著者
田中 敏郎
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.291b, 2015 (Released:2015-10-25)

現在,関節リウマチ,若年性特発性関節炎,キャスルマン病に対する治療薬として承認されているヒト化抗IL-6受容体抗体トシリズマブは,他の様々な慢性に経過する免疫難病にも新たな治療薬となる可能性があり,臨床試験が進められている.また,最近,キメラ抗原受容体を用いたT細胞療法に合併するサイトカイン放出症候群にもトシリズマブが著効することが示され,IL-6阻害療法は,サイトカインストームを呈する急性全身性炎症反応に対しても新たな治療手段となる可能性がある.サイトカインストームには,サイトカイン放出症候群,敗血症ショック,全身性炎症反応症候群,血球貪食症候群やマクロファージ活性化症候群など含むが,特に敗血症ショックでは,病初期のサイトカインストームとその後の二次性の免疫不全状態により,予後が極めて悪く,しかし有効な免疫療法がないのが現状である.敗血症患者ではIL-6は著増し,IL-6の血管内皮細胞の活性化,心筋抑制や凝固カスケードの活性化等の多彩な作用,また,同様な病態を呈するサイトカイン放出症候群に対するトシリズマブの劇的な効果を見ると,IL-6阻害は敗血症に伴う多臓器不全に対して有効な治療法となる可能性がある.しかし,現在,トシリズマブは重篤な感染症を合併している患者には禁忌であり,どのように挑戦するのか,症例(報告)の解析,患者検体,動物モデルを用いた我々のアプローチを紹介したい.
著者
田中 八州夫
出版者
同志社大学
雑誌
同志社政策科学研究 (ISSN:18808336)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.209-221, 2013-03

研究ノート・資料(Note)2000年に創設された介護保険制度は、それまで主に女性が担ってきた家庭内での介護を、社会全体で支えることを目的に創設された。そして、わが国の介護保険制度は「介護を要する状態」の要介護者だけでなく、「介護を要する状態に陥るおそれがある」要支援者も介護保険での給付対象としている。2000年の介護保険制度の創設後、要支援や要介護1の軽度認定者が著しく増加した状況に対応するため、2005年の法改正で介護予防の拠点として地域包括支援センターが創設された。しかし、その後も要支援認定者等の軽度認定者は増加を続け、地域包括支援センターは介護予防支援業務に忙殺され、本来の業務である包括的支援事業に取り組む余裕がない状況が続いている。2000年に創設された介護保険制度の検討過程において、軽度者に対して予防的給付を行うことは、保険事故に対して給付を行う保険制度の原則に反するのではないかという意見も多く出された。しかし、最終的には要介護と要支援は一体のものとして取り扱うべきであると結論づけられ、要支援認定者に対しても予防給付が行われることとなった。介護保険の本来の目的である「介護の社会化」の「介護」の概念から逸脱しているケースが多くみられる現状に対し、本論文では、要支援者に対する予防給付が過剰に発生するメカニズムについて、申請時の状況、それに続く要介護認定における認定調査と介護認定審査会およびケアマネジメントの各プロセスの状況分析をもとに考察を行うことで、申請・利用の件数が増加する仕組みを明らかにしていく。
著者
田中 綾帆 野井 真吾
出版者
日本発育発達学会
雑誌
発育発達研究 (ISSN:13408682)
巻号頁・発行日
vol.2016, no.73, pp.1-12, 2016

<p>Background:In recent Japan, the sleep situations of children are worried about. As one background of such a problem, the screen thyme of children increase is regarded as uneasiness. Therefore, the practices of "no media" which limits screen time are spreading all over the country.</p><p>Objective:The purpose of this study was to inspect the effects of the "no-media" practice in junior high school.</p><p>Methods:Subjects were 672 children at a public junior high school in Shizuoka. All investigations were carried out on control day and practice period in October 2014. The sleep situation and subjective symptoms of fatigue were measured in this survey.</p><p>Results:Subjects were early to bed and early to rise. There were also few shortage and issues of sleep. Additionally, they had few subjective symptoms of fatigue and Internet addiction tendency. Furthermore, as a result of having inspected the "no media" practice, the bed duration was significantly earlier and sleep time was also significantly longer in practice period. The subjective symptoms of fatigue in practice period were decreased. In this study, the sleep situations and subjective symptoms of fatigue by the difference of the challenge item in this practice were also analyzed. As a result, in the group which challenged the practice of "no media", it was shown that the sleep situation was improved and tiredness was decreased.</p><p>Conclusion:From the above facts, we reached the conclusion that the "no media" practice analyzed in this study is effective in children's health.</p>
著者
三宅 裕子 田中 友二
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.1-9, 1992 (Released:2006-06-23)
参考文献数
21
被引用文献数
5 4

