著者
石崎 昌夫 本多 隆文 山田 裕一 中川 秀昭 櫻井 勝 櫻井 勝
出版者
金沢医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

欠勤日数・回数は低職位群が高職位群より多く、この職位による傾斜は強固なものであった。また、短期間欠勤はその内容によってはストレスコーピングの役割を果たしていると思われた。自己評価による仕事パフォーマンスは職位よりも仕事要求度といった職場環境に強く影響されると考えられる。
著者
牛尾 禮子 郷間 英世
出版者
吉備国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

在宅重症心身障害児(者)の療育を行う中で、母親のストレスに注目した「療育相談モデル」の開発研究に取り組んだ。方法 : (1)全国の主な通園拠点事業施設を訪問し、療育内容について聞き取り調査を行った。(2)通園施設の母親から療育に対する満足度についてアンケート調査を行った。(3)重症心身障害児施設を有する全国の国立療養所に対して、在宅支援および養育者への支援状況などに関するアンケート調査を行った。(4)国立療養所A病院に療育外来を開設した。(5)母親支援として個別相談・グループカウンセリング・ノート交換などを試みた。成果 : アンケート調査結果ではスタッフの在宅支援に対する意識の高まりが見られるが、母親支援を重視し、実際的に機能している施設は皆無であった。また母親自身の満足度は低い。本研究者らが母親支援を重視した療育外来を行った成果として、母親が自覚した変化は、(1)精神的な安定感(明るくいきいきとしてきた・気分が軽くなった・楽しみができた・安心感がある・子どもと離れることができるようになった・子どもに余裕をもって接することができるようになった、など(2)身体的な変化(体調がよくなった)(3)福祉サービスが気軽に利用できるようになった。さらに、母親たちの協力体制の確立、自己の生き方や養育姿勢、および社会に関心を示すようになり、主体的な生き方が志向できるようになってきた。結論 : 養育者である母親の心身の安定は、子どもの養育に決定的な影響を与え、QOLを高めることになる。療育は、具体的な母親支援を機能させ、療育に包括させなければならない。
著者
江口 一久
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

フィールドワークの前後、国内においては、現地で収集された資料を文字化した。文字化されたものは、そのモチーフ、話型などの比較をおこなった。同時に、すでに出版されているマンダラ山地民の社会・文化にかかわる書籍、研究論文などをよみ、今後の問題点をあきらかにした。そのうち資料としてまとまりのあるマタカム族の民間説話の「コイネー・フルフルデ語」のテキストを完成し、その英文のレジュメを作成した。この資料に関しては、北部カメルーンのフルベ族の民間説話との比較研究をおこなった。また、このテキストをもって、フィールドにのぞんだ。フィールド調査は、二度、雨期明けの一月から二月にかけておこなった。フィールド調査では、西部のマンダラ山地民、すなわち、マンダラ、マダ、ムヤン、ズルゴ族などの資料もあつめた。トコンベレ、モラ、マルアなどで、インフォーマントから直接民間説話の収集をおこなった。かれらのフルフルデ語学習歴をしるために、民間説話と同時に語り手たちのライフストーリーもあつめた。北部カメルーンの都市だけでなく、マンダラ山地民の出身地の村落なども、物質文化や精神文化をしるために、訪問調査をおこなった。とくに、イスラム化されていないかれらの村落には、さまざまな民間信仰につかわれる事物があるので、そういったものには、注意をはらった。帰国後、ある種のものに関しては、内容を理解するのが困難だから、収集した民間説話は、現地において、文字化の一歩手前の状態、すなわち、外部のものには、わからない表現、とくに、歌などの徹底的な聞き取りをおこなった。いままで、収集整理された資料を方向所としてまとめて、国立民族学博物館調査報告として、出版の準備をすすめている。この研究で得られた資料は、データ・ベースとして、インターネットで公開する予定である。
著者
杉戸 清樹 塚田 実知代 尾崎 喜光 吉岡 泰夫
出版者
国立国語研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

