著者
石田 肇 近藤 修
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1.斜里町知床博物館の協力により斜里町ウトロ神社山遺跡を発掘し、男性人骨1体を追加することができた。2.東京大学文学部常呂実習施設保管の稚内市大岬遺跡出土人骨、北海道大学文学部保管の稚内市オンコロマナイ遺跡ならびに大岬遺跡出土人骨の調査を行なった。3.断片的な資料ながらも,サハリンの南部,北海道のオホーツク海岸,千島列島に,一つのまとまった群としてオホーツク文化を担った集団が存在したらしいことがわかってきた。4.頭蓋形態小変異22項目の頻度から四分相関係数を用いて生物学的距離を推定してみた。距離では,オホーツク文化人骨から近い集団として,サハリンアイヌ,バイカル新石器時代人骨,アムール集団を挙げることができる。国立遺伝学研究所の斎藤成也氏の開発した近隣結合法で集団間の関係をみると,オホーツク文化人骨はアムール集団を中心としてバイカル新石器時代人を含むシベリア集団とアイヌの間に位置することがわかった。5.アイヌについては、北海道の中で脊稜山脈を挟む地域間での変異が大きい。これはアイヌの生活についての民族学的データや、遺伝学的なデータに見られる川筋を単位とした地域変異とは違った様相を見せる。アイヌの起源を縄文人とすると、縄文時代から近世までのアイヌ成立過程における外来要素の影響が無視出来ないが、遺伝的、文化的な要素がどの程度頭骨の形態変異に影響したのかはこれからの課題である。
著者
篠田 謙一
出版者
佐賀医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

平成13年度に追加した新たな試料は、福岡県鞍手郡新延野田遺跡から出土した人骨である。この横穴遺跡は古墳時代のものであるが、この地域の弥生時代のサンプルが手に入らなかったので、古墳時代の遺跡を選択した。全部で6個体のサンプルからDNAを抽出し、PCR法を用いてミトコンドリアDNAのD-loop領域の一部を増幅した。残念ながら人骨の保存状態が悪く、塩基配列の決定ができたのは一個体のみであった。現代人との相同検索の結果、この配列は琉球の現代人と一致することが判明し、その系統は日本の基層集団に由来する可能性が示唆された。本年度は研究の最終年度であるので、これまでに蓄積した古人骨データを用いて、縄文・弥生・現代日本人の関係を解析した。その結果、以下の事柄が明らかとなった。1.縄文人とアイヌ・琉球の人々とは共通するミトコンドリアDNAハプロタイプを持ち、その近縁性が確認された。2.同時に縄文人と朝鮮半島の人々との間にも共通する配列が多く出現し両者の近縁性も無視できないことが新たに判明した。3.縄文人には南太平洋諸島に特有なミトコンドリアDNAの配列は存在せず、今回の解析でもたらされたデータからは縄文人の南方起源ないし密接な関係は支持されない。むしろ縄文人の起源は、アジアの広い地域に散在しているように思える。4.唐古・鍵遺跡のmtDNAのタイプは、モンゴル等の北方系の集団やアイヌと共通の塩基配列を持ち、最近の遺伝学的な研究の結論から演繹すれば、縄文系の特徴を持つと考えられる。5.渡来系弥生人にはアイヌ・琉球と共通する塩基配列も存在するが、その割合は縄文人ほどではない。6.本土日本人と縄文・弥生人との間には、共に共通する配列があり、両者が現代日本人の祖先であることが示唆された。
著者
福原 知宏 三輪 洋靖 西村 拓一 濱崎 雅弘
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

高齢者介護サービスにおける介護者の気付きを収集・分析し、サービス改善に役立てる手法を開発した。スマートフォン、タブレット端末で動作する気付き情報収集システムを開発し、実際の介護施設の申し送り業務に本システムを運用・評価した。集められた気付き情報をマイニングした結果、サービス提供場面における課題が見出され、サービスの改善が可能となった。
著者
細田 典明 藤井 教公 吉水 清孝
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

