著者
山田 浩之 新田 清一 太田 久裕 鈴木 大介 南 隆二 松居 祐樹 中山 梨絵 上野 真史 菅野 雄紀 此枝 生恵 大石 直樹 小川 郁
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.12, pp.1380-1387, 2020-12-20 (Released:2021-01-01)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

宇都宮方式聴覚リハビリテーション (以下聴覚リハ) とは, 済生会宇都宮病院聴覚センターで新田らが行っている補聴器診療法で, 主な特徴に「初日から常用を促し, 診察と調整を装用開始から3カ月間頻回に行うこと」「聴覚専門の言語聴覚士が補聴器外来を担当していること」がある. 本法を取り入れた補聴器外来を開設し, 3年間が経過したためその成績について検討した. 対象は2016年4月~2019年3月までに補聴器外来で聴覚リハを行った174例 (男86例女88例, 平均年齢75歳) で, 検討項目は聴覚リハ脱落率, 購入率, 音場検査と語音明瞭度検査による適合率 (補聴器適合検査の指針2010に準ず), 補聴器の型式, 平均価格, 補聴器購入における助成の有無とした. 聴覚リハ脱落率は3%, 購入率は95%, 音場検査による適合率は98%, 語音明瞭度検査による適合率は95%であった. 補聴器の型式は耳掛け型が91%, 耳あな型が8%. 購入された補聴器の平均価格は11.6万円で, 補装具費支給制度を利用して購入した割合は7%であった. 結果は良好で本法の適応 (難聴による生活の不自由があり, 聴力改善の意志がある) となる難聴者にとっては優れた補聴器診療法であることを改めて示すことができた. 一方でわが国の補聴器購入に対する助成と補聴器診療制度に関しては諸外国と比較すると十分とは言えず, 今後は補聴器の調整を扱う国家資格として言語聴覚士の活躍が期待される.
著者
野崎 健太郎 紀平 征希 山田 浩之 岸 大弼 布川 雅典 河口 洋一
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.165-172, 2005-01-30 (Released:2009-01-19)
参考文献数
33
被引用文献数
3 1

標津川下流域(北海道標津町)に位置する浅い河跡湖(最大水深2m)の水質環境(水温,水中光の消散係数,溶存酸素,窒素,リン,クロロフィルa)を2001年7月21日,11月17日,2002年7月30日に調査した.水温は7月には地点間,水深間で10~24℃の違いが観察された.11月にはほぼ5℃で均一であった.溶存酸素濃度は常に10mg L-1以上を示し,最大値は,25mg L-1,飽和度で250%に達し,2001年7月21日に湖底付近で観察された.高い溶存酸素濃度が得られた地点は,水深が60~100cmで,表層より水温が5~10℃低く(10~15℃),大型糸状緑藻Spirogyra sp.が繁茂していた.湖水中の溶存態窒素濃度は,4~250μg L-1の幅で変動し,7月に大きく低下した.リン酸態リン濃度は,7~14μg L-1の幅で変動したが,溶存態窒素に比べて変動の幅は小さかった.懸濁態のリン量は33~35μg L-1,クロロフィルa量は10~13μg L-1であり,おおよそ一定であった.夏期の湖水中の全リン濃度とクロロフィルa量は,この河跡湖が中栄養と富栄養の中間の水質を持つことを示した.水中光の消散係数は,1~2m-1であり,富栄養湖の最大値に匹敵した.湖水中のクロロフィルa量は富栄養湖ほど多くはないので,水中光を大きく減らしているのは,植物プランクトン以外の懸濁物質や溶存有機物であると考えられる.河跡湖周辺の原風景が低湿地であったことを考えると,この河跡湖は湿地に多く見られる腐植栄養的な性質を持つ水環境である可能性が高い.これらの研究結果から,河跡湖の水質環境は,現在の標津川本川とは大きく異なっており,むしろ,かつての低湿地環境が残存している場であることが推定される.
著者
小笠原 永久 千葉 矩正 山田 浩之 Xi CHEN
出版者
The Japanese Society for Experimental Mechanics
雑誌
実験力学 (ISSN:13464930)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.26-32, 2012-03-28 (Released:2012-09-28)
参考文献数
13
被引用文献数
1

An identification method with a sharp indentation for elastoplastic properties of film/substrate system is proposed. The method is based on extensive finite element computation on "soft film on hard substrate" cases indented with a sharp indenter. The method utilizes the substrate effect on load versus displacement relation in the indentation; this effect has often been regarded as undesirable. The computational results are expressed as response surfaces in a material parameter space. Based on the surfaces, and employing experimentally obtained load versus displacement relation, the elastoplastic properties of the film are identified. To determine the elastoplastic properties more accurately, it is important to use not only the loading curve but also the unloading curve. Numerical examples determined by this method for film/substrate system are given.
著者
山田 浩之 河崎 昇司 矢沢 正士
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学論文集
巻号頁・発行日
vol.18, pp.495-500, 2004

