著者
南 範彦
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

F_1-スキームの基礎的初等整数研究で、F_1(一元体)-的な見方が前面に出した論文が、Journal of Number Theoryに掲載された。A_1-ホモトピー論に関して基本的だが難解なMorel-Voevodskyの論文の理解が進み,そのサーベイ論文がRIMS Kokyuroku Bessatsuに掲載された.自由ループ空間の研究からBockstedt-Hsiang-MadsenのNovikov予想代数的K類似と,トポロジカル絶縁体のdisorderの有る場合に興味を持ったが,これら共通の先に非可換幾何のBaum-Connes予想が有ることを認識した.
著者
鈴木 邦明
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

骨芽細胞様細胞株であるMC3T3-E1細胞は、コンフルエンス後石灰化基質を分泌し、石灰化部位形成時期にかけて蛋白質チロシンホスファターゼ(PTP)活性、蛋白質チロシンキナーゼ(PTK)活性、分子量263,224,29.5,28.2kDaの蛋白質のリン酸化チロシンレベルが上昇した。PTK,PTPは、細胞の増殖、分化に重要な役割を果たしているとされており、その中の石灰化過程におけるPTPの役割を調べるため、MC3T3-E1細胞のPTPの精製を試み、性質を調べた。MC3T3-E1細胞の細胞質画分から3種類のPTPを部分精製した。そのうち2種類はイムノブロッティング法により抗PTP1B,PTP1D抗体と反応し、PTP1B,PTP1Dと判明した。これらPTP1B,PTP1Dは細胞が増殖、分化し、基質を分泌し石灰化する過程で発現量が増加し、またオリゴマーとして存在していることが推測された。市販の抗体と反応しなかった他の1種類のPTPの精製を試み、カラムクロマトグラフィーにより全細胞ホモジネートに比較して、4779.1倍精製した標品を得た。この標品の分子量はSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により33あるいは39kDaであり、またゲル濾過による見かけの分子量は933kDaであった。PTP活性の至適pHはpH6付近であった。活性は一般的なPTPの阻害剤であるバナジン酸、モリブデン酸、亜鉛によって阻害され、セリン/スレオニンホスファターゼの阻害剤であるオカダ酸によっては阻害されなかった。また、マグネシウムによって活性が増強され、EDTAによって活性が阻害された。以上の結果からPTPが石灰化過程においてMC3T3-E1細胞の細胞増殖、基質合成に深く関わっている可能性と、MC3T3-E1細胞が新種のPTPを有している可能性が示唆された。
著者
川島 光郎
出版者
筑波技術短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

聴覚障害者への音楽リズム情報の伝達手段として新しく皮膚電気刺激を取り上げ,手軽に利用できるパソコンベースのシステムを作成し,その基本的性質を調べた.すなわち,刺激電圧パルスの波形と強度,皮膚電極形状とその装着位置,電極装着個数と音楽リズムの複雑さ、感度や不快感などとの関係を調べた.また,リング状の電極を指につけた場合について,MIDIキーボードを弾く例を取り上げ,音や光など他のリズム伝達方法と比較した.これらの結果から,パルス幅0.2〜2ms、印加電圧20〜80Vの範囲で各人の特性により調整することにより、痛みなどの不快感を最小限にとどめ,音楽信号の伝達方法の1つとして使用可能であることが分かった.従来,聴覚障害者への音楽同期情報は,残存聴力を利用する通常の音響出力や機械的振動,あるいは映像やランプなどの視覚情報が用いられて来たが,この直接電気的に感覚神経を刺激する方法は応答時間が早く,顔の向き(視線方向)に左右されない情報伝達手段として,低周波音響や機械的振動に替わり,とくに合奏やダンスなどの集団動作の同期をとる場合に有用である.障害者個々の特性に応じ他のマルチメディアと併用して利用するのが実際的と考えられる.またこの方法は体性感覚を使うことから視聴覚に重複障害をもつ人々のコミュニケーション手段としても利用が可能で、今後この分野でも開発が期待できる.
