著者
小川 昭之 石和 俊 鈴木 正義 中下 誠郎
出版者
大分医科大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1985

脳波, 心臓拍動, 姿勢などの制御系の揺らぎ現象に自己回帰解析を施し, 発育しつつある生体に潜む動的活動の年齢特性を明らかにすることを目的として, 昭和60年より62年に至る3年間に次の実績をえた.1 脳波解析による正常小児脳活動の発達現象に関する定量的研究未熟児より15歳に至る健康小児の覚醒・睡眠脳波に自己回帰・要素波解析を施すと, 複雑な脳波活動を構成する要素波の周波数, パワー, 減衰時間持続性, 情報活動量などの諸特性を求めることができる. そこで, 新生児から学童に至る小児の各脳部位導出脳波の要素波特性の発達に伴う変化を明らかにした(昭60). さらに, 自己回帰モデルを応用した脳波の2次元表示の手法を開発し, 互に有意差のない脳波群からなるいくつかの2次元脳電図の平均パターンを図示する方法や, 2つの2次元脳電図を比較して推計学的に有意差のある部分を図示する方法を開発し(昭61), 未熟児や学童の発達に伴う2次元脳電図の定量的変化を明らかにした(昭62).2 直立姿勢調節制御活動の解析と, その発達特性に関する研究健康幼児・学童の前後・左右の揺らぎ曲線に自己回帰解析を施し, 構成要素波を求める手法を開発し(昭60), 5歳から12歳に至る正常児の直立姿勢の揺らぎの発達を求め(昭61), さらにパターン識別によって発達過程の定量的変化を明らかにした(昭62).3 心拍変動の揺らぎの解析と, その発達特性に関する研究任意の時刻の心拍変動はそれ以前の過去の刻々の拍動状態の歴史に確率的に関連する面としない面とがあるので, 拍動周期の時系列も自己回帰性を示す. そこで, R-R間隔時系列の自己回帰解析システムを開発し(昭60), それを用いて新生児の心拍変動を生直後より解析し(昭61), さらに静・動睡眠期での発達特性を明らかにした(昭62).
著者
福山 力 太田 幸雄 村野 健太郎 内山 政弘
出版者
国立環境研究所
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

本研究は平成5〜6年度の一般研究Bとして行われたものであるが、当初使用していた北海道上砂川町三井石炭鉱業南部立坑の閉鎖によりこれに代わる立坑を探す必要が生じ、平成6年11月岩手県釜石鉱山立坑の使用に関する了解が得られたものの、坑内整備と予備調査に平成7年3月までを要したため、予定期限の平成6年度末に研究を終了させることが不可能となった。しかし同年4月に第1回、10月に第2回の実験を行い、最初の目標に沿う成果が得られた。いずれの実験でも坑底から十数ないし数十mの高さで雲の発生が認められた。坑底で二酸化硫黄を約1l/分で放出し、雲底下の雲のない部分と立坑最上部の雲頂に相当する部分において、二酸化硫黄と硫酸塩粒子の濃度、さらに後者においては雲水中の硫黄含量も測定した。その結果、少なくとも雲底直下と直上では全硫黄量がほぼ保存されていること、二酸化硫黄は雲頂に至るまでにほとんどすべてが雲粒に取り込まれることがわかった。第2回の実験ではエレベータに搭載した二酸化硫黄計により、濃度の鉛直分布の測定に成功した。濃度分布は雲底を境界として減衰定数が異なる2つの指数関数で表現され、それぞれの値から雲底下における坑壁への拡散の効果と雲中での水滴への取り込みすなわちレインアウトの効果を評価することができた。後者に対応する減衰の半減期は80sで、二酸化硫黄は速いin-cloud過程により気相から失われることが明らかとなった。また、立坑最上部で熱線式水滴径測定装置により雲粒の粒径分布を観測したところ、基本的には9μm付近に極大をもつ一山型の分布であったが、間欠的に30μm近くに第二の極大が現れることが認められた。このような大粒径水滴の出現は熱線法とは独立にウォーターブルー法によっても確認された。この水滴の個数濃度は小さいが、雲水量には大きな寄与を持つので、降雨過程との関連も含めて今後の検討が必要である。
著者
神沢 栄三 伊東 泰治 植田 裕志 小栗 友一
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

