著者
中島 敬行 鄭 台洙 飯田 孝夫 下 道国
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

本研究を通して次の事実が明らかとなった。(1)3″φNaI検出器の宇宙線線束密度を決めるには、地球起源の放射性核種からの光子に重なる3MeV以下の分布の形を決めることが重要であること。本研究では長岡らの実験的方法を採用した。その結果3MeV以上の計数を4.35倍すれば宇宙線線束密度が得られることがわかった。(2)宇宙線成分の線束密度を秋,冬で決定した(1992年10月;φμ=1.136,φe=0.450,φx=6.29,'93年2月φμ=1.157,φe=0.385,φx=6.24G/cm^2・min)。φμ,φxには大きな変化は認められないがφeが大きく変化することがわかった。しかし宇宙線線量には殆んど影響しないことがわかった。(3)φμ/φeの比は秋期に2.52,冬期に3.00と16%変化したが、この比の変化が宇宙線線量へは0.14%しか影響しなかった。(4)宇宙線線束の季節変動、特にφxの変動モデル、および低気圧通過時にφxが増加する現象の説明モデルを作成し、いずれもμ^±粒子の崩壊または、ノツクオンによって発生する電子の制動放射線によることがわかった。(5)光子による波高分布は、3″φNaI検出器によりほづ17MeV以下に分布することがわかった。(3″φNaI検出器の光子に対する応答行列を作成し、入射光子スペクトルを求めれば、光子スペクトルより宇宙線光子による被曝線量が求められることがわかった。これは将来の問題として残された。)簡単な試算によりφx=6G/cm^2・minの光子による線量は0.017μR/hr(旧単位)程度で宇宙線による被曝線量の0.5%程度にしかならないことがわかった。このことより宇宙線による被曝線量をモニタリングするには光子に対して感度の低い3″φプラスチックシンチレーションカウンターでほぼ3MeV以上のμmとφeによる線束密度を測定すればよいことがわかった。逆にNaI検出器は光子に対して感度が高いので不適である。長期にわたるモニタリングを行なうには弁別レベルの安定性が重要である。(6)光子成分の変動は気象要因と関係していることがわかった。
著者
岡田 莊司 並木 和子 小松 馨 佐藤 眞人
出版者
国学院大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

摂関・院政期の公的祭祀の性格・構造・社会的意義を明らかにし、この時期の国家体制の特質を解明することを目的に、朝延の祭祀、貴族社会の氏神祭祀について、それぞれの成立、相互関係、奉斎の主体、およびその主体と国家中枢との関係、諸祭祀への朝延の関与の実態までを解明して、総合的視野に立った平安時代祭祀制度と信仰形態について構築することを目指した。1、摂関・院政期の主要古記録(日記)に記載されている神祇祭祀関係記事の検討では、十世紀に展開する祭祀儀礼の記事を全てカード化することを完了させコンピュータに収録して検索が可能になった。史料の翻刻については、神祇官関係記録として重要な『顕広王記』の日記の翻刻作業を進めた。日記に記載されている人名の特定に困難を極めているが、今後も完成に向けて継続してゆく予定。2、寺社文書の検討については、上記1の古記録を中心にすることで、時間的余裕がなかったことから大系的な検討・研究には至らなかった.3、写本の撮影収集は、『西宮記』などの儀式書、『顕広王記』の原本・写本・神宮祭主藤波家関係文書の収集を行った。4、祭礼調査は、祭祀の本義を理解する上で貴重な経験であり、各自の研究に反映している。以上の基礎調査については、ほぼ所期の目的を達成することができた。この転換期は天皇個人の意志にかかわる性格を有して始まるが、院政期の国家と祭祀の関係は、さらに多様性をもつようになってゆく。これは国制機能そのものの変化と院個人の祭りに対する意志が明確に表され、後白河院と祭祀の関わりに濃く反映されてくる。上の基礎的作業を進める中で、国家祭祀・神祇祭祀の性格(公祭の概念)・貴族社会の神祇祭祀と信仰への関与の在り方・神仏関係などの方面に、摂関期と院政期の間に大きな意識的変革のあることが明確になり、相互の研究から確認しあうことができ、個々の研究成果に盛り込むことが可能となった。
著者
笹月 健彦 松下 祥 菊池 郁夫 木村 彰方 榊 佳之
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1985

