著者
大竹 登志子 菊池 和則 前川 佳史 石井 腎二 菊池 和則 前川 佳史 石井 賢二
出版者
(財)東京都老人総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

高齢者の排尿障害に対して,現状では泌尿器科あるいは婦人科外来で対応しているが,まだ十分とはいえない.そこで当事者本人がアクセス可能な「さわやか(排尿)相談室」を導入し,その効果をみた.成果として,1)排尿状態の現状と本人の理解度と日常生活実態が分かりやくし,高齢者が記入しやすい冊子「さわやか日誌(排尿日誌)」と「高齢者排尿問題解決問診表(老研・大竹版)」を作成した.2)個別の面談ケアにより,高齢者の排尿問題解決に面談ケア方法という手法が開発され,このシステムを東京都老人医療センターに導入した.
著者
石川 重遠 後藤 吉郎 山本 政幸
出版者
筑波技術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、未だ明らかでない和文ゴシック体成立とその書体が欧文書体とつながりが有るかを考察することである。研究の成果:1)和文ゴシック体成立に関して、最初の和文ゴシック活字書体は、明治19 年(1886)6月1日の官報の外報の小見出しに使われたことが分かった。その官報において、日本の記事と外国の報道を区別する目的があり、和文ゴシック体は、外報の小見出しのためにデザインされた。2)アメリカでの調査により、イギリスで創出されたサンセリフ活字書体は、アメリカでゴシックと命名されたことが分かった。それは、ボストンの活字鋳造所の1832年の活字見本帳に見られる。3)このような活字書体は、アメリカから日本に輸入され、明治9 年(1876)の東京築地活版製造所の活字見本帳に載った。以後、日本語ではこの欧文活字書体をゴシックと呼んだ。4)和文ゴシック体成立とゴシック体との関連性として、当時の外国の官報や新聞で使われた見出しゴシックは、和文ゴシックを生む発想の起源と見なされる。
著者
増川 純一
出版者
成城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

株式市場、外国為替市場など、投機的性格を持つ資産市場において大規模な価格変動が起きるメカニズムを、群れ行動という視点から解明することを目的とした研究を行った。群れ行動は、異なる銘柄間の価格変動の相関や価格の連続的な上昇や下落などに反映されるものと考えた。ロンドン証券取引所や東証のティック・データを用いた分析を行ったところ、価格が大きく変動するとき、銘柄間の価格変動の相関が高まり市場全体に強調的な動きが見られること、同時に価格の連続的な上昇や下落がおきやすくなること、二つの傾向を表す指標間には正の相関があることなどがわかった。
著者
細川 周平
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究はペリーの来訪から終戦までの日本の音楽文化の近代化を大衆音楽を中心に捉えた。近代化には合理的な音構造、楽譜の支配、公共的な音楽教育、公開演奏会、自律美学、ナショナリズムという側面があり、徐々に日本の基底音楽文化を変えていった。外圧として始まったが、日本人はしだいに内面化した。本論はこれまで政治経済の分野で語られてきた近代化を感情、感覚を通して追求し、軍楽隊に始まり、軍歌・軍国歌謡に終わる一世紀の音楽史を新しい方向から描いた。時代区分としては、幕末から日露戦争までの時期、そこから震災までの時期、震災から帝都復興までの時期、十五年戦争期という区分を提唱した。従来の芸術音楽の進歩(西洋化)を前提とした議論に対して、同時代の他の文化的な布置を考慮した。また大衆音楽については、世相史、ジャンルごとの歴史がほとんどだったが、本研究は歌詞だけでなく、言説、ジェンダー、セクシュアリティ、テクノロジー、ジャーナリズム、イデオロギーなどにも深く立ち入った。歌と器楽の関係にも留意し、マンドリン、ヴァイオリン、ハーモニカ、アコーディオンなどの大衆楽器が、国産化ともに、普及したことを示した。声がマイクロフォンによって、どのような影響を受けたのかについて、男性歌手と女性歌手の違いを考慮して分析した。ジャズが、モダンのメタファーとして広まり、特殊な意味作用を持っていた実例を体系づけた。タンゴ、ルンバ、ブルースのようなダンスはジャズ文化にとって決定的に重要で、新しい身体性とスペクタクルが密接に結びついていることを証明した。プロパガンダが、新聞社や翼賛会などの公的機関によって募集され制作されたものと、レコード会社が企画した叙情的なものにわけられること、兵隊ぶしと総称される替え歌が数多く流通し、厭戦気分の秘密のはけ口になっていたことについて考察した。
著者
堀井 聡江
出版者
桜美林大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

