著者
井上 創造 堀 優子
出版者
九州大学附属図書館研究開発室
雑誌
九州大学附属図書館研究開発室年報 (ISSN:18813542)
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.22-29, 2006
被引用文献数
1

SNS(Social Networking Service)は、利用者間の社会的なつながりを重視したコミュニケーションシステムである。SNSは、図書館のような利用者を相手とするサービスにとって非常に有用である。ところが最近のSNSにおいては、迷惑なメッセージが徐々に増えていることが問題になりつつある。これは、利用者の登録時の認証を、既存利用者からの招待と、有効なメールアドレスを登録するというたった2点にのみ頼っている事が原因であると考えられる。本論文では、SNSを形式的にモデル化し、利用者間の情報アクセスのための基準を表す信頼という概念を導入する。さらにその記述を用いて、「所属による信頼」、「匿名での発言」という新たな信頼の概念を導入する。また特に前者について、所属を確実に認証するための方式を4章で述べ、その実装を示す。
著者
守田 康太郎 村越 望 西堀 栄三郎
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.823-829, 1961-01

雪原からの蒸発量の測定は一般には甚だむつかしい.降雪や飛雪の影響,および蒸発計の影響が大きいからである.西堀は,昭和基地第一次越冬中に,これらの影響から免れて雪面蒸発量を測定する方法を考案し,村越が実際の観測を行った.その方法は,積雪から雪のブロックを正立方形にきりとって空中に吊し,その重量変化を測定するというのである.特殊の条件下においては,その重量変化から,ただちに単位表面からの蒸発量を算出することができる.その条件は,(a)雪ブロックから融雪水の滴下が起らぬこと,(b)雪ブロックに降雪や飛雪が附着しないこと,(c)ブロックの外形が相似を保ったまま変化すること,(d)ブロックの密度変化が無視し得ること等である.昭和基地においてはこれらの条件はほぼ満されており,得られた結果はソビエト隊による推測値と比較しても,大体妥当な値と考えられる.気象要素との関係について,飽差と風の函数としてあらわされることが分った.
著者
藤野 善久 堀江 正知 寶珠山 務 筒井 隆夫 田中 弥生
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.87-97, 2006-07-20
被引用文献数
8 34 19

労働環境をとりまく厳しい状況のなか,労働者のストレスやうつ・抑うつなどメンタルヘルス不全が増加していると指摘されている.これに伴い,精神障害等の労災補償に関する請求件数,認定件数ともに著しい増加傾向にある.労働時間,対人関係,職場における支援,報酬などは労働者のメンタルヘルスに影響を与える要因と考えられている.平成16年には厚生労働省が「過重労働・メンタルヘルス対策の在り方に係る検討会」報告書を発表し,長時間の時間外労働を行ったことを一つの基準として対象者を選定し,メンタルヘルス面でのチェックを行う仕組みをつくることを推奨した.しかしながら,上で示されたメンタルヘルス対策としての長時間労働の基準は,企業・産業保健現場での実践性を考慮したものであり,労働時間と精神的負担との関連についての科学的な確証は十分に得られていない.一方で,労働時間が様々な労働環境要因,職業ストレス要因と関連して労働者の精神的負担やメンタルヘルスに影響を与えることは,過去の研究からも合理的に解釈できる.そこで本調査では,労働時間とうつ・抑うつなどの精神的負担との関連を検討した文献の体系的レビューを行い,労働時間と精神的負担の関連についての疫学的エビデンスを整理することを目的とした.PubMedを用いて131編の論文について検討を実施した.労働時間と精神的負担に関して検討した原著論文が131編のうち17編確認された(縦断研究10編,断面研究7編).それらのレビューの結果,精神的負担の指標との関連を報告した文献が7編であった.また,労働時間の評価に様々な定義が用いられており,研究間の比較を困難にしていた.今回のレビューの結果,労働時間とうつ・抑うつなどの精神的負担との関連について,一致した結果は認められなかった.
著者
北上 始 館野 義男 五條堀 孝
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告データベースシステム(DBS)
巻号頁・発行日
vol.1994, no.44, pp.17-26, 1994-05-27

