著者
森野 聡子
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

同じケルト諸語地域であっても,民衆の口承文化に民族的ルーツを求めるスコットランドやアイルランドとは対照的に,宮廷詩と写本文化を文学的規規範としたウェールズで散文説話マビノーギオンが国文学として正典化される過程を調査し,ウェールズ国文学観の変遷とその背景にある我々意識について考察した.その結果,アーサー王ロマンスに代表されるヨーロッパ文芸の祖,原ヨーロッパの神話としてマビノーギオンを定義するウェールズ知識層のアイデンティティ・ポリティクスが検証された.ローマの書記文化の洗礼を受け,イングランドとも接触の多いウェールズのナショナリズムが,他のケルト地域とは異なる表出を見たことが確認された.
著者
小林 恒夫
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

3カ年の研究をまとめると以下のようになる。モチ米の生産面では、これまでのモチ米の主産地は大きく変化し、今日でも変動過程にあるが、大きく整理するならば、1960年代までは、北関東が最大のモチ米産地であり、そこでは主として陸稲モチ米が栽培されていた。もう1つの産地は古くから稲作産地であった新潟県であった。しかし、米過剰・稲作生産調整が開始される1970年代以降、陸稲モチ米産地であった北関東の産地は大きく後退した。それに対し、新たな産地として北海道と佐賀県が台頭してきた。そして今日、北海道、佐賀県及び新潟県が三大産地となっている。しかし近年、岩手県が生産量では新潟県を上回るに至り、また熊本県の生産量が新潟県に接近してきているという新しい状況も生まれてきており、モチ米主産地は常に変動のさなかにおかれている。加工面で見ると、モチ米の二大加工用途は米菓と包装餅であり、その業界は共に新潟県に集中している。うち、米菓は、亀田製菓によるガリバー型寡占構造を、包装餅は佐藤食品による同様の構造が形成されている。ただ、包装餅は農家グループや米屋による加工・販売も広範に見られ、直売所の増加等と結びついているという特徴が見られる。こうして、包装餅の市場構造は、いわば二重構造を呈している。流通面では、上記の北海道産モチ米は主として東日本へ、佐賀県産モチ米は主として西日本中心に流通している。一方、加工品の米菓は全国流通を基本としているが、包装餅には一定の棲み分けが存在している。消費面では、食の多様化の中で、米菓はスナック食品に押され、包装餅の消費も減少傾向にある。また、見過ごせない状況として、1993年米凶作を契機とするモチ粉調整品や米菓の輸入量増加、95年からのミニマムアクセス米の受け入れに伴うモチ米の輸入量の増加によって、モチ米も輸入物との競争が激化し、我が国のモチ米市場はますます激変する時代へと突入している。
著者
田中 雄次 加藤 幹郎
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

1.本研究の目的:1919年-1933年におけるワイマール期のドイツ国民映画の変容と展開を、主要な作品の分析とともにハリウッドとの関係において検討することであった。2.実施した研究計画の概要(1)2006年および2007年の7月に研究代表者と研究分担者が、熊本大学においてそれぞれの年度の研究に関して事前調査の打ち合わせを行った。(2)研究代表者は、2006年度及び2007年度の8月下旬から9月上旬にかけてドイツのフランクフルト映画博物館及びベルリンの映画博物館において学芸員の協力を得て、主要な研究対象であるワイマール中期(1924-1927)の映画作品に関する資料収集を行った。研究分担者は、おもに東京国立近代美術館フィルムセンターとアテネフランセにおいて、フィルムセンター研究員の板倉史明氏の協力を得てワイマール後期(1928-1933)の映画研究を行った。(3)研究代表者は、2007年12月1日(土)に開催された第3回日本映画学会(於:京都大学)において、「ドイツ国民映画の典型としての『ニーベルンゲン』(1922-1924)」の講演を行った。3.研究の意義とその重要性:研究代表者は2008年3月に『ワイマール映画研究-ドイツ国民映画の展開と変容』(熊本出版文化会館)を出版した。本書は、日本におけるワイマール映画に関する本格的な研究であり、今後の研究の基本図書になりうると確信している。
