著者
山本 信人 大石 裕 烏谷 昌幸
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

21世紀の東南アジアは原子力ルネサンスといわれ、エネルギー確保と省エネ、気候変動対策の切り札としての原発が脚光を浴びた。インドネシア(05年)とフィリピン(09年)は原発(再)建設を政策課題としたが、反対の市民運動がわき上がった。主たる論争点は原発の安全性と政策過程の透明性であった。安全性については推進・反対派ともに科学者を要して論争を展開した。結果的には原発建設計画は中止に追い込まれた。その主要因は、政策過程の不透明性と政策不信、そして「援助」国と関連多国籍企業の資本の論理、つまり安全への不安であった。
著者
中川 恵
出版者
羽衣国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

大衆への普及が過去10年以内という点で新しいメディアと位置づけられるインターネットと衛星放送の普及が、中東地域の生活空間、政治的意思の形成、政治的意思形成の場となる公共空間にいかなる変容をもたらしているのか、とりわけ女性たちの政治的意思決定のプロセスを調査・分析した。その結果、モロッコの場合、衛星放送の普及と国家が進める社会・経済開発の両方がほぼ同時に進んだことが、女性の政治参加を促進したと結論づけることができた。
著者
天野 勝文 阪倉 良孝 高谷 智裕 水澤 寛太
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

トラフグがフグ毒テトロドトキシン(TTX)を脳内に保有することを示した申請者らの研究成果を基に「フグでは脳に存在するTTXが脳ホルモンを介して内分泌系を制御する」という仮説を立て,その検証に挑戦する.まず,トラフグをモデルとして,TTX投与毒化魚と対照無毒魚における主要な脳ホルモンの遺伝子発現量をリアルタイム定量PCRで網羅的に比較して,TTXが脳ホルモンを介して内分泌系に及ぼす影響を調べる.次に,フグ科魚類の脳にTTXが広く存在するかを,液体クロマトグラフィー質量分析と免疫組織化学を併用して精査する.最後に得られた結果を総合して,フグがTTXを脳内に保有する生理学的意義について考察する.
著者
福島 知己
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

『レヴォルト・ロジック』は、1975年から81年までパリ第8大学のジャック・ランシエールとジャン・ボレーユを中心に形成された研究グループが刊行していた、労働運動史などに関する研究誌である。本研究ではグループに参加していた何人かの研究者へのインタビューを通じて、研究グループがもっていた非権威主義的な性格や共同研究者たちが共通して抱いていた越境への意志のようなものが、この共同研究を嚮導していたことを理解した。あわせて『プロレタリアの夜』や『歴史の名前』などランシエールが『レヴォルト・ロジック』の前後に構想した著作の分析をおこない、両者が一貫した関心のもとで執筆されていたことを明らかにした。
著者
堀田 哲也
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

シェーグレン症候群(SS)は乾燥症状を主症状とする自己免疫疾患であり、関節リウマチ(RA)や全身性エリテマトーデス(SLE)など他の自己免疫疾患を合併することも多い。本研究ではSS患者よりゲノムDNAを抽出し、SLEなどの自己免疫疾患との遺伝的背景をおもに一塩基多型(SNP)解析を行い比較検討した。STAT-4、IRF-5などSLEで関連が認められた遺伝子多型はSSでも関連があることがわかり、自己免疫疾患共通の遺伝的背景の存在が示唆された。
著者
遠藤 朝則 児玉 浩希
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2023-04-01

植物を用いたPlant-Based Vaccineという次世代の希少蛋白の合成技術は、国際的に研究され特に注目されており、本邦においての実用化が期待される。本研究では、ペプチド免疫療法を応用した次世代の経口ワクチンである「スギ花粉米」と同様の技術により、スギ花粉症およびヒノキ花粉症に対して効果的な遺伝子組換え技術による米を利用した経口ワクチンの有効性を評価する。遺伝子組み換え技術を利用した安全で抗原の大量合成を可能にする経口ワクチンは、米を食べるだけで多くの国民が罹患するスギ・ヒノキ花粉症を克服する可能性を持っている。その成果は社会的に大きく貢献することが期待される。
著者
藤田 あき美
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

日本における科学技術分野の女性比率は他国と比べても極端に低い。日本社会に根付くジェンダーステレオタイプが女子の趣向から進学・キャリアの選択に至るまで影響を与えているようだ。よって、Tik TokやYouTube教育プラットフォームで、反ステレオタイプ的女性ロールモデルとの対談やストーリーを定期的に発信し、10代から親世代までのジェンダーステレオタイプに対する意識の変化を促し、その変化の継続性と10-20代女子の理系進学率を含めた追跡調査のためのプラットフォームを構築することを目指す。本研究は、理系分野に限らず全ての女性がステレオタイプから解放される、女性エンパワーメントの取り組みに貢献すると考える。
著者
深澤 百合子 細谷 葵 中村 大 クレイグ オリバー
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の成果は、擦文人が擦文土器を使用してサケやヒラメをはじめキュウリウオなどの小型魚類やとオオムギ、キビなどの栽培された雑穀類を主食素材として調理を、調理においては吹きこぼれが多く生じていたことが証明できた。このような雑炊、汁物メニューは食材、調理方法において後続するアイヌ文化に継承されたと言える。このことから物質文化の変化がみられる土器から鍋への調理用具の変化やカマドから炉への調理施設の変化が起因する要因を研究する必要がある。調理実験の有効性が確認できたことも成果と言えるため土器に付着した吹きこぼれ痕は鍋に痕跡が観察されるのか、具材と穀類の調理割合が異なるのかなど今後の研究課題となる。
著者
稲垣 兼一
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

