- 著者
-
斉藤 博
- 出版者
- 一般社団法人 日本泌尿器科学会
- 雑誌
- 日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
- 巻号頁・発行日
- vol.96, no.6, pp.632-639, 2005-09-20 (Released:2010-07-23)
- 参考文献数
- 23
- 被引用文献数
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2
(目的) ヒポクラテス (紀元前460年頃) は古代ギリシア, コスの有名な医師で, 彼の業績は, 後世『ヒポクラテス全集』に記載されている. 私は『ヒポクラテス全集』の結石に関する記述を研究した.(方法)『ヒポクラテス全集』(ラーブ版, 大槻版, 今版) の尿路結石の記述を採集し, コス学派とクニドス学派とで比較した.(結果) 尿路結石に関する記述は24ヵ所で, 発生病理に関する記述は12ヵ所 (50%), 症状6ヵ所 (25%), 治療4ヵ所 (17%), その他2ヵ所 (8%) あった. 尿路結石の症状は血尿, 腹痛, 排尿痛, 排尿障害, 排石であった. 膀胱結石15ヵ所 (63%), 腎結石4ヵ所 (17%), 2ヵ所 (8%) は腎と膀胱結石の両方であった. 7ヵ所 (29%) は部位の記述はなかったが, 多分, 膀胱結石と推測された. 尿路結石の記述のうち, コス学派, クニドス学派, 学派不明の記述は15ヵ所 (63%), 4ヵ所 (17%), 5ヵ所 (21%) であった. コス学派の膀胱結石に関する記述は比較的多く, 腎結石に関する記述は少ないが, クニドス学派が多かった. 尿路結石に対する治療法は, 薬, 多分, 排石を助ける薬, 痛み止め, 痛みに対する入浴, 温罨法, 患部が腫れて盛り上がったら, 腎切開をする.(結論)『ヒポクラテス全集』には尿路結石の記述があるが, コス学派による膀胱結石の記述が多い. 膀胱切石術の記述はなく,“宣誓”では, 尿路結石の治療には切開術を禁じている. しかし, クニドス派の“内科疾患”には, 腎切開, 多分, 腎切石術を推測させる記述があった.