著者
池田 幸弘
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.1-21, 2005-12

故玉置紀夫教授追悼号本稿は,若き日の小泉信三(1888-1966)のイギリス滞在,ドイツ滞在時の経験についてできるだけ実証的な論述を与えようとしたものである。初回の小泉の留学は,1912年秋から1916年春にまで及んでおり,文字どおり,悩み多き疾風怒濤の青春時代でもあった。執筆にさいしては,小泉全集のほか,2001年に慶應義塾大学出版会から公刊された『青年小泉信三の日記』を利用した。これは戦時中に焼失した日記のなかで奇跡的に残った資料で,今般小泉家の方々のご好意によってその出版が可能になったものである。いままでも小泉の外遊については彼自身の回想を中心にかなりの情報が入手可能であるが,この日記の公刊がなおも意味を持つのは,原則として日単位で小泉の行動がフォロウできること,そして小泉の集書のプロセスや聴講した講義についてさらに詳細に知ることができることによる。拙稿は,イギリスに足をふみいれてから第一次大戦勃発時までの小泉の行動をこの日記によって追跡したものである。とくに,LSE やベルリン大学で聴講した講義,集書の過程,ジェボンズの子息との面会,そして開戦直前,直後のドイツでの体験に焦点があてられている。なお,本稿の原型たる英文論文はマッコリー大学において,2005年7月5日から8日にかけて開催された第十八回オーストラリア経済思想史学会で報告された。
著者
池田 幸夫
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.24, no.5, pp.33-38, 2007 (Released:2018-04-07)
参考文献数
11

観察・実験と理論・法則は自然科学を構成する基本的な要素である。両者の関係に基づいて,理科授業を2つの型に分けることができる。まず,観察・実験によって得たデータから,きまり(理論・法則)を帰納的に発見させる授業が理論追求型である。学校で行われている問題解決型の授業の多くは,この型である。一方,理論や法則を前提にして,問題解決活動に重点を置いた授業が理論依存型である。理論や法則に対する矛盾を自覚させる場面をうまく仕組むことによって,理論依存型授業は科学的思考力の育成に大きな効果を発揮し,科学に対する学習者の興味関心を高めることが可能である。
著者
有井 薫 公文 義雄 池田 幸雄 末廣 正 橋本 浩三
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.35, pp.72, 2007

【目的】関節リウマチ(RA)の病態形成に酸化ストレスの関与が示唆されているが、これまでに実際にRA治療で臨床応用されている抗酸化剤は今のところない。我々は、脳梗塞を発症した関節リウマチ患者をフリーラジカル消去剤である塩酸エダラボン(Ed)で治療した際、RA活動性が低下した1例を経験した。そこで、RAの病態形成に及ぼすEdの影響についてin vitro、in vivoの検討を行なった。【方法】RA患者より採取したヒト滑膜細胞(SC)を培養し、IL-1βで刺激したSCの増殖能や遊走能、IL-6、MMP-3産生能、caspase-3/7活性に与えるEdの影響を検討した。また、細胞内転写因子であるNF-κBに与えるEdの影響についても検討した。in vivoの検討では、雄性DBA/1J マウスにコラーゲンで関節炎を誘発させ、Edによる治療効果を関節炎スコアで評価した。【結果】IL-1β刺激により増加したSCの増殖能・遊走能、およびSCからのIL-6、MMP-3産生はEdにより有意に抑制された。IL-1β刺激により抑制されていたSC のcaspase-3/7活性はEdにより有意に回復した。また、IL-1β刺激により活性化されたNF-κB活性は、Edにより有意に抑制された。雄性DBA/1J マウスを用いたコラーゲン誘発性関節炎の肉眼的関節炎スコアはEdの静脈内投与により有意に低下した。【結論】EdはRAの病態形成に対し抑制的に作用し、新しい治療薬となりえる可能性が示唆された。
著者
池田 幸弘
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.256-257, 2017

名鉄名古屋駅から犬山線,犬山駅からは広見線に乗り継いで新可児まで行き,そこからさらに御嵩行ワンマン列車に乗り込み,のどかな田園風景に見とれていると間もなく明智駅に到着した.無人駅のため運転手さんに切符を手渡して下車し,ちょうど駅前に停車しているバスに乗り込んだ.バスはこの先の名鉄八百津線が2001年に廃線となったため,代替として運行されている.ここまで来るとすっかり小旅行の気分になってしまっているが,弾む気持ちをおさえながら元役場前にて下車した.
著者
葉山 大地 髙坂 康雅 池田 幸恭 佐藤 有耕
出版者
日本青年心理学会
雑誌
青年心理学研究 (ISSN:09153349)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.99-113, 2019-03-22 (Released:2019-05-04)
参考文献数
33

