著者
森 将 岸上 靖幸 伊藤 泰広 金 明 森部 真由 柴田 崇宏 稲村 達生 上野 琢史 山田 拓馬 竹田 健彦 宇野 枢 田野 翔 鈴木 徹平 小口 秀紀
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.182-188, 2021 (Released:2021-05-10)
参考文献数
23

症例は35歳,妊娠35週3日.吐血によるショックバイタルと意識障害の事前情報で当院に救急搬送された.消化管出血はなく,舌咬傷と口腔内出血がみられ,血圧182/130mmHg,尿蛋白定性は4+であった.胎児心拍数は70-100bpmと胎児徐脈を認めた.子癇による痙攣後の意識障害と,舌咬傷による口腔内出血,痙攣に伴う低酸素血症による胎児機能不全と診断した.ニカルジピン塩酸塩,硫酸マグネシウム投与後に母体循環動態,胎児心拍数は改善した.MRIではPRESの所見を認め,意識障害が遷延するため,緊急帝王切開を施行した.分娩後,意識障害,PRESの所見は改善し,血圧も安定し,術後11日目に退院となった.児は日齢18で退院となり,その後,発達に異常はみられていない.子癇では母体治療により児の状態改善も期待できるため,妊婦の意識障害では,常に子癇を鑑別に挙げることが重要である.また,舌咬傷による口腔内出血を吐血と誤診する可能性も念頭に置く必要がある.
著者
山田 恭聖
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.227-234, 2022-11-25 (Released:2023-05-25)
参考文献数
26

新型コロナウイルスに罹患した妊婦においては周産期予後が懸念される.流行開始から2年半が経過する中で,妊娠合併症や新生児予後を含む多くの報告がなされている.2021年にはいくつかの国レベルの調査(イギリス,スウェーデン,スペイン)が報告された.これらによれば,陽性妊婦から出生した新生児のPCR陽性率は1.6-5%と想定されている.また現時点でSARS-CoV-2の胎盤を通じての胎児への移行は報告されていない.最近新型コロナウイルス感染妊婦やその新生児の健康に対する影響を評価したシステマティックレビューが複数報告されている.これらによれば,新型コロナウイルス感染妊婦は非感染妊婦に比較し妊娠高血圧腎症(オッズ比1.3-1.6倍),早産(オッズ比1.6-1.9倍)が増加すると報告されている.小児多系統炎症症候群(MIS-C)は新型コロナウイルス感染後に発症する免疫誘導状況である.新生児多系統炎症症候群(MIS-N)は母体SARS-CoV-2に関連し,MIS-Cに矛盾しない症状を呈する.抗体の経胎盤移行が原因と推定されているが不明な点も多い.新型コロナウイルス感染症既往歴のある妊婦から出生した新生児で,多系統の炎症による異常徴候を説明する鑑別診断としてMIS-Nを検討する必要があると思われる.最新の知見によれば出生後の新生児が入院中に感染を獲得するリスクは低いと推察されている.さらに,母乳中に明らかに感染性のあるウイルスは検出されていない.最近のこれらデータの蓄積により世界的には母児分離を避けることが推奨されている.しかし国内の多くの施設では新生児はいまだに感染母体と分離されている.これらの厳格な感染管理によって引き起こされる負の影響が懸念される.
著者
山田 俊弘
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会年会論文集 37 (ISSN:21863628)
巻号頁・発行日
pp.448-449, 2013-09-06 (Released:2018-05-16)

科学者が科学教育政策に関与する場面はいろいろ想定される。本稿では戦前から戦後初期にかけての地質学者と地学教育の関係についての事例を追い,その地学教育論の変遷,教育改革に果たした役割を検討する。この作業によって,一見断絶しているかにみえる戦中-前後期の議論の連続性を明確にする一方,特に「地学」という教育上のカテゴリーの形成と学問領域の認知(境界画定)との関係に注目しつつ,不連続性の側面,言い換えると戦後地学教育の新規性について議論する。
著者
山田 俊弘
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

