著者
北畠 直文
出版者
ノートルダム清心女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

これまでの研究において,茶の渋味については、茶抽出液ならびにタンニン酸とヒト耳下腺から採取した唾液について、その沈殿形成と渋 味発現の関係、ならびに沈殿形成にかかわる唾液中のタンパク質の同定等について検討、渋味抑制方法の開発等の研究を行ってきた。さらに、茶の成分であるカテキン類を用いて、カテキンと唾液たんぱく質との相互作用を調べた。また、先の研究においてゼラチンが唾液たんぱく質と渋味成分であるタンニン酸との相互作用を阻害し、結果として渋味の発現を抑 制することを見出していたが、用いるゼラチン素材の種類によって差異があり、抑制効果とゼラチン分子との関連について検討を進めた。続いて、タンニン酸以外の渋味成分について検討を進めた。ヒト耳下腺唾液、顎下・舌下腺唾液を別々に採取し, それぞれについて渋味を呈する①タンニン酸,②ミョウバン,③塩酸を用いて,唾液と混合した場合の沈殿の生成について検討した。 ①のタンニン酸については、耳下腺唾液と顎下・舌下腺唾液では沈殿形成に顕著な差異が見いだされ、反応する唾液成分が異なり、またその挙動(沈殿形成時間や混合比)にも違いを認めた。当該年度においては、上記の①タンニン酸,②ミョウバン,③塩酸の渋味についてさらに検討を加え、あわせてこれまでに顎下腺唾液に含まれるたんぱく質が渋味発現に重大な役割をもっていることを示唆する結果を得ていたので、これについてさらに検討を進めた。しかしながら、大学の管理運営業務等のため研究は遅れ、研究論文作成も遅延している。よって、これらを完遂すべく、昨年度末に期間延長を申請し、承認を受けたところである。
著者
長谷 洋一
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

既刊の報告書や論文、古記録などに掲載された約7000件の近世仏師の事績をもとに仏師ごとのデータベースを構築し、公開した。本研究は構築したデータベースを利用して、近世京都仏師、大坂・江戸仏師、在地仏師の盛衰と三者間での交流を明らかにすることができた。京都での仏像製作需要が減少すると、京都仏師、大坂・江戸仏師が修復や開帳などで地方へ進出すると、在地仏師との技術的交流が生まれ、また京都仏師に繋がる肩書を得ることとなり、在地仏師での造像活動が活発になることを明らかにした。
著者
竹谷 悦子
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は1930年代のアフリカ系アメリカ文学を、環太平洋という新しい文学の地政学のなかに布置し、グローバルな視座からその再考を試みるものである。とりわけ、真珠湾攻撃までの約十年間に、アフリカ系アメリカ人たちが思い描いたアジア/日本との超国家的連帯を掘り起こし、「ブラック・オリエンタリズム」の系譜を体系的に分析することを試みた。エドワード・サイードが西洋のコロニアル言説として定義したオリエンタリズムを、(西洋の)黒人とアジアとのあいだの複雑で、様々なねじれを伴う関係性をあぶりだすために援用し、アフリカ系アメリカ文学と植民地・帝国主義言説とのかかわりを多角的に考察した。この二年間に主な分析対象とした作家はジェイムズ・ウェルドン・ジョンソンおよびジョージ・サミュエル・スカイラーである。環太平洋というトポスは、アジアと短絡的に同一視されてはならず、むしろ様々な文化の接触・折衝がおきるコンタクト・ゾーンとして捉える必要がある。ジョンソンは、米国の「裏庭」とされるカリブ海を環太平洋地域として再布置し、米国のニカラグア占領と日本の満州占領とのあいだの歴史的共鳴のなかに、アフリカ系アメリカ人と植民地・帝国主義の共犯性と対抗言説への可能性を見いだしていった。またスカイラー分析では宗教の領域を横断しつつ、人種戦争ファンタジーに焦点をあて調査を行なった。スカイラーの近未来小説『黒人帝国』執筆の動機となったムッソリー二のエチオピア侵攻-第二次イタリア・エチオピア戦争-が与えた歴史的インパクトを、スカイラーが編集主幹を務めた『ピッツバーグ・クーリエ』を含む主要黒人紙から明らかにし、作品や報道に表出された人種戦争ファンタジーの源泉となっていた「日本」の象徴的/政治的機能を解明した。
著者
金関 猛
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