1. 日常の言語場面における談話のまとまり(質問・要求・あいさつなど)が言語行動として実現される際,どのような「構え」のもとに生成され受容されるかについて,言語行動論・社会言語学の枠組みで検討することを目的として,次の研究を進めた。(1) 前年度までに行った愛知県岡崎市,東京都内などでの探索的な臨地調査の結果,及び国語研究所の従来蓄積した敬語意識調査の結果などについて,「構え」という視点から整理・分析し,より具体的な分析の手がかりとして「メタ言語行動表現」という表現類型の有効性を検討した。(2) これらの検討に基づき,「メタ言語行動表現」「構え」「ととのえる」などという研究上の観点・方法論的枠組みについて,その有効性を主張しうる見通しを得て,その内容を提案・議論する研究論文を執筆した(裏面第11項参照)。2. 本研究の最終年度にあたるため,上記の研究論文等を中心にして「研究成果報告書」をとりまとめ印刷した(A4判全75ページ)。
著者
篠崎 和弘 武田 雅俊 鵜飼 聡 西川 隆 山下 仰
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

並列分散処理の画像研究を統合失調症(幻聴有群となし群)と健常者について、脳磁図の空間フィルタ解析(SAM)をつかって行った。色・単語ストループ課題では刺激提示から運動反応までの650msを時間窓200msで解析した。賦活領域は左頭頂・後頭(刺激後150-250ms)に始まり右前頭極部(250-350ms)、左背外側前頭前野DLPFC(250-400ms)、一次運動野の中部・下部(350-400ms)に終った。複数の領域が重なりながら連続して活動する様子を時間窓200msでとらえることができたが、MEG・SAM解析のこのような高い時間分解能はPETやfMRIに勝る特徴である。左DLPFCの賦活は幻聴のない患者では健常者では低く、幻聴のある患者で賦活がみられなかった。これらの結果は統合失調症の前頭葉低活性仮説に一致しており、さらに幻聴の有る群でDLPFCの賦活が強く障害されていることを示唆する。単語産生課題(しりとり)ではDLPFCの賦活が患者群でみられ健常群では見られなかったのに対して、左上側頭回の賦活は健常群でみられ患者群では見られなかった。まとめると患者群では言語関連領域の機能障害があるために代償的にDLPFCが過剰に賦活されるが(しりとり課題)、DLPFCにも機能低下があるため(スツループ課題)、実行機能が遂行できないと推論される。このような神経ネットワークの機能障害が統合失調症の幻聴などの成因となっているのであろう。今後はネットワークの結びつきを定量的に評価する方法の開発を進めたい。
著者
小林 傳司 山脇 直司 木原 英逸 藤垣 裕子 平川 秀幸 横山 輝雄 副田 隆重 服部 裕幸 沢登 文治
出版者
南山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

現代社会における科学技術が、知的、物質的威力としてのみではなく、権力や権威を伴う政治的威力として機能していることの分析を行い、科学者共同体において確保される知的「正当性」と、科学技術が関連する社会的意思決定において科学知識が果たす「正統性」提供機能の錯綜した関係を解明し、論文集を出版した。また、このような状況における科学技術のガバナンスのあり方として、科学技術の専門家や行政関係者のみならず、広く一般人を含む多様なステークホルダーの参加の元での合意形成や意思決定様式の可能性を探求した。特に、科学者共同体内部で作動する合意形成様式の社会学的分析に関する著作、幅広いステークホルダー参加の元手の合意形成の試みのひとつであるコンセンサス会議の分析に関する著作が、その成果である。さらに具体的な事例分析のために、参加型のテクノロジーアセスメントにおける多様な試みを集約するワークショップを開催し、現状の成果と今後の課題を明らかにした。課題としては、全国的なテーマと地域的なテーマで参加手法はどういう違いがあるべきか、参加型手法の成果を政策決定とどのように接続する課などである。同時に、「もんじゅ裁判」を事例に、科学技術的思考と法的思考、そして一般市民の視点のずれと相克を記述分析し、社会的紛争処理一般にかかわる問題点や課題を明らかにした。本研究の結果到達した結論は、人々の現在及び将来の生活に大きな影響を与える科学技術のあり方に関しては、政治的な捕捉と検討という意味での公共的討議が必要であり、そのための社会的仕組みを構想していく必要があるということである。こういった活動の成果は、最終年度にパリで開催された4S(Society for Social Studies of Science)国際大会でセッションを組んで報告された。
著者
大西 一也 堀越 哲美
出版者
大妻女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