インド哲学・仏教思想においてヨーガ・禅定の修習は重要な修行法であるが、その起源は必ずしも明確になっているとはいえない。本研究では最も成立の古い『ブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッド』第1・2章を解読し、その内容が、古ウパニシャッドにおける内観によるアートマンの認識を瞑想の問題として捉え得るものであり、他のウパニシャッドにも影響していることを明らかにし、研究発表を行った。仏教において四禅・四無色定と八解脱・八勝処、四念処をはじめとする三十七菩提分法、止観など様々な修行法が知られるが、それらはどのようにして体系化されたのかという問題について、阿含・ニカーヤの中で『雑阿含』「道品」を中心に考察し、三十七菩提分法による修行の体系化とともに、三学(戒・定・慧)の構成は禅定の意義が、修道の要であることを、律蔵文献や仏伝などを広く参照して解明し、研究発表を行った。本研究によって、従来不明であった『雑阿含』の禅定に関する漢訳語彙のサンスクリット原語やチベット訳語の多くが判明し、原始仏教研究の資料論に貢献した。以上、本研究は、古代インドにおける瞑想・禅定の問題点の解明に寄与したが、研究成果報告書の論文篇として、「『雑阿含』道品と『根本説一切有部毘奈耶薬事』」と、研究期間以前に公刊されたが、『雑阿含』「道品」の持つ様々な問題点を整理した「『雑阿含経』道品の考察 -失われた『雑阿含経』第25巻所収「正断相応」を中心に-」を参考として掲載する。さらに、資料篇として、『雑阿含』「道品」について、『瑜伽論』「摂事分」のチベット訳を入力し、玄奘訳と対照したものを提示し、今後の阿含研究の資料に供するとともに、データベースとして公開する準備を進めている。
著者
鈴木 洋一郎 佐藤 勝彦 荒船 次郎 中畑 雅行 梶田 隆章 戸塚 洋二
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

ニュートリノ物理学・宇宙物理学国際会議のための企画調査を行った。本国際会議はニュートリノ物理学全般に渡るが、主に、(1)太陽ニュートリノ、大気ニュートリノを含む宇宙ニュートリノ、(2)加速器を用いたニュートリノ物理学、(3)理論、(4)その他、について、動向を調査した。国内での企画調査会を3回、外国での情報収集を2回行った。現在、この分野での最大の話題は、ニュートリノの質量の問題である。(1)、(2)、(3)ともに質量問題が中心テーマとなろう。(1)では、特に太陽ニュートリノ、大気ニュートリノの観測データーがニュートリノ振動の証拠であるかが、緊急最重要テーマである。太陽ニュートリノでは、今までに行われた5つの実験すべてから振動の可能性が得られている。特にスーパーカミオカンデは、過去の実験の50倍のスピードでデーターを取得している。これは本国際会議での重要なテーマとなる。いくつかの新しいアイデアも提案されている。たとえば、Ybを使ったエネルギーの低い太陽ニュートリノのスペクトラムの測定である。大気ニュートリノは初期の実験との食い違いが問題であったが、これも高統計のスパーカミオカンデで新たな展開が期待される。(2)では、宇宙暗黒物質の候補としてのニュートリノ質量探しが、本国際会議をめどに新しい結果を出すであろう。また、大気ニュートリノの振動を加速器からのニュートリノを用いて確認するための所諠長基線ニュートリノ振動実験が重要なポイントとなる。
著者
田中 英高
出版者
大阪医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

ODは起立循環反応が異なる4つのサブタイプがこれまでに報告されている。我々は非侵襲的連続血圧・心拍反応と近赤外分光計による脳血流を評価し、さらに新しい2つのサブタイプ、すなわちHyper-response型、脳血流低下型の存在を見出した。OD症状を持つ疾患群478名における各サブタイプの頻度は、起立直後性低血圧22.8%、体位性頻脈症候群20.7%、遷延性起立性低血圧5.0%、神経調節性失神1.0%、Hyperresponse型9.4%、脳血流低下型5.6%であった。新しいサブタイプはODの15%を占めると考えられ、新しい診断・治療法の開発が必要である。MemCacによる自律神経機能解析では、POTSは立位で著しい低下を認め、迷走神経活動の異常減少が推測された。Head-uptilttrainingを実施したところ、POTSにおいて治療効果を認め、起立後の心拍増加の改善、起立時間の延長を認め、臨床的に有用と考えられた。
著者
稲場 斉 大友 和夫
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

