著者
吉田 典子
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、ゾラの小説および美術批評と、同時代の絵画の動向との相関関係を調査・分析することによって、小説家と画家たちが共有した関心はいかなるものであったかを、近代都市パリの歴史的・社会的・文化的な文脈の中で検討することである。本研究の成果は、次の3点にまとめられる。1.アカデミズム絵画とその表層の美学について、『獲物の分け前』における第二帝政期のパリ・モードと女性の身体の問題の視点から考察した。虚飾に満ちた第2帝政期を批判する内容を持つこの小説は、絵画との関連から見て、なめらかな表層と物語主題を追い求めるアカデミズム絵画に対する批判と解釈できる。2.第3共和政成立期の都市パリと新しい絵画の関係について、『パリの胃袋』と都市風景画の問題を、二つの観点から分析した。ひとつは、パリ・コミューンによって多くの建物が廃墟と化した都市パリの再構築と産業化の問題である。鉄とガラスの近代建築の賛美、光を浴びた鮮やかな色彩による都市の装飾は、モネや印象派の絵画と共通する。もう一つは「共和主義」と絵画の問題であり、ゾラの小説と、モネおよびマネによる都市風景画の関連を指摘した。3.商品経済の発達と絵画の関連について、とりわけ近代絵画における物質主義や、商品と女性へ注がれるまなざしの問題を、二つの観点から考察した。ひとつは、『パリの胃袋』における食料品の描写と静物画の問題である。ゾラにおける中央市場の食品の描写とマネの描く静物画には、物質主義的側面が顕著であると同時に、それらの食材や花には商品性が刻印されている。もうひとつは近代商業の象徴としてのショーウインドーの問題である。商店や売り子を扱ったゾラの小説や同時代の絵画には、女性の身体の断片化や商品化が頻繁に見られるが、彼らはまた、近代の商業社会において、自分たちの芸術もまた商品であるという意識をもっていたことが指摘できる。
著者
吉村 富美子
出版者
東北学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、効率的に書く力に転移するような英文の読み方について、理論的、実証的検証を行った。文献研究から書く力に転移するような英文の読み方を特定し、そのような読み方を取り入れたチェックリストを作成し、その効果について実験研究と教室研究を行った。実験研究からは、読み書きを統合すること自体転移を促進し、チェックリストはその読み書きの統合をスムーズにすることがわかった。また、教室研究からは、チェックリストを使った指導は学習者の英文を書く力を向上させるのに有効であることが示された。
著者
渡部 英二
出版者
芝浦工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は効果的なハウリングキャンセラの実現を目標にハウリング波形を周波数が未知の歪んだ正弦波であるととらえてIIR形適応ノッチフィルタにより除去する方法を研究した。本研究で得らわた成果を要約すると以下の2つになる。(1)実際のハウリング信号のスベクトルは位相揺らぎのためにラインスベクトルではなく、バンドパス形になっている。適応ノッチフィルタによりバンドパス形スベクトルを持つハウリング信号の帯城端周波数を検出する方法を提案した。この成果は2006年1月の電子情報通信学会回路とシステム研究会で発表した。現在、電子情報通信学会の論文誌に投稿するための準備をしているところである。(2)本研究の最終目標である実時間でのハウリングキャンセルに成功した。研究開始から3年間にとたって検討してきた内容を最終年度に総合することにより、パーソナルコンピュータ上のプログラムとしてハウリングキャンセラを実現した。入出力インターフェースとしてパーソナルコンピュータの音源ボードを使用した。まだ適応係数の追従性に改良の余地があるため、耳障りにならない程度の音は残る。しかしながら、このキャンセラを動作させていないときは増幅器の利得を絞らないとハウリングが発生してしまうことを考えると、劇的な効果といえる。今後考えることは、適応係数の追従性のさらなる改良と、組み込み機器への応用を目指してプログラムを進化させた上でハードウェアを完成させることである。これが出来たあかつきには特許出願等も考慮したい。
著者
大里 俊晴 木下 長宏 BERNDT Jaqueline 榑沼 範久 大里 俊晴
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