フロイトが「精神分析」という術語をはじめて用いたのは40歳のときである。それまでフロイトは医学者としておもに神経学の研究に携わっていた。フロイトがウィーン大学生であったときに専攻したのも医学である。それまでの専門と精神分析とは隔たりがあるように見える。しかし、本研究においては、精神分析の基盤がすでにフロイトの学生時代に形成されていたことを明らかにした。ウィーン大学医学部における、徹底した実証主義研究が精神分析の根幹をなすのである。
著者
淵澤 定克 白寄 篤
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

チューブハイドロフォーミングで加工される管材の加工硬化特性を解明するために,アルミニウム合金管,銅管,鋼管,チタン管を供試材として,一軸引張試験および液圧バルジ試験による材料試験を行った.これらの試験から明らかになったことおよび再確認したことの概略は,次の3点である.(1).アルミニウム合金管,銅管,鋼管,チタン管はn乗硬化則で加工硬化特性を表現することができる.(2).ひずみが小さい範囲と大きい範囲とで,加工硬化特性は異なる.(3).アルミニウム合金管,銅管,鋼管には,加工硬化特性の応力比依存性はほとんどないようだが,チタン管については,応力比の影響が見られる.チューブハイドロフォーミングでは,管材に内圧と押込みを負荷するが,押込みに比べて内圧の割合が高い場合,管材は破裂する.逆に,内圧の割合が低い場合,管材は座屈してつぶれてしまう.実験による検討からすると,(1).内圧と軸押込みを一定の比率で管材に負荷する直線負荷経路,または,(2).管材に,まず,内圧のみを負荷して張り出させ,内圧の大きさが設定した内圧(保持内圧)に達したら,その内圧を保持しながら押込みを負荷する折線負荷経路の2種類の負荷経路の中で最適な負荷経路を検討することが適当であることが分かった.実験結果を踏まえて型バルジ加工のFEMシミュレーションモデルを作成した.また,成形型を作製し,実験を行い,FEMシミュレーションの結果と比較した.成形後の管材の肉厚分布に及ぼす成形金型と管材との間の潤滑の影響について,FEMシミュレーションで良く再現できることが分かった.FEMシミュレーションによる検討では,今後,(1).管材の変形挙動を十分に再現することのできる適切な入力データ設定方法の確立,(2).管材の不整変形(座屈,めり込み)発生条件と破裂条件の解明が必要であることを確認した.
著者
久保田 紀久枝
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

