著者
池田 安隆 岡田 真介 田力 正好
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.118, no.5, pp.294-312, 2012-05-15 (Released:2012-10-05)
参考文献数
100
被引用文献数
10 22 5

東北日本弧においては,測地学的観測で検出された水平短縮歪み速度が地質学的に観測される歪み速度よりおよそ一桁大きい.同様の不一致は垂直変動速度に関しても存在する;太平洋岸で急速な沈降が観測される一方で,第四紀後期の旧汀線高度は緩慢な隆起を示す.これは現在急速に蓄積している地殻歪みの大部分が弾性歪みであり,プレート境界の固着部分がすべることで解消されるということを示している.しかし,過去100年間に起こったMw 708級の海溝型地震は歪み解放に寄与していない.したがって,プレート境界の固着面全体がすべる巨大歪み解放イベントが存在するはずであり,2011年東北地方太平洋沖地震はこのような固着解放イベントであると考えられる.東北日本では幅広い固着領域の浅部のみが地震時にすべり,割れ残った深部固着域で余効すべりが起こるらしい.このような深部固着は,他の超巨大地震発生帯には存在しない可能性が高い.日本海溝に沈み込んでいるプレートの年齢は極めて古く従って低温であるから,このように深い固着域が存在するのは熱的な原因によると考えられる.
著者
岡田 真人
出版者
物性研究刊行会
雑誌
物性研究 (ISSN:05252997)
巻号頁・発行日
vol.91, no.5, pp.427-458, 2009-02-20

統計力学は,気体の分子の運動のようなミクロ記述とボイルシャルルの法則のようなマクロ記述とをつなぐ学問です.統計力学を学ぶと,我々はミクロからマクロへつながる階層的な構造が自然界のいたるところに存在することを意識し,物理学の枠組みを超えて統計力学が活躍できるような気がしてきます.脳にある百億以上の神経細胞の活動から,我々の意識や感情が生じています.0と1のビットがある種のルールに従って並ぶと,そのビット系列は画像や音声などの意味ある情報になります.このように脳や情報にもミクロとマクロの階層性が存在します.これらを統計力学的に議論できるととても素敵だと思いませんか.実はその扉の鍵はスピングラス・レプリカ法に代表されるランダムスピン系の統計力学にありました.±1の二値状態を取るIsingスピンを脳の神経細胞の活動や情報のビットに対応させることで,統計力学は脳の神経回路モデルや情報・通信理論の難問を次々に解き明かしていきました.ランダムスピン系の一つであるHopfieldモデルを出発点として,脳と情報の統計力学をやさしく解説します.この講義を通じて,皆さんが知っている統計力学が,脳や情報という一見物理とは関係ないような分野で大活躍している姿を知ることができます.
著者
髙石 吉將 荒井 篤 岡田 真幸 藤原 大悟 鵜山 淳 近藤 威
出版者
日本脊髄外科学会
雑誌
脊髄外科 (ISSN:09146024)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.179-183, 2019 (Released:2019-09-10)
参考文献数
16

Various complications are found in ventriculo-peritoneal shunts (V-P shunts) used in hydrocephalus. Overdrainage can be the source of some of these complications and is the primary cause of orthostatic headache, nausea, and vomiting. Here, we report a case of overshunting-associated myelopathy with progressive tetraparesis. A 56 year-old female had undergone placement of a V-P shunt four years prior to presentation in our clinic. She presented with progressive spastic tetraparesis and dysarthria but had no headache. In a brain magnetic resonance image (MRI), enlargement of the bilateral subdural space was noted. Gadolinium enhanced MRI showed dural enhancement. The presence of intracranial hypotension was suspected. Engorgement of the epidural vein at the C2 level in the cervical epidural space was also observed in the gadolinium enhanced cervical MRI. Since overdrainage of the V-P shunt was obviously present, a programmable valve was placed, and the flow of cerebrospinal fluid was controlled. The symptoms improved, and the epidural enhanced lesion diminished in subsequent MRIs. Here, we report a case of overshunting-associated myelopathy after placement of a V-P shunt and a review of the currently available literature.
著者
渡辺 匠 岡田 真波 酒井 真帆 池谷 光司 唐沢 かおり
出版者
人間環境学研究会
雑誌
人間環境学研究 (ISSN:13485253)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.59-65, 2013
被引用文献数
1

