著者
山崎 大輔
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

Mg2+トランスポーターとして働くCNNM4が腸管上皮の恒常性を制御する仕組みを明らかにするため、CNNM4欠損マウスの大腸よりクリプトを回収し、in vitroでの三次元培養を行った。回収したクリプトの大きさを比較したところ、CNNM4欠損マウスのクリプトは野生型マウスのものより小さかった。回収前の腸管組織ではクリプトの大きさに違いが見られないことから、CNNM4欠損マウスのクリプトは回収時の衝撃により崩れて小さくなったと考えられ、組織構造に何らかの変化が生じていることが示唆される。野生型マウスより回収したクリプトをマトリゲルの中に包埋すると、開いていた一端が次第に閉じて4時間後には球状のスフェロイドとなった。しかしCNNM4欠損マウスのクリプトの場合は、マトリゲルに包埋してから1時間後には多くのクリプトがすでにスフェロイド構造をとっていた。これらの培養を続けたところ、CNNM4欠損マウス由来のスフェロイドは、野生型マウス由来のそれと比較して有意に成長する速度が大きかった。また同数のクリプトを播種した場合、CNNM4欠損マウス由来のクリプトからは野生型マウス由来のそれと比較してより多くのスフェロイドが形成された。これらの結果から、CNNM4欠損マウス由来のクリプトにはスフェロイドを形成する能力を有する増殖性の未分化な細胞が多く含まれている可能性が考えられた。そこでクリプトをトリプシン処理することにより単一の細胞へと分離させ、個々の細胞がもつスフェロイドを形成する能力を調べたところ、CNNM4欠損マウスのクリプト野生型マウスのそれと比較してより多くのスフェロイドを形成する能力をもつ細胞が含まれていることがわかった。以上の結果からCNNM4は腸管上皮における多分化能を有する細胞の数を制御している可能性が示唆された。
著者
澤田 秀夫 宮嵜 武
出版者
独立行政法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

JAXA60cm磁力支持天秤装置を用いた風洞実験と高速度カメラを用いた野外実験の二つの手法で和弓矢の空力特性を測定することに成功した。風洞試験結果を用いて矢が軸周りに回転する効果をモデル化し、クロスボウの矢についても風洞試験と野外実験により空力特性を得ることができ、抵抗係数では両者に合理的な一致を見た。風洞試験では、矢が軸周りに回転している状態や、矢の軸が水平面内で1次モード弾性振動をしている状態で空気力を測定する磁力支持天秤技術を獲得した。
著者
卞 哲浩 三澤 毅 宇根崎 博信 代谷 誠治
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

京都大学臨界集合体実験装置(KUCA)において実施された加速器駆動未臨界炉(ADSR)の基礎実験から以下のような結論を得ることができた。1.ポリエチレン反射体領域に中性子ガイド(中性子遮蔽体およびビームダクトから成る)を導入し炉心内に設置した放射化箔の照射実験を行うことで、中性子ガイドの効果と妥当性を実験的に確認することができた。2.炉心中心およびターゲット領域において放射化箔法による中性子スペクトル測定を行った結果、放射化反応率およびアンフォールディング法によって中性子スペクトル情報を取得し、14MeV程度の中性子のスペクトルを把握するために最適な放射化箔を実験から選定することができた。また、放射化反応率をモンテカルロ計算コードMCNPによって求めることによって計算精度の確認を行うことができた。3.FFAG加速器から発生する100MeV程度のプロトンビームに照射したタングステンターゲットの放射化反応率測定から、100MeV付近の高エネルギー中性子のスペクトル情報に関する実験手法を確立することができた。同時に、FFAG加速器を角いたMCNPXによる解析では、アンフォールディング法によってスペクトル情報に関する解析が可能であることがわかった。今後の課題として、1.FFAG加速器の導入に伴い、プロトンのエネルギーが20〜150MeVでの反応度および反応率分布の静特性解析に加えて動特性解析をMCNPXを用いて行い、ADSR炉心の最適化設計を行う予定である。2.FFAG加速器の導入において、ターゲット付近での中性子の発生を従来よりも精度良く正確に把握するための測定手法の確立とモンテカルロ計算による計算精度の向上を検討する必要があると考えられる。
著者
福士 雅也 川上 秀史 外丸 祐介 坂口 剛正
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