近年の住宅設計においては、過度にエネルギーに依存した建築計画、設備計画が主体となっており、自然の恩恵を享受する新たな現代的手法を目指すことが課題となっている。本研究は、昭和戦前期における中小住宅の平面型が確立していく過程で、住宅の洋風化、独立性の確保とともに、通風環境や日照環境が置かれた状況を分析し、住宅デザインに及ぼす環境的な配慮と気候設計理論を考察し、現代的展開の可能性を探ることを目的とした。昭和戦前期に『朝日住宅図案集』及び雑誌『住宅』に掲載された文化住宅において、居間の通風環境を、住宅の規模や平面形状と関係づけて分析を行った。また、大正から現代までの住宅の通風環境の史的変容についても、住宅図案集をもとに比較分析した。調査方法として、開口部の関係により居間の通風状況を簡易に算定できる指標として「通風可能面積率」を開発し、住宅の平面形状と関係づけて居間の通風環境や通風輪道を分析した。気候風土や現代の生活様式に適応した住宅を設計する上で、この通風状況を簡易に算定する指標は有効になると考えられる。『朝日住宅図案集』に掲載された住宅を対象に、断面図と平面図に基づき、住宅の採光環境を日照到達距離という断面的な簡易指標で検討し、夏季の日射遮蔽と冬季の日照確保に最適な断面形状を得た。昭和戦前期において展開した気候設計理論についてまとめることを目的として、昭和戦前期に研究者や建築家により単行本として刊行された文献や雑誌記事を対象として、室内気候設計手法を抽出整理し、当時のパッシブ手法を分析した。また雑誌『住宅』に掲載された住宅事例を対象として、室内気候設計手法の実践及び通風環境の状況を検証した。
著者
高橋 正明 黒田 剛史 門脇 正尚 山下 陽介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

地球大気の大気大循環モデルをベースにして、火星ダストの巻き上げ、およびダスト輸送を陽に表現する火星大気モデルを作成し、ダストストーム発生に関しての問題を考察し、定性的に再現可能な大気モデルを作成した。また、火星大気に生起するいくつかの現象である、傾圧波動性擾乱、火星大気における北極振動、赤道域成層圏における半年周期振動の問題を研究した。地球大気との様々な違いを示し、いくつかの興味ある結果を得た。
著者
五十嵐 敦 福田 一彦
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は,勤労者のメンタルヘルス問題のメカニズムについて,交代制勤務による睡眠問題と職場適応の問題について実証的なアプローチを試みたものである。特に,3交代制から2交代制に移行を予定している病院の看護職の調査をメインに,地方自治体職員や一般企業との比較調査を行った。結果,初回調査では2交代制が3交代制の看護職者よりよい状況であった。しかし,3交代者が2交代に変更した後の状況については良好な状況になっていることは確認できたが,縦断調査への協力者の数が少なかったことで統計分析に十分耐えるものではなかった。3交代からの変更者が少なかったこと,交代制自体が状況によってサイクルが不安定に変更されている状況があったと見られる。自治体においては労働時間よりも作業遂行の問題や日中の眠気・入眠の問題などが精神的健康には有意に関連していることが明らかとなった。また,人材育成としての研修への積極的態度も重要な要因であった。一般企業では抑うつ傾向に対して休日の眠気や希望的態度が抑制要因となっており,Karasek(1979)のコントロール感の重要性が確認された。
著者
伊藤 博明
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

イタリア・ルネサンスに発展したシビュラの表象は、古代の『シビュラの託宣』や中世後期のテクスト的な伝統を継承したうえに、15世紀の人文主義者や新プラトン主義的哲学者の議論を背景に産み出された。その図像的総決算と言うべき、システィーナ礼拝堂天井にミケランジェロが描いた6体のシビュラ像は、8体の旧約の預言者像とともに置かれて、古典古代におけるキリスト教の普遍性を示している。
著者
次山 淳
出版者
独立行政法人文化財研究所奈良文化財研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

