著者
田中 健斗 西村 太一 白井 圭佑 亀甲 博貴 森 信介
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第35回全国大会(2021)
巻号頁・発行日
pp.4J2GS6e03, 2021 (Released:2021-06-14)

語学学習において,「話す」,「書く」といった言語の産出能力の訓練は学習した知識を定着させる上で重視されている.しかし,記述式問題の人手による採点には多大なコストを要するため,機械による自動採点技術が注目を集めている.本研究では,写真描画問題を対象として,自動採点技術の実現を試みる.具体的には,(i)まず学習者の誤り傾向を調査・分析し,(ii)次にそれを基に疑似誤りデータを生成し, (iii)最後に写真と解答文の関連性を評価する正誤判定モデルを考案する.実験は疑似誤りデータを用いて学習し,実際の学習者の解答を用いて評価した.実験結果から,ランダムに出力を行う判別器と比較して,提案モデルは高い識別性能を実現することがわかった.
著者
三津井 勇佑 田中 健路 白水 元 朝位 孝二
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B1(水工学)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.I_289-I_294, 2018

2017年7月5日午前,中国西部では,九州北部豪雨に先んじて特別警報級の大雨が観測された.この大雨による被害は,同日発生した九州地方での被害と比べ程度が小さく,あまり注目されていないが,被害が小規模にとどまった要因などを検討する上で,その発生機構を明らかにする必要がある.本研究では,各種気象資料の解析や数値モデルによるシミュレーションにより,中国地方の豪雨をもたらした線状降水帯が,台風通過後の梅雨前線の形状の変化の過程で発生し,大陸側の高気圧の影響で衰退したことを明らかにした.また,中国西部と九州北部のそれぞれの豪雨ピーク時では気象場の対流活動の規模がことなることが分かり,これが降水量や被害の差異に影響することが示唆された.
著者
田中 健太郎 宮崎 浩一
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.1-13, 2011-07-20

本研究では,オプションのデルタヘッジ戦略への利用をふまえて,将来の実現ボラティリティを予測するモデルを提案し,既存モデルに基づく場合とデルタヘッジ戦略の収益性を比較検討する.提案モデルは,実現ボラティリティとインプライドボラティリティの比に関する時系列データを利用したものであり,デルタヘッジ戦略の収益性は,既存モデルによるものよりも高い.実証分析では,この結果がどのようなメカニズムから生じるかについても詳細に検討する.
著者
吉田 司 渡邉 大輝 中潟 崇 山田 陽介 黒谷 佳代 澤田 奈緒美 田中 健司 岡林 恵 島田 秀和 瀧本 秀美 西 信雄 宮地 元彦 阿部 圭一
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.20-111, (Released:2021-05-14)
参考文献数
34

目的 本研究は,大阪府北部の摂津市および南部の阪南市における40歳以上の中高齢者のフレイル該当割合と2市で共通してフレイルと関連する要因を明らかにすることを目的とした。方法 2018年度に摂津市,2019年度に阪南市において無記名式郵送調査を行った。対象者は,小学校区ごとの40歳以上の性・年齢階級別の人口構成に応じて各小学校区から1,000人ずつ無作為に抽出した(摂津市10小学校区,阪南市8小学校区)。分析対象者は摂津市が5,134人,阪南市が3,939人であった。フレイル評価は,基本チェックリスト(KCL)および簡易フレイル指標(SFI)を用いた。フレイルを目的変数とし,年齢,性,BMI,家族構成,主観的健康感,経済状況,主観的体力,睡眠,喫煙,飲酒,食事回数,用語「フレイル」認知度を説明変数として多変量ロジスティック回帰分析を適用した。すべての分析は,摂津市と阪南市に分けて行った。結果 対象者の平均年齢と標準偏差は,摂津市が62.7±12.5歳および阪南市が63.4±12.2歳であった。KCLによるフレイル該当割合は,摂津市と阪南市でそれぞれ40歳代が18.7%と17.9%,50歳代が18.2%と14.6%,60歳代が17.0%と15.7%,70歳代が25.4%と20.8%,80歳以上が39.7%と36.1%であった。SFIによるフレイル該当割合は,摂津市と阪南市でそれぞれ40歳代が16.2%と13.5%,50歳代が15.0%と11.9%,60歳代が12.5%と10.0%,70歳代が14.6%と12.3%,80歳以上が24.7%と22.3%であった。摂津市および阪南市で共通し,かつKCLとSFIで共通してフレイルと関連した要因は,高年齢,主観的健康感の低さ,経済状況の不良,主観的体力の低さ,睡眠が不十分,およびフレイル認知度の低さであった。結論 大阪府の2市における調査により,40歳代や50歳代であっても一定数のフレイル該当者がいることが明らかになり,より早期の働く世代からのフレイル予防の取り組みが必要であることが示唆された。また,フレイルと関連する6つの要因が抽出されたが,因果関係や公衆衛生的意義について縦断研究や介入研究による検討が求められる。
著者
小林 奈保子 下田 実可子 清水 綾音 川原 正博 田中 健一郎
出版者
公益社団法人 日本アロマ環境協会
雑誌
アロマテラピー学雑誌 (ISSN:13463748)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.1-9, 2021-02-05 (Released:2021-02-09)
参考文献数
17