著者
大釜 敏正 池上 文雄 野田 勝二 寺内 文雄
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

多様な香りを有するバラの香りは、どのようなイメージ空間で捉えられていて、生理学的及び生化学的にどのような影響を及ぼすのか、について検討した。得られた概要は以下のとおりである。1.イメージ構造の検討には、セマンティック・デファレンシヤル法を用いた。評価尺度は、既往の文献及びパーヒューマーの助言をもとに、両極15対及び単極2対を選定した。現代バラ6種の香りについて官能検査を行い、因子分析を行ったところ3因子が抽出された。それらは、「総合的な評価」、「質」及び「強さ」を表していて、ニオイのもつ性質とほぼ対応する。男女間で評価に違いがみられたのはダマスク系の香りで、ティーの香りにはほとんど差はなかった。単複尺度を含めて男女とも評価が高かったのはブルーの香りであった。2.自転車エルゴメータを用いた運動負荷から生じるストレスに及ぼすバラ(ブルー)の香りの影響を唾液中のアミラーゼ活性を指標として調べた。香りは運動負荷を取り除いた直後に与えた。運動経験の豊富な被験者群における運動負荷後のストレスは、運動経験の少ない群よりも小さく、バラツキも少なく、バラの香りを与えた場合には、時間とともに減少し、安静時の値よりも小さくなる傾向がわずかではあるがみられた。3.バラの香りの有無が精神的なストレスに及ぼす影響を調べるため、計算課題を与え、作業終了直後の脳波及び心電図の計測を行った。また、快適感、集中度、疲労感、緊張感に関する主観評価も行った。バラの香りを与えた場合は、ブルーおよびダマスク系のいずれの香りもα波帯域の比率が有意に減少し、β波帯域の比率が増加した。心拍数には香りの有無による影響は認められなかった。また、主観評価では、緊張感に有意な差がみられ、ブルーの香りは緊張感を減少し、ダマスク系の香りは増加した。
著者
仲町 啓子 宮崎 法子 濱住 真有
出版者
実践女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

研究成果は『「仕女図」から「唐美人図」へ』と題した一冊の本(実践女子学園学術・教育研究叢書、2008年末刊行予定)にまとめられている。その本では下記のごとく、大きく日本編と中国編に分け、それぞれに論文を載せるとともに、本研究の中心となった日本編において、調査資料一覧(作品のデータベース)及び資料の性格や特徴などを簡潔に説いた解説文、代表的な作品の図版を載せている。中国側の資料も、関連する日本の箇所に合わせて掲載している。日本編の論文は、仲町啓子「日本における『唐美人』の絵画化とその意味」、山盛弥生「室町時代の女性半身像について-霊昭女図の制作と制作背景を中心に」、福田訓子「玄宗・楊貴妃図の研究-作品と文献から見た室町末から江戸初の展開を中心に」の3つである。それらでは、唐美人という表象が、単なる外国の女性像ではなく、すぐれて文化的な表象であったという問題意識を共有しつつ、受容史的な視点を入れてそれぞれの固有の場合について考察している。中国編の論文は、宮崎法子「中国の仕女図概観」、太田景子「中国道釈画中の女性像-京都国立博物館蔵『維摩居士像』を中心に」、皆川三知「『韓熈載夜宴図巻』の研究」で、中国の仕女図を概観するとともに、今回の研究で収集した日本に伝わった資料を活用しながら、それぞれのテーマに新知見を出している。日本編の調査資料一覧及び解説は、十四世紀以前の「唐美人」、室町期の絵画作品における中国風俗の女性像、玄宗・楊貴妃関係の図様の展開、桃山時代の「唐美人」、「探幽縮図」にみる「唐美人」、江戸期に描かれた「唐美人」、近代日本画における美人図-明治後期〜昭和初期を中心に、の各項目に分けて整理されている。また巻頭の図版は、楊貴妃・楚連香・西王母などのテーマごとに代表的な作品を集めて示し、さらに実践女子大学に所蔵する唐美人画巻を全巻載せている。以上により、「美人画」という表象(あるいは美人というモチーフ)が、ある特定の歴史的な社会のなかで有した意味について、日本絵画史においては、中国風俗の女性像である「唐美人」という表象が担ってきた文化的な価値あるいは社会的機能を、各時代の実情に沿いつつ考察し、中国絵画史においては女性像(仕女図など)の絵画化の歴史的な変遷とその意味を探った。