はじめに:大腿骨頸部骨折は高齢者では転子間骨折が多く、比較的若い年齢層では内側骨折が多いと言われている。また、Fankelらは大腿骨頸部への合力の方向により、骨折部位が異なるとしているが、年齢による骨折部位の差異は明らかになっていない。そこで大腿骨頸部近傍の骨密度を測定し、荷重試験による大腿骨頸部の骨折の部位との関連を調べた。材料および方法:秋田大学医学部解剖学教室にて、解剖用屍体10体(54-91歳、平均73.7歳)の両側より採取した大腿骨20本について、それらの単純X-Pにて骨稜構造を検索し、さらにQCTにて骨頭部、骨頭下部、転子部、転子間部および転子下部での皮質および骨髄の骨密度を測定した。その後、大腿骨を骨ホルダーに石膏にて固定し、インストロン荷重試験機8501にセットして骨折が生じるまで圧縮荷重をかけた。結果:各部の骨密度の平均値は骨頭中心部、骨頭下部および転子部の骨髄でそれぞれ、417.9 127.2、371.9 182.5および97.3 54.2(mg/cm)、転子間部および転子下部の内側の皮質骨でそれぞれ1155.0 172.6 1237.9 170.3(mg/cm)であった。それらの値の間には転子部を除いて比較的良い相関関係が見られ、特に骨頭中心部、転子間部および転子下部の骨皮質の骨密度の間に強い相関がみられた。骨折が生じた時の荷重は178.3kgから849.6kgで、それらの平均値は556.4 224.2kgであった。骨折部位は骨頭下8、転子部10および転子間2であり、骨密度と骨折部位との関連は明らかでなかった。考察:今回の実験より、大腿骨頸部骨折の部位は単純な荷重方法では骨密度と関連しないことがわかった。したがって、骨折部位は作用する外力の種類にも影響されると考えられ、さらに荷重方法を変えて研究を進めてゆきたい。
著者
杉浦 隆之 山下 純
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)は研究代表者らが1995年に発見した新しい脂質メディエーターである。今回の研究により以下の点を明らかにした。1.2-AGの生成メカニズムの解明。TPAで惹起した急性皮膚炎やアレルギー性皮膚炎の局所では、ホスファチジルイノシトールからだけではなく、ホスファチジルコリンなどからも2-AGが産生されることを明らかにした。2.白血球系の細胞の機能に及ぼす2-AGの影響。マクロファージなどの白血球系の細胞の接着が、2-AGにより増強されることを初めて明らかにした。2-AGは白血球の接着(組織や血管壁への接着)を亢進させることにより、炎症を増大させている可能性がある。3.炎症・免疫系における2-AGの生理的意義の解明。2-AGが急性炎症や慢性のアレルギー性炎症(気管支喘息モデル、アレルギー性皮膚炎モデル)に関与しているかどうかを詳しく調べた。その結果、これらの炎症局所では2-AGの著しい蓄積がみられること、カンナビノイドCB2受容体のアンタゴニストを塗布することにより、炎症反応(腫脹および白血球浸潤)が強く抑えられることなどを明らかにした。これらの結果は、カンナビノイドCB2受容体とその内在性リガンドである2-AGが、急性炎症やアレルギー性炎症の進展に深く関与していることを強く示唆するものである。このほか、2-AGを塗布することによって、炎症反応が惹起されること、2-AGが好酸球を効率よく遊走させることなども明らかにした。4.血管系に及ぼす2-AG作用。2-AGがCB2受容体を発現している細胞に作用するとNOの産生が増大すること、生成したNOによって血管の拡張や透過性の亢進が起きることを明らかにした。マウスの耳などに2-AGを塗布したときに観察される発赤や浮腫は主にNOによるものである可能性がある。
著者
和田 岳
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

