著者
田中 美保子
出版者
東京女子大学
雑誌
東京女子大学紀要論集 (ISSN:04934350)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.17-37, 2021-03-30

スタジオジブリがアニメーション化した『借りぐらしのアリエッティ』(2010)は、メアリー・ノートンのイギリス児童文学の古典The Borrowers (1952)を翻案した作品である。『ハウルの動く城』 (2004)や『思い出のマーニー』(2014)を含め、ジブリ映画の伝統に位置づけられる作品は、イギリス児童文学を脚色したり、その影響を受けたりしている。ジブリは、物語の舞台を日本へ移し、アニメーション化に際し、環境の違いや文化の背景の違いを反映した多くの変更を加えている。ジブリ作品の英語吹き替え版の大半はディズニー/ピクサーが制作し、アメリカ人声優を起用しているが、珍しいことに、『借りぐらしのアリエッティ』では2種類の英語吹き替え版が制作された。一つは、ディズニーによるThe Secret World of Arrietty (2012)、もう一つは、イギリス人役者を主に起用した、イギリスの配給会社スタジオ・カナルによるArrietty (2011)である。これら二つの吹き替え版では、脚本、性格描写、それぞれの国固有の事物・風物として焦点を当てる箇所などが違う。そしてそれは、ジブリの日本語脚本とも著しく異なっている。本稿では、こうした点に着目し、日本語版と二つの英語吹き替え版を比較対照し(また、ノートンの原作を適宜参照し)、文化を跨いだノートンの物語の広がりを探る。変更点の多くは、日本、アメリカ、イギリスの文化的な違いに関わること、言語や物質的世界の向こうへ広がる問題、物語の慣例や(特にディズニーの場合には)登場人物や家族関係に対する姿勢の違いが関係することについて考察する。その際、「国民性」といったありきたりの結論にならないよう留意しつつ、関連する要因の数やその複雑さにも配慮する。
著者
藤本 智久 皮居 達彦 田中 正道 石本 麻衣子 大谷 悠帆 久呉 真章 大城 昌平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>近年,新生児のケアにディベロップメンタルケア(DC)が導入されてきており,本邦でも日本DC研究会が中心となりNIDCAP(Newborn Individualized Developmental Care& Assessment Program)を普及するべく活動がなされ,現在,日本でも13名の国際NIDCAP連盟が認定するNIDCAP Professionalが誕生している。NIDCAPは,Alsが開発した赤ちゃんの行動を根拠とした新生児のケアを提供するプログラムであり,赤ちゃんと家族を中心としたケアを推進していくものである。現在,当院でも2名(PT,Ns)のNIDCAP Professionalがおり,NIDCAPを展開している。また,NIDCAPの効果についての報告は,海外では散見されるが,本邦ではNIDCAPの効果について検討した報告はない。今回,NIDCAPの効果を修正6か月前後の発達指数を用いて比較検討したので報告する。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象は,2013年以降に出生し当院NICU,GCU入院し,修正6ヶ月前後で新版K式発達検査2001が実施できた超低出生体重児17名(平均出生体重706.6±181.8g,男性6名,女性11名,在胎26.1±1.6週)である。そのうちNIDCAPの継続観察を実施した児(NIDCAP群)8名とNIDCAPの観察対象とならなかった児(Control群)9名に分けた。対象を外来で修正6ヶ月前後に発達検査を行い,姿勢運動(P-M)領域,認知適応(C-A)領域,言語社会(L-S)領域,全領域のそれぞれについて発達指数を算出し,NIDCAP群Control群で比較検討した。なお,統計学的検討は,Mann-WhitneyのU検定を用いて危険率5%以下を統計学的有意とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>NIDCAP群とControl群の修正6ヵ月時の平均発達指数(NIDCAP群/Control群)は,P-M領域では,100.3±14.8/102.9±9.4,C-A領域では,103.4±6.3/102.9±7.5,L-S領域では,110.5±7.2/101.2±7.5,全領域では,103.2±8.2/103.5±7.0であり,L-S領域でのみ有意にNIDCAP群が高値を示した(p<0.05)</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>今回のNIDCAP群とControl群の比較の結果,L-S領域にのみ有意差を認め,NIDCAP群が言語社会面の発達指数が高くなっていた。これは,NIDCAPによって赤ちゃんの行動観察を根拠としてケアを行うことで,相互作用が促され,また退院後も家庭で母親が継続することより,赤ちゃんとのアイコンタクトやコミュニケーションが増え,修正6ヵ月時点での言語社会面の発達につながっていた可能性も考えられる。また今回,運動面や認知面では有意差がみられなかった。これは,NIDCAPを開始するにあたってすでに浸透しているポジショニングや環境への配慮などベースとなるDCによる影響もあり,今回の違いとして出てこなかった可能性も考えられる。今後はNIDCAPの介入例を増やし日本での長期の予後等についても検討していく必要があると考える。</p>
著者
加藤肇彦 高野 忠 上杉 邦憲 周東晃四郎 山田 隆弘 金川 信康 井原 廣一 田中 俊之
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.35, no.9, pp.1936-1948, 1994-09-15
参考文献数
23
被引用文献数
2