1.中世フランスの宮廷騎士道物語がドイツの作家たちによってどのように翻案・受容されたか、特にクレチアン・ド・トロワの作品とハルトマン・フォン・アウエ、ヴォルフラム・フォン・エッシェンバハ、更にフランスの13世紀の逸名作家の『散文ランスロ』とドイツの『ランツェレット』の比較研究によって検討した。その結果、従来は単なる量的な付加ないし修辞学的な洗練度のレベルで捉えられてきたドイツの翻案作品の問題が、作品の本質的な性格にかかわる重要な問題であることが明らかになった。即ちフランスの騎士道物語はドイツにおいて非聖化=写実主義傾向の物語に変質していたのである。この事実は一つの重要な示唆を含んでいる。ハルトマンらが活躍した12世紀末・13世紀にはフランスにおいても同じように写実的傾向の冒険物語(roman d'aventure)が輩出しており、その背景には社会の変化、それに伴う意識の変化などが想定されるのであるが、ドイツにおいても同じことが起っていたのではないかということである。この問題は単なる受容・影響関係からだけではなく、一種の平行関係が存在したことを想定して再検討が必要である。2.騎士道物語の主要なテ-マに愛の問題があったが、純粋愛(fin'amor)・宮廷風恋愛(amour courtois)がドイツでどのように受容されたかを検討した。クレチアン=ハルトマン型の夫婦愛の理想はやがて反社会的な愛の本質を追求した『トリスタン』と世俗の愛に神の愛を対置した『聖杯物語』へと二極分化した。純粋愛は他方ではダンテ、ペトラルカを経て神秘主義・ネオ=プラトニスム的傾向の強い近代の抒情詩に進んでゆくことが明らかとなる。今後西ヨ-ロッパ諸国の社会状況を考慮に入れながら更に徹底した比較研究を進めてゆくことが必要であろう。
著者
北尾 邦伸 安井 鈞 長山 泰秀 稲田 充男 新村 義昭 片桐 成夫 井口 隆史 瀧本 義彦 北尾 邦伸
出版者
島根大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

輪島・鳳至地域の現地においてアテ・複層林の森林を対象にして種々の計測を行った。また、その複層林を経営する担い手の経営構造やアテ材の生産・流通構造についても現地調査を行った。さらに、固定試験地の林分構造に関する過去20年間のデータの解析に努めた。これらのことから、次のような新たな知見や林分構造に対する理論モデルを導出した。1.複層林の直径分布および樹高分布は各齢階ごとのそれぞれの分布が結合したものと仮定して、頻度分布モデルとして混合対数正規分布g(w)を誘導し、計測データをあてはめた。結果はよく適合した。2.択伐林内の樹木の伐採確率分布の誘導を行い、混合マルコフ過程を応用した択伐林直径分布モデルを誘出できた。3.よく施業されたアテ択伐林分では直径や樹高の度数分布は逆J字型を示す。施業がよくない光環境のもとでは、上層木のみが成長して択伐林型が崩れる。これら林分構造・成長・光環境の関係を定量的に明らかにした。4.2つのアテ択伐林分における林分各部分の栄養塩類の集積量、およびそれに影響をおよぼす土壌の化学性を下層土壌を含めて明らかにした。これは、森林土壌の肥沃度および物質集積量の基礎的データとなる。5.暴風害の被害形態は幹折れ、根返りが多く、直径・樹高の全てのクラスに及んだ。折損被害は形状比が60-80のものに多く、冠雪害の場合よりも小で、折損高は2-3m、折損比高0.1-0.3と冠雪害に比較して低かった。6.光環境を整える枝打ち作業が労働力不足のために困難となり、この点を基軸にして伝統的なアテ択伐の経営構造が変容を迫られている。また、外材率20%という地域材の地場需要の強い伝統的な生産・流通構造も、その規模が小さく、飛躍的に増大した戦後アテ造林の資源的成熟に伴って、大消費地とのつながりにおける産地形成を迫られている。これらの点を実証的に明らかにした。
著者
谷内田 正彦 石黒 浩 八木 康史
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1994