著者
杉村 孝夫 日高 貢一郎 二階堂 整 松田 美香
出版者
福岡教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

2009-2011年度、大分県各地の言語生活の変容を探った研究の成果を踏まえ、2012-2014年度(本事業)では、福岡県3地点、大阪市東区、東京都区内、青森県津軽地域の各地で同様の会話を収録し、約60年前のNHK『全国方言資料』と比較し、方言の変容、特に共通語とは異なる方向への変容に注目して実態を解明し、要因を考察した。隣接優勢方言への変化、方言内部での自律的変化の他、臨時的バリエーションが多く観察される。これは言語変容に関する、注目すべき要素であることを改めて認識した。
著者
井上 仁 東野 正幸
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

1.教育用SNSの機能強化昨年度より開発を進めている教育支援用SNSについて、ウェブアプリケーション開発フレームワークであるRuby on Railsを採用して再構築し、以下のような機能強化を図った。1)WebSocket 機能を用いることでユーザ間のメッセージ送受信のリアルタイムレスポンス性能を向上させた。2)ラップトップパソコン、タブレット端末、スマートフォンなど、画面の大きさや縦横比といったレイアウトが異なる色々な端末に対して適した画面表示ができるように対応した。また、昨年度のシステムではMacBookAirの無線ルータ機能を用いてイントラネットを構成していたが、処理できる端末数が10台程度と限界があった。本年度は業務用無線ルータを用いることで30台程度の端末まで処理が可能となり、対応授業の幅を広げることができた。2.インターネットを用いたクラウドシステムの試作イントラネットのシステムでは遠隔地からの利用が難しい。そこでインターネットを利用したクラウドシステムを試作し、東京と北海道の学校から遠隔利用の試験を行った。3.授業実践によるシステムの評価と教育効果の検証本システムを用いたSNSの適正利用に関する授業実践を行った。授業では、教師が匿名で「名前を教えて」「どこに住んでいるの」などのメッセージをシステムに書き込んだ。これに対し、名前や居住地などを書き込む生徒が見られた。一旦操作を止め、「個人情報とは何か」「知らない人に教えても良いのか」などを生徒と話し合った。その発言をもとにスライドに表示し、投稿された内容を振り返り、個人情報の扱い、不適切な発言について話合った。生徒は興味、関心を持って、SNS コミュニケーションツールの適切な利用について考えることができた。また授業1か月後の追跡調査で、体験授業の内容についてよく覚えていることが確認された。
著者
上谷 光作 村垣 泰光
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

Influenza A/Aichi/2/68, H3N2亜型のみならず, H1N1型(PR8)、H2N2型(Okuda)インフルエンザウイルスの増殖・精製を行い,ヒト肺腺癌細胞株A549細胞と初代培養されたヒト正常気管支上皮細胞NHBE細胞を用いて, M. O. I. 10以上でin vitroの感染実験系を構築した.これにより流行株の全ての亜型ウイルスにおいて,正常呼吸上皮細胞おける宿主免疫応答の解析が可能となった.インフルエンザウイルスを感染させた8時間後,細胞をインターフェロン(IFN)-α1,000 U. mlで刺激すると, IFNシグナル伝達経路の最下流に位置するSTAT-1の701チロシン残基のリン酸化は,驚くべき事に消失していた.