著者
細野 哲央 小林 明
出版者
日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.897-900, 2009
被引用文献数
3 1

街路樹は法律上、道路の付属物とされる。しかし、街路樹は二酸化炭素固定等の生物的機能、微気象緩和等の物理的機能、生理的疲労の低減等の心理的機能などをもち、様々な効果を複合的にもたらすことから、道路空間には欠かせない要素となっているということができる。一方で、街路樹の倒木や枝折れによる事故も少なからず発生し、それによって道路利用者に人的・物的な被害も生じていることが知られている。街路樹に関わる事故の発生を防いで、道路利用者の安全を確保し、的確な道路管理を可能とするためには、そのような事故の実態を把握することが有益であると考えられる。街路樹の実態に関する既往の研究は、樹種の変遷に関するもの、クスノキやハナミズキの生育状況等を分析したものや、支柱の現状把握、街路樹の根系による歩道への影響などはみられても、事故の実態についてはみあたらない。植栽関連事故の裁判例については、これまで植栽の適正管理の観点から細野らの一連の研究で分析の対象とされてきている。しかし、裁判例は全体の約0.05%しか公刊されておらず、実際には参照することのできない裁判例も数多いといえる。また、中島によれば、街路樹を原因として事故が発生したとしても裁判にまで至らないケースがほとんどであるとされる。したがって、裁判例を対象とするだけでは、街路樹に関わる事故の実態を明らかにするためには不十分であるといえる。そこで本研究では、街路樹の倒木や枝折れ等によって道路利用者に被害が生じた事故(落下直撃事故)の実態を明らかにすることを目的とする。
著者
若林 明雄 内山 登起夫 東條 吉邦 吉田 友子 黒田 美保 バロン-コーエン サイモン ウィールライト サリー
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.77, no.6, pp.534-540, 2007-02-25 (Released:2010-07-16)
参考文献数
13
被引用文献数
6 15

The Autism-Spectrum Quotient (AQ) children's version has confirmed reliability and validity in the UK. In the current study, the children's AQ was administered in Japan to investigate whether the UK results are found in a very different culture. Two groups of children from primary and secondary schools were assessed: Group 1 (n=81) children with Autism Spectrum Disorders (ASD, including Asperger Syndrome and high-functioning autism); Group 2 (n=372) randomly selected controls, age-matched with Group 1. The children with ASD had a mean AQ score of 31.9 (SD=6.69), which was significantly higher than controls (mean AQ=11.7, SD=5.94). Males scored significantly higher than females in the control group, but not in the ASD group. The pattern of difference between the Japanese clinical group and the control group was remarkably similar to the findings in the UK.
著者
宮内 靖史 加藤 貴雄 岩崎 雄樹 林 明聡 水野 杏一
出版者
The Japanese Society of Electrocardiology
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.210-215, 2008
被引用文献数
5

【目的】用手計測法および自動計測法によるQT間隔詳細計測の精度と問題点について検討する.【方法と結果】用手計測は, 25mm/sec, 1cm/mVで記録した通常の心電図波形を200%拡大コピーし盲検化した後, 心電図解析に熟達した循環器専門医3名が接線法を用いて行った.再現性の確認のため1週間の間隔をあけて計2回計測した.第1回目と第2回目の測定値の差は, 平均で-1~2msecとほとんどばらつきがなく, 両者の相関係数は0.96~0.97であったが, 心拍ごとの測定値の差の絶対値は, 5~7msecとやや大きかった, 一方, コンピュータ画面上でのマニュアル修正を併用した自動計測法では, 差の絶対値は1±2msecと用手計測法に比して有意に小さく, 相関係数も0.997と, 再現性に優れていた.各測定者の用手計測値と自動計測値の相関は0.94~0.96と高く, 平均値の差も-1~4msecと小さかった.【結論】マニユアル修正を併用したQT間隔の自動計測法の精度はきわめて高く, 正確性が期待できる, 一方で記録紙からの用手計測法も, 計測に熟達すれば5msec程度の精度での評価が可能である.
著者
菊地 俊夫 田林 明
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.460-475, 2016 (Released:2016-12-10)
参考文献数
27
被引用文献数
2