2度のホネホネサミットを開催し、日本各地の博物館等で骨格標本などを作製しているグループ・個人が集結する機会を持った。その機会にホネの全国ネットワーク「ホネット」を立ち上げ、メーリングリスト・研修の機会を通じて交流した。また、博物館や学校教育などの場で使えるホネの普及教育活動展開用キットを作成し、その活用について「ホネット」の場で意見交換を行った。
著者
近藤 保彦
出版者
帝京科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

動物は、なわばりの維持、パートナーの選択と、さまざまな他個体との相互交渉を行いながら個の保存、主の保存を実現している。これらの社会行動は、嗅覚を中心とした社会信号が視床下部に送られ制御されているが、最近の研究でとくに神経ペプチドであるオキシトシンが重要な役割を果たしていることが分かってきた。我々は、この研究でオキシトシン欠損マウスが異性の匂いに対する選好性を失っていること、また、特に雌マウスでは初めての交尾時に雄をなかなか受け入れられないことを発見した。さらにラットを使った実験では、母親が仔ラットの匂いに惹きつけられるのにもオキシトシンが重要であることがわかった。
著者
中武 靖仁 渡邉 孝司
出版者
久留米工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

マイクロ・ナノバブルを混入した軽油が、ディーゼル機関の燃費と有害排気ガスの低減のために使用された。マイクロ・ナノバブル超小型エジェクタ式混入器(直径20 mm、長さ30 mm程度)で生成され、燃料供給ラインで連続的に燃料へ混入された。機関のエア噛みを起こすほどの比較的大きなマイクロサイズの気泡は、ミキシングタンクでナノバブルと分離され、コモンレール式燃料噴射置を有するディーゼル機関で、性能実験が行われた。結果は、ナノバブルを燃料に混入することによって、燃料消費率が負荷平均で3%、充填効率が1%、すす濃度に僅かながらの減少が認められた。この原因はマイクロ・ナノバブルが燃料に混入する作用によって物理・化学的作用によって、ディーゼル燃焼が改善されたものである。
著者
白畑 知彦
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

今回完成した報告書は、平成15年度から平成17年度の日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(C)(2)(課題番号15520353、研究代表者:白畑知彦)による研究成果の報告書である。その研究内容は大きく2つに分けられる。1つ目は、日本の小学校での英語教育について第二言語習得研究の成果を踏まえて考察した論述形態のものである。これは第1章と英文で書いた第5章にまとめられている。2つ目は、日本語を母語とする子どもを被験者に、彼らの英語能力の伸長を実証的に調査した内容のものである。これは、第2章、第3章、そして第4章にまとめられている。第2章では小学校で英語教育を受けた子ども達が高校生になった時の英語力を調査している。第3章では、小学生の英語音声認識能力についての研究成果を報告した。第5章は代名詞、再帰代名詞の解釈についての研究成果を報告した。結論を総じて言えば、小学校から英語教育を始めても中学校、高等学校との連携が十分に取れなければ、その能力が持続して伸びていかない、というものであった。したがって、小学校英語教育が成功するか否かを論じるには、中学校との連携の考慮なしには考えられないのである。このことを今後行政に強く訴えていく必要がある。また、研究期間の3年間で、図書を2冊、学会誌等での論文を7本、学会等での口頭発表を4度おこなうことができた。その他にも関連する内容で講演等を何度かおこない、今後のさらなる研究に繋げる準備ができた。
著者
堀 正広 田畑 智司 今林 修 地村 彰之 島 美由紀
出版者
熊本学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