つまりインフルエンザウイルス感染細胞ではIFN-αのシグナル伝達は遮断されていた. IFN-γで刺激するとやはりSTAT-1のリン酸化は抑制されていたが, IFN-α程では無かった.この実験結果によって, IFNが持つ抗ウイルス作用はインフルエンザウイルスには無効であることが示唆された.即ち,インフルエンザウイルスはIFNが持つ抗ウイルス作用に拮抗すメカニズムを有することになる.このメカニズムを解明すれば, IFNが持つ抗ウイルス作用にインフルエンザウイルスを回帰させることも可能となり,新規治療法の開発に繋がるものと考えられた.次に,最初にIFN-γシグナル伝達経路構成分子である,(1) IFNGR1,(2) IFNGR2,(3) Jak1,(4) Jak2,(5) STAT-1の5つ分子についてmRNAと蛋白発現を検討した. PCRによるmRNA発現量の検討ではウイルス非感染細胞と感染細胞で顕著な差を見出せなかった.しかしウェスタン分析による蛋白発現量に関しIFNGR1とJak1がウイルス感染細胞では選択的に抑制されており、他の分子の発現量には有意差は認められなかった。次にこれらの分子の蛋白発現量の違いがウイルス感染細胞内で発現されるウイルス蛋白分子に起因するものか検討をおこなった.ウイルス感染細胞内ではHA, NA, M1, M2, NP, PB1, PB2, PA, NS1, NS2の10個のウイルス蛋白が作られる.この中でどのウイルス蛋白がIFNシグナル伝達を遮断する原因分子であるか検討した.最初, IFN antagonistとして知られるNS1蛋白がIFN刺激によるStat1チロシンリン酸化を抑制する原因分子と想定し, NS1蛋白発現プラスミド(pCAGGS-NS1)をA549細胞に導入を試みたが効率が悪く,ヒト胎児腎細胞HEK293細胞に導入し, NS1蛋白を十分量発現させ,その後IFNで刺激しStat1チロシンリン酸化を検討した.その結果, NS1蛋白はStat1チロシンリン酸化を抑制しなかった.即ち, NS1蛋白はIFNシグナル伝達遮断のメカニズムは関与しないことが証明された。
著者
坂野 雄二
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究の目的は,自律訓練法標準練習の習得に伴って生じる心理生理学的な変化を,自律神経系機能と心理的指標,行動的指標を用いて明らかにすることであった.心身ともに健康な男女大学生を対象として,約3ヶ月の自律訓練法標準練習習得期間の前後において,ストレス負荷としてスピーチ課題が課され,その際の心理生理学的測定,行動評定が行われた.生理学的な指標として,皮膚コンダクタンス水準,収縮期血圧,拡張期血圧,心拍数,および心電図R-R間隔の周波数分析のそれぞれが,また,心理学的指標として主観的不安反応の変化,行動的指標としてスピーチ不安の行動評定のそれぞれが用いられた.また,自律訓練法の練習を行わない統制群,類似した心身の弛緩法である臨床標準瞑想法を実施する統制群が準備された.その結果,自律訓練法標準練習の習得によって,自律神経系交感神経機能と副交感神経機能の両者が賦活されること,特に,交感神経機能の賦活としては血圧値の上昇が,また,副交感神経機能の賦活としては心拍数の減少や皮膚コンダクタンス水準の低下が認められること,心理学的には不安低減効果が見られること,行動的指標で改善が認められること等の諸点が明らかにされた.臨床群を対象とした場合の自律神経機能の変化と,健常者を対象とした自律神経機能の変化の違いが示唆されるとともに,自律訓練法による自律神経系機能の安定化のメカニズムに関する示唆を得ることができた.また,自律訓練法が併用される治療法である行動療法の最近の発展を展望する中で,認知行動療法において自律訓練法がどのような役割を果たすことができるかについて理論的考察を行った.