The purpose of this study was to examine how sharing styles and social skills relate to the development of same-sex friendships in universities. In 2011 and 2013, longitudinal surveys were conducted in July (Time1), November (Time2), and January (Time3). Fifty freshmen participated fully in these surveys.Cross-lagged effects models including “degree of satisfaction” indicated that “degree of satisfaction with their friendships” (Time2) decreased “sharing intentions” (Time3), while “degree of satisfaction” (Time1) promoted many styles of sharing (Time2). These findings show that some participants avoid sharing intentions because they prefer to maintain moderately satisfactory relationships. In addition, a negative effect of “sharing goods” was estimated from the result that “sharing goods” (Time1) decreased “degree of satisfaction” (Time2).A cross-lagged effects model including “depth of relationship” showed that “sharing relationships” (Time2) promoted “depth of relationship” (Time3). Moreover, the findings that “depth of relationship” (Time1) promoted “sharing feelings” (Time2) and “sharing feelings” (Time2) promoted “depth of relationship” (Time3) showed a mutual causal association.
著者
池田 幸穂 幡野 義行 松塚 雅博 濱田 武
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.47-60, 1999-03-31 (Released:2017-02-13)
参考文献数
13

自然環境の荒廃著しい丹沢山塊における人間活動影響を評価するため降水と沢水の化学動態に基づいて各集水地の地質特性を検討し,個々の水系のキャラクタリゼーションを試みた。山塊主稜線によって分水される東北斜面の中津川,西斜面の玄倉川,南西斜面の水無川,および山塊東端の大山南東斜面の大山川の4水系における沢水,および標高立地の異なる5地点での降水を採取し, ICP発光分析,イオンクロマト,炭素分析によって主要無機化学種を定量した。水系間の比較により,沢水の化学性はそれぞれの水系に固有の性質であることが示唆されたが,降水の寄与による季節変動が認められた。沢水の化学性における降水の寄与を除くため降水中の塩化物イオンに対する各化学種の組成比に基づいて風化起源の濃度を求め,風化起源化学種の組成比の組み合わせによる水系間の比較を行った。その結果,各水系の水質は風化起源化学種間の組成比の組み合わせによる7種類の水質指標によって分類され,それぞれの分布が丹沢山塊の地質区分と良好な対応関係を示すことが分かった。本研究は水系の化学性によって集水地の地質と化学風化の態様に関わる特性を把握する可能性を示し,対象水系における環境影響を評価するために必要な基礎的知見を提供する。
著者
小嶌 隆史 池田 幸弘
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.387-391, 2016 (Released:2016-05-01)
参考文献数
12

近年の医薬品開発においては,様々な機能を持った製剤が展開されている.経口製剤だけを取り上げても,腸溶性製剤,可溶化製剤,持続吸収型徐放製剤,舌下錠,口腔内崩壊錠等,多種存在する.一方,治験初期では,原薬を出品後,治験サイトで溶解,懸濁あるいはカプセル充填して投薬されるなど,簡易な製剤で開発される場合もある.いずれの製剤においても,多くの場合,使用される原薬形態は結晶性の粉末である.結晶は非晶質と比較して物理的・化学的に安定であり,原薬および製剤の品質保持において優位であるだけでなく,製造における堅牢性確保の点からもメリットは多い.これに対し,溶解性の改善などを目的とした非晶質製剤として開発する場合には,品質や製造性の担保のための工夫がなされている.すなわち,高品質な医薬品を安定的に患者さんに届けることを使命とする製薬企業において,医薬品開発を俯瞰的に捉えた開発形態の選定は重要な項目である.過去には,不十分な開発形態の選定が原因による特許訴訟や製造中止の事例が報告されている.企業経営の問題にとどまらず,患者さんや広く社会に及ぼす影響も大きいことから,製薬企業には適切な開発形態の選定が求められている.本稿では,医薬品開発における開発形態選定の現状に加え,物性・原薬製造工程・製剤化工程研究を交えた新たな展開について紹介する.
著者
池田 幸弘
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.250-251, 2016

JR武蔵野線新秋津駅を下車し,学生さんたちと並んで住宅地を15分程度歩くと視界がひらけキャンパスが見えてきた.周りは武蔵野の自然豊かで,学び舎としてとても良い環境に立地している.正門の守衛所で資料館訪問の旨を伝えてキャンパスに入り,右手の創立者像を見ながら校内を歩くとすぐに資料館があった.丁寧な受付担当の方の説明をうかがいつつ,記帳のみで入館させていただくことができた.
著者
池田 幸代 大川 一郎
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.23-35, 2012-03

