- 著者
-
小川 眞
- 出版者
- 日本土壌微生物学会
- 雑誌
- 土と微生物 (ISSN:09122184)
- 巻号頁・発行日
- vol.53, no.2, pp.73-79, 1999-10-01 (Released:2017-05-31)
- 参考文献数
- 4
- 被引用文献数
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インドネシアでフタバガキの根に外生菌根菌が共生すると,苗の生長と植栽後の生長がよくなることや粉炭がこの菌の増殖に効くこともわかり,現在では実用的な育苗技術として,きのこと炭がとりあげられている。マメ科樹木やモクマオウなど空中窒素を固定する微生物と共生する植物にも木炭粉やモミガラくん炭が効く。炭を土壌に加えると明らかに根粒や放線菌根がつきやすく,VA菌根もつくので苗の生長がよくなる。チーク,ゴムノキ,ドリアン,アブラヤシでもVA菌根菌を接種すると苗の生長がよくなったという。しかし,共生微生物を考えに入れた育苗・植栽技術はまだできあがっていない。また外来種を植え続けると,養分の収奪が激しく,土壌とその中の生物相が変化してしまう。今後持続的な熱帯林業をすすめるためには,土壌微生物や小動物の保全も考えた土壌管理が必要になるだろう。炭を利用するのもひとつの重要な方法である。近年モミガラくん炭や粉炭を簡便に生産する炉やプラントが開発され,炭も土壌改良材として広く使用できるようになった。炭は根粒菌やVA菌根菌を固定するのに適しており,ペレット状の接種源や炭を含んだ肥料も使われるようになった。炭は共生微生物だけでなく,アゾトバクターやバイエリンキアを増殖させるのにも役立つ。インドネシアでモミガラくん炭と石灰を使うと,第一作目のダイズだけでなく,第二作目のトウモロコシでも高い収量が得られたという。ちなみに熱帯では,どこで土壌を採っても空中窒素固定菌がほぼ100%出現するが,日本では30〜50%が通常である。熱帯で焼畑が可能なのも,この微生物の分布に負っているらしい。熱帯や亜熱帯の自然の潜在力,言いかえれば微生物の力をいかに有効に使うかという点に,将来の人口増加と食料供給問題を解決する鍵があるように思える。炭を農林業に用いることは,単に植物の生長や収穫を増やすのによいというだけではない。CO_2の増加による地球温暖化も年々地球規模で深刻化しており,樹木の枯死や異常気象などとなって現れている。CO_2固定のアイディアは多いが,大量かつ効果的に固定する方法は,森林や緑地を作る以外にない。しかし植物が光合成によって同化固定した炭素も,そのままでは燃えたり腐ったりして再びCO_2に戻ってしまう。そのため固定された炭素を不活性化し,封じ込める方法を見いださなければならない。炭を農林業に利用するというこのアイディアは単純だが,炭素の封じ込めには最も効果的なものである。過去の地球上で植物が光合成によって同化し,石炭や石油として土の中に閉じ込めたものを掘り出して燃焼させれば,地球の大気が過去の状態へ戻ってしまうことは誰にでもわかる。もし植物やその残廃物をすべて炭化し,これを土壌に還元し,自然の力によってさらに植物や樹木を育て,炭素の封じ込めと資源のリサイクルを同時に実行することができれば,地球温暖化の防止にいささかでも役立つのではないだろうか。熱帯で実行できる方法を提案する。