日本列島の弥生時代終末から古墳時代前期にあたる3・4世紀において、中国大陸・朝鮮半島をはじめとする東アジア諸地域との間にさまざまなかたちの交流があったことは、彼我の多様な考古資料と、『魏志倭人伝』等の文献史料の記載からうかがい知ることができる。本研究では、考古資料、なかでも土器を主たる材料として、当時の日本列島と朝鮮半島の交流のありかたを考察した。日韓双方の土器の分布状況の分析から、当該期には遺構の密集度の高い大規模な集落群を結ぶ交通路が形成され、対外交渉の場を博多湾沿岸におく極めて方向性の明確な通交体制が形成されていた様子が理解された。
著者
大久保 一郎 大日 康史
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

目的:individual based modelは、近年の感染症モデルとして最もパワフルなモデルであり、新型インフルエンザ対策では広く用いられている。しかしながらモデルはあくまでモデルあり、実際の人の所在、移動を表現したものではない。モデルをより現実的に近づける努力は重要であるが、それでもやはり現実性は乏しい。本研究では逆に、実際の人の所在、移動のデータからモデルを構築した。方法:1998年10-12月に実施された、首都圏在住の約88万人の1日の移動、所在が記録された抽出率約2.7%のデータを用いる。所在は、自宅、学校等の別、1648カ所のゾーンで表示され、鉄道の乗降駅、時間も記録されている。まず、このデータを用いてまず接触回数を求め、実際の社会での接触がscale freeであるかどうかを検討する。新型インフルエンザの自然史、感染性を有する期間、無症候比率、無症候の場合の感染性、受診率は先行研究によった。感染性は家庭および社会での感染性がR0=1.5になるように調整した。シミュレーションは、海外での感染者が、感染3日後に帰国、八王子の自宅に帰宅後感染性を有するとした。職場は丸の内としてJR中央線で通勤するとした。結果:無作為に抽出した638名で計測された社会,家庭,電車でのべき乗bはいずれの場合でも有意に正であった。感染者数は、最速で対応の意思決定がなされた場合の感染7日目で3032人と少ないものの、首都圏全域、特に鉄道沿線に拡散していることが明らかになった。考察:本研究で示された実際の移動データを用いての数理モデルは、現実的な対策立案に活用できるモデルを提示できたと言えよう。今後、新型インフルエンザ対策のガイドライン策定においては有用なツールになると期待される。
著者
江守 陽子 前原 澄子 工藤 美子 森 恵美
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

母子相互作用において、近年もっとも注目されているのは母子の行動心理学的な作用であろう。見つめあい、タッチング、抱いて揺するなどは効率よく子供の注意を喚起する効果が認められている。こういった相互作用によって母と子がしっかりと結ばれ、また、それによって子供の成長が促進されるのであれば、看護者はできるだけ長く、かつ有効にその機会を持つような援助を考えるべきであろう。本研究では母親が子どもを抱いてあやすという行動に着目し、それが児にどのような影響を及ぼすのかを観察した。その結果は以下の5点に要約できた。1.抱くという刺激は児を泣きやます効果が認められる。2.たて抱きは、刺激直後の児の覚醒状態を急激に下げ、その後、穏やかに下降させる。すなわち、児を泣きやますには即効性があり、敏活な状態にする効果が認められる。3.横抱きは、刺激直後の児の覚醒状態は穏やかに下降し、その後(40〜80秒後)、さらに下降する。4.抱き上げずに布団を掛けるだけでは児の覚醒レベルの変化は認められなかった。5.啼泣の中止や敏活性を高める目的では運動感覚に対する刺激が有効である。
著者
森田 哲夫 吉田 朗 杉田 浩 小島 浩 馬場 剛
出版者
群馬工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

交通、土地利用、民生等の分野における多様な施策が都市活動に与える影響を予測し、都市活動の変化が環境、生活の質、経済に与える効果を多面的に定量評価する統合型のモデルシステムを開発した。本研究では、全体モデルシステムの要素モデルである水環境評価モデルと生活の質評価モデルを改良し、全体システムに組み込むことにより、都市環境施策が水環境、生活の質に与える影響についてケーススタディを行った。
著者
西野 浩明 宇津宮 孝一 吉田 和幸 賀川 経夫
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本課題では,「仮想と現実を継ぎ目なくつなげる仮想環境」を構成するために,「現実と仮想の間に人間が違和感を覚える境界」を明確化し,それに基づいて,利用者に違和感を与えないリアルな仮想環境を描出する手法に関して研究開発を行った。このために,人間の感性を利用してシステムの最適化を行う対話型進化計算法に,認知科学や免疫学等の知見を融合した仮想環境の構成法とソフトウエアを設計・開発した。また,仮想物体の質感表現,技能の記録と伝習など,利用者の違和感がシステムの機能・性能に大きく影響するような応用分野に提案手法を適用し,その有効性を実証的に評価・検証した。
著者
加藤 幹郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