著者
松井 暁 松元 雅和 向山 恭一 坂口 緑 伊藤 恭彦 施 光恒 田上 孝一 有賀 誠
出版者
専修大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本プロジェクトでは、全体テーマであるグローバル・イシューを六つのパートに分け、グループに分かれて研究を推進する体制をとった。すなわち、グローバル市場、政治空間の変容、戦争と平和、環境・生命、主体・関係・アイデンティティの変容、変革の方向である。そのうち、グローバル市場については、伊藤恭彦が国際的な課税の正義に関する著作を発表した。政治空間の変容については、有賀誠が著作『臨界点の政治学』で総合的に考察している。松元雅和が合理的投票者の行動についての論考を、施光恒が愛国主義と左派を巡る論考を提出した。戦争と平和については、松元雅和がテロと戦う論理と倫理について、有賀誠が上述書で正戦論について検討している。環境・生命では、松井暁が生産性の上昇や労働からの解放といった現象とエコロジーの両立可能性を探求している。主体・関係・アイデンティティの変容では坂口緑のポスト・コミュニタリアニズム論や承認論の研究が進んでいる。最後に変革の方向については、施光恒がリベラルな「脱グローバル化」の探求という観点から、新自由主義、ナショナリズム、保守主義を比較検討し、田上孝一がマルクスの社会主義を哲学的観点から再考している。それぞれの研究は、すべて本プロジェクトのテーマであるグローバル・イシューとの関連を踏まえつつ進められている。すでに出された業績からは、本プロジェクトの特色である規範理論的なアプローチの成果が明らかに示されている。
著者
木之内 誠 平石 淑子 大久保 明男 橋本 雄一
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

近代百年を通じてロシア、中国、日本の諸勢力がせめぎあい、多元重層的な文化の場を形成した植民都市大連の過去、現在を景観のうちに透視し、ここに生きた人々の場所をめぐる集合的な記憶を都市文化の未来への展望につなぐ歴史地図を制作した。各種の旧地図などの歴史的な文献資料と、現地調査結果を総合して描かれた立体鳥瞰図的な多色表示による、五千分の一縮尺を基本とした二十枚ほどの区分図によって、この地図は構成される。建物の建造年代別の色分けや道路の起伏の表示など、現地を歩く利用者にとって使いやすい、直感的な了解をたすける可視化の手法を追及した。
著者
吉野 浩司
出版者
長崎ウエスレヤン大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

2017年9月にチェコのブルノとプラハの2都市で調査を行った。①ブルノではドゥシャン・ヤナーック氏にインタビューを行った。ブルノ学派の創始者であるブラハに関すること、チェコ社会学史とソローキンとの関係に関することを中心に、聞き取り調査を実施した。ブラハとソローキンの社会学方法論の類似性をお互いに確認しあえたのは収穫であった。また同地のマサリク大学を訪問し、東欧出身の社会学史研究家たちとの意見交換の場を持つことで、新たなネットワークを構築できた。ソローキンのチェコでの亡命生活を調査する中で、亡命ロシア人のプラハでの仕事の重要性について知ることができた。当時ロシア人たちが住んでいた地域の調査が、今後の課題として浮上してきた。②プラハではチェコ科学アカデミーのマレク・スコヴァジュサ氏に、近著『チェコ共和国の社会学』について詳しく話を聞き、議論を行った。またカレル大学のズデニエク・ネシュポル氏には、チェコ社会学に関する聞き取りを行った。自身が編集に携わったチェコ社会学関連の雑誌をデータベース化したCD-Romや社会学辞典などを見せてもらい、学ぶところが多かった。またネシュポル氏は亡命ロシア人の実情にも詳しく、チェコ科学アカデミーのスラブ研究所を紹介してもらい、施設を利用する便宜をはかってくれた。③プラハではいくつかの施設を訪れた。国立図書館のスラブコレクションでは、ソローキンの著作を含む文献・資料をコピーした。ネシュポル氏紹介のスラブ研究所ではアーカイブから、いくつかの貴重な雑誌を発見し、コピーをすることができた。また滞在中に、チェコ国立文学研究所が開催している亡命ロシア人展「エクザイル」開催の情報を得、実際に会場に足を運ぶことができた。④2017年8月および同年年末から2018年年始にかけて、利他主義研究の日本的展開として、山陽・山陰の妙好人に関する現地調査を実施した。
