著者
福田 正己 高橋 修平 曽根 敏雄 石崎 武志 成田 英器 高橋 伸幸
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

1.地下氷の存在が確認されている置戸町鹿の子ダムサイト斜面で、凍土の水平的な分布を確認するために、電気比抵抗探査を実施した。その結果、表層部で高い比抵抗値を示しており、同時に行った1m深さの地中温度の水平分布で示された低温地域と一致した。 2.かつて地下氷の存在が確認されていた地点に10m深さの検層孔を設け、3年間にわたって50cm毎の垂直地中温度分布の経時変化をモニタ-した。その結果、1988ー1989年までは表層から1m〜5mまでは、年間を通じて凍結状態にあり永久凍土の存在が確認できた。しかし、1989年の冬季が暖冬であり、引き続く1990年夏が暑かったため、1990年夏季に一旦凍土層が消滅した。 その後、冬季の寒気によって再び凍土層が再生しつつある。 3.低山地に形成分布している置戸町の永久凍土と比較するため、大雪山の永久凍土の分布と構造を明らかにするための現地調査を実施した。まず電気抵抗探査により、大雪山平ガ岳村付近のパルサ分布地域で、永久凍土の水平及び垂直探査を行った。同一地点で、凍土のボ-リング探査を行い、凍土の垂直分布が電気探査結果と一致するのを確認した。さらに、得られた凍土コア-サンプルを用いて、花粉分析とAMS^<14>C年代測定を行い、古環境の復元を行った。 4.花粉分析の結果、3mー5m深さでは、コナラ層とハンノキ層の花粉の出現頻度が高く、かつての温暖期に対応するものと推定される。1mー3mでは貧〜無花粉層となり、寒冷期に対応する。1m以浅では、エゾマツとアカエゾマツが多くなり、次第に温暖化してきたことを示唆してる。80cm深さから得られた腐食物の^<14>C年代は7060±200BPYとなった。これは後氷期の温暖期に一致しており、花粉結果に対応付けることができた。
著者
平良 一彦 松崎 俊久 宮城 重二 佐藤 弘明 名嘉 幸一 崎原 盛造
出版者
琉球大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

本研究の最終年次の追求課題は、調査地域(大宜味村)の老人の精神心理的側面の特徴、各種指標と加齢との関連性、死亡構造の特徴、児童・生徒の健康像を明らかにすることであった。調査はおおむね順調にすすめられ、成績は以下のごとく要約される。1.調査地域の老人のモラ-ルに関する要因についての調査結果から(1)男性ではADL障害の有無、女性では健康度自己評価が、モラ-ルに大きな影響を及ぼす。(2)対人関係の依存パタ-ンの分析結果から、男性は子供・配偶者が重要であり、女性は友人関係であった。このことから特に女性老人の場合、家族以外の人と親密な関係をもつことがモラ-ルを高める大きな要因となることが示唆された。2.調査地域の過去10年の集検の成績より(1)身長は男女共に年齢とともに低下し、特に女性では顕著であった。(2)体重は男女共に加齢による減少は見られず、女性の40歳、50歳代では逆に増加していた。(3)血圧は収縮期血圧は加齢とともに上昇傾向を示し、拡張期血圧は40歳代では上昇し、逆に50歳以降は加齢とともに減少傾向を示した。3.調査地域住民の過去10年間の死亡の特徴は、男性が女性よりかなり高く、70歳代まで有意差が見られた。また死因の特徴は男性では40歳〜69歳、70歳以上の両群で悪性新生物が多く、女性では40歳〜69歳で多かった悪性新生物が、70歳以上では特に少なかった。4.小・中・高校生を対象とした検診成績から成人病予防の観点から何らかの指導・管理を要すると思われる者が15%程みられた。血液生化学値を肥満度別に検討した結果、性、年齢を問わず肥満群は非肥満群に比べ、高血圧、高脂血症などの成人病発生のリスクが高いことが示唆された。
著者
猪俣 孟
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