三大国際DNAデータバンク(日、米、欧)で利用されている生物分類樹データベースは、全て、コンピュータを用いた生物学の研究に有用な電子化辞書である。しかしながら、それらの生物分類樹データベースは、無矛盾に統合化されていない。もし、それらが統合化されれば、統合化された電子化辞書を用いて、生物研究結果の間の比較や既存の研究結果から将来の研究方向の選択などに利用することができる。また、形態学上のデータから計算された生物分類樹と分子データから推論された分子進化系統樹との間を比較するのにも有効である。ここでは、生物分類樹データベースの無矛盾な統合化のために、既存の生物分類樹データベースを無矛盾にする方法について述べられている。データベースの矛盾は、生物学が、近年、急速に発展していることにより生じている。即ち、この急速な発達により、生物分類樹の再構成が頻繁に行われてるが、現存のデータベースにはそれが十分に行われていないのである。この矛盾解消のために、近傍検索によるエラー診断、統合性制約による矛盾ノード抽出、エラー修正ツールなどについて述べられている。また、分散環境における矛盾抽出方法についても述べられている。以上は、全て、関係データベース管理システムを用いて実現されている。All the taxonomy databases constructed with the DNA databases of the international DNA data banks are powerful electronic dictionaries which aid in biological research by computer. The taxonomy databases are, however not consistently unified with a relational format, If we can achieve consistent unification of the taxonomy databases, it will be useful in comparing many research results, and investigating future research directions from existent research results. In particular, it will be useful in comparing relationships between phylogenetic trees inferred from molecular data and those constructed from morphological data. The goal of the present study is to unify the existent taxonomy databases and eliminate inconsistencies (errors) that are present in them. Inconsistencies occur particularly in the restructuring of the existent taxonomy databases, since classification rules for constructing the taxonomy have rapidly changed with biological advancements. A repair system is needed to remove in consistencies in each data bank and mismatches among data banks. This paper describes a new methodology for removing both inconsistencies and mismatches from the databases on a distributed computer environment. The methodology is implemented in a relational database management system, SYBASE.
著者
深谷 哲也 坂本 秀樹 村岡 明高 高見 澤一裕 堀津 浩章
出版者
社団法人日本農芸化学会
雑誌
日本農藝化學會誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.233-239, 1994-02-01
被引用文献数
2 2

Worcestershire sauce production might include a fermentation step. The raw materials have high osmotic pressure, so we set out to select an osmotolerant yeast strain suitable for Worcestershire sauce production. Three commonly used yeasts were evaluated : Soccharomyces cerevisiae OC-2, a wine yeast;Kluyveromyces fragilis IFO 0288, widely used for fermentation of kefir grains ; and Zygosaccharomyces rouxii IFO 0493, a soy sauce yeast. In the range of total sugar Concentrations of 28.1-47.8% (the mixture contained sucrose, glucose, and fructose) cell numbers and ethanol production decreased as the sugar concentration rose, especially with K.fragilis. The relationship between the total sugar concentration and ethanol production by each yeast was expressed as follows : S.cerevisiae OC-2 (n=8, r=0.999) P=-1.54×10^-4×S^3+1.72×10^-2×S^2-0.649×S+8.91 K.fragilis IFO 0288 (n=8, r=0.995) P=(-3.57×10^-2×S)+1.74 Z.rouxii IFO 0493 (n=8, r=0.987) P=-1.15×10^-3×S^2+9.38×10^-2×S-1.36 Where P is the ethanol production and S is the total sugar concentration. Under the usual conditions for Worcestershire sauce production, with 39% total sugars, S.cerevisiae OC-2 had the greatest osmotolerance of the three yeasts, with higher ethanol productivity and satisfactory production of aromatic components than the other yeasts. We selected S.cerevisiae OC-2 for trial in the proposed new step in Worcestersbire sauce production.
著者
小濱 純 斉藤 貢一 坂本 裕則 岩崎 雄介 伊藤 里恵 堀江 正一 中澤 裕之
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.1019-1024, 2007 (Released:2008-01-29)
参考文献数
21
被引用文献数
3 5