オスマン朝(1299-1922)後継アラブ諸国のうち,宗主国から事実上政治的・法的に独立し,アラブ世界の法の近代化の先駆けとなったエジプトの民法典と,逆に独立までオスマン法が適用された諸国の民法典に対するイスラーム法の影響を歴史的観点から比較した。その結果,いずれもイスラーム法の影響は希薄で,同法に由来する制度にせよ,当該法典の立法目的に応じた改変ゆえに,実質的には新たな制度といえることが明らかとなった。
著者
藤崎 春代
出版者
昭和女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

幼児の園生活理解の発達過程をとらえるために、幼稚園の3歳児クラス入園直前から卒園までの3年余りの間に、保護者を対象として8回の質問紙調査と2回の日誌調査を実施した。結果、子どもが家庭でみせる様子は、時期により異なること、個人差があることがわかった。また、保護者は子どもの様子の意味を推測してさまざまな対応をすると同時に、心配したり安心したりと感情が揺れ動いており、子どもが家庭に持ち込む園生活に保護者自身が巻き込まれていることが示唆された。
著者
辻 立世 久井 志保 岡本 陽子 石田 妙美 永石 喜代子 和田 節子
出版者
兵庫大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

養護教諭の職務は、学校教育法で「児童生徒の養護をつかさどる」と定められている。養護教諭の実態調査では、看護師免許の無い養護教諭は、救急処置に自信を持っていない事が明らかになった。養護教諭の看護能力は、学校保健(養護)のための看護技術が社会から期待されている。養護教諭の看護能力について、救急処置を中心に看護技術の項目を、養護教諭養成教育・初任の年、養護教諭の各段階における達成目標の基準を示すガイドラインを作成した。
著者
上野 眞也
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、過疎が進み、集落機能や農地・水・環境などの地域資源の維持に限界が見られ始めた農村に対する公共政策のあり方を研究テーマとして、ソーシャル・キャピタルを活かした農村政策の有用性を科学的に位置づけ、農村集落単位でソーシャル・キャピタルを測定する方法の開発、及び国や自治体の農村政策形成へ寄与するための知見を得ることを目的とした研究を行う。
著者
荒尾 孝 稲山 貴代 北畠 義典 劉 莉荊 仲里 佳美 根本 祐太 大滝 裕美
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

小学5年生を対象に身体活動の促進および正しい食事の知識とスキルの習得を目標とした教育介入を実施した。その結果、介入終了直後では介入校で遊びに対する積極的な態度や、放課後に友人と遊ぶ頻度が増加し、総エネルギー消費量では対照校に比べて介入校は有意に高い水準が維持された。食生活については、食事バランスガイドの知識が増え、望ましい食事をとることの結果期待や自己効力感が向上した。しかし、介入終了1年後では、これらの変化のうち行動に関する効果は維持されない傾向が示された。
著者
矢吹 映 大和 修 市居 修 保坂 善真 水上 圭二郎 美谷 沙和音 富永 なおみ
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

犬と猫の腎疾患の病態解析、特に、シクロオキシゲナーゼ(COX)とレニン・アンジオテンシン(RA)系の関与を解析した。その結果、腎疾患の進行には腎臓内 COXと RA 系が複雑に関与しており、その機序は犬と猫で異なることが明らかになった。また、モデルマウスを用いた解析では、COX 阻害剤であるピロキシカムには腎保護作用があり、その作用には TGF-βの発現抑制が関与することが示唆された。
著者
石原 昭彦
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