平成6年度には双曲面鏡をテレビカメラの前に設置した新たな全方位視覚センサの試作,全方位視覚センサからの情報を用いた環境の大局モデルの作成,大局モデルを用いた移動経路の計画と更新について研究を行った.平成7年度には以下の研究を行った.[1]注視物体の発見:局所視で注視すべき物体を発見する方式の研究を行った。注視物体としては、(1)作業対象となる物体、(2)目的地に移動するときの経路の目印(道しるべ)となるもの、(3)通行を妨げる障害物(狭い通路)、(4)不審物、(5)衝突の危険のある移動体(人など)である。それぞれを発見する専門家モジュールを作成した。これらの専門家モジュールが常に大局モデルを監視し、候補が見つかれば局所視を起動して検証するという方式をとった。[2]局所視による注視物体の詳細な立体形状の認識:発見された注視物体の候補を局所視で注視しながら移動し、その詳細な立体形状を認識する研究を行った。注視すべき物体の3次元位置と形状は大局視により概略分かっているので、物体がカメラの中心にくるようにカメラを回転し、画面いっぱいに写るようにズ-ムを制御し、また鮮明な画像が得られるように焦点調節する。いくつかの視点から対象が観測されるので、三角測量の原理から対象の3次元形状を求めた。[3]統合視覚システムの試作と実環境での評価:大局視、局所視を一体化した視覚システムを作成した。また、大学の廊下や実験室などの実験境下で実験を行ない、良好な結果を得た。
著者
水谷 幸正 田宮 仁 藤本 浄彦 山口 信治 雲井 昭善 藤原 明子 藤腹 明子 久下 陞 中村 永司
出版者
佛教大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

1.本年度は研究最終年度に当たり、当初の研究計画に添い報告書作成に向けて月1回の例会を開催した。その間に、次のような成果を得た。まず前年度までに一応の成果が得られた「仏教によるタ-ミナル・ケア方法論の開拓」ということでは、その方法論を検証を兼ねて仏教の祖師方のタ-ミナル・ステ-ジに当てはめ、再吟味を行なった。2.また本研究のもう1つの目的であった、タ-ミナル・ケアにかかわる仏教者の養成ということでの仏教学(宗学)専攻学生を対象としたカリキュラムに、医療看護関係者の意見も聴取して吟味を加え、より実際的なものとすることができた。4.これらの方法論開拓やカリキュラム作成という、本研究の主たる目的を中心に、その典拠となるべき仏典や仏教思想を吟味確認し、また研究分担者のそれぞれの専門分野からの研究をまとめ報告書作成に臨んだ。5.なお、各研究分担者は本研究の成果を以下の各種学会・セミナ-において報告等を行なった。(1)京都ビハ-ラの会研究会・於佛教大学四条センタ-・毎月2回第1,3金曜日、(2)佛教大学社会学研究所宗教研究会於佛教大学・11月14日、(3)第12回国際社会学会・於スペイン・マドリッド・7月9日、(4)第14回死の臨床研究所・於札幌市教育文化会館・10月13日、(5)‘90第2回日本生命倫理学会・於大阪日本生命講堂・11月3日、(6)日本仏教社会福祉学会第25回大会・於稲沢女子短大・11月11日。また中華民国で開催された国際仏教学術会議・12月23日〜29日、佛光山仏教青年学術会議・1991年1月1〜5日にも報告を行なった。
著者
内藤 親彦 田井 晰
出版者
神戸大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