映画は、今年一九九五年で満百歳をむかえる。しかし、これは映画が発明されて百年になるという意味ではない。映画を撮影鑑賞するのに必要な機材は、一八九五年以前にすでに実用化されている。では今年を映画生誕百年と呼ぶのは、どういうことなのか。それは映画が今日の上映形態に近いかたちで、初めて公共の場所でスクリーンに投影され、それを見るために一般の観客が入場料をしはらって一堂に会したのが、ちょうど百年前のことになるということである。つまり映画が、のちに映画館と呼びうるような場所で公開された一八九五年を、映画元年としているのである。今日さまざまな種類の映画史が書かれ、映画の歴史は映画作品の歴史、映画作家や映画製作会社の歴史、あるいは映画技術の歴史として広く知られている。しかるに、われわれは肝腎なことをまだよく知らないでいる。それが映画館の歴史であり、映画館をにぎわせた観客の歴史である。だれがどのようにして映画をつくったのかという歴史は、比較的多くの研究者によって解明されている。しかし、だれがどのような場所で映画を見せたのかという歴史、そして観客がどのように映画を享受したのかという歴史は、いまだに不分明な点が多い。括弧つきとはいえ、「映画館」生誕百年を祝う今年は、劇場とそこにつどう観客の歴史の研究元年としなければならないだろう。
著者
川橋 範子 黒木 雅子 小松 加代子 熊本 英人
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

日本でのフェミニズム研究と宗教研究の関係の進展を課題としてきた本研究では、「欧米中心的物の見方」への批判的問い直しをするとともに、複数形フェミニズムのなかで、非西欧女性の宗教経験を、家父長制の因果関係や弱者の戦略ではなく、新しい視野でとらえなおす試みをしてきた。「宗教と社会」学会において2年続けて、テーマセッションを企画・実行してきた。本年度は、テーマセッション「仏教ルネッサンスの向こう側-ラディカルな現代仏教批判」を企画し、4月に研究会を開いてその準備をし、「宗教と社会」学会第15回学術大会で、川橋(発表・司会者)熊本(発表・司会者)が加わって実施した。また、研究代表者の川橋は国際宗教学宗教史会議の女性委員会運営委員をつとめ、この会議における女性研究者ネットワーク立ち上げに協力した。今後、このネットワークを通して、各国の研究者と積極的に情報交換を行い、国際的な研究者ネットワークの確立を行うと同時に日本の女性宗教研究者の開拓を行う予定である。本年度の情報収集のための旅行としては、黒木が、ギリシャ・メテオラに出かけ、小松がアイルランドに出かけ、それぞれ修道院と尼僧の歴史的研究資料を、女神信仰の具体的な資料を収集してきた。今後も、性別にかかわる差別と権力構造を明示し社会変革の梃子になる力を生み出す批判的概念としてのジェンダーの視点を、社会の中の性差にまつわる非対称性をあきらかにするものとしてとらえ、人間の平等な尊厳と解放を目指す宗教という事象の研究に当てはめていくことを、我々のさらなる課題と考えている。(660文字)
著者
草場 ヒフミ 野間口 千香穂 藤井 加那子 永瀬 つや子
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は入院と治療に伴う思春期患児の睡眠状況の調査を行い、睡眠に関する問題、睡眠の特性、睡眠に影響を与えている要因を検討することである。1.入院生活を送っている思春期患児の睡眠に関する実態一般小児の病棟に入院中で、急性症状がなく、入院3日以上の小学4年生から高校生を対象として、自己記入式による質問紙調査を行った。質問内容は、(1)睡眠-覚醒機能のアセスメントに関する睡眠の特徴と睡眠の影響、(2)睡眠を妨げる要因、(3)睡眠をとるための対処、(4)児童用状態不安尺度(STAIC-S)である。入院中のデータは連続2日間の夜間睡眠データとした。3病院(4病棟)に入院中の10歳から18歳の男女から得られた24名の分析の結果は次のようであった。1)睡眠の特徴:病院では50%の患児が21時台に就床し、30分以内に入眠していた。就床時間と入眠に要した時間は病院と家庭とに関連が見られ、病院での就床時間が早かった。夜間覚醒は47%に認められ、回数は1回から3回であった。2)熟眠感の低い児が約17%に認められ、夜間覚醒との関連が認められた。夜間の覚醒している患児の方が状態不安得点は高かった。4)夜間覚醒の理由には身体症状、環境の変化があったが、「なんとなく」が最も多かった。5)睡眠導入への入院児の対処:音楽を聴く・本を読む、部屋を暗くするなどの入眠促進行動が多かった。2.活動・睡眠リズム記録(アクティグラフィ)を用いての睡眠調査アクティグラフに睡眠日誌を併用し、入院中の11歳〜15歳の5名の連続2日間の夜間睡眠パターンを分析した(2名は持続静脈注射中)。総夜間睡眠時間は319分から519分、睡眠効率は74.8%から96.5%の範囲であった。主観的熟眠感の高い時は、そうでない時に比べ、全睡眠時間は長く、睡眠効率は高く、入眠潜時は短く、覚醒回数は少なかった。3名はアクティグラフィが認識した5分以上の覚醒回数より自己報告の回数が少なかった。
著者
齋藤 君枝 青木 萩子 藤原 直士 後藤 雅博 渡辺 洋子 岩佐 有華
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