衛星搭載用高信頼コンピュータ開発と、その運用による実証について報告する。高い信頼性が要求される衛星搭載用コンピュータの構成要素として、高価で低集積度の宇宙用半導体に比較した地上用半導体の利点に着目し、その短所を補強しながら、高信頼の衛星搭載用コンピュータを構成する方法を検討した。宇宙線の入射による劣化と誤動作に加え、衝撃、振動、温度環境、重量・寸法・消費電カの制限は、いずれもソフトウェアとシステム構成への厳しい要求条件となる。そしてこれらのすぺてを満足するアプローチとして、フォールトトレランス方式を採用した。フォールトトレランス方式を空間ダイバーシティと時間ダイバーシティに大別し、空間ダイバーシティを部品内レベル、部品間レベル、システムレベルで実現した。特にシステムレベルでは処理ユニットを多重化し、緩い同期による出カの多数決をはかった。空間ダイバーシティに宿命的に付随するシングルポイント故障を回避するために、時間ダイバーシティ、具体的には出力フィードバックを採用し、空間・時間ダイバーシティを含めた診断アルゴリズムを創出した、さらに、各状況における最も正しい出力の選択のために、ステップワイズ・ネゴシエーティング・ボーティングの診断法を考案した。最後にこれらの各高信頼化技法を実機で実現し、軌道上で運用してその正当性を実証した、今後は実績をもとにさらなる拡張発展をはかる。
著者
脇田 雅文 田中 美枝 宇野澤 秀樹
出版者
特定非営利活動法人 日本顎咬合学会
雑誌
日本顎咬合学会誌 咬み合わせの科学 (ISSN:13468111)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.59-66, 2009
被引用文献数
1

インプラント治療において,歯槽骨量が少ない場合は骨造成を併用してインプラントを埋入する方法が多く取り入れられてきている.しかし,大きな骨造成を行なうことにより患者および術者への負担も大きくならざるを得ないという欠点があった. そこで,ショートインプラントを適正な位置に埋入することにより,低侵襲で埋入を行ない,患者への負担を軽減するように試みられてきた. しかし,欠損部の大きい全顎治療等でインプラントの埋入本数が増えた場合は,技工側は上部構造の補綴物製作にあたり鋳造物が大きく鑞着部分が多くなり,高度な技工技術が必要になる.さらに多くの貴金属の使用によりコストの増加がともない,患者側の経済的負担にもなっていた. プロセラインプラントブリッジの最大の特長はCAD/CAM システムによって製作され,従来の鋳造物と比較し,チタンブロックからの削り出しのため,変形のリスクがないことである.フレーム自身がアパットメントと一体構造,高強度,作製過程の簡略化と低コストである利点がある. 本論文においてショートインプラントとプロセラインプラントブリッジを用いたインプラント治療の結果,精度が高く一定の審美性のある上部構造を持ったインプラント補綴治療ができ,本治療方法は以下のような特長をあわせて有している. 1.ショートインプラントによる患者,術者への負担軽減 2.プロセラインプラントブリッジによる製作過程の簡略化と低コスト化 これらの結果から今後のインプラント処置の選択肢の1 つとなりうることが示唆された.
著者
田中有美 編
出版者
田中文庫
巻号頁・発行日
vol.巻7, 1920
著者
戸田 宏文 山口 逸弘 鹿住 祐子 中江 健市 上硲 俊法 田中 加津美 吉田 理香 吉田 耕一郎
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.319-324, 2013 (Released:2014-02-05)
参考文献数
18