近年、ショウガの機能性について多くの研究がなされ、ジンゲロールなどのような不揮発性成分だけでなく、ショウガの爽やかな風味に寄与する香気成分のゲラニアールとネラール(シトラールと総称)についても抗菌、抗腫瘍活性や解毒酵素誘導活性などが認められている。一方、香気成分組成において、ショウガの品種や貯蔵期間によりシトラール量の割合が変化することが知られているが、その生成機構については不明である。本研究では、未成熟のいわゆる新ショウガと成熟ショウガ貯蔵中におけるシトラール絶対量の経時的変化を調べるとともに、その生合成機構について検討し、ショウガ根茎中にプロテアーゼ以外の新たな酵素系の存在を確認した。ショウガより調製した粗酵素系において、グルコースおよびガラクトース配糖体に特異性を有するグリコシダーゼの存在を確認した。また、NADP依存性のアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)の存在も確認し、その至適pHが9.0であること、ゲラニオールおよびネロールに基質特異性をもつことを確認した。ゲラニオールについては、その配糖体よりグルコシダーゼの働きで生成されることも確認され、配糖体よりゲラニオール、さらにシトラールへの生成経路が示唆された。また、2種類の栽培種の根茎を用いて、収穫70日前、成熟後貯蔵0、14、30〜90日の試料について、グルコシダーゼおよびADH活性とシトラール量を測定した結果、貯蔵2週間において両酵素活性ともに極大となり、それとともにシトラール量が顕著に増加する傾向を確認した。以上のことより、両酵素系が機能性成分であるシトラール生成に関与していることが強く示唆された。両酵素とも、本研究によってショウガ中ではじめて存在が確認された。現在ADHの精製を進めているが、今後さらに精製酵素を用いて機能性成分の生成メカニズムを解明し、機能性に優れたショウガの開発または利用法に資するデータを提供したい。
著者
田中 浩朗
出版者
東京電機大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は,第二次世界大戦中に化学工業統制会会長を務めた石川一郎(1885-1970)の個人文書『石川一郎文書』(東京大学 経済学部図書館所蔵,マイクロフィルム版,全279リール)を中心史料として用い,「産業界からみた科学技術動員」の実態を解明することである。平成29年度は,本年度購入した5リールを含め,本研究に必要と判断した156リールについて一応のサーベイを完了し,昨年度と同様に科学技術動員に関連する資料の探索と目録作成を進めながら,化学工業統制会が科学技術動員にとって果たした役割について検討した。本年度の調査では,科学技術動員史の観点からの石川文書の全体像がおぼろげながら明らかになった。まず,全279リールという膨大な資料のうち,戦時中の資料を含むものは意外に少なく,全体の約半分程度であるということである。また,化学工業統制会の活動において,技術的隘路を克服することの重要性は相対的に低く,むしろ資材不足などが生産増強の重要な隘路と考えられており,統制会の技術関係の活動に関する資料は当初期待したほどには見出せなかった。特に,民間企業と軍・学・官との協力関係に関する資料は,断片的には存在するものの,まとまった資料はほとんど見出せなかった。当初の予定よりも購入リールの本数は少なくて済んだため,科学工業統制会の監督官庁である軍需省の資料(『軍需省関係資料』全8巻,復刻版;通産政策史資料オンライン版)を購入し,化学工業統制会をとりまく産業関係組織との関連を考察し始めた。
著者
青柳 孝洋
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

現代アラブ世界の音文化、特にアラブ・ポップと称される大衆音楽が本研究の中心課題である。調査をする際、グローバル化、原理主義とも称されるイスラーム的な宗教復興運動、そしてインターネットや衛星放送をはじめとするメディアの発達を考慮した。20世紀末頃からのこれらの環境的な変化は、情報の伝達を容易にし、国境を越えた人や文化の交流を増大化させており、現在に至るまで、アラブ音文化の質的変化に大きく寄与している
著者
繆 いん 藤原 良叔
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

完全差集合族問題は、電波天文学での移動アンテナ間の間隔取り方問題の抽象化であり、1970年代中頃に提出された。レーダー配列問題は、移動アンテナ間の間隔取り方問題の高次元への拡張であり、飛行船の追跡管制技術などに応用される。本研究では、組合せデザイン理論により、完全差集合族及び関連するレーダー配列、均質一様差行列、単調有向デザインなどを数多く構成した。デジタル・コンテンツ著作権保護での不正ユーザ追跡方法についても新しい結果を得た。
著者
本村 健太
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

基礎的段階として、初年度・次年度にVJ表現やWebデザインの展開事例を実践研究として構成学的な観点から総括した。最終年度には、実践研究を継続するとともに、その源流を探る試みとして、バウハウスのルートヴィヒ・ヒルシュフェルト=マックによる「カラーライトプレイズ」を中心とする考察を行った。カラーライトプレイズは、ライトアートの美術史上のみならず、インタラクティブ映像メディア装置の源流として「カラーミュージック」の系譜のなかでも捉えられ、今日的な表現にまで至る、芸術と技術の融合による総合芸術的なあり方を確認することができ、初期バウハウスの「プロジェクト」が現在においても有効であることの例証となった。
著者
多田 昇弘
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

