著者
高木 正朗 森田 潤司
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
no.19, pp.159-201, 1999-06

前近代社会の人々は、今日の開発途上国の国民や未開社会の人々がしばしばそうであるように、頻繁に穀物の不作や飢餓に直面した。一九世紀中期日本の最もひどい凶作(不作)はベーリング海からの寒気の吹き込みに起因する天保の飢饉だった。読み書き能力をもった人々は、この飢饉に関わるさまざまな記録を書き留めたが、こうした甚大な自然災害を精確に復元するために利用できる記録はわずかしかない。例えば、彼らは死亡の概数だけを記したので、現代の研究者がその数値が信頼できるか否かについて結論を下すことは容易ではない。幸いにも大籠の村役人が、仙台藩当局やこの村の近くで商売をしていた商人たちによって貸付あるいは寄付された穀物類、味噌、塩、胡椒、薬そして金銭の数量を詳しく記録していた。この史料は、宗門改帳と平常年の食品ストック書上げとともに使用すれば、飢饉の年と平常年のエネルギー供給量および栄養素供給量を推計することを可能にする。われわれの研究からの事実発見は左記の通りである。(A) 平常年(一八四五)のエネルギー、栄養素供給量。(1) 平年作のもとでは、一人一日当たり二、二三〇 kcalが供給された。(2) 一消費単位一日当たりエネルギー供給量は八二三 kcalだった。(3) 一日一人当たり蛋白質。脂質、炭水化物供給量はそれぞれ九三・八、三九・四そして三七五・一gだった。(B) 飢饉の年(一八三六年一二月から一八三七年五月までの一七七日間)のエネルギー、栄養素供給量。(1) 飢饉の年には、一人一日当たり三二〇 kcalが供給された。(2) 一消費単位一日当たりエネルギー供給量は一一〇 kcalだった。(3) 一日一人当たり蛋白質、脂質、炭水化物供給量はそれぞれ七・五、一・九そして六六・四gだけだった。結局、エネルギーおよび栄養素供給量は、飢饉の時期には平常年に比べ、およそ七分の一程度に急減した。流行性の疫病が人々の死亡に致命的役割を演じたかもしれない。飢餓は死亡数の急激な上昇とともに、出生力の劇的な低下をもたらした。同種の資料が利用できれば、われわれはこれと同じ手法でこうした数値を計算できるだろう。そのためには、比較研究のための良質の資料が必要である。
著者
森田 美佐 長嶋 俊介
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.497-502, 2005

従来の男女平等アプローチでは, 平等の結果が労働者個人やその家族・家庭生活にもたらす影響について, 十分な議論がなされていない.本研究の目的は, 男女平等アプローチに個人・家族成員の福祉(well-being)を保障する視点から, 日本の雇用労働者の実質的男女平等に向けた理論展開を試みることである.本研究は, 厚生経済学のケイパビリティ(潜在能力)アプローチを生活経営の視点から検討した.その結果, 「人間(Human)」を「3側面の存在(再生産的・生産的・文化的存在)」, 「ライフ(Life)」を「生命・暮らし・人生」の側面から捉え, 3Life(生命・暮らし・人生)をもつ人間の「キャリア」を「ライフ・キャリア」と定義した.そして「ライフ・キャリア」を平等指標とした.この指標は「3つの人間発達」の質向上と換言できる.この平等指標に向けて, 本研究ではCo-governanceの構築を提言した.Co-governanceとは, 営利企業と労働者・家族の対等な関係性(Partnership)の構築に向けた, 企業と非営利企業(労働組合, NGO, NPO, ボランティア団体等)との連携(Membership), 企業と国家との連携(Citizenship)を指す.Co-governanceの実践は, 営利企業を, 一般社会に開かれた, 社会的責任を果たす主体として存在させ, 企業と労働者および家族との対等性, 労働者と家族・家庭生活の質の保障に貢献する可能性をもつ.
著者
森田 龍僊
出版者
密教研究会
雑誌
密教研究 (ISSN:18843441)
巻号頁・発行日
vol.1921, no.6, pp.1-14, 1921 (Released:2010-03-16)
著者
谷口 昭弘 森田 信一
出版者
富山大学人間発達科学部
雑誌
富山大学人間発達科学部紀要 = Memoirs of the Faculty of Human Development, University of Toyama (ISSN:1881316X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.101-111, 2010