食品添加物として使用されているL-プロリンをキラル分離・定量するために,オルトフタルアルデヒド(OPA)と9-フルオレニルメチルクロロホルメート(FMOC-Cl)を使用した選択的な前処理法を検討し,液体クロマトグラフィー/質量分析法によるプロリンの高感度かつ選択的な測定法の構築を試みた.夾雑成分の1級アミノ酸をOPA試薬により誘導体化し,固相抽出カートリッジを用いて2級アミノ酸であるプロリン及びヒドロキシプロリンとの分離を行い,続いて2級アミノ酸をFMOC誘導体とした.この2ステップ誘導体化法により試料のクリーンアップが効果的に行われ,2級アミノ酸に選択的な前処理が可能となった.また,β-シクロデキストリン系のキラルカラムを極性有機相モードで用いることにより,プロリンの良好な光学異性体分離が達成された.清涼飲料水,粉ミルク及び食酢を試料として添加回収試験を行った結果,平均回収率は80∼104% 以内と良好であった.本法は液状食品中のプロリンを光学分離,測定することが可能であり,食品添加物として使用されるプロリンの安全性を確保するための有効な分析法の一つになるものと期待される.
著者
山本 明 安部 航 泉 康介 板崎 輝 大宮 英紀 折戸 玲子 熊沢 輝之 坂井 賢一 志風 義明 篠田 遼子 鈴木 純一 高杉 佳幸 竹内 一真 谷崎 圭裕 田中 賢一 谷口 敬 西村 純 野崎 光昭 灰野 禎一 長谷川 雅也 福家 英之 堀越 篤 槙田 康博 松川 陽介 松田 晋弥 松本 賢治 山上 隆正 大和 一洋 吉田 哲也 吉村 浩司 Mitchell John W. Hams Thomas Kim Ki-Chun Lee Moohyung Moiseev Alexander A. Myers Zachary D. Ormes Jonathan F. Sasaki Makoto Seo Eun-Suk Streitmatter Robert E. Thakur Neeharika
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.81-96, 2008-02

本研究は,南極周回超伝導スペクトロメータによる宇宙線観測(BESS-Polar 実験)を通して,『宇宙起源反粒子,反物質の精密探査』を目的としている.地球磁極領域に降り注ぐ低エネルギー宇宙線に注目し,反陽子スペクトルを精密に測定して,衝突(二次)起源反陽子流束の理解を深めるとともに,『原始ブラックホール(PBH)の蒸発』,『超対称性粒子・ニュートラリーノの対消滅』等,初期宇宙における素粒子現象の痕跡となる『宇宙(一次)起源反粒子』を精密探査する.反ヘリウムの直接探査を通して,宇宙における物質・反物質の存在の非対称性を検証する.同時に陽子,ヘリウム流束を精密に観測し,これまでのカナダでの観測(BESS実験,1993-2002)の結果と合わせて,太陽活動変調とその電荷依存性について系統的に観測し,宇宙線の伝播,相互作用に関する基礎データを提供する.本研究では,これまでのBESS 実験で培われた超伝導スペクトロメータによる宇宙線観測の経験をもとに,低エネルギー領域での観測感度を高め,南極周回長時間飛翔を可能とする超伝導スペクトロメータを新たに開発した.2004年12月13日,南極(米国,マクマード基地)での観測気球打ち上げ,高度37km での9日間に及ぶ南極周回飛翔に成功し,9億イベントの宇宙線観測データを収集した.運動エネルギー0.1〜1.3GeV の範囲に於いて,これまでの約4倍の統計量でエネルギースペクトルを決定した.結果は,衝突(二次)起源モデルとよく整合し,一次起源反陽子の兆候は観測されていない.太陽活動が極小期にむけた過渡期にあたる2004年の観測として予想に沿った結果を得た.反ヘリウム探索は,これまでのヘリウム観測の総統計量を2倍以上に高め,反ヘリウム/ヘリウム比の上限値を2.7×10^<-7>にまで押し下げた.本報告では,BESS-Polar(2004年)の成果を纏め,次期太陽活動極小期(2007年)における第二回南極周回気球実験計画を述べる.
著者
堀尾 輝久
出版者
国土社
雑誌
教育 (ISSN:03869938)
巻号頁・発行日
vol.39, no.7, pp.p102-112, 1989-07
著者
堀越 守 豆塚 弘毅 廣岡 卓
出版者
日本農薬学会
雑誌
日本農薬学会誌 (ISSN:03851559)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.17-22, 1999-02-20
被引用文献数
5