左側頭頭頂葉皮質下出血により読字・書字障害のみを呈し,読字では仮名が,書字では漢字が選択的に障害された1例を報告した。本例は読字・書字における漢字処理と仮名処理過程の神経心理機構について示唆を与える症例である。    症例は74歳の右利き男性。仮名に選択的な失読と漢字に選択的な失書を認めた。漢字の読みと仮名書字は正常に保たれていた。発症初期には喚語困難と聴覚的理解の障害を認めたがこれらの失語症状は速やかに消退した。本例はX線CT上,左側頭頭頂葉移行部の皮質下に病巣があり,この部位の損傷により後頭葉から角回に至る仮名読みを担う経路と側頭葉から後頭葉を経て運動野に至る漢字書字の経路が同時に損傷されて仮名の失読と漢字の失書を呈したと推察した。日本語の読み書きには神経心理学的に異なる4つの処理過程—漢字の読みと書字,仮名の読みと書字—が存在するが,本例の症状はこの4つの過程が選択的に障害されうる場合があることを示している。
著者
小田中 悠 吉川 侑輝
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.315-330, 2018

<p> 本稿では,日常的な相互行為における期待の暗黙の調整メカニズムを,ゲーム理論を軸とした数理モデルによって説明することを試みる.その際,Goffmanが「ゲームの面白さ」論文で提示した,「変形ルール」というアイデアを精緻化することを通して,先行研究とは異なり,次の二点を考慮した上でモデル構築を行った.すなわち,人々によるゲーム状況への意味付与のダイナミクスを捉えうること,及び,経験的な検証可能性を考慮した上で,Goffmanのアイデアをフォーマルに記述することを目指した.そして,カラオケ・ボックスにおける次回歌い手の決定場面を分析することによって,本稿の視座が上述した二点の他にも,たとえば,チキンゲームのような,調整ゲームとは異なる均衡選択場面についても見通しをよくするものであることが示唆された.最後に,本稿のモデルが,公共空間における人々の相互行為を支えるルールの探求について,人々に参照されている「望ましさ」の基準(自らの利益よりも他者や集団の利益を優先するための基準)を捉えられるという点で有用なものであることが示唆された.</p>
著者
田中 尚夫
出版者
一般社団法人 日本数学会
雑誌
数学 (ISSN:0039470X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.177-192, 1971-07-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
50
著者
田中 圭介 神村 栄一 杉浦 義典
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.108-116, 2013-11-30 (Released:2013-12-04)
参考文献数
36
被引用文献数
4

近年,マインドフルネス・トレーニング(MT)は,全般性不安障害や心配への介入法として注目されている。MTは,マインドフルネス傾向や脱中心化,注意の制御を媒介して,不安や抑うつに作用することが示唆されている。しかし,これらの媒介変数が,心配に作用する過程については,いまだ検討されていない。本研究では大学生を対象に質問紙調査(N=376)を行い,心配に対する注意の制御,マインドフルネス傾向,脱中心化の影響について検討を行った。共分散構造分析の結果,注意の制御を外生変数とした場合に最もモデル適合度が高いことが示された。さらに,注意の制御は,マインドフルネス傾向と脱中心化を媒介して,心配の緩和に繫がることが明らかとなった。これらの結果から,MTが心配に作用する際には,注意の制御の増加が体験との関わり方(マインドフルネス傾向,脱中心化)を改善し,心配を低減させる作用プロセスが想定される。
著者
田中 孝男 TANAKA Takao
出版者
名古屋大学大学院法学研究科
雑誌
名古屋大學法政論集 (ISSN:04395905)
巻号頁・発行日
vol.252, pp.290-266, 2013-12-25

