主張され、致命的薬物を使用し、あるいは「自殺マシーン」を用いて自殺幇助する医師が登場した。この論文では、「死ぬ権利」を持続的植物状態、末期状態、自殺の3つの臨床類型に分けて比較検討し、その構成概念と正当化論理の異同を論じ、「死ぬ権利」の現在的な定式化を試みた。結論的には、1)医療行為として主張される「自殺する権利」と個人への医療の不可侵性としての「死ぬ自由」を区別する必要性を示し、2)「死ぬ権利」を「死の選択権」としてではなくて、「死が切迫した状況下において疾病過程によって患者の主体消滅が不可避な場合に、死に方を選択する権利」と定式化して論じた。この定式化によって、安楽死と自殺幇助の間に想定すべき明確な差異について論じた。
著者
大場 健裕 小野 良輔 榊 善成 加藤 拓也 太田 萌香 藤岡 祥平 佐々木 和広 倉 秀治
出版者
一般社団法人 日本スポーツ理学療法学会
雑誌
スポーツ理学療法学 (ISSN:27584356)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.13-20, 2023-03-23 (Released:2023-03-23)
参考文献数
34

【目的】人工靭帯による内側膝蓋大腿靭帯再建術(以下MPFLR)および脛骨粗面移行術(TTO)を併用した症例(以下MPFLR+TTO)における膝伸展筋力の特徴を明らかにすること。【方法】MPFLR群15名,MPFLR+TTO群11名を対象に,最終フォローアップ時(MPFL群22.8±15.6ヶ月;MPFL+TTO群22.8±9.6ヶ月)の等尺性膝伸展筋力を,膝関節90度及び30度で測定し,健患差および健患比を検証した。【結果】MPFLR群では,術側と非術側の間に等尺性膝伸展筋力の有意差はみられなかった。MPFLR+TTO群では,術側が非術側と比較して,有意に低い等尺性膝伸展筋力を示した。健患比は,MPFLR+TTO群がMPFLR群と比較して有意に低値を示した。【結論】人工靭帯によるMPFLRは,良好な膝伸展筋力の回復が得られる。一方で,TTOを併用した場合,膝伸展筋力の健患差が残存し,単独MPFLRと比較して術後の筋力回復が得られにくいことが示唆された。
著者
池本 大輝 唄 大輔 森川 雄生 岡村 将輝 黒田 琴葉 藤沢 直輝 倉田 翔太 中山 直樹 寺田 奈穂 徳田 光紀
出版者
公益社団法人 奈良県理学療法士協会
雑誌
奈良理学療法学 (ISSN:18835546)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.2-10, 2023-03-01 (Released:2023-03-01)
参考文献数
34

目的:大腿骨近位部骨折患者において超音波画像診断装置を用いて大腿四頭筋各筋の筋厚および筋輝度の経時的変化を明らかにすること。方法:大腿骨近位部骨折患者47名を対象に,術後1,2,3,4週目と退院時に超音波画像診断装置を用いて大腿四頭筋各筋の筋厚および筋輝度を測定した。結果:大腿四頭筋各筋の筋厚は,健側と患側ともに有意な経時的変化を認めなかった。筋輝度は,健側では大腿直筋の3週目,外側広筋の4週目と退院時,患側では大腿直筋と外側広筋の退院時で1週目よりも有意に低値を示した。 結論:大腿骨近位部骨折患者の筋厚は,すべての大腿四頭筋で入院期間中に変化しなかったが,筋輝度は健側と患側ともに大腿直筋と外側広筋において術後早期から退院時にかけて改善することが明らかとなった。
著者
倉田 稔
出版者
小樽商科大学
雑誌
商学討究 (ISSN:04748638)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.1-15, 1996-07-31

論説
著者
長谷川 歩未 持田 慶司 廣瀬 美智子 越後貫 成美 井上 貴美子 小倉 淳郎
出版者
公益社団法人 日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第111回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.P-74, 2018 (Released:2018-09-21)

