著者
山岸 明彦
出版者
日本宇宙生物科学会
雑誌
Biological Sciences in Space (ISSN:09149201)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.268-275, 2005 (Released:2006-09-06)
被引用文献数
1

Several aspects of early evolution of life has been studied in several different research fields including planetary science, earth physics, geology, chemical evolution, environmental microbiology and molecular evolution. In this review I have summarized the recent results of geology, environmental microbiology on deep-sea hydrothermal area, and our recent studies on the common ancestor of all the living organisms on the earth (Commonote). The possible scenario on the origin and early evolution of life is also discussed.
著者
山岸 敦 加藤 一夫 中垣 晴男
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.13-21, 2007-01-30 (Released:2018-03-23)
参考文献数
21
被引用文献数
3

フッ化ナトリウム(NaF)とモノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)は,ともに歯磨剤に配合されるう蝕予防の有効成分として最も広く用いられている.本研究の目的は,日常のセルフケアにおいてフッ化物配合歯磨剤の使用を考慮し設定した条件下で,エナメル質耐酸性に及ぼすNaFとMFPの作用の違いを明らかにすることであった.950ppmFに調整したNaFまたはMFPの水溶液で1日2回3分間,エナメル質を処理し,それ以外はpH4.5の脱灰液に浸漬した.この操作を22日間行った後,試料のミネラル量の変化(ΔZおよびLd)をX線マイクロラジオグラフ(XMR)により定量した.その結果,NaF処理群は,MFP処理群より有意に高い耐酸性を示した(ΔZ: NaF<MFP, Ld: NaF<MFP). 22日間のフッ化物処理による耐酸性層の構造を明らかにするため,pH4.0の脱灰液で6日間処理したところ,NaFとMFPのXMR像には大きな違いがあった.NaF処理群は,表面付近に限定して耐酸性を示す100μm程度の層が得られた.一方,MFP処理群は表層付近の耐酸性がNaFに比べ劣るものの,経時的にエナメル質内部に深くまで浸透し,300μm程度の耐酸性を形成した.したがって,今回の条件における耐酸性付与に関するNaFとMFPの作用は互いに対照的であり,その特性に合わせた応用が望まれる.
著者
山岸 俊男
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.21-37, 1989-03-24 (Released:2009-03-31)
参考文献数
39
被引用文献数
2

社会的ジレンマにおける成員の行動が「意図せざる効果」を生むことはよく知られている。 すなわち社会的ジレンマにおいては、個々の成員の自己利益追及という意図にもとづく行動が、社会的に集積されることにより、それぞれの成員の意図に反する結果(利益の減少)が生み出されている。このような社会的ジレンマ問題の解決のためにこれまでいくつかの解決法が示唆されてきたが、これらの社会的ジレンマ解決法の「意図されざる効果」については、これまであまり議論がなされていない。本稿では、ジレンマ解決法の「意図されざる効果」の例として、選択的誘因の使用に伴う協力への「内発的動機づけ」の減少、および戦略的行の「外部性」により引起こされる「非協力の悪循環」をとりあげ、そこに含まれる問題を整すると同時に、関連研究の紹介を行なう。
著者
剣持 龍介 小林 知世 山岸 敬 佐藤 卓也 今村 徹
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.236-244, 2013-06-30 (Released:2014-07-02)
参考文献数
20
被引用文献数
3 1