ニホントガリシダハバチHemitaxonus japonicus complexの野外個体群を研究対象として、同所性寄主転換と生態種形成機構を解明するために、主として遺伝・化学生態的手法により研究を行い、以下の新事実を得た。1.日本の北緯34度付近の狭い移行地帯(南北約10km)において、イノデ生態種がジュウモンジシダ生態種から、寄主転換と生殖隔離をともなって同所的に分化している。2.寄生転換の主要因である雌成虫の寄主選択性は一遺伝子座支配と考えられ、両生態種は異なる産卵誘引物質を感受している。両化学物質はパルミチン酸メチルに近い揮発性成分であるが、それらの構造決定には至っていない。3.両生態種は外部形態や染色体で区別することはできないが、酸素多型やDNA高度反復列の比較においても、生態種分化に伴う明瞭な変化はみられず、生態種形成の速度が極めて速いか、またはその過程が遺伝的変化とは独立であるかを示唆している。4.同所的生態種形成とその短期確立には、寄主選択機構の他、寄主植物上での同系交配、一方向的選択交尾、条件づけ効果による幼虫の不食化等の諸要因が関与している。一方向的選択交尾は旧生態種から新生態種への遺伝子流入を防ぎ、新生態種の遺伝的独立性を保証する機構であり、それには性フェロモンの介在が実験的に示唆されたが、両フェロモンの同定には至ってない。5.機種転換が一遺伝子座支配による分断選択に起因していることを想定し、ジュウモンジシダ旧生態種の雌に、寄主選択の突然変異因子を含むイノデ派生生態種の雄を交配し、得られたF1雌にさらにイノデ生態種の雄を交配して、イノデのみに産卵、摂食するF2雌を分離することに成功し、生態種形成の実験的再現の可能性を強く示唆した。
著者
小野 米一
出版者
鳴門教育大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

アイヌ語話者の日本語北海道方言の特徴として、次のような知見が得られた。(1)母語アイヌ語の干渉と思われる特徴が、主に音声面に観察される。例えば、(1)主に1拍目の音を引き伸ばしがちなこと、(2)母音オとウが近似していること、(3)連母音同化を起こしにくいこと、(4)サ・シャ行音及びザ・ジャ行音の区別がないこと、(5)いわゆる清音と濁音との区別がないか混同が著しいこと、(6)拗音を直音ふうに発音する傾向があること、(7)イントネーションが平板な調子になりがちなこと、などである。しかし、文法面においても、(8)助詞「に」「しか」などの用法、(9)自動詞・他動詞の混用、(10)文末の表現、などにアイヌ語の干渉が認められる。語彙面には、借用語がいくつかあるものの、アイヌ語の干渉はほとんどない。(2)アイヌ語話者たちが身に付けた日本語は、主に明治期・大正期、さらには昭和戦前期のものであり、昭和30年代以降の共通語化が急速に進む以前のやや古い北海道方言である。東北方言的な特徴が基盤となって、全国各地からの移住者たちが持ち込んだ全国諸方言が混交しあった、独特の「北海道方言」である。その日本語には、織田氏のそれに淡路島方言から取り入れたと思われる特徴がいくつか観察されることに象徴されるように、近隣在住移住者の日本語方言が反映している点で注目される。(3)アイヌ語話者の日本語北海道方言には、以上のような共通した特徴も観察されるが、生育環境や日本語を身に付けた時期、アイヌ語・アイヌ文化に対する態度などが、アイヌ語話者一人ひとりの日本語の個人差となってさまざまでに観察される。
著者
又坂 常人 西村 直子 野地 孝一
出版者
信州大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

1今年度は昨年度の研究成果をふまえ、理論的研究を中心に遂行し、あわせてそれを補強するために全国550余の自治体首長にアンケート調査を行った。第3セクターの運営やそれに対する統制、行政的評価の実態については、設立の理由は第3セクターの事業目的によって様々であること、経済社会状況の変化を反映して第3セクター形態による事業展開の分野がハードを中心とするものからソフト面を中心とするものへと変化しつつあること、第3セクターの事業活動に対する評価は当該事業分野の性格によって様々であり一様には語れないこと、第3セクターに対する様々な統制一議会や首長部局による監視・監督等ははなはだ不十分な状態にあること、その他多くの新しい知見を得ることができた。第3セクターに対する法学的行政学的研究を通じて、従来の「行政主体論」的理論枠組にかわる新しい認識枠組を設定する必要性が確認され、また、従来の行政処分や行政指導を念頭に置いた「権利救済」を中心とする伝統的な行政統制手法は、第3セクターに対する統制論としては極めて不十分であり、立法論を視野にいれた枠組形成の努力が必要であること、また、現実的な統制としては、現行制度においては議会を通した統制が有効であり、それを活性化するために必要な方策が研究された。経済学的研究を通じて、第3セクターの政策効果を経済学的に解明する場合は、官民の出資比率が重要であること、その他の多くの新しい知見が得られた。
著者
村崎 恭子
出版者
横浜国立大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