【目的】胚移植の受容雌として偽妊娠雌マウスは生殖工学作業に必須であるが,従来法では発情前期の雌を選抜して雄と同居させるため,その作出効率は雌の性周期や雌を選抜する作業者の習熟度に依存する。そこで我々はプロゲステロン投与による性周期同期化により,ICR系統の偽妊娠および妊娠雌の計画的な作出に成功し,保有マウス数の大幅な削減が可能であることを報告した(WCRB(2017),JRD(2017))。今回はF1系統の偽妊娠雌の作出における本法の効果を検討した。【方法】B6D2F1およびB6C3F1系統の雌(11~14週齢),ICR系統の精管結紮雄(3~12ヶ月齢)を用いた。性周期の同期化はプロゲステロン(2 mg/匹)をday1およびday2に皮下投与して行った。その後,雌と精管結紮雄をday4の夕方より連続的に同居させ,膣栓の有無を毎朝,確認して交配率を調べた。更に妊娠への影響を観察するために,得られた偽妊娠雌にC57BL/6Jの凍結融解2細胞期胚を移植して妊娠率,産子率等を従来法と比較した。【結果および考察】既報のICR系統と同様に,F1系統でもプロゲステロン投与後に雄と連続同居することで膣栓の観察日が集中したことから,F1系統の偽妊娠雌を計画的に作出可能であった。また胚移植後の妊娠率,着床率,産子率は従来法と同等であり,産子重量は用いた偽妊娠雌の系統で違いが見られた(ICR系統 > F1系統)が,プロゲステロン投与の有無で変化はなかったことから,投与による悪影響は見られなかった。以上から,性周期同期化後の交配によるF1系統の偽妊娠マウスの作出は,選抜作業を行わなくとも誰でも効率的かつ計画的に行えると考えられた。【まとめ】プロゲステロン投与によるマウスの性周期の同期化処置は,近交系,クローズドコロニー,交雑系統など幅広い系統で,過剰排卵誘起(第108回大会,BOR(2016))に加えて偽妊娠雌および妊娠雌の計画的な作出にも効果的であることが確認された。
著者
田中 耕史 井上 耕一 豊島 優子 岡 崇史 田中 宣暁 外海 洋平 野里 陽一 岩倉 克臣 藤井 謙司
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.46, no.SUPPL.3, pp.S3_48-S3_53, 2014 (Released:2015-10-26)
参考文献数
1

症例は51歳男性. 頻拍の加療のため近医より紹介となった. 洞調律時, V1誘導はrsR’ パターンで+/-のデルタ波を伴っていた. 発作時心電図は230bpmのregular wide QRS tachycardiaであった.  心臓電気生理学的検査では頻拍中の心房最早期興奮部位は冠静脈洞入口部近傍であり, His不応期での心室期外刺激で頻拍はリセットされた. 房室結節を順行性に, 後中隔副伝導路を逆行性に伝導する正方向性房室回帰性頻拍と診断した.  冠静脈入口部近傍で頻拍中に高周波通電を行ったところ頻拍は速やかに停止した. その後, 逆伝導は房室結節を介するもののみとなり, デルタ波も消失した. 一方, 右脚ブロックが顕在化し, QRS幅は術前140msから術後160msに拡大した. 術前は, 右側後中隔副伝導路を介して右室が早期に興奮していたため元来の右脚ブロックがマスクされ, QRS幅も相対的に狭くなっていたと考えられた.
著者
島倉 大輔 田中 健次
出版者
一般社団法人日本品質管理学会
雑誌
品質 (ISSN:03868230)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.104-112, 2003-07-15
被引用文献数
4

医療業界では,組織事故と考えられる医療事故が多く発生している。組織事故を防止するために,医療現場では医師や看護士など人間による防護の多重化が行われている。しかし,事故原因を取り除くために実施された防護が,新たな事故を誘発したり,防護作業を行う作業者が多重化に安心して抜きを行う恐れがあり,多重化はかえって事故を招く危険性がある。本研究では,医療現場など人間による防護の多重化の有効性に着目する。人間による防護の多重化は,複数の人間が同質の防護作業を行う同種防護の多重化と,複数の人間が異なる作業を行う異種防護の多重化に分類される。本研究では,同種防護と異種防護の多重化に相当する模擬実験により,人間による防護の多重化の有効性の検証を試みた。結果として、同種防護を多重化する場合,防護の二層への絞込みがもっとも事故防止に有効であること,通常事故防止に有効であると考えられている三層以上の多重化は逆効果であり,むしろミスの発生率が下がる可能性があることが明らかとなった。一方,異種防護を多重化する場合は,防護を多重化するほど,事故防止に有効であることも明らかになった。
著者
上倉 安代 大川 一郎 井手 正和 和田 真
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.91, no.4, pp.257-266, 2020 (Released:2020-10-25)
参考文献数
36
被引用文献数
2 1

