著者
奥中 康人
出版者
静岡文化芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究は近代日本における西洋音楽と楽器の文化変容の事例研究の一つとして、長野県諏訪地域におけるラッパ文化に着目し、主に文献調査およびフィールドワークによって、その歴史と現在を明らかにした。幕末に軍隊の信号の道具として取り入れられたラッパは、明治期に日本各地の消防組の備品として広く普及した。ただし、その後の通信技術の発展によりラッパは形骸化したが、長野県においては戦後に「ラッパ隊」が音楽演奏団体として再編され、1980年代以降に「吹奏大会」が開催されたことで演奏技術水準が向上した。特に諏訪地方では消防団ラッパ隊が御柱ラッパ隊の直接の基盤となり、現在では民俗音楽として独特な文化を形成している。
著者
八木 淳一
出版者
杏林大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

筋肉内部の血流が滞った状態(虚血状態)で筋肉を収縮させると、強い痛みが生じる。この時、痛みを伝える感覚神経は、筋肉組織で起こるいかなる変化を感知して興奮するのであろうか-そこで、筋肉を支配する感覚神経の性質を詳しく調べるため、ラットを用いた新しい実験方法を開発した。これまでに、痛みを伝える感覚神経の一部は、虚血による筋肉の「酸性化」を感知する可能性があることがわかった。今後も実験を継続し、虚血性筋肉痛の成り立ちを解明することが目標である
著者
坂井 信之 中村 真 飯塚 由美 長谷川 智子 山中 祥子
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、孤食の心理学的問題を明らかにするため、孤食と共食(誰かと一緒に食べること)間で食物のおいしさなどがどのように変化するかということを調べた。その結果、孤食と共食では食物のおいしさ自体に差はみられなかったが、共食時には食事状況に対するポジティブな感情の生起がみられることが明らかとなった。この結果から、共食は、単に食卓を同一にするという物理的なことではなく、一緒に何かを成し遂げる(coaction effect)という心理学的なことであることが示唆された。
著者
松山 州徳
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

我々の2016年の報告では、ヒトの風邪の病原体、ヒトコロナウイルスHCoV-229Eは、患者検体から分離された直後は、細胞表面のプロテアーゼ(TMPRSS2)を利用して細胞表面から侵入するが、培養細胞で継代することにより、エンドソーム経路を通りエンドソームのプロテアーゼ(カテプシンL)を利用するように変異することを示した。さらにこの変異ウイルスは、分化したヒト呼吸器上皮細胞(HBTE細胞)では感染力が著しく弱くなることを示した。これらの結果は、HCoV-229Eは生体内ではエンドソーム経路を避けていることを示唆している。本研究においてこれまでに、HCoV-229Eに加え他のヒトコロナウイルス、HCoV-OC43、HCoV-HKU1も臨床分離ウイルスは細胞表面のTMPRSS2を利用して積極的に侵入することを論文報告した。これで我々の仮説である「生体内ではヒトコロナウイルスはエンドソーム経路を避ける」が正しいことが三種のウイルスで確認されたことになる。一方、米国のグループは、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)がゴルジ体のプロテアーゼFurinを利用して細胞侵入することを報告している。この報告について我々は否定的な見解をもっており、我々の研究を進めるうえで、どうしてもFurin経路を否定しておく必要に迫られることとなった。すこし回り道をすることとなったが、MERS-CoV及び他のコロナウイルスはFurinを使って細胞侵入しないことの証明に成功し、論文報告をおこなった。現在我々は、「ウイルスの細胞侵入経路が自然免疫誘導に及ぼす影響」を調べるために、準備を行っている。また解析で得られた知見をもとに、抗ウイルス薬の作用機序の解析も行っている。
著者
丹羽 幸江
出版者
京都市立芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

神社などで奏上される祝詞は、かつて音楽として歌われており、歌の原型となったと考えられてきたが、どのような音楽であったかはわかっていなかった。また祝詞が楽譜によって記されることがないことから、音楽史の中でも扱われることはなかった。ところが近年、近世初期の吉田神道における祝詞の楽譜が発見され、にわかに祝詞が音楽として研究されるべき端緒が開かれた。本研究は、過去の祝詞の楽譜を調査解読するとともに、現在、神社神道以外で伝承がなされるさまざまな祝詞の演唱や楽譜を分析することで、かつての祝詞が平家や能楽などのような語り物音楽的な特徴をもち、言葉を明確に伝えようとするタイプの音楽であったことを明らかにした。
著者
長島 和茂 三矢 拓郎
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

