著者
杉本 厚夫
出版者
京都教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

スポーツの世界は実力だけが評価される世界であると一般的には考えられている。しかし、日本では、選手を選ぶとき、あるいは組織をつくるときには、人的ネットワークであるOB会の影響を受ける。つまり、一見メリトクラシー(実力主義)社会のように見えるが、その背景にOB会組織が機能しているのである。また、スポーツ選手としてのメリトクラシーから撤退した人によって、身体的な能力を問われない新たな代替的な場所として、OB組織が存在し、そのなかで、そのスポーツへの関わり方を強め、再びその中での上昇志向をしていこうとする。あるいは、スポーツ関連の協会でのある一定の地位に付けなかった人によって、新たな地位を確保する集団として、OB会がその対象となることもある。つまり、その世界での権力構造から排除されて人によって、作られるOB会組織という点からして、これらは「代替的加熱」というにふさわしいものである。精確に言えば、スポーツ集団の中で形成された階級文化としての年功序列が、OB会組織の基盤であるといっても良い。さらに、経済的な側面から、OB会の援助に依存することから、そこに権力構造が生起しやすい。しかし、欧米では、OB会は日本の大相撲の「タニマチ」と同じように、パトロンとして存在し、サポーターとして、権力関係を構築することはない。プロ野球では、監督コーチにその球団のOBが多いが、米国のそれは、まったく関係がない。メジャーリーグの選手でなくとも、監督コーチとしての専門的な実力が認められるとなれる。その意味で、日本のプロ野球の組織は、OB会の権力構造を有していると言える。しかし、Jリーグは歴史も浅いこともあり、地元密着型を指向していることもあって、あまり偏ったOB組織を持っていない。今後は各種のスポーツ種目団体のOB会の権力構造について研究していく必要がある。
著者
水井 真治 笹 健児 日比野 忠史 永井 紀彦 清水 勝義 富田 孝史
出版者
広島商船高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

港湾計画においては構造強度や海洋環境など様々な観点から多面的に検討されるが,その中でも最も重要な指標の一つに港内静穏度,特に波浪や風による影響の検討がなされる.瀬戸内海など外洋に面していない海域の港湾の場合,波浪条件が静穏であることから外洋性港湾ほど詳細な安全性の検討がなされているとは言い難い.しかし,著者らは瀬戸内海における港湾において,強潮流時にも船舶が運用困難となる事例から潮流による運用困難な影響も詳細に検討する必要性を示した.当初は潮流による船体運動への影響評価として,静止した船舶が潮流を受けた場合に移動する距離を潮流条件ごとに比較検討した.しかし,実際には船体が桟橋に着桟する局面では舵とプロペラの力を用いて姿勢制御を行う操船方法であり,これらの影響を考慮した船体運動の数値解析法は検討できていない.潮流が卓越する中で運用せざるを得ない港湾の運用限界を定量的に評価するため,舵とプロペラによる操船制御の動作を考慮した船体運動の解析手法へ改良する必要があると考えられる.瀬戸内海の船舶運航者を対象に潮流下での運用の困難度をアンケート調査で把握し,港湾運用の現状を改めて整理した.これをもとに前報で対象とした潮流影響が顕著な離島航路のフェリー港湾まわりの潮流・水質調査を大潮日に数回実施した.さらに潮流中における着桟操船時の船体運動について,舵力,プロペラ推力,ポンツーン衝突時のエネルギー吸収などの影響を再現できる数値計算法の開発を実施し,再現精度を検証するとともに強潮流下における港湾での新たな運用限界の検討方法を提案した.この結果,実際の着桟局面での船体運動を定量的に評価することが可能となり,強潮流が卓越する港湾での運用の困難度を評価する一手法を確立することができた.
著者
春日井 真英
出版者
東海学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

四年にわたる調査研究を通じて至った結果は、十一面観音、牛頭天王(津島信仰)を個々に考えてはならないと言うことであった。これまでは、個々の問題を検討していたが地域を通じて考えてみると、この二柱に加えて地蔵も重要な機能を有していることが伺われるのである。そこには、神仏習合思想に基づく思想を見て取ることができ、この事を解明する手段として「牛頭天王島渡り」の祭文の研究が急務と言うことになる。この祭文に寄れば、津島神は牛頭天王であり、その本地は薬師如来となりそこには行疫神であると同時に施薬を行うという相反する機能を有しているのである。東三河各地を検討してみると素蓋鳴神社(進雄社)が多々存在し、その名を有する神社での祭礼に鬼が顕れるのだが、その鬼達の姿は喜々としている様に見受けられる。また、豊橋市の安久美神戸神明社の鬼祭と地域の宗教施設などを検討してみると、地域全体(ここでは豊橋市)が牛頭天王と十一面観音によって護られているかの様な構造を有していることが判る。この事は、名古屋市も同じであり、名古屋城を中心として各恵方に観音を配置するという構造とも重なるのかも知れない。とくに、尾張部では鬼こそ出ないものの山車によって天王(津島あるいは牛頭天王)が祀られている事を考えれば、東三河地区での様に鬼の顕れる祭祀が、山車という象徴的な祭祀に変化してきていることが伺われる。
著者
下條 英子
出版者
文京学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