著者
森 和憲 南 貴之 東田 洋次 村上 純一 小野 安季良 長岡 史郎 高吉 清文
出版者
詫間電波工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

平成17年度、18年度の開発と実践により完成されたビデオ教材、練習問題を一つのパッケージとして、教材化し、DVDおよびインターネットを通じて配布した。作成された教材は以下の通りである。(1):情報通信工学、電子工学、電子制御工学、情報工学、数学、物理学に関するビデオ教材それぞれ5タイトル、計30タイトル(2):各ビデオに登場する新出・重要英単語の学習教材、内容に関する質問、および重要文法項目・英語表現を理解する教材(3):(1)および(2)を通常の授業で指導できるようにしたパワーポイントのスライドセット(4):(1)および(2)をインターネット上で学習できるようにしたウェブサイトの公開当研究の研究成果は全国高等専門学校英語教育学会等の学会で発表され、査読つき論文は『高専教育』第31号に採用された。さらに、勤務校と提携しているDONYANG TECHNICAL COLLEGEの取り計らいにより、韓国最大の電子機器の国際見本市の一つであるKorean Electronic Show 2007で研究成果の一部を展示・発表することが出来、おおむね好評を得た。
著者
安松 みゆき
出版者
別府大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、ドイツ第三帝国時において日本美術がどのように受容されたのか、その展開を考察するものである。近代のドイツにおいて最も日本と緊密な関係を保持したのは、日本と同盟を結んだドイツ第三帝国の時期であった。この時期にドイツは美術や文化を政治戦略に組み入れており、第一次大戦時には帝国であった日本のイメージを変えるためにも日本美術もその戦略と無関係ではなかったはずだが、そうした問題意識が従来認められず、研究にはいたっていなかった。本考察では、特に政治戦略の問題に焦点をあてて検討をすすめた。その結果は、学術雑誌にまとめているように、つぎのような内容となった。第一に、1939年に日本美術受容の最大のイベントとなったベルリンでの日本古美術展覧会が開催されたのち、ドイツでは、民衆をキーワードとして、美術をとおした交流でなく、映画などの文化という、より幅の広い分野において日本との密接な関係を保持していったことが、ドイツの美術史家ルムプフと日独文化協会の活動によって明らかになった。第二に、文化協定の下で開催された展覧会の再考をとおして、美術品が政治性を担うことでその意味と質を変えていくことを確認し得た。その際に、展覧会が政治性を強く帯びるのは、ドイツ政府が後援となったときよりも、ドイツの宣伝省がかかわった例であったことが把握できた。第三に、第三帝国時の主要都市であるベルリンとミュンヒェンの文化的歴史をふまえて考察することから、日本美術がベルリンでは美術史家の中心的活動によって、西洋美術と同等の価値を与えられて理解されたのに対して、ミュンヒェンでは、美術をも包括する民族学の文脈で把握されていたことを確認し得た。第四に、日本美術を、西洋美術と同等のレヴェルで評価した研究は、ユダヤ人の日本美術研究者の成果に多くを追うことを理解した。第四に、新たに入手した映像資料をとおして、メディアを活用して日本美術が政治的に利用されたことを確認した。
著者
加藤 房雄
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