HLAと連鎖した免疫抑制遺伝子(Is遺伝子)の発現とその医学生物学的意義を明らかにするために、Is遺伝子により支配される免疫低応答性の細胞レベル,分子レベル,および遺伝子レベルでの解析を進め、以下のような成果をおさめた。まず溶連菌細胞壁抗原(SCW),あるいは日本住血吸虫抗原(Sj)に対する免疫応答機構の細胞レベルでの解析を行なった。T4ヘルパーT細胞と抗原提示細胞の間の相互作用はHLA-DRにより遺伝的に拘束されているのに対し、T8サプレッサーT細胞による免疫抑制現象は、抗DQ単クローン抗体により阻止された。これにより、HLA-DR分子が免疫応答遺伝子の遺伝子産物として機能しているのに対し、HLA-DQ分子は免疫抑制に重要な分子であり、Is遺伝子の直接の遺伝子産物であることが示唆された。さらにSCWに対する低応答ハプロタイプであるDw2と,Sjに対する低応答ハプロタイプであるDw12のDQw1β鎖のアミノ酸配列の異同を検討し、【β_1】ドメインの高司変領域の違いにより、免疫抑制遺伝子の機能的相違がもたらされていることを示した。また、HLAと連鎖したスギ花粉抗原特異的Is遺伝子が抗原特異的サプレッサーT細胞を介して、IgE免疫低応答性を支配し、スギ花粉症に対する低抗性をもたらしていることを明らかにした。また、らい腫型らしい(LL)の感受性を支配する遺伝子がHLAと連鎖していることを示し、さらに、LL型らい患者より、らい菌抗原特異的サプレッサーT細胞の存在を証明した。LL型らい患者のらい菌抗原に対する非応答性がサプレッサーT細胞によりもたらされていることが示唆された。このように、ヒトにおける外来抗原に対する免疫応答の遺伝子支配が詳細に解明され、抗原特異的免疫調節機構におけるHLA-クラス【II】分子の役割りが明らかにされた。これらの研究成果は原因不明の難治性疾患の病因解明に資するものであり、さらに疾患の予防および治療への道を拓くものと期待される。
著者
青野 敏博 東 敬次郎 苛原 稔 池上 博雅 廣田 憲二 三宅 侃 田坂 慶一 堤 博久 寺川 直樹
出版者
徳島大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1985

TRHやLH-RHは下垂体前葉からプロラクチン(PRL)やLHの分泌を促進する. 一方PRL産生下垂体腫瘍の治療にはドーパミン(DA)の作動薬であるブロモクリプチンが繁用されており, PRL分泌を抑制するほか, 腫瘍を縮少させる効果のあることが知られている. 本研究の目的はPRL, LH分泌時における下垂体細胞内情報伝達機構について明らかにし, DAのPRL分泌抑制作用を検討する実験系としてラット下垂体前葉細胞またはPRL産生下垂体腫瘍であるGH3細胞を用いた. 実験結果をまとめると, (1)マイトトキシンは下垂体細胞内へCa^<2+>の流入を起こし, PRL分泌を促進した. (2)^<32>Pのホスファチジールイノシトール(PI)への取り込みを検討した結果, TRHはPIの代謝回転を促進した. (3)Ca^<2+>によって活性化され, PIを分解するphosphol:pase Cの作用によってジアシルグリセロール(DG), IP3から産生されPRL分泌を促進した. (4)下垂体前葉にはCキナーゼが存在し, PMAによって活性化された. PMAを細胞に添加するとLH, PRLの分泌が促進された. またTRHを作用させると細胞内のCキナーゼは細胞質から膜分画へ移行した. (5)細胞内に取り込まれた標識アラキドン酸はTRHによって放出された. (6)添加されたアラキドン酸はPRL, LHを放出した. (7)アラキドン酸の代謝産物のうちPGは影響を及ぼさなかったが, lypoxygenaseの代謝産物である5-HETEとLeukotrienB4がPRL, LHの分泌を促進した. (8)下垂体前葉細胞における上記の情報伝達系の各ステップはDAによって抑制されたことからDAは全てセカンドメッセンジャーを抑制していることが考えられた. DAの受容体を持たないGH3細胞ではDAによるPRL分泌抑制作用は認められなかった. 以上の結果より, TRH, LH-RHはDG-Cキナーゼ系, Ca^<2+>-アラキドン酸系を細胞内情報伝達系としていることを明らかにし, DAは受容体に結合後, これらの全てのセカンドメッセンジャーを抑制していると考えられる.
著者
倉田 毅 高阪 精夫 小島 朝人 佐多 徹太郎 山西 弘一 岩崎 琢也
出版者
国立予防衛生研究所
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