高齢期のヒトおよび実験動物(マウスおよびラット)を用いて筋萎縮および骨粗しょう症を抑制するための方法を検討した。30歳代(17名)、60歳代(15名)、70歳代(12名)、80歳代(9名)の女性を被験者として、最大努力での膝伸展筋力と踵骨の骨密度を測定した。さらに、60-80歳代の被験者には、最大努力の50%(最初の2ヵ月間)、70%(3ヵ月間の休息を挟んで次の2ヵ月間)、100%(さらに3ヵ月間の休息を挟んで次の2ヵ月間)で膝伸展筋力を発揮する運動を行った。30歳代に対して60-80歳代は、有意に低い最大努力での膝伸展筋力と骨密度を示した。さらに、60-70歳代に対して80歳代は、有意に低い最大努力での膝伸展筋力と骨密度を示した。最大努力の50%と70%の運動では、年齢に関係なく最大努力での膝伸展筋力に変化はみられなかった。一方、最大努力の100%の運動では、60歳代と70歳代において、最大努力での膝伸展筋力に有意な増大認められた。骨密度については、年齢および運動強度に関係なく変化はみられなかった。以上の結果より、60-70歳代では、強度の高い運動を継続することにより低下した筋力を改善できる可能性があること、一方、骨密度については、運動に関係なく改善がみられないことが明らかになった。高齢者でも日ごろより強度の高い運動を継続することにより比較的高い筋力を維持できることから、そのような運動プログラムを作成することが今後の課題となった。骨密度については、運動の影響を受けなかったことより、若いときから骨密度を高めておくことが重要であると考えられる。一方、実験動物を用いた研究では、運動量よりも運動強度に依存して高齢期の筋萎縮および骨粗鬆症を抑制できることが明らかになった。したがって、高齢期の骨粗鬆症および萎縮の抑制には強度の高い運動を継続することが必要であると結論された。
著者
松井 良明
出版者
奈良工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

ともに1835年に成立した動物虐待法と公道法は、イングランドにおける前近代的なスポーツに対する法的規制としての歴史的意義を有していた。両法は、アニマル・スポーツと公道でのスポーツ活動を合法的に実施するための条件として、「生活妨害」、「風紀紊乱」、「迷惑行為」に該当する要素の払拭と、「動物の福祉」、「万人の通行権」への配慮を提示し、それらの近代化を促した。両法が成立するまで、動物闘技ならびに公道でのスポーツ活動の違法性は、コモン・ロー上の「生活妨害罪」の適用を通して示されているに過ぎなかった。だがその一方で、両法は狩猟、テニス、ファイヴズ、クリケットなどを意図的に対象から除外してもいた。そのため、それらの近代化を停滞させ、前近代性を温存させる側面も有していた。続いて『チティの実用制定法集』第5版を検討した結果、19世紀の制定法に基づくスポーツ規制の広がりは以下のとおりであることが明らかとなった。「動物」、「陸軍」、「鳥」、「刑法」、「犬」、「魚」、「狩猟の獲物」、「遊戯と賭博」、「公道」、「未成年者と子供」、「酩酊アルコール飲料」、「市場と定期市」、「首都ロンドン」、「警察」、「大衆娯楽」、「公衆衛生」、「鉄道」、「歳入」、「船舶」、「日曜日」、「放浪者」19世紀イギリスにおけるスポーツの近代化に関しては、上記項目に分類された制定法諸規定を検討する必要がある。また、その際には個々の制定法の背後にある政治的意図に加え、個々の制定法が施行された後の諸判例の検討も必要となるだろう。イングランドにおけるスポーツに対する政治的な介入はその近代化を促すきっかけになると同時に、その背後にあった政治的な意図についての再考を促している。
著者
佐藤 容子
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

