著者
大浦 宏邦 海野 道郎 金井 雅之 藤山 英樹 数土 直紀 七條 達弘 佐藤 嘉倫 鬼塚 尚子 辻 竜平 林 直保子
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

秩序問題の中核には社会的ジレンマ問題が存在するが、社会的ジレンマの回避は一般に二人ジレンマの回避よりも困難である。本研究プロジェクトでは、Orbel & Dawes(1991)の選択的相互作用の考え方を拡張して、集団間の選択的な移動によって協力行動が利得のレベルで得になる可能性を検討した。まず、数理モデルとシュミレーションによる研究では、協力型のシェアが大きければ選択的移動が得になる可能性があることが明らかになった。次に所属集団が変更可能な社会的ジレンマ実験を行った結果、協力的な人は非協力者を逃れて移動する傾向があること、非協力的な人は協力者がいるうちは移動しないが、協力者がいなくなると移動することが明らかとなった。この結果は、特に協力的なプレーヤーが選択的な移動をする傾向を持つことを示している。実験室実験の結果を現実社会における集団変更行動と比較するために、職場における働き方と転職をテーマとした社会調査を実施した。その結果、協力傾向と転職行動、転職意向には相関関係が見られた。これは、実験結果の知見と整合的だが、因果関係が存在するかどうかについては確認できなかった。方法論については、基本的に進化ゲームやマルチエージェント分析は社会学的に有意義であると考えられる。ただし、今回主に検討したN人囚人のジレンマゲームは社会的ジレンマの定式化としては狭すぎるので、社会的ジレンマはN人チキンゲームなどを含めた広い意味の協力状況として定義した方がよいと考えられた。広義の協力状況一般における選択的移動の研究は今後の課題である。
著者
金森 修 杉山 滋郎 杉山 滋郎 小林 傳司 金森 修
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

金森修は、コンディヤックの『動物論』を分析する過程で、人間と動物との関係を巡る認識的議論にその調査対象が拡大した。その過程で、金森はフランスの重要な科学史家ジョルジュ・カンギレムの仕事に注目するようになった。そして結果としては、コンディヤックの『動物論』自体の分析は、擬人主義論の中ででてくることはでてくるが、副次的なものになり、より射程の広い擬人主義論、そしてカンギレム自体のさまざまな業績を扱った四つの論文、計5篇の論文の形で、その成果をまとめることができた。まず「擬人主義論」では、心理学が擬人主義を放擲かくするに及んで、もともとの研究プログラムを喪失していく過程の分析、比較心理学や動物行動学に伏在する擬人主義の剔抉などを中心に扱った。次の「主体性の環境理論」では、一八世紀から一九世紀初頭にかけて、環境という概念がどのようにその意味あいを変えていくかを巡る史的な分析を行い、それが一九世紀から二○世紀にかけて、主体を環境によって規定された受動的なものとしてではなく、それなりに環境を構成する能動的なものとして把握するという思潮がどのようにでてきたのか、またその考え方の環境倫理学的な意味あいについて分析した。次の「生命と機械」論では、古来からの生物機械論と生気論とが、現代的なバイオメカニックスや人間工学においては、対立ではなく、融合を起こしていること、そのため、人間がどこまで機械として説明できるのか、という問い自身がもはや成立しえないことを論証した。次の「生命論的技術論」では、技術的制作一般を巡る主知主義的な把握を破壊し、技術制作と創造者との間の相即的で相互誘発的な関係を分析した。 次の「美的創造理論」では、アランの美学をカンギレムが分析している文章を精密に分析する過程で、創造行為一般における創発性、規範の存在の重要性などを分析した。杉山滋郎は、平成2年度から4年度に収集した文献資料をもとに、当初の研究目的にそって考察を進めてきた。その結果、「生命観」の概念規定を明確にすることに努めつつ、わが国における「生命観」の時代的変化ならびにその特質について、概念が把握されつつある。現在のところまだ具体的な論考には結晶していないが、必要な資料をさらに収集して、今後しばらく検討を続けたうえで、すみやかに成果を公表する予定である。
著者
林 直保子
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

