著者
中尾 篤人
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

花粉症や喘息などのアレルギー性疾患を根本的に予防する方法は未だ得られていない。欧米における疫学的な研究から、母乳中に含有するサイトカインの1つであるTGF-βがアトピー性皮膚炎や喘息などの乳幼児のアレルギー性疾患の発症を抑制する可能性が指摘されてきた。しかしながら、経口的に摂取されたタンパク質の多くは、胃酸や消化酵素などによる分解を受けることが知られており、実際に、母乳中あるいは経口的に摂取されたTGF-βが腸管内でその活性を保ちうるのか否か、また活性を保てたとしても本当に免疫系に影響を及ぼすことができるか否か、については、ほとんど明らかになっておらず、それら疫学研究の真偽については不明な点が多かった。我々はこの問題に着目し、経口的に投与したTGF-βが全身免疫系に及ぼす作用について食物アレルギーの動物モデルを使い検討した。その結果、TGF-βの経口投与によって経口アレルゲンに対するIgE抗体産生やアナフィラキシー反応などの食物アレルギー反応がアレルゲン特異的に抑制されることを見出した(Int Immunol 2005、特許申請中、平成17年度本研究成果)。さらに、我々は、野生型マウスやTGF-βシグナルに反応するレポーター遺伝子を発現するトランスジェニックマウスを使って、経口的に摂取されたTGF-βは腸管内においてその活性を保っており、かつ経口免疫寛容の成立を増強させることを証明した(J Allergy Clin Immunol submitted、平成18年度本研究成果)。これらの知見は、乳幼児や成人の摂る飲食物にTGF-βを含有させるというような簡便な方法によってアレルギー性疾患を効率的かつ根本的に予防し、わが国の保健医療に貢献できる可能性を強く示唆する。
著者
大石 祐一 奥本 貴裕
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

Ultraviolet B(UVB)照射がアミノ酸代謝に及ぼす影響を検討した。UVB照射により、皮膚中システイン量、グルタミン酸量、グルタチオン量が増加し、タウリン量が減少した。UVB照射により増加した活性酸素除去のため皮膚中にグルタチオンが蓄積したことが推察された。また、システインからタウリンへの合成が抑制され、システインが蓄積したと考えられ、その結果、タウリンが減少し皮膚機能悪化を引き起こす一つの要因になったことが示唆された。UVB照射により肝臓中グルタミン量が増加し、3つの分岐鎖アミノ酸量が減少した。このことからUVB照射は肝臓のアミノ酸代謝にも影響を及ぼす可能性が示唆された。
著者
柴田 浩行 岩渕 好治
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

クルクミンアナログGO-Y030、及びGO-Y078が各種mRNAやmiRNAに与える影響を調べた。大腸癌細胞株では41,058種のmRNAのうち、GO-Y030で発現が増減するものにBCL-2, c-Myc, TP53などが含まれる。また、2,669種のmiRNAのうち、GO-Y030で28種、GO-Y078で11種の発現増強を認めた。GO-Y078によって血管内皮細胞株で発現が変動するmRNAは200%以上の発現増強が470種、50%以下の発現低下が243種あった。GO-Y030でhas-miR-19b-3pの発現が亢進した。また、GO-Y078によって5種類のmiRNAの発現が低下した。
著者
鈴木 宗徳 折原 浩
出版者
南山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究の目的は、マックス・ヴェーバー研究における全ての二次文献を、その年代・主題・言語を問わず網羅的に収集し、整理することにある。1905年から1964年までの邦文文献の収集にあたっては、東洋大学非常勤講師・三笘利幸氏による協力が、また、欧語文献の収集にあたっては、テュービンゲン大学教授・コンスタンツ・ザイファート教授による協力があった。研究代表者である鈴木宗徳は1964年以降の邦文文献の収集にあたり、研究分担者である折原浩は目録全体の編纂について監修を行なった。二年の研究期間のうちに、公表に値する網羅性と正確性を備えた目録として完成したのは、1905年から1964年までの邦文文献の目録のみである。われわれは本研究を継続し、最終的には目録全体をデータベースとして出版したい。研究の過程で明らかとなったもっと重要な成果は、黎明期における日本のヴェーバー研究の重要文献が数多く発見されたことである。ドイツにおいても日本のヴェーバー研究に関心が向けられている現在、本研究がもつ意義は小さくない。また近年のヴェーバー研究については、専門分化の傾向にもかかわらず、公刊された文献全体の数は依然増加していることが明らかとなった。
著者
小暮 厚之
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