ALSは、運動ニューロン(運動の指令を大脳から筋肉まで伝える神経)が選択的に変性・脱落し、その結果、筋肉が動かなくなり、2~5年で呼吸筋麻痺により死亡する。現在、日本では約1万人の患者がいるものの、有効な治療法は確立されていない。我々は、これまでにオプチニューリンがALSの原因遺伝子であることを突き止めた(Nature, 2010)。家族性ALS患者ではオプチニューリンが機能欠失していることから、本研究では、オプチニューリン・ノックアウトマウスや、そのマウス細胞にウイルス感染を行った。その結果、オプチニューリン欠損では、野生型コントロールよりもIFNb産生量が増加することが判った。
著者
安井 裕之
出版者
京都薬科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本仮説のProof of conceptが達成、実現されれば、得られうる成果の中で最大のアウトプットは「細胞外ATP代謝の破綻が引き起こす様々な炎症性疾患の根本原因が、亜鉛欠乏症に依る亜鉛要求性酵素の活性低下に基づくものである」と言う炎症性疾患の新しい治療概念や治療分子標的を生み出すものである。3年間で申請した本研究の最終目標は、研究代表者がこれまで探索してきた高活性の亜鉛錯体を用いることで、上記のターゲットバリデーションが正しいかどうかを研究協力者(同研究室の准教授、助教、博士研究員、学生)の協力を得て多方面から詳細に検討し、亜鉛錯体によるIBDの治療戦略が可能かどうかを提案することにある。
著者
相馬 充 谷川 清隆 山本 一登
出版者
国立天文台
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

日本書紀と続日本紀にある日食・月食・星食・流星等の天文記録を詳細に調べ,地球自転変動等を考慮する現代の天文学の手法により,それらの天文記録の真偽を明らかにした.その結果,7世紀に日本で観測天文学が始まったこと,7世紀の観測天文学は進歩と衰退が繰り返されたこと,さらに7世紀の終わりから8世紀全体にかけて観測が記録されなくなり,7世紀の終わりに観測天文学が衰退し,天文学に対する態度が変化したことが明らかになった.
著者
大場 裕一
出版者
中部大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

不明であった発光キノコの発光メカニズムの解明を目的に、発光反応産物(ルシフェリン酸化物)の化学構造の解明と、ルシフェラーゼ(発光酵素)の特定を試みた結果、そのどちらも明らかにすることができた。また、ルシフェリン酸化物がカフェ酸を介して再びルシフェリンへとリサイクルされることを発見し、発光キノコが持続的に発光する仕組みを解明することができた。
著者
安達 登 澤田 純明 坂上 和弘
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

東北、関東の5遺跡から出土した合計22個体の古墳人骨からDNAを抽出した。得られたDNA溶液中のミトコンドリアDNAのハプログループを決定し、その種類と頻度を東北地方縄文時代人および現代人と比較検討した。その結果、東日本古墳時代人の遺伝的特徴は東北地方縄文時代人とは大きく異なる一方、現代人には非常に近かった。この結果は、古墳時代には既に、渡来型弥生人の遺伝的影響が東日本においても集団の主体をなすほど大きくなっていた可能性を示していると考えられた。
著者
中村 剛之
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

水生ガガンボ類の幼虫と蛹は河川や湿地など水辺環境の調査で頻繁に確認されるものの、種の同定ができないために調査研究が進んでいなかった。本研究では、野外で採集した幼虫を飼育し、成虫を得ることによって種の同定を行い、日本産ガガンボ類の代表的な種の幼生期の形態的特徴と生息環境を調査した。その結果、42種のガガンボ類の幼虫と蛹の形態を明らかにすることができた。中には、これまで海外での研究結果から推測されていた姿とは大きく異なる特徴を持つ種もあることが判明した。このように、代表的な種の幼生期形態が明らかになることで、今後の生態学データの蓄積がなされることが期待される。
著者
新井 博文 高杉 美佳子 山田 耕路
出版者
北見工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