1989年にフィリピンから米国へ輸入された非人類霊長類(NHP-Non Human Primates)(カニクイザル)が、検疫中に大量に死亡した。解剖材料よりエボラウイルスに電顕上形態的に酷似し、抗原性が高度に交差するフィロウイルスが分離された。このウイルスは、ヒトに感染性はあるが、現在まで、ヒトに疾患を起こしてはいない。またNHPに全く触れたことのないヒトでも、約2.4%に交差反応があることがわかっている。次の結果を得た。【.encircled1.】1992年9月ザイールにゴリラ見物に出掛け、サル(種不明)と接触し、帰国した45歳の男性が高熱を発し、頭痛、下痢、脱水症状で死亡した。血清抗体検査でエボラウイルス(ザイール株)抗原に対し、IFで1:10の弱い価がみられた。因みに同行者、他の正常人3名では全く上昇はなかった。エボラウイルス感染の疑で、米国防疫センターへ血清等を送付したが、最終的にエボラウイルス感染性と結論された。この例は明らかに交差反応によるものと考えられた。解剖材料からウイルス抗原、ウイルス粒子は検出されなかった。【.encircled2.】インドネシア産の抗体強陽性で長年経過したカニクイザルの各種臓器で、エボラウイルス関連抗原の検出を試み、潜伏持続感染の可能性を検討中である。【.encircled3.】輸入カニクイザルを取扱っているヒトの11名中に1名、抗体陽性がみられてはいるが、病気は起こしてはいない。
著者
矢崎 義雄 山崎 力 小室 一成 永井 良三 方 榮哲 世古 義規 栗原 裕基
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

循環器系において、血行動態という負荷による心・血管系の変化を、器官のレベルばかりでなく、細胞・分子レベルでとらえることは、心肥大、心不全および血管攣縮、動脈硬化症などの循環器疾患の発症機構を解明する上できわめて重要な課題である。特に物理的な刺激が細胞内の応答機構に生化学的なシグナルとなって伝達され、代謝を調節する機序は、生体が外界からの刺激を受けて反応する現象を生化学的に解明するモデルになるものとして、医学ばかりでなく生物学の広い領域から注目されている。われわれは細胞に物理的な負荷を加える装置を独自に開発するとともに、分子生物学の最先端技術を導入することにより、従来では、生化学的なアプローチが因難であった、物理的な負荷に対する心筋および血管内皮と平滑筋細胞における応答機構の解析を行った。その結果、本研究は循環器疾患の基礎的な病態である心肥大や心不全、あるいは血管攣縮や動脈硬化病変の形成などの病因を遺伝子や分子レベルで捉える研究の発端となって、この分野での知見の著しい進展をもたらすところとなった。具体的には1)心筋の負荷に対する応答機構の解明として、独自に開発したシリコンディシュを用いて心筋細胞に直接機械的なストレスを与え、胎児性蛋白と核内癌遺伝子の発現機序をフォスファチジルイノシトール代謝を中心に解析し、肥大を形成する心筋細胞内応答機構のしくみを明らかにした。さらに形質変化をきたす心筋蛋白のアイソフォーム変換機序をgelshift法などを用いて検討し、心筋の負荷に対する適応現象を遺伝子レベルから究明した。2)血管内皮および平滑筋細胞における血流ストレスに対する応答機構を、固有に存在する遺伝子の発現調節機序を解明することによって、血流に対応した臓器循環が調節されるメカニズムを明らかにした。
著者
加藤 仁美
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