「東エルベ農村社会とドイツ農村・都市関係史とりわけ都市近郊農村史の実証的比較研究」に関する研究経過と成果は、およそ以下とおりである。(1)図書整備については、とりわけ「ベルリン圏の都市近郊農村史」に着目して、エッシャーのブランデンブルク史論、あるいは、ホーフマンの自治体論に関する新刊書や基本文献の収集と整理に努めた。(2)文書館・図書館調査は、計画どおり、主としてポツダム・アルヒーフとベルリン国立図書館を中心に行った。アルヒーフ調査に際しては、「ドイツ学術交流会」の財政的援助も得ることができた。(3)研究発表としては、平成12年6月4日、「プロイセン都市近郊農村史とベルリン」をテーマとして、「ドイツ資本主義研究会」で報告するとともに、翌平成13年5月12日には、「ベルリン圏の都市化と近郊農村の地方自治」と題する学会発表を、「土地制度史学会中四国部会研究会」において行った。(4)研究論文の主要な成果としては、「プロイセン都市近郊農村史とベルリン-テルトウ郡の鉄道建設と世襲財産所領」(『土地制度史学』第172号所収)を公表することができた。また、新稿「ベルリン圏の都市化と近郊ゲマインデの自治-19世紀末〜20世紀初頭期テルトウ郡の実態に即して」の『社会経済史学』第68巻第1号への掲載が、決定している。平成2年刊の拙著『ドイツ世襲財産と帝国主義-プロイセン農業・土地問題の史的考察』以降、10年有余の間、積み重ねてきた成果の一つの集成として、現在、新著『都市史と農村史のあいだ-ドイツ都市近郊農村史論序説』(仮題)の出版を計画している。同書は、前編 ドイツ大土地所有の歴史的役割、そして、本研究の主要な成果が系統的に展開される後編 ドイツ都市近郊農村の史的個性、の2編構成をとる予定である。
著者
岡上 雅美
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、刑罰目的の観点から行う量刑事実の「選別」すなわちどのような量刑事実がどのような理由において量刑上考慮されることができるのかの問題を、刑罰論その他犯罪論の知見を通じて検討しようとするものである。(1)刑罰論の再構成および(2)犯罪後の量刑事実を取り扱う。(1)では、ドイツの議論を中心にして、「法の回復」論からする応報刑論の立場から、一定の構成要件外の事実について、それが刑罰論に反映されるべきことを論証した。同時に、予防目的は刑罰の正当化根拠ともなりえないことからそもそも量刑事実として重視することが妥当ではなく、量刑の指針としては不安定であるものと考える。(2)については、いわゆる王冠証人規定について検討を加え、これをさらに発展的に捉えるために、真実発見のための協力的態度のみならず、他の問題としても「被害者との関係」が同じく「規範の妥当性の回復」という刑罰の正当化根拠に基づいて、正当な量刑事情となりうることについて検討した。いわゆる修復的司法に関する研究が近時盛んに行われているが、それを量刑論に応用しようとする試みである。これについてもまた、刑罰目的論との照らし合わせが出発点となる。なお、これらの成果は論文集として今年度中に公刊する予定である。
著者
伊藤 昌司 川嶋 四郎 八田 卓也
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、2年間にわたる充実した研究の結果、次のような研究実績を得ることができた。まず、頻繁に、共同の研究会を開催した。個別具体的な内容は、以下に記載したとおりである。八田卓也「任意的訴訟担当の許容性について」、川嶋四郎「判例研究・遺言者の生存中における遺言無効確認の訴えの利益」、篠森大輔「遺言執行者の地位について」、八田卓也「判例研究・遺言執行者の職務権限が認められた事例」、八田卓也「判例研究・遺言無効確認の訴えの利益」、伊藤昌司「1883年ベルギー王国民法改正予備草案理由書」、川嶋四郎「判例研究・具体的相続分の確認を求める訴えの利益」、松尾知子「遺言事項別・権限別にみた遺言執行」、伊藤昌司「判例研究・遺留分減殺」、岡小夜子「共同相続人間の取得時効」、道山治延「検認と相続資格」等。いずれの研究会においても、家庭裁判所の裁判官および調査官等の参加を得て、活発な議論を展開し、かつ、有意義な指摘や示唆を得ることができた。特に、伊藤は、フランス法系の遺言執行制度の研究の一環として、明治大学の図書館に所蔵されている資料を入手し、ベルギー王国(当時)の1883年ベルギー王国民法改正予備草案理由書中の遺言執行者に関係する部分を調査・研究し、その成果を「訳注付き翻訳・ベルギー王国民法改正予備草案理由書」としてまとめつつある。川嶋は、文献収集を行い、遺言執行者の訴訟上の地位について、比較法的研究を行った。特に、昨年秋、アメリカ合衆国ワシントンDCにて、アメリカ州法における遺言関係の立法資料等の収集活動に従事した。現在、ノース・カロライナ州遺言法の翻訳と分析を行っている。お、当初、共同研究者であった八田は、一昨年、日本における遺言執行関係の最近の最高裁判決を研究し、かつ、ドイツ連邦共和国のケルンおよびベルリンにおいて、遺言執行に関する学説および実務の現況調査に従事した。以上の獲得できた知見がら、日本法における遺言執行者の実体法上および訴訟法上の権限のあり方について、総合的な研究成果を公表する予定である。
