著者
市川 康夫 中川 秀一 小川G. フロランス
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

フランス農村は、19世紀初頭から1970 年代までの100年以上に渡った「農村流出(exode rural)」の時代から、人口の地方分散と都市住民の流入による農村の「人口回帰」時代へと転換している。農村流出の契機は産業革命による農業の地位低下と農村手工業の衰退であったが、1980年代以降は、小都市や地方都市の発展、大都市の影響圏拡大によって地方の中小都市周辺部に位置する農村で人口が増加してきた。しかし、全ての農村で人口増がみられるわけではなく、とりわけ雇用力がある都市と近接する農村で人口の増加は顕著に表れる。本稿では、地方都市と近接する農村でも特に人口が増えている村を事例として取り上げ、移住者へのインタビューからフランス農村部における田園回帰の背景とその要因を探ることを目的とする。本調査が対象とするのは,フランスのジュラ山脈の縁辺に位置する山間の静かな農村地帯にあるカンティニ村(Quintigny)である。カンティニ村は、フランス東部フランシュ・コンテ地域圏のジュラ県にあり、ジュラ県庁所在地であるロン・ル・ソニエから約10km、車で20分ほどの距離に位置している。カンティニ村では、フランス全体の農村動向と同じく、19世紀末をピークに一貫して人口が減少してきたが、1980年代前後を境に、周辺地域からの流入によって人口が増加し、1975年に129人であった人口数は、2017年には262人と2倍以上になっている。隣村のレ・エトワール村は、「フランスで最も美しい村」に指定されており、観光客の来訪や移住者も多い。一方で、カンティニ村は目立った観光資源などは持たないが、移住者は静かな環境を求めて移住するものが多いことから、この点に魅力に感じて移り住むケースが多い。<br><br> カンティニ村への移住者は、20~30歳代の若年の子育て世代の流入が多く、自然が多い子育て環境や田園での静かな生活を求め、庭付き一戸建ての取得を目的に村に移住している。カンティニ村内は主たる産業を持っておらず、ワインのシャトーとワイン工場が2件あるがどちらも雇用数は10人程度と多くない。農家戸数も1950年代に26戸あったものが、現在では2戸になり、多くの農地はこれら農家に集約されたほか、移住者の住宅用地となっている。<br>本研究では、2017年8月にカンティニ村の村長に村における住宅開発と移住者受け入れ、コミュニティについて聞き取り調査をし、実際に移住をしてきた15軒の移住世帯に聞き取り調査およびアンケート調査を実施した。移住者には、移住年、家族構成、居住用式、居住経歴、移住の理由等、自由回答を多く含む内容で調査を行なった。<br> カンティニ村における移住者は、1980年代より徐々に増加し、特に2000年代以降に大きく増加している。カンティニ村における移住には2タイプあり、一つは村が用意した移住者用の住宅区画に新しい住宅を建設して移住するタイプ、もう一つは、②空き家となった古い農家建築を移住者が購入し、居住するタイプである。古い農家建築は築200~300年のものが多く、リフォームやリノベーションが必要となる。<br> 農村移住者の多くは、ジュラ県あるいはその周辺地域の出身者であり、知人からの口コミや不動産仲介からの紹介、友人からの勧めをつてにカンティニ村を選択していた。移住者の多くは、小都市ロン・ル・ソニエに職場を持っており、ここから通える範囲で住宅を探しており、かつ十分な広さと静かな環境、美しい自然・農村景観や農村建築を求めて移住を決めている。いずれも土地・住宅は購入であり、賃貸住宅や土地の借入はない。<br> 移住者がカンティニ村を評価する点としては、都市に近接しながらも今だに農村の風情や穏やかな環境、牧草地やワイン畑が広がる豊かな景観があること、美しい歴史地区の農村建築群、安価な住宅価格と広い土地、そして新しい住民を歓迎する村の雰囲気が挙げられている。そして、特に聞かれた点としては、主要な道路から外れてれおり、村内を通り抜ける車がないこと、村内に商店がワインセラーを除いて1件もないことに住民の多くは言及しており、「静寂」と「静けさ」を何よりの評価点として挙げている。また、多種多様な活動にみられるように、「村に活気がある」という点も多く聞かれた。また住民の仕事の多くは時間に余裕のある公務員であり、歴史建築を購入し自らリノヴェーションすることが可能であったこと定着の背景である。
著者
小川 博司
出版者
関西大学経済・政治研究所
雑誌
セミナー年報 (ISSN:18822010)
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.23-29, 2009-03-31