関連論文:"はじめに : 2012年度 科学研究費 基盤研究(A)年次研究会「立法支援プロジェクトの今後に向けて」報告" http://hdl.handle.net/2237/19382 "報告(2)eLenの現状と今後 : 平成24年度の研究進捗状況・成果報告" http://hdl.handle.net/2237/19384
著者
田中 敦士
出版者
一般社団法人 Asian Society of Human Services
雑誌
Asian Journal of Human Services (ISSN:21863350)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.72-85, 2014-10-30 (Released:2014-10-30)
参考文献数
12

In this research was investigated that trainers’ attitude toward people with intellectual disabilities during driving license exam, through questionnaire survey on 79 specific driving school in Chiba and Okinawa. As a result, it is clarified that there is a lack of consideration for training and no cooperation between people with intellectual disabilities and trainers. Therefore, putting systems for understanding of each other, getting support by family and making up economical support systems from government are all needed in order to people with intellectual disabilities getting license and make it better for safe driving after obtention. Consequently, next problems are to develop special textbook, to support for examination, to analyze risk of car accidents, to put insurance systems and laws of economical help and to investigate of best way to cooperate with everyone around people with intellectual disabilities to rise the chance to obtain the license.
著者
浅川 達人 岩間 信之 田中 耕市 佐々木 緑 駒木 伸比古 池田 真志 今井 具子
出版者
日本フードシステム学会
雑誌
フードシステム研究 (ISSN:13410296)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.21-34, 2019 (Released:2019-09-27)
参考文献数
16
被引用文献数
3

The purpose of this study is to analyze, based on evidence, factors preventing the elderly from maintaining a healthy diet by using a revised food access indicator that takes food availability in stores into account. The area being studied is A City, a regional city in the northern Kanto region of Japan. The dependent variable in the study was dietary diversity score, which is a measure of the risk of adverse health effect caused by deterioration of diet. Multilevel analysis was used for the analysis of factors to allow individual level factors and group level factors to be analyzed independently.Regarding the individual level factors, results of the analysis suggest that FDs problems are present in areas with reduced food access, reduced social capital, or both, which supports the previous finding of FDs study groups. Among the group level factors, the presence of a store within a close distance of 500m most strongly affected the diet of the elderly. However, when a supermarket with nearly 100% food availability was located about 400m away or further, the condition for raising dietary diversity score from low to high was not met. In contrast, when the data was analyzed by assuming the shopping range to be 2km each way, the availability of a store as fully stocked as a supermarket within about 1.3km met the condition for raising dietary diversity score from low to high.
著者
田中 麻理 伊藤 裕之 押切 甲子郎 安徳 進一 阿部 眞理子 竹内 雄一郎 三船 瑞夫 当金 美智子
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.193-198, 2012 (Released:2012-04-24)
参考文献数
11
被引用文献数
5

2型糖尿病患者708例を対象に,一年間の直接医療費として,外来医療費を算出した.外来医療費は,平均で38.8万円/年であり,年齢,糖尿病の罹病年数とともに増加した.非薬物療法群で18.7万円/年,経口薬群で30.9万円/年,インスリン群で57.5万円/年であった.細小血管症,大血管症については,合併群では非合併群に比し,外来医療費が高額であった.動脈硬化の危険因子として,高血圧症,高LDL-C血症,肥満,CKDステージ3期以降を挙げた場合,保有数の増加に伴い外来医療費も上昇した.重回帰分析では,これら4つのうち,CKDステージ3期以降と高血圧が,外来医療費の有意な説明因子であった.2型糖尿病の外来医療費には,年齢,罹病期間,治療内容や血管合併症,動脈硬化の危険因子などが関係する.加えて,eGFRの低下や動脈硬化のサロゲートマーカーが異常を示す場合は,積極的な検索による合併症予防が,将来的な医療費抑制につながる可能性がある.
著者
玉井 浄 堤 健一 田中 正之助
出版者
日本真空協会
雑誌
真空 (ISSN:05598516)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.5-17, 1969-01-20 (Released:2010-01-28)
参考文献数
34
著者
田中 麻紗子 市川 伸一
出版者
東京大学大学院教育学研究科
雑誌
東京大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13421050)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.203-215, 2012-03-10