There were two primary purpose of this study. One major purpose was to test the effects of disbelief in free will on self-control and the other purpose was to examine whether free will beliefs affect causal attribution of success and failure. Although a great deal of effort has been made on the definition or existence of free will, only few attempts have so far been made at how people's belief in free will influences subsequent judgment and behavior. As an example of such attempts, Rigoni, Wilquin, Brass, and Burle (2013) found that induced disbelief in free will weakens people's motivation of self-control, which suggests dismissing free will leads people to rely on more automatic and impulsive actions. On the basis of this earlier research, the authors intended to confirm the phenomenon that disbelief in free will reduces motivation of self-control. Furthermore, we investigated the processes of causal attribution by belief in free will since they are thought to be associated with both free will beliefs and self-control. Fifty-two undergraduates participated in the study and they were randomly assigned to one of the three conditions (free will, determinism, or control). After free will manipulation, participants completed the Stroop task, whose performance reflects motivation to self-control. Finally, participants received false feedback of success or failure in the Stroop task and they answered attributional questionnaire. The results did not confirm our hypothesis regarding self-control: Participants who were induced to disbelieve in free will performed equally well in the Stroop task as other conditions. However, causal attribution was linked with manipulation of disbelief in free will: Participants who were induced to disbelieve in free will showed less self-effacing bias in task attribution. The findings are suggestive that free will beliefs alter causal attribution processes, which in turn affect a person's social judgment and behavior.
著者
林 昌浩 石澤 俊幸 岡田 真行
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.638-640, 2003-06-01

76歳,男性.右三叉神経第一枝領域の帯状疱疹にて入院加療した.アシクロビル点滴により皮疹は軽快し退院したものの,疼痛コントロール不良のため再入院した.再入院後,種々の内服薬・治療を試みたが無効であった.リン酸コデインにより疼痛は軽減したがコントロール不十分であり,マレイン酸フルボキサミン(ルボックス(R))内服を開始したところ,数日後から疼痛が著明に改善した.近年マレイン酸フルボキサミンは麻酔科,整形外科領域の慢性疼痛に対しても有効性が報告されているが,皮膚科領域における使用経験の報告はほとんどない.従来の抗うつ剤に比べて抗コリン作用など副作用が少ないため高齢者にも使いやすく,帯状疱疹後神経痛(PHN)や帯状疱疹に伴う神経痛に対しても考慮されるべき薬剤の一つと考えた.
著者
岡田 真理紗
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.70, no.8, pp.78-87, 2020 (Released:2021-04-16)

本稿では、NHKが2020年3月に実施した全国電話世論調査の結果をもとに、日本の社会に外国人が増えることへの国民の意識や外国人と共生するための課題などについて述べる。外国人労働者の受け入れを拡大する改正出入国管理法が施行されて2020年4月で1年になるが、日本で働く外国人が増えることについては、賛成する人が70%と多数を占めている。しかし、自分の住む地域に外国人が増えることに賛成する人は57%にとどまる。日本に外国人が増えることに賛成する人でも5人に1人は、自分の住む地域に外国人が増えることに反対している。 自分の住む地域に外国人が増えることへの不安では、「言葉や文化の違いでトラブルになる」と「治安が悪化する」を挙げた人が多く、国や自治体に取り組んでほしいことでは、「生活上のルールを教えること」が最も多い。一方、外国人が増えることへの期待では、「新しい考えや文化がもたらされる」が最も多く、自分の住む地域に外国人が増えることに反対する人でも約6割が、外国人の増加に何らかの期待を抱いている。 外国人労働者が家族をともなって日本で暮らす「家族帯同」については、条件を緩和して今より広く認めるべきだという人は33%にとどまるが、日本で暮らす外国人の子どもに対しては、国や自治体の財政負担が増えたとしても日本語を十分に教えてほしいと思う人が79%にのぼっている。
著者
片平 健太郎 藤村 友美 松田 佳尚 岡ノ谷 一夫 岡田 真人
出版者
日本感情心理学会
雑誌
感情心理学研究 (ISSN:18828817)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.71-76, 2013-04-25 (Released:2013-06-07)
参考文献数
12

