著者
安田 勝彦 石塚 修悟 石原 義恕 林 正春 西川 仁 磯 毅彦
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.169-175, 2009-06-30 (Released:2014-11-11)
参考文献数
13

関節リウマチ (RA) は, 関節周囲の滑膜を病変の主座とする原因不明の炎症性疾患である. この滑膜での炎症が進行すると, 軟骨, 骨の破壊が進行し, やがて, 日常生活動作 (ADL) や生活の質 (QOL) が低下してくることが問題になってくる. 近年, 関節破壊が, RA発症後2年以内に引き起こされることがわかり, 発症早期の適切な時期 (window of opportunity) に, 適切な治療を開始すれば, 関節破壊は防げることがわかってきた. したがって, 現在のRA患者の治療は, 関節の軟骨や骨の破壊がおよぶ前に, 抗リウマチ薬を中心とした薬物療法をできるだけ早期から開始し, それと同時に早期からリハビリテーション (リハ) を併用することによりADL/QOLの低下を防ぐことが重要である. RAの薬物治療は, 大きな進歩をとげ, 特に生物学的製剤の開発によって, RAの疾患活動性のいちじるしい改善, 特に骨の破壊の進行が抑えられることが可能となってきた. しかし, その一方で, 感染症をはじめ, 重大な有害事象が問題になっており, 早期のRAや難治性のRAへの投与の時期や適応もまだ多くの問題点をかかえている. よって, 薬物療法だけでは, なかなかRA患者のADL/QOLを維持することは困難である. また, アメリカリウマチ学会 (ACR) における2002年RA治療ガイドラインの中にも, 薬物療法以外に, 理学療法 (physical therapy ; PT), 作業療法 (occupational therapy ; OT), 患者教育が含まれている. 以上のことから, RAの治療において, 薬物療法と並行して, 早期からリハを開始することが, RAの滑膜炎から引き起こされる関節疼痛, 関節変形, 筋力低下等を改善し, 予防する上で, 大変重要なことと思われる.
著者
西川 亮
出版者
日本西洋古典学会
雑誌
西洋古典学研究 (ISSN:04479114)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.28-38, 1969

トラシュロスがデモクリトスの作品を四部作に分類して配列した目録の中に,認識論的傾向のものを扱ったとおもわれる若干の作品名が残されているが,その内容に至ってはほとんど知られない.もしそれについて考察を試みようとすれば,セクストス・エンペイリコスやガレノスによって引用された断片や,アリストテレスやアエティオスなどの記録,さらに諸感覚についてのテオプラストスのかなり詳細な記述などによらなければならない.しかし皮相的にみれば,これらの資料間における齟齬が,統一的見解を阻んでいるかのように見做される.むろんデモクリトスのいわゆる認識論についての資料の処理にすでにかなりの努力が払われてきた.ここでは,それらの諸資料を三区分し,その間の差異を検討して,デモクリトスのいわゆる原子思想における認識論的問題の一端にふれてみたい.