本研究の目的は東京都多摩地域の立川市砂川地区を事例にして,農産物直売所の存在形態と農村空間の商品化の関連性から,都市農業の維持・発展メカニズムを明らかにすることである.立川市砂川地区における都市農業の維持・発展は農産物直売所の立地に大きく依存している.それは,農産物直売所が都市住民に農産物を直接販売する施設であり,その施設を都市住民のニーズに応えるかたちで維持することで,農産物生産が行われているためである.結果として,農村景観や農業的土地利用が維持されるだけでなく,農村コミュニティも維持されることになる.また,農産物直売所を都市住民が訪れて購買することにより,それを核とする農村空間は生産空間としてだけでなく,消費空間としても意味づけられるようになる.
著者
田林 明 菊地 俊夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.425-447, 2016 (Released:2016-12-10)
参考文献数
32
被引用文献数
1

現代の日本では,農村本来の機能である食料生産を存続させ,持続的に発展させることが重要な課題となっている.この報告は,稲作が卓越する北陸地方において存続・成長の可能性の高い農業経営事例を検討し,その特徴と役割を明らかにする.ここで取り上げた三つの大規模借地経営は,利潤を追求するとともに,農地活用・管理のみならず,地域社会の維持,雇用創出といった役割を果たしている.それぞれは,大規模化と多角経営化と企業的性格を強めるという方向に進んできている.今後,ますます生産物を多様化し,加工・流通部門も加えて,規模拡大を進めるものと考えられる.しかし,すべての地域の農業がこれらの企業的経営によって維持されるのは困難であり,利潤追求というよりも一定水準の農業を継続し,農地を管理し,地域社会を持続させていこうとする集落営農が,大規模借地経営の隙間を埋めるように機能していくと考えられる.
著者
貞包 眞吾 酒井 智代 林 明子 大川 秀郎
出版者
日本農薬学会
雑誌
Journal of Pesticide Science (ISSN:1348589X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.410-413, 1998-11-20 (Released:2010-08-05)
参考文献数
9
被引用文献数
2

カーバメイト系除草剤クロルプロファム (IPC) の免疫化学測定法を確立した. パプテンとしてIPCのカルボン酸誘導体 (IPC-COOH) を合成し, それを牛血清アルブミンに結合させて免疫原を調製し, この免疫原をウサギに免疫して抗血清を得た. 調製した抗血清とマイクロプレート上の抗原 (IPC-COOHとウサギ血清アルブミンの結合体) との結合をIPCは競合的に阻害した. 次いで, プレートに結合した抗体の量を酵素標識抗ウサギIgGヤギ抗体を用いて求める方法によりIPCのELISAを確立した. IPCによる抗原抗体反応の50%阻害および検出限界濃度はそれぞれ140ppbおよび5ppbであった. 得られた抗体のカーバメイト系やウレア系の農薬に対する交差反応性は極めて低かった. この方法はジャガイモ中のIPCの測定に適用することができた. ジャガイモ中のIPCはメタノールにより抽出し, メタノール抽出液を20倍に希釈した後, 測定した. その検出限界濃度は0.3ppmであった.
著者
林 洋史 宮内 靖史 林 明聰 高橋 健太 植竹 俊介 坪井 一平 中辻 綾乃 村田 広茂 山本 哲平 堀江 格 小原 俊彦 加藤 貴雄 水野 杏一
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.S3_34-S3_41, 2011