我々は喀痰抗酸菌培養検査において,採痰ブース内水道水にMycobacterium lentiflavumが混入したことによるpseudo-outbreakを経験した.81症例からM. lentiflavumが検出されたが,感染症例は認められなかった.採痰ブース以外の院内水道水103箇所の抗酸菌培養を行ったところ,6個所からM. lentiflavumが検出された.臨床分離株14株,採痰ブース由来3株,および院内水道水由来5株の合計22株についてrep-PCRにて相同性の確認を行ったところ,プロファイルAからEに分類された.プロファイルCとDには臨床分離株と環境由来株が混在し,95%以上の相同性が認められた.
著者
田中 彩恵 丸山 智沙登 柳沢 美保
出版者
信州大学医学部附属病院看護部
雑誌
信州大学医学部附属病院看護研究集録 (ISSN:13433059)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.10-13, 2021-03

上咽頭がんに対する化学放射線療法(ChemoRadioTherapy:以下CRT)の中止を意志決定した若年成人(Young Adult:以下YA世代)の患者の事例に関わり、何故治療中止に至ったのか、看護師の関わりは適切であったのか疑問が生じた。YA世代の患者にとって治療や入院の状態は経験したことのない苦痛が生じていること、YA世代は周囲の思いを察することができるが、自らの思いの核心をあえて言語化しないと言われている。本症例を振り返り、YA世代への関わりとして「聴こう」としすぎる対応は、患者にとって大きな負荷となってしまうため、YA世代は医療者が気にかけているという姿勢や、声かけ等の程よい距離での対応が効果的であると示唆された。
著者
岡戸 晴生 平井 志伸 田中 智子 新保 裕子 三輪 秀樹
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

成熟後にRP58の発現を減弱させたところ、やはり認知機能の低下を見出し、RP58の発現を興奮性ニューロンで増加させたところ、生理的な加齢に伴う認知機能低下を抑制できることを見出した。さらに興味深いことに、ヒト型変異APPホモマウス(アルツハイマー病モデル)にRP58発現アデノ随伴ウイルスを用いてRP58を過剰発現させると、低下した認知機能が改善した。すなわち、ウイルス投与前(3ヶ月齢)では、物体位置認識および新規物体認識試験テストにより、APPホモマウスは認知機能が低下していたが、RP58発現ウイルス投与後1ヶ月後には、認知機能が正常レベルに回復していた。一方、GFP発現ウイルス投与1ヶ月後(コントロール群)では認知機能は低いままであった。組織解析において、RP58補充群では、アミロイド斑はサイズがコントロールと比較して小さい傾向が見られ、RP58を補充したことによりアミロイド蓄積が抑制された可能性を示している。以上のことから、RP58は不可逆的と考えられていた、老化やアルツハイマー病に伴う認知機能低下を可逆的に制御している可能性が示された(岡戸、新保:国際特許出願,2020)。
著者
有房 秀樹 田中 久子 小山 裕史
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構 一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報プロフェッショナルシンポジウム予稿集
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.93-96, 2006