大腸菌のprotoporphyrinogen oxidase(Protox)遺伝子欠損変異株(SASX38)を用いた遺伝的相補法によって, タバコ葉から葉緑体及びミトコンドリア型Protox cDNAを単離し, 全塩基配列を解明した.得られた塩基配列情報を利用し, 光要求型除草剤pyraflufen-ethyl耐性タバコ細胞ETR-245株及び感受性株から, RT-PCRによって各々2種のProtox cDNAを増幅した.これらProtox cDNAによって生育を相補した大腸菌SASX38株に対するpyraflufenethylの生育阻害度を測定し, 各遺伝子産物のpyraflufenethylに対する感受性を比較した.ミトコンドリア型遺伝子産物には感受性の差は認められなかったが, 葉緑体型遺伝子産物ではETR-245株由来のものは感受性株由来のものに比べ, 4000倍以上の耐性を示した.さらに, これら葉緑体型Protox cDNAの全塩基配列を比較した結果, 1塩基にのみアミノ酸置換を伴う塩基の変異が認められた.したがって, この変異がETR-245株における光要求型除草剤耐性の原因であることが明らかとなった.
著者
木下 明美 堀江 登
出版者
武庫川女子大学
雑誌
武庫川女子大学紀要. 自然科学編 (ISSN:09163123)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.101-103, 1999

Catechins of green tea were investigated an effect on carrageenan-induced inflammatory edema. The major part of catechins in green tea are epicatechin(EC), epigallocatechin(EGC), epicatechin gallate(ECg) and epigallocatechin gallate(EGCg). It was found previously that ester type of those catechins had significant inhibitory action for thrombin on blood coagulation. In this study, EGCg in catechins of green tea inhibited markedly plasma kallikrein(p-KL), but EGC did slightly. Both EGCg and EGC scarcely inhibited glandular kallikrein(g-KL). EGCg indicated an inhibitory effect on carrageenan-induced inflammatory edema in foot in mice, but not recognized EGC.
著者
高田 礼人 堀本 泰介
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

インフルエンザウイルスは、表面糖蛋白質ヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)の抗原性によって様々な亜型に分けられる。現在まで、インフルエンザワクチンは主にウイルスHAに対する血中抗体を誘導することを目的としてきた。しかし、現行の不活化インフルエンザワクチンは抗原性が異なるHA亜型のウイルスには全く効果がない。本研究の目的はこれを克服し、全てのA型インフルエンザに有効な免疫法を検討する事である。これまでに、ホルマリンで不活化したインフルエンザワクチンをマウスの鼻腔内に投与すると、様々な亜型のウイルスに対して交差感染防御が成立することを明らかにした。これにはウイルス表面糖蛋白質に対する亜型特異的中和抗体以外の免疫応答が関与していると考えられた。免疫したマウスのB細胞を用いてハイブリドーマを作出した結果、ウイルス蛋白質に対するIgAおよびIgG抗体を産生するハイブリドーマクローンが多数得られる事が判った。これらの中には様々な亜型のウイルスに交差反応性を示す抗体があった。H1、H2、H3およびH13亜型のHAをもつウイルスに交差反応性を示す中和抗体が得られたため、そのエピトープを同定した結果、このモノクローナル抗体はHAがレセプターに結合する領域の近傍を認識する事が明らかとなった。この領域の構造は亜型に関わらず類似性が高いため、交差反応性を示すことが推測された。これらの結果は、全ての亜型のウイルスに対する抗体療法の可能性を示唆している。また、今後同様に免疫したマウスから得られた交差反応性を示すIgA抗体を用いて血清亜型に関わらずに様々なウイルスに対する交差感染防御のメカニズムを解析する。
著者
堀本 泰介 五藤 秀男 高田 礼人
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