症例は52歳, 男性. 繰り返す動悸を自覚し, 携帯心電計で周期240msのnarrow QRS頻拍と心房細動を認めたため, アブレーションを行った. 両側肺静脈を隔離後, 冠静脈洞近位部からのburst pacingでWenckebach型房室ブロックを伴う周期240msの心房頻拍(AT)が誘発され, このATはATP 5mg静注で停止した. AT中のelectroanatomicalマッピングでは, 右房はHis束領域が最早期であったが, 局所の単極電位にR波を認めた. 左房は前壁中隔が最早期であったが同部位での焼灼は無効であった. そこで大動脈弁無冠尖(NCC)にカテーテルを留置したところ, His束領域よりも20msec先行し, 単極電位ではQSパターンとなる最早期興奮部位を認めた. ここでの通電中にATから周期350msの非通常型房室結節リエントリー頻拍(AVNRT)へと移行. その後, 通常型AVNRTも誘発され遅伝導路領域を焼灼し, これらの頻拍はすべて誘発不能となった. NCC起源ATを認め, その焼灼中にAVNRTへの移行が見られた症例を報告する.
著者
李 秀華 五島 瑳智子 村井 貞子 小林 明子 辻 明良 高 細水 胡 尭蒙 〓 玉秀
出版者
Japanese Society of Chemotherapy
雑誌
日本化学療法学会雜誌 = Japanese journal of chemotherapy (ISSN:13407007)
巻号頁・発行日
vol.47, no.10, pp.611-618, 1999-10-25

中国の病院関係者における<I>Staphyloococcus auresus</I>の保菌状況を調べることを目的とし, 1996年, 1997年に中国4省4都市7病院で, 健康者25人と入院患者25人を対象に咽頭と鼻前庭粘膜から<I>S. aureus</I>を分離した。分離株の血清型別および薬剤感受性を調べ, 1996年に行った東京の1病院の成績と比較した。<BR>1) 中国7病院での<I>S. aureus</I>の分離率は4%~25%であり, 東京の1病院での41.2%に比べ有意に低率であった。<BR>2) 健康者からの<I>S. aureus</I>の分離率は入院患者よりも高く, 健康者では医療従事者の方が一般人に比較し高い分離率を示した。また, 咽頭からの分離率が鼻前庭に比較して高かった。<BR>3) 中国7病院で分離された<I>S. aureus</I>の血清型はコアグラーゼVII型がもっとも多く, エンテロトキシン型は一定ではなかった。これに対して日本の1病院から分離された<I>S. aureus</I>42株のうち12株がコアグラーII型, エンテロトキシンC型であり, これらはすべてMRSAであった。<BR>4) 抗菌薬感受性について, 中国7病院での分離株はimipenem, panipenemに対する感受性が高く, tetracycline, erythromycin, roxithromycin, azithromycin には低い成績を示したが, MRSAは分離されなかった。一方, 東京の1病院では42株中17株 (40.8%) がMRSAであったが, すぺての菌株がarbekacinに4.0μg/mL以下, vanoomycinに2.0μg/mL以下のMICを示した。<BR>中国7病院と東京の1病院で分離された<I>S. aureus</I>の各種抗菌薬に対する感受性パターンの相違は, これまでの両国における感染症と治療法の差および医療体制の違いによるものと考えられるが, 西洋医学が急速に導入されている中国において, 今後の薬剤耐性菌の推移を検討する基礎資料となるであろう。
著者
伊藤 将志 半井 健一郎 林 明彦 河合 研至
出版者
一般社団法人 セメント協会
雑誌
セメント・コンクリート論文集 (ISSN:09163182)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.210-215, 2014-02-25 (Released:2015-02-25)
参考文献数
4
被引用文献数
1

福島第一原子力発電所の事故により、広範囲に拡散した大量の放射性物質を適切に除染するとともに、汚染された災害廃棄物を適切に処理、処分することが求められている。そこで本研究では、モルタル中でのセシウムの吸着、浸透、溶出挙動を把握することを目的とした。実験結果から、セメントや各種細骨材にセシウムは吸着しにくく、飽水処理したモルタル供試体では、供試体表面および内部ともに80%ものセシウムは可溶性として存在していた。一方で乾燥させた供試体の表面付近では60%のセシウムが非可溶性であり炭酸化の影響が示唆された。
著者
松丸 国照 松尾 康弘 林 明
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
no.14, pp.p25-32,図2p, 1981-12