松果体より分泌されるメラトニンは網膜から入る光刺激により負に調節され、生体内の概日リズム形成に寄与している。近年副腎ホルモン分泌についてもメラトニンが直接作用、調整する可能性を示唆する研究が報告されている。本研究では副腎皮質及び髄質モデル細胞株を用いて、副腎におけるステロイド及びカテコラミン分泌に対してメラトニンが直接的に及ぼす影響とその細胞内メカニズムについて検討した。その中でメラトニンが細胞局所因子や他のホルモン調整因子と連関し副腎内ホルモン合成を調整している可能性が示唆された。
著者
小貫 麻美子 松本 光司 柊元 巌
出版者
昭和大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究では、1) 定期接種プログラムが定める適切な年齢(12-16歳) で子宮頸癌ワクチンを接種したにも関わらずHPV16/18陽性CIN・子宮頸癌を発症した若年日本人女性(=ブレイクスルー症例) を対象にまず初交年齢・ワクチン接種時年齢を聴取することで接種時に実は既感染であったと考えられる患者の割合を推定すること、2) 初交前に適切にワクチン接種を行っていた症例ではHPVゲノム解析・pseudovirionを用いた中和活性測定を行い、現行のワクチンでは予防できない変異ウイルス(variant) を探索する。
著者
針原 伸二 住 斉 井原 邦夫 伊藤 繁
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009-04-01

日本人は先住の縄文人(狩猟採集民)と後入り渡来系弥生人(水田稲作民)の混血により成立した。渡来系弥生人は、今から3千~2千5百年前、大陸から朝鮮半島を経て、北九州近辺に入って来た。大陸の先進文化(稲作技術や金属器など)を携えていた。やがて彼らは縄文人を圧倒するようになり、更に日本列島上を東に進んで、3世紀末に畿内で大和朝廷を打ち立てた。それでは、縄文人の遺伝子は現代日本人の中にどれほど残っているんだろうか?また、山地や東北地方にはそれが多く残っているのではなかろうか?母方由来で伝わるミトコンドリアDNAの多型を使って、この質問に答えるための基礎理論を開拓し、その答を初めて明らかにした。
著者
細川 まゆ子
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

中国やインド等、高濃度のフッ素を含有する水を摂取している地域では骨フッ素症や斑状歯の患者が多く発生している。その他の健康被害として近年ではIQ低下、認知機能障害および学習・行動障害等自閉症スペクトラム障害と類似した症状が報告されている。フッ素は出生前後に曝露されると脳の発達に影響を及ぼす可能性があることが懸念されている。動物実験ではフッ素曝露による記憶学習能力低下や不安感について一様の見解が得られないが、一般に胎児期から発達期の化学物質曝露は神経系への影響が大とされる。本研究では、妊娠期飲料水中フッ素曝露による仔マウスの自閉症スペクトラム障害を引き起こす可能性について検討することを目的とする。
著者
是永 論 酒井 信一郎 池上 賢 重吉 知美
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、メディア上に見られる表現の理解を人々がどのように行っているのかについて、主に表現が制作される場面や、その実践に関わる人々を対象に解明するものである。短歌、写真、商業マンガを対象として、エスノグラフィー、インタビュー、ビデオ分析といった調査手法を用いた。それぞれの表現について、理解に関わる独自の実践と、それにともなう規範があることが明らかとなった。
著者
井上 勝生
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

日清戦争時、朝鮮ほぼ全域で、東学農民軍が抗日蜂起し、日本軍が殲滅した。歴史から消されてきた抗日と殲滅の史実を明らかにした。日本軍部隊が編成された四国と東海地方を中心に、地方紙掲載の作戦記事、兵士の書簡、陣中日誌、戦死兵士の碑文、兵士の子孫家などを見いだした。また防衛研究所図書館にて、日清戦争直前、参謀本部で作製された巨大な「朝鮮全図」南北2枚を見いだした。韓国の戦場跡を踏査し、朝鮮全域に広がった抗日と殲滅の具体像を再現した。殲滅作戦の現場が苛酷なジェノサイドそのものであったことを実証した。
著者
菱沼 昭 小飼 貴彦
出版者
獨協医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