応急仮設住宅生活経験のある高齢被災者の身体機能とストレスを定量的に中長期間評価し,応急仮設住宅入居からコミュニティにおける再建後5年までの生活現象を民族看護学的手法により検討した.再建に伴い女性の身体変化が見られ,被災後の経過と季節の影響を受けると考えられた.再建後ストレスの長期的な変化は認められなかった.被災高齢者の生活適応には,地域の文化や行動様式の維持が重要であり,応急仮設住宅生活から長期的な体力保持と健康管理,自立支援,文化ケアが求められる.
著者
田中 愛治
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、日本の政治システムについて日本の一般有権者の態度を、世論調査データと選挙結果のデータを時系列に分析することによって、解明しようとしたものである。本研究の目的は、日本国民がどの程度、日本の民主主義政治システムに対する支持態度(システム・サポート)を持っているのかを、1970年代後半から2000年までにわたり時系列に分析し、そのシステム・サポートの源泉となる要因を探ることにあった。本研究は、レヴァイアサン・データバンクから提供された学術的全国世論調査データ(1976年JABISS調査、1983年JES調査、1993年JESII調査)と、研究代表者(田中愛治)自身が実施に参加したJEDS96調査(1996年)、JEDS2000調査(2000年)、JSS調査(2001年:文部科学省科学研究費特定領域研究(B)「世代間利害調整に関する研究」領域代表者・高山憲之のA7班「世代間利害調整の政治学」研究代表・北岡伸一による全国世論調査)のデータを時系列に分析した。1976年〜2001年までの25年間の時系列分析によって、日本人の政治不信に関する政治意識と、政治システムに対する信頼感(system support)の変化を分析し、以下の3点が明らかになった。第1に、日本人の一般的な政治信頼はもともと低いもの(40%程度)であったが、1996年から2000年にかけて急速に悪化し(2001年3月の森内閣の退陣直前に最低の11.1%)、2001年も十分に回復していない(小泉内閣時でも23.6%)。第2に、日本の政治システムを支える民主主義的政治制度(選挙、国会、政党)の機能に対する信頼感は1976年〜1996年までは非常に高いレベル(選挙への信頼は1993年に82.3%)にあったが、これすらも2000年には急激に低下し(32.3%)、2001年にも十分に回復していない(42.7%)。日本の政治システムの政治・経済の業績の悪化が、政治不信のみならず政治システムへの信頼感も低下させている。第3に、政治システム(すなわち、民主主義政治制度)への信頼は世代間に差異はなく、どの世代の日本人も時代と共に信頼感が低下しているが、国の政治への信頼は、世代間の差異が大きい。