本研究は、水生生物の多様度・現存量および水質に着目して、アイガモ農法が採用されている水田の現状を把握し、さらに、慣行農法が採用されている水田との比較によって、アイガモ農法が水田の生物相や水質に及ぼす影響について検討した。その結果、水質に関しては、アイガモの移動に伴う水田土壌の巻上げや攪拌による懸濁物質やリンの増加、糞尿によるアンモニア態窒素の増加とその硝化による硝酸態窒素の増加が生じるという特徴があった。いっぽう、生物相に関しては、アイガモ農法水田で生物相の種数および固体数が低下する傾向があり、水田生態系を構成する生物相の多様度や現存量の低下が懸念された。
著者
中村 太士 中村 隆俊 渡辺 修 山田 浩之 仲川 泰則 金子 正美 吉村 暢彦 渡辺 綱男
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.129-143, 2003
参考文献数
33
被引用文献数
6

釧路湿原の多様な生態系は, 様々な人為的影響を受けて, 劣化ならびに消失しつつある. 大きな変化である湿原の樹林化は, 流域上地利用に伴う汚濁負荷の累積的影響によって起こっていると推測される. 汚濁負荷のうち特に懸濁態の微細粒子成分(ウォッシュロード)は, 浮遊砂量全体の約95%にのぼる. 既存研究より, 直線化された河道である明渠排水路末端(湿原流入部)で河床が上昇し濁水が自然堤防を乗り越えて氾濫していることが明らかになっている. Cs-137による解析から, 細粒砂堆積スピードは自然蛇行河川の約3〜8倍にのぼり, 湿原内地下水位の相対的低下と土壌の富栄養化を招いている. その結果, 湿原の周辺部から樹林化が進行しており,木本群落の急激な拡大が問題になっている. また, 東部3湖沼の中でも達吉武沼流域では, 土壌侵食ならびに栄養足負荷の流入による達吉武沼の土砂堆積, 水質悪化が確認されており, 水生生物の種数低下が既存研究によって指摘されている.ここではNPO法人トラストサルン釧路と協働で, 自然環境漬報の集約にもとづく保全地域,再生地域の抽出を実施している. また, 伐採予定だったカラマツ人工林を買い取り, 皆伐による汚濁負荷の流出を防止し自然林再生に向けて検討をすすめている. 湿原南部には1960年代に農地開発されたあと, 放棄された地区も点在しており,広里地域もその一つである. この地域は国立公園の最も規制の緩い普通地域に位置しており, 湿原再生のために用地取得された. ここではタンチョウの1つがいが営巣・繁殖しており, 監視による最大限の注意を払いながら, 事前調査結果にもとづく地盤据り下げならびに播種実験が開始されている. 釧路湿原の保全対策として筆者らが考えていることは,受動的自然復元の原則であり, 生態系の回復を妨げている人為的要因を取り除き, 自然がみずから蘇るのを得つ方法を優先することである. さらに, 現在残っている貴重な自然の抽出とその保護を優先し可能な限り隣接地において劣化した生態系を復元し広い面積の健全で自律した生態系が残るようにしたい. そのために必要な自然環境情報図も環境省によって現在構築されつつあり, 地域を指定すれば空間的串刺し検索が可能なGISデータベースがインターネットによって公開される予定である.
著者
山本 健 山近 重生 今村 武浩 木森 久人 塩原 康弘 千代 情路 森戸 光彦 山口 健一 長島 弘征 山田 浩之 斎藤 一郎 中川 洋一
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.106-112, 2007-09-30 (Released:2011-02-25)
参考文献数
23
被引用文献数
16