温度変動下のストームグラス中の結晶の見た目の特徴の理解を目的に実験を行った。試験管中の結晶集団には多層の構造があることがわかり、それぞれの層の成因は初期核形成、その後の樹枝状成長、樹枝状結晶上方の溶液中における核形成、さらには、樹枝状成長と核形成の繰り返しにあることが分かった。層ごとの層厚の時間変化の解析(多層解析)を行った結果、層はその起源によって厚さが「一定」、「減衰」、「パルス的」、「振動」の4つに分類され、サンプル溶液の成分数に依存してどの過程が関与するか異なることを見出した。このように、温度変動下の複雑な多結晶集団挙動を層ごとの解析という粗い基準を用いて特徴づけることができた。
著者
高木 健三 川部 勤
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

健康補助食品として知られているフラボノイドは抗アレルギー作用など様々な効果を持つことが知られているが、その作用機序については不明であった。本研究によって、フラボノイドの一種であるミリセチンおよびケンフェロールは肥満細胞においてHO-1 の発現および活性を増加させることにより抗アレルギー作用を示すことが明らかとなった。
著者
中澤 秀一 小澤 薫
出版者
静岡県立大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、憲法 25 条で保障された「健康で文化的な生活」を営むためには、生計費が最低どの程度必要になるのかについて明らかにするために各地で最低生計費の試算を行った。その結果、現在の最低賃金制度や社会保障制度のもとでは、「健康で文化的な生活」を営むことは難しいことが明らかになった。最低賃金は少なくとも1300円、人間らしい労働時間を考慮に入れれば1500円以上が必要であるし、子どもを育てている世帯では住宅費や教育費を軽減する社会保障制度がなければ、貧困問題はますます深刻になっていくだろう。
著者
板橋 義三
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009-04-01

本年度は予定通りに著書刊行した。平成21年度から24年度までのフィールド調査の結果をまとめ,それを著書の一章として取り込み、以前の2つの科研費による調査(H12~H15「樺太アイヌ語の母音の長短と北海道アイヌ語の高さアクセントの史的関係の解明」(H16~H19「東北地方におけるマタギ語彙の研究とマタギ語辞典の編纂」)を基盤として一章として組み入れた。その他アイヌ語に関する論文やそれを傍証する遺伝学、人類学、考古学、地名学などを援用し、学際的アプローチから上梓した。著書名は「アイヌ語・日本語の形成過程の解明に向けての研究」―地域言語学、言語類型論、通時言語学を基盤にした学際的アプローチーとした。
著者
松浦 年男 黒木 邦彦 佐藤 久美子
出版者
北星学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

中間発表会を実施し,代表者,分担者,協力者がそれぞれ発表した。また,発表会では下地理則氏(九州大学)より助言を受け,今後の研究の進め方について理解を深めた。方言調査を実施した。調査地区と内容を以下に示す。(1)天草市本渡地区(文タイプ,待遇表現,和語のアクセント,呼びかけのイントネーション),(2)天草市深海地区(格助詞,情報構造,漢語・数詞の促音,談話テキストの収集),(3)天草市佐伊津地区(不定語のアクセント特徴と不定語を含む節のイントネーションパターン),(3)熊本県八代市(研究協力者の山田高明氏(一橋大学)が実施。漢語・数詞の促音),(4)鹿児島県上甑島(韻律語の範囲について天草方言と対照)。研究成果を以下のように公開した。(a)天草諸方言と同じく有声促音を持つ山形県村山方言について調査結果をまとめ国際学会において発表した。発表では山形県村山方言の有声促音における声帯振動が,天草諸方言と同様,長い振動時間を有する一方,振幅が弱いものであるという違いがあることを示した。(b)本渡地区で行ってきたアクセント調査の結果を整理し,公刊した。(c)深海地区において行った調査結果をもとに,最適性理論と調和文法による形式的分析を行った論文を執筆し学会誌に投稿した。(d)不定語から補文標識「モ」までに含まれる語のアクセントの対立が失われることを指摘した。同じく二型アクセント方言である長崎市方言・鹿児島市方言と対照し、当該の方言は長崎市方言と強い類似性を持つことを明らかにした。(e)天草諸方言の音韻特徴を先行研究ならびに本科研費の調査結果に基づいて整理し,どのような特徴から分類を行うのが適切かを検討した。(f)有声促音を和語や漢語に持つかどうか,生起に/r/が関わるか,動詞で起こるかという点で整理し,日本語の諸方言を比較した。
著者
生田 克哉 佐々木 勝則 伊藤 巧
出版者
旭川医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、鉄過剰による造血障害や鉄キレートによる造血回復の機序を、鉄過剰状態で血液中に出現する非トランスフェリン結合鉄(NTBI)の関与を含めて明らかにする目的で行った。骨髄鉄沈着、血清鉄とフェリチン上昇、さらにNTBI増加、および造血障害を呈する鉄過剰モデルマウスを作成し、このモデルに鉄キレートを行った群も作成した。骨髄細胞の網羅的遺伝子解析の比較から、糖代謝のTCA回路に関与するACO1やIDH遺伝子発現が鉄過剰に応じて亢進していることが判明した。さらに2-HG増加やDNAメチル化亢進も確認できた。鉄過剰によるこれらの変化が造血障害や白血化をきたす機序の一端を説明できる結果を得たと考えた。
著者
山口 勝己 屋敷 和佳
出版者
東京都市大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