(1)本年度は本研究にとって最も悲しい年になってしまった。樺太アイヌ語の最後の話し手であり、本研究の唯一の情報提供者であった浅井タケさんが、平成6年4月30日未明に入院先の東札幌病院で亡くなったのである。(2)そのため、本年度の2回にわたる調査旅行は、1回目は浅井タケさんの最後を見届け、身寄りのなかったタケさんの供養をすることに使い、2回目は調査した地域で状況取材と資料整理のために使った。(3)ついに話し手が絶えてしまった樺太アイヌ語の記述的研究は、今やこれまで過去20年にわたって私が収集した樺太アイヌ語資料のすべての整理とまとめしか不可能となった。(4)1988年から1993年までに調査した浅井タケさんの収録資料の一部をまとめて「樺太アイヌ語口承資料2」を研究成果報告書として印刷した。(5)1960年から1994年まで34年間にわたって収集した樺太アイヌ語音声資料をまとめて整理しコンピューターによるテープリストの作成に着手した。(6)これらのデータのまとめは平成7年度に新規申請した「樺太アイヌ語の記述的研究(3)-音声資料の整理と保存、データベース作成の試み-」で行う予定である。
著者
奥村 康 八木田 秀雄 中内 啓光 熊谷 善博
出版者
順天堂大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1986

抑制性T細胞に限らず、T細胞の機能発現のために、標的との結合に不可欠の数々の免疫機能分子の解析、その発現機序等の解析を通し、T細胞の免疫系での調節性の役割を解析した。1)抑制性T細胞株の確立とその細胞膜分子の解析 抗原に得異的な抗体産生抑制性T細胞株を確立し、その抗原レセプターを介するシグナルがいかなるリンフォカインを産生するかを指標に、抑制性T細胞の機能の多面性を解析した。また、この抑制性T細胞膜上の遺伝産物に対する抗体の確立と、その抗体の反応分子の検索を進めた。また、これらの抑制性T細胞の疾患における意義を解析するため、各種の自己免疫病、特にリウマチにおける抑制性T細胞をその細胞膜表面分子を指標に解析した。2)リンパ球機能分子のコードする遺伝子の単離とその分子に対するモノクローナル抗体の確立 T細胞の抗原レセプター以外に、いくつか重要な補助分子としてリンパ球機能分子と総称される膜分子が、リンパ球の分化と機能発現に大きな役割をしていることが明らかになりつつある。マウスのT細胞に焦点をあて、抑制性T細胞、細胞障害性T細胞の機能発現に不可欠な分子CD8、CD2等の遺伝子の単離同定、またそれらの遺伝子導入した細胞を用いて、その分子の免疫反応での役割を解析した。その分子に対するモノクローナル抗体を確立し、これらの機能分子の動きを調べた。3)細胞障害性リンパ球の最終エフェクター分子の解析 T細胞やNK細胞の細胞エフェクター分子のひとつであるperforinの遺伝子の単離に成功し、その分子の免疫応答で果たす役割を分子免疫学的に解析した。
著者
小坂 勝昭 斗鬼 正一 阿南 透 宇野 正人 越智 昇
出版者
江戸川大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