本研究はフォークト・小柳・原田病の病因と発症機序について、臨床および実験病理学的に明らかにし、本症の予防および治療法の確立に寄与することを目的としたものである。1)平成3年度フォークト・小柳・原田病患者の眼球を病理学的に検討した。夕焼け状眼底になっている状態でも脈絡膜にはリンパ球の浸潤があり、炎症は持続していることを明らかにした。残っている脈絡膜のメラノサイトにはHLAクラスII抗原が発現し、メラノサイトが炎症の標的になっていた。フォークト・小柳・原田病患者では脳波に異常があることを明らかにした。視細胞間結合蛋白(IRBP)を構成するペプタイドの一部(R4)をラット足蹠に注射して、実験的自己免疫ぶどう膜炎モデルを作成した。2)平成4年度フォークト・小柳・原田病患者皮膚白斑を免疫病理学的に検討した。皮膚ではメラノサイトが減少し、血管の周囲にリンパ球が浸潤していた。その多くはTリンパ球で、CD4陽性細胞とCD8陽性細胞の比は約3:1であった。皮膚の白斑でも活性化Tリンパ球が病変の形成に重要な役割を演じていた。実験的自己免疫ぶどう膜炎では、角膜内皮細胞の表面に細胞接着分子(Intercellular Adhesion Molecule-1:ICAM-1)が発現していた。3)平成5年度実験的に眼内炎症を繰り返し起こさせることによって脈絡膜新生血管が発生した。そこで、臨床的および実験病学的に眼内血管新生の機序について検討した。ベーチェット病患者の23例25眼の摘出眼球を病理学的に検討し、眼内血管新生が鋸状縁から起こり易いことを明らかにした。フォークト・小柳・原田病の臨床所見および病理学的特徴を総説にまとめた。
著者
佐治 文隆 木村 正 大橋 一友 松崎 昇 鮫島 義弘 古山 将康
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

ヒト初期胚の着床過程において、初期絨毛と子宮内膜細胞の相互作用について検討した。(1)子宮内膜細胞における細胞外マトリックスとこれを分解するプロテアーゼ(MMP)子宮内膜細胞におけるMMPの発現を期質含有ポリアクリルアミド電気泳動法を用いて検討し、72KDと92KDゼラチナーゼの発現パターンが性周期によって変化していることを明らかにした。また異所性子宮内膜細胞はその伸展に従ってMMP産生が亢進したが、TIMP(インヒビター)産生は不変であった。(2)子宮内膜における細胞外マトリックスの分泌免疫組織学的検討により基底膜の細胞外マトリックス(ラミニン、IV型コラーゲン)は内膜腺上皮の基底膜と間質細胞周辺のマトリックスに存在した。間質の細胞外マトリックス(フィブロネクチン、ビトロネクチン)は子宮内膜の間質全体および内膜腺上皮の基底膜部分に局在した。(3)胎盤絨毛の増殖分化とサイトカイン胎盤絨毛ではIL-6とそのレセプターによるhCG産生系が存在し、この系はIL-1とTNF-αにより分泌亢進がみられ、TGF-βでは制御がみられた。しかし初期絨毛ならびに培養絨毛癌細胞系ではTNF-αによるhCG分泌阻害が観察された。また初期胎盤から得られた絨毛細胞はフィブロネクチンと特異的に接着することが判明し、着床過程におけるフィブロネクチンの関与が示唆された。
著者
萩原 秋男 小川 一治
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

1.実験林及び実験方法 19年生(1993年現在)ヒノキ林からサイズを異にする5個体を選び、2台の立木同化測定装置を順次、各個体に移し替えながら個体レベルのCO_2ガス交換速度を昼夜連続して測定した。また、測定個体の毎木調査(樹高、生枝下高、生枝下高幹直径、樹高の1割高での幹直径、地際から50cm間隔での幹直径)を毎月、実施した。2.結果 個体レベルで測定された年総光合成生産量p[kg(CO_2)tree^<-1> yr^<-1>]は個体の幹材積v[dm^3]が大きいほど大きく、両者の関係は以下に示す拡張されたべき乗式で表された。p=g(v-v_<min>)^h (g,v_<min>,h;係数) (1)上式は、個体幹材積がv_<min>に近づくにつれて、個体の年総光合成生産量が急激に減少してゼロとなることを示しており、v_<min>は林分で生存可能な最小個体の幹材積と見なすことが出来る。また、べき指数hの値はほぼ2/3となり、サイズの大きな個体の年総光合成生産量は個体の表面積にほぼ比例していると言えた。また、年呼吸消費量r[kg(CO_2)tree^<-1> yr^<-1>]は年総光合成生産量pに比例していた。r=kp (k;定数) (2)比例定数kの値は0.38となり、年呼吸消費量は年総光合成生産量のほぼ4割に相当していた。式(1)と式(2)を仮定することにより、年呼吸消費量rの個体幹材積vへの依存性は次式で与えられる。r=g'(v-v_<min>)^h (g'=kg) (3)実測結果は、式(3)に良く適合していた。以上の結果は、時間経過に伴う林分の物質生産機構の推移を、個体レベルでの物質経済の面から説明可能であることを示唆している。
著者
安岡 正人 土田 義郎 平手 小太郎
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