【目的】 Rey-Osterrieth Complex Figure Test (ROCF) の模写課題における認知症患者の遂行機能障害を評価する簡易な尺度を作成し, 妥当性を検討する。【対象】 新潟リハビリテーション病院神経内科を初診し, 数唱, MMSE, Alzheimer's Disease Assessment Scale(ADAS), Frontal Assessment Battery (FAB)および ROCF の模写課題を施行した認知症患者で MMSE 得点が15 点以上かつ25 点以下の97 症例。【方法】 評価項目は, 計画的で効率的な模写遂行のために適切な順序で模写されているか否か(模写時方略)を評価する 2 項目と, 体系的な模写遂行のために重要な ROCF の部位がまとまった形態として抽出されひと続きで模写されているか否か(骨格要素の抽出)を評価する 5 項目の計7 項目とした。評価項目ごとに得点あり/なしを従属変数とし, MMSE 得点および教育年数を共変量, 年齢, ADAS 下位項目のうちの単語再生, 構成, 観念行為, 見当識, 単語再認の減点, FAB 得点いずれかを独立変数とする logistic 回帰分析を施行した。【結果】 教育年数と認知機能の全体重症度の影響を除外した logistic 重回帰分析において, 評価項目のうちの(1)模写時方略のa)大きな長方形の描き方, b)大きな長方形内部の描き方, (2)骨格要素の抽出のa)大きな長方形, b)大きな長方形内の2 つの対角線, d)大きな長方形内の水平な中央線の 5 項目でFAB 得点との間に有意な関係また有意ではないものの関係する傾向が認められた。これら5 項目の合計得点を従属変数とし, 教育年数と認知機能の全体重症度の影響を除外した重回帰分析においても, FAB 得点に有意な偏回帰係数が得られた。【結論】 本研究では, 評価項目の多くと遂行機能障害との関係が確認され, 尺度として一定の妥当性が示唆された。これらの評価項目を用いた尺度は, 認知症患者の ROCF 模写課題における遂行機能障害を評価する簡便な評価方法であり, 物忘れ外来などの日常的な臨床場面での使用に一定の有用性を有すると考えられた。
著者
溝口 拓朗 伊藤 哲 山岸 極 平田 令子
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.23-29, 2018-06-25 (Released:2018-07-21)
参考文献数
26

間伐方法の違いが表土侵食に与える影響を明らかにする目的で,49年生ヒノキ人工林で2015年6月に列状間伐および定性間伐を実施し,その後約9か月間の土砂移動レートを比較した。その結果,列状間伐直後には,伐採木の搬出時に形成される伐採列内の搬出跡で局所的に土砂移動レートが増大することが明らかとなった。これは,木材を搬出する際に繰り返し同一箇所を木材が通過することによって土壌の浸透能が低下し,表面流が発生したことによると考えられた。しかし,間伐後約3か月で,搬出跡の土砂移動レートは大幅に低下した。これは,間伐後の夏季の降水によって表層の不安定土砂のほとんどが流出したためと考えられた。一方,定性間伐後の土砂移動レートは間伐前と比較して有意に増加しておらず,また列状間伐の伐採列および搬出跡と比較しても低かった。これらのことから本調査地においては,定性間伐は列状間伐よりも表土撹乱の小さい間伐手法であると示唆された。したがって,急傾斜地や火山灰土壌のように特に侵食を受けやすい地質では列状間伐はできるだけ回避し,表土へのインパクトの小さな間伐種を選択することが望ましいと考えられた。
著者
山岸 哲 松原 始 平松 山治 鷲見 哲也 江崎 保男
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.79-85, 2009 (Released:2010-02-26)
参考文献数
10
被引用文献数
1 2

2000年から2006年の3月から7月にかけて,京都府南部の木津川において,チドリ類3種の営巣環境選択に関する研究を行ない,河川物理が3種の共存に与える影響を論じた.木津川ではコチドリ,イカルチドリ,シロチドリの3種が同一砂州上で繁殖している.現地調査においては営巣中のチドリを発見し,その営巣環境を,基質砂礫サイズの3区分をもちいて評価した.その結果,主に海岸の砂州干潟に営巣するシロチドリは,粒径の小さな基質に営巣する頻度が有意に高かった.また,コチドリとイカルチドリは比較的幅広い基質に営巣し,この2種間では有意差が見出せなかったものの,イカルチドリはコチドリよりも大きな礫を選好する傾向があった.調査地砂州の砂礫分布図を作成したところ,大粒径土砂と小粒径土砂の分布が,上下流のマクロスケールで明確に異なっていたのみならず,ミクロスケールでは小粒径土砂の砂礫内に大粒径土砂の小パッチが点在していた.これらの分布パターンは,ともに洪水によって形成されると考えられるので,チドリ類の同一砂州上での共存には定期的な出水が不可欠であると考えられる.
著者
矢島 和美 村田 里美 山岸 弘 杉山 典久 米山 雄二
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集 59回大会(2007年)
巻号頁・発行日
pp.124, 2007 (Released:2008-02-26)