How should we (researchers) conduct and present a good review study? Although graduate students receive some guidance on how to write a research paper, they are rarely provided instruction about how to perform a review study. Due to their limited knowledge and experience, many students tend to think that a good review simply comprises reference to many previous research studies. In this paper, we point out that a good review study needs to be original, comprehensive, and easy to understand. Moreover, we offer directions for conducting a good review study, and provide key points drawn from interview data with young psychology researchers who have published review studies in peer-reviewed journals.
著者
田中 耕一郎
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.30-42, 2010-08-31

本研究では,<重度知的障害者>を包摂する連帯規範の内容と深く関わる承認をめぐる問題について考察する.<重度知的障害者>をいかに承認しうるかという問いは,連帯規範の人間概念に<重度知的障害者>をどのように包摂しうるのか,という問いと同義であるが,現代の福祉国家を哲学的次元において基礎づけてきたリベラリズムの正義では,人間概念の核に自律性をおくがゆえに,そもそも<自律性なき者>(と評価された者)の存在は,その理論的射程に含まれてこなかった.本研究では,まず,リベラリズムの人間概念に異議を唱えたいくつかの倫理的思考を検討しながら,<重度知的障害者>の承認問題におけるそれらの可能性を考察する.次に,<重度知的障害者>も含め,あらゆる人間存在を包摂し,かつ,万人が自明と認めうる普遍的な人間的属性としてvulnerabilityを提起しつつ,この人間的属性から連帯規範を立ち上げることの可能性について考えていきたい.
著者
高梨 郁子 菅沼 優子 久永 聡 田中 敦 田中 聡
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告高度交通システム(ITS) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.28, pp.71-78, 2007-03-16
被引用文献数
9

当社はアイキャッチ効果の高い大型映像表示機器と,操作が可能な携帯電話を連携したインタラクティブデジタルサイネージシステムを開発している.情報ポータルとしての大型映像表示機器の魅力的な広告コンテンツによって街を歩く人を集客し,更にそこから広告の店舗や会場に誘導することで街の様々なスポットに人の流れを作る街づくりプラットフォームとして提案している.しかし,携帯電話による歩行者誘導サービスを実現するためには屋内における様々な課題を解決した実現方式を検討する必要がある.今回,我々は屋内における携帯電話での歩行者誘導を実現するための方式について検討を行った.本稿では,この検討結果について述べる.Mitsubishi Electric Corp. has developed Interactive Digital Signage System, which enables interactivity between mobile phones and huge Displays, such as multi DLP (Digital Light Processing). We are proposing this system as a new platform for revitalization of local towns. The system is aiming to attract and gather the people, who walk the streets,by mesmerizing advertisement, and lead them to some specific location.However, there are many problems to realize indoor pedestrian navigation system using mobile phones. In this paper, we investigate those problems and propose a new mechanism which makes available to leads the peoplefrom information portal to some specific location, such as advertisingstores and/or event venue.
著者
永瀬 開 田中 真理
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.123-134, 2015 (Released:2017-06-20)
参考文献数
28

本研究の目的は,自閉症スペクトラム障害(以下ASD)者におけるユーモア体験について,構造的不適合を説明する手がかり(手がかり情報)がユーモア体験にかかわる認知処理に与える影響及び,ユーモア体験の強さに与える影響について検討を行うことであった。ASD者12名,典型発達者20名を対象に手がかり情報のある条件(手がかり有り条件),手がかり情報のない条件(手がかり無し条件)のユーモア刺激を用いて,ユーモア体験の強さに影響を与える「分かりやすさの認知」と「刺激の精緻化」の2つの認知的な処理の特性と「ユーモア体験の強さ」について比較検討を行った。その結果,主に以下の2点が認められた。1)典型発達者は手がかり有り条件において刺激を分かりやすく認知し,刺激の精緻化を多く行い,強いユーモア体験をする一方で,ASD者は手がかり情報についての条件間で差が見られなかった。2)典型発達者において,分かりやすさの認知と刺激の精緻化がユーモア体験の強さに影響を与える一方で,ASD者において刺激の精緻化のみがユーモア体験の強さに影響を与えていた。以上の結果から,典型発達者とASD者とでユーモア体験の強さに影響を与える認知的な処理の内実が異なることが示された。