平成19年度には、平成18年度に引き続き、他者一般に対する信頼の生成プロセスを検証するための、全国調査を行った。平成18年度調査では、全国の満20歳以上の男女とし、各市町の住民基本台帳より、層化二段無作為抽出法を用いて2000サンプルを抽出し、66.3%の回収を得た。このデータを用いた分析により、一般的信頼の高低は、制度への信頼により大きく規定されていること、また制度への信頼は、格差感により強く影響されていることが明らかにされた。平成19年度には、電子住宅地図を用いた層化3段無作為抽出法を用いて全国調査を行った。社会調査を取り巻く環境の変化により、住民基本台帳等を用いたサンプリングが年々困難になっており、今後の調査の展開を見据えて、サンプリング方法の違いによるデータの偏りについて検討することも目的の一つとした。19年度調査に関しては、現在データ分析の途中ではあるが、18年度調査の結論と一貫した結果が得られている。2つの調査のデータは、今後国勢調査のメッシュ統計とマッチングした上で、個々人の社会経済的背景だけでなく、所得の地域間をも考慮に入れた上で、信頼の生成プロセスの総合的な検証に用いられる。また、平成19年度には、上記全国調査と平行して、特定の地域内における信頼と社会的ネットワークの連関構造を分析するために、兵庫県有馬町において留め置き調査を行った。その結果、強い社会的ネットワークが信頼を高めるというこれまでの知見と一貫する結果が得られたが、社会関係資本の構成要素のひとつである互酬性の規範と信頼との間には相関関係がみられなかった。
著者
和井田 清司 高田 喜久司 小林 恵 藤田 武志 小林 毅夫 釜田 聡 尾島 卓
出版者
上越教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

2年間にわたる研究では,研究協力者を含めいくつかのワーキンググループを作り成果をあげた。1.理論研究班は,文献研究を通して,総合学習の理論と方法の基礎を探究した。特に,義務制と違う高校段階の特質を,学科制度や生徒の発達段階の違いから明らかにした。2.質問紙調査班は,行政機関調査と学校調査を実施し,学校段階における実践状況と行政の学校支援の状況を明らかにした。特に,学校における温度差の違いは,創立年次との関連があること,学科制度と実践の特質に連関があることが明らかになった。3.実践研究班は,先進的な事例を参照しつつ,実践構築の方向について検討した。ここでは,総合学習の実践と学校改革が連動することで効果を発揮すること,総合学習の実践にはカリキュラム開発とともに探究ツールの活用が有効であることが示唆された。4.小中高連携班は,連続セミナーや座談会を通して,新潟県上越地域における総合学習実践上の学校間連携を追究し,その糸口を開いた。だが,総合学習の実践状況は,各学校段階において温度差があり,連携の重要性にもかかわらずその困難さも明確になった。5.海外研究班は,東アジア各国での総合学習の文献調査や現地調査(中国・韓国・台湾)を実施した。その上で,中国における総合実践活動,韓国における裁量活動,台湾における統整課程の比較を行い,総合学習の共通性と差異を明らかにした。以上,1〜5の各分野に分けて研究実績を略述した。詳細については,各種学会での口頭報告やシンポジウム,また2冊の研究報告(中間報告書2004.3,最終報告書2005.3)および紀要論文等において公表している。
著者
山浦 常 白坂 龍曠 松本 克彦 和田 芳武 岡本 雅子 小林 和代 矢後 文子 小幡 裕 藤野 信之
出版者
東京女子医科大学学会
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.1020-1020, 1983-09-25

東京女子医科大学学会第253回例会 昭和58年5月19日 東京女子医科大学本部講堂
著者
吉野 博子 北村 英子 星野 守利 小松崎 聡 竹内 憲 太田 宏平 大澤 美貴雄 相川 隆司 村上 博彦 山根 清美 岡山 健次 小林 逸郎 武宮 敏子 丸山 勝一
出版者
東京女子医科大学学会
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.1022-1022, 1983-09-25