【目的】 台所の排水口などに発生するヌメリは手で触りたくない汚れであり、次亜塩素酸ナトリウムを主成分とする塩素系洗浄剤による掃除が一般に行われている。しかし、塩素系洗浄剤は特有の臭気を有するため、短時間で掃除を済ませることが望まれている。そこで、ヌメリを発生する原因菌とヌメリの構成成分を把握し、ヌメリの効率的な洗浄について検討した。 【方法】 一般の5家庭の台所排水口からヌメリを採取し、TSA培地で培養し菌種を同定した。アルギン酸ナトリウム水溶液を塩化カルシウム水溶液に滴下して調整したアルギン酸カルシウムゲルをヌメリモデルとし、次亜塩素酸ナトリウムと添加剤をこのヌメリモデルに作用させたときの分解状態を観察し、目視判定により、洗浄試験を実施した。 【結果】 採取したヌメリの菌種を同定した結果、、Pseudomonas属が最も多く存在していることが分かった。この、Pseudomonas属の菌と食品を接触させたところヌメリを発生したことから、ヌメリの原因菌は、Pseudomonas属であると推定した。また、Pseudomonas属は細胞外多糖としてアルギン酸を産出すると報告されている1)ことから、ナフトレゾルシン呈色試験法によるヌメリ中のアルギン酸の同定を試みた結果、ヌメリにアルギン酸が存在することが確認できた。アルギン酸を成分とするヌメリモデルを用いた洗浄試験の結果、次亜塩素酸ナトリウムにアルカリ金属炭酸塩を添加することにより、アルギン酸の分解を促進することが分かり、実際にヌメリに対する洗浄試験においても素早い洗浄効果が確認できた。 文献1)森川正章,科学と生物,vol.41,No.1,(2003)
著者
山岸 明浩 吉沢 愛美
出版者
人間‐生活環境系学会
雑誌
人間‐生活環境系シンポジウム報告集
巻号頁・発行日
vol.44, pp.103-106, 2020

本研究は,信濃毎日新聞に掲載されている「あんずちゃん」を研究対象とし,住生活空間と家庭科教育について検討することを目的とする。研究対象は,2014 年 1 月 1 日から 2016 年 12 月 31 日に掲載されたものとし,住生活空間と人物,および家庭教育の学習領域との対応について着目してデータの抽出を行った。本研究により得られた知見は次の通りである。1)描かれる住生活空間では,住宅内部の割合が約 70%と最も高い。具体的な空間としては居間の出現頻度が非常に高い。2)住生活空間の場面進行では,同一の空間種類において物語が進行される割合が 84.4%と高い。3)居間と他の住生活空間の関係性では,居間と関係させて台所が物語の舞台として扱われることが多い。4)家庭科の学習内容の関係性では,全体の約 3 割で家庭科の学習内容が扱われており,家庭経営学 7.9%,被服学 4,0%,食物学 11.8%,住居学 7.1%,である。
著者
山本 誠子 鈴木 和歌子 鈴木 香緒里 山岸 冨美江 谷口 沙奈絵 小林 三智子
出版者
一般社団法人 日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.242-249, 2002-08-20 (Released:2013-04-26)
参考文献数
16
被引用文献数
1

The physical properties were investigated and a sensory evaluation was carried out on imo-mochi containing various starches and starch gels.Textural and tensile rupture measurements were made with a Rheoner, and the sensory evaluation was rated by the scoring method.The physical properties of Imo-mochi containing a starch gel vary according to the kind of starch. Imo-mochi is considered to have a texture like rice cake because of its higher elasticity than that of a starch gel.The results of physical measurements showed that imo-mochi containing different starches could be classified into two groups: it had higher cohesiveness and extension when mixed with potato, tapioca, sweet potato or kuzu starch than with corn or wheat starch.The former group of imo-mochi is considered to be preferable.The sensory evaluation clarified that imo-mochi containing potato starch was the most preferable among four in the first group, having high transparency, extension, a texture like rice cake and low stickiness.
著者
菊地 雅子 渡邊 席子 山岸 俊男
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.23-36, 1997
被引用文献数
1 20

