- 著者
-
鈴木 裕
- 出版者
- 日本大学医学会
- 雑誌
- 日大医学雑誌 (ISSN:00290424)
- 巻号頁・発行日
- vol.71, no.6, pp.385-389, 2012-12-01 (Released:2013-11-07)
- 参考文献数
- 12
軽度認知障害 (mild cognitive impairment: MCI)は,Petersen により提唱された疾患である. 1. 認知機能は正常とはいえないが,認知症の診断基準も満たさない.2. 本人または情報提供者から認知機能低下の訴えがある.3. 複雑な日常生活動作の障害は最低限にとどまり,基本的な日常生活機能は正常である,という状態である.罹患率は 65 歳以上の 10-20%で,Alzheimer´s disease (AD) の約 1.5-2 倍である.MCI は記憶障害の有無で amnestic MCI (健忘性 MCI) と non-amnestic MCI (非健忘性 MCI) に分類される.さらに認知機能障害が単一か複数かで single domain か multiple domain に分類される.脳血管障害,認知機能に影響を及ぼす神経系の疾患,精神疾患,全身的な内科疾患,薬物中毒などが原因疾患となる.MCI 全体では約 70%が認知症に進行する.特に健忘性 MCI の多くは進行し,無治療であれば 4 年後には 50%,最終的には 90%以上が AD に進展する.診断の確実度として,アミロイド b (Ab) 蓄積 (アミロイド PET 陽性または脳脊髄液の Ab 42 の低下) と神経細胞障害 (脳脊髄液 tau /リン酸化 tau 増加または FDG-PET で側頭・頭頂葉の糖代謝の低下または MRI による側頭・頭頂葉の萎縮) が示されている.これらのバイオマーカ ーは AD への進展因子でもある.健忘性 MCI の段階ですでに Ab が脳内に蓄積していると考えられている.Abを標的とした薬剤が開発中であるが,順調とはいえない.現時点では MCI から AD への進行を予防する根治的治療法はない.適度な運動とビタミンを多く含むバランスのとれた食事の摂取が,ある程度効果があるといわれている.