東京女子医科大学学会第253回例会 昭和58年5月19日 東京女子医科大学本部講堂
著者
小林 重雄 肥後 祥治 加藤 哲文
出版者
筑波大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

自閉症児は他者との間で社会的相互作用をもつことを困難としている。これは,他者から発せられる刺激が,強化刺激として機能していないことが第一の原因であると考えられる。つまり,自閉症児に社会的行動をとらせるためには,単純に必要とさせる社会的技能を形成するだけでは不十分で,他者とのやりとりが強化的(楽しい)になる必要がある。本研究では,自閉症児2名を対象として,大人との間の社会的相互作用を社会的強化刺激として機能させるために必要な条件の分析を行った。訓練は,要求文脈利用型指導手続きを用いた。具体的には,子どもの要求が生起しやすいような環境設定を準備し,要求が生起した場合にはすぐに訓練者がその要求を充足する手続きを繰り返し実施した。例えば,棚の上に自閉症児の好きなお菓子を並べておいたり,ひとりでは遊ぶことが困難なおもちゃを床の上に並べて置くなどの操作である。その結果,対象となった自閉症児は,単に要求的な反応を生起させるだけでなく,大人との間で社会的相互作用を求める反応が生起するようになった。つまり,大人に対して特定の物品や遊びを要求するのではなく,大人の注目そのものを求めるような反応が生起するようになった。これは,先行研究で示されているように,1次性強化刺激である要求対象物と,大人の発する刺激(中性刺激)とが対提示されることにより,大人の刺激が条件性強化刺激としての機能を獲得したためであると考えられた。
著者
大石 修司 桂 幸一 杉山 圭作 小林 英夫 松岡 健 永田 直一
出版者
日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.115-120, 1994-02-20

我々は, 経過中急速にクッシング症候群を呈した肺小細胞癌の1例を経験したので報告した.症例は51歳の女性.咳嚥及び背部痛を主訴に1989年5月当院を受診.胸部X線写真にて右中肺野に腫瘤影を認め, 右中葉原発の肺小細胞癌でT2N2M1, StageIVと診断した.化学療法(CDDP+VP-16, ADR+ACNU+VCR)を施行したが, 効果判定はNo Changeであった.1990年5月頃より易疲労感・ふらつきを覚え, 顔や手の色素江差も自覚.同年7月には著明な低K血症を呈し再入院となったが, 満月様顔貌, 四肢筋力の低下, 顔や手の色素沈着, 高血圧が確認され, 低K血症を伴う代謝性アルカローシスがあり, ACTH産生腫瘍によるクッシング症候群が疑われた、血中ACTH及びコルチゾール値は異常高値を示した.経過中にアスペルギルス肺炎を併発し第41病日に死亡.剖検にて肺原発巣と肝転移巣での腫瘍部ACTH濃度の高値を確認した.
著者
岡本 健 小林 なつみ 青柳 祥子
出版者
北海道大学ピア・サポート活動報告書編集委員会 (岡本 健・松田康子)
巻号頁・発行日
2011-03-31

本章では、北海道大学ピア・サポートが広報の一環として制作している「苦楽戦隊 ピア・レンジャー」について、その制作経緯や制作の過程、今後の展開について整理し、ピア・サポートの広報の新たなあり方の効果を考察することを目的とする。広報ビデオ「苦楽戦隊 ピア・レンジャー」は、ピア・サポーター各自が様々な形で参加したものであり、代表が全てを統括して進めるようなものではなかった。また、初の試みということで、さまざまな苦労や紆余曲折を経て、制作に取り組んだものである。そこで、本章では、特に制作の進行に深く携わった3 名による制作過程に関する対談を整理することで、目的を達成したい。本稿は、広報ビデオの監督を担当した小林なつみ、助監督を担当した青柳祥子、企画を担当した岡本健、が2011 年2 月19 日にピア・サポート室にて対談を行い(図1)、その結果を岡本が整理し、青柳、小林が加筆したものである。
著者
小林 繁
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