活性酸素によって生理的に生成すると考えられる過酸化脂質がアレルギー反応に及ぼす影響について培養細胞を用いて試験管内で調べた。アレルギー反応に関与する白血球の一種であるマスト細胞を培養し、人工的に刺激したときに培養上清中に放出されるヒスタミンなどの化学伝達物質を定量したところ、過酸化脂質分解物である4-ヒドロキシ-2-ノネナールはマスト細胞からのヒスタミン放出を促進した。生体内脂質過酸化がアレルギーを悪化させる可能性が示唆された。
著者
伊藤 典彦 山木 邦比古
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

1.実験的イヌ原田病モデルの解析初年度イヌを用いてヒト原田病原因抗原の一つであるTyrosinase related proteins 1を免疫、発症に成功した症例の更なる解析を組織化学的に行った。脈絡膜には多数の炎症細胞の浸潤が見られ、激しい炎症に続いたと考えられる瘢痕形成が見られた。炎症所見は特に脈絡膜のメラノサイト周辺に多く見られた。皮下では皮膚の基底膜および血管周囲にも炎症細胞の浸潤が見られ、特にメラノサイト周囲に多数の炎症細胞の浸潤が見られた。以上の結果から実験的に発症したのはメラノサイトが攻撃を受ける自己免疫疾患であると判定された。2.実験的サル原田病モデルの作成 その2前年度のカニクイザル2頭を用いた実験につづけて取り扱いが容易なマーモセット6頭に同様な免疫を行った。免疫6週後に、6頭のうち4頭の両眼に以下の所見が観察された、前房内細胞、硝子体混濁、視神経乳頭浮腫・充血。カニクイザルで見られた角膜後面沈着物、虹彩後癒着、網膜血管蛇行は見られなかった。さらに、蛍光眼底造影では視神経乳頭部の過蛍光および硝子体腔内への色素の漏出が見られた。眼症状は免疫後7週目を極期とし、その後改善、11週目には硝子体に症状を残すだけであった。マーモセット原田病モデルはカニクイザルに比べて早期に発症、軽症であった。
著者
松本 吏樹郎 河合 正人 冨永 修 市川 顕彦
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

移入種であるアカハネオンブバッタの分布が、阪神地域から周辺地域へ拡大する様子が市民調査(738件の分布情報)を通して詳細に記録された。本種の自然分布域である中国、台湾、南西諸島と、移入したことが知られているハワイ諸島のサンプルとの、ミトコンドリアおよび核遺伝子の部分配列の比較により、移入した個体群の一部は少なくとも中国からのものと推定された。オンブバッタとの交尾実験では交雑個体の発生は見られなかったが、それぞれのオスの異種メスへのマウント行動は普通に見られ、アカハネオンブバッタの存在はオンブバッタの繁殖干渉を通して、正常な交尾を妨げる負の影響を与えている可能性が推測された。
著者
小野沢 あかね
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