ドライマウスにおける加齢の関与を検討するため, 2002年11月から2007年4月までに鶴見大学歯学部附属病院ドライマウス専門外来を受診した2, 269名を対象に, 1.性別と年齢, 2.主訴・受診の動機, 3.全身疾患, 4.常用薬剤, 5.唾液分泌量, 6.ドライマウスの原因の集計を行い, 次のような結果を得た。1) 受診者の男女比は17: 83であり, 男女とも50歳代から受診者数が増加し, 女性では60歳代, 男性では70歳代の受診が最も多かった。2) 65歳未満と比較し, 高齢者では男性の受診率が増加しており, 高齢者での性差の縮小がみられた。3) 口腔乾燥感を主訴とする受診者は44.1%であり, 口腔粘膜の疼痛 (28.7%), 唾液や口腔内の粘稠感 (8.3%), 違和感・異物感 (7.1%), 味覚異常 (3.1%), 口臭 (1.9%) の順に多かった。4) 全身疾患は, 高血圧が30.7%に認められ, 次に脳血管障害を含む精神・神経系疾患 (25.4%) が多かった。5) 非シェーグレン症候群性ドライマウスは92.5%にみられた。6) シェーグレン症候群は, 全調査対象の7.0%であり, そのうち65歳以上の高齢者が53.5%を占めていた。以上のような結果から, ドライマウスの成立機序には加齢に伴う複合的な要因の関与が示唆された。
著者
山田 浩之 河崎 昇司 矢沢 正士
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学論文集 Vol.18(第18回環境研究発表会)
巻号頁・発行日
pp.495-500, 2004 (Released:2007-01-12)

本研究は、水生生物の多様度・現存量および水質に着目して、アイガモ農法が採用されている水田の現状を把握し、さらに、慣行農法が採用されている水田との比較によって、アイガモ農法が水田の生物相や水質に及ぼす影響について検討した。その結果、水質に関しては、アイガモの移動に伴う水田土壌の巻上げや攪拌による懸濁物質やリンの増加、糞尿によるアンモニア態窒素の増加とその硝化による硝酸態窒素の増加が生じるという特徴があった。いっぽう、生物相に関しては、アイガモ農法水田で生物相の種数および固体数が低下する傾向があり、水田生態系を構成する生物相の多様度や現存量の低下が懸念された。
著者
石川 真志 八田 博志 笠野 英行 小笠原 永久 山田 浩之 宇都宮 真
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は赤外線サーモグラフィを用いた大型の構造物の効率的な非破壊検査手法の開発を目標として検討を行った。実験の結果、アクティブサーモグラフィ検査時の加熱方法としてレーザー走査加熱を利用することで、10 m遠方に位置する対象物であっても内部の欠陥検出が可能であることが確認された。また、温度データへのフーリエ変換により得られる位相画像を利用することで、欠陥検出が容易となること、および高周波数の位相画像に注目して検査を行うことで検査時間の短縮が可能であることも確認された。これらの技術を組み合わせることで、高効率かつ高精度な検査の実現が期待される。
著者
山田 浩之 新井 益洋 安田 秀穂
出版者
Japan Association for Cultural Economics
雑誌
文化経済学 (ISSN:13441442)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.49-55, 1998-10-31 (Released:2009-12-08)
参考文献数
29

東京都内の芸術文化活動による経済波及効果を産業連関表を用いて分析したところ、東京都地域内では、建設工事や土木工事に投資するよりも芸術文化に投資した方が大きな効果をもつことが判明した。また、芸術文化活動による経済波及効果を東京都地域とニューヨーク・ニュージャージ大都市圏とで比較すると、東京都地域の方が経済波及効果が低くなっており、東京都地域において芸術文化が経済を活性化する力は今後一層、強まる可能性がある。
著者
山田 浩之
出版者
北海道大学大学院農学研究院
雑誌
北海道大学大学院農学研究院邦文紀要 (ISSN:18818064)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.79-85, 2010-02-26

In 2004, a restoration project was conducted in the Sakusyukotoni River, a tributary of the Shin River, at Hokkaido University. The water environment and fish assemblage were investigated after the project in 2007. Water quality was good, meeting environmental quality standards, but the assemblages were poor. Only four species were present -ninespine stickleback (Pungitius pungitius), stone loach (Noemacheilus barbatulus toni), shima-ukigori (Gymnogobius opperiens) and dojo loach (Misgurnus anguillicaudatus)- in spite of higher diversity in the main stem, Shin River. In the near future, it might be necessary to manage or restore habitats for lotic biota.
著者
渡辺 恵三 中村 太士 加村 邦茂 山田 浩之 渡邊 康玄 土屋 進
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.133-146, 2001-12-27 (Released:2009-05-22)
参考文献数
55
被引用文献数
24 21