第178回産業セミナー
著者
小川 眞
出版者
日本土壌微生物学会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.73-79, 1999-10-01 (Released:2017-05-31)
参考文献数
4
被引用文献数
1

インドネシアでフタバガキの根に外生菌根菌が共生すると,苗の生長と植栽後の生長がよくなることや粉炭がこの菌の増殖に効くこともわかり,現在では実用的な育苗技術として,きのこと炭がとりあげられている。マメ科樹木やモクマオウなど空中窒素を固定する微生物と共生する植物にも木炭粉やモミガラくん炭が効く。炭を土壌に加えると明らかに根粒や放線菌根がつきやすく,VA菌根もつくので苗の生長がよくなる。チーク,ゴムノキ,ドリアン,アブラヤシでもVA菌根菌を接種すると苗の生長がよくなったという。しかし,共生微生物を考えに入れた育苗・植栽技術はまだできあがっていない。また外来種を植え続けると,養分の収奪が激しく,土壌とその中の生物相が変化してしまう。今後持続的な熱帯林業をすすめるためには,土壌微生物や小動物の保全も考えた土壌管理が必要になるだろう。炭を利用するのもひとつの重要な方法である。近年モミガラくん炭や粉炭を簡便に生産する炉やプラントが開発され,炭も土壌改良材として広く使用できるようになった。炭は根粒菌やVA菌根菌を固定するのに適しており,ペレット状の接種源や炭を含んだ肥料も使われるようになった。炭は共生微生物だけでなく,アゾトバクターやバイエリンキアを増殖させるのにも役立つ。インドネシアでモミガラくん炭と石灰を使うと,第一作目のダイズだけでなく,第二作目のトウモロコシでも高い収量が得られたという。ちなみに熱帯では,どこで土壌を採っても空中窒素固定菌がほぼ100%出現するが,日本では30〜50%が通常である。熱帯で焼畑が可能なのも,この微生物の分布に負っているらしい。熱帯や亜熱帯の自然の潜在力,言いかえれば微生物の力をいかに有効に使うかという点に,将来の人口増加と食料供給問題を解決する鍵があるように思える。炭を農林業に用いることは,単に植物の生長や収穫を増やすのによいというだけではない。CO_2の増加による地球温暖化も年々地球規模で深刻化しており,樹木の枯死や異常気象などとなって現れている。CO_2固定のアイディアは多いが,大量かつ効果的に固定する方法は,森林や緑地を作る以外にない。しかし植物が光合成によって同化固定した炭素も,そのままでは燃えたり腐ったりして再びCO_2に戻ってしまう。そのため固定された炭素を不活性化し,封じ込める方法を見いださなければならない。炭を農林業に利用するというこのアイディアは単純だが,炭素の封じ込めには最も効果的なものである。過去の地球上で植物が光合成によって同化し,石炭や石油として土の中に閉じ込めたものを掘り出して燃焼させれば,地球の大気が過去の状態へ戻ってしまうことは誰にでもわかる。もし植物やその残廃物をすべて炭化し,これを土壌に還元し,自然の力によってさらに植物や樹木を育て,炭素の封じ込めと資源のリサイクルを同時に実行することができれば,地球温暖化の防止にいささかでも役立つのではないだろうか。熱帯で実行できる方法を提案する。
著者
花畑 裕香 小川 孔輔
出版者
法政大学地域研究センター
雑誌
地域イノベーション (ISSN:18833934)
巻号頁・発行日
no.4, pp.115-131, 2011