日本地球惑星科学連合の英語表記は Japan Geoscience Union となっており,Geo (地球)関連学会の連合組織であることを示唆している.言い方をかえれば earth science のことであるが,これは戦後発足した地学教育の「地学」earth sciences に通じる.「地学」には天文分野も含まれており,ある意味では現在の「地球惑星科学」に近い内容だからである.しかしこうした領域設定がどのような背景で1940年代の時点で出て来たのか必ずしも十分に説明されていない.戦後地学教育の成立に主導的な役割を果たした地質学者の一人小林貞一 (1901–1996) の足跡を追うことによってこの問いに答えられないか検討してみたい.​ 小林が1942年に公にした地学教育の振興策についての論考ではすでに「地学を地球を対象とする諸学の総称と解するのが最も適切であろう」として,地球を宇宙の一天体として見る天文学や,固体地球物理学,海洋学,気象学まで含めていた (小林 1942: 1474).戦後になるとその主張は明確化し,「地学」とは「地球の科学 (Earth Sciences) の事である」として,古今書院の地学辞典 (1935) や旧制高校の地学科の内容を例に,地質学を主体としつつ地球物理や測地,地球化学,天文気象,気候,海洋,湖沼等を含めた分野と定義した (小林 1946 : 17).同じ時期に地学教育を推進した藤本治義 (1897–1982) が地質学鉱物学を中心に「地学」を考えていたことをみれば,小林の認識の新しさがわかる.​ このような小林のある種の確信に満ちた主張の背景には1930年代までに知られるようになってきた宇宙の進化や太陽系の形成についての諸説があったと考えられる.​ たとえば天文学者の一戸直蔵 (1878–1920) が翻訳したアレニウス (Svante August Arrhenius, 1859–1927) の関係書は,『宇宙開闢論史』(小川清彦と共訳)(1912年),『宇宙発展論』 (1914年),『最近の宇宙観』 (1920年) と出版されていた.一方,京都帝大で宇宙物理学の分野を開拓した新城新蔵 (1873–1938) の天文関係書には,『宇宙進化論』 (1916年),『天文大観』 (1919年),『最新宇宙進化論十講』 (1925年),『宇宙大観』 (1927年) などがある.またハッブル (Edwin Powell Hubble, 1889–1953) の The Realm of the Nebulae が『星雲の宇宙』として翻訳されたのは1937年のことだった(相田八之助訳、恒星社).​ 小林が京都時代に新城の一般向けの講演を聞いたかどうかわからないが,1930年代にアメリカで在外研究をした際に,ヨーロッパを含む多くの博物館を見学したことも考慮に入れると,このころまでの地球像の提示が宇宙や太陽系の生成を含むものになっていたことを実感していたことが彼のジオサイエンス観の背景にあったと推測されるのである.引用文献小林貞一 1942: 地学の特質と教育方針, 地理学, 10, 1473-1494.小林貞一 1946: 地学とは何ぞや, 地球の科学, 1-1, 17–19.
著者
臼田 宏治 木村 健次郎 小林 圭 山田 啓文
出版者
公益社団法人 日本表面科学会
雑誌
表面科学 (ISSN:03885321)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.84-90, 2007-02-10 (Released:2007-03-20)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

We introduce scanning capacitance force microscopy (SCFM), a newly developed dopant profiling method, and a 3-dimensional wiring procedure enabling evaluation of dopant profile under metal-oxide-semiconductor field-effect-transistor (MOSFET) operation. The principle of the SCFM is based on measurement of an electrostatic force (ESF) that is induced by bias voltage of angular frequency ω between a tip and a sample. The focused ion beam (FIB) technique was employed to evaluate dopant profile for the cross-section of MOSFET devices under the device operation. Local etching, deposition, and formation of small wiring for the specified MOSFET were successively carried out with the FIB, and the variation of dopant profiling was clearly shown with applying voltage to the MOSFET. These techniques are expected to be utilized for the failure analysis and the development of next-generation devices.
著者
細山田 康恵 山田 正子
出版者
日本補完代替医療学会
雑誌
日本補完代替医療学会誌 (ISSN:13487922)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.43-49, 2020-05-26 (Released:2020-06-09)
参考文献数
22
被引用文献数
1

目的:ラットに高脂肪食で魚油と酒粕を添加し,血清脂質濃度や不安行動へ及ぼす影響について検討することを目的とした. 方法:5 週齢のSD 系雄ラットに大豆油(コントロール),大豆油+酒粕,魚油,魚油+酒粕の実験飼料を18 日間摂取させた.対照群に大豆油を用いた.血清脂質濃度や不安行動などの測定を行った. 結果:血清コレステロール濃度はコントロール群と比較し,魚油+酒粕群で有意に低値を示した.血清トリグリセリド濃度および遊離脂肪酸濃度については,魚油群と魚油+酒粕群で有意に低値を示した.不安行動では,コントロール群と比較し,酒粕群でオープンアームの滞在時間が有意に高値を示した. 結論:魚油と酒粕の同時摂取が血清コレステロール濃度の上昇抑制に有効であり,脂質異常症の予防や改善に役立つと考えられる.また,酒粕摂取は不安行動の抑制に有効であると期待される.
著者
山田 和豊 喜久田 啓明 古川 雅人 郡司嶋 智 原 靖典
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集B編 (ISSN:18848346)
巻号頁・発行日
vol.79, no.801, pp.900-916, 2013 (Released:2013-05-25)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1