著者
内田 庸子 大場 謙一 塚原 富士子 村木 篁
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

肥満遺伝子(ob-gene)産物のレプチンは、脂肪細胞から分泌され、視床下部に局在する受容体に結合し、摂食抑制およびエネルギー代謝の亢進をきたす。一方肥満病態においては、血中レプチン濃度は高値を示すにもかかわらず、摂食が抑制されず、余分な脂肪が体に蓄積する。即ちレプチンによるネガティブフィードバックが作動せず、レプチン抵抗性が認められるが、その機序の詳細はいまだ不明である。そこで本研究では、肥満病態モデル動物(MSG肥満マウス:monosodium-L-glutamate投与)を用いて、平成12年度に、視床下部に発現するレプチン受容体のうち情報伝達機能を果たすというlong formのOB-Rbの発現低下を介するレプチン作用不全の1つの可能性を示した。平成13年度は、1)UCP familyの遺伝子発現をもとに、末梢エネルギー代謝促進作用に差異が認められるかどうか。2)産熱性β3アドレナリン作用薬によるレプチン抵抗性改善が認められるかどうかについて検討し下記の結果を得た。動物はICR系雌性マウスを用い生後1,3,5,7,9日目にMSG2mg/gを隔日5回皮下投与、対照マウスには生理食塩水を投与し4-15週齢で屠殺採血後、視床下部を切り出し、直ちに液体窒素にて凍結した。全RNAをIsogenにて抽出し、RT-PCRを行いUCP-1、UCP-2、UCP-3の発現を調べた。1)褐色脂肪に特異的に発現するUCP-1は、MSG肥満により減弱の傾向を示すが、外因性に投与した産熱性アドレナリンβ3作用薬により、発現が増大した。2)UCP-2の遺伝子発現は、脂肪組織(褐色、白色)および骨格筋において、発現に差異は認められず、又、MSG肥満による変動も観察されなかった。3)UCP-3の遺伝子発現は、骨格筋において高発現を示し、アドレナリンβ3作用薬により対照マウス、MSG肥満マウス共に発現増大が認められた。以上の結果より、MSG肥満マウスのレプチン抵抗性は、視床下部のレプチン受容体OB-Rbの発現低下が、原因の1つと推測される。一方、持続的レプチン高濃度下に曝露されている状況でも、外因性の産熱刺激(BRL37344投与)に対して反応性が残存しており、MSG肥満マウスのレプチン抵抗性には中枢性要因が大であることが推測される。
著者
越智 啓太
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、主に大学生カップルにおける、デートバイオレンス、デートハラスメントを対象にしてその予測と対処策についての研究を行った。まず、学生相談所などの機関の調査を行い、現在の大学生においてデートバイオレンス、デートハラスメントが大きな問題となっていることを明らかにした。つぎに、これらの行動を測定するための尺度を構成した。三番目にこれらの行動を引き起こす加害者の属性、性格、交際の特徴について明らかにし、これらのデータからデートバイオレンス・ハラスメントを予測するための式を構成した。最後にそれぞれのデートバイオレンス・ハラスメント行為における適切な対処方略を明らかにした。
著者
川崎 良孝 吉田 右子 小林 卓 三浦 太郎 呑海 沙織 安里 のり子 久野 和子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は19世紀中葉から21世紀にいたる図書館の歴史的展開を、新たな視点で解明している。「サービスの提供」という基本的価値に、1960年代から「資料や情報へのアクセスの保障」と「図書館記録の秘密性の保護」という価値が加わり、これらの3つの価値は思想的、実践的に20世紀末に向けて深められていった。しかし21世紀に入り、「アクセスの保障」と「秘密性の保護」という価値は、社会や技術の変化を受けて揺らぐとともに、それらを意識した図書館の理論や実践が生まれている。本研究は広範な一次資料の発掘や実践の研究を通じて、こうした歴史的展開を実証的に解明し、一般図式を提供した。
著者
岩崎 千晶 村上 正行 山田 嘉徳 山本 良太