本研究では河川構造の空間スケールの階層性および関連性に着目し,河川改修が底生魚類の分布よび生息環境におよぼす影響を明らかにすることを目的とした.調査は,1998年9月から1999年9月までの1年間,石狩川水系真駒内川において施設整備の異なる約2km区間を河道区間スケール(護岸区間,自然区間,流路工区間)として設定し,各区間を通過する物質量を測定した.さらに各河道区間内において瀬と淵を流路単位スケールとして設定し,各流路単位における底生魚類と生息環境の関係の解析をおこなった.ハナカジカの生息密度は,自然区間,護岸区間に比べて流路工区間で著しく低かった.しかし,フクドジョウの生息密度は河道区間による差はみられなかった。パナカジカの生息密度が低かった流路工区間では自然区間,護岸区間と比較して河床の特性に違いが認められ,特に小粒径砂礫が多く,浮き石が少なかった.また,ハナカジカの生息密度は,巨礫と浮き石の割合に強い正の相関が認められた.このことから,流路工区間で生息密度が低かったのは,生息環境や産卵環境および避難場所として利用可能な巨礫や浮き石の減少によるものと考えられた.流路工区間の瀬において巨礫や浮き石の割合が自然区間および護岸区間に比べて低かったのは,河道区間スケールの影響として増水時における掃流力の低下にともなう小粒径砂礫の堆積および河床が動きづらくなったことすなわち攪乱が起こりにくくなったことが考えられた.さらに,流路単位スケールにおいては,平水時における微細粒子の被覆・堆積によるものと考えられた.このように,河道区間スケールおよび流路単位スケールの階層性のある各空間スケールに関連した要因によって,ハナカジカの主な生息場所である瀬の河床材料およびその状態が改変した結果,流路工区間においてハナカジカの生息密度は低かったと考えられる。
著者
上 剛司 山田 浩之 小笠原 永久
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 (ISSN:21879761)
巻号頁・発行日
vol.83, no.856, pp.17-00261-17-00261, 2017 (Released:2017-12-25)
参考文献数
37
被引用文献数
1

Indentation tests are used to determine the local mechanical properties of materials. Previously, the indentation strain rate was correlated with the strain rate in uniaxial tests based on the hardness, which was the obtained load divided by the cross-sectional area. However, the hardness can be influenced by pile-up of material after indentation. The purpose of this study was to relate the indentation strain rate with the uniaxial strain rate through serration behavior. The material used in this study was 5082 aluminum alloy, whose main alloying elements are aluminum and magnesium, and which is known to exhibit serration at certain temperatures and strain rates. Quasi-static uniaxial tensile tests were performed at strain rates from 10-4 to 10-1 s-1 at room temperature. Micro-indentation using a Berkovich indenter was performed at constant loading rates from 0.7 to 350 mN/s. The loading curvature, which was defined as the load divided by the square of the displacement, was used instead of the hardness to avoid the pile-up effect. As a result, the serrated loading curvature in the indentation tests was obtained as the decreasing loading rate. The effective strain rate, which was defined as the derivative of the load with respect to time divided by two times the applied load, decreased with increasing displacement. The serrated loading curvature changed its behavior as the effective strain rate decreased. It behaved similarly to the serration observed in uniaxial tensile tests. It was found that the indentation strain rate is correlated with the strain rate in uniaxial tensile tests through the serration behavior.
著者
田中 祥人 山田 浩之
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 = Ecology and civil engineering (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.91-101, 2011-12-31
参考文献数
29

2006年に北海道北部に国内で 2 基目となるハイブリッド伏流式人工湿地が設置された.自然の浄化能力を応用したこの湿地は,浄化能力の高さが認められ,最近注目を集めている.しかし,その処理水は依然として高い環境負荷を持っていることが考えられ,それが流入する河川の生物生息場環境の悪化が懸念される.この人工湿地だけではなく水系全体として浄化機能を発揮し,更なる環境との調和を展開するためには,その処理水の流入河川の生物の生息場所を悪化させないように,河川の浄化能力に適した処理水の負荷量に設定される必要がある.しかし,そうした高負荷の処理水が流入する小河川での水環境や生物相に関する報告は限られていることから,まずはその処理水の影響について事例を蓄積しておく必要がある.そこで,本研究では人工湿地の処理水が流入する酪農地域の小河川で水環境および生物相の実態を把握し,さらに生残実験によって処理水が水生生物に及ぼす影響について検討することを目的とした.生物相・生息場所環境調査の結果,処理水の流入する下流区間ではその上流区間と比べて DO 濃度が低く,NH<sub>4</sub><sup>+</sup> 濃度,COD 濃度が高いことがわかった.また,出現する生物種は少なく,極めて貧弱な生物相であることがわかった.下流区間のみで低酸素の環境に耐性をもつユスリカ科の一種が優占していたのも特徴的であった.調査地近隣に生息しているオオエゾヨコエビ,スジエビ,ドジョウの 3 種を対象に生残実験を行った.その結果,各種の生残率は上流と比べて下流区間で低くなった.各種生残率と環境変量に対して相関分析を行った結果,各種生残率は DO 濃度,NH<sub>4</sub><sup>+</sup> 濃度,COD との間に強い相関が認められた.これは有機物の酸素消費に伴う DO 濃度低下と NH<sub>3</sub> 毒性の影響によるものと考えられた.対象河川の生物種が少なかったのは,人工湿地運用前の有機汚濁の影響が大きいと考えられる.しかし,生残実験結果から処理水流入にともなう溶存酸素低下やアンモニアの毒性など,運用後も生物の生存を制限する要因が残存していることがわかった.今後は酪農雑排水に起因する有機汚濁の生物相に対する影響や生物の耐性をさらに詳しく調べるとともに,物質収支解析などの定量評価に基づいて,処理水放流による自然河川の変化を予測できるようにする必要がある.それらを踏まえて,河川の浄化能力に収まる処理水の負荷量が設定されることが望まれる.
著者
藤井 敏嗣 吉本 充宏 石峯 康浩 山田 浩之
出版者
山梨県富士山科学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