平成6年2-3月、5月、7〜8月と数次にわたる現地調査を実施した。調査対象地は島根県隠岐郡西ノ島町浦郷地区を中心に、必要に応じて西郷町、五箇村、島前中ノ島の海士町も併せて調査対象とした。調査手法は徹底した「聴き取り、面接法」をとり、部落のキ-・パースンから情報収集し、それらを基礎に分析枠組を構想した。これまでおこなった調査研究の内容は(1)隠岐諸島の社会史研究、(2)各研究分担者の研究領域に従い、文化人類学的、社会学的、文化史的、宗教社会学的な研究をおしすすめてきた。具体的には、(1)隠岐の近代化の進行の中で、マスコミ情報の与えてきた影響とともに近代以降の第三次産業の発展、とりわけ観光産業の振興は隠岐の発展と産業化に影響を与えてきたが、とくに若者人口の流出(向都現象)に典型的にみられる人口流出の増加とともに観光客の流入増などが全体としての人的交流の著るしい増加を結果した。とくに観光地化にともなう隠岐社会の変動の分析をおこなった。(2)隠岐の過疎化対策としての若者宿の新築と地域振興に及ぼす効果の測定、町起こし運動としての隠岐全国トライアル大会」の町の活性化に及ぼした影響と効果分析。(3)隠岐諸島の種々の祭札や宗教的行事の社会的機能を宗教社会学的、文化人類学的な観点から明らかにすること。(4)町村合併にともなう部落組織の変容、及び便益の配分をめぐる政治的勢力関係の分析、(5)明治維新時の文化変動ともいうべき宗教改革(廃仏毀釈)の影響、以上のような問題意識にもとづき研究をすすめてきた。そして研究成果の一部として、越智、小坂、斗鬼、阿南の共著として「隠岐諸島の社会変動に及ぼした諸要因-隠岐郡西ノ島町の調査研究ノートから-」を著わした。この論文は江戸川大学紀要「情報と社会」NO.5.1995.(2月20発行)に発表された。(13-35頁。)
著者
茂木 栄 薗田 稔 島田 潔 杉山 林継 薗田 稔 宇野 正人 茂木 栄
出版者
国学院大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

日本に於ける祭礼形態の史的類型化のモデル作りを最終目的としてこの課題に取り組んできた。日本の祭り形態の流行には、歴史的に五回波があったと考えられる。第一は主として水田稲作地帯の「田遊び」、折口信夫によれば、この種の祭りは、奈良朝以前より存在していたという。第二は、平安時代後期から始まったとされる神楽、これは全国の山間地域に「霜月神楽」という形で伝承されている。第三は町の祭りとして国府がおかれた地方の中心都市において行なわれいた「国府祭(こうのまち)」である。十一世紀にはその存在が明確になっている。第四は、町の人々の間から発生し、全国の祓いの夏祭りとして広がっていった「祇園祭り」。これは山車をひく全員参加型の祭礼で、全国に爆発的に広がった。第五は、江戸型の神興を担ぎまわる威勢の良い祭り。関東を中心に大きな流行をみた。この中でも、本研究の重点を国府の祭りに置いて調査研究を続けた。平成三年度の現地調査は、長門の国府の祭・数方庭、隠岐総社、隠岐田楽、出羽総社などの調査を行なう。また、これまでの国府祭の調査と資料収集を通じて、ポイントとなる事象、文献、伝承などキ-項目を下記のようにまとめた。1、諸国国府におかれた総社 2、『白山之記』 3、『朝野群載』 4、『時範記』因幡総社、因幡三山、大伴家持 5、播磨総社射楯兵主神社、三ツ山神事、一ツ山神事 6、三輪山麓に鎮座する兵主神社、三山妻争い伝説 7、越中総社二上射水神社築山神事、大伴家持、人身御供伝説 8、下野総社明神お鉾祭、三輪神勧請、人身御供伝説 9、遠江総社淡海国玉神社、裸祭人身御供伝説 10 尾張総社尾張大国霊神社、裸祭人身御供伝説最後に、これまで得られた知見から、祭礼の史的類型の第一形態である国府の祭の共通要素を列記しておく。1,祭りには大和の風土を強く意識していること 2,本来暗闇の祭りであること 3,海での禊があること 4,裸の練り行事があること 5,人身御供伝説が存在していることが多いこと 6,稲に関する儀礼が存在したこと 7,産の信仰があることなどを指摘することが出来た。
著者
宇野 正人 小坂 勝昭 斗息 正一 宮島 千秋 斗鬼 正一
出版者
江戸川女子短期大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