研究の概要(和文):本研究ノートでは、徳島のすだちプロモーション企画 から実行までの 3 年間の遂行を、プロジェクトの進展に したがって、時系列に記述していく。第Ⅰ章では、2008 年に大学院(イノベーション・マネジメント研究科)で花畑が小川の指導のもとで策定した すだちプロモーションの企画立案の内容を説明する。徳島県へ提案したプロジェクトは複数あったが、その中で 「食品スーパー・ヤオコー」での店頭プロモーション計画の部分を抜き出して紹介する。第Ⅱ章では、初年度(2009 年)に、「ヤオコー上里店」で実施された店頭プロモーションについて内容を整理した。すだちプロモーションには、試食を行うために販売員(マネキン)を配置した「フル販売」(フルバージョン) と、プリパックしたすだちを売り場に陳列しただけの「セルフ販売」(セルフバージョン)がある。上里店では実演 販売によるプロモーションを行ったが、それと並行して、上里店が所属する高崎地区内の 2 店舗ではセルフ販売を 実施している。両方のプロモーション結果を紹介する。第Ⅲ章では、2009 年の経験をもとに、2010 年には実演 販売のやり方が改善され、ヤオコーの旗艦店など、4 店 舗でプロモーションが実施された。その実施内容と結果 を 2009 年と比較して、新たな発見を中心に紹介する。第Ⅳ章では、第Ⅱ章からⅢ章までの実績をもとに、今後の課題をまとめる。研究の概要(英文):This research note presents the planning and implementation process of three years-long joint project of Tokushima Sudachi Promotion, which has been organized by authors (Hanabata and Ogawa) and the JA Tokushima (Tokushima Sudachi-Yuko Consortium) and Tokushima Prefecture in Japan. The chapter 1 describes the pre-planning process of "Sudachi Promotion," which the first author (Hanabata, a graduate student at that time, presently a marketing consultant) had developed under the guidance of the second author (professor Ogawa of Hosei Graduate School of Innovation Management) in 2008. The project proposed was submitted to the agricultural department of Tokushima Prefecture, and subsequently consulted with the produce department of a regional supermarket chain Yaoko Co., Ltd., based on Saitama prefecture for introduction. In chapater 2, we describes the first year (2009)'s in-store promotion, which has been planned and conducted in the Kamisa to store of Yaoko. The Sudachi promotion has two distinguished styles: one in which sales persons are placed for shoppers' tasting of sudachi called"full-supported sales scheme" another in which only pre-packed sudachi can be displayed without salespersons called "self- service sale scheme". A promotion plan was carried out by "full-supported sale scheme" at Kamisato store, which was selected for test marketing in 2009. At the same time, other two stores, which belong to the Takasaki area of Gunma prefecture, conducted for "self-service sale scheme". We report the sales reports of both types of Sudachi promotion activities. Based on the experience in 2009, we slightly changed the promotional plan in 2010, i.e., the way of demonstration sale has been improved, and the promotion was extensively conducted at four stores including two flagship stores located in Saitama prefecture. Compared with 2009's results, some of marketing insights could be found for introduction of in-store promotion. The chapter 4 summarizes the results of the whole process of Sudachi promotion and remarks the challenges for future.
著者
岸本 忠史 吉田 斉 能町 正治 玉川 洋一 小川 泉 硲 隆太 梅原 さおり 吉田 斉 飯田 崇史 中島 恭平
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-07-10

48Caの0ν二重ベータ崩壊(0nDBD崩壊)で、将来ニュートリノ質量で数meVの領域の探索のため、以下の3点の研究を進めた。①48Ca同位体濃縮技術の実用化:自然存在比0.19%の48Caで2%以上を目指した。高熱伝導率の絶縁物で電気泳動させる新しい濃縮法(MCCCE法)で、16%と目標の約10倍の驚異的な濃縮を達成した。更に改善できる。②高分解能蛍光熱量検出器の開発:極低温でCaF2結晶の熱と蛍光を測定して、高分解能化を粒子弁別と両立させる道を拓いた。③CANDLES装置で48Caの0nDBD崩壊の観測:遮蔽システムを建設し環境バックグランドを2桁減少させて、世界で一番良い感度を達成した。
著者
小川 潤 永崎 研宣 中村 覚 大向 一輝
雑誌
じんもんこん2020論文集
巻号頁・発行日
vol.2020, pp.215-222, 2020-12-05

本研究の目的は,時間的文脈情報を含む社会ネットワーク分析に利用可能なデータを構築することである.既存モデルにおいても,人物間の関係性に時間情報を付加することは可能であったが,それは年月日など絶対的な時間情報に基づくものであった.だが歴史史料,とくに古代史史料では,物事の前後関係といった非常に曖昧な時間情報しか入手しえないことが往々にしてある.そのような問題に対処すべく,本研究は史料中に言及される出来事の継起関係をもとに時間的文脈情報を表現し,それを用いて人物および人物間の関係性に「相対的な」時間情報を与えるためのモデルを設計するとともに,一次史料を用いてその有効性を検証した.
著者
小川 潤 大向 一輝
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会第二種研究会資料 (ISSN:24365556)
巻号頁・発行日
vol.2021, no.SWO-053, pp.06, 2021-03-15 (Released:2021-09-17)