昨年度行った研究では、「自覚的な選好判断に先立つ眼球運動のパターンから、その直後の判断が予測できるか」という仮説をたて、健常成人の選好判断課題(強制二肢選択)遂行中の、眼球運動を計測した。その結果、ボタン押しによる選好反応に1秒弱先だって、最終的に選ぶ側への注視確率が急激に上昇していき、80-90%のレベルに達したところで自覚的判断/反応がなされる、という「視線のカスケード効果」を見いだした。視線のカスケード効果が、顔や幾何学的図形に留まらず、より現実的で人工的な刺激、たとえば商品などでも一般的に見られることを示す予備的なデータを得たので、そのことを確認する実験を本格的に行い、現在論文草稿にまとめる段階である。具体的には;(a)指輪、あるいは腕時計の写真を視覚刺激として用いた選好課題(二肢強制選択)を課したところ、従来の刺激と同等に明確な視線カスケード効果を認めた。(b)さらにより現実的な状況(たとえばインターネットショッピング)に近づけるため、一画面に四つの商品(指輪、または腕時計)が提示される四肢強制選択課題にしたところ、依然として視線のカスケード効果が見られたが、従来の80%超の視線の偏りと比較して、最大38%程度にとどまった。(c)四つの選択肢に対応する神経信号が、具体的にはどのように競争しひとつに絞り込まれるのかを知るヒントとして、新たな解析法(「視線エントロピー解析」)を適用した。これは一定の時間スロット毎にいくつの対象に視線が向かったかによって、エントロピーが定義できることと、対象数の多寡に応じてこのエントロピーの値がシステマティクに変わることを利用した解析で、我々の創案による(選好に限らず、また認知科学に限らず、他のあらゆる多肢選択の状況に適用できることに注意)。この解析の結果、多くの場合(被験者/試行)に、選択プロセスはいわゆる"winner-take-all"(勝者が他のすべてを抑制する)の形をいきなり採るのではなく、むしろ「予選-決勝型」(有力候補がふたつ残り、このふたつの間で決勝が行われる)を採ることが推定できた(この点に関する教示は、一切与えていない)。他に類例を見ない、ユニークな成果である。
著者
平川 正人 吉高 淳夫 市川 忠男
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