平均寿命の増加は,介護状態に陥る可能性の増大を伴う.我が国を始め高齢化を迎えている諸国では,いわゆる「長寿リスク」に加え「介護リスク」に直面している.介護リスクを考察する上で,死亡率がいかに健康状態(要介護度)と関連するかを把握することが重要となる.しかし,関連するデータの欠如によって,死亡率と健康状態のダイナミックな関係に関する研究は乏しい.本研究では,要介護状態別の死亡数データは欠如しているという想定の下で,要介護状態に応じた死亡率を予測する新たなモデルを提案し,ベイズ法による予測の枠組みを構築した.この手法を我が国の介護年金制度のデータに適用し,要介護状態別の死亡率の予測を行った.
著者
鈴木 道男 山下 博司 藤田 恭子 佐藤 雪野
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

ディアスポラ存続の条件として、構成員によるアイデンティティーの共有がある。しかし、他文化の中に暮らす人々にとって、アイデンティティーの再確認がなくては、「故国」、「民族」は意識から遠のく。それが同化のプロセスの一面であるが、マイノリティにとってその結束の拠所である「故国」、「民族」、「歴史」は彼らが不動のものとして捉えている規範通りのものではない。むしろ、これらのビジョンは常に変容し、それをもとに自らの立場を絶えず確認することで、彼らは継続的に結束を保っている。すなわち、永続的なデイアスポラとして存在するマイノリティには、その個々人の意識の有無は別として、結束の紐帯を再確認させ、たえず強化するする機構が必ず存在する。かかる共通認識の下、ディアスポラの維持・確認、あるいは創出の装置としての文学の諸相をとらえた。山下は、本来ディアスポラたちが形成した国家と目されているシンガポールにおいて、他国に住まうシンガポール人に対して、あらためてシンガポール系ディアスポラというまとまりを付与しようとする政府の政策と文学の位置づけを論じた。佐藤はドイツ語で書くチェコ人女流作家レンカ・レイネロヴァーに焦点を当て、主観性を伴う自伝や語りも、一つの時代を知る重要な資・史料であるとする立場から、ドイツ系チェコ人ディアスポラの激動の20世紀をたどろうとした。藤田は多文化の平和的共生が機能し、ドイツ語をあやつるユダヤ人の桃源郷とされてきたブコヴィナの像を、ユダヤ系女流詩人アウスレンダーの作品から抉り出し、ユダヤ人のアイデンティティ形成におけるその政治的意味を考察した。鈴木は、民族主義の高まりの中で、はじめて自らをマイノリティあるいはドイツ系ディスポラとして意識したトランシルヴァニアのドイツ系住民において、その結束の紐帯とて企図された詩集と、その国家社会主義的意図の意味について考察した。
著者
山内 廣隆
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

研究成果は『ヘーゲルから考える私たちの居場所』(晃洋書房)に凝縮されている。この本は昨年十一月に出版された。この研究の成果は以下のようにまとめられる。(1)国家と宗教の関係のあるべき姿を提示できた。(2)現代アメリカの新自由主義批判のための、理論的根拠を構築できた。以上の二つの成果を、私はドイツ実践哲学の代表者ルートヴィヒ・ジープのヘーゲル解釈に依拠しながら、導き出すことができた。
著者
三浦 郁夫 大谷 浩己 市川 洋子
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

ツチガエルの性連鎖遺伝子SOX3(哺乳類の雄決定遺伝子SRYの元祖遺伝子)の卵巣決定機能を解析した。対立遺伝子W-SOX3とZ. SOX3の5'上流領域にそれぞれに特異的な2種類のエレメントを同定した。ZW雌の未分化生殖線ではW-SOX3の発現が特に高く、CYP19やFOXl2の性的二型発現開始に先んじて発現した。ZZの受精卵へW-SOX3遺伝子を導入し、生殖細胞への導入個体を得たが、卵巣分化は誘導されなかった。
著者
牛田 あや美
出版者
京都造形芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