他者一般の信頼性についての信念である一般的信頼の高さが必ずしもその人の騙されやすさを意味しないというRotter (1980) の議論, および高信頼者は低信頼者よりも他者の信頼性 (ないしその欠如) を示唆する情報により敏感であるという小杉・山岸 (1995) の知見を, 情報判断の正確さにまで拡張することによって導き出された「高信頼者は低信頼者に比べ, 他者の一般的な信頼性についての判断がより正確である」とする仮説が実験により検討され, 支持された。この結果は, 他者一般の信頼性の「デフォルト推定値」としてはたらく一般的信頼の高低と, 特定の他者の信頼性を示唆する情報が与えられた場合のその相手の信頼性の判断とは独立であることを示している。すなわち, 高信頼者は騙されやすい「お人好し」なのではなく, むしろ他者の信頼性 (ないしその欠如) を示唆する情報を適切に処理して, 他者の信頼性 (ないしその欠如) を正確に判断する人間であることを示唆している。最後に, 社会環境と認知資源の配分の観点からこの知見を説明するための一つのモデルが紹介される。
著者
小杉 素子 山岸 俊男
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.349-357, 1998-12-25 (Released:2010-07-16)
参考文献数
28
被引用文献数
27 25

Contrary to the common sense idea that trustful people are gullible and easily believe whatever other people may say, past research reviewed by Rotter (1980a) indicated the idea was not necessarily valid. Two experiments of this paper further demonstrated that trustful people are more sensitive to information that indicates lack of trustworthiness in other people. In the experiments, subjects read a series of stories in which a person was about to make a choice between a trustworthy action and an untrustworthy one. Some of them were also given pieces of information regarding trustworthiness of the person. They were then asked to predict the likelihood of the person taking a trustworthy action. When no information was given, high trusters predicted with higher probability than low trusters that the person would take a trustworthy action. On the other hand, the high trusters lowered the predicted likelihood more steeply than the low when negative information was provided.
著者
山岸 拓也
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.433-434, 2010-12

目的 近年環状切除に性感染症の予防効果があるという研究がなれているが,日本ではこの分野の研究が乏しい.日本で研究をするに当たり,診察に代わり得る質問紙があれば有用であると思われ,男性性器の状態を問う質問紙の妥当性を評価した.方法 対象は18歳以上の成人男性とする.男性性器の状態を記した質問紙を神奈川県の2クリニックで診療前に配布し,その後実際に医師が診察を行い,その結果を同質問紙に記載してもらった.解析はkappa統計と%agreementを用いた.結果 合計166枚が配布され,回収率100%であった.対象者の年齢は範囲が18〜89歳で中央値が40歳であり,クリニック間で年齢の平均に有意な差を認めなかった(p=0.10).初診時の診断は両クリニックとも尿路性器の疾患を持つ患者が多かった.環状切除に関しては患者の申告と医師の診察はすべて一致していた.ペニスの状態は5段階で評価するとkappa係数は0.66(%agreement0.75),包皮なし,仮性包茎,真性包茎という3段階に直して評価するとkappa係数は0.89(%agreement0.94),また包皮なし,包皮ありという2択に直して評価するとkappa係数は0.88(%agreement0.94),感度90%,特異度98%であった.結論 ペニスの状態と環状切除の有無を問う本質問紙は妥当である.
著者
山岸明子
雑誌
日本教育心理学会第57回総会
巻号頁・発行日
2015-08-07