ユーザインタフェースは従来の文字主体のものから視覚情報を用いたものに移り変わってきている.更にマルチメディア技術の進歩は,音や動画なども交えた,よりユーザ親和性に優れたインタフェースの提供を可能にしている.ただし対話メディアに複数のメディアを活用するだけでは真に使いやすいシステムとは言えず,コンピュータ処理の質的改善が欠かせない.本研究では,そのような目標に向けたひとつのアプローチとして,コンピュータに社会性を持たせるための基礎的研究を行った.社会性の提供に向けては,まず人間の置かれている“状況"というものをコンピュータが把握する必要がある.そこで状況についての検討をおこない,意味内容の違いから状況を3つのレベルに分類した.さらに,状況認識に基づいた情報管理・アクセスのための基本的枠組みを提案した.また,画像ならびに音声が提供し得る意味について詳細な検討をおこなった.各種メディアデータとして得られる情報を統合し,より高度な状況理解を実現するための研究を進めた.実際に音声,音,映像から各種の特徴データ抽出実験を行なった.さらに,音と映像以外の状況認識の手だてとして,物理的位置の利用可能性について検討をおこなった.位置認識デバイスにGPSを用いた実験の結果,位置情報は状況認識にあたって極めて有効に機能することを確認した.一方,人間とシステムの関係に注目するだけでなく,人間と人間の間で交される対話の過程への状況の利用促進を図ることを目標に,物理的に同じ場所を共有する人間同士の間での情報交換を支援する機能を開発した.プロトタイプシステムの構築を行い,提案した手法の有効性を確認した.
著者
澤田 学 山本 康貴 浅野 耕太 松田 友義 丸山 敦史
出版者
帯広畜産大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究は,各種の表明選好法を社会的関心の高い食品安全性問題に適用し,分析対象とした安全性・環境対応に係る属性に対する支払意志額(WTP : Willingness to Pay)の計測を通して,わが国消費者の食品安全性に対する選好の構造を実証的に明らかにした.分析対象とした具体的な属性は,(1)原産地や遺伝子組換え原料情報(地場産牛肉,生鮮野菜の原産地表示,遺伝子組換え作物の含有率),(2)牛乳製造に関するHACCP認証,(3)サルモネラ食中毒(サルモネラ・フリー卵),(4)トレーサビリティ(生鮮野菜,牛肉),(5)農業生産における環境負荷情報(家畜ふん尿処理対策,野菜の有機など特別栽培方式)である.分析の結果,HACCPラベル付加牛乳は,通常製品の価格よりも5〜10%高い評価を得ること,地場産牛肉の価値を高める第1の要因は,新鮮さで,次いで,安心,おいしさ,廉価性,安全性の順であること,ミニトマトのトレーサビリティに対するWTPは有機栽培野菜に対する評価額の4割程度であること,牛肉のトレーサビリティに対するWTPは牛肉購入価格の5%前後であること,非遺伝子組換え枝豆に対するWTPは遺伝子組換え作物含有率表示に影響を受けるが,含有率のある程度の減少幅については同一のものとみなされていること,せり実験による食品安全性に対する消費者のWTPは,新たに開発したネットワーク型のせり実験システムにおいて安定的で精度の高い結果が得られること,などが明らかにされた.表明選好分析では,被調査者からアンケート調査や実験によって食品安全性やグリーン購入に対する支払意志額を表明させるため,アンケート質問票の内容や実験環境が分析結果に大きく影響する.本研究では,分析課題にそって体系的に回答者の選好表明を引き出すように綿密・周到に設計されたアンケート質問票およびせり実験方法も公開した.
著者
桂華 淳祥 浅見 直一郎 松川 節 松浦 典弘 藤原 崇人 井黒 忍 加藤 一寧 清水 智樹 福島 重
出版者
大谷大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

仏教関係碑刻を詳細に検討するため定期的に研究会を行った。また現地調査を実施し、碑刻の実物を検証して研究会で問題となった事柄を補足するとともに新たな史料の入手に努めた。これらの活動の成果を纏めたものが、27の碑刻の全文を正確に録文・読解し、そこに記される重要な語句に注を付した「金元代石刻史料集-華北地域仏教関係碑刻(一)-」である。
著者
木村 光江 前田 雅英 亀井 源太郎 堀田 周吾
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究では,来日外国人犯罪の現状の把握と対策,出入国管理の変遷,来日外国人犯罪における国際協力のありかたを検討した。その結果,(1)出入国管理体制の変化に伴い,外国人人口が急増し,それに伴い不法滞在者が増加し,入管法違反のみならず刑法犯も増加したこと,(2)来日外国人犯罪の増加が特に著しかった地域は,外国人就労者を多く雇用している企業が集中している地域であったこと,また(3)捜査共助,犯罪人引渡も相当数行われていることが明らかとなった。
著者
佐藤 忍
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