精神障害をもつ人の学習・文化支援においては、地域での生活支援や就労支援と連携しながら豊かな人と人との関係をどう作り上げていくかが重要である。それは、様々なプログラムを通して言葉の回復を中心とした豊かで多様なコミュニケーションの力を引き出し・創造していく課題であるということができる。そのためには、当事者へのエンパワーメントの支援が不可欠であり、同時に安心できる居場所などを提供していく取り組みが求められるのである。
著者
長山 勝 山之内 浩司 藤澤 健司 林 英司 鎌田 伸之 布袋屋 智朗 中野 孝三郎
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

完全合成無蛋白培地PF86-1は組成中に血清および細胞成長因子等の蛋白成分を一切含有しない特徴を有し、多くの口腔扁平上皮癌細胞株が継代培養されてきたが、一方で継代培養が不可能な細胞株も存在する。これは増殖に必須な因子の欠乏が原因の一つと考えられる。そこで癌の問質や周囲組織の細胞が産生するサイトカインに着目し、無蛋白培養下における口腔扁平上皮癌細胞株の増殖に及ぼすこれらのサイトカインの影響を検討した。その結果、無蛋白培養下の口腔扁平上皮癌細胞株の増殖にIL-1αがオートクラインまたはパラクライン機構を介して関与している可能性が示唆された。さらに我々は新規完全合成無蛋白培地PFM-7を開発し、口腔粘膜上皮細胞の増殖に対する影響を検討したところ、この培地は従来の増殖因子を添加した培地と比較して、形態、増殖因子に対する反応、各種増殖因子およびその受容体の発現を変化させることなく口腔粘膜上皮細胞の増殖を支持した。これを用いて、同一患者由来の癌細胞と口腔粘膜上皮細胞を同一条件で培養することにより、両細胞の生物学的性状の詳細な比較検討が可能となった。そこで完全合成無蛋白培地中で継代培養している同一患者から分離培養した口腔扁平上皮癌細胞と口腔粘膜上皮細胞のmRNAからcDNAを調整し、癌細胞で発現の上昇あるいは抑制の見られる遺伝子をサブトラクションライブラリー法を用いてクローニングした。これらのうち、正常細胞に特異的に発現している遺伝子は全長430bpのcDNAで、S100蛋白との相同性を持っていた。さらに同遺伝子の発現をノーザンブロッティングにより検討したところ、多くの扁平上皮癌細胞でその発現の低下が認められた。同遺伝子の機能についても解析した。
著者
森 芳樹 吉本 啓 稲葉 治朗 小林 昌博 田中 慎 吉田 光演 沼田 善子 稲葉 治朗 小林 昌博 高橋 亮介 田中 愼 沼田 善子 吉田 光演 中村 裕昭
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

文法理論の拡張にあたって実用論を援用しようとする試みは少なくない。本プロジェクトでは意味論を諸インターフェイスの中心に据えて、コンテクストと文法の相互関係についての研究を進めた。記述上の対象領域としては情報構造とアスペクト, 時制, モダリティー(ATM)を選択し、一方では, パージングを基盤に置いた構文解析を言語運用の分析と見なすDynamic Syntax(DS)の統語理論的な可能性を検討した。他方では、形式意味論・実用論と認知意味論・実用論の双方の成果を取り入れながらテクスト・ディスコースとコンテクストの分析を進めた。 なお本プロジェクト期間中に、当研究グループから4本の博士論文が提出された。
著者
小林 宜子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

12世紀半ば以降、イングランドを含む西ヨーロッパ各地の世俗君主の宮廷において、アリストテレスやキケロに代表される古典古代の政治倫理思想の影響を受けながら、世俗社会の政治構造やその倫理的基盤を俗語で論じ、俗語に備わる表現能力を政治理論や社会思想の領域でも最大限に高めようとする努力が盛んに行なわれるようになった。本研究は、14世紀末から15世紀半ばまでのイングランドにおける俗語文学の発達を、こうした汎ヨーロッパ的な思想的潮流の一環として再検証した試みである。