著者
聶 翔 古屋敷 智之
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.13-17, 2021 (Released:2021-03-25)
参考文献数
26

過酷な環境によるストレスは抑うつや不安など情動変容を誘導し,うつ病など精神疾患のリスクを高める。マウスの慢性ストレスは自然免疫受容体TLR2/4を介して内側前頭前皮質のミクログリアで炎症性サイトカインを誘導し,うつ様行動を促す。また神経細胞由来の2AGがミクログリアに発現するプロスタグランジン(PG)合成酵素COX1を介して代謝され,皮質下領域でのPGE2産生を増強し,EP1受容体を介してうつ様行動を誘導する。このPGE2産生はTLR2/4依存的である。慢性ストレスによる不安様行動にもTLR2/4やPGE2‐EP1経路が必須であるが,脳内のPGE2産生は関与しない。慢性ストレスが白血球の動員を介して情動変容を促すことが示唆されており,末梢でのPGE2産生の関与が推測される。これらの結果は,TLR2/4が慢性ストレスによる脳内外の多様な炎症反応を統御してうつ・不安様行動を促すことを示唆する。
著者
横山 拓真 橋本 千絵 古市 剛史
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第36回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.22, 2020 (Released:2021-04-23)

ボノボは類人猿の中で唯一、メス中心社会を築いている。メスの社会的順位はオスと同等またはそれ以上であり、社会的交渉や性的交渉、遊動の主導権はメスが握ると言われ、このようなメスの特徴が平和的な社会を維持するのに重要だとされている。またボノボは、交尾を繁殖目的だけではなく、食物分配のために行うなど、社会的機能を含むことがあり、メス同士では「ホカホカ」と呼ばれる特徴的な社会的・性的交渉が観察される。さらに、ボノボのメスには「ニセ発情」と呼ばれる、排卵を伴わずに性皮を腫脹させる特徴的な生理状態がある。チンパンジーと比較すると、ボノボは社会構造、社会的・性的交渉、メスの生理状態において大きく異なる特徴を持つ。 これまでの遺伝的研究では、ボノボの子どもの50%以上はアルファオスの子どもであるため、高順位オスは効率的に交尾を独占しているだろうと言われていた。一方で、行動観察からは、ボノボは常に複数のメスが同時に性皮を腫脹させているため、高順位オスは交尾を独占できないだろうとも言われていた。また、「ホカホカ」は社会的緊張の緩和や順位誇示など、複合的な機能があると考えられてきた。しかし、ボノボの社会的・性的交渉をメスの生理状態と行動学の見地から分析した研究は少ない。 本研究では、コンゴ民共和国ルオー学術保護区にて、ボノボの交尾と「ホカホカ」における相手選択の傾向と、メスの生理状態との関連を分析した。その結果、高順位オスは相手のメスの生理状態に関わらず、独占的に交尾をしている傾向が見られた。また、「ホカホカ」では、高順位メスが誘いかけることが多く、他の調査地で見られるような、マウントポジションを取ることによる順位誇示は行われていないことが明らかになった。
著者
古川 洋和 大沼 泰枝
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.155-163, 2013-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は、長野県において、うつ病に対する認知行動療法(CBT)についての研修プログラムを実施し、その効果を検討することであった。21名(平均年齢35.57歳)の実践家が研修プログラムに参加した。プログラムでは、6回(計18時間)のワークショップと個別のスーパービジョンが行われた。研修プログラムの効果については、認知療法認識尺度(CTAS)を用いて、プログラム実施前(Pre)、プログラム終了直後(Post)、プログラム終了4ヵ月後(Follow-up)の3時点でCBTの知識についての評定を求めた。また、PreとPost時点において、CBTの実践可能性(0〜100)についての評定を求めた。本研究の結果、CTAS合計得点はPreの値と比較してPostの値が有意に高く、その効果はFollow-up時点においても維持されていた。さらに、CBTの実践可能性についてもPreの値と比較してPostの値が有意に高いことが示された。最後に、本研究の結果をもとに、地域単位で実施するうつ病に対する実証に基づく心理療法の普及と推進について議論した。
著者
古荘 匡義
出版者
宗教哲学会
雑誌
宗教哲学研究 (ISSN:02897105)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.48-60, 2021-03-31 (Released:2021-11-02)