著者
原 正昭 高田 綾 斎藤 一之 齋藤 一之 高田 綾
出版者
埼玉医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

テープに付着させた指紋試料からのShort Tandem Repeat(STR)解析を行ったところ、1個の指紋付着試料(約200mm^2大)からでも十分にSTR型判定が可能であることが判明した。次に、メンブレン付きスライドガラスに指紋を付着後、レーザーマイクロダイゼクション装置を用いて指紋の隆線部分を採取し、微量な隆線試料からのSTR型解析が可能であるか否かについて検討したところ、10×6mm大で12~6ローカス、7×4mm大で7~2ローカス、7×2mm大で4~1ローカスのSTR型が判定された。
著者
佐々木 正人
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ある課題を行うときには、その目的の動作とともにそれを支える姿勢が制御されている。姿勢は課題によって調整されるものであり、課題の達成を促進するものであるということが明らかになっている。この身体の習慣の成立を二つの研究で検討した。第1の研究では、配置を変化させる行為の柔軟性のダイナミクスの問題をめぐって,画家の描画行為を検討対象とし,ビデオ観察では記述することが難しい身体運動の時間変化のパターンを3次元モーションキャプチャーシステムによって計測し,非線形時系列解析などの手法を用いた検討を行った.分析の結果,自然な状況でブロンズ像のデッサンを行う二人の画家において,左右に配置されたモチーフと画面の両方を見るという課題を解決する仕方が,画面の変化と描画の進行にともなってダイナミックに変化していることが示された.また,描画行為が埋め込まれた周囲と身体との関係に目を向けると,モチーフを固視する頻度や画家の身体運動は,行為が埋め込まれた周囲のモチーフや画面の配置および画面の変化と独立した要素ではなく,進行中の描画の状況と,環境のさまざまな制約との関係において共起する複数のプロセスのせめぎあいの結果として生じているものであることが示唆された.従来の描画行為の研究のように(e.g., Cohen, 2005),"モチーフを見る頻度"といった単一の変数を切り取ることからは見えない柔軟性の側面が,配置(持続するモチーフと画面の配置,および変化する画面上の線の配置)と行為の組織(見る行為と,鉛筆の動きを画面上に記録する行為)という全体の構造に注目することで浮かび上がってくることを実証的に示した.第2研究では、複雑な視覚-運動課題であると考えられるけん玉操作の事例をとりあげ、熟練者群と初心者群との姿勢の比較を通して、こつを必要とする技において姿勢がどのように制御されているのか、その特徴を明らかにすることを目的とした。研究ではけん玉の技の一つであるふりけんを運動課題として設定した。実験には、けん玉の初心者・熟練者各4名が参加した。初心者群は実験を行う前にふりけんを実行したことがなかった。熟練者群の参加者はみな、日本けん玉協会で実力が最高レベルに達していると認定されていた。実験参加者はふりけんを20回を1ブロックとして10ブロック、合計200回のふりけん試行を実行した。実験参加者のふりけん動作とけん玉の運動が3次元動作解析装置により記録された。分析によると、頭部・膝の運動ともに熟練者群のほうが初心者群よりも単位時間あたりの変化量が大きかった。頭部運動と膝の運動の速度ピークについても、基本的に熟練者群のほうが初心者群よりも大きかった。頭部の運動に関しては、特に垂直方向への運動の違いが両群で顕著であった。玉と頭部のカップリング、玉と膝のカップリングについては、両方とも熟練者群の方が初心者群よりも強かった。各ふりけん試行の最終時点における頭部と玉との距離・膝と玉との距離が試行間で一貫しているのかを調べたところ、頭部と玉との距離については、熟練者群のほうが初心者群よりも試行間でのばらつきが小さかったが、膝と玉との距離については、両群でそのばらつきは変わらなかった。以上の結果から、初心者群では運動する玉に対して身体の姿勢はスタティックなものであったのに対し、熟練者群では運動する玉に頭部・膝がダイナミックに協調するような姿勢を採用していたと言える。