これまでの研究成果は次のように要約される。(1)散居集落成立の自然的、歴史的背景:壱岐島は玄武岩台地からなる丘陵性の島であり、湧水や溜池など水源の確保、防風のための背戸山の必要など地形・地質・気象等の自然的条件と、潘政期に実施された地割制度や触と浦の二元構成にみられる歴史的要因とが相俟うて、散居集落の形成が全島規模で展開し、今日まで維持されている。(2)土地利用パタ-ン:南斜面を選んで、背戸山ー宅地ー前畑ー田畑というワンセットの土地利用の定型が認められ、これを“壱岐型土地利用パタ-ン"と名付けた。散居のユニットを構成しているのはこの内背戸山ー宅地ー前畑からなる屋敷廻りの私有地であり、面積は約50a、大旨隣家と接しており、宅地間距離は約70mで、クラスタ構造の結合の仕方とみなせる。田畑は地割制度の影響で分散所有されており、農作業の利便性には集約化の課題が残っている。(3)空間構成:触は里道で境界づけられているが、中心性は希薄であり、集村のような空間のヒエラルキ-は無い。共同空間としては井、辻、家畜の埋葬地など壱岐独特のものがある。屋敷迴りの土地利用は自給的、生態系維持のユニットを構成している。宅地内は母屋・隠居、釜屋、納屋、牛舎等からなる多棟構成であり、構築的な景観をなしている。(4)触と構中の社会構成:散居疎住をソフトな面で支えている触と講中という緊密な社会構成が存在し、今日も機能している。(5)壱岐島の散居集落の特徴と課題:壱岐の特徴は、屋敷が丘陵に立地し、周辺に田畑を集約的に所有していない。その為に散居の規模は比敷的小さいが、散居のユニットを構成している背戸山ー宅地ー前畑からなる屋敷廻りの土地利用は今後も継承すべき豊かな空間である。田畑の集約化、社会空間の変容に対する秩序の形成等が今日的課題としてある。
著者
本間 禎一 藤田 大介
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1986

1.アルミニウムの表層構造--放射光による圧力上昇が見出された加速器真空系の主要構造材料であるアルミニウム合金について表層構造の調査を行い以下の結果を得た. (1)電解研摩を施したアルミニウム合金(含マグネシウム合金)の表面に形成する初期酸化層は非晶質の水和酸化物であり, 真空中加熱で脱水して欠陥を含む非晶質構造となる. その構造はγ-AL_2O_3またはそれにほぼ相当するものでることが電子線回折による既約動径分布関数解析から推定された. (2)加熱に伴い, Mgはこの非晶質酸化層中の不整合領域を介して短回路拡散機構などにより輸送され, MgO外層の形成をもたらす. (3)MgOの外層形成はベーキング温度相当の150°Cにおいても進行する.2.ガス放出における表層構造の影響--表面からの気体放出特性およびベーク・アウト効果に及ぼす表層構造の影響を明らかにする目的で昇温脱離実験を行い以下の結果を得た. (1)電解研摩を施した表面は, 加熱に伴って, 100°Cを超えると表層の熱分解によると思われる急激なガス放出現象がすべての気体種(H_2O, H_2, CO, CO_2)で見られる. (2)AL-2.3%Mg合金の酸化表面は, 大気露出に際してCOガスを除く他の気体種(H_2O, H_2, CO_2の化学吸着が見られる. (3)ガス放出特性と表層構造との間に相関が見られた. 3.光照射に伴うガス放出と表層構造の役割--光照射に伴うガス放出の機構と表層構造の影響を明らかにする目的で, 表層構造の異なるアルミニウム材料について光照射実験を行い以下の結果を得た. (1)陽極酸化, 電解研摩, 高温酸化(500°C, 10Torr, 純酸素中1h)をそれぞれ施した表面に, 高エネルギ物理学研究所の放射光を照射して放出ガス量を測定した. 光子数で規格化した脱離係数値は, 陽極酸化>電解研摩>高温酸化であった. (2)光照射に伴うガス放出が表層の構造と化学的性質(水和度)の影響を受けることを実験的に見出した.
著者
岸 章治 横塚 健一
出版者
群馬大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1994