マウス精子を室温保存できれば、凍結保存に比べ、保存スペースが少なくて済み、液体窒素を補充する必要もなく、輸送も容易である。本研究では、マウス精子の室温保存技術を確立するために、トレハロース及び緑茶ポリフェノールを含む保存液を用いて真空乾燥させたマウス精子を室温保存し、復水後の受精率及び発生率を確認した。また、一部の保存精子ついて、1年以上の室温保存を行い、産仔の作出も試みた。その結果、トレハロースの室温保存における有効性が明らかになった。また、1年以上(446日)長期室温保存した精子を用いて顕微授精を行い、得られた受精卵の卵管移植により、正常な産仔の作出に成功した。
著者
花井 一典 中澤 務
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

中世におけるギリシア哲学の複雑かつ微妙な受容過程を、多少なりとも明確な図式の中に描き出すことが、本研究の目的であった。この目的を達成するために、哲学史上の基本概念(「心」「理性」「本質」「意志」「認識」「言語」など)に焦点を当て、盛期スコラの哲学者達に至るまでの代表的な哲学者達に関して、その概念の理解と用法の変遷を洗い出し、どのような影響関係を持ちながら、問題の概念が受容されていったのかを調査し、このような基礎的研究をもとにして、中世スコラ哲学におけるヘレニズム・ヘブライズム統合の基本的な図式に関する総合的な見方を提示する試みを行った。この目的を実現するために、次のような基本的な作業を主に行った。(1)現有の『キリスト教著作家全集』、『アリストテレス全集』、『トマス・アクィナス全集』のテキストをCD-ROM版によって整理し、哲学上の基本概念に関して、その用法を網羅したインデックスを作成した。(2)以上の作業によって集められたデータをもとに、各分担者がそれぞれの専門分野から分析を行った。中澤はギリシャ研究の立場からアリストテレス的概念の中世における受容(ないし変容)形態を考察した。また、その後の中世独自の展開過程に関しては、花井が、詳細な調査・分析を試みた。本研究は、データベースを活用した、概念の歴史的な受容の姿を明確にする試みであり、研究も大部分は基礎的な調査に終始したが、より総合的な研究への足がかりとしての基盤作りは十分にできたのではないかと考えている。
著者
花井 一則 中澤 務
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

へブライズムによるギリシア哲学の受容・深化の様相を探り出す作業を通して西欧諸科学の母胎としてのスコラ学の成立過程を明らかにするという所期の目的を達成するために、平成9年度にはテキストデータベースの調査や最近の研究状況の調査などの基礎的研究を行ない、平成10年度にはこうした基礎的調査を整理し総合するとともに、具体的なテーマに即した個別的研究をおこなった。また、個別的研究を総合し、近世諸科学に対するスコラ学の概念的な影響に関して一定の見取り図を描き出す作業をおこなった。中澤はギリシア哲学研究の立場から、ギリシア哲学の基本概念がスコラ学の形成過程でどのような変容を受けたのかについて考察した。特に、ギリシア哲学における真理概念を、プラトンの『プロタゴラス』と『テアイテトス』を主なテキストとして分析する作業と、快楽概念をプラトンの『ピレボス』とアリストテレスを中心に分析する作業をおこなうとともに、スコラ学におけるこれらの概念の受容に関して、主要な哲学者のテキストの調査をおこなった。花井は、トマス・アクイナスにおける真理と善の概念を分析してその特徴を明らかにすると共に、その後世への影響について考察した。また、こうした研究成果をもとに、スコラ学の基礎的概念の独自性を総合的にまとめ、また、それが近代諸科学に与えた影響とその意義についてまとめた。その成果は、研究成果報告書に収録されている。
著者
芦澤 潔人 難波 裕幸 井原 誠 奥村 寛 山下 俊一
出版者
(財)放射線影響研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