日本でのペンネーム北宏二こと、金龍煥は現在では謎の挿絵家であり、マンガ家でもある。活躍した時代は長く、60年に渡っている。資料が多く、散逸しており、まだ調査の最中である。本年度は現段階での調査とし、資料からみえてきた日本の美術の歴史から、北宏二の空白の期間(1945年~1959年、朝鮮・韓国で金龍煥名義)を中心に論文を作成した。彼は1912年、日本統治下の朝鮮で生まれた。韓国では彼の作り出したキャラクター「コチュブ」は、まだ健在である。韓国では漫画・マンガの父として知られているが、日本での彼の活躍はベールに包まれている。時代を経、忘れ去られてしまったことは否めないが、彼の育った時代が、彼の功績を隠している。戦前、戦中において雑誌で活躍した挿絵家や漫画家にとり、読者への戦意高揚を促す日本の国策から逃れられる者はいない。ましてや彼は外地出身者である。彼のように戦前の日本に留学をし、日本の新聞社や出版社と仕事をした人々が解放後、言論の自由を得、新聞社や出版社を立ち上げていった。彼らがアジアの近代化を自国ですすめていった。また近代における「日本のマンガ」を語るとき、学校で勉強をしていた人たちが、マンガ家になったという経緯がある。漫画の父と呼ばれる岡本一平は東京美術学校、現在の東京芸術大学出身である。現在ですら、芸大や美大出身者のマンガ家が多いように、日本が鎖国を解き、国を開いた時から、マンガは独学で、というよりも美術同様に教師から学ぶことから始まったといってもいいだろう。アジアのなかでいち早く近代化した日本には、ヨーロッパからの芸術家が来訪していた。日本の漫画・マンガもルーツを探るとフランス人のジョルジュ・ビゴーとイギリス人のチャールズ・ワーグマンがでてくる。日本での留学時代の人脈、挿絵家としての活躍が、彼の朝鮮・韓国での成功へと繋がっている。
著者
荒井 康智 前田 辰郎
出版者
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では、近年性能限界が明らかになってきたCPUのSiトランジスタより更に移動度が高い、CPU高速動作が可能なSiGeトランジスタに利用する高品質SiGe結晶育成方法を研究した。主な課題は、Si種子結晶からSiGeが育成する際に、SiとSiGe の熱膨張率差でSiGe結晶に発生するモザイク構造を抑制する事であった。研究の結果、熱膨張率差緩和を期待したSiGe結晶を種子結晶とする方法は、成長SiGe結晶に多結晶が多くみられ、高品質化が困難である可能性が高いことが判り、新しくダブルゾーンでの解決方法を模索する事とした。
著者
小貫 麻美子 柊元 巌
出版者
昭和大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

子宮頸癌とその前癌病変の原因であるヒトパピローマウイルス(HPV)には遺伝子配列の異なるバリアントや準種と呼ばれる突然変異を多数生じる。HPV52/58型は日本人の子宮頸癌および前癌病変で多くみられる型で、これらを次世代シークエンサーで全遺伝子を解析しバリアントの分布が両型で大きく異なることがわかった。HPV16型は子宮頸癌患者から最も多く検出される型で、特定のバリアントで子宮頸癌との関連が強いことがわかった。さらに今までわかっていなかった新たなバリアントを発見できた。また、子宮頸癌や前癌病変患者から採取したHPVに多くみられた遺伝子の塩基配列の変異がアポベック3蛋白と関連がある可能性がある。
著者
木村 和哲 前田 康博 堀田 祐志 佐々木 昌一 片岡 智哉
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

2005年に男性型脱毛症治療薬のフィナステリド、2009年に前立腺肥大症治療薬のデュタステリドが承認された。これらの薬剤は5α還元酵素を阻害する薬剤であり、これまでの報告によると5α還元酵素阻害剤服用患者で勃起障害(ED)の副作用が見られたことを報告されている。EDと同様の機序で動脈硬化が進行することが知られており、本研究では5α還元酵素阻害剤による心血管機能への副作用を検討した。ラットにデュタステリドを連日投与したところ、4週後および8週後の時点でEDを発症した。一方、大動脈を用いて血管内皮機能を薬理学的に評価したところいずれの期間においてもデュタステリド投与による変化は観察されなかった。
著者
坂田 昌嗣 白石 直 堀越 勝 古川 壽亮
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