中東における建設ブームが生み出した海外雇用の機会は、資産形成の点でも、職業上の地位においても、魅力的な選択肢であり、国内における労働力利用率が3人に2人と低いフィリピンにとって、いわば千載一遇のチャンスであった。有力な後盾に恵まれた渡航チャンネルをもつ者のみが、この機会を享受しえた。1980年にはじまるフィリピン国内の経済危機は、海外雇用による外貨獲得を国際収支の救済策として浮上させた。すなわち、労働力輸出の開始である。1982年におけるフィリピン海外雇用庁創設は、その制度的な表現である。労働力輸出の本格化は、海外雇用の魅力が低下する過程でもあった。海外雇用は、生活維持のためのきわめて現実的な選択として一般化したのである。賃金水準は低下し、雇用期間は短縮した。73年時点で13万人にすぎなかった海外渡航者は、83年には40万人、91年には63万人へと雪だるま式に膨らんだ。渡航チャンネルをもたない者は、不正規のルートを開拓した。中東以外の渡航先として東、東南アジアの比重が高まった。同時に、海外雇用の女性化が進展した。海外雇用は、いまや2つのタイプに分極化している。船員、看護婦等の専門職種は、賃金水準や斡旋経費の負担といった点で、いまなお魅力を保持している。渡航者のおよそ3人に一人がこのタイプに属する。労働力輸出によって生み出された新型職種として、エンタテナ-やメイドといった不安定職種がある。渡航者の3人に一人を占めるまでになっている。不安定職種の危険性は、労働者保護への政策的な取り組みの緊要性をフィリピン政府に痛感させた。労働力輸出は、フィリピン経済の危機によって本格化し、海外雇用の変質と分極化とをもたらしたのである。
著者
松本 耕二 田引 俊和
出版者
山口県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、スポーツ活動に関わるボランティアの専門性を活動特性や活動意識との関係性に着目し類型化を試みことを目的とした。そこで障害者スポーツを推進する国際組織にかかわるボランティアを対象とした質問紙調査を実施した。スポーツにかかわるボランティアの活動特性(業務内容、活動期間、取得資格)と専門性(活動知識、活動適応感、報酬業務)との関連を分析した結果、地域で日常的かつ継続的に活動するコミュニティボランティアは、短期間、一過的な活動参加のイベントボランティアに比べ専門性意識が有意に高かった。また専門性意識には対象となる活動への興味・関心とスポーツ関連資格の有無が有意に関連していることが明らかとなり、関連資格取得がスポーツ・ボランティアの専門性に影響していることが示唆され、イベントボランティアとコミュニティボランティアの相違を確認した。
著者
斉田 智里 小林 邦彦 野口 裕之
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

英語教育の効果を測定・評価するために、項目応答理論(IRT)と構造方程式モデリング(SEM)の使用が有用であることを実証的に示すことができた。IRTを用いた大規模テストで高校生や大学生の英語力を測定し、英語力の大きさや変化の要因をSEMを用いて検討した。その結果,学習指導要領の変遷や入試科目の変更、大学英語教育カリキュラムの変更が、高校生や大学生の英語力に大きな影響を及ぼしていることが示された。言語プログラムにおける教育評価情報の収集・分析・評価のシステムを構築した。
著者
前多 康男
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

劣後債のプレミアムの変化は,金融機関の財務状況を適確に反映していることが明らかになった.つまり,劣後債の規律付けに関しては,金融機関の財務内容を基本とするものとなっており,また,預金上昇率も金融機関の財務内容などのハードデータを反映するものとなっている.これらの実証結果から判断すると,我が国において市場規律は十分にその働きを期待できる状態にあると結論付けられる.
著者
石井 光夫 鈴木 敏明 倉元 直樹 荒井 克弘 夏目 達也
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

・本研究は,中国,韓国,台湾,香港,シンガポールなど,いわゆる中国文化圏に属する東アジア諸国・地域を対象に,大学入試の多様化という視点から,その制度や改革動向を調査分析したものである。・我が国が過度の受験競争などへの対策として「選抜方法の多様化」「評価尺度の多元化」を方針の下に大学入試改革を展開してきた経緯から,同じような問題を抱え,改革を試みているこれらの国・地域の大学入試と我が国のそれとを比較検討することによって,我が国の入試改革に参考となる視点を得ることが本研究の狙いであった。・本研究では,実地調査や文献調査によって1)一般選抜における選抜方法・判定基準,2)特別選抜(推薦入学や我が国のAO入試に類似する大学独自の選抜等)における選抜方法・判定基準,3)高等学校との連携協力(広報活動,高大連携活動)のそれぞれの項目を柱に,政策方針,制度改革等のあらましを把握したのち,とくに「入試の多様化」という観点から,改革の背景や経緯,改革の具体的措置,個別大学の入試実態等を明らかにするとともに,各国・地域における共通性や特徴,問題点などを整理分析した。・報告書においては,とくに入試多様化を精力的に進める中国,韓国,台湾について,その共通点と相違点を比較分析し,我が国入試改革にとっての新たな視点をいくつか提示した。結論としては,我が国及びこれらの国・地域では同じような動機・目標を持って入試の多様化を進めており,多様化の度合いにおいては我が国は進んでいるとみられるものの,学力の担保,公平性確保のための情報公開になお課題をもつことを指摘した。また,我が国の入試改革にみられない「教育格差・社会経済的に恵まれない層への配慮」といった観点を韓国や台湾などの例によって指摘した。
著者
大貫 繁雄 大塚 友彦 清水 昭博 城石 英伸 西村 亮 小坂 敏文
出版者
東京工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では,技術者を目指す学生のモチベーションを向上させるため,15歳という低年齢から学生の意識を「頑張ること=達成感を得るための第一歩」が「嬉しい(さらなる向上へ)」という状態に遷移させる仕組みを提案する.まず,現行の新入生専門導入科目「ものづくり基礎工学」の現状分析を学生意識調査により,入学当初から,複合・融合的視点を修得する意義を認識する学生が多いことが明らかになった.次に、社会ニーズ(環境やエネルギー等)の高い分野の基礎実験テーマを組み込み、社会で望まれる技術者像の理解向上を試みた.学生の意識調査から社会ニーズの高い分野への関心や社会で望まれる技術者像についても高い認識を持っていることが明らかになった.最後に,社会人技術者から構成される人材バンクを立上げ,外部教育力を活用して,「ものづくり基礎工学」の授業の一環として設計・製作物の発表会(競技会),講演会等を実施し,学生の自発的な発想力や行動力向上のための新しい授業形態を検討した.学生意識調査から,現場技術者から実務能力について講演を受けることで、技術者意識について共感する学生が多い結果となった.
著者
小林 満
出版者
京都産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