1 大里俊晴 全ての抑圧に抗して -コレット・マニーその生涯と芸術-フランスの女性作詞家-作曲家-歌手である、コレット・マニー(1926-1997)の作品を、年代を追って分祈することで、その特異性、重要性を浮き彫りにする。彼女は、キューバ革命、ベトナム戦争、パリの5月革命、チリ・クーデターなど、世界的な政治的抑圧に対して鋭く反応し、左翼的意見を表明した歌詞と、前衛的手法を大胆に導入した音楽で、抵抗の声を上げた。2 ジャクリーヌ・ベルント 大戦下の美術-芸術論への挑発 2006年のアルノ・ブレーカー展覧会を中心に-2006年にドイツで開催されたアルノ・ブレーカー(1900-1901)の回顧展やその人気を例に、1940年前後ファシズム系国策下で生み出された芸術をめぐる言説を追究する。その美術を「真正」や「自律」から問うよりも、鑑賞者が抱く期待の地平に加え作品の流通やそこでのメディアの役割といった関係性に焦点を当てる方が今日的芸術論に相応しいことを示す。具体的には、ブレーカー作品の「古典美」や、それを活かす広告写真に近い撮影を考察する。3 榑沼範久 快感原則の彼岸 -感覚/知覚の戦場-主として、アメリカの知覚心理学者ジェームズ・ギブソン(James J.Gibson)が第二次世界大戦期に陸軍航空軍(U.S.Army Air Force)で行っていた知覚研究・映画研究を、第一次世界大戦と第二次世界大戦における人間の感覚/知覚の歴史のなかに位置づける。この作業から抽出されるのは、二十世紀の二つの世界戦争があらわにした二つの「快感原則の彼岸」である。そして、この「快感原則の彼岸」に幾つかの芸術・芸術論も吸引されていくのを見るだろう。
著者
菅原 敬 藤井 紀行 加藤 英寿
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

カンアオイ属タイリンアオイ節植物は,九州南部に分布するサツマアオイ,九州北部から中国地方西部に分布するタイリンアオイ,東海地方のカギガタアオイ,伊豆半島のアマギカンアオイ,そして関東地方南部の多摩丘陵に分布するタマノカンアオイからなる一群である.これらは,日本列島の東西に隔離分布するにもかかわらず,萼筒の形態や内壁の襞紋様,舷部の形態などによる類似性から,一つの分類群(節)にまとめられている.また,この節内の分化については,九州地方産種から関東地方産種へ萼筒の形や柱頭の形に勾配的な変異が認められるとして,西から東への分布拡大の過程で分化したのではないかと考えられている(前川,1953).しかし,二地域間には地理的距離の大きな隔たりがあり,また,花形質で指摘されてきた変異は必ずしも勾配的変異とはいえない.そこで,本研究では,分子系統学的解析に基づいて,タイリンアオイ節の単系統性と同節種間の系統関係を明らかにし,地理的分布との関連について考察することを目的とした.カンアオイ属植物についての分子系統学的解析は,これまでにKelly (1998)による核DNAのITS領域の解析による報告があるが,この一群についての解析はない.葉緑体DNAのtrnL遺伝子間領域の塩基配列,そして核DNAのITS-1領域の塩基配列の比較による系統解析を進めた.その結果,葉緑体DNAについては,系統解析を進める上で有効な情報を得ることはできなかったが,ITS領域については多くの変異がみられ,系統推定のための情報を得ることができた.ITS領域に基づく分子系統解析の結果,タイリンアオイ節の九州産2種と東海・関東産の3種は,それぞれ別のクレードに属し,単系統性は認められないという結果が得られた.これは,タイリンアオイ節諸種が西から東への分布拡大の過程で分化したものではないことを示唆している.
著者
千葉 克裕 吉本 啓 横山 悟
出版者
文教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

日本における英語学習において、初級学習者は L2 英悟の語彙を日本語の翻訳を介して理解しているか、また上級になると直接第2 言語を処理するようになるか、という習熟度の変化にともない第2 言語語彙処理プロセスが変化するかどうかを脳磁図(MEG)を用いて観察した。分析の結果から上級者は単語認知処理において処理速度が速く、また初級者は脳のより多くの部位を使用して意味処理を行っていると判断された。
著者
堀 信行 飯島 祥二 高岡 貞夫 岡 秀一
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