To place Tsunashima Ryosen’s thought in the context of the philosophy of religion in Japan, the study clarifies the development of his philosophy of religion with the deepening of his religious experience. Until 1903, his philosophy of religion intendedto elucidate the reasons behind the objective reality and authority of religious symbols created by subjectivity. However, as he began to feel the existential God in 1903, he considered such thought unnecessary. Instead, he aimed to verbalize the human conditions of the Son of God by means of Christian and Pure Land Buddhist ideas. Furthermore, he began to practice Christian and Pure Land Buddhist prayer. In this manner, he developed his philosophy of religion as a post-religious philosophy that utilized the philosophy of religion and religious traditions. To the best of my knowledge, such thought is worthy of being placed at the origin of the philosophy of religion in Japan.
著者
古川 のり子
出版者
リトン
雑誌
死生学年報
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.129-147, 2009

In the rituals of weddings and funerals, the central figure (the bride or the deceased) wears special headgear. In the case of a bride, it is the traditional Japanese tsunokakushi (literally, "horn concealer"), and wataboshi (cotton hood), and in the case of the deceased, the kamieboshi (paper hat), which in ancient times was often a mino-kasa (straw raincoat with hat). Figures wearing such gear include the princess in the story Hachikazuki (The Princess Who Wore a Bowl) in Otogizoshi, the girl wearing a skin in the folktale Ubakawa (Old Woman's Skin), the boy covered with a snail shell in Tanishi Musuko (The Mud-snail Son), and references to fukurogo (babies born with cauls) in indigenous folklore, and the girl wandering around with a bag in the folktale Komebuku Awabuku; and this sort of figure can also be seen in Okuninushi no Kami (The God, Great-Land-Master), who carries a bag on his back in an ancient myth. They are all going through rites of passage that represent rebirth, undergoing a transformation hin the object that covers them and waiting to be born. The bag, bowl, skin, snail shell, mino-kasa, tsunokakushi, wataboshi, kamieboshi, and the like, are "cauls" destined eventually to be cast off. The person who discards them, after the arduous journey of death in the mother's womb, is then born into this world as a baby, or as a mature adult, or as a wife in her husband's family, or is born into a new world as a god of the hereafter. The dead who become gods of that world will one day be born into this world, again wearing a caul.
著者
衣笠 真理恵 古山 千佳子
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.232-238, 2021-04-15 (Released:2021-04-15)
参考文献数
15

心不全,脳梗塞後遺症などを呈したA氏に,『音楽を楽しむ』作業の可能化を目指して介入した.可能化の背景にあった基盤やOTが用いた技能を,クライエント中心の可能化のカナダモデル(以下,CMCE)で考察した.A氏にとって『音楽を楽しむ』ことは,時間を超えた人とのつながりを感じ,生活の習慣を作り,痛みを忘れさせ,アイデンティティを保ち,生きている実感を与えていた.可能化の背景には,特に【クライエントの参加】,【可能性の見通し】が影響していた.それらを強化し促進するため,《適応》,《調整》,《コーチ》などの技能を用いたことで可能化に至った.CMCEを意識して関わることで,より作業療法の専門性を活かした介入につながる.
著者
古川 真由 有村 達之
出版者
九州ルーテル学院大学人文学部心理臨床学科
雑誌
心理・教育・福祉研究 : 紀要論文集 = Japanese journal of psychology, education and culture
巻号頁・発行日
no.20, pp.85-94, 2021-03-31

児童虐待が成人後の痛み体験と関連することが近年報告されている。本研究では大学生を対象に児童虐待の一側面であるネグレクトの体験と痛み体験との関連性について調査を行った。方法:80名の大学生が年齢,性別,痛みの罹病期間,子供時代のネグレクト体験,痛み強度,痛みの感覚的側面,感情的側面,痛みによる生活障害,抑うつ,不安,痛みの破局化についての質問紙調査に参加した。結果:ネグレクト体験は痛み強度,痛みの感覚的側面,感情的側面と有意に相関していた。これらの関連は人口統計学的変数および痛みの破局化をコントロールした後も有意であった。しかし,ネグレクト体験と痛みの生活障害との関連は,人口統計学的変数と痛み強度,痛みの破局化をコントロールした後では有意でなくなった。ネグレクト体験は抑うつおよび不安とは関連していなかった。結論:これらの知見は( 1 )子供時代のネグレクト体験が大学生の痛み体験に影響する可能性,( 2 )ネグレクト体験と痛みによる生活障害の間の関連性を痛み強度が媒介する可能性を示唆している。
著者
古後 晴基
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.521-524, 2011 (Released:2011-09-22)
参考文献数
9
被引用文献数
2