ナレッジグラフの歴史学研究への応用は近年、プロソポグラフィ研究やバイオグラフィ研究を中心に進展している。しかしこれらの研究の多くは、すでに伝統的な手法によって為された二次的な研究成果を対象としたものであり、一次史料の内容そのものを記述するものでは必ずしもない。今後、歴史学研究におけるナレッジグラフ活用をさらに深いレベルで促進するためには、一次史料そのものの知識構造化を進める必要がある。こうした構造化に適用可能なオントロジーとしてはすでにFactoidモデルが提案されているが、このモデルは時間的コンテキストや曖昧性の表現に十分に対応しているとは言えず、曖昧性の大きい史料記述については課題が残る。そこで本研究はFactoidモデルを拡張し、出来事の前後関係に基づいて時間的コンテキストや曖昧性を表現可能なモデルを提案したうえで、曖昧性の大きい古代史史料を事例として実際に提案モデルを適用し、データ構築および検索性の検証を行った。
著者
小川 祐生 山木 誠也 八村 寿恵 鐘ヶ江 晋也 杉本 大輝 網本 宏和 岡本 芳晴 網本 昭輝
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.74, no.12, pp.810-817, 2021-12-20 (Released:2022-01-20)
参考文献数
9

ミニチュアダックスフント(以下MD)は上顎犬歯部の歯周病による口腔鼻腔瘻の好発犬種であるが,その進行パターンについては未だ不明である.今回,歯科処置時に上顎犬歯口蓋側の歯周ポケットが4mm以上ある症例,及び口腔鼻腔瘻が確認された症例を対象に回顧的研究を行い,MDと他犬種の歯科X線検査における上顎犬歯側面像の所見を比較した.その結果,歯周ポケット深度が同じ区分において,MDは他犬種よりも犬歯近位及び遠位の歯槽骨吸収像が少なく,吸収部位の吻尾方向への広がりが少ないと考えられた.また,MDは口蓋側方向の吸収程度を反映するホワイトラインの明瞭割合も高いことから,口蓋側方向への広がりも少ないと考えられた.以上より,MDの上顎犬歯部歯周病の進行は,水平吸収よりも口蓋側の垂直吸収が大きく進行する特徴を有すると考えられた.
著者
杉山 董 小川 久 吉田 隆一
出版者
公益社団法人 日本船舶海洋工学会
雑誌
関西造船協会誌 (ISSN:03899101)
巻号頁・発行日
vol.103, pp.1-10, 1961

This heavy derrick gear was installed in sister ships SHUNKOKU-MARU and SHUN-EI-MARU, completed in Kawasaki Dockyard Company in July and August, 1960, respectively. Both ships which are owned by Nihon Kisen K.K. and operated by Hinode Kisen K.K., having identical overall length of 132.480m and deadweight of 9,009t, were designed to load and carry extra-super-heavy cargoes, such as rolling stocks, barges, heavy machineries and etc. The most unique feature of the heavy derrick, which has the capacity of 180 tons, is the adoption of the so-called "2 hatch-1 derrick system", enabling one unit of heavy derrick to serve two cargo hatches. Adoption of this system realized decrease in weight of about 20% from the ordinary "1 hatch-1 derrick system". The gear consists of a tower mast installed on the ship center line of maximum diameter 3.600m, with a goose neck ring provided at its foot and with a 180 ton heavy derrick boom connected with the ring. Fall wire and topping lift wire, which are led inside of the tower mast, are wound by 35 ton steam driven heavy duty winches installed on both sides of the upper deck. A heavy derrick boom is capable of rotating about 320° from 70° swing out position at the forward starboard side to 70° swing out position at aft starboard side. In order to minimize the friction by rotation Of the goose neck ring, the ring is supported by 692 roller bearings. The results of 200 ton overload test carried out for the gear illustrated favorable agreement with the respective design values. Details, design and the test results of the gear are described below.