色彩景観研究に取り組むに当たり、城下町起源の東西の小都市である角館と萩を対象地域に選び、平成8年度には角館、平成9年度には角館と萩の両者について現地調査を実施した。研究は大きく二つの方向で進められた。第一の方向は都市景観の色彩に関する計測的研究で、街路景観を構成する施設色彩の特性の都市間比較および自然・人工景観における輝度や色度の特性の都市間比較を試みた。当初、研究対象地域の植生の色彩がその地域の色彩景観との間に何らかの相互関係が存在するのではないかと考えたが、色彩景観として街路景観やビルの外壁など施設色彩に注目して分析を行った結果、現在のところ角館と萩の両者を比較しても、この作業仮説を積極的に支持する成果は得られていない。第二の方向は色彩民俗学的視点を取り入れた研究で、お祭りや絵図の中に現出する色彩群に社会的・文化的コードの文脈を読み取り、それを自然景観や記憶色との関係から分析した。角館の9月上旬に行われる祭りには、ヤマと呼ばれる山車が各町内から出て町を練り回る。山の象徴である山車は、きわめて濃い濃紺の布で覆われ、それに春の象徴としての桜、秋の象徴としての紅葉したモミジが飾り付けられている。さらに山の象徴に杉の樹も使われ、季節の推移に連動して山と里の間を出入りする神のイメージが植生の色彩を通して表現されている。これらの分析から、色彩景観として住民が互いに共有する記憶色といえる象徴的な色彩が意識され、それぞれが祭りの山車に表現されていることが分かった。
著者
河内 信幸
出版者
中部大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

ニューディール政策には、公共芸術事業計画(Public Works of Art Project)、財務省芸術救済計画(Treasury Relief Art Project)、連邦芸術計画(Federal Art Project)など多くの芸術計画があり、財務省や雇用促進局(Works Progress Administration)の芸術プロジェクトも実施された。ところが、これらの芸術計画は財政基盤が不安定であり、失業者に対する救済事業か、芸術の向上を図る公的支援かという論争も常につきまとっていた。そのため、芸術計画は政府の支持基盤や政治情勢の変化に翻弄されるのであり、「戦時体制」への移行と非米活動調査委員会(House Un-American Activities Committee)の結成によって終焉を迎えることになるのである。しかし、"文化は社会を映す鏡"などといわれるように、「社会史」の観点から時代状況を総合化しようとすると、ニューディール研究も芸術計画を取り上げないわけには行かないのである。ベン・シャーンはこの1930年代の社会危機を目の当たりにし、ニューディールの芸術計画から大きな影響を受けた芸術家であった。そして、シャーンは「社会」と「人間」を見つめる眼を磨き、強烈な社会意識をもって創作活動に取り組んだのであった。そのため、シャーンの作品には強い「社会的メッセージ」が込められており、冷戦や「ホロコースト」にも眼を背けることがなかったのである。その意味では、シャーンは自らのアイデンティティを問い続けた「社会派リアリスト」であり、作品を通して芸術の社会的意義を確かめようとした芸術家であった。ところで、ニューディールの芸術計画には運営面で多くの問題点があり、計画自体の評価は必ずしも高いわけではない。しかし、連邦芸術計画などに参加した芸術家のなかには、後世に残る仕事へと発展する契機となったケースも多々ある。しかも、短期間であったにせよ、連邦政府の公共政策として芸術計画が実施されたのであり、文化遺産の保存や歴史の記憶・記録という観点からも、ニューディールの芸術計画を再検討する意義があると思われるのである。私は、芸術計画とベン・シャーンを調べるためにアメリカへも調査に出かけたが、シャーン自身は2度ほど日本にもやってきており、京都に代表される日本文化に興味や関心を抱いた芸術家であった。2度目の来日は1960年であり、シャーンが第五福龍丸のビキニ被爆事件をテーマに、『ラッキー・ドラゴン・シリーズ』を制作し始めた頃であった。シャーンはパリのモンパルナスに馴染めず、アメリカに眼を据えて創作活動をしたわけであるが、晩年は東洋文化にも惹かれていったことも忘れてはならないのである。
著者
横田 恭子
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