胚内の間葉系細胞に発現する HMGA2 は腫瘍細胞の分化マーカーとして注目されている。我々の多種の甲状腺腫瘍での発現の検討から、HMGA2 の悪性腫瘍での選択的な発現が示された。また、分化型甲状腺癌である濾胞癌は、しばしばその診断に困難を伴うが、術後組織のHMGA2免疫染色の結果が確定診断や予後予測に応用できる可能性が示唆された。一方、甲状腺癌培養細胞モデルを用いたトランスクリプトーム解析から、発癌を促進する変異サイログロブリンが、HMGA2 の発現を介して数種の細胞増殖関連遺伝子を誘導するという当初の仮説を裏付ける結果を得ることが出来た。
著者
吉田 倫子
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は観光を糸口として文化財のバリアフリー整備にどこまで踏み込んでいるかを明らかにするものである。バリアフリー整備状況は城郭の地理的条件だけでなく,管理者の意向によって異なっている。観光施設としての満足度とバリアフリー整備の意識には関連があることもわかった。年齢や性別も影響している。また,管理者はバリアフリー整備を必要する方と直接対話することで,制度上困難な整備でも仮設で対応しようとする意向があることがわかった。若い世代がそうした配慮に好意的であり,歴史的価値の認識にも影響しないことから,可能な限りのバリアフリー整備を検討していくことが必要である。
著者
安原 隆雄 黒住 和彦 亀田 雅博 菱川 朋人 佐々木 達也
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

ヒト間葉系幹細胞由来多能性幹細胞を用いて、凍結保存の状態から溶解し直接移植する群とカプセル化細胞移植する群に分けて治療効果を検討する。対象とするのは一過性中大脳動脈閉塞モデルラットであり、行動学的評価・組織学的評価を中心に行う。うつ様症状に対する治療効果も重要な評価項目とする。虚血の程度をエコーにより確認し、血流遮断時の虚血負荷、運動機能、うつ様症状、組織学的評価(脳梗塞体積、炎症性変化、神経新生の程度等)を個体ごとに確認し解析する。過去に、脳梗塞モデル動物で直接移植とカプセル化移植の比較を行ったことはなく、細胞治療の意義・作用機序の解明に迫る研究である。
著者
木村 勢津 田邉 隆 楠 俊明
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

男女各6名の児童を対象に3年間歌声と話声の変化を記録し、音声解析(音響解析)した結果、女児において第3フォルマントの位置が(24kHz表示で)、ソプラノ系が10kHz以上、アルト系が9kHz以下に位置し、将来の声種を判定する上で有用な観点となりうることを示した。また変声期前後の歌唱指導として、広い音域を滑らかに歌唱できる発声法を習得するために、地声と裏声の歌い分けに加え、地声と裏声の混合発声やポルタメントを用いた発声が有効であることを示した。
著者
大谷 奨
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では、いわゆる新構想大学(兵庫教育大学、上越教育大学、鳴門教育大学、長岡技術科学大学、豊橋技術科学大学、鹿屋体育大学)がそれぞれどのような経緯で設置されたのか、その過程について地方議会の会議録、地元新聞などの分析を通じて検討した。従前の国立高専や国立医大に比べると露骨ではなかったものの、誘致運動は引き続き、土地の提供、社会インフラの整備といった少なくない地元負担を伴いつつ展開されたこと、その際新構想大学の理念についての精査はなされず、国立高等教育機関を望むメンタリティが結果的に、全国に新構想大学を散在・定着させることにつながったことを明らかにした。
著者
藤井 博英 山本 春江 角濱 春美 村松 仁 中村 恵子 坂井 郁恵 田崎 博一
出版者
青森県立保健大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

現代医療には、「やまい」を持った時に生じる不安や苦悩への対処ケアが不足していると言われている。青森県地方では、それをシャーマンが補完している実態がある。本研究の目的は、シャーマンのもたらす"癒し"の実態から看護実践に還元できる内容を抽出することである。そこで、いたこのA氏に対して相談内容や、役割についてインタビューを行った。利用者は、病気治療にかぎらず、ふりかかった不幸や災いなど人生の問題場面に幅広く相談していた。それらの相談にイタコは、"口寄せ"により対処し、問題の因果応報を判断して、指示的に関わり行動化させることで"癒し"をもたらしていた。さらに、シャーマンを訪れた経験のある外来患者に対して、シャーマンがもたらす"癒し"について半構成的インタビューを行った。その結果、「対処方法を教えて欲しい」「原因が霊的なたたり、障りでないか判断して欲しい」と望み、「めどが立つ(見通し)」「前向きになれる」「やる気になる」「腹をくくる」などの心情の変化を体験していた。患者の「前向きになれる」「やる気になる」など、力を蓄え、発揮させるというエンパワーメントが行われていた。また、これらに関わる外来看護師に"癒し"について半構成的インタビューを行った。その結果、患者が「癒される」感情を<ホッとする><安らぎ><安心><和む><リラックス>などと捉えており、この対応として<傾聴的な態度><患者に寄せる関心><自己(患者)の存在の承認><その人らしい日常生活が送れるサポート>など行っていた。シャーマンの"癒し"は、ある程度行動を強制することにより「力を与える」方向に、一方ナースは、患者の心情を受け入れ保障する方向に関わっており、患者の必要としている"癒し"は、その両者を含んでいるのではないかと考えられる。