Flow fields near rotating stall inception in a low-speed axial compressor rotor with two different tip clearances have been investigated by instantaneous measurements of casing wall pressure distributions using 30 high response pressure transducers and by detached eddy simulations (DES) using 120 million grid points. It is found that the stall inception process in the large tip clearance case is dominated by the breakdown of the rotor tip leakage vortex, in contrast to the spike-type stall inception in the small tip clearance case which is dominated by the leading-edge separation near the rotor tip. The vortex breakdown induces the large oscillation of the tip leakage vortex with its unsteady nature, resulting in the low-pressure regions in the instantaneous casing wall pressure field and the high pressure fluctuation region on the pressure side of the adjacent blade tip in the ensemble-averaged casing wall pressure field. The large blockage effect due to the tip leakage vortex breakdown causes the rotating disturbance propagating in the circumferential direction, which can appear and disappear with a slight change in the flow rate.
著者
山田 哲久 名取 良弘
出版者
特定非営利活動法人 日本脳神経外科救急学会 Neurosurgical Emergency
雑誌
NEUROSURGICAL EMERGENCY (ISSN:13426214)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.1-5, 2023 (Released:2023-09-21)
参考文献数
14

新型コロナウイルス感染症の流行や緊急事態宣言の発令で人々の生活は感染対策が中心となった.この状況下で脳神経外科疾患の症例数に変化が生じたか検討した.当院脳神経外科で2017年1月から2022年12月までに入院加療を行った症例を対象とした.対象症例を2017年~2019年まで(コロナ禍前)と2020年~2022年まで(コロナ禍)に分けて,総数および脳腫瘍,脳血管障害,神経外傷,慢性硬膜下血腫,その他に分けて前後で症例数を比較した.コロナ禍前の年平均値とコロナ禍の年平均値は総数および脳血管障害以外で減少していた.総数は2020年に減少し,2021年は変化なし,2022年にさらに減少していた.脳腫瘍,脳血管障害は2020年に減少し,2021年以降はコロナ禍前に戻っていた.神経外傷,その他は,2020年に減少し,2021年は変化なし,2022年にさらに減少していた.慢性硬膜下血腫は,2020年は変化なし,2021年に減少し,2022年は変化なしであった.病院側の要因と患者側の要因が考えられた.外出の自粛で交通量を減少させることで神経外傷が減少した可能性が考えられた.
著者
瀧 健治 爲廣 一仁 古賀 仁士 石橋 和重 松尾 由美 平尾 朋仁 山田 晋仁
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.607-613, 2023-10-31 (Released:2023-10-31)
参考文献数
19

目的:抵抗力が弱い重篤な患者や重症外傷患者を扱う医療施設で,衛生環境維持は重要な課題であり,抗菌加工剤のNRC(nano revolutionary carbon)の使用が衛生環境維持に有益か,実験的に検討する。方法:標準ブドウ球菌(以下,ブドウ球菌)・標準カンジダ菌(以下,カンジダ菌)・浮遊微生物菌を用いて,NRCの①細菌との接触時間,②抗菌活性の持続期間,③「抗菌加工」剤の二酸化塩素(クレベリン®,以下クレベリン)の抗菌活性持続期間,および④浮遊微生物菌へNRCの抗菌効果,を比較検討した。結果:NRCの抗菌効果/ 活性には細菌と30分以上の接触時間が必要で,抗菌活性の持続期間はブドウ球菌で約1年,カンジダ菌で2年6カ月とクレベリンの場合より長く,浮遊微生物菌にも有効な抗菌効果を確認した。結論:NRCの抗菌活性期間と浮遊微生物菌への効果から,抗菌加工剤のNRCは衛生環境維持に効果的であると実験的に評価した。
著者
山田 理恵
出版者
一般社団法人 日本体育・スポーツ・健康学会
雑誌
体育学研究 (ISSN:04846710)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.15-30, 1989-06-01 (Released:2017-09-27)