本研究の目的は,保育者のストレス評価の特徴に注目し,保育者のストレッサーは職場や職務に対する認識が媒介することによって変化が生じ,その結果職務に対する精神状態に影響をおよぼすという構造仮説モデルを,保育士と幼稚園教諭という職種別に検討することである。具体的には保育士119名と幼稚園教諭114名を対象に質問紙調査を実施し,パス解析を行った。その結果,保育者の認識の媒介効果は部分的に証明された。保育者の認識のうち保育者効力感を規定するポジティブな効果がみられた媒介変数は,保育士・幼稚園教諭ともに「専門職としての誇り」「保護者・子どもとの信頼関係」であった。「職場の共通意識」は,保育士の場合はバーンアウトを低減させる効果が示されたが,幼稚園教諭の場合は媒介変数としての効果は何もみられなかった。よって,保育職一般にとっては職務における個人的なやりがいや満足感といった認識はストレス軽減に関与し,職場内のまとまりや共通意識は,保育士にとってはストレス軽減要因となるが,幼稚園教諭にとってはストレス評価に関与しないという現状が明らかになり,保育職のうち職種の違いによって独自のストレッサーおよびストレス関連要因の存在が示唆された。今後,これらの要因を調整することにより,保育者の精神的健康が守られることが期待され,ひいては子どもの健全な発達援助の一助になると考えられる。
著者
池田 幸弘
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア
巻号頁・発行日
vol.51, no.7, pp.700-701, 2015

鶴橋の焼肉で腹ごしらえを済ませ,近鉄大阪線青山町行きの急行に乗車した.50分ほど乗っただろうか,ずいぶん山深いところまで来た.榛原で下車すると,ちょうど大宇陀行きのバスが待ち構えているかのように停車しており,乗車して20分ほどで終着の大宇陀に到着した.
著者
池田 幸恭
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 = The journal of Wayo Women's University (ISSN:24326925)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.65-74, 2017-03-31

日本では「すまない」などの負債感を含んだ複合的感情として感謝をとらえる傾向があるという文化的特徴に着目し、心理学や言語学の複数領域での研究成果に基づいて、感謝に伴って生じるすまなさ感情を経験することの心理的意味を明らかにすることを本研究の目的とした。そのため、「すまない」の語義、日本語の感謝表現における「すまない」、感謝と負債感の関係に関連する文献を概観した。それらの論考を踏まえて、以下の3つの試論を提起した。第1に、感謝は自分が周りから恩恵を受けていることを認識することによって、肯定的感情と否定的感情の両方として経験される可能性がある。そこでは、未分化で肯定的感情と複合したすまなさ感情を経験する場合、経験された否定的感情を解消するために他者へ返報する義務があることを強調して負債感を分化する場合があると考えられた。第2に、感謝に伴うすまなさ感情は、相手の負担、意図、与えられた恩恵の価値という状況の評価に加えて、相手との社会的関係の影響を受ける。さらに、感謝に伴うすまなさ感情は、他者との関係の形成や維持につながると考えられる。第3に、感謝に伴うすまなさ感情は、自己洞察を深めるが、同時に自己否定的な心理状態に留まるという危険性もある。今後の研究の展望として、対人関係以外の抽象的な対象への感謝に伴うすまなさ感情について検討すること、感謝の経験と表明の相違を検討すること、本研究で提起した試論について文化的背景を視野に入れた実証的研究をとおして確かめていくことの必要性について論じた。
著者
関 麻由美 池田 幸弘
出版者
JSL漢字学習研究会
雑誌
JSL漢字学習研究会誌 (ISSN:18837964)
巻号頁・発行日
no.6, pp.80-86, 2014-03-20

近年,マインドマップを利用した教育が日本語教育においてもなされてきている。本稿では,執筆者それぞれが実践したマインドマップを用いた漢字学習の事例を紹介する。そして,マインドマップを使用した学習法についての学習者のコメントをSteps for Coding and Theorization (SCAT)という質的データ分析手法を用いて分析し,マインドマップを漢字学習に用いることにどのような特徴があるかを考察する。
著者
池田 幸恭 Yukitaka IKEDA
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 (ISSN:18846351)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.65-75, 2015-03

本研究の目的は、感謝を感じる対象の発達的変化について明らかにすることである。10代(15歳以上)、20代、30代、40代、50代、60代それぞれ300名(男性150名、女性150名)の合計1800名にweb調査を実施し、感謝を感じる対象20項目への回答を主に求めた。各対象へ感謝を感じる程度を確認した上で、感謝を感じる対象の年代による評定得点の差を検討した。その結果、感謝を感じる対象の発達的変化は、対人関係における感謝(変化なし)、対人関係における感謝(変化あり)、抽象的な対象への感謝という大きく3つの特徴にまとめられた。第1の対人関係における感謝(変化なし)は、父親、母親、職場(あるいはアルバイト先)の人が含まれ、年代による得点差はみられず、15歳以上から60代にかけて感謝の気持ちを安定して感じていた。第2の対人関係における感謝(変化あり)は、友だち、恋人(あるいは配偶者)、祖父母、学校の先生、自分の子ども、年下のきょうだい、年上のきょうだいが含まれ、感謝の気持ちを最も感じている時期ならびに感じる程度が最小の時期が対象によって異なっていた。第3の抽象的な対象への感謝は、自然の恵み、自分の健康状態、いのちのつながりといった10種類の対象が含まれ、概ね10代から20代よりも50代、さらに60代に感謝を感じる程度が大きくなっていた。以上より、感謝は生涯発達をとおして、具体的な対人関係においてだけなく、抽象的な対象へも広がって感じられるようになると考えられた。