HIV-1 Nefのエイズ病態における役割を明らかにするため、Nef発現で抑制されたTLR5とIL-10受容体(ベータ鎖)に注目し、これらの分子を介するマクロファージの自然免疫応答について解析した。TLR5やIL-10受容体からのシグナルはマクロファージのサイトカイン産生バランスに影響しており、Nefが自然免疫監視機能を障害する可能性が示唆された。一方、ヒト造血幹細胞移入免疫不全マウスはHIVに感染するもののマクロファージの分化発達が不十分であり、病態解析のモデルには適さなかった。
著者
岡本 哲和 石橋 章市朗 脇坂 徹
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

2007年参院選における候補者ウェブサイト調査によって、以下のことが明らかにされた。第1に、中小政党よりも大政党からの候補者が、そして新人候補よりも現職がより高い確率でサイトを開設している。第2に、有権者が投票意思決定のためにアクセスしている可能性は否定できない。候補者サイトへのアクセス数の増加は、その候補者への投票を増加させることが統計分析により確かめられた。
著者
加藤 幸一
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

小中学生の幾つかのロボット製作・ロボコン活動を調査して、以下のことが明らかになった。・ロボット製作・ロボコン活動には、発想力を向上させる効果が認められた・チューターの子どもへの係わり方が良い場合、または、グループ内やグループ間のコミュニケーション促進の支援をした場合には、コミュニケーションが高いレベルで持続する。・ロボット製作・ロボコン活動では、中学生は小学生に比べて、意識、態度、操作能力等で明らかに勝っていることが認められる。・幾つかのロボット教室での参加者の意識や行動には違いは見られないので、教室の運営・指導の影響はほとんどないと考えられる。経験が多いことが小学生のロボット製作・ロボコン活動を良くする傾向が見られる。また、経験の多いチューターの指導は良い傾向にある。・マインドストームを用いた授業は、製作品の構想を考える授業に比べて、生徒の「探求心」や「工夫力」等の意識が向上する効果がある。ものづくり系ロボット教材を用いた授業は構想の授業と同程度の効果があると考えられる。・パス解析の結果、子どものロボット製作・ロボコン活動には、チューターの指導法が大きく影響し、さらに、チューターの指導法には、「子どもの養育に対する責任感」「チューターの経験値」「ロボット製作の理解度」が影響することが分かった。
著者
井上 美智子 無藤 隆
出版者
近畿福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

東京都・兵庫県の保育所・幼稚園1600園を対象とした質問紙調査を実施し、分析を進めた。その結果、園庭や地域の環境の実態にかかわらず、保育者が意図的に自然との関わりを活動の中に含まれるよう環境や活動を考えていることがわかった。しかし、そこで見られる活動内容や環境設定は従来の自然との関わりと大差はなく、自然の循環性や多様性を意識した内容などはまだあまり検討されていないことが明らかになった。また、幼保・公私のカテゴリー別にみてみると、多くの点で公立幼稚園の実態が高く評価できた。今後、自然体験プログラム等のノウハウが蓄積すれば、保育現場が受け入れる余地は十分にあると考えられ、期待が持てた。環境教育実践施設キープ自然学校における幼児対象自然キャンプでは、3年間の継続実施の過程で、幼児対象のプログラムは原則的にフリープログラムが有効であることが確認できた。しかし、そこには保育者、あるいは、関係する大人のかかわり方が重要であり、子ども観・保育観を共有しながら、子どもが自主的に遊びを創出していく過程を援助する役割に徹する必要性が確認できた。また、子どもが森の中で活動する内容には単に自然体験だけの枠に留まらない多様な経験があり、子どもの総合的な発達の全ての部分に関わる場を提供していると考えられた。その上に、自然の中ではそこでしかできない体験も含まれることから、自然との関わりが発達に寄与するものが再確認できたといえる。今後は、保育者に向けてこれらの活動の意義を啓発していく必要が感じられた。最終年度には、同様の活動をしている他団体と、保育現場の教員を交えてまとめの研究会を実施した.各実践者とも自然との関わりの価値を認めそこに子どもの多様な育ちの場認めているが、それを言語化していくこと、また、親にどう向き合っていくかが課題であると確認できた。
著者
橋本 毅彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