The purpose of this paper was to clarify the influnce of the activities of German war-prisoners in the Bando P.O.W. (prisoner of war) Camp on the development of sport and physical education in Tokushima where the Camp was located. The historical materials used for this paper were collected mainly from newspapers and "Keibi-Keisatsukan-Hokokusho" which was a report on the German prisoners' life in the Bando P.O.W. Camp written by Japanese police sergeants. The findings of this study were summarized as follows: Students and teachers of some elementary and secondary schools went to see German prisoners, activities such as Turnen, football, tennis, and hockey. And several prisoners visited schools to coach them for Turnen. In "German war-prisoners' variety show", German prisoners introduced their Turnen and sport activities such as gymnastics, wrestling, boxing, weight lifting and dance to students and people in Tokushima. "Japan Martial Arts Association Tokushima Branch" set up "Meeting for the Study of German Martial Arts" and invited eleven German prisoners to perform wrestling, boxing and fencing matches. Then the Association sent two Japanese members to the Camp to do further study of those activities. This friendly communications with people of Tokushima which was brought from the German war-prisoners' Turnen and sport activities gave a significant influence on sports in Tokushima, and this fact should not be neglected in the consideration of the history of sport and physical education in Japan.
著者
山田 孝良 立松 憲親 内藤 清 鈴木 健夫
出版者
Japanese Society for Oral Health
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.117-124, 1966 (Released:2010-10-27)
参考文献数
21

Significance of changes in the teeth especially Hutchinson and Fournier teeth among student of schools for the blind and deaf was reported from our Department about 10 years ago. In order to assess the recent situation, 124 students were examined in a school for the blind concerning the intraoral state from an odontological point of view.Abnormalities in the development and morphology of the teeth, degree of carious state, pyorrhea, state of the cleaning of the oral cavity, presence of deposition around the teeth, and relationship with diseases of the eye were investigated. No difference was found between students in the school for the blind and other healthy subjects concerning the degree of carious state, alveolar pyorrhea, state of the cleaning of the oral cavity, and deposition around the teeth. In 4 students Hutchinson and Fournier teeth were noted simultaneously, while Hutchinson teeth alone were noted in 1 and Fournier teeth alone were seen in 8. Among those, congenital complete or almost complete blindness was seen in 8 and acquired complete or almost complete blindness was seen in 5, indicating a pronounced decrease as compared with the result of 10 years ago.
著者
谷口 葉子 加納 裕也 北村 太郎 三浦 敏靖 山田 健太郎
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.239-242, 2021 (Released:2021-04-21)
参考文献数
14
被引用文献数
5

症例は1ヶ月前に三叉神経第一枝領域の帯状疱疹をアメナメビル内服で治療された78歳女性.帯状疱疹後神経痛に対し入院治療中に左片麻痺が出現し,頭部MRIで右放線冠に急性期梗塞を認め転院した.発熱と意識障害がみられ,髄液検査と頭部造影MRIで帯状疱疹性髄膜脳炎と脳血管炎の合併と診断した.抗血栓療法に加えアシクロビル点滴とステロイドパルス療法で加療したが,意識障害が遷延した.アメナメビルは髄液移行性がほとんどないため,結果的に脳神経領域の帯状疱疹に対して不完全な治療となり,本例が重症化した経過に関連している可能性が示唆された.
著者
山田春樹編
出版者
笹氣出版印刷
巻号頁・発行日
2011
著者
加藤 博史 小澤 亘 小川 栄二 マーサ メンセンディー 山田 裕子 石川 久仁子 牧田 幸文 森田 ゆり
出版者
龍谷大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

在日コリアンや中国からの帰国者は、言葉や習慣の壁を持って地域で生きている。中でも、高齢者、障害者は特別な生活支援が必要であり、その充実の方策を探る調査を京都市において行った。調査の結果、「福祉関係者を知っている人」は、日本人43%、コリアン32.6%、中国帰国者20%、「不幸感をもつ人」は、日本人6.4%、中国帰国者10%、コリアン20%であった。また、「幸福感をもつ人」は、日本人44.5%、コリアン35.7%、中国帰国者10%であった。その他のデータからも、日本に暮らす外国籍の人や外国の風習を身につけた人たちの生活支援の必要性と地域の人たちとつなぐ機能の必要性を明らかにしえた。