著者
赤澤 直紀 松井 有史 原田 和宏 大川 直美 岡 泰星 中谷 聖史 山中 理恵子 西川 勝矢 田村 公之 北裏 真己
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.71-78, 2013
参考文献数
27

【目的】健常成人男性のHip Flexion Angle(HFA)値にハムストリングスのマッサージ部位の違いが及ぼす効果を検証することである。【方法】健常成人男性32名(32肢)へのマッサージ部位について無作為に筋腱移行部群(11名),筋腹群(11名)およびコントロール(対側下肢筋腹)群(10名)に割りつけ,3分間のマッサージ介入を同一の圧迫圧で行った。アウトカムは盲検化された評価者によって測定された介入前,介入直後,3分後,6分後,9分後,15分後のHFA値とした。【結果】マッサージ介入直後,3分後,6分後の筋腱移行部群のHFA値はコントロール群より有意に高値を示した。【結論】ハムストリングス筋腱移行部へのマッサージはHFA値を拡大させる可能性を示唆した。
著者
金城 慎也 田中 創 副島 義久 西川 英夫 森澤 佳三
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.102, 2009 (Released:2009-12-01)

【はじめに】 肩関節周囲炎患者において,肩関節の内外旋や前腕の回内外の可動域制限が肩関節挙上角度に影響を及ぼすことは先行研究により示唆されている.また,臨床場面においても,前腕の回内外可動域制限を来している症例が多い.しかし,それと同時に手指機能が不良な例も多く,特に母指の伸展,外転の可動域制限を来している症例をよく経験する.母指の伸展,外転の可動域制限は末梢からの運動連鎖として前腕の回内,肩関節の内旋を余儀なくされ,肩関節挙上制限の一因子となると考えられる.そこで今回,肩関節周囲炎患者に対して,母指可動域と肩,前腕可動域の関係性について検討したので報告する.【対象及び方法】 対象は保存的加療中の一側肩関節周囲炎患者12名(平均年齢54.25±6歳)とし,自動運動での肩関節の前方挙上(以下、前挙),外旋,前腕回内外,母指橈側外転,伸展の可動域を計測した.得られた計測値をもとに健側を基準として各計測値の左右差を求めた.統計学的処理にはウィルコクソン符号付順位和検定を用い,得られた値から肩,前腕,母指の可動域制限の関係性を調べた.【結果】 統計処理の結果,肩関節前挙と母指橈側外転(p<0.05),肩関節前挙と母指伸展(p<0.01),肩関節外旋と母指橈側外転(p<0.05),肩関節外旋と母指伸展(p<0.01),前腕回外と母指伸展(p<0.05),母指橈側外転と母指伸展(p<0.05)に有意な正の相関が認められた.【考察】 研究結果より,肩関節周囲炎患者において,肩関節前挙制限には母指橈側外転制限と伸展制限,肩外旋制限には母指橈側外転制限と伸展制限,前腕回外制限には母指伸展制限との関係性が認められた.肩関節前挙に関して肩外旋可動域制限が多大な影響を及ぼすことは知られており,上肢の運動連鎖において,前腕の回外運動には肩外旋として運動が波及することが言われてる.今回の研究結果から,遠位関節からの運動連鎖として,母指橈側外転と伸展が前腕の回外運動に影響していることが示された.その背景として,遠位橈尺関節から回外運動を波及させる為には,筋の起始停止の走行から長母指外転筋と短母指伸筋が関与していると考えられ,それらの機能が破綻することで前腕回外制限が生じると考えられる.これらのことから,肩関節周囲炎患者の挙上制限に対しては前腕,母指の影響まで考慮してアプローチしていく必要性が示唆された.
著者
南角 学 柿木 良介 西川 徹 松田 秀一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0526, 2014 (Released:2014-05-09)