まず、宮崎県内でのLD児についての理解の浸透を図って、学校単位での講義や全県規模での教員対象の講義を行った。同じ教員に複数回の講義をした。また、保護者にも、地域ごとに、LDについての講話を行った。その上で、公立の大規模小学校1校と中規模小学校3校(児童数合計2,230名)に対して、PRSを用いたLD児のスクリーニングを行った。抽出された児童にWISC-III、K-ABC、DAMなどの検査を行い、67名のLD児が確認された。出現率は約3%であった。次に、これらのLD児について、彼らの学級での仲間関係と適応感を査定するために、自己報告による孤独感尺度、社会的コンピテンス尺度、社会的スキル尺度、そして、学級における人気投票を行った。また、担任教師には、子どもの社会的スキルと学校への適応状況について評価してもらった。その結果、LD児は健常児に比べて孤独感が強く、社会的コンピテンスは低く、向社会的スキルが少なく、外面化問題行動と内面化問題行動が多かった。仲間からの人気度も明らかに低かった。教師評価でも、LD児の社会的スキルは低く、学校への適応度も低かった。そこで、小学校2年生と3年生の学習障害児をターゲットにして、3週間にわたって、文脈論モデルに基づいて、学校ベースのソーシャルスキル・トレーニングを実施した。ターゲット・スキルは、「上手な聞き方」、「仲間への言葉かけ」、「集団活動への入り方」であった。トレーニングの結果、ターゲット児だけでなく、学級の仲間達も、孤独感と外面化問題行動、内面化問題行動は低下し、向社会的スキルが増加した。さらに、トレーニングの維持効果をみるために、1年後に再び、ベースライン時と同じ査定を行った。その結果、トレーニング効果は比較的よく維持されていることが明らかになった。
著者
阿部 泰記
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究において地方劇・地方志・善書などの文献資料と包公廟を実地調査した結果、従来からの研究を以下のように体系的に整理することができた。権力者の悪行から庶民をまもったことで有名な北宋時代の包拯に対して、後世の民衆は語り物・演劇などの分野で物語を創作してその遺風をしのんだ。物語では包拯の豪毅な性格を特異な風貌で描写し、包拯が非道を挫いて弱者を救済する話は時代が下るとともに膨張し、民衆は祠廟を建立して包拯を祀り、包拯は今日にいたるまで民衆の心の中に生き続けている。民衆は知謀と超能力を有し天地を共鳴させる人物を救済者として期待した。民衆が好む物語には貞節な妻、孝行な息子、書生の出世などの類型があり、包拯はその中で主人公を救済する重要な役目を果たした。後に包拯の物語は百話の規模で創作され、小説『龍図公案』や地方劇など今日までさまざまな物語が語り継がれている。特に石玉崑が語った説書『龍図公案』は公案に武侠を参入させて大流行し、四護衛を従えて銅〓で悪人を斬首する豪腕な包拯像を民衆に印象づけた。各地に林立する包公廟には、包拯と一緒に四護衛・銅〓が奉祀されている。包拯の祭祀は文化大革命以後とだえたと報告されていたが、信仰の自由が認められた今日では全国的に復活する傾向にある。本研究で調査した図書館は京都大学・東京大学・早稲田大学・東洋文庫・中国国家図書館・中国戯曲研究所・首都図書館・湖北省図書館・漢川市文化館・湖南省図書館・湖南師範大学・上海図書館・淅江省図書館・広東省中山図書館・順徳市図書館・台湾中央研究院・台湾国家図書館・政治大学である。また実地調査した包公廟は、台湾高雄県・台北市・雲林県・香港・マカオ・広東省番禺市・肇慶市・同市硯洲・湖南省長沙市・濁陽市・醴陵市・攸県・平江県・湘陰県・宜章県・江西省萍郷市・万載県・宜春市・河南省准陽県など約50カ所である。
著者
石田 久之
出版者
筑波技術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