著者
宮永 健史 石塚 亙 藤田 利光 中村 文子
出版者
和歌山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1、実験工作キャラバン隊ボランティア団体「実験工作キャラバン隊」を組織し、地域の小中学校、教育委員会、子ども会等の要請に応じて出かけていき、実験工作教室を開いた。平成17〜18年度中の開催回数は51回、参加学生は延べ352人、教職員は延べ87人で、参加した児童生徒は1849人であった。この児童生徒数には、科学まつりや大学祭等、大きな催しの中の1つの出し物として参加した場合に指導した児童生徒数を含めていないので、学生達が実際に指導した児童生徒数は更に2000人程度増加すると思われる。活動の様子はホームページに公開した。また、レーザープリンタを使って実験工作の説明資料を作り参加児童生徒に配布した。参加した児童生徒の95%が「大変おもしろかった」または「おもしろかった」と答えており、子ども達に科学に親しむ場を提供する上で大きな成果があった。参加学生達も自分たちの「子どもを指導する力」、「子ども達との接し方」が向上したと感じており、教員養成の面でも大きな成果があった。また、いくつかの実験テーマを選び、その学問的基礎、実験方法、実験装置の作成方法、授業展開例、等をまとめたパンフレットを作り学生教育の充実を図った。2、サイエンス・ものづくり指導実習実験工作キャラバン隊の活動を、正規の教員養成カリキュラムに取り入れるため、平成17年度から「教科または教職」科目の1つとして「サイエンス・ものづくり指導実習」(通年集中、2単位)を開設している。平成17、18年度に携わった教員9人、受講生は合計27人であった。学生達は4月から7月の問に「実験工作キャラバン隊」の出向に参加し、実験工作教室を体験した。そして、11月から12月の間に小学校、中学校に出かけていき、各人5時間以上の理科実験やものづくりに関する授業を行った。学生達は、授業する力、子ども達と接する力、実験ものづくりの授業を企画する力等が向上したと評価している。最後に協力校の教諭とのシンポジウムを開き、この授業が学生の実践的指導力を付ける上で大変有効であることが分かった。
著者
鷹野 和美 横山 孝子 古田 睦美 清水 貞夫 鷹野 和美
出版者
長野大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

異なる社会層からなる地域コミュニティの助け合いのしくみづくりにおける、地域通貨の果たす役割を実証的に研究した。具体的には学生および卒業生からなるNPO組織「学生地域暮らしづくり考房こみっと」の交流施設「縁舎」を拠点都市て、長野大学の学生という若い世代の新住民と、長野大学が位置する上田市下之郷地区において住民の主要な構成要素である65歳以上の老人の組織「双葉会」との交流活動が行われたが、そこにおいて、同NPO団体が発行する地域通貨「イクタル」の導入実験が行われた。1.高齢者、地域住民、学生に対するニーズ調査が行われ、その結果に基づいて交流活動および定期的な「御用聞き訪問」、夏野菜の提供による野菜市、脳いきいきテストなどが「イクタル」を媒介として行われた。2.3年間の実験を通して、地域通貨イクタルの周知度、地域通貨の流通量が増大し、これまで交流のなかった異世代間の交流が促進された。交流活動や脳いきいきテスト、かなひろいなどを通じて、高齢者の引き込むりを予防し、助け合いを行うしくみが模索された。3.3年間の実験を終えて、高齢者が、継続的に若い世代と関わる場合の地域通貨のあり方について、利用者調査から考察をいった。異なる社会層が助け合う地域コミニティの形成に、地域通貨の導入が好意的に受け入れられ、威力を発揮することが実証されるとともに、地域通貨システムの改善点や課題も抽出された。