【目的】臨床場面において,臼蓋形成不全によって股関節痛を伴う股関節疾患に対して,大腿骨と臼蓋の安定化を図りながら,動作の改善を目指すことは多い。臼蓋形成不全による骨形態の変化は,大腿骨と臼蓋の構造的な安定性の破綻をきたすとともに股関節の安定性に関わるその他の因子の機能にも影響を及ぼす。特に,股関節周囲筋の筋出力や筋張力によって大腿骨頭に加わる力の大きさや方向が変化することで股関節の安定性に関与することから,これらのメカニズムを考慮しながら理学療法を展開していくことは重要である。しかし,臼蓋形成不全と股関節の安定化機構に関わる股関節周囲筋の関連性を検討した報告はなく,不明な点が多い。そこで,本研究の目的は,変形性股関節症患者における臼蓋形成不全と股関節周期筋の筋萎縮の関連性を明らかとすることとした。【方法】対象は片側の変形性股関節症患者44名(男性6名,女性38名)とした。測定項目は股関節周囲筋の筋断面積,脚長差,Central-edge angle(以下,CE角)とし,測定には当院整形外科医の処方により撮影されたCT画像と股関節正面のX画像を用いた。股関節周囲筋の筋断面積の測定は,Raschらの方法に従い,仙腸関節最下端での水平断におけるCT画像を採用し,画像解析ソフト(TeraRecon社製)を用いて各筋群の筋断面積の測定を行った。対象は梨状筋,腸腰筋,中殿筋,大殿筋とし,得られた筋断面積から患健比(患側筋断面積/健側筋断面積×100%)を算出した。また,股関節正面のX画像から,小転子先端から涙痕先端までの距離を計測し脚長差を算出するとともに臼蓋形成不全の評価としてCE角も算出した。その他の運動機能の評価として,IsoForceGT330(OG技研社製)にて膝関節伸展筋力を計測し,トルク体重比を算出した。さらに,臼蓋形成不全の診断基準値に準じてCE角が20°未満(臼蓋形成不全症例:以下,A群)と20°以上(以下,B群)の2群に分け,各測定項目の比較を行った。統計処理は,両群間の比較には対応のないt検定とMann-WhitneyのU検定を用いた。さらに,臼蓋形成不全の有無を目的変数,両群間で有意差を認めた項目を説明変数としたロジスティック重回帰分析を行い,統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は京都大学医学部の倫理委員会の承認を受け,対象者には本研究の主旨ならびに目的を説明し研究への参加に対する同意を得て実施した。【結果】A群は24名(年齢:61.1±8.6歳,BMI:22.0±3.6kg/m2),B群は20名(年齢:65.9±10.7歳,BMI:23.0±3.0kg/m2)であり,年齢とBMIについては両群間で有意差を認めなかった。A群の梨状筋は60.8±14.5%,腸腰筋は62.2±10.5%,中殿筋は65.0±12.7%,B群の梨状筋は83.1±13.6%,腸腰筋は83.2±12.7%,中殿筋は84.6±8.3%であり,これらの筋についてはB群と比較してA群で有意に低い値を示した。一方,大殿筋(A群:76.3±11.0%,B群:83.1±8.4%)と膝関節伸展筋力(A群:1.31±0.56Nm/kg,B群:1.28±0.62Nm/kg)に関しては,両群間で有意差を認めなかった。また,A群の脚長差(23.9±9.9mm)は,B群(8.3±5.5mm)と比較して有意に大きい値を示した。さらに,ロジスティック重回帰分析の結果より,変形性股関節症患者の臼蓋形成不全と関連する因子として,脚長差と腸腰筋の筋萎縮が有意な項目として選択された。【考察】腸腰筋や梨状筋などの股関節の深部にある筋群は,それぞれの筋機能のバランスを保つことによって臼蓋と大腿骨頭の適合性すなわち股関節の安定化に寄与すること報告されている。また,中殿筋の後部線維は筋線維方向が頚体角と同等であることから股関節を求心位に保持する機能があることも報告されている。本研究の結果より,臼蓋形成不全症例では脚長差が大きく,大殿筋や膝関節伸展筋よりも股関節の安定性に関わる腸腰筋,梨状筋,中殿筋により顕著な筋萎縮を認めた。さらに,重回帰分析の結果より,臼蓋形成不全の影響を最も受けやすい筋は腸腰筋であることが明らかとなった。腸腰筋は大腿骨頭を前方から押さえることで臼蓋と大腿骨頭の安定性を向上させる作用があることから,臼蓋形成不全が大きい症例では股関節の前方への安定化がより欠如している可能性があり,これらのことを考慮した介入が必要であると考えられた。【理学療法研究としての意義】本研究の結果より,変形性股関節症患者の臼蓋形成不全は股関節の安定性に関与する筋群の萎縮と関連することが明らかとなり,理学療法において効果的なアプローチ方法を立案していくための一助となると考えられる。