目 的 Montgomery, L. M. 著「赤毛のアン」(1908)は,孤児として不遇な子ども時代を過ごし,発達心理学的に不利な状況にあったにもかかわらず,賢く愛情豊かな女性に成長する様子を描いた児童文学である。幼少期の愛着形成において問題がある者の回復の過程が描かれていると考えられるが,その成長の過程は,発達心理学の知見と一致しているか,発達心理学の観点から無理はないかを検討することが本研究の目的である。幼少期に孤児となり,誰からも愛されたことがなかったアンは11才の時にクスバート家に来るが,「赤毛のアン」に書かれている記述から,1.それまでのアンの育ち,2.クスバート家に来た当初のアンの様子,3.その後のアンの変化に関して愛着の観点から検討を行う。そしてフィクションの小説ではあるが,幼少期の愛着形成において問題がある者の回復の過程やそこに寄与する要因についても考察する。結果と考察1.アンの育ち アンの語りによれば,生後3ヶ月で母親,次いで父親も熱病で死去(父母は共に高校教師)。親戚もなく引き取り手がいなかったため,近所に住む一家に引き取られる。貧しく酒飲み亭主のいる家庭で,子守り兼小間使いとしてこき使われ,つらい思いをしながら,二軒の家で過ごし(大勢の子の面倒をみるため,学校へもほとんど行けなかった),その後4ヶ月孤児院で暮してから,独身の老兄妹マシューとマリラの家にくる。「誰も私をほしがる人はいなかったのよ。それが私の運命らしいわ」とアンは言っているが,愛着対象をもつことなく,誰からも愛されたことがない少女である(唯一何でも話せる相手は想像上の友人であった)。2.クスバート家に来た当初のアンの様子 愛着対象をもたず,誰からも愛されなかったため,愛着に関する障害があることが予想される。著者は必ずしも否定的なものとして書いていない場合もあるが,グリーン・ゲーブルスに来た頃のアンには行動的・心理的に様々な問題がある。1)感情のコントロールができず 特に怒りのコントロールができない。2)よく知らない人に対するなれなれしい態度がみられる。これはDSM-Ⅳの愛着障害の診断基準の「拡散された愛着」に該当すると思われる。3)大げさな表現-アンのおしゃべりは想像も加わっていて大げさだし,喜び方や謝り方も演技的と言える位大げさである。4)自己評価が極めて低い。強い劣等感をもち 誰にも愛されない,誰からも望まれない,自分は哀れな孤児だと何度も言っている。5)嘘をつく。 そのような問題が見られる一方,他者と関係を持とうとしない,あるいはそれがむずかしいというDSM-Ⅳの愛着障害の診断基準の「回避性」の傾向はもっておらず,他者との関係性は基本的にうまくいっている。対人的な自信がないにもかかわらず,よい関係を作る力をもっていることと,はじめから学業優秀な点は,育ちから導くことはむずかしいと思われる。3.その後のアンの成長 アンは11才まで愛情を受けずしつけも満足に受けていなかったが,優しいマシュウと厳しいが愛情をもって育ててくれるマリラのもとで,安全基地と安全感を得て,また荒れた気持ちを宥め慰めてくれる他者を得て徐々にかんしゃくをおこすこともなく穏やかな少女になっていく。 近隣の人も友人も,孤児であり,かんしゃくもちで変わったところのあるアンを受入れてくれ,学校でもアンはのびのびと個性を発揮して友人との生活を楽しむ。 そして「私は自分のほか,誰にもなりたくないわ」と今の自分を肯定するようになる。強い劣等感をもち,誰にも愛されない,哀れな孤児という自己概念は大きく変わっている。4.アンの変化に寄与したもの アンの変化に寄与した要因として,1)暖かくしっかりとした養育 2)学習の機会と動機づけの提供 3)よい友人関係 4)地域の大人とのかかわりがあげられる。これらは,山岸(2008)の被虐待児の立ち直りについての検討や,レジリエンスの促進要因としてあげられていることと共通しているといえる。 アンが当初からもっていた対人的能力や学業上の能力に関しては,語られた育ち方では少々無理があるが,クスバート家そしてアボンリーで生活する中でのアンの変化に関しては,発達心理学の見解と一致するものであることが示された。