皮膚は表皮(ケラチノサイト),真皮(ファイブロブラスト),皮下組織から構成されており,生体内部の保護や体温調節などの役割を果たしている。また,表皮最下層の基底層にはメラニンを産生するメラノサイトが局在している。一方,紫外線(UV)などの刺激に曝されると,皮膚障害(ケラチノサイトでの細胞死)・メラノサイトでの過剰なメラニン産生・ファイブロブラストでのコラーゲン産生低下が起こる。このように,皮膚がUVに繰り返し曝露されると,酸化ストレスによる障害が蓄積し,シミ・シワを特徴とする「光老化」が引き起こされる。そこで,本研究では,酸化ストレスによる皮膚障害を抑制する精油を網羅的スクリーニングにより発見することを目的として実施した。その結果,ラベンダー精油がケラチノサイト保護とコラーゲン産生低下の回復,ジャスミンAbs.がメラニン産生抑制とコラーゲン産生低下の回復という複数の保護作用を持つことを見いだした。また,これらの保護作用は抗酸化作用を介する可能性が示唆された。今後さらなる解析を行い,酸化ストレスによる皮膚障害を抑制する最適な精油を提案したい。
著者
梅本 貴豊 田中 健史朗
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.385-392, 2015-03-20 (Released:2016-08-11)
被引用文献数
4

本研究は,動機づけ調整方略の使用量,また,動機づけ調整方略と学習行動との関連について,「困難」と「退屈/面白くない」という2つの学習意欲の低下理由ごとに検討を行った.具体的な学習行動としては,認知的方略の使用,学習の持続性,学習の取り組みを取り上げた.困難さによる学習意欲低下場面を想定させる質問紙と,退屈/面白くなさによる学習意欲低下場面を想定させる質問紙の2パターンを作成し,4つの大学の学生にランダムに配布した.そして,計327名の大学生のデータが分析された.まず,t検定の結果,学習意欲の低下理由によって動機づけ調整方略の使用量には差がないことが示された.次に,重回帰分析の結果,退屈/面白くないという学習意欲の低下理由において,動機づけ調整方略と学習行動とのより強い関連が示された.特に,自律的調整方略と全ての学習行動との強い正の関連が示された.以上の結果に基づき,動機づけ調整方略と学習行動との関連について議論が行われた.
著者
田中 健一 古田 壮宏
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.145-150, 2010-10-25
参考文献数
12
被引用文献数
2

Hodgsonによって提案された捕捉フロー最大化問題は、移動経路上で施設を利用可能な需要を最大化するように定められた個数の施設を配置する問題である。本稿では鉄道利用者に着目し、意思決定者が需要獲得力と設置コストの異なる二種類の施設を配置可能な状況を仮定し、総資金制約のもとで各施設の組み合わせとその配置を同時に決定する問題を提案する。鉄道利用者にとって、起点駅と終点駅にある施設はアクセルが容易であるが、途中通過駅にある施設を利用するためには途中下車が必要であるため大きなコストが発生する。これを抽象的に捉え、小施設は配置された駅を起点駅または終点駅とするフローのみを捕捉可能であり、大施設は配置された駅を移動経路に含むフローを捕捉可能であると仮定する。提案モデルを現実の山手線上の流動データに適用し、最適配置結果を詳しく分析する。また山手線上のOD表を用いて捕捉フローを可視化し解の特徴を分析する。さらに両者を組み合わせて配置可能な場合には、同一資金で一方のみを最適に配置する場合よりも多くのフローを捕捉可能なケースを示す。
著者
羽間 京子 岡村 達也 勝田 聡 田中 健太郎
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、保護観察中の性犯罪者の性的認知のゆがみを分析するために、日本の保護観察所が実施している質問紙を用いた調査と事例研究を行った。保護観察中の性犯罪者と犯罪歴のない一般成人の質問紙への回答結果の分析の結果、性犯罪者群のほうが、合理化やわい小化などの性的認知のゆがみが大きいことが明らかとなった。また、財産犯との比較から、性犯罪者のほうが性的認知のゆがみが大きいことが示された。以上から、本研究は、それぞれの性犯罪者が有する性的認知のゆがみの種類や特徴を踏まえた保護観察処遇の重要性を指摘した。
著者
田中 健太 星野 雄二郎 本田 清
出版者
一般社団法人 色材協会
雑誌
色材協会誌 (ISSN:0010180X)
巻号頁・発行日
vol.93, no.2, pp.49-53, 2020-01-20 (Released:2020-03-05)
参考文献数
15
被引用文献数
1 4