著者
相良 優太 乾 泰大 小川 孝 西川 仁史 池田 均
出版者
一般社団法人 日本臨床整形外科学会
雑誌
日本臨床整形外科学会雑誌 (ISSN:18817149)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.39-47, 2017

<p>目的:投球障害肩にみられる投球側の肩甲骨位置異常と,肩関節90°外転位での内旋,外旋(第2肢位すなわち2nd planeでの内旋,外旋;以下2nd内旋,2nd外旋)可動域の変化との関連性について検討した.</p><p>方法:対象は,投球障害肩を加療した37人の小学生と中学生である.理学療法開始前には,全例に肩甲骨位置異常が認められた.肩甲骨の位置が左右対称となるように理学療法を行い,理学療法開始前と肩甲骨の位置が左右対称となった時点での2nd内旋,2nd外旋および全回旋可動域を投球側と非投球側とで比較した.</p><p>結果:理学療法開始前には,投球側の2nd内旋可動域の有意な制限と2nd外旋可動域の有意な拡大が認められた.全回旋可動域には有意差はなかった.一方,肩甲骨の位置が左右対称となった時点では,すべての項目で投球側と非投球側との間の有意差はなかった.</p><p>考察:骨性の要因や軟部組織性の要因以外に肩甲骨位置異常が,2nd内旋可動域と2nd外旋可動域の変化に関連していると考える.</p><p>結論:肩甲骨位置異常は,2nd内旋可動域の制限と2nd外旋可動域の拡大を引き起こす一因である.</p>
著者
小川 千代子 日野 祥智 益田 宏明 秋山 淳子 石橋 映里 小形 美樹 菅 真城 北村 麻紀 君塚 仁彦 西川 康男 船越 幸夫
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.78, pp.54-65, 2020

<p> 記録管理学体系化に関する研究は、2016年度から3年計画でスタートし、2018年度は3年目の最終年度にあたる。2016年度、2017年度の研究成果を踏まえ、2018年度には記録管理学の体系を導き出すことを目指して研究を行った。2018年度は、4回の研究会を開催するとともに、各メンバーによる個別担当の研究を行い、それを取りまとめるための記録管理学体系化の方向性を模索した。各メンバーは各自が記録管理における関心のあるテーマの考察レポートを作成し、これらを研究代表者である小川千代子が、2017年度の記録管理学体系化プロジェクト研究報告(学会誌「レコード・マネジメント」)で描いたところの体系化予想項目の中に関係づけ、その時の成果である記録管理学体系の3層構造に肉付けを行った。</p>
著者
澤田 晶子 西川 真理 中川 尚史
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第34回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.36-37, 2018-07-01 (Released:2018-11-22)

群れで生活する霊長類は,他個体との親和的な関係を維持するために社会的行動をとる。複数の動物種が同所的に生息する環境では,異種間での社会的行動も報告されており,ニホンザルとニホンジカが高密度で生息する鹿児島県屋久島や大阪府箕面市においても,両者による異種間関係(以下,サル-シカ関係)が報告されている。サル-シカ関係の大半は,シカによる落穂拾い行動(樹上で採食するサルが地上に落とした果実や葉を食べる)であるが,稀に身体接触を伴う関係もみられる。本発表では,これまでに発表者らが西部林道海岸域で観察した異種間交渉の事例を報告する。敵対的行動(攻撃・威嚇)と親和的行動(グルーミング),いずれの場合でもサルが率先者になることが多かった。シカへのグルーミングはコドモとワカモノで観察され,サルとシカの組み合わせに決まったパターンはなかった。シカがグルーミングを拒否することはなく,シカからサルへのグルーミングは確認されなかった。コドモとワカモノによる「シカ乗り」も数例観察された。ワカモノのシカ乗りは交尾期(9月~1月)に起きており,前を向いて座った状態でシカの背中や腰に陰部を擦りつける自慰行動がみられた。実際に交尾に至ることはなかったものの,ワカモノにとってはシカ乗りが性的な意味合いをもつことが示唆される。一方のコドモは,非交尾期でもシカに乗ることがあった。その際,シカの首に座ったり背中にぶら下がったりと体位や向きにバリエーションがみられたこと,自慰行動を示さなかったことから,コドモにとってのシカ乗りは遊びの要素が強いと考えられる。先行研究との比較を通して,サル-シカ関係について議論し情報を共有したい。