硝子体の形態の維持における網膜の役割を解明するため、有色家兎の網膜を光凝固で破壊し、それに続発する硝子体の変化を観察した。1)幼若な家兎に光凝固で網膜萎縮巣を作成すると、3か月以降に萎縮巣の前方に硝子体の液化が生じた。14か月経過すると、硝子体液化腔はさらに明瞭となり、その輪郭は網膜の萎縮巣に一致していた。このことから眼球が成長過程にある眼では、網膜が破壊されると、それに面した硝子体に続発性の液化、もしくは硝子体の無形成がおこることが示唆された。2)光凝固をび慢性におくと、幼若家兎ではび慢性の硝子体液化が網膜前方に続発した。3)成熟家兎で、同様の実験をおこなうと、やはり同様の硝子体液化が網膜前方に続発した。したがって眼球の成長が完了した成熟家兎眼でも、硝子体の形態の維持のためには、正常な網膜が必要であることが示唆された。硝子体は再生しうるか否かを知るため、家兎眼の硝子体を切除し、12か月飼育した後に眼球を摘出した。家兎では硝子体と水晶体の癒着が強いため、冷凍プローブで水晶体嚢内全摘をすると硝子体を一塊として除去できた。しかしこの群では、網膜の全剥離が続発し、眼球癆となった。組織学的には残存硝子体の器質化と色素上皮細胞の増殖による前部増殖性硝子体網膜症(PVR)であった。硝子体の再生は起こらなかった。経毛様体硝子体切除をおこなった家兎は眼球の大きさは保存された。ゲルの切除部位は空洞化したままで、硝子体の再生は起こらなかった。家兎では人工的な後部硝子体剥離の作成が困難であった。部分硝子体剥離を生じた部分では、内境界膜は硝子体と一体化して網膜から分離していた。
著者
清水 正嗣 松島 りん太郎 水城 春美 柳澤 繁孝
出版者
大分医科大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

臨床的には日常の診療において口腔前癌病変ならびに扁平上皮癌を有する患者の記録を行い,症例を重ねてきた.白板症における臨床所見と組織像との比較についてはdysplasiaの有無と発症部位との関連を調査したが,口腔に主として白板症の認められる頬粘膜,歯肉,舌の内では,舌が最もdysplasiaの発現し易い部位であることが本研究によって解明された.組織学的異型度と臨床視診型との関連については紅白斑型に異型を示す症例が目立って観察され,また,異型を示す症例ならびに多発性である症例に再発例が多い事が判明した。白板症が単発性であるか多発性であるかについては,その発症機序についても検索する必要があり,今後の課題の一つである。電気泳動法による分析に関しては等電点電気泳動法(IEF)とSDSポリアクリルアミド電気泳動法を用いてケラチンサブユニットの分析を行ってきたが,これらの分析では,泳動後のゲルを銀染色することにより感度の高い検出が行い得られ,小さな口腔内生検材料においても蛋白の検出が可能となった。しかしながら,口腔白板症ならびに扁平上皮癌組織よりClausenの方法他によって抽出したケラチン分画の分析ではケラチン以外にも数多くの蛋白が検出され,従来行われている二次元電気泳動のみによるケラチンサブユニットの検索法では正確なケラチンの同定が不可能と考えられ,ウエスタンブロッティングによるケラチンの同定が必要となった。現在,ケラチンに対するポリクロ-ナル抗体を用いてケラチンの同定が可能であるが,今後はモノクロ-ナル抗体による同定を行い,正確なサブユニットの構成を明らかにしたい。また,臨床的な予後に差異を生じさせる原因の解明についても,白板症ならびに扁平上皮癌は多様な形態,性質を有する事より,なお多くの生検材料の検索が必要であり,今後も継続していく方針である。
著者
今村 詮 藪下 聡 大作 勝 斉藤 昊 諌田 克哉
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1986

本研究は、昭和61年度、62年度、63年度の3段階に分けて進められた。以下に各年度毎の進展状況を示す。1.昭和61年度.この年度は、まず、繰り込み摂動法を拡張ヒュッケル法のレベルで定式化し、それに対応するプログラムを作成した。そして、ポリアセチレンの炭素の一個がチッ素原子におきかわった系(いわばソリトンの系)、ポリアセチレン系ードーパント系、ポリアセチレン鎖間相互作用系に適用した。そしてこの各々の系に対する信頼性を、通常の拡張ヒュッケル法による強い結合の近似での計算との比較によって調べ、充分に高いことをたしかめた。2.昭和62年度.前年度の満足すべき結果を基礎にして、この繰り込み攝動法を、電子間反発積分をあられに含めたAb Initio SCF法の摂動理論へ拡張し、定式化した。また、この定式化にもとづいて、高分子の摂動項をくりかえし解くAb Initio法のプログラムを作成した。このような系に対する定式化およびプログラム作成は、世界で初めてなされたことを強調したい。そして、水素分子が一次元的に配列している仮想的な高分子系に適用し、十分信頼性の高い結果を得たが、系によっては収束に問題のある場合があることがわかった。3.昭和63年度.前年度の研究の結果、収束に問題があることがわかったので、これを摂動項を部分的に変分的に取り扱う方法、および大行列式を小行列式に分割してよい零次の項を求める方法によって、うまく対応できることを示した。以上、3年間にわたって繰り込み摂動論を発展させ、体系化に成功し、信頼性が充分に高い結果を与えることがわかった。今後、これを具体的に高分子設計に用いていく予定である。
著者
原納 淑郎 大嶋 寛
出版者
大阪市立大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1985