本論文は,明治時代,どのように西洋音楽が富山県に持ち込まれたか,あるいはそれにもとづいて,富山県内で,その音楽がどのように人々の間に広まっていったのかについて調査したものである。
著者
森田 真樹子 米澤 淳 森 美奈子 田﨑 嘉一 長屋 健 千石 一雄 松原 和夫
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.8, pp.504-509, 2013-08-10 (Released:2014-08-10)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

Breastfeeding is important in infant rearing. To support safe breastfeeding in a patient using lamotrigine, the transfer of lamotrigine to the infant via breast milk was evaluated in two couples of Japanese mother and infant. The infants took their mothers' milk expressed a day ahead. The plasma and breast milk concentrations of lamotrigine at 4 (or 5) and 89 (or 90) days after the birth were measured by HPLC. The lamotrigine concentrations of the two mothers were 12.63 and 6.21 µg/mL in plasma, 11.50 and 4.13 µg/mL in milk at Day 4. Milk/Plasma ratios (M/P) were 0.91 and 0.67, and the estimated Relative Infant Dose (RID, at Day 5) was calculated to be 12-29%. At 89 and 90 days after birth, the milk concentrations and RID, respectively, were similar to those at 4 days, which indicates that the transfer of lamotrigine into milk is high in Japanese mothers. The infant plasma concentrations of lamotrigine at 5 and 90 days were between 2.8 and 6.7 µg/mL, which was within the therapeutic range in children with epilepsy. Typical adverse effects were not observed in these infants under meticulous surveillance. In conclusion, pharmaceutical healthcare is necessary for lactating mothers using lamotrigine and their infants.
著者
森田 大 河野 龍而 黒岩 敏彦 冨士原 彰
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.309-319, 1995-08-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
29
被引用文献数
2 2

くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage,以下SAHと略す)発症時の多彩な心電図変化はよく知られている。このうち,ST上昇を呈する症例の冠動脈所見ならびに左室壁運動に注目した報告はない。1988年10月から1994年2月に経験したSAH226例のうち21例(9.3%)に入院時心電図でST上昇が認められ,このなかの8例に検討を加えた(ST群)。対象は頭部CTにてFisherのgroup分類がST群のそれに類似し,入院時にST上昇を認めない5症例とした(C群)。冠動脈造影と左室造影は破裂脳動脈瘤確認造影時に引き続き,ST群はST上昇の持続している入院9.3±6.4時間に,C群は入院9.1±4.5時間後に行った。左室局所壁運動の解析にはcenterline法を用いた。ST上昇はST群全例にV4からV6誘導にみられた。ST群の冠動脈には攣縮や器質的病変による閉塞所見は認めなかった。ST群の左室心尖部の局所壁運動はC群に比べ有意に低下していた(-2.58±1.03 vs -0.45±1.61, p<0.04)。ST群の1例は入院2日目に死亡した。経過中の心超音波検査にて壁運動は回復傾向にあった。ST群のうち3例に発症3週後の慢性期冠動脈,左室造影を行ったところ,局所壁運動は急性期のそれに比べ改善していた(-3.15±0.10 vs -1.22±0.72, pp<0.05)。発症3週後の心電図ではST群5例にT波の陰性化と,その5例のうち3例に新たな異常Q波が認められた。C群ではT波の陰性化やQ波の出現はなかった。ST上昇を伴うSAH症例にみられた一過性の左室心尖部における壁運動低下は気絶心筋といえるが,その機序は不明である。
著者
川本 美奈子 大西 秀典 川本 典生 森田 秀行 松井 永子 金子 英雄 深尾 敏幸 寺本 貴英 笠原 貴美子 白木 誠 岩砂 眞一 近藤 直実
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.49-55, 2009-03-01 (Released:2009-06-03)
参考文献数
14

乳児栄養法とアレルギー疾患発症との関連を明らかにするために,母乳栄養に焦点をしぼり,アレルギー疾患発症頻度や発症機序について検討した.生後6ヶ月時の保護者アンケートによる疫学調査の結果,完全母乳栄養であってもアレルギー疾患を発症している症例を認めた.母乳中のサイトカインや食物抗原について検討した.母乳中には TGF-β1,2 が高濃度に存在していた.母乳中に,卵白アルブミン,カゼイン,グリアジンなどの食物抗原が検出された.母乳中のサイトカインや食物抗原が児の抗原感作や免疫寛容誘導に関わっている可能性が示唆された.また,完全母乳栄養であるにも関わらず乳児期にアレルギー疾患を発症する症例では,母乳中の一部の蛋白が内因性にアレルゲンとして作用している可能性が示唆された.