大学の訪問等により、支援の組織化状況とその課題、学内各種組織の役割分担、基本的な支援ポリシー等を調査した。大学での支援は三つに分けられる。第一に、学習や生活で、自身をコーディネートできる能力をつけるための支援。次に、情報保障である。三番目が出口支援であるが、これは単なる就活支援ではなく卒業後の生き方へのアドバイスも含むものである。学内リソースを有機的に結びつけ、学生毎にこれらを遂行することが求められている。
著者
陳 晋
出版者
沖縄大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は「世界の工場」になりつつある中国の製造業を取り上げ、企業戦略論の枠組を適用しつつ、最も代表格にあげられる自動車産業と家電産業に参入して大量生産の確立を目指す中国上位メーカーの競争力蓄積の成果と問題を比較し検討した。あわせて、WTOの加盟にともない、中国製造業のダイナミックな変化、およびグローバル化を踏まえた企業行動の行方を分析した。中国の自動車メーカーと家電メーカーはともに1950年代中期に現れたが、70年代の中期まで国際比較から見れば、自動車メーカーの生産規模や技術水準は家電メーカーよりかなり上であった。その後、1970年代末の改革開放から今日までの20数年間の発展を経て、ともに政府の産業保護、政策支援を受けながら、両産業の競争力は逆転し大きな格差が現れてきた。以上の認識のもと、本研究の問題関心は次のとおりである。すなわち、WTO加盟にしたがって中国の自動車と家電メーカーの間で、顕在化しつつある競争力の格差は、どのように生じたのか、その要因はなにかである。具体的に、いままでの政府による産業政策などといった外部環境要因とともに、それぞれ産業における内部競争の度合いおよび各自上位メーカーの戦略構築過程とどのような関係があるかなどである。結論として、両産業それぞれの外部環境要因、業界内部の競争の度合いおよび各上位メーカーの戦略構築過程の差異は、それぞれ上位メーカー間に行動重心の政策適応から市場適応へ修正する時間差を発生させ、競争力の格差を形成させたことを明らかにした。まず、中国の自動車メーカーにおける競争力の蓄積は、政府の一貫した競争排除政策、とくに需要がトラックから乗用車へ移行しはじめた80年代の後半に採られた中央政府の厳しい参入制限と競争排除政策によって強く制約された。これに対して、家電メーカーに対する政府政策の直接介入は80年代の後半になると、多数の新規参入と大量生産能力の導入によって、家電製品の生産が売り手市場から買い手市場へ転換したため、ほぼ不可能になった。また、大手国有自動車メーカーは、業界の中核的な地位を占めながら、終始政府政策や計画投資の依存から抜けられないので、市場環境の変化に備える競争力の構築は大きく立ち遅れた。これに対して、80年代に後発した非国有企業を中心とする家電メーカーは、初めから政府の計画投資などに期待せず、市場ニーズに応え、厳しい国内市場競争でしのぎを削ってたたかい、市場経済の波に乗って業界の上位に上り、競争力を着々と伸ばして強くなっていた。
著者
熊本 博光
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

自動車運転の認知行動アニメーションにおいては、個々の自動車の追従ならびに操舵制御が基本アルゴリズムとなる。そこでまず、車両を状態方程式でモデル化し、スライディングモード制御法を用い、追従と操舵に対して新たな制御器を構築した。この結果、車両や路面状態の不確定部分に対してロバストな運転が可能となり、人間運転者と同様の良好な制御結果が得られた。たとえば、圧雪路での急激な車線変更時には、熟練運転者に見られるカウンタ・ステアも実現され、車両位置と方向は安定を保ちながら隣接車線に一致した。次にこれらの基本的制御アルゴリズムをもとに、現車線前方車への追従制御、隣車線前方車への追従制御、自由走行、車線保持制御、車線変更制御、停止制御などに関する認知判断モデルをアルゴリズム形式で明らかにし複数目標下での複雑な状況にも対応可能にした。さらに、自動車群の認知行動アニメーションのために、2車線周回道路環境を3次元仮想現実ソフト上に作成し、様々な視点からのシミュレーションを可能にして、認知行動モデルの有効性を視覚的に示した。すなわち、道路、交差点、信号、建物などをオブジェクトとして作成し、10台の自動車運転車両を走らせ、自由走行から先行車への追従制御、交差点での停止制御、車線変更制御などをアニメーション化し、フロントガラス及び上空から見た情景を視覚化した。このアニメーションに際しては、設備備品として購入したパソコンが重要な役割を果たした。将来の課題としては、雪道などの路面状況の変化を道路環境に含めること、懸架系をも考慮して車内から見た状況をより現実感のあるものにすること、交通事故状況の再現などがある。
著者
板尾 清
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