近代文明の発展と共に、我々の身の廻りにインセンシブルな環境因子が生成され、様々な環境改変を生じ、人間を含む自然生態系に大きな影響を与えている。このような現状認識に立って、超音波や超低周波等の聴覚では直接捉えることのできない環境刺激の人体影響を、脳波、筋電、心拍、マイクロバイブレーションなどの生理量を検出することによって、明らかにするための基礎研究を進め、検出の可能性を確認できた。一方、情報化社会の申し子ともいうべき電磁波について、利用面のみならず環境因子としての視点から、既往の研究を調査し、問題の所在を明らかにした。それによれば居住環境における電磁波の実態、特に人体影響や建築空間、部位という側面では、ほとんど研究が行われていないことから、今回測定機器を導入して実測に着手した。本年度に得られた実績は、微々たるものであるが、今後継続的に建築環境の調査を進め、予測計算手法の確立につなげて行く予定である。また、人体影響についても前段の研究をベースとした被験者実験を進め、評価基準を見い出して行きたい。電磁環境については、日本建築学会に設置された安岡が主査の同名の小委員会で、広く、研究成果を持ち寄り、建築における電磁環境学の体系化を図り、諸外国との連携も深めている。これらの研究をスタートさせる上で、研究助成によって導入された装置による基礎的研究の寄与する処は大であった。
著者
中務 哲郎 岡 道男
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

3年間の研究を通じて、古代の民間伝承がギリシア・ラテン文学をいかに豊かにしたか、また、民間伝承を摂取するにあたり詩人たちがいかなる創造的才能を発揮したか、が明らかにされた。中務は、エウリピデス『キュクロプス』が普通考えられているようにホメロス『オデュッセイア』9歌の挿話に基づくものではなく、前5世紀に民間に流布していたと思われる「ポリュペモスの民話」を前提にして作劇されたと仮定すれば、数々の疑問が解けることを指摘した。岡はソポクレス『オイディプス王』の解釈に民話の構造分析という新しい観点を導入した。オイディプス物語の類話(父親殺しの予言、捨て子のモチーフ)は民間説話としてもオリエントからギリシアに広く流布していたが、それらには共通の構造が認められる。その構造はこの類話群の最も基本的な要素であるばかりでなく、悲劇『オイディプス王』の構成をも律している。素材としての民間説話の構造分析を踏まえて悲劇の構造を再考した結果、オイディプスは不撓不屈の真実の追究者か、真実から逃れようとする人間か、という問題に関して極めて明快な解釈が得られた。中務はまた、古代ギリシアの昔話の実態に関して、昔話の呼称、担い手、語り出しと結びの形式、社会的役割などを、文学・哲学・歴史・弁論等の資料から明らかにできる限りを記述した。なお、中務は論文「ホメロスにおけるアポストロペーについて」において、文字以前の口承詩の伝統の中で、詩人と聴衆が相互に干渉しながら口承詩特有の技巧を発展させていったことを考証した。しかし、研究目的に掲げた「口承伝承と文書伝承の関係」一般に考察を及ぼすことはできなかったので、今後の課題としたい。
著者
小松 幸廣 吉岡 亮衞 坂谷内 勝
出版者
国立教育研究所
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