著者
竹熊 尚夫
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、多民族社会における民族教育と多民族共生教育をそれぞれの国・地域と民族学校の事例を通して検討し、民族学校の役割、換言すれば多民族社会の中で持つ機能を明らかにするものである。調査研究を通して次のようなことが明らかとなった。1.民族教育システムがあるレベルまで完結しているマレーシアの中華系独立学校体系では、地域の他の民族系住民との相互関係や政府による教育・支援との補完関係はそれほど強いものではないが、中国語教育という言語教育において、初等段階ではマレーやインド系の生徒を既に受け入れ始め、中等段階では国際的ネットワークの中で華僑移民系の学生をリクルートしている。中華系の民族教育は政府のシラバスの枠中で実施されているが、付加的なアプローチであり、それほど大きなコンフリクトは生じていない。2.認可を受け政府補助も受けているフェイス・スクールの一つである、バーミンガムのムスリム初等・中等学校は、主として地域内の生徒を受け入れている。設置主体の母国との関わりを持ちながら、イスラムネットワークを基盤とした教科書導入が見られる。カリキュラムの中では付加的というより、併存もしくはイスラム的解釈への読替が見られた。3.土曜・日曜の補習校として長年維持されてきたロンドンの中華系補習校は、中華商会の建物の中で、郊外からの子どもを受け入れ、中国語の授業を中心に行っている。中華系コミュニティと地域行政との接点を構成し、公立校の中華系子弟に対する補完的な民族教育を実施している。4.公立学校の敷地を活用しているオーストラリアの中華系補習校は、民族学校として政府補助を受けている。中華系は分散居住であるが、地域の他の民族住民との関わりや中国の大学からの援助も受けている。様々な地域から移住してきた中華系としての集合的記憶の場であり、多民族社会の緩衝装置として機能する可能性が明らかとなった。
著者
箸本 健二
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、地方都市の中心市街地活性化が直面する諸問題のうち、(1)郊外型SCへの行政の対応、(2)ホームページを用いた情報発信、(3)タウンマネジメントをめぐるセクタ間の対立を検討した。(1)については、群馬県太田市と栃木県佐野市を対象とした分析を行い、消費の流失を阻止すると同時に、税収と雇用の確保するため、大規模モールの進出を自治体が事実上「誘致」している点を指摘した。(2)については、大阪市42商店街の34サイトを分析し、買回り品を中心とする商店街が広域情報発信や電子商取引機能を重視するのに対して、最寄り品を中心とする近隣型商店街は地域情報の発信機能を重視すること、自治体のIT対応補助金が導入時期を規定していることなどを明らかにした。(3)については、広島県呉市で実態調査を行い、専任のTMを常駐させることが、新規創業者の定着に大きな効果を持つこと、既得権者である旧来の商業者との調整を図る機関が必要であること等を指摘した。
著者
萩原 守
出版者
神戸商船大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

清代モンゴルの法制史は、ヨーロッパやモンゴル国でのモンゴル文文書主体の文献学的文書研究と日本や中国での漢文法典主体の法制史研究とがすれ違いに終わっており、筆者は双方をつなぐ研究をしたい。例えば文書書式の唯一の研究者ノロブサンボー氏も、清代モンゴルの文書書式を13世紀以来のモンゴル固有の伝統的書式とし、諸外国、特に中国からの影響を無視している。しかし実際には、清代のモンゴル文公文書書式は、13世紀の文書とも16〜17世紀初めの文書とも全く共通せず、モンゴルの伝統を受け継いだだけの物とは認めがたい。清代モンゴルの公文書書式としては、冒頭で発送者、次いで宛先が明示され、その後文書の最終用件が提示された後、ようやく本題部分が始まる。文中では多くの文書が何重にも直接引用された後結論が述べられる。文書の末尾にも定型文言があり、最後に発送年月日が記される。