山小屋の屋根構造の落石や噴石などの岩石の衝突に対する強度を明らかにするために、富士山の山小屋で使用されている杉の野地板を用いた屋根構造に噴石を模した飛翔体を衝突させる実験をH28年度に引き続き実施した。屋根構造の簡易的な強化策を検討することを目的に、杉板2層を重ね合わせた構造を検討することとした。衝突実験は、H28年度と同様に防衛大学校所有の圧縮空気によって飛翔体を噴射させる高速投射型衝撃破壊試験装置を使用した。飛翔体は昨年度と同様にビトリファイド砥石(2421 ㎏/m2)、直径90mm、質量2.66kgを使用した。本実験では、飛翔体の質量を固定したため、速度を変化させることで運動エネルギーを変化させた。飛翔体速度は20m/s~50m/s(衝突エネルギーは約1000J~3600J)の範囲で行った。基本構造は、杉板2層を重ね合わせた表面に、防水シート(厚さ約1mm)とガルバリウム鋼板(厚さ約0.4mm)を取り付けたものに垂木を組み合わせた。杉板の重ね合わせ方は、1枚目と2枚目を直交させるように重ね合わせるクロス型と平行に重ね合わせるスタッカード型の2種類を作成した。実験結果より杉板の貫通限界エネルギーは、板厚15mmのクロス構造において2100~2700J、板厚15mmのスタッガード構造において1200~1900J、板厚18mmのクロス構造において2500~3000J、板厚18mmのスタッガード構造に1300~2400J付近と求めることができた。すなわち、板厚に関わらず、クロス構造はスタッガード構造に比べて高い衝突エネルギーにおいて貫通の境界が現れた。そのため、杉板を2枚重ねて木造建築物屋根を作製する場合、クロス構造の方が噴石衝突に対する木造建築物の安全性が高いといえる。
著者
稲垣 洋三 坂本 耕二 井上 泰宏 今西 順久 冨田 俊樹 新田 清一 小澤 宏之 藤井 良一 重冨 征爾 渡部 高久 山田 浩之 小川 郁
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.12, pp.912-916, 2011 (Released:2012-01-28)
参考文献数
15
被引用文献数
1 3

[背景] 甲状腺乳頭癌 (以下PTC) の頸部リンパ節転移の診断法としては画像検査や穿刺吸引細胞診 (以下FNAC) が一般的であるが, 原発巣が微細でかつ頸部リンパ節転移が単発嚢胞性の場合には診断に苦慮することがある. このような症例には穿刺液中サイログロブリン (以下FNA-Tg) 測定が有用といわれているが, PTC転移以外の嚢胞性病変も含めた検討は少ない. 今回われわれは, PTC転移およびそれ以外の頸部嚢胞性病変のFNA-Tgを測定し, PTC転移に対する補助診断としての有用性を検討した. [対象] 2006年7月~2009年2月に頸部嚢胞性病変またはPTCの嚢胞性頸部リンパ節転移を疑う病変に対し, 手術を施行し病理組織学的診断が確定した17例. [方法] 超音波ガイド下に (一部症例は術後検体より) 穿刺採取した嚢胞内容液のFNA-Tg値を測定し, FNACおよび病理診断との関係について検討した. [結果] FNA-TgはPTC転移例のみ異常高値を示したのに対し, 側頸嚢胞例では測定感度以下, 甲状舌管嚢胞例では血中基準値範囲ないし軽度高値であった. [結論] FNA-Tg高値はPTC転移を示唆する有力な所見で, 特にFNACで偽陰性を示すPTC嚢胞性リンパ節転移と側頸嚢胞との鑑別に有用であった. FNA-Tg測定の追加によりFNAC施行時に新たな侵襲を加えずに術前正診率を向上させられる可能性が示唆された.