(1)音声データの収集とデータベース化音声データの収集とデータベース化を行った。音声データベースの対象として収集した音は虫の音、蛙、鳥、風の音など“自然の音"に関するものとアナウンサーによる辞書の見出し語の朗読など言語の音声情報である。収集した音データの詳細は次の通りである。・自然の音については教科書を使って録音対象とする語句の選出を行った。小中学校の全国シェア上位3社の現行教科書(小学校8科目、中学校14科目)を対象にして選出した結果、擬声語、擬態語など、国語、理科を中心に約300項目を得た。これを基に収録を進め、昨年集めたものと合わせて約150項目の音声データとなった。収録した音声データは編集を行い、音声レベル、量子化幅、サンプリング周波数、採取場所、時間、圧縮の有無、名称の属性を付けたうえで光磁気ディスクへの登録を行った。・言語の音声情報をデータベース化するために国語辞典(基礎日本語学習辞典)の見出し語約3,000語を音声情報として収録した。同音異義語、助詞、助動詞、代名詞、連体詞、接続詞など単独の発音だけではイントネーションやアクセントなどを識別するのが困難な場合については用例を収録した。(約500語)(2)音声データベース検索ツールの開発自然の音データベース及び言語の音声情報データベースの検索ツールの機能設計を行い、検索システムの試作、評価を行った。これらの研究から明らかになったことを挙げる。〈自然の音検索システム〉・擬声語や擬態語には類似な表現が多く共通理解を得ることが難しい。また、一言で"かぜの音"と表しても時間や場所によって差違が生じ、聞き手によっても感じ方が異なるため、共通の音イメージを得ることは難しい。このことから、検索ツールの開発にあたっては感性情報の処理に重きを置き、擬声語や擬態語での検索の他、“さみしい"、"明るい"などの感覚的表現の属性を付加し、様々なポインタから指せるデータ構造にした。・音源をジャンルによって分類し、分類項目及び音源をイラストで表現する方法をとった。また前述の感覚的表現もイラストで表した。これらの方法を使うと、小学校低学年でも検索が容易できることが明らかになった。〈言語の音声情報検索システム〉・日本語の学習用音声辞書を想定して検索システムを設計試作した。この検索システムでは国語辞典の見出し語による検索を実現した。また、イラストによる検索が有効であることが確かめられ、見出し語のイラスト化も完了した。現在イラストを使ったジャンル別シーンによる検索が可能なシステムの基本設計が終了し、試験システムの開発と評価が今後の課題として残されている。
著者
藤田 陸博 番匠 勲 橘 治国 長谷川 和義
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

本研究で対象としたゴルフ場は、1992年調査、1993〜1994年造成期、1995年完成となっている。したがって、本研究の期間内では必ずしも十分な現地測定が出来ない。本研究の内容を、次に示すように分類できる。(1)現地での測定ゴルフ場の造成がどのように水文環境に影響を及ぼすかを直接知るためには、現地での測定が極めて重要である。本研究では、水位計2台、雨量計2台、濁度計1台を5〜11月の期間にわたって現地に設置し、測定を続けてきた。また、月に1度の頻度で現地河川水を採水して水質の調査をしてきた。上述したようにゴルフ場はまだ造成中なので各種の測定値に基づいて明確な結論を出す段階ではないが、河川流出量が若干変化しているようである。(2)理論解析ゴルフ場の造成にともなう流出機構の変化を求めるのに、貯留量〜流出量の関係を検討した。測定値は必ず誤差を伴うので、変化の程度が誤差範囲内のものであるか否かを判断する必要がある。誤差範囲といっても明確な基準があるわけではなく、これまで個人の経験に基づいて判断されてきた。本研究では、流出モデルとして貯留関数法を採用して流出量の確率応答を求めることによって、推定された流出量の信頼限界を得ようとした。流出量の確率密度関数が必要となるが、流出量の1〜4次モーメントを求める理論式を新しく誘導した。また、実測降雨量を解析より、時間単位の小さな降雨量は指数分布で表されることが分かった。降雨量を独立な指数分布に従う不規則関数として、流出量の1〜4次モーメントを得た。得られ主な結果を以下に示す。1.流出量の2〜4次モーメントには、流出モデルのパラメータ、降雨量の2〜4次モーメントの他に降雨量の平均値が関係している。したがって、降雨量の規模ごとに資料を整理する必要がある。定常・非定常の降雨系列について検討した結果、流出量はガンマ分布で近似できることを理論的に明らかにした。
著者
加藤 ひろし 岩並 和敏 坂上 竜資 本郷 興人 佃 宣和 川浪 雅光 向中野 浩
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

2年間にわたり歯周病患者のBruxismと咬合性外傷、歯周組織破壊の実態を明確にする目的で研究を進め、次の成果を得た。(1)K6Diagnostic Systemを用いて中程度以上の歯周病患者の顎運動と筋活動を分析した結果、歯周炎患者正常者に比べ閉口運動終末速度と咬みしめ時の筋活動電位が低下しており、歯周炎の進行と対合歯との咬合接触部位の減少にともなってさらに低くなる傾向を示した。(2)睡眠中の顎動運記録装置を作製し、睡眠中の顎運動、咬筋活動、咬合接触状態、咬合接触音を記録し分析した結果、BruxismはAタイプ(grindingに相当)、Bタイプ(clenchingに相当)、Cタイプ(A,Bタイプ以外)に分類でき、Bruxism自覚者はAタイプ、無自覚者はBタイプの出現率が高く、この差が自覚の有無と関係していると思われた。(3)患者が自宅でBruxism(睡眠中の咬筋活動・歯の接触・grinding音)を記録し分析するシステムの改良を行い、ディスポ-ザブルシ-ル型電極と発光ダイオ-ド表示モニタ-装置の使用により正確な記録が可能となった。(4)Bruxismによって生じる咬合性外傷と炎症が合併した場合の歯周組織の変化を明らかにするために,カニクイザル2頭の臼歯を4群にわけて、炎症と咬合性外傷を引き起こし、14週と28週間、臨床的ならびに病理組織学的に観察した結果、歯間水平線維が細胞浸潤により破壊された状態に、咬合性外傷が合併すると、炎症は急速に進行し、高度歯周炎となることが示唆された。(5)Bruxismの原因となる早期接触の客観的診査の目的で、Tースキャンシステムを歯周病患者で検討した結果、センサ-を咬合接触が不安定で誤差が生じやすく、咬合力の弱い者や動揺歯では咬合接触を正確に判定できないなどの問題があり、改良の必要なことが明らかとなった。今後さらにBruxismの客観的診断法と治療法の確立を目指して研究を進めていきたいと考えている。
著者
志賀 徹 斉藤 高弘 芋生 憲司 中島 教博
出版者
宇都宮大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