文中では拾頭・平田・閾字等が見られ、口供を記録した別紙が最後に添付されることもある。犯人や証人の口供や甘結の後には、しばしば指紋の押捺等の画押が取られる。さらに法律条文は直接引用され、文書の端々に定型化した特定の細かい言い回しが多数見られる。以上のいずれの書式も、むしろ清代の中国本土での漢文文言とことごとく共通している。従って清代モンゴルの裁判文書を初めとする公文書書式は、モンゴル伝来の書式というより、満州文文書を介して中国本土から導入されたと考えるべきである。そのことは、「必要的覆審制度」や「州県自理の案」の存在、「検尿をsirqaci(?作)が『洗冤録』を用いて行う点」等々、裁判制度面におけるモンゴルと中国本土との共通性からも確認でき、文書書式と制度とが一括して導入された可能性が高い。その導入時期の問題はいまだ不明なので、次の課題となろう。
著者
川崎 浩二 高木 興氏 飯島 洋一
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

目的:1)小・中・高校生における顎関節症状の実態を明らかにする。2)生活習慣・習癖などの諸要因と顎関節症症状との関連性を明らかにする。3)定期的な習慣習癖の改善を目的としたカウンセリング等の指導によって,顎関節症状がどのように改善するかを把握する。調査対象と方法:1)長崎市内の小・中・高校生4502名を対象に,Helkimoの顎関節問診をベースにして習癖の実態も含めたアンケートを実施した。2)中・高校生を対象に実施した顎関節症の7自覚症状ならびに習癖等に関するアンケートから,各自覚症状の有無を目的変数に習癖等の18項目を説明変数として多重ロジスティック分析を用いて自覚症状に関わる要因分析をおこなった。3)某女子中学校生徒全員291名を対象に,4月に顎関節に関するアンケートを実施し,自覚症状を有する合計53名に対して7月,10月,2月の年3回,顎関節に関する保健指導を実施しながら,症状の経過を経時的に評価した。結果:1)顎関節に自覚症状を有している者の割合は,小学校低学年で3.5%,小学校高学年で7.7%,中学生で19.8%,高校生で22.8%であった。2)顎関節症の7自覚症状のうち6つが「顎を動かして遊ぶ」という習癖と有意な関連が認められた。中学生においては4自覚症状が「くいしばり」と有意な関連が認められた。3)調査開始の4月における顎関節自覚症状を有する者の割合は中学1年生:13.1%,2年生:16.1%,3年生:29.3%であった。1年間の指導後の予後は治癒,改善,不変,進行の順で1年生:54.5%,27.3%,9.1%,9.1%,2年生:18.8%,62.5%,18.8%,0.0%,3年生:61.5%,15.4%,15.4%,7.7%であった。指導による治癒・改善率は約75%〜80%であった。
著者
福浦 厚子
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

喜捨や慈善という社会に深く関わる行為を、モースの互酬性の概念を一つの手掛かりとして検討した。シンガポールの喜捨と慈善の特徴の一つは、近隣諸国からも関心が寄せられるほど活発な点である。その仕組みと社会における機能を明らかにした。またもう一つの特徴として2004年にシンガポール全国腎臓基金で起こった慈善に関わる一連の出来事と、慈善に対する市民からの理解おけるパラダイムシフトを取り上げ、合わせて検討した。
著者
南 保輔
出版者
成城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1990年から91年にかけてアメリカにある日本語補習授業校に子どもを在籍させた海外帰国家族の「その後」を調べた。教育経歴を見ると、海外生活で獲得した英語力を生かしたり帰国子女枠を使ったりして日本の有名大学に在籍した子どもが多かった。他方、大学卒業後の職業経歴には大きなばらつきがあった。国際的に活躍している人もいれば、「ふつうの日本人」としてその職業を務めている人もいた。海外生活経験をどのように位置づけているか、その見方は本人も父母も分かれた。アイデンティティや人生設計において中核を占めるものと考えている人がいる一方、それほど大きく考えていない人もいた。