光ファイバと導波路の組立,しゅう動形磁気ディスクのトラッキング等の情報機器におけるしゅう動形位置決め機構のマイクロ化においては,一般に,摩擦力が精度低下の要因になる.特にマイクロ領域では,表面力である摩擦力が支配的になり,不感帯の増大やスティックスリップの発生により,位置決め精度はさらに低下する.しかしマイクロ領域の機械(マイクロメカジズム)では,センサの組み込みが難しく,また微小質量のため慣性力がほぼ0に等しい系を扱うことになる.このため,大きな摩擦力が働く柔軟体を,オープンループで位置決めする設計法の確立が必要となっている.本研究では,マイクロメカニズムの特徴である微小質量のしゅう動位置決め系として片持梁を対象にし,まず,固定端をステップ駆動した際に発生する不感帯とスヒックスリップの特性を明らかにした.この結果,スティックスリップの発生により,位置決め誤差やばらつきが,スティックスリップのタイミングに依存してしまうため,増大することがわかった.ついでこれに基づき,微小質量の地位決め系設計法の1つとして,スティックスリップが発生してもパ-プンループで位置決めできる設計法を確立した.この方法は,アクチュエータを位置決め系の固有周波数より高い周波数で振動させることで,微小質量の位置決めが可能であることを示している.これは,微小質量がスティックスリップを生じても,スリップ中の周期が位置決め系の固有周波数の約半分となるので,スリップ中に,アクチュエータを目標位置よりプラス側に移動することができ,微小質量は目標位置を超えないため,オープンループでの位置決めが可能となっている.さらに微小質量の典型例として光ファイバの位置決め系に適用し,使用可能であることを示した。
著者
秋山 学
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

3年間に及んだ本科研では,狭義の「西洋古典学」に関わる当地の現況把握のみならず,様々な伝承形態のうちに現在なお中欧諸国に息づいているギリシア・ローマあるいはビザンツ,さらにはルネサンス期文化の諸相を捉えることに努めてきたが,その成果は同題目による研究成果報告書(A4版124頁)のうちに集約されている.同書は全5部より成り,各章題は1.中欧・ハンガリー地域研究,2.ギリシア・カトリック教会研究,3.教父学,4.西洋古典学,5.仏教・比較思想研究となっている.ここでは特に「ギリシア・カトリック教会」が維持してきた伝承を強調しておきたい.すなわち,中東欧域に広く展開する同組織は,ビザンツ神学・典礼,および東方教会法を護持しながらヴァティカンと一致し,ラテン語や西方教会法,教皇史などに関する知的水準を維持し,古代中世東西地中海文化の結節点として現在なお機能している.その中でもハンガリーのものは,同地の言語がアジア系でもあることから,今後わが国の西洋古典教育に対しても大きな裨益をなすものであろう.研究代表者はこれまで主としてギリシア教父の視点を活かしながら,西洋古典を賦活化するために「予型論」の視座を用い,これを古典解釈の基軸とする試みを行ってきた.今回の科研で,その視点を現代に継承するものとして「ギリシア・カトリック教会」を位置づけることが叶い,昨今衰退の甚だしい古典古代文化教育に対しても新しい視点を提供することができるのではないかと期待している.この他,特に15世紀マーチャーシュ王治下のハンガリーに開花した高度な人文主義的文化は「ヴァティカンに次ぐ」とまで評された絢爛たる蔵書に集約されるものであり.往時の文化水準は,ほぼ旧ハンガリー王国の故地とも重なる現中欧諸国にあって,なお衰えることなく継承されている.未知であった中欧は,今後の欧州文化研究にとって不可欠な一地域となるであろう.
著者
田中 久男
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

フレドリック・ジェイムソンの地政学(Geopolitics)という文化研究概念を援用して、人種(民族)と地域との構造化された複合的な絡まりを究明することによって、アメリカ文学におけるエスニシティ表象の特徴をかなりの程度明らかにすることができた。