本研究は, 燃料用エタノール生産の省力化を図るべく, エタノールならびにグルコース耐性に優れた固定化酵母を調整するとともに, それを用いたエタノール発酵と, 蒸留法よりも省力化できると見積られている浸透気化法によるエタノールの濃縮とを同時に行なう分離型バイオリアクターの開発を試みたものであり, 主として次の結果が得られた.1.高濃度エタノール生産用固定化酵母の調整1)アルギン酸カルシウムゲル包括固定化酵母に, ポリ塩化ビニル, ポリビニルピロリドン, ポリスチレン等の疎水性ポリマー粉末を20〜30%同時に包括することによって, 固定化酵母のエタノール耐性ならびにグルコース耐性が増大し, それにともなって回分法で達成されるエタノール濃度は1.5倍(15wt%)に増大した.2)エタノールならびにグルコース耐性が増大する原因(機構)について検討した結果, 疎水性ポリマー表面への吸着とポリマ表面近傍および液本体間のグルコースならびにエタノールの分配とが重要な因子であることが推察された.2.分離型バイオリアクターによる高濃度エタノールの連続生産1)ポリ塩化ビニルを同時に包括した固定化酵母による発酵とシリコンゴムチューブを用いる浸透気化を複合した流通式リアクターを用いることにより, 通常の発酵で得られるエタノール濃度の5〜7倍の270〜350g/Lの高濃度エタノールを連続的に生産できた. 酵母活性の半減期は2.5ケ月であった.2)本バイオリアクターは, 完全混合槽型リアクターとして取り扱えることがわかり, エタノールによる非拮抗阻害を考慮した本プロセスの動力学的把握を試みた結果, 実験データを充分に整理できるとともに, 種々の反応操作のシュミレーションが可能となった.
著者
竹本 泰一郎 千住 秀明 和泉 喬 門司 和彦 太田 保之 中根 允文
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1994

火山噴火災害の健康影響を把握し,継続的な健康管理にサーベイランスシステムを構築することを目的とした。長崎県雲仙普賢岳噴火の被災地である島原市と深江町で継続的に現地調査を行い、下記所見を得た。1)被災地の小中学生では噴火後「外で遊ぶことが減った」「テレビをみる・ゲームをする」など屋内の生活行動が増え、「夜中に起きる」「寝る時間が遅くなった」「朝起きるのがつらい」といった生活時間の変化も高頻度であった。「風邪を引きやすい」「咳・痰が出やすい」「喉が痛い」といった火山噴出物に由来する自覚症状も高頻度であった。また、これらの生活行動の変化・自覚症状が学校や家庭の避難で増強されていたことも特徴的であった。2)地域住民についてのアンケート調査では「眼の症状」が最も高頻度で、次いで「咳・痰の症状」であった。これらの有訴率は壮年期の女性、被害が大きい地区、避難住民で高かった。噴火活動の鎮静化とともに皮膚粘膜の刺激症状が低下したが、「咳・痰」「喘息」「呼吸困難」など呼吸器に関する症状は遷延化する傾向が認められた。3)スパイログラムによる呼吸機能検査では県内の非被災地に比べ閉塞性障害の頻度が高かった。4)避難住民に関する全般的健康調査(GHQ)では、壮年期の男女にストレスが強いこと、精神的健康度に頻回の避難、通院、自営業従事などが関わっていることが示唆された。以上の結果は、火山噴火の健康影響が火山噴出物による直接影響とともに避難・移住による生活環境や生業活動の変化をも包含していることを物語っている。
著者
池田 光男 石田 泰一郎
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