インフルエンザウイルスが細胞に感染すると、細胞内で多数の子孫ウイルスが短時間で複製され、細胞外に放出される。この時、ウイルス感染に伴う細胞応答、つまり様々な細胞性因子がこの一連の過程を制御している。本研究では、それらの細胞性因子を同定し、解析することを目的とした。その成果は、効果的で副作用のない新しい抗インフルエンザウイルス薬の開発につながると考えられる。本研究では、その新しい解析方法として、自己発動性組み換えインフルエンザの応用を考えた。つまり、感受性細胞のcDNAをランダムに組み込んだ組み換えインフルエンザウイルスを構築し、それを非感受性細胞に接種した時のウイルスの増殖を指標にし、感染を制御する細胞性因子を同定しようという試みである。つまり、その場合に、ウイルスに組み込まれたcDNAを同定することにより、細胞性因子の同定が可能になる。昨年度のパイロット実験では、耐性細胞上で増殖を再獲得した組み換えウイルスを選択することはできなかった。そこで本年度は、新たに変異誘導剤ICR191を用いて、ウイルス感染耐性CHO細胞株を72クローン樹立した。さらに、人の肺組織由来のcDNAを新規に購入し、それを用いて組み換えウイルスを再度調整した。これらを、耐性細胞に接種した結果、残念ながら増殖を再獲得するような細胞株は得られなかった。その原因が、耐性細胞株側にあったのか、組み換えウイルス側にあったのかは現時点では不明である。
著者
堀本 泰介
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

本研究では、リバース・ジェネティクス法により人為的に多段階の弱毒化を施し、さらに1つの粒子中に現在人で流行中の三種類のHA遺伝子(A/H1,A/H3, B)を同時に組み込んだHA重複組み換えウイルスワクチンの開発を最終目的とする。このワクチンは現在用いられている三種類のウイルスHAを混合した不活化ワクチンに比べ、接種量の制限が排除され、体内の抗原量を増すのみならず、粘膜免疫、細胞性免疫をも誘導できるため優れた免疫効果が期待される。さらに、間違いなく安全性、経済性にも優れる。この組み換えワクチンを作製する前提として、二種類以上のHA遺伝子があるいはキメラHA遺伝子がウイルス中に組み込まれる必要がある。そこでまずA型HIウイルスとB型ウイルスのキメラ遺伝子を構築し、その感染性ウイルス粒子への取込みを検討した。その結果、A型ウイルスHAのN末側シグナル領域より上流(3'非コード領域を含む)とC末側トランスメンブレン領域より下流(5'非コード領域を含む)をB型ウイルスHAに入れ換えたA/BキメラHA遺伝子が効率良く感染性ウイルス粒子中に取り込まれることを発見した。さらに、この組み換えウイルスは、B型野生株の攻撃に対して高い防御効果が認められた。これらの成績から、HA遺伝子のパッケージングおよびHA蛋白質の相互機能性についての情報が獲得でき、今後のHA組み換えウイルスの構築に大きく貢献する。現在、各種HA組み換え体の構築を進めている。