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

研究課題①「正課と学習支援の連環によるディープラーニングを促すデザイン要件の提示」に関しては、日本語ライティングにおいてライティングセンターを活用した学習者の個別傾向を分析し、リピーターへとつなげるための学習支援の手立てを検討した。また学習の深化を目指し、ICTを活用したライティング指導の実践研究を行った。学習支援には、個別指導に加えて、自主学習用の教材開発も含まれるため、英語・日本語ライティング教材を開発し、正課と学習支援の連環による学びの深化に取り組んでいる。「研究課題②多様なアクターが関わるラーニング・コモンズにおける学びのプロセスモデルの提示」では、各大学がどのように学習者の学びを評価しているのかについて調査を行った。具体的にはCiNiiを活用し、ラーニング・コモンズの評価を扱う論文66件を分析した。調査の結果、質問紙調査、観察調査、インタビュー調査の順で調査法が採用され、量的な調査が75%を占めた。今後、学びのプロセスや成果を明らかにするためには、質的な調査やラーニング・コモンズにおける理念(育むべき学習者像)に関する議論の重要性を示した。特に学習成果に関しては汎用的な能力が評価指標となっていたため、本研究で指摘した学習者にとっての学習概念の更新を促す「照射」の概念を取り入れる必要性を確認した。「研究課題③学習支援を提供する組織における学生スタッフを含めた教職員を対象としたSD・FD研修プログラム・eラーニングの開発と評価」では、教育の質保証、授業設計、評価方法、ICT活用、学習環境をテーマに研修プログラムを開発し、運営・評価をした。またライティング研修の中から、ライティングの理念・学習支援の歴史等のプログラムをeラーニング教材として提供するための資料教材を完成させた。またライティングの学習支援に関する指導モデルを提供するため、eラーニング教材を開発した。
著者
上岡 真紀子
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は、教授・学習支援を担当する専門的図書館員のモデルを示し、その養成プログラムのあり方を検討することである。昨年度までに、文献調査に基づいて、全学的な教授・学習の質的改善の取り組みを実施して成果をあげ、かつ、その取り組みに図書館員が深く関与している事例を抽出し、事例としてトリニティ大学、パデュー大学等への訪問調査を実施し、データを収集している。 今年度はこれらケーススタディのデータを検討し、1) 全学的教授・学習の改善プログラムにおいて、 図書館員は、学習環境デザイン、および情報リテラシーの専門家としてプログラムの計画と実施に関与している、2) プログラムの実施の局面では、授業やカリキュラムの到達目標、アクティビティ、課題、評価の中に、情報リテラシー獲得のための要素をどのように組み込むかについて、教員に対する支援を提供し、授業改善やカリキュラム改革に貢献している、という結果を得た。また今年度は、上記プログラムに参加する図書館員への聞き取り、および文献調査に基づいて、教授・学習支援を担当する図書館員を養成するプログラムの事例調査を開始した。事例として、米国図書館協会によって提供されている、情報リテラシーの専門家養成プログラムについて情報を収集するとともに、開発に関わってきた図書館員数名を訪問し、背景などの聞き取り調査を実施した。今後、プログラムの詳細な内容を検討する予定である。
著者
植村 八潮 野口 武悟
出版者
専修大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では、学校図書館において導入可能な電子書籍の利用環境構築のモデルを提示することを目的とする。そのためには、電子書籍が円滑に学校および学校図書館に導入できる環境(システム)の構築が不可欠である。一方、デジタル教科書の検討が進んでおり、電子書籍への関心も高まりつつある。しかしながら、学校および学校図書館において、電子書籍の取扱い環境やシステムについて検討は十分になされていない。そこで、学校図書館とベンダー(事業者)を対象に調査を行い、学校図書館における図書館基幹システムと利用インターフェースについて、現状と課題を明らかにした。まず、学校図書館における図書館基幹システムの導入やその運用状況に注目し、学校図書館業務の情報化の状況を調査し、現状を明らかにした。