In cognitive science, self-disturbance in schizophrenia is regarded as an unusual sense of body ownership. This study examined the possibility of discriminating self-disturbance between patients with schizophrenia and healthy individuals using the rubber hand illusion (RHI). We evaluated RHI in inpatients with schizophrenia with mainly negative symptoms (n = 26) and normal control subjects (n = 10). The group with schizophrenia had a significantly higher score than the control group on only the following item: “It seemed as if I might have an extra left hand,” suggesting that patients with schizophrenia have strong self-disturbance. This indicates that it is difficult for them to have an appropriate sense of body ownership and normal reality testing. The RHI evaluation might be useful as an assessment tool for schizophrenia since it is easy to use for evaluating self-disturbance, even when not recognized by patients with schizophrenia themselves. This study supports the usefulness of the RHI evaluation as a tool for assessing self-disturbance in patients with schizophrenia.
著者
岩倉 由貴 イワクラ ユキ Yuki Iwakura
雑誌
札幌大学総合論叢
巻号頁・発行日
vol.32, pp.65-87, 2011-10
著者
豊倉 穣
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.320-328, 2008-09-30 (Released:2009-10-27)
参考文献数
16
被引用文献数
7 6

注意障害に関する臨床的事項を概説した。軽微な注意障害はADL に影響せず,臨床上見逃されることが少なくない。日頃から注意障害を疑う姿勢が重要である。日本高次脳機能障害学会は日本人で標準化された標準注意力検査を開発した。Trail Making Test もよく用いられる課題である。非利き手での成績が利き手での動作と同等に扱えること,施行時間は動作プロセスより認知プロセスに大きく依存すること,などの報告がある。日常生活の問題に還元しやすいとの利点から,注意障害の行動評価も検討されている。一例として著者の考案したBAAD(Behavioral Assessment of Attentional Disturbance)を紹介した。認知リハビリテーションとして多くのプログラムが紹介されている。APT(Attention Process Training)およびより軽症例を対象とするAPT IIは特異的に注意障害を改善する訓練プログラムとして開発されたものである。
著者
田中 ゆかり 上倉 牧子 秋山 智美 須藤 央
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.5-17, 2007-09-30
被引用文献数
1

日本でもっとも多言語化が進行している東京圏のデパート37店舗を対象に,言語景観調査を2005年に実施した.ランドスケープの観点から店内案内のパンフレットと店内の全館案内掲示,サウンドスケープの観点から閉店時の店内放送の多言語化の実態について報告する.その上で,東京圏のデパートにおける多言語化の進行過程と,デパートという商業形態における言語の経済価値について述べる.実態調査結果からは次の点が明らかとなった.(1)「23区内多言語使用」対「東京近郊単言語使用」という地域差が観察された(2)23区内には次のような地域特徴が観察された.「新宿地域の東アジア系言語重視」「銀座・有楽町・日本橋・東京の西欧言語の取り入れ」(3)東京近郊における「大宮・立川・吉祥寺の多言語化の萌芽」(4)旗艦店に多言語化が著しい(5)パンフレットの多言語化がもっとも進んでいる.ついで店内放送が多言語化している.店内掲示はほとんど多言語化していなかった.(6)多言語化の進行過程として次のパターンが指摘できる.「日本語単言語⇒日本語・英語(2言語)⇒日本語・英語・中国語・韓国/朝鮮語(4言語)⇒日本語・英語・中国語・韓国/朝鮮語+α(5言語以上)」上記結果の背景としては,東京23区における日本語以外の言語を使用する居住者ならびに観光などによる一時滞在者数の多さと,東アジア系ニューカマーの新宿地区における増加が指摘できる.顧客が使用する言語に対応した実質言語としての英語・中国語・韓国/朝鮮語の採用と,デパートのイメージ戦略に対応したアクセサリー的言語(イメージ言語)としての西欧言語(フランス語・イタリア語)の取り入れの両側面が指摘できる.

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著者
岡倉 由三郎
出版者
ビクター
巻号頁・発行日
1930-06
著者
横山 海青 髙倉 礼 志築 文太郎 川口 一画
出版者
ヒューマンインタフェース学会
雑誌
ヒューマンインタフェース学会論文誌 (ISSN:13447262)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.383-396, 2021-11-25 (Released:2021-11-25)
参考文献数
21

A Japanese software keyboard for game consoles has a problem with the entry speed and widget size. In this article, we show JoyFlick that is a text entry method for an improved Japanese software keyboard. We evaluated the text entry speed and accuracy of JoyFlick. Also, we conducted an analysis of the user’s operations to study the tendency of the operations and verify the design of JoyFlick. The results showed the following tendencies: the user tends to tilt the stick to select the keys on the outer edge;the user tends to restore the stick to the neutral position between selections; the user tends to restore both sticks to the neutral position at the same time (M = 15.5 × 10−2s) at the entry of a character. Also, the results showed that the design of JoyFlick, which restricts the order of consonant and vowel selection prevents a part of mistaken entries. Moreover, we show the outlook of the application and the necessity of study in actual and several environments.