本研究は環境ガス組成を変化させるCA貯蔵条件下での各種生鮮農産物の呼吸特性及び品質判定因子の変化を測定し、農産物の生理的特性及び品質変化を明らかにするとともに、最適CA貯蔵条件を検討したものである。1.生シイタケは酸素濃度を減少させるか、二酸化炭素濃度を増加させることにより著しく呼吸速度が減少した。環境ガス制御が生シイタケ生体中のpHの減少を抑制することが測定され、低い(酸性が高い)領域で活性を増すPPO活性の抑制効果が確認された。加えて酸素濃度を下げることによりL-アスコルビン酸含量が高く維持された。これらを総合的に評価して、20%の二酸化炭素濃度における10%または5%の酸素濃度のCA貯蔵条件が他の処理条件より生シイタケの品質保持に効果があると判断された。2.イチゴは高い二酸化炭素濃度に対して比較的大きな許容性を持ち、二酸化炭素濃度が高いほど呼吸速度が低下した。二酸化炭素を増加させることは、イチゴ果実の果肉部の硬度の減少を抑制し、果皮色の退化を防止する効果となって現れ、かつL-アスコルビン酸含量の貯蔵中における減少を抑制した。カビの発生に対する防止からも20%の二酸化炭素濃度は効果的であった。アスパラガスは、酸素濃度の減少が二酸化濃度の増加より以上に呼吸速度の減少に与える効果が顕著であった。10%の酸素濃度下では二酸化炭素が高くなるほどアスパラガスの貯蔵中の伸長量が低く抑えられら。また低酸素濃度では硬さの保持効果が見られた。CA貯蔵条件下では空気中におけるよりクロロフィル濃度の減少が抑制され、果皮色が良好に保持された。糖含量はCA貯蔵条件下で20日後まで低下が抑制された。各種農産物の呼吸の温度に対する依存性はアレニスの式及びゴアの式によく適合し、温度により呼吸速度は指数関数的に増加した。また農産物のQ_<10>(温度10°C上昇時の呼吸速度の増加割合)は低温域で高い値を示し、温度が高くなるにつれ小さくなった。アスパラガス、ブドウ及びイチゴの呼吸速度は他の品目に比べ酸素濃度変化への依存性が高く、特徴ある挙動を示した。
著者
佐藤 俊英 岡田 幸雄 宮本 武典
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

1.ウシガエルの生体内味細胞及び単離味細胞を用い、電気生理学的方法によって、味細胞に存在するイオンチャネル・ポンプの種類及び味刺激の種類によるトランスダクション機構の相違を究明した。2.味細胞膜には、Naチャネル、Ca活性Kチャネル、遅延整流性Kチャネル、一過性Kチャネル、内向き整流性Kチャネル及びNaチャネルなどの電位依存性チャネルが存在する。3.NaClに対するトランスダクション機構には、味受容膜のカチオン及びアニオンチャネルと基底外側膜のTTX非感受性Naチャネルが関与する。4.苦味のQーHClに対するトランスダクションには、細胞内Cl^ーの味受容膜Cl^ーポンプを通っての分泌が関与する。5.甘味のガラクト-スに対するトランスダクションには、味受容膜を通っての細胞内OH^ーの流出か表面液のH^+の流入、または両作用が関与する。6.酸味のHClに対するトランスダクションには、基底外側膜に存在するチャネルやポンプは直接関与せず、味受容膜に存在するCaチャネルおよびプロトンポンプが関与する。前者の関与の程度が大きく表面液にCd^<2+>などのCaチャネルブロッカ-の添加で酸の受容器電位は大幅に減少する。7.単離味細胞の味受容膜にce11ーattached状態でパッチ電極を置きその一本の電極で電流の記録と味刺激を同時に行って、イオンチャネルの種類を検討した。NaCl刺激のトランスダクションには、受容膜に存在するカチオンに対する選択性の弱いKチャネルが関係することが明らかになった。
著者
有馬 暉勝 前田 栄樹
出版者
鹿児島大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