○現地調査における進捗状況。(1)本研究のため、調査地域に関する文献および資料のリストを作成し、加えて、できるかぎり文献収集をおこなっていたが、本年度もその拡充をおこなった。(2)ゆえに、収集した文献に関して、その文献リストおよびその内容のコンピュータによるデータベースをも拡充した。(3)研究代表者や分担者は、現地で面接調査をおこない、資料収集につとめ、より資料の精度化をはかった。具体的には「隠岐アイランドトライアル」の開催実行の状況、島内外を結ぼうとする試みである「ふるさとNETWORKJOURNAL隠岐国」編集発行の様子、各地区の神社の祭および盆行事の見学などである。○新たに得られた知見。初年度は、文字を中心にした文献・資料の収集に力点を置いた。それゆえに、われわれの知見は従来の研究の範囲を越えていないのが現状であった。2年度においては、現地での面接調査をおこなった。現地の方々の非常な協力により、かなり精度の高い資料を得ることができた。3年度は、彼ら、若者が具体的に活動している行事および各地域における伝統的行事などの現状をみた。その中で、若者を中心にした行事および事業と伝統的な行事をつなぐ「キー」となる人物の存在があった。彼は神社の神職であるものの、トライアルの実行委員会事務局長、のちに大会実行委員長となっている。ゆえに、宗教的コミットメントは個人のレベルであるが、その役職、発言力にはみるものがあり、到底無関係とはいえない。彼の神社では、その立地条件も加味されて、祭への参加が減少の一途をたどっていた。ところが、トライアル開催以降、それまで神社の祭典に参列がなかった青年たちの参列があった。また、ふるさとネットワーク事業に関しても、青年たちを中心に、島の伝統的祭や行事への再認識もあった。このように、経済的側面が強調される場合が多い地域活性化の問題も、宗教の問題を加味すると、少し変わった観点からみることもできよう。
著者
無藤 隆 田代 和美 柴坂 寿子 藤崎 真知代
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1994

本研究は、幼稚園の保育を対象として複数の縦断的な観察研究を行い、幼稚園期における子どもの人間関係の体験の特徴と発達的変化を明らかにした。また、子どもの体験を大人がどのように理解しているかを、保育者と子どもの関わりの観察、保育者への面接等を通して検討した。6つの園で1年間あるいは2年間の縦断的な観察や面接を行った。その結果、いざこざに類したふざける行動に注目すると、対人的に微妙な調整を行う様々な機能を持っており、年齢の時期により機能の変化が見られた。クラスの中での子ども同士の評価が高い子どもについて、仲間入りに際してのトラブルが減少していった。評価が低い子どもについては、必ずしも減少せず、普段の評価が個別の仲間入りに影響していることが示された。ある園での保育のカンファランスの様子から、保育に対する実践的なレベルでの理解の難しさとその理解が進むなかで子どもへの関わりが変わっていく様子を示した。
著者
佐藤 章夫 田坂 捷雄
出版者
山梨医科大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

1)新潟県下のトリクロロエチレン作業者を対象にしてトリクロロエチレン暴露と消化器症状および強皮症様症状の出現頻度との関係を調べた。腸管嚢腫様気腫と関連の深い症状(腹部膨満感、排ガス、腹痛、交代性便通異常、泡沫状粘血便)は女性のトリクロロエチレン作業者に症状合併率が有意に高かった。強皮症様症状(手足・顔・体幹の皮膚の硬化、指の皮膚が硬くつっぱる、指のこわばり、寒さで皮膚が変色する)の合併率は男女ともトリクロロエチレン作業者に多いことが確認された。また、長野県下で行った同様の調査で、トリクロロエチレン作業者における腹痛と腹部膨満感の訴え率とトリクロロエチレン暴露の間に量ー影響関係が認められた。2)腸管嚢腫様気腫新発生4例の作業環境を調査するとともに、長野県下で過去に発生した15例(計19例)の腸管嚢腫様気腫症例の労働衛生状況について調査した。その結果、多くの症例がトリクロロエチレンと同時に高濃度のメタノ-ルに暴露されていることが判明した。トリクロロエチレンとメタノ-ルの混合暴露が腸管嚢腫様気腫の発生にどのような影響を与えるか検討する必要が示唆された。3)トリクロロエチレンとメタノ-ルを単独あるいは混合して経口的に与え、腸管の変化を観察した。2回のバリウム注腸・X線検査で腸管に変化は認められなかったが、トリクロロエチレンあるいはメタノ-ル群の腸管(下降結腸)の粘膜下組織あるいは漿膜下組織に浮腫が認められた。同一部位から採取したコントロ-ル群には全く認められなかったので、この変化はトリクロロエチレンあるいはメタノ-ルの投与によって起こったものと思われる。しかしこの変化が腸管嚢腫様気腫とどのような関係にあるのか不明である。
著者
永田 恵十郎 渡辺 晴基 井口 隆史 平塚 貴彦 北川 泉 岩谷 三四郎 猪股 趣
出版者
島根大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1985