著者
平田 明日香 磯田 真理 中村 太志 監崎 誠一 西川 正治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-180_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【症例紹介】40歳代,女性.疾患名は変形性腰椎症,左股関節インピンジメント症候群.重いものを持ち上げようとして左鼠径部痛が生じた.左荷重応答期から立脚中期にかけて左鼠径部痛あり.【評価とリーズニング】立位時体幹前屈30度,後屈10度,左回旋15度で左股関節前面に鋭痛あり.体幹前屈で最も疼痛が生じた(NRS8).ワンガーフィンガーテストを実施すると左鼠径部中央付近を示した.前方インピンジメントテスト左陽性.MMT(右/左):股関節屈曲5/4,伸展5/4,外転5/4,内転5/4,外旋5/4,内旋5/4,屈曲外転外旋5/4,屈曲位外転5/4.関節可動域(右/左,単位;°):股関節屈曲125/125,伸展10/10,外転50/50,内転15/10,外旋45/50,内旋45/35.体幹前屈では,仙骨がニューテーションするため腸骨が仙骨に対し後傾し,股関節屈曲するため腸骨が大腿骨頭に対し前傾する.体幹前屈時,腸骨が大腿骨頭上を前傾し股関節が屈曲するためには,副運動の内旋が必要になる.関節可動域検査より左股関節内旋が制限されていることから,体幹前屈時の大腿骨頭の後方滑りが制限された状態で股関節屈曲が生じていたと考えた.従って体幹前屈時の左股関節内旋制限により大腿骨頭が後方へ滑らず,その状態で股関節屈曲を行うため,大腿骨頭が前方偏移し股関節唇のインピンジメントによる疼痛が生じていたと考えた.【介入内容および結果】運動器超音波検査の結果,①左股関節唇に損傷は認められなかった,②左股関節屈曲時腸腰筋の滑走不全を認めた,③左股関節屈曲大腿直筋の筋厚が厚くなるのを認めた,④左股関節伸展位で大腿骨頭が臼蓋に対し前方へ偏移していたことを認めた. 左腸骨後傾誘導テーピングで疼痛が軽減した(NRS4).左腸骨後傾誘導で疼痛が軽減したことから,体幹前屈時の左腸骨は仙骨に対し後傾できず,大腿骨頭に対し前傾し過ぎていた.腸腰筋の作用は腰椎前弯,腸骨前傾である.また腸腰筋は大腿骨頭の前方を走行することから, 大腿骨頭前方安定性に寄与する.評価結果より左腸腰筋の筋力低下,運動器超音波検査より滑走不全を認めたことより,腰椎前弯による仙骨ニューテーション,大腿骨頭上の左腸骨前傾に作用できず,左大腿直筋が優位に働いたと考えた.また左腸腰筋筋力低下により大腿骨頭が前方偏移してたこと,左股関節内旋制限により大腿骨頭が後方へ滑らないことにより大腿骨頭が前方偏移し,その状態で股関節屈曲を行うため,大腿直筋の起始部に伸張ストレスとインピンジメントが生じ左鼠径部痛が生じていた.左腸腰筋の収縮運動,股関節回旋・腸骨モビライゼーションを実施し,体幹前屈動作時・左荷重応答期から立脚中期にかけての左鼠径部痛は軽減し(NRS2),歩行時痛も改善したため1診目は終了した.2診目の左鼠径部痛はNRS2であり,治療後はNRS1,歩行時痛は消失した.【結論】左腸骨後傾誘導で疼痛が消失したことから,体幹前屈時の左腸骨は仙骨に対し腸骨前傾・大腿骨頭に対し後傾していた.左腸腰筋の筋力低下,滑走不全により大腿骨頭上腸骨前傾,腰椎前弯による仙骨ニューテーションに作用できず,左大腿直筋が優位に働いたため起始部に疼痛が生じ左鼠径部痛が生じていた.左股関節内旋制限,左腸腰筋の筋力低下,滑走不全の状態で日常生活を送ることにより,大腿骨頭の不安定性を助長させる可能性がある.その結果経年変化により変形性股関節症を発症することも考えられるため,インピンジメント症候群の原因を追求し,改善することが重要であると考えた.【倫理的配慮,説明と同意】被験者に対して事前に研究趣旨について十分に説明した後,同意を得て実施した.