C型肝炎ウィルス(HCV)の遺伝子構造が明らかにされ、診断面では各種第二世代のHCV抗体の開発により十分な感度で血清診断が可能となった。我々も独自にHCVの遺伝子のクローニングを行い、コア抗原と非構造蛋白(NS3領域)との複合抗原を用いた高感度の新しいHCV抗体検出系を開発した。1.HCV遺伝子の免疫スクリーニングによるクローニングC型肝炎患者血清よりAGPC法によりRNAを抽出し、ランダムプライマーを用いてλgtII-cDNAライブラリーを作成し、患者(急性C型肝炎患者回復期および慢性C型肝炎)血清を抗体として用いクローニングを行った。患者プール血清よりスタートしたひとつのcDNAライブラリーから幸運にも構造蛋白領域をコードするクローン2個を含むHCVの各領域の特異的cDNAクローンを得た。2.新しい高感度HCV抗体検出系の開発コア領域をコードするS29抗原とNS3領域をコードするS4抗原の混合抗原を用いたELISAによるHCV抗体測定系はきわめて高感度であり、現在開発されている第二世代HCV抗体検出系(アボットII)と同等以上の感度、特異性を有し、臨床応用が期待される。
著者
宮本 健作 中島 誠 山田 恒夫 吉田 光雄
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

1.喃語様発声と負の強化:九官鳥の幼鳥がヒトのことばを模倣学習する過程で出現する喃語様発声(模倣原音)に対して大きな拍手音または叱声を与えると、その発声回数は徐々に減少し、結局そのトリの模倣は完成しない。一方、トリの発声ごとに愛称を呼ぶか餌を与えるかすると、模倣原音は加速的に増加し、物まねの完成が促進される。この成績は幼児の言語習得に関する貴重な教訓を示唆する。2.実験的騒音性難聴の形成:九官鳥は騒音負荷に対する受傷耐性が著しく高く、哺乳類では騒音負荷の有効刺激としてよく知られた高音圧のホワイトノイズまたは純音はまったく効果はみられなかった。種々試みた結果、閉鎖空間における陸上競技用ピストル音の暴露によって一過性の騒音性難聴が認められた。3.聴力損失の指標:動物の頭皮上ならびに内耳前庭窓近傍から記録した脳幹聴覚誘発電位(BAEP)および蝸牛神経複合活動電位(AP)は一過性騒音難聴の形成とその回復過程を知る客観的指標としてきわめて有効であることを確認した。4.騒音性難聴条件下の模倣発声:爆発音負荷直後、BAEPおよびAP波形が消失してから振幅が完全に回復するまでの10日間における発声行動の音圧および発声持続時間などにはとくに顕著な変化は認められなかった。難聴児にみられる聴覚フィードバックの障害効果と著しく異なった。5.模倣発声行動の動機づけ要因:飼育者の音声のようにある種の社会的意味をもつと考えられる音声は物まね発声を誘発させる効果があること、さらに飼育者の音声が感覚性強化刺激になることが明らかになった。6.弁別オペラント行動からみた九官鳥の聴力曲線:行動聴力曲線は他種のトリに比べ、ゆるやかなカーブを描き、可聴範囲は110Hzから12kHzまでの幅広い周波数帯域を含むことが認められた。騒音性難聴が模倣発声に及ぼす効果の有無については今後の検討課題であるが、ヒトと異なり、強大音に対する受傷耐性が高い。
著者
JASON Roussos
出版者
上智大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

最終年度を迎えた「ラマ4世マハ・モングット王の治世下における思想史」の研究は、研究開始当初から国内外からの関係文献・資料の収集に多くの時間を要した。しかし、本年度は収集した文献・資料の比較分析、特に比較文化的な観点からの再検討を加え、それらがラマ4世の治世下における神話と現実を明確に区別し得る史料的価値の高いものである結論に至った。また、今年度、Constantine Gerigrakisの生誕の地、ケファリニア島およびRoyal Academy London, Burlington Houseで行った研究発表では、ラマ4世治世下の思想形成とその傾向を、文学、芸術、哲学の分野からの考察を試みるにあたり、多くの示唆的な意見や助言を得られたことは幸運であった。残念ながら現時点では本研究はまだ進化の過程にあり、最終的に纏まったものは完成できていない。
著者
小澤 紀美子 松村 祥子
出版者
東京学芸大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