本研究は、人間の視覚情報処理の観点から防災標識を検討し、より防災力の高い視覚情報を探索するものである。研究は色の効果に着目した一連の実験と、実際の標識の探索特性を調べた実験により構成される。1.色情報の効果:標識が人の注意を引くための重要な要因は色である。そこでまず、注意を引く色を、被験者の注視点の移動を指標として調べた。これより、マンセル色票8Rのような赤系の色は視点が向きやすく注意を引くが、8BGなどの青系はあまり注意を引かないという結果を得た。次に、視野周辺で標識を捉えることが、標識検出の第一歩であることを考え、視野周辺部での色の目立ちを測定した。その結果、明所視では、視野周辺部においても、相対的には赤系の色が目立つなど、視野中心部での目立ちの結果と同じ傾向となった。さらに、標識を光源色として見えるようにすれば、周囲の物体色と区別できる。そこで、物体表面をどのくらいの輝度、あるいは照度にすれば、それが光源色として見え始めるかを、様々な条件で調べた。その結果、高彩度・高明度の色は、光源色になりやすいことが明らかになった。2.実際の非常口標識の探索:地下街や駅構内を取り上げ、そこでの標識探索の難易さを調べた。被験者には、それらの場所を撮影したスライドを見せ、「非常口」標識の検出時間、そのときの眼球運動を測定した。その結果、周囲に類似物がない状況では、標識を瞬時に発見できるが、視覚的なノイズが多い状況では、標識の検出が極めて困難になることが示された。標識の探索には、周囲の視環境が重要な要因であるといえる。本研究により、防災標識が注意を引くための色彩条件、標識が瞬時に検出されるための視環境条件などについて、有用な基礎データが得られた。また、色の見えのモードの観点から目立ちを検討するという、新しい考え方を提供できたものと思う。
著者
楢崎 正也 山中 俊夫 大野 治代 佐藤 隆二
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1986

気密な市街地住宅において, もっとも汚染発生の著しい調理の際に, 室空気環境を良好に維持し, しかも熱負荷が過大にならない合理的な換気方式の確立を目的に研究を進めた. 本研究は三部から成っている.1.種々の調理条件時に発生する熱・水蒸気・汚染ガス・臭気の発生状況を調べた.まず, コンロ上方の熱気流と汚染ガスの拡散性状を詳細に検討し, 高性能な排気フードの開発に有益な資料を提供した.また, 調理時に生成するような汚染物質, とくにNO_Xと調理臭の発生量を定量化し, 室空気質評価に必要な資料を提供した.2.気密な住宅では台所の局所排気だけでなく, 局所給気の必要性を提言し, 給・排気方式を採用した住宅の換気調査を行い, 給気口の換気効果を実証した.また, 住宅においては自然換気とくに風力換気の依存度が高いため, 外部風と換気量の関係を調べ, 換気量推定のための風データーのサンプリング法を提言した.3.Tracer-Gas法による換気量推定法を種々考察した. ここでは, 空間の相互換気を考慮した二室換気を算定する手法を提案している.以上, 各検討事項は今後に多くの問題点を残しているが, ある程度の成果は達成できたと考えている. 今後はこの研究成果をもとに, さらに研究を進展させ, 所期の目標に近づくことを念願する次第である.
著者
森 敏 藤原 徹
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1994

酵母の細胞膜に存在する3価鉄還元酵素の核遺伝子FRE1を含むplasmid(pC6L)ら制限酵素でORFにあたる配列を切り出し,2種類のT-DNAのコンストラクト,PYH6(pBI121由来)とPYH7(pUCΩE12GUS由来)に組み込み,タバコ(Nicotiana tabacum L.var SR1)に感染させた.カナマイシン耐性カルスを選抜し,植物体を再生させT2植物種子を採取し,カナマイシン耐性の7個体を得た.FRE1に特異的なプライマーでPCRを行ない,根からのRNAに対してノーザンハイブリダイゼーションを行なうと,0.9kbの転写物が確認された.この転写物は予想されるmRNAの長さよりも短かかったが,一応実験を続行した.これらの遺伝子導入植物の根の細胞膜が導入遺伝子の恒常的な発現によって,鉄が十分にある条件下でも3価鉄還元酵素活性を有しているかどうかを,根圏近傍のBPDS-Fe^<2+>の発色法を用いて検定した.ざんねんながら,発色は有意ではなかった.そこで鉄欠乏条件下での本酵素活性の持続性を水耕法によって検定したところ,2株が鉄欠乏耐性を示した.一方,本実験では,完全長のmRNAが得られていない.その原因を追究したところ,酵母ではポリAシグナルとは読まれない配列が,タバコでは読まれているために転写が途中で終了していることが判明した.現在,FRE1中のこの様な可能性のある5カ所のコドン領域をサイトスペシフィックミュータジュネシスにより改変した遺伝子を作成して,遺伝導入タバコを作成している.
著者
吉田 章
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1986