大学生のうつ病は学業や学生生活全体に重大な影響を与えるため、治療のみならず予防が課題となっている。一方、各大学で対応する人的、経済的資源は限られている。そこで本研究では、スマートフォン認知行動療法を用いて大学生へのうつ病予防効果を検証し、その最適な構成要素の組み合わせを導き出すことを目的とする。複数大学の健常大学生1,088名に対してスマートフォン認知行動療法を構成する5つの要素および順序の組合せ64通りにランダムに割り付け、8週間の介入の後1年間追跡し、うつ病発症率を比較する。それらの結果をもとに最新の情報技術を用いた大学生へのメンタルヘルス介入の普及を目指すものである。
著者
小林 幸雄
出版者
北海道開拓記念館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

縄文時代の繊維質胎漆製品である"赤い糸"は、糸の製作技術、漆などの膠着材や彩色用赤色顔料などの素材、さらには工程全体に関わる技術などが体系的に具現化されている。それらの技術内容には、縄文時代の人々の生活や文化を復元する上で有効な情報が含まれている。本研究では、縄文時代の"赤い糸"を自然科学的手法によって具体的に検討し、製作技術に関わる材質や技法などの知見を得ることができた。
著者
大村 尚 藤井 毅 石川 幸男
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

モンシロチョウの嗅覚を利用した寄主探索や交尾後の行動・嗅受容の変化について調べた。交尾雌は処女雄より匂いに対する反応性が高く、植物模型にキャベツ葉の匂いを賦香すると着陸頻度が増加した。雌の触角嗅覚感受性は交尾前後でほとんど変化しなかったため、交尾雌での行動の鋭敏化は、嗅受容に関する中枢神経系での変化に起因すると推定された。寄主探索をおこなう雌は幼虫糞の匂いを弱く忌避する傾向があり、交尾雌よりも処女雌において忌避反応は顕著であったが、活性物質の特定には至らなかった。雌成虫の遺伝子発現を調べ、触角での発現量は極めて少ないこと、胸部・卵では十数種の遺伝子が交尾後に過剰発現することを明らかにした。
著者
稲津 哲也 田中 輝幸 片山 将一
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

Cyclin-dependent kinase-like 5 (CDKL5)はタンパク質リン酸化酵素であり、その遺伝子の変異は精神発達遅延、てんかん等を伴う重篤な疾患であるレット症候群を発症させることが知られている。しかし、有効な治療法は存在しない。本研究では、日本古来より用いられる漢方薬である「抑肝散(ヨクカンサン)」を用い、ヒトiPS細胞、Cdkl5ノックアウトマウス(KO)等における抑肝散の効果について検証し、最終的に有効成分の単離を実施し、レット症候群(特にCDKL5 欠失症(CDKL5 deficiency disorder))の治療薬創製を最終的な目標と定める。
著者
塚原 伸治
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

形態学的に性差がみられる神経核は性的二型核とよばれ脳機能の性差の構造基盤であると考えられている。マウスにおける性的二型核の性差構築には周生期の精巣から分泌されるアンドロゲンの作用が必要であることが知られているが、近年では、思春期以降の性腺から分泌される性ホルモンの働きも重要であることが指摘されている。本研究では、思春期以降に分泌される性ホルモンの性的二型核の性差構築における役割と作用機序を明らかにするため、雄優位な性的二型核であるSDN-POAとBNSTpおよび雌優位な性的二型核であるSDN-DHを対象とした組織学的解析を実施した。これまでの研究より、雄マウスのSDN-POAとBNSTpのニューロン数は思春期前の精巣除去により減少し、雌マウスのSDN-DHのニューロン数は思春期前の卵巣除去により減少することが分かった。また、これら性的二型核に対する思春期前の性腺除去の影響は性ホルモンの代償投与により回復することも分かった。本年度の研究では、性ホルモンが作用する時期を特定するため、思春期後に施した性腺除去の影響を検討した。その結果、雄マウスのSDN-POAとBNSTpにおけるニューロン数は思春期後の精巣除去により変化せず、雌マウスのSDN-DHにおけるニューロン数は思春期後の卵巣除去により変化しなかった。以上のことから、思春期の精巣から分泌されるアンドロゲンはSDN-POAとBNSTpの雄性化を促し、卵巣から分泌されるエストロゲンはSDN-DHの雌性化を促すことが明らかになった。
著者
岩澤 真理 中村 悠美
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