2005年度には、以下の1,2,3の研究成果をあげることができた。1 戦時における地方純潔運動に関する論文「軍需工場地帯における純潔運動」を『戦時日本の経済再編成』(日本経済評論社、2006年3月31日)に掲載することができた。この論文では、軍需工場地帯となった群馬県において顕著であった青少年工や徴用工の欠勤や不良化、闇取引や軍需工場がらみの経済犯罪に対抗しておこなわれた、同県の社会事業家らによる純潔運動の展開を明らかにした。本稿では、同運動が、国策と実際の戦時社会の荒廃との間の乖離を鋭く批判し、統制経済の指導者批判、人口政策批判を展開したことを明らかにした。本稿をふまえて、来年度にはこれまでの拙稿をまとめた著書を発表する予定である。2 戦後沖縄におけるAサインバー・ホステス経験者に対する聞き取りの成果をもとに論文、「戦後沖縄におけるAサインバー・ホステスのライフ・ヒストリー」を執筆した。この論文では、沖縄本島北部出身のある女性からの聞き取りに基づき、米軍統治時代末期の沖縄における米兵向け水商売で働いていた女性従業員の労働、賃金、労働意識、暮らし、生い立ち、人物像などを明らかにした。1960年代末の米兵向け水商売では、前借金などから相対的に自由なホステスも存在していたこと、借金をしないで労働することのプライドが息づいていたこと、本土での進学・労働経験の持つ意味の重要性などが浮かびあがってきた。
著者
藤田 大誠 青井 哲人 畔上 直樹 遠藤 潤 菅 浩二 森 悟朗 藤本 頼生 佐藤 一伯 岸川 雅範 今泉 宜子 福島 幸宏 齊藤 智朗 昆野 伸幸 柏木 亨介 北浦 康孝 河村 忠伸 吉原 大志 吉岡 拓
出版者
國學院大學
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、「公共空間」や「公共性」をキータームとして、神道史と都市史・都市計画史、地域社会史の分野などを接続することで、具体的な史料に基づく新たな「国家神道」研究を試みた。神社境内やその隣接空間を「公共空間」として捉え、新旧〈帝都〉である東京と京都との比較の観点を導入することによって、寺院とは異なる神社独自の「公共性」の歴史や、神社の造営と環境整備に係わる人的系譜やその相関関係について解明した。
著者
大類 孝
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

2001年から2002年のインフルエンザ流行期に、38度以上の発熱、全身倦怠感と共に、急激な低酸素血症を来たし入院した18名の高齢者(年齢69歳から91歳、平均78.6歳)を対象に、鼻汁および咽頭ぬぐい液からのインフルエンザウイルス抗原(A型およびB型)の検索、採血および胸部レ線、胸部CTスキャン、肺換気、血流シンチグラフィーおよび生体の酸化、ストレスの指標として呼気中一酸化炭素(CO)濃度を測定し、疾患とその予後の予測および治療が可能か否かについて検討した。その結果、18名中11名(男性7名、女性4名)においてA型インフルエンザの確定診断がなされ、そのうち5例において凝固系の指標の血中D-ダイマーが415-550ng・ml^<-1>と上昇しており、そのいずれにおいても重篤な低酸素血症(動脈血酸素飽和度:SpO2で81-86%)が認められた。呼気中CO濃度も5-8PPmと5症例で著明に上昇していた(正常値0-1ppm)。しかし、5症例とも胸部レ線、およびCTスキャン上わずかな索状影を除いて肺野に明らかな浸潤影は認めなかった。そのうち4症例の肺血流シンチグラムでは、中枢側の肺血管の欠損像は認めなかったが、いずれにおいても、抹消側の血流障害が認められ肺微小血管の血栓症が示唆された。4症例のうち同意の得られた3症例に対して、ヘパリンおよびウロナーゼを用いて抗凝固療法が施行され、いずれにおいても5日目よりD-ダイマーの改善およびSpO2の改善が認められ救命されたが、同意が得られず抗凝固療法の施行されなかった1例は救命できなかった。以上より、インフルエンザの重症化には、生体内の酸化ストレスの増加に伴い肺微小血管の血栓塞栓症が関与しており、その治療に比較的早期からの抗凝固療法の開始が有効である可能性が示唆された。
著者
MA Bruce Yong 川嵜 敏祐
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、糖鎖シグナルを介する免疫応答の調節機構の解明及び関連疾患に対する分子標的治療法の基礎開発を目指しており、具体的には、T細胞、マクロファージ、樹状細胞などの活性化や分化における、様々な細胞表面抗原やシグナル伝達受容体の糖鎖による調節の仕組みの研究を進め、以下のことを明らかにした。1.樹状細胞に発現されるC型レクチンDC-SIGNが結腸がん関連血液型糖鎖抗原Le^a/Le^bとの結合を介して、がん細胞と正常細胞を識別し、腫瘍免疫の制御に関わることを初めて示した。また、DC-SIGNを介する結腸がん細胞への結合により、樹状細胞からのIL-6、IL-10の分泌が促進され、樹状細胞の成熟およびナイーブT細胞のTh1細胞への分化が抑制されることが明らかとなった。これらの結果は、DC-SIGNが腫瘍免疫に対して抑制的に機能することを意味し、がん細胞が免疫監視機構から逃避するメカニズムとして働くことを示すものである。2.Gal、GlcNAcを特異的に認識するレクチンマクロファージアシアロ糖タンパク質結合タンパク質(M-ASGP-BP)は、外来異物の除去を仲介するエンドサイトーシスレセプターとして働く。LPSがmRNAレベルでM-ASGP-BPの発現を抑制することをラット及びマウスのチオグリコレート誘導腹腔マクロファージを用いて明らかにした。M-ASGP-BPの発現が、LPSで誘導されるTLR4、NF-κBを介したシグナルにより負に調節されていることを見出した。3.CD26が樹状細胞C型レクチンDC-SIGNのT細胞上の新たな糖鎖リガンドであることを見出した。また、CD45とADAも共沈してくるタンパク質複合体から同定された。このことは、糖鎖認識を介したDC-SIGNとCD26・ADA・CD45複合体との結合による免疫シナプスの形成によりT細胞の補助シグナルとして機能している可能性を示唆している。4.ブタ血清中にはホスホマンナンに特異性をもつ新規レクチンPMBLを見出し、その遺伝子クローニングに成功した。また、PMBLはリガンド糖鎖を認識した後、レクチン経路を介して補体系を活性化することが明らかとなった。
著者
丸山 徹
出版者
南山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