高い酸化力を有するチオキサンチリウム有機色素の分子設計と合成法を確立し,それを光増感剤とする緑色光照射下フォトレドックス触媒反応への応用に成功した。とくに既存の有機フォトレドックス触媒では効率的に反応が進行しないラジカルカチオンDiels-Alder反応やoxa-[4+2]環化付加反応へと適用することが可能であり,わずか0.01当量のチオキサンチリウム触媒を用いて目的とする環化付加体を高収率で得ることに成功した。チオキサンチリウム触媒の高い酸化力がこれらの反応の進行を促進したと考えられ,緑色光を光源とした新たな有機合成反応への応用が期待される。
著者
田中 健太 星野 雄二郎 本田 清
出版者
公益社団法人 有機合成化学協会
雑誌
有機合成化学協会誌 (ISSN:00379980)
巻号頁・発行日
vol.76, no.12, pp.1341-1351, 2018-12-01 (Released:2018-12-12)
参考文献数
104
被引用文献数
6 8

Condensed oxygen-heteropolycyclic compounds are one of attractive synthetic targets in organic synthetic chemistry. Among these useful compounds, chromenes and benzofurans are important structural motifs, which are found in a wide range of biologically active compounds and photochemical materials. Therefore, a number of research groups have developed methodologies to synthesize these compounds. ortho-Quinone methides are key reactive intermediates with a wide range of applications in organic synthesis. In this account, our recent research on acid-promoted inverse-electron-demand [4+2] cycloaddition reaction of electron-rich arylalkynes with ortho-quinone methides is described. This reaction can be applied to a variety of arylalkynes, affording high regioselective cycloadducts. The present reactions provide versatile access to functionalized multi-substituted chromenes and benzofurans, that would be a useful tool for the synthesis of biologically and photochemically active molecules.
著者
髙橋 文 田中 健太郎
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.183-190, 2019 (Released:2019-12-24)
参考文献数
69

生殖的隔離機構が生じる遺伝的メカニズムについては、Bateson-Dobzhansky-Mullerモデルで示されたように遺伝的要素間の不適合に起因することが古くから概念化されている。モデル生物であるキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)やその近縁種を用いた研究では、交尾後に生じる不適合性に関与する遺伝子が複数同定されている。また、外部生殖器形態の種間差のような量的形質についても原因となる遺伝領域に迫るツールを駆使することができる。このような不適合性の生起には、自然選択が関与している場合としていない場合があるが、交尾後の生殖的隔離に寄与する遺伝子が同定されたケースの多くで、アミノ酸の置換速度が速いなど、正の自然選択が関与した痕跡が見られる。特にショウジョウバエでは速い進化の原因として、ゲノム内コンフリクトから生じる強い正の自然選択の関与が多く報告されているが、環境適応による自然選択が不適合性の生起に関与するケースがもう少し見つかってもよいのではないか、またそれを明らかにするためにモデル生物を用いる利点や難点は何か、今後の展望について考察する。
著者
山本 寛人 田中 健一 山下 俊介 浮田 昌一 中野 博史 白沢 楽 冨谷 茂隆 小寺 正明 船津 公人
出版者
公益社団法人 日本化学会・情報化学部会
雑誌
ケモインフォマティクス討論会予稿集 第42回ケモインフォマティクス討論会 東京
巻号頁・発行日
pp.1P19, 2019 (Released:2019-10-22)
参考文献数
4

電子エネルギー損失分光法(EELS)から得られたスペクトルデータの解析手法について報告する。EELSは電子線を試料に照射し、透過した電子線に磁場をかけて分光し、エネルギー損失から試料の状態を推定する分析手法である。提案手法では、EELSスペクトルデータに2種類の前処理を適用し、主成分分析による解析を行った。ドライエッチング時のダメージの状態把握および、GaInN量子井戸におけるインジウム含有量の推定結果について報告する。
著者
田中 健作
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.67-84, 2012 (Released:2012-10-25)
参考文献数
29
被引用文献数
3 4

本研究では,広島県北広島町大朝地区におけるデマンド型交通(DRT)のサービス供給方式と運営関係者の組織化過程を検討した。国や広島県の地域公共交通政策が変更される中,北広島町は,町村合併に伴う公共交通再編成を進め,DRTを導入した。北広島町大朝地区の場合は,多様なアクターがDRTの運営に関与し,利用特典を独自に設定したり,車両を積極的に利活用したりすることで経営基盤を強化させていた。こうした特徴を持つ大朝地区のDRTの運営関係者の組織化過程を考察すると,町は交通事業者側の経営自由度を高め,その下で大朝地区の交通事業者は,独自の運営方式を可能とする緩やかなネットワークを既往の地域的な諸関係を基にして構築していたことが判明した。そこでは,キーパーソンとなる交通事業者のH氏が,利用者の視点からサービスが向上されるよう,運行を支援する地区内の各事業者を位置付けていた。一方の運行を支援する各事業者も自らの活動のツールとしてDRTを位置付けた。これらの結果,交通経営と各アクターの事業の運営の双方にメリットが生み出されるようなサービス供給体制が構築されていた。
著者
田中 健作
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.4, 2011