絶対王政の理論的な正当化が進んだ16~17世紀、カンパネッラはキリスト教的都市国家を目指し、ブルーノも社会改革に触れたが、両者とも自由に哲学することを禁じられ迫害された。『偽金鑑識官』における原子論もガリレオを異端者と判断する原因となったが、異端審問後には、ガリレオは数学的議論として不可分者と無限について論じているものの、有限の人間の知性は無限を理解できないという慎重な態度も見せた。ガリレオ裁判後、イタリアのガリレオ派には、マガロッティのようにリベルタン的テーマにも取り組んだ者もいたが、マルケッティによるルクレティウスの翻訳は、原子論的性格のために出版を許可されなかった。
著者
米倉 達広 住谷 秀保 米倉 達広
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

1. 筆者らは、最近その応用が盛んとなっている仮想空間構築の方法論を、視覚、聴覚、触覚の融合方法に関する理論的基盤を確立することにより達成しようとする。本報告ではそのための主たる予備実験として、個々の感覚モードを互いに分離し、それぞれが視覚機能をどのように代行するかを調査した。このための第1段階として人間の聴覚機能に着目し、視覚機能を主体とする空間認知の感覚機能をこれに代行させることを試みた。すなわち、音響媒体を用いた3次元位置情報の提示と3次元動作情報入力を用いた3次元空間インタフェースを提案し、視覚媒体を失った場合においても整合感のあるインタフェースを用いることにより、簡単な訓練のみで十分な空間認知が可能となることを実験的に証明した。これにより、視覚メディアの空間認知機能の補助として聴覚メディアの重要性を確認したのみでなく、聴覚メディアのみによる仮想空間走査性を示唆した。2. 次に触覚提示装置を用いた空間認知方式を考案し、これによる周囲障害物までの距離感覚提示を試作した。具体的には、人間の蝕覚特性を独自の方式で計測し、そのうえで視覚情報を遮断した状態で同装置を用いて周囲障害物回避を伴う歩行実験を行った。その結果、適切なインタフェース方式を用いた場合、触覚メディアが視覚メディアの適切な代行機能となり得ることを示唆した。これらにより視覚的な障害を有する操作者や視覚機能低下者のための情報機器操作、生活環境把握の一助として、聴覚メディアならびに蝕力覚メディアが十分利用できることを主にタスクパフォーマンスを用いる方法論により確認した。3. 更に、各種の利用目的に応じた仮想空間の構築に際して、感覚統合を有効に用いた幾つかの事例を述べ、仮想空間における感覚統合の重要性とそのための方式についてまとめる。有効な仮想空間を構築する際、人間のもつ環境適応能力による感覚代行機能は極めて重要なヒューマンファクタであり、今後はネットワークインフラまでをも含めた分散仮想環境(Distributed Virtual Environment)構築に関するヒューマンファクタを調査していきたい。
著者
大野 寿子 野呂 香 早川 芳枝 池原 陽斉
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

『メルヒェン集』、『伝説集』の森の特性を検証しつつ、グリム兄弟の「理念としての森」の意義を、「生の連続性」という観点から明らかにした。言語、歴史、文学、文化における「古いにしえのもの」の喪失を森林破壊プロセスにたとえ、「古いにしえのもの」の再評価の重要性を説く彼らの自然観および詩ポエジー観は、19世紀エコロジー運動の理念における先駆的地位を担いうる。伝承文芸に必要な想像力の豊かさとは、心情としての内面的「自然」を豊かにする「癒し」の力を有する意味で、現代社会における「心のエコロジー」にも繋がりうる。
著者
吉田 毅 山本 教人
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