放射線誘発甲状腺がんについて、DNA修復機構の関連に注目して検討した。1.SNP解析1)P53遺伝子のArg/Argの発現が、放射線誘発の甲状腺がんにおいて有意に低下していた。2)ATM多型:ATMは、p53の構造や活性の重要な制御因子の一つである。(1)エクソン39,G5557A多型:(1)放射線誘発の小児甲状腺乳頭がんは、放射線誘発の成人甲状腺乳頭がんと比べ、Aアレルが優位に増加していた。(2)放射線誘発の成人甲状腺乳頭がんは、コントロールと比べて優位にAアレルが減少していた。(3)自然発症の成人甲状腺乳頭がんは、コントロールと比べて優位にAアレルが減少していた。(2)イントロン22多型:IVS22-77C/Tについて解析したがそれぞれのグループで優位な差はなかった。(3)イントロン48多型:IVS48+238C/Gについて解析したがそれぞれのグループで優位な差はなかった。3)MDM2多型:MDM2 SNP309T/Gを解析したが、特に関連なかった。4)XRCC1多型:XRCC1エクソン9Arg280His多型とXRCC1エクソン10Arg399Gln多型を検討したがそれぞれのグループで優位な差はなかった。5)XRCC3多型:XRCC3 Thr241Met多型:放射線誘発の小児甲状腺乳頭がんはコントロールと比べて優位にMetアレルが増加していた。6)MTF-1多型:検討中である。2.甲状腺癌細胞でのDNA-PK活性:ヒト甲状腺癌細胞でDNA-PK活性の差がみられた。DNA-PKcsのみがDNA-PK活性と正の相関を示した。甲状腺癌細胞の放射線感受性は細胞種で異なるが、DNA-PK活性を阻害するウオルトマニン処理を行うと生存率はほぼ同じなり、DNA-PK活性によって生存率が決定されると考えられる。
著者
文 世一 矢澤 則彦 安藤 朝夫 佐々木 公明
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

(1)交通計画、地理学、都市・地域経済学をはじめとする関連分野において、情報通信及び交通システムの整備が経済活動に及ぼす効果について論じた文献をレビューし、空間のレベル、企業のタイプ、コミュニケーションの形態ごとに、情報通信と交通システム整備の効果をいかにとらえるべきかについて論点整理を行なった。(2)オフィス企業が都市内の他企業と行うコミュニケーションの手段と回数、および都市内での立地選択をモデル化した。ここではコミュニケーションの質的レベルを明示的に考慮してコミュニケーションの手段選択を定式化している。情報通信費用の低下が都市内交通需要、及び企業の立地分布に及ぼす効果をシミュレーションによって分析した。その結果、通信費用の低下によって交通需要は増加する場合と減少する場合があること、企業の立地分布は分散化することなどが示された。(3)都市間コミュニケーションのための情報通信・交通システムの整備が、企業の本社-支社の機能配置に及ぼす影響を通じて広域的な空間構造の変化を分析した。ここでは企業間(他都市に立地する取引先と)、および企業内(同じ企業の本社と支社の間)の二通りのコミュニケーションを行うオフィス企業の行動をモデル化した。このモデルは、一企業の立地選択を定式化するだけではなく、多数の立地行動の間の相互依存関係と立地均衡を通じて都市規模の分布を求めることができる。このようなモデルにもとづいて、支社の立地と都市規模が交通システムや情報通信システムの変化によってどのような影響を受けるかを分析した。その結果、情報通信システムの整備は、支社の立地を促進するが、交通システムの整備は本社への集中化をもたらすことが示された。
著者
山田 哲也 塚本 敏夫 中村 俊夫 小田 寛貴
出版者
(財)元興寺仏教民族資料研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