63年度に行った主な研究作業は, 過去3ヵ年の研究の総括とそのために必要な補足調査である. 研究の総括は毎月1〜2回の頻度で開催した研究会の場で行った. 研究会では, それぞれの分担者が担当課題についての研究結果を報告し, それをめぐって全研究分担者が討論し, 率直な批判検討を積重ねるという方式で進めた. また補足調査は, 自然減社会の実態構造, 減返強化米価引下げによる地代負担力の減少とそのことによる借地返還多発の実態構造等の把握に力を注いだ.以上を通じて, 3ヵ年の研究成果を『過疎山村の再生』というテーマで世に問うことを決定し, 63年度の研究成果公開促進費の交付申請を行った. もっとも, 『過疎山村の再生』というテーマは, すぐれて具体的, 現実的課題をふくんでいるだけでなく, 理論的にも掘下げなければならない課題も多々ある. そこで, 上記研究会には地元の各機関, 団体の関係者の参加も求め, 具体的, 現実的な課題への認識を深めることにした. なお, 共同研究者以外の研究会参加者は延25名(県庁農林水産部, 農林漁業金融公庫松江支店等)であった. さらに, 63年12月にはたまたま来松の機会のあった和田照雄(東京大学), 森田学(京都大学), 陣内義人(鹿児島大学)の3教授にも研究会への参加を要請し, われわれの理論フレーム(仮設)についてコメントを頂いた.
著者
木原 諄二 長崎 千裕 相澤 龍彦
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

現在さらに近未来における鋼を中心とする成形、加工プロセスでは、その要素技術である溶解・鋳造・塑性加工が融合化、統合化して新しい視点の下で強力な生産技術となりつつある。溶融鍛造/半溶融鍛造などは鋳造と塑性加工が連成した技術であり、一方MA(メカニカル・アロイング)/爆発成形などが広義の溶解と塑性加工が結合した技術といえる本研究では、そのような要素技術の統合化・融合化を考える上で必要となる基本的な特性、発想/設計方法を理解し、新しい成形・加工方法を構築することを目的として、溶解・鋳造・塑性加工プロセスの最適化に関する考察、議論、検討を行った。溶解・鋳造プロセスの最適化では、溶融金属の流動、凝固現象を取り扱うための計算モデルに関して議論を行い、CADにおける幾何モデルとその演算と同様な機能を有する4分木ー修正4分木モデルとその集合演算を可能なシステムを試作し、直接差分法にベ-スをおいた解析と結合し、その有用性を示した。本システムは来年度以降新しい共同研究としてスタ-トする予定である。塑性加工の最適化においては、圧延プロセスを対像として、今後きわめて重要な問題となる被加工材料の3次元変形現象を圧延変形特性を考慮して解析する変形モ-ド法を提案し、平圧延における幅広がり、型圧延における形状変化を例にとり、その有用性を示した。さらに、本手法は熱伝導解析と結合して、実用圧延システムで問題となる圧延変形とロ-ルを含む系の伝熱現象との連成問題を十分な精度で扱えることも明らかにした。一方、鋼、Niをモデル材料として用い、その高温延性を実験的に調査することにより、中間温度脆性領域を含む温度域での金属材料の力学特性・応答特性を明らかにし、圧延メタラジ-の基礎となる種々のメカニズムを同呈することができた。以上、本研究を通じて、金属材料の新しい融合・統合プロセスを構築する基礎が与えられたと考えられる。