〔目的〕立位での股関節屈曲運動における寛骨後傾運動を検討すること,および左右寛骨の運動に相違があるかを検討することを目的とした.〔対象〕健常成人男性15名(平均年齢21.8±1.8歳)とした.〔方法〕矢状面にて,上前腸骨棘と上後腸骨棘とを結ぶ線が,水平線となす角度を寛骨後傾角度とし,被験者は,立位にて右股関節の自動屈曲運動を行い,股関節屈曲0°,45°,90°,最大屈曲位のときの寛骨後傾角度をゴニオメーターにて左右で測定した.〔結果〕股関節屈曲に伴い寛骨が有意に後傾した.右寛骨後傾に対する左寛骨後傾の割合は,1/2であった.また,股関節の屈曲運動に対する寛骨の後傾運動の割合は,股関節屈曲45°では1/7,股関節屈曲90°では1/6,股関節最大屈曲では1/4であり,股関節の屈曲角度が増すにつれて,骨盤後傾運動の割合が増加した.〔結語〕股関節屈曲運動において,寛骨後傾運動が行われていることが示唆され,左右の仙腸関節の運動が関与していることが推察された.寛骨大腿リズムは股関節屈曲角度が増すにつれて寛骨後傾運動の割合が増加することが示唆された.
著者
古徳 純一
出版者
公益社団法人 日本医学物理学会
雑誌
医学物理 (ISSN:13455354)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.55-60, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
3

This manuscript is a supplement to the machine learning course at JSMP Medical Physics Summer School held in 2019. The idea of Kulbuck-Leibler divergence, a key concept in machine learning, is introduced with mutual information.
著者
古川 裕生志
巻号頁・発行日
2008-03-21

授与大学:弘前大学; 学位種類:修士(教育学); 授与年月日:平成20年3月21日; 学位記番号:修第418号
著者
古賀 俊充 田中 義輝 伊奈 研次 南部 隆行 玉城 裕史 不破 大祐 小島 木綿子 佐々木 陽子 柏原 輝子 榊原 千穂 高橋 彩子 太田 圭洋
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.55, no.9, pp.525-531, 2022 (Released:2022-09-28)
参考文献数
26

レムデシビルはCOVID-19 治療薬として本邦で最初に承認された抗ウイルス薬である.一般集団におけるレムデシビルの有用性については多くの報告があるが,透析患者に対するレムデシビルの安全性に関する情報は限られている.本研究では2022 年4 月までにCOVID-19 に罹患した透析患者58 例を対象にレムデシビルによる有害事象を後方視的に評価した.レムデシビル投与群43 例と非投与群15 例で有害事象の頻度に有意差を認めず,またレムデシビル3 日間投与群と非3 日間投与群においても有害事象の発生率と有効性に差はなかった.レムデシビル投与後,肝機能障害が3 例発現したが,1 例はグリチルリチン製剤を投与するのみで改善し,ほか2 例は自然に軽快した.以上よりCOVID-19 の治療として,レムデシビルの投与は,肝機能障害に注意すれば,血液透析患者に対しても安全で有用な治療法と考えられる.
著者
古市 憲寿
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.53-62, 2012 (Released:2018-10-01)

本論文は、ノルウェーにおける戦後育児政策を検討するものである。1960年代までノルウェーは「主婦の国」 と呼ばれており、労働力不足であったはずの戦後復興期にも女性が労働力として注目されることはなかった。しかし1970年代以降、パブリック・セクターの拡大に伴い、母親を含めた女性の労働市場への進出が本格化、「主婦」というカテゴリーは失効していく。そこで前景化したのが 「子ども」である。近年は現金による育児手当など、「主婦」ではなく「子ども」の価値を強調することによって、男女の性差を前提とした政策が実施されている。それは、国家フェミニズム成立時の「母親」と「国家」の同盟が、ノルウェーにおいては男女の差異を前提として成立したためだと考えられる。
著者
久保 倫子 駒木 伸比古 田中 健作
出版者
日本都市地理学会
雑誌
都市地理学 (ISSN:18809499)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.76-90, 2020-03-15 (Released:2021-08-15)
参考文献数
80
被引用文献数
1

本研究は,高齢化と居住環境の悪化が進展する郊外住宅地の居住実態について,高齢者の身体・住宅,居住地域,さらに広域のスケールに着目し,高齢者の生活実態や生活上認識する不安,居住環境を総合的に分析することにより,高齢期に住み続けられる居住環境の実現に向けた課題を明らかにすることを目標とした.その一過程として,岐阜市郊外のK地区をとりあげた.特に本研究では,食生活,住宅の維持管理,居住地域の物質的・社会的環境, 広域的な活動および交通手段の考察に重点を置いた.その結果,事例地区の高齢者の多くは地域への愛着と自立した生活継続への希望を有しているが,身体,住宅,居住地域,より広域なスケールで不安や困難に直面しており,それらの克服に向けた調整を通じて住み続けられる条件を蓄えていることが明らかとなった.高齢化と都市縮退に対応した都市インフラ整備,サービス環境の充実,さらに高齢者の変化と多様性を踏まえた,総合的な議論が求められる.