戦前日本における空気力学の研究を東京帝大の航空研究所を中心として、友近晋、谷一郎らに注目しつつ、境界層の理論的実験的研究、ならびに特に谷一郎の層流翼の発明に代表される技術開発への応用について検討した。そのために航空学科の学生の卒論研究テーマを検討した。またそれとともに、これらの境界層研究の進展にあたって参照された欧米における研究動向についても調査した。
著者
石橋 朝紀子 内田 雅代 岡村 純 内田 雅代 岡村 純
出版者
福岡県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

小児がんを経験した思春期にある長期生存者の弾力性(ストレスをはね返す力)について、面接調査を行った。結果は、自ら病名を親友へ告知していた者は、人の為になることなど明確な目的を持ち、交友関係も良い傾向にあった。告知していない者は、身体的な回復を希望していたが、交友関係は良好ではない傾向にあった。前者が将来への目的を実行できるための看護支援を立案中である。後者については、弾力性を高める看護支援に繋げていくためにも継続調査が必要である。
著者
シンジルト
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

新疆モンゴル牧畜地域には、特定の家畜を売らず屠らずその命を自由にするセテルという慣習がある。セテル家畜の扱い方に関する人々の解釈はその世代や地域によって異なるが、全体としてはセテルを行うのがよいとされる。動植物を含む万物の中に幸運を意味するケシゲという存在があり、セテルを行えばケシゲが集まるという認識こそ、彼らの自然認識の基礎を成す。この認識の特徴は幸福を追求することにある。そこで、幸福は人間だけでは達成しえないことが分かる。
著者
北原 淳
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

タイのミャンマーとの国境県の広域調査をふまえて、ミャンマー労働者が集中するターク県を対象に選び、各業種におけるミャンマー労働者の移動、労働、生活状態についての調査を行った。先行調査研究は繊維関係の工場労働者に集中しているので、これ以外の業種として、農業、建設、商業等を選んで、それらの分野の労働者についても調査研究を行った。手法として調査票とフリー・インタビューを併用した。産業構造の点では、ターク県はタイでは有数の繊維産業の集積地であるが、これは、ミャンマーから流入する低賃金労働者を求めて、外国、タイの工場がバンコク周辺からこの国境県に移転したためである。基本的には、賃金支払い制度は出来高払いである。労働条件が相対的に良いのは工業省への登録工場であるが、現地には工業省への未登録の工場・作業所も多く、そこでは労働者の労働条件はより厳しい事例が多いもようである。国境県の農業は、平地水田、山地畑地ともに、ミャンマー人、カレン人が農作業を行い、彼らは農地の中の掘立住宅に住み、タイ人農民は自らは全く農作業はせず、彼らの労働の統制・監視役に徹する。建設労働、商店、等の労働もほぼ同様の状況にあり、タイ人労働者は統制・監督役である。ミャンマー人労働者の法的立場は、入局管理法の上では不法であり、パスポートも持たないが、労働法の上では、タイ政府の特別措置によって半合法的であり、特定年月によって異なる各種の労働許可証を所持する。
著者
木村 三郎
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