1.はじめに<BR>本報告では,山村地域の公共交通運営の在り方を探るため,広島県三次市を事例として,市町村合併後の公共交通再編成の特徴を明らかにする.そのために,自治体の対応を軸に,各路線の配置形態や利用状況に加え,サービス生産に必要な各経営資源の存立形態等について検討する.<BR>2.広島県内の公共交通政策の動向<BR>規制緩和等により,シビルミニマムとしての公共交通を確保していくうえで,三次市をはじめ各自治体の役割はより重要になっている.広島県内の各市町の政策動向をみると,市町村合併後に,公共交通ネットワークの効率化と交通空白地域解消を目指し,国や県の公共交通再編支援策を活用しながら,各市町は山間部等の低需要地域を中心にデマンド型交通を,市街地への循環バス等を導入している.<BR>この結果,広島県内の過疎地域を多く抱える各地域では,公共交通への需要が低迷する中で,乗合バス事業者が主に広域的な輸送を,事業者の撤退した路線や市町内の輸送を自治体バス等が担っている.<BR>3.広島県三次市における公共交通の再編成<BR>このような下で三次市は,市町村合併後,旧町村間にあったバス運行形態のバラつきの解消や交通空白地域の解消を目指した公共交通再編成を進めている.<BR>はじめに,公共交通政策の変遷をみると,市は2005年3月の「三次市生活交通体系実施計画」の策定以降,2007年3月,2010年3月に相次いで公共交通再編計画を打ち出してきた.公共交通の全体的な利用者数が減少する中で,市は,広域的幹線であるJR線に加え,乗合輸送に関して,再編計画に基づき_丸1_事業者による広域生活路線(主に旧三次市を発着する地域間バス)を基幹部分に据え,旧町村部の無料福祉バス等を統合する輸送手段として新設した_丸2_市の自主運行する域内生活路線(市民バス),_丸3_市が商工会に運行を依頼する域内生活路線(デマンド),_丸4_住民組織により運営される市民タクシーを重層的に配置してきた.<BR>これらにより市は交通空白地域の解消を含むサービス平準化を目指した.その際に市は,高齢者の生活利用を前提に既往の無料福祉バス等の運行ダイヤを基本的に踏襲したが,一方で新たに利用者負担の原則を導入し,全路線を有償運行化した.なお,_丸2_~_丸4_の運行内容は輸送状況により継続的に見直されている.<BR>次いで,公共交通の利用者状況をみると,_丸1_事業者路線の利用者数が減少する中で,_丸2_~_丸4_の利用者数は小規模ながらも横ばいで推移しており固定客が中心であると考えられる.なお,_丸2_の市民バスの場合,通学利用を除くと,週に1~2回から月数回ほど利用する高齢者の利用が主となっている.<BR>さらに以下,経営資源の存立形態を各主体の役割や諸関係に着目してみていく.市は,赤字負担と企画立案部門に徹しており,さらに運行部門の主体を以下にみるように複数組み合わせることで,市は財政面や事務面での自らの負担を軽減しようとしている.市が主体的に設置する_丸2_~_丸4_をみると,_丸2_の場合,市は委託先である地元貸切バス事業者との間に長期的な業務関係が築けるよう,複数年契約を結び,他方では事業者路線(_丸1_)と遜色ない輸送単価に基づく契約金額を設定している._丸3_の場合,運営主体に据えられた地域社会側の主体である商工会が無償で運行管理や事業者間の調整を行っている.市はこの体制を長期的に維持するため,商工会側の要望した経営インセンティブを後に設けた._丸4_の場合,経営資源として自治機能が位置づけられ,インセンティブの設定のない住民参加の運営体制を制度化している.しかし,住民組織の高齢化等,継続的に事業を進めるための課題も残されている.<BR>4.まとめ<BR>以上より三次市の公共交通再編成の特徴には,各路線が重層的に配置されていること,市が運行部門との間に長期的に安定した協働的契約ともいうべき業務関係を結ぶとともに,部分的には地域の社会的基盤も活用していることが挙げられる.しかし,運行部門に関する課題が一部に残されていることも確認される.<BR>これらを踏まえると,山村地域における自治体の公共交通運営において,行政の企画立案能力や財政負担とともに,各運行部門が継続的に事業に取り組めるような枠組み作りが重要になっていると考えられる.