加速器質量分析(AMS)法による古代鉄製品の放射性年代測定を確立し、鉄製品に直接的な年代値を付与することを目的として、鉄試料に内在する炭素を汚染させることなく効率よく高純度に抽出し、高精度の試料調整を行った上で、名古屋大学年代測定総合研究センターのタンデトロン加速器質量分析計で微量の炭素を含有する古代鉄製品の^<14>C年代測定の有効性の検証をおこなった。鍛錬鍛冶実験を通じて、そのときに使用した木炭および鍛錬工程で得られた鉄試料のAMS法による^<14>C年代測定を行い、その年代値の検討をおこなった。その結果、鉄中の炭素履歴は、鍛錬実験に用いる前の木炭とほぼ同一の年代を示し、鉄中の炭素履歴は、鍛錬の際に用いられた木炭に置き換えられることがわかった。これまでの一連の研究成果とあわせて、鉄製品中の炭素は、各製作工程ごとに用いた木炭の炭素に影響を受けて、鉄製品中の炭素履歴が置換されるため、鉄製品に内在する炭素を抽出して^<14>C年代測定をおこなうことにより、古代の鉄製品に直接的に年代を付与することが可能であり、その鉄製品の^<14>C年代測定を行うことの有効性を確認することができた。しかし、今回測定した試料の年代値の中には、測定年代に測定誤差を越えたばらつきや、測定試料に炭素同位体分別が生じたり、鍛錬に用いられた木炭と造られた鉄の^<14>C年代値に若干の時間差がみられることがあった。これらの事象を今後、解明してゆくことが古代の鉄製品の^<14>C年代を測定して行く上での課題として残った。
著者
彦坂 佳宣
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

『方言文法全国地図』の意志・推量、条件表現、敬語類などの言語地理学的研究に、国語史の知見、また特に近世期地方方言文献を探索・考察した研究により、およそ5 種の伝播類型を見出し、それによる日本語形成史を試論的に考察した。
著者
若菜 博 田中 邦明 前田 賢次 境 智洋
出版者
室蘭工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

日本の岩手・宮城・佐賀・長崎・鹿児島県などの海岸保護林、韓国の全羅南道・慶尚南道を対象に現地調査を行った。韓国では、魚つき林と防潮林が一つのものとして表記され、その一部は400年から300年の歴史を持っていることを確認した。岩手・宮城・長崎県では各地の防災関係副読本を収集できた。それらを踏まえ、津波防災に関わる実験の開発および授業プランを実施した。平成27年12月には、本研究課題をテーマとしたシンポジウムを開催した。韓国の木浦国立大学の洪善基教授を招き、地域社会の防災文化の継承のために、海岸林の特性を取り入れた防災教育の進展を図ることを提起した。
著者
中嶋 毅
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、1932 年に成立したいわゆる「満洲国」に居住した亡命ロシア人の生活世界の実態とその変容を、同時代の史料に基づいて実証的に考察した。その過程で、1934年末に日本軍特務機関の指導下で設立された満洲国白系露人事務局がロシア人亡命者の体制への統合に大きな役割を果たしたこと、ロシア人亡命者が同事務局を通じて満洲国において一定の凝集性を維持できたこと、を明らかにした。
著者
將口 栄一 ムンパッディー スタダ
出版者
沖縄科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

共生性渦鞭毛藻の褐虫藻Symbiodinium minutum (クレードB1)のプラスチドゲノムとミトコンドリアゲノムの全配列を決定し、その解析結果を論文として報告した (Mungpakdee et al., 2014; Shoguchi et al., 2015)。プラスチドゲノムは、14個のミニサークルDNA(1.8-3.3 kbp)からなり、各々のミニサークルに一つの遺伝子がコードされ、それらの全てがRNA編集を受けることを明らかにした。ミトコンドリアゲノム解析では、褐虫藻とアピコンプレクサ類マラリア原虫との間で多くのノンコーディングRNAsが保存されていることを明らかにした。