本発表は2005年度の日本アグケム情報協議会における関東第一Gのワーキングループの活動成果である(活動期間2005/10~2006/3)。米国特許庁(USPTO)のPAIR、世界知的所有権機構(WIPO)のpatentscopeのサービスの提供や、欧州特許庁(EPO)のepoline/esp@cenet等の提供に伴い)、電子包袋、ファミリー情報やINPADOC LEGAL STATUS(以下LSと略する)が利用できるようになった。InpadocのLSにはPRSコードに代表される審査経過情報が記載されており無料でesp@cenet経由で確認できる。権利が確定した特許をランダムに選出しPRSコードから得られる情報の精度、限界につき事例を元に検証を行ない、特許の生死情報、移行情報、特許延長登録情報等有用な情報を読み取れることを確認するとともに情報の限界につき考証した。
著者
丸山 正隆 大坪 千秋 田中 三千雄 大井 至 上地 六男 竹本 忠良 鈴木 博孝
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.414-427, 1975

1971年11月から1974年2月までの間に単一の検者により前方直視鏡で内視鏡検査を施行された475例中, 130例に潰瘍あるいはその瘢痕以外の何らかの変化を十二指腸球部に観察した. これらの全てが十二指腸炎の所見であるか, あるいは, 所見を認めなかつた例を正常としてよいかどうかはまだ不明であるが, これらの変化の多くは前回の病理組織学的検討と照合して考えた時, 原発性十二指腸炎の種々の所見の反応と考えられる. このうち, 発赤, びらんなどは表在性十二指腸炎の所見といえるが, 生検的には間質性十二指腸炎を獲え難いため, これがどの程度含まれてくるかは不明である. 萎縮性十二指腸炎は日本では稀とされ, 生検でこれを獲えることは困難もあるが, 血管透見, Liver area の出現, 絨毛の萎縮などはこれを示す可能性のある所見として考慮し得る. このほか種々の小陥凹や小隆起は十二指腸炎との関連性を考慮し得る所見である.
著者
田中 邦彦
出版者
日経BP
雑誌
日経コンピュータ = Nikkei computer (ISSN:02854619)
巻号頁・発行日
no.1055, pp.60-63, 2021-11-11

スマホ予約や無人受付など、様々なITを活用して回転ずし店を進化させてきた。システムを自社開発する方針を徹底し、IT人材をひき付け情報化を加速する好循環を構築。かつて独学でプログラミングを学んだ経験を生かし、新技術の使いこなしを自ら楽しむ姿勢を貫…
著者
田中 保
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.187-192, 2011-03-01
参考文献数
30
被引用文献数
1

食べる胃腸薬といわれるキャベツやダイコン,春の七草に含まれるナズナ,スズナ,スズシロ(ダイコン)など,胃腸に良いとされる食物にアブラナ科の植物は多い.アブラナ科の植物を生で食べると,植物酵素のホスホリパーゼDと消化酵素のホスホリパーゼA<sub>2</sub>の作用で生理活性脂肪質のリゾホスファチジン酸(LPA)が生じる.消化管への野菜の効果にLPAが関与する可能性を論じる.
著者
穐本 浩昇 田中 讓 瀧川 一学
雑誌
第79回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2017, no.1, pp.443-444, 2017-03-16

本研究は、札幌市の凍結防止剤の散布のタイミングと対象エリアの助言サービスとドライバーへの凍結スリップ危険度の警告サービスの実現を目指し、道路凍結の予測システムを構築することを目的としている。札幌市を1kmメッシュ状に分け、各エリアの1時間ごとの路面の摩擦係数を気象データや交通データから予測する。教師データに用いる摩擦係数はエリア内を実際に走った車のABS(アンチロックブレーキシステム)の作動データより得られる。まず凍結路面と圧雪路面に分類してから各々の路面モデルで回帰をする二段階推定により予測精度の向上が見られた。