さらに、学校図書館において導入しやすく、かつ図書館基幹システムとも連携可能な電子書籍システムのモデルとして、学校図書館とベンダーを対象とした調査を基に、専用端末によるスタンドアロン型と、パソコンやタブレットPCを用いたクラウドサーバー型の2タイプのモデルを提案した。前者はインターネット環境のない学校向けで、セキュリティ対策やメンテナンスが学校の負担とならない設計である。後者はある程度の規模・利用数にも柔軟に応じられるシステムで,アクセシビリティへの対応も考慮した設計である。この二つのモデルを協力を得た学校図書館で、教師並びに児童生徒に実際に使用してもらい検討した。さらに、システムベンダー(事業者)を対象に訪問によるインタビュー調査と、システム導入学校図書館へのインタビュー調査を行い、学校図書館における図書館基幹システムと利用インターフェースについて、現状と課題を明らかにした。
著者
田村 俊作
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では,フィールドワーク・訪問調査・関係者へのインタビューを通じて,レファレンスサービスの下で図書館員が実際に行っていること,および重要と認識していることを分析・解明し,インターネット環境下で保持,発展させるべきサービスの構成要素と,その展開方策を検討することを目的としている。本年度は,(1)昨年度開始した関東地方のある公共図書館でのフィールドワークを継続すると共に,(2)米国図書館協会年次大会に参加し,関係セッションで米国におけるレファレンスサービスの動向を探った。また,(3)公共図書館の訪問調査を継続した。その結果,(1)については,レファレンスサービスの遂行能力が正規職員の能力の重要な一部と見なされている一方,嘱託員はレファレンス質問や依頼を頻繁に受けているが,あくまでも補助的な職務と位置づけられていることが明らかになった。正規職員では,ベテランを中心に,庶務系以外の事務職員も担当しているのに対し,司書資格を持つ職員でも,経験が浅い場合や有期職員である場合には,レファレンスカウンターを担当させず,補助的な職務に留めていることが観察された。(2)については,米国においてレファレンスサービスが継続されているものの,その職務内容や重点とされていることは変質していることがうかがえた。これは関連文献からも確認することができた。(3)については,レファレンスサービスを重視し,レファレンスサービスを核にサービスの展開を図る動きに対し,イベント等の多彩な事業展開によりサービスの拡充を図る動きのあることがうかがえた。
著者
村上 晴美
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

研究の全体構想は「Web上の人物を選択するためのインタフェースの開発」であり、「Web上の人物を要約する手法の開発」を目的とする。具体的には、人物の「要約」手法(キーワード、件名、概要、概要文)とインタフェース(表と概要文)を開発する。また、人物選択のためにどの情報・インタフェースがどのように有用か明らかにする。 本研究における要約とは人物を選択・理解するために有用な情報の抽出、生成、あるいは付与である。平成29(2017)年度の主な成果は(1) Wikipediaの第一文風の概要文の作成と、(2) Wikipediaの導入文の調査と、(3) NDLSHの付与である。(1) Wikipediaの第一文風の概要文の作成では、平成28(2016)年度の成果の中から主要部分を抽出し、国際会議で発表した。(2) Wikipediaの第一文風の概要文の作成手法の妥当性を明らかにするために、Wikipediaの人物ページの導入文の調査を行った。本研究で抽出する属性情報(よみ、生年月日、没年月日、出身地、職業、所属、役職)が概ね妥当であること、職業の出現頻度が高いことを確認した。(3) NDLSHの付与では、Web上の人物検索結果(HTMLファイル群)に国立国会図書館の件名標目表であるNDLSHを自動付与する手法を検討した。検索ランキング、文書内の位置、同義語、文書頻度の4種類を組み合わせた405パターンについて比較実験を行った。上位10件、人名の前後100文字、同義語を利用、文書頻度で重み付けする方法の結果が良かった。成果を国内学会と国際会議で発表した。