伊豆半島の静岡県田方郡中伊豆町下白岩(第1図)および下田市満金(第2図)にそれぞれ発達する石灰質岩は単体のレピドシクリナおよび浮遊性有孔虫を多数産出することで有名である。筆者らが下白岩および満金両化石産地のレピドシクリナおよび浮遊性有孔虫の研究をとおして確認したことは, おおよそ次のように要約される。1. 下白岩産地の下白岩層および満余産地の白浜層群下部層から共通して Lepidocyclina (Trybliolepidina) rutteni VAN DER VLERK を産出する。この大型有孔虫の胚芽室構造形態は下白岩標木群および満金標本群とも互いに酷似している。このことから, 筆者らは Lepidocyclina の胚芽室促進進化の程度は同じ段階のものであると結論づけることができた。2. 下白岩層からの浮遊性有孔虫群集は Zone N.14 および Zone N.17 をそれぞれ示す群集の混合からなっている。一方, 白浜層群下部層からの浮遊性有孔虫群集は Zone N.17 のものである。3.1,2の資料を総合すると, L. (T.) rutteni を産する下白岩層および白浜層群下部層は互いに対比される。また, 両地層の時代は浮遊性有孔虫分帯の N.17,つまり後期中新世と示唆される。
著者
若林 明彦
出版者
千葉商科大学
雑誌
千葉商大紀要 (ISSN:03854566)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.155-170, 2003-12-31

本稿は現代の正義概念の規範的モデルであるところのアリストテレスの正義原理(「等しきものは等しく扱うべし」)に遡り,それが現代では「経済のグローバル化」に伴いますます形式主義化し矛盾を生んでいるとし(例えば,特許権重視の経済システムが社会的弱者が必要不可欠の財やサービスを入手できなくするという人権無視),それを批判的に検討することによって,現代における真の正義原理の捉え方を提起するものである。その批判は福音書の「ぶどう園の労働者の譬え」の中で,愛という正義原理と対置される形ですでに示されていた。神学研究者はこれを神的愛として捉えるが,それはむしろ基本的人権への配慮として解釈すべきである。実は,アリストテレスも形式主義的正義原理の暴走を抑制するためにエピエイケイアというもう一つの正義原理を提起していた。現代社会に求められる正義の原理は,社会的強者だけにしか通用しない「等しさ」に拘泥する形式主義的正義原理ではなく,社会的弱者をも包括した真の意味で万人が「等しさ」を享受できる原理でなければならない。
著者
宮田 康人 松永 久宏 薮田 和哉 林 明夫 山本 民次
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B3(海洋開発) (ISSN:21854688)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.I_564-I_569, 2012 (Released:2012-09-18)
参考文献数
14
被引用文献数
4

塊状製鋼スラグの生物着生基盤機能の長期的検証を行うことを目的として,2002年3月に広島県因島の海域において造成した塊状製鋼スラグ潜堤材について,9年後(2011年)まで追跡調査を行った.その結果,製鋼スラグ潜堤材には,施工1年後から9年後の調査まで海藻の着生種数は,天然転石と同等もしくは同等以上であり,また時間とともに種類数が増加傾向であったこと,魚類,メガロベントス,マクロベントスが天然転石と同程度に着生したほか,絶滅危惧種として隣県の岡山県レッドデータブックに掲載されているマクロベントスも観察されるなどの知見が得られた.以上の結果から,製鋼スラグ潜堤材は,海藻着生場,底生生物生息場,および魚類の蝟集の場などとして施工から9年間にわたり機能が継続していることから,製鋼スラグ潜堤材の有用性が確認された.