図像学上の写真資料の収集管理の方法については、西洋における伝統を誇る方法を研究し、その調査結果は、放送大学「美術史と美術理論」のテレビにおける放映、ならびに、市販されたビィデオという形で発表している。西洋における20世紀初頭以来の歴史的な展開を紹介し、一方で図像学研究への具体的な応用である、比較論、並びに、主題解読論を論じた。さらに、この研究の延長上で、美術史研究の世界で、特にアメリカを中心にインターネット上に様々な図像上のデータ・ベースの構築が試みられており、それが、わが国においても、自宅、研究室における研究のツールとして十分に使用可能な局面に突入している現状を確認できた。元来が、各美術館が所蔵している作品の写真資料が、現在は国際的な意味を持ったネットで公開されて来ている。この事実は、やはり「美術史と美術理論(印刷教材)」(改訂版、特に2刷)の紙上で取り上げ(Joconde,MNR,San Franciso Museum,他)、一部共同研究の形で具体的な方法の提示をした。また、こうした資料を活用した個別の学術成果としては、宗教図像研究では、聖フランシスコ・ザビエル図像学を研究した。収集した写真資料の比較研究を行ない、特に、ル・クレール作の《インドにおける布教》についての、典拠、並びにその図像学を解明した。また一方では、ザビエルの肖像画の図像展開を調査し、肖像図像のカタログを作成し、また身ぶりの図像解釈上の問題を解明した。この研究に関連した成果としては、聖アウグスティヌスの図像を、〈燃える心臓〉を中心に分析した。他方で、平行して調査を行った西洋の古代史の図像研究としては、プッサン作《ファレリーの教師》についての図像と構図の成立過程を説明しえた。
著者
菅谷 泰行 川浦 孝之
出版者
関西医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究課題は日本、ドイツ、オーストリア、スイスの主に介護付有料老人ホームに暮らす65歳以上の高齢者を対象にして、人生に関するライフストーリーインタビュー調査を実施し、そのインタビューを記録した音声データを文字に起こし、ライフストーリーコーパスを作成した。また、このコーパス化の作業と併行して、ナラティブに関する文献研究、コーパス化したインタビューデータを用いた「語り」におけるフィラーの使用に関する分析、高齢者の心的特徴の比較、デマテル法のストーリー研究への適用の可能性について検討した。
著者
内藤 順平
出版者
帝京科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

この研究課題において、視覚機能に深く関わる網膜神経節細胞の構造とその投射先との間にどの様なチャネルを形成するか、さらにそのチャネルにはどの様な生物学的意味があるのかをオペラント行動を利用して解明することを目的とした。視蓋の特定層に投射する網膜神経節細胞の樹状突起の詳細な形態解析は極めて困難な問題であるが、DiIの逆行性軸索標識とアセチルコリン受容体抗体による蛍光二重標識の結果、免疫標識網膜節細胞はグループIIc、IIIs、IVcに属し、視蓋F層とチャネルを形成した。この内、グループIVcのほとんどが視蓋F層とチャネルを形成することから、F層が動体視の情報処理の責任層となっている可能性が示された。また、グループIcは視蓋のD層と強くチャネルをもち、形態視に関与すると思われる。一方、視床は視蓋とは異なる機能のチャネルを形成した。ペダル押しによるオペラント条件付けはヒヨコでも可能であるが、オペラント行動による形態および色の識別能力をより明確にするために、実験を開始するためのスタートペダルを加え、かつ、手がかりペダルは最初は見えない状態にした。その結果、予め刷り込ませておいた正の手がかりとなる色よりも、実験の際の手がかりペダルの位置によりこだわる傾向を示した。これは我々のオペラント行動によらない色エサ選択実験の結果と符合せず、予期しない結果となった。その説明として、鳥類は後天的な色の刷り込みよりも、生得的に空間内の位置情報により強く惹かれるのではないかと思われる。従って、色についての、恐らくそれ以外でも、オペラント行動による視覚機能の解析には、ヒヨコが位置情報を全く利用できない実験方法を考える必要がある。形態の識別能力は十分明らかにはならなかった。今後も継続して調べる。
著者
森田 直子 高村 昇 工藤 崇
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本課題研究期間において、小型加速度・温度・心電図感知機能に線量モニタリングを搭載したの個人用モニタリングセンサーの開発を行い、システム構築を完成させた。このモニタリングセンサーを用いて、2011年3月11日発生した東北地方太平洋沖地震に端を発して発生した福島第一原子力発電所事故における本学からの救援活動の際、現地で活動した本学から派遣の医療関係者の生体情報管理に応用した。また、本学内に設置の精密型ホールボディ-カウンターを用いて、福島に滞在した長崎からの派遣者の内部被ばくを測定した。特に、事故後初期に測定した被験者からは、短半減期のヨウ素-131をはじめ、ヨウ素-132やテルル-132も検出され、初期の段階での内部被ばくの状況を判断するための非常に重要な結果が得られた。