We investigated how emotional responses reflected in autonomic nervous system activities and facial muscles activities are related to learning in decision-making. Based on the conventional Q-learning model, we constructed novel learning models that incorporate the trial-to-trial variability in the physiological responses. In our models, the variables reflecting the physiological activities can modulate two important parameters of the model: (1) the learning rate, which determines the degree of update in response to the current choice outcome, and (2) the reward value, which quantifies the valence of the current outcome. We applied the models to the data from two types of decision-making task; one used emotional pictures as decision outcomes, and another used monetary reward. The valence of the outcomes was stochastically contingent on participants' choices. We demonstrated that proposed models that incorporated physiological measures including skin conductance, corrugator muscle activity and orbicular muscle activity, improved the prediction of the model, mainly for the emotional picture task. Our results suggest that some emotional responses are related to the subsequent choice behavior.
著者
寺島 裕貴 岡田 真人
出版者
人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 (ISSN:13479881)
巻号頁・発行日
vol.25, 2011

大脳皮質感覚野は地図構造を持ち,その代表である一次視覚野(V1)地図と視覚刺激統計性との関係が指摘されている.一方で近年,一次聴覚野(A1)地図はV1と異なり微小スケールで乱雑なことが分かってきた.本研究ではその原因が聴覚刺激の特徴である離れた周波数間の相関にあるという仮説を提案し,V1のモデルであるtopographic ICAが聴覚的な刺激からは乱雑な地図を生成することを示す.
著者
樺島 祥介 岡田 真人 田中 和之 田中 利幸 石井 信 井上 純一
出版者
東京工業大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

本研究では,特定領域研究「情報統計力学の深化と展開」を円滑に推進するために,本領域全体の研究方針の策定,研究項目間の調整,国際研究集会・公開シンポジウム・講習会の企画実施,研究成果の広報,研究成果に対する評価・助言を行った.主な実績としては,計4回の公開シンポジウムおよび計6回の国際会議の開催,4冊のプロシーディングスの発行が挙げられる.これらの活動の成果は計280件を超える領域内から発表された原著論文等に反映されている.
著者
原 實 川崎 信定 木村 清孝 デレアヌ フロリン ユベール デュルト 落合 俊典 岡田 真美子 今西 順吉 木村 清孝 末木 文美士 岡田 真美子 ユベール デュルト 田辺 和子 落合 俊典 デレアヌ フロリン 松村 淳子 今西 順吉 津田 眞一 北田 信 清水 洋平 金子 奈央
出版者
(財)東洋文庫
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

平成18年度より3年間、「古代インドの環境論」と題し、同学の士を誘って我々の専攻する学問が現代の緊急課題とどの様に関連するかの問題を、真剣に討究する機会を持ち得た事は極めて貴重な体験であった。外国人学者を交えて討論を重ねる間に、我々の問題意識はインド思想や佛教の自然観、地球観にまで拡がって行ったが、それらは現代の環境破壊や無原則な地域開発に警告する所、多大なるものがあった。「温故知新」と言われる所以である
著者
池上 良正 中村 生雄 井上 治代 岡田 真美子 佐藤 弘夫 兵藤 裕己 松尾 剛次 池上 良正 中村 生雄
出版者
駒澤大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