引き戸タイプオープン型教室に対する教員評価から、授業に影響する音が軽減できる点、容易に開閉できる点から、引き戸タイプを評価する教員が非常に多いことが示された。また、雑誌掲載事例の分析及び大都市のオープン型教室設置の経年的分析により、ここ10年程度で完全オープンタイプがほとんどみられなくなり、引き戸タイプが急速に増えていることが明らかになった。標準的な間仕切りとして定着しているといえる。完全オープンタイプの問題点や引き戸タイプの利点と普及状況が設置者に認識されたためであると思われる。ただし、引き戸タイプでもオープンスペースの利用が必ずしも活発であるとは言えず、今後の計画的検討が必要である。
著者
住吉 光介
出版者
沼津工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

超新星爆発は、重い星が進化を遂げた最期に起きる華々しい天体現象である。多次元効果の中で起こる爆発の鍵が何であるか多くの課題が残されている。本研究では、多くの数値シミュレーションにおいて近似が施されているニュートリノ輻射輸送を厳密な計算により扱うことで、残存する近似を排して爆発メカニズムの主たる要因を特定することにある。今年度の研究では、ボルツマン方程式によるニュートリノ輻射流体計算コードを超新星コアの数値シミュレーションに応用することで、回転する親星における多次元爆発ダイナミクスとニュートリノ輻射の解明、爆発におけるニュートリノ反応の影響、大質量星の重力崩壊現象からのニュートリノ放射の分析に関する研究を行った。(1)京コンピュータにおいて6次元ボルツマン方程式ソルバーを組み込んだニュートリノ輻射流体計算コードによる軸対称大規模シミュレーションを実行して、回転する星の重力崩壊におけるコアバウンスから衝撃波発展へ至るダイナミクスを明らかにした。この研究において、初めてニュートリノエネルギー・角度分布の非対称性が明らかになり、モーメント法において用いられている近似公式の問題点を指摘した。(2)京コンピュータにおいて6次元ボルツマン方程式ソルバーを組み込んだニュートリノ輻射流体計算コードによる球対称シミュレーションを実行して、大質量星の重力崩壊・コアバウンス・衝撃波伝播・ニュートリノ放出においてニュートリノ反応の違いが及ぼす影響について定量的に明らかにした。また、ニュートリノ放出の親星による違い、ニュートリノ振動への影響についての応用研究を並行して行なった。これらの成果について、国内・国際会議による口頭発表、査読論文による発表を行なった。また、研究成果をもとに、超新星に関して物理過程の基礎から超新星ダイナミクス応用までを学んで理解するための、分野入門に適した書籍を出版した。
著者
野口 華世
出版者
共愛学園前橋国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

平成30年度の研究について、1の史料蒐集に関しては、八条院・建春門院・建礼門院・殷富門院・七条院・宣陽門院の史料蒐集を実施した。基本的には東京大学史料編纂所架蔵謄写本「院号定部類記」(架蔵番号2057-153)の翻刻が中心となっているが、東山御文庫所蔵本に同系統の写本があるとわかり、そちらを底本とすることとなった。「院号定部類記」の翻刻は当該年度分の建礼門院・殷富門院・七条院・宣陽門院については進み、ほぼ完了に近い状況である。また昨年度、「院号定部類記」に未収載とわかった皇嘉門院についても、東京大学史料編纂所データベースを用いて史料蒐集を行った。これらの翻刻や史料蒐集は、活字化されていないものも多く、まとまった形式で見ることができないので、今後の研究において非常に意義あるものとなる。また、未刊行史料博捜に関しては、「院号定部類記」と同様の史料原本や写本を探すために、尾張の蓬左文庫において史料調査を行った。関連する史料の蒐集を実施した。だが、今のところ蔵書検索システムで拾えるものは限りがあったので、できれば再調査が必要であることが判明した。さらに京都大学総合博物館の所蔵文書の調査も実施し、関連史料の蒐集を行った。京都大学総合図書館についても、全ての史料調査を終わらせることができなかったので、再度の調査が必要である。2の史料分析、史料蒐集や「院号定部類記」の翻刻が進んだ女院については、基礎的情報を収集することができ、基礎的情報の整理・検討を行った。