日本はきわめて高度な高齢社会に移行していくために、高齢者が自立して暮らせるためのケア付き住宅やソ-シャルケアなどのサ-ビスシステムの開発が緊要な課題となっている。そこで本研究は3年間にわたって調査を進め、次のような成果を得た。1住宅及びケアサ-ビスを受けている程度によって高齢者の住まい方を5カテゴリ-に分類し、7施設居住および在宅高齢者110人に面接調査を実施した。その結果、社会的・文化的要因や家族関係及びライフヒストリ-、地域社会の差異によるサ-ビス受容レベル、供給レベルの実態と住居の形態別のサ-ビスへの要求、生活の自立の程度に差がある等、高齢者のかかえる問題点等を明らかにした。2社会福祉関係者、福祉行政関係者、学識経験者、一般住民61人への面接調査により、高齢者福祉に必要な30項目の相互関連性を調べ、DEMATEL法によりソ-シャルサ-ビスシステムの問題構造を明らかにした。さらに日本型ソ-シャルサ-ビスシステムの問題解決のための方策を検討した。3以上の調査結果、及びフィンランドの研究成果の概要、研究担当者がこれまで調査した住民への意識調査結果から、日本型ケアサ-ビスシステムとそのサポ-トのための組織づくりへの課題を検討し、その方策の提案を行った。
著者
山下 宏明 小川 正廣 神澤 榮三
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

前年度の成果を踏まえ、研究分担者各自の専攻領域の研究を改めて問いなおすことを課題とした。すなわち、山下は、改めて平家物語を内在的に規定している‘語り'の問題を物語と音曲の両面にわたって検討し、説話文学との差異を明らかにし、語り行為論的観点からする平家物語論に対して評価を加えた。音曲面については東京芸術大学を場とする共同研究グループとの音楽的成果を生かしたり、語り行為論的側面については、これも芸大での共同研究者の一人である兵藤裕己氏による肥後に伝わる座頭琵琶の語りの実情からする成果をめぐって、平家物語を口誦詩的観点のみに限定して論じきれないことを論じた。神澤はローランの歌との比較から口誦詩論的に平家物語を論じ、その成果を國文学者たちが企画した“あなたが読む平家物語"の1冊『芸能としての平曲』に求められて執筆、近く東京都内の出版書肆から刊行の予定である。なお山下の成果も、その企画の1冊『平家物語の受容』におさめ、すでに刊行ずみである。フランスの口誦詩との比較研究については先例もあるが、外国文学研究者が平家物語に即して検証したのは、佐藤輝夫氏以来の成果であろう。小川については専攻のギリシャ古典の関する学位論文の出版に従事し、その作業を進めるうえで本研究の成果を踏まえた。ギリシャの口誦詩は、世界のいわゆる叙事詩の原型をなすもので、平家物語を口誦詩論的に検討するうえでも有効なモデルであることを改めて確認した。
著者
無敵 剛介 高木 俊明 津田 英照
出版者
久留米大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1985

60,6年度の研究により光ファイバーを利用して術中安全に忠実度の高い中心静脈圧波測定装置を開発したことから、右心房圧波の拡大記録によりelectromechanicalな分析を行うことができた。その結果、術中心拍動下に体循環平均圧(Pms)の理論値をmicracomputerにより算出し、その経時的変化を追究する方法を検討し、その臨床的有用性につき検討した。PmsはTNG投与により49±5%に減少し、修飾ゼラチン液の急速輸液ではcontrolの101±10%まで回復した。動・静脈キャパシタンス比(CV/CA)は、TNG投与によりcontrolの140±31%まで回復した。また、右心房圧波X谷-Y谷の圧差の変化は右心房Conduit機能と関連し、TNG投与で79±14%に低下し、修飾ゼラチン液の急速輸液では106±22%まで回復した。肺血管抵抗値はTNG投与によりcontrolの70±24%に減少し、その後の修飾ゼラチン液急速輸液ではcomtrolの96±40%まで増加してきた。一定量(5ml/kg)輸液時の中心静脈圧の変化値(Y谷)より静脈系容積弾性率(Ev)を求め、さらにCVP圧波の心血行力学的分析により算定したPms値およびCV/CA値より有効循環血漿量(Q)の理論値が算出され、その値は41.33±8.58ml/kgであった。心室収縮末期容量とEmax(Suga,H)とで規定される一回拍出量(S.V.)はS.V.=Preload-(Afterload)/(Emax)の式で表わされる。そこで、Preloadを輸液により上昇せりめると、一定のAfterloadに対する心室の適正なPump機能の維持がEmax(心筋収縮力)によって支えられることをTNG投与ならびに急速輸液時の右心機能の応答から確認し、静脈還流機構の術中管理の観点から静脈還流抵抗(【G_(CO)】,【G_(VR)】の循環生理学的概念に新しい見解を加えた。
著者
田中 一朗 戸田 保幸 松村 清重 鈴木 敏夫
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