申請者らは新規C. albicans経表皮感染マウスモデルを確立し、感染初期における菌体排除に、Type3 innate lymphoisd cellsとγδT 細胞によるIL-17産生が重要であることを見いだした。一方、先天的な遺伝子異常により難治性・再発性の口腔・皮膚のカンジダ症を表現型とする、Chronic mucocutaneous candidiasis disease がヒト疾患として報告されている。この疾患のヒト末梢血細胞では、CD4+T細胞によるIL-17産生の障害が疾患の発症に重要であると報告され、我々のマウスの系で明らかにした細胞と異なる。この相違は、獲得免疫系でCD4+Th17細胞の役割が重要であることに依存していると考え、本研究ではすでに確立したC. albicans経表皮感染マウスモデルを発展させ獲得免疫系におけるIL-17産生細胞の解析を行い、C. albicansに対する獲得免疫系の役割を明らかにする。通常、抗原への初回暴露後αβT細胞の出現は、7日目位から3週間後をピークとする事が知られているので、マウスへのC. albicans 経表皮暴露後7日、14日、21日におけるIL-17産生CD3+, αβTCR+, CD4+細胞の誘導を感染局所および所属リンパ節の細胞を用いて観察した。なお、感染免疫においては、αβTCR+分画において、CD4+細胞以外にもCD8+陽性細胞もIL-17産生に関与することが知られているので同様にCD8+陽性細胞の分画も解析を行った。現時点までに、C. albicans経表皮暴露後の獲得免疫系の異差を検出できておらず、実験系の検討が必要であると考えられた。
著者
西浦 博
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-07-19

感染症流行の数理モデル研究は、流行途中の分析や予測を実施するリアルタイム研究では先進諸国を中心に実装面で成功を収めつつある。本研究は、数理モデルを流行前から準備するという意味でプレモデリングと称する計画であり、リアルタイム流行分析に特化した数理モデルの構築と観察データの収集、統計学的分析に関して方法論的基盤・数理的研究手法を確立することを目的に実施した。マダガスカルにおける肺ペスト流行やイエメンでのコレラ流行、バングラデシュにおけるジフテリア流行など、突発的流行を通じた研究機会に恵まれた。プレモデリング体制が徐々に確立することを受けて、流行発生時の観察データの分析成果を創出することに注力した。
著者
小野塚 大介 萩原 明人
出版者
国立研究開発法人国立循環器病研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究は、日本全国47都道府県のインフルエンザ患者1,851万人、感染性胃腸炎患者1,598万人、救急搬送患者3,552万人、病院外心肺停止患者約118万人を対象とし、気候変動による脆弱性が、地域や個人の効果修飾因子によってどのように異なるかについて、環境疫学的手法と社会疫学的手法を融合して解明することを目的とする。本研究により、効果修飾因子による気候変動への脆弱性の違いを全国規模で定量的に推定することが可能となり、地域や個人の特性に応じた気候変動-疾患発症予測モデルの構築、早期警報システムへの応用、疾病予防管理プログラムの改善、医療機関における医療従事者の確保や設備整備等、日本における気候変動適応策を進める上で重要な意義があると考えられる。研究2年目である令和元年度については、(1)文献レビューによる先行知見の整理、(2)データの取得、データクリーニング、データセットの突合、データベースの構築、(3)統計解析及び論文化、を行った。文献レビューによる先行知見の整理については、気候変動による健康影響(感染症、救急搬送、病院外心肺停止)について、国際誌を中心とした文献レビューを行い、先行知見について整理した。また、気候変動の指標として、地域の気象変化(気温、相対湿度、降水量等)のデータを、アウトカムの指標として、感染症発生動向調査に基づく患者情報、全国救急業務実施状況調査に基づく救急搬送データ、ウツタイン調査に基づく病院外心肺停止データをそれぞれ入手し、データベースを構築した。さらに、文献レビューの結果をもとに、研究デザイン、研究対象、データ収集、解析方法について検討し、統計解析及び論文化を進めているところである。