一流選手のキャリア・パターンを明らかにするために、16校の一流サッカー選手たちを対象に調査を行った。また、スポーツキャリア形成過程をめぐる日本的特徴を明らかにするために、ユニバ-シア-ド競技大会参加選手を対象に国際比較調査を行った。ここでは、紙幅の都合上、前者についてのみ報告する。選手たちは非常に早期から、ほとんど独占的にサッカーと関わっていた。生活においても、小学校時代よりサッカーが中心を占め、また多くが一流選手になりたいという指向性を持っていた。彼らの主たる活動の場は、地域や学校のクラブであった。始めるきっかけは、自分の判断やメディア、友人の影響が大きかった。サッカーとの関わりで中学校への進学を考えた者は少数であったが、多くの者にとって、進学する高校の選択には、サッカー環境は重要な要因であった。現在、4割以上が遠征に年間1月〜2月を費やしており、そのことが将来の進学や就職、勉強への不安となって現れているようであった。卒業後は4割以上が大学への進学を希望しており、すぐにプロとして活躍したいとする者は意外にも少なかった。スポーツ選手のリタイアメントについては、過去に大学で活躍した人々を対象に調査を行った。その主な結果は次のようなものであった。彼らは大学時代、生活の多くを犠牲にして競技に取り組んでおり、4割以上が将来一流選手になることを強く願っていた。2割は、大学への進学はスポーツの推薦入学であった。8割近くが大学卒業後も実業団・教職員チームなどで競技選手としての活動を続けていた。引退の決断は自発的なもので、体力や意欲の減退、時間的な制約などが主な理由であった。多くは、競技生活について後悔の念を抱いてはいなかった。引退後の職業生活上の困難を感じている者は少数であった。これは、多くが体育やスポーツに関わりのある職業を得ることができたためと考えられる。
著者
深尾 葉子 安冨 歩 安冨 歩
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究により、現地における通年の農作業調査を行い、また社会的コンテキストに働きかける緑化実験として、「黄土高原国際民間緑色ネットワーク」の活動を支援、参画し、観察を行った。同活動は、陝西北部楡林市一帯で、着実に活動を定着させ、広がりを見せており、地域の文化的社会的コンテキストに依拠した自律的自発的緑化モデルとして、貴重な事例となっている。現在一連の活動の成果を、『黄土高原生態文化回復活動資料集』としてまとめており平成21年度中に東京大学東洋文化研究所および風響社より出版予定である。
著者
伊東 久之
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

鵜飼は飼い慣らした鵜をたくみに利用して魚を獲る漁法である。この漁法は中国と日本において盛んにおこなわれ、一部は東南アジアからインドまで広がっている。両国の鵜飼はほぼ、同類と思われてきた。そのため、日本の鵜飼は中国から伝わってきたとする考え方が一般的である。しかし、両者の間には大きな違いがあるのである。長江にそって中国南部に広く分布する鵜飼は、鮎を獲る漁ではない。中国に鮎はいないのであり、鯉科の魚を獲るのである。この獲物の違いは、鵜を獲る漁法と鵜の日常生活に大きな差をもたらしている。日本の鵜飼が夏に行われるのに対して、中国の鵜飼は冬をシーズンとしている。中国に限らず、鯉は年中川にいて、晩春に産卵する。中国ではこの時期を禁漁とする。一方、日本の鮎は秋になると産卵のために川を下り、春に子供が遡上するまでの間、川には魚の姿がほとんど見られなくなる。このことは日本の鵜飼の漁期が短かいという結果をもたらす。しかし、最も大きな問題は、魚が減少する冬の間,鮎をどうやって食べさせていくかを考えなければならないことである。鮎の越年方法を持たない鵜飼は、日本では成り立たない。これが中国の鵜飼と大きく異なる点である。こうした観点から、日本での鵜の越年方法を全国的に調べてみた。そこには三つの方法が見出される。一つは秋になると鵜を海に戻す「放鳥方式」。二つめは海辺に預ける「里子方式」。三つ目は鵜とともに漂泊の旅に出る「餌飼方式」である。このように、さまざまな越年方法が各地で編み出されているということは、この漁法の歴史の長さを感じさせる。また、中国からの伝来説も、単純な移入でないことがわかり、簡単に決めつけることができなくなった。ともかく、鵜飼が鵜と鮎の習性の中で営まれる巧みな技であることが再確認された。