船首尾部で発生する3次元剥離の発生機構及びその船型要素との関係を明らかにするとともに、これらの影響を考慮した船体まわりの流場、船体に働く流体力の計算法を開発することを目的とする。以下に調査法とその結果について述べる。1.通常船型を横断面積分布、偏平度分布、へこみ度分布を用いて表し、この船体が斜航する場合の流場の計算法を示した。この結果、剥離渦の強さ及び剥離線はへこみ度分布に強く依存することがわかった。2.上記計算法には剥離渦の発生初期の形状を必要とする。これを得るために、剥離渦を伴う円錐まわりの自己相似流場について調査し、剥離線近傍の剥離渦の形状を摂動法により求めた。この解はレイノルズ数が無限大の時に起きる剥離構造を示すことがわかった。しかし、この解析解は渦の端が無限遠方で渦の巻き込みを表せないため、この解を元に渦の局所的流速を用いて解を大局化させる反復法による計算法を示した。この結果、渦層は円錐からあまり離れず、有限レイノルズ数の渦層形状とはかなり異ることが明らかとなった。3.厚い境界層理論と簡易プロペラ理論を用いてプロペラ作動時の実用船型まわりの流場の計算法を開発した。その結果、プロペラ作動時においても計算結果は実験結果とよい一致を示すことがわかり、また、プロペラ作動時の方が船体表面圧力分布に及ぼす粘性影響が小さいことがわかった。また船体横断面形状をフレアーを持つように変形することで粘性圧力抵抗が軽減されることがわかった。4.船首砕波する流場を低フルード数という仮定で解析的に求めた。その結果、渦を伴っていない局所波は実験で得た波形によく似た形状となることがわかった。
著者
伊藤 漸 小浜 一弘 近藤 洋一 竹内 利行
出版者
群馬大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

モチリンは消化管粘膜から分泌されるペプチドホルモンで消化・吸収の終了した空腹時に約100分間隔で血流中に放出され、先ず胃・上部十二指腸に一連の強収縮をひきおこし、これが順次下部消化管に伝播して、空腸・回腸に溜った胃液・腸液を大腸の方に押しやる働きをする。モチリンによる消化管平滑筋収縮作用は、動物種によって大きく異なる。例えば、ブタやイヌから抽出したモチリンは、ラット,モルモットの消化管には全く作用しない。イヌに投与すると空腹時強収縮をひきおこし、この作用はアトロピンによって抑制されるので、モチリンの作用はアセチルコリンを介していることが予想される。ところがin vivoのウサギの実験ではこの強収縮は観察できない。しかしウサギ腸管平滑筋条片をマグヌス管につるして筋の収縮を調べるとモチリンによる筋収縮を確認でき、しかもアトロピンでは抑制されず、モチリンの平滑筋への直接作用が考えられる。但し単離筋細胞を用いた培養実験では、アセチルコリンは筋収縮をひきおこすが、モチリンでは筋収縮を確認できていない。我々は、ウサギ平滑筋膜上にモチリン受容体の存在を想定して、膜分画への ^<125>Iーモチリンの結合実験を行った。 ^<125>Iーモチリンは膜の粗分画を用いると結合を認めたが、精製した膜分画を用いると結合が認められなかった。そこで我々は、モチリンが直接平滑筋に働くのではなく、神経に作用しアセチルコリン以外の伝達物質を介して筋に働いている可能性を考慮しているが、同時に、1) ^<125>Iーモチリンの比放射能活性を高める 2)13位のMetをLeuに置換して酸化をうけにくくさせる 3)第7位のTyrを除き、カルボキシル端にTyrを付加したモチリンを合成する,等の工夫により、生物活性がヨ-ド化によっても十分保持できるモチリンの作成を行なった。現在これらの修飾モチリンを用いて平滑筋膜分画との結合実験を継続している。