「供養の文化」を日本の民俗宗教の重要な特徴のひとつとして位置づけることによって、古代・中世から近現代にいたる、その歴史的変遷の一端を解明することができた。さらに、フィールドワークを通して、中国・韓国を含めた現代の東アジア地域における「供養の文化」の活性化や変貌の実態を明らかにした。
著者
國宗 勇希 岡山 直子 児玉 雅季 森重 彰博 中原 由紀子 深野 玲司 岩永 隆太 前田 訓子 岡田 真希 木村 相泰 福田 進太郎 末廣 寛 伊藤 浩史
出版者
一般社団法人 日本遺伝性腫瘍学会
雑誌
遺伝性腫瘍 (ISSN:24356808)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.104-108, 2023-12-15 (Released:2023-12-15)
参考文献数
11

Li-Fraumeni症候群(Li-Fraumeni syndrome;LFS)は,TP53の生殖細胞系列の病的バリアントによって発症する遺伝性疾患である.症例は3人の子の母親で,第1子はこれまでに5度悪性腫瘍に罹患し,第2子も骨肉腫に罹患している.母親は第3子(未発症)の出産9カ月後に肝臓の絨毛癌のため40歳で死亡している.第1子はTP53の生殖細胞系列病的バリアントが確認され,父親は当時未発症であったが,同じ病的バリアントの保因者であり,その後前立腺癌のため亡くなった.今回,第2子の結婚に伴う遺伝カウンセリングの過程で,LFS病的バリアント保持者の配偶者に妊娠を契機に絨毛癌が発生するとの報告を知り,20年前に亡くなった母親の組織標本から遺伝子検査を試みた.TaqMan Probe法で同じ病的バリアントを検出し,本症例もLFS病的バリアント保持者(父親)から,妊娠を契機に病的バリアントが胎児,胎盤を通じて何らかの機序で配偶者(母親)へ移行し,まれな肝臓の絨毛癌を発症し亡くなられたと推察した.
著者
西村 昭賢 森 直樹 岡田 真
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第37回 (2023) (ISSN:27587347)
巻号頁・発行日
pp.2M5GS1002, 2023 (Released:2023-07-10)

近年, ゲーム環境への深層強化学習の応用が注目されている.特に,プレイヤーが得られる情報が部分的である不完全情報ゲームへと積極的に応用されている. 本研究では不完全情報ゲームの 1 つであるトレーディングカードゲーム (TCG) に着目した. TCG は使用可能なカードの性能や種類を変更可能という点で, 他のゲームよりも人工知能による攻略が困難である. また, この性質のためゲームバランスの調整が難しく, 公開後に修正が入ることが一般的であり, カードの性能を上方修正するバフや下方修正するナーフなどの用語が用いられる. 上記の背景から, 筆者らは深層強化学習とそれに基づく進化型計算を用いた TCG 環境のゲームバランス最適化手法を提案し, 独自の TCG 環境を用いて数値実験により提案手法の有効性を検証した.
著者
藤中 義史 松永 麻美 高橋 恵 瀬谷 恵 小野山 陽祐 岡田 真衣子 高下 敦子 大橋 祥子 増永 健 岩田 みさ子 瀧川 逸朗
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.37-43, 2022 (Released:2022-05-10)
参考文献数
22

在胎37,38週のEarly term児における母体患者背景,新生児期合併症,入院率について後方視的に検討した.2014年から2017年に当院で出生した正期産児(4,013例)のうち,多胎,先天異常等を除外したEary term児894例,Full term児1,695例を対象とした.結果は,Early term群で母体合併症,帝王切開(特に予定帝王切開)症例が多く,新生児期合併症は,単変量解析ではEarly term群に新生児仮死と低血糖(< 50mg/dL)が多かったが,多変量解析では低血糖のみ有意差がみられた.新生児科入院率および再入院率は“Early term”が独立したリスク因子であった.当院では予定帝王切開を主に38週台で行っているが緊急帝王切開増加リスクは許容範囲内であり(約8%),欧米の推奨するFull termよりもやや早めに設定することは妥当と考える.