いずれの場合も、海外で培った英語運用能力が、人生行路上の選択をする際に顔を出すということがうかがえた。ただ、海外生活経験ゆえに「一生懸命がんばる」ようになったかという点については、価値質問紙調査の結果において差違はとくに見られなかった。調査結果の分析を通じて、追跡調査で収集した情報の適正な評価と使用ということが問題点として浮かび上がった。10年以上の期間をおいて実施したふたつのインタビューの内容から、どんな観察・洞察を引き出すのが妥当であり、信頼できることなのだろうか。本研究においては、インタビューでの発言に徹底的にこだわるという戦略を取った。それほど多数ではないが、本人が「自分は変わった」と語ることがあったが、これがどのようになされているかを談話分析・会話分析法を活用して分析した。追跡調査においては調査の倫理が問題となった。最初の調査の報告書を送付して感想をうかがう機会があったのだが、その内容などをきっかけに追跡調査への協力を拒否された事例があった。海外経験が生活においてほとんど感じられていない家族の場合、調査の、「お役に立たない」からと調査協力を辞退するという論理もうかがえた。これらは、調査知見の一般化可能性・代表性を評価する基盤となるという議論をおこなった。
著者
浅川 学
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

魚類寄生性カイアシ類(動物プランクトン)は魚類の組織、血液などを栄養源とし、特にフグ養殖業に大きな損害を与えていることから、安全な駆虫剤の開発が急務とされている。海藻を対象にフグ寄生性カイアシ類Pseudocaligus fuguに対する駆虫物質の探索研究を行い、マクリ"海人草"Diginea simplex(紅藻類)の水抽出物から二つの駆虫活性成分を単離することができた。一つは興奮性アミノ酸の一種であるカイニン酸(C_<10>H_<15>NO_4, 分子量; 213)であり、もう一つは、高速液体クロマトグラフ及び質量分析などの機器分析の結果からカイニン酸と同様の分子量をもつ新たな異性体であることが推定された。
著者
沖原 謙 松本 光弘 柳原 英兒 塩川 満久 菅 輝 磨井 祥夫
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

以下に研究成果について概説する。本研究の目的は、モダンサッカー戦術の獲得過程と応用範囲について客観的なデータをもとに分析することである。具体的には、ユース年代から熟年選手になるまでにモダンサッカーのコンパクトな状態を保った上での速い攻守の切り替えにどのように適応して行くかについて考察を加えた。本研究で用いた比較(ユース年代と代表クラス)研究対象は、選手のスピードの変化、相手選手とボールに対する対応、そして両チームの図心(チームの重心)問の距離に関する3要素であった。そして、これらの結果を以下に示した。選手のスピードの変化は、熟年選手の方がトップスピードの頻度が高くなり、低いスピードでの移動時間も長い。つまり、試合における選手の動きは、熟練されるに従ってスピードの変化が多くなる。相手選手とボールに対する対応について、ピッチの縦成分と横成分に分けて分析した。その結果、代表クラスの選手は、縦と横の動きに対する対応は、相関係数が高い。ユース年代では縦に関する相関係数は高い。そして、横に対する相関は、低い。興味深いことに、この年に日本一に輝いたサンフレッチェ・ユースは、代表クラスの選手と同等な数値を示した。個々の動きは、熟年選手になるまでに横の動きに対する対応がスムーズになると考えられる。両チームの図心間の距離は、ユース年代より代表クラスの方が長い。しかし代表クラスの試合は、ユース年代の試合と比較して、モダンサッカーの特徴であるコンパクトな状態を保っている。この意味は、レベルの高い試合ではコンパクトな状態を保ちつつ、お互いのチームが相手陣地に入れない状態でゲームが進行する頻度が高いことを示している。モダンサッカー戦術として獲得してゆく要素一側面としてコンパクトに保たれた密集の中では、動きの量ではなく、緻密な横の対応と動き(スピード)の変化、そして相手チームの中に入り込むチャンスが少ない中での的確な判断力であるといえる。