ザビエルが来朝した1549年より約100年間の「キリシタン時代」、日本の布教に携ったカトリック宣教師たちは日本語ポルトガル語辞書、日本語文法書、文学書、宗教書などを精力的に編纂した。こうしたキリシタン文献はこれまで何人もの国語学者がキリシタン資料の研究に携り、数々の成果をあげてきた。語学書の中ではとりわけロドリゲスの文法書と日葡辞書が邦訳も公にされここ数十年で研究が大きく進んだ。一方でこうした語学書が、同時代のヨーロッパにおける語学書の構成に倣って(世界各地の現地語について)書かれているからには、研究にグローバルな観点を導入することは不可欠である。ブラジル・トゥピ語文献、インド・コンカニ語文献などとの対比の中で、日本の「キリシタン文献」に光を当てることが重要となる。インド・コンカニ語文献の場合、日本におけるロドリゲス日本語文法書に対応する同時代のコンカニ語文法書(1640年)や同じぐ日本におけるドチリナキリシタンにあたる同時代のコンカニ語ドチリナ(1622年)はインドに印刷に付されたものが現存するが、上で述べた日葡辞書に相当するコンカニ語・ポルトガル語辞書は印刷に付されたものがなく、写本の形でしか存在しない(Goa Central Library、Biblioteca Nacional deLisboa、Arquivo Historico Ultrainarino(Lisboa)所蔵の三つの関連する写本-いずれもDiogo Ribeiro神父の手になると思われるもの-が注目される)。本研究の主たる目的は写本の形で残る17世紀コンカニ語・ポルトガル語辞書の翻刻とコンピュータ入力、印刷、公表、および関連する三写本についての考察をもとに、それら写本成立の背景を探ろうとするものであった。期間内に次の二つのことを遂行した。1.1626年書写コンカニ語・ポルトガル語辞書の翻刻とコンピュータ入力、印刷、公表( ⇒ 当該科学研究費補助金研究成果報告書A4・400ページを参照)2.上記辞書写本翻刻の世界の研究者、国公立図書館への送付