昭和61年度の調査では, 自然教室推進事業を中心とした各地での野外教育活動の実態について, 各教育委員会を対象とした質問紙による調査を行ない, その結果, 期間・指導者・内容・費用を初めとした多くの問題点が明らかとなった.本年度においては, これらの野外教育活動が実際に展開されている場として, 全国の少年自然の家および青年の家を対象とした野外教育活動の実態についての調査を質問紙によって行うと共に, それらの中でも代表的な施設数ヶ所において実踏調査を実施し, 実際にどのような活動が展開されているのかについて観察調査を行った. また, 社会教育事業として先鞭的な影響を与えている「無人島生活体験キャンプ」(10泊11日間)に研究調査のために同行し, 現在多くの組織で問題となっている期間・指導者・内容そして成果についての観点から調査を行った.それらの調査の結果, 施設を対象とした調査においては, 利用形態として3泊4日の日程で, 野外観察・登山・オリエンテーリング・飯盒炊飯・キャンプファイアーのプログラムを行うといったパターンに典型化することができ, また問題点としては, 利用団体におけるねらいや目的意識,またそれらに伴なう活動内容といった点における主体性に欠けていることが明らかとなった.一方, 無人島生活体験キャンプにおける調査では, 10泊11日間という期間が子供達の生活適応および活動を通しての成果といった観点から有意に効果的な働らきをもたらしていることを明らかにすることができた.今日まで野外教育は, 総合的な教育活動として全ての人格形成に資するものとしてとらえられてきたが, 今後は野外教育活動の普及に伴ない, ねらいを絞る必要性を明らかにできた.
著者
高橋 政代 吉村 長久 高梨 泰至 栗山 晶治 喜多 美穂里 谷原 秀信 小椋 祐一郎 岩城 正佳
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

網膜色素上皮細胞は神経網膜と脈絡膜の間に存在する単層上皮細胞であるが、増殖性硝子体網膜症の発生時に網膜色素上皮細胞の異常な増殖が見られることが知られている。網膜色素上皮細胞に見られるこれらの異常は様々な原因によって惹起されるものであるが、血液眼柵の破綻によって各種の細胞増殖因子が眼内に放出されることも一因として考えられる。そこで以下の4点に関し研究を行った。1)培養網膜色素上皮細胞が産生する細胞増殖因子及びその受容体についてスクリーニングを行うこと。これについては予定していたスクリーニングを終了し、TGF-β、PDGF及びその受容体、aFGF・bFGF及びその受容体、IL-1及びその受容体、TNF-α、IGFなどについてその発現を調べ、学会および雑誌にて発表を行った。2)遺伝子導入が網膜色素上皮細胞にも応用できるかどうかの検討を行うとともに必要があれば遺伝子導入法の基礎的な検討をする。-これに関しては一時的な発現を得ることには成功したが、継続的な遺伝子発現を初代培養の網膜色素上皮細胞を用いて行うことは困難であった。現在各種の細胞株を用いて検討中である。3)細胞増殖因子受容体遺伝子の発現量を変化させて、培養網膜色素上皮細胞の機能がどの様に変化するかについての基礎的な検討を行う。-これについては2)の結果を待って行う予定であるため検討中である。4)網膜色素上皮細胞に特異的な細胞増殖因子受容体の有無についての予備的実験を行う。-網膜色素上皮細胞に特異的に発現する線維芽細胞増殖因子受容体遺伝子を見つけるため共通配列をプラズマ-としたポリメラーゼチェーン反応を行った。これによりいくつかのクローンを獲得したが、その塩基配列並びに機能については現在検討中である。