山本忠雄著Growth and System of the Language of Dickens(1950)に基づいた多機能搭載型電子版The Dickens LexiconはDickens Lexicon Onlineとして近い将来一般公開する基盤が構築された。
著者
平野 千果子
出版者
武蔵大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、植民地支配の過去をめぐる歴史認識について、フランスを事例に考察したものである。日本に比すると、フランスはアルジェリアを除けば旧植民地からの批判にさして直面してはおらず、そもそも植民地支配の過去が必ずしも「負」の歴史と捉えられているわけでもない。本研究では、フランス植民地のなかでも独立前から親仏的傾向が強いサハラ以南アフリカに注目し、社会史的手法によって、本国側の認識がいかに形成されていったかを考察した。
著者
佐々木 真
出版者
駒澤大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は、スペイン継承戦争中の主要な戦闘の分析を通じて、戦争における作戦指導がどのようになされたのかという点を、とりわけルイ14世と将軍たちが果たした役割を中心に解明することである。この目的達成のために、フランスと日本で関連する史資料を網羅的に調査・収集した。そこから得られた知見は、国王のイニシアチブの重要性と、新貴族(法服貴族)の台頭下で影響力が低下したとされてきた旧貴族(帯剣貴族)が、戦争や政治において重要な役割を果たしたことであった。この知見は、従来の絶対王政像に再修正をもたらすものである。
著者
戸田 勝巳
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

エストロゲン合成遺伝子欠損マウス(Ar^<-/->マウス)とエストロゲン受容体α遺伝子欠損マウス(ERα^<-/->を用いてエストロゲンの精巣における生理作用を解析した。Ar^<-/->マウスとERα^<-/->マウスはともに精子形成に異常を呈する。しかしERα^<-/->マウスでは2ヶ月齢で異常が観察されるのに対して、Ar^<-/->マウスでは5ヶ月齢を過ぎないと病態が現れないという違いが見られる。Ar^<-/->マウスを17β-estradiol(1ppm)を混入した餌で飼育すると精子形成の異常を完全に抑制できることから、精子形成が正常に進行するためには、あるいはそれを維持するためにはエストロゲンの作用が必要であると考えられる。そこで、エストロゲンが作用する生体部位を解析した。ERα^<-/->マウスでは精巣輸出管における精巣分泌液の再吸収機能の障害が原因で輸出管腔が拡張することが報告されている。 Ar^<-/->マウスで解析したところ、そうした形態的な変化は観察されず、精巣輸出管の機能と精子形成の障害との間には相関関係は見られなかった。 精巣輸出管の微細構造を解析したところ、ERα^<-/->マウスの輸出管には細胞内で小胞のリサイクルに関係しているapical tubuleが存在しないことが判った。このことから、精巣輸出管の上皮細胞でERαは小胞のリサイクルの制御をとおして分泌液の再吸収機能をコントロールしていると考えられる。また、その機能発現にはエストロゲンが不要であると解釈しなければならない。エストロゲンの欠乏が原因で、精子形成異常を起こす分子機構を明らかにするためには、野生型マウスと精子形成が形態的に正常な時期のAr^<-/->マウスの精巣で発現量に差のある遺伝子群を同定することが必須と考えらる。
著者
吉益 光一 宮下 和久 福元 仁 竹村 重輝 清原 千香子 山下 洋 宮井 信行 吉川 徳茂 清原 千香子 吉川 徳茂 篠崎 和弘 宮井 信行 山下 洋
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

児童の注意欠陥多動性障害(ADHD)の原因として、妊娠期間中の母親の飲酒や喫煙などのライフスタイル要因が注目されている。今回、ADHD の子どもを持つ母親とそうでない子どもの母親に聞き取り式の面接調査を行い、これらの要因がADHD に関連しているかどうかを検討した。結果、妊娠中の喫煙のみADHD の子どもの母親に多かったが、妊娠中の精神的なストレスや母親自身のADHD 傾向の影響を除くと、統計学的に意味のある違いは認めなかった。
著者
高橋 応明 伊藤 公一 齊藤 一幸
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,インプランタブルアンテナを体内に植え込んだ時に,埋め込み部位の組織構造がアンテナの特性へ与える影響について検討を行った。周波数400MHzおよび950MHz,2.45GHzにおいて,胸部,腕部の組織構造を表現した高精細人体ファントムを用いて解析し,従来の均一組織での検討では適切でないこと,層構造の解析が必要であることを確認した。また,それぞれの周波数に適したインプランタブルアンテナの提案を行った。
著者
宮原 勇 宮浦 国江
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

研究代表者宮原は分担者宮浦と共同で「認知言語学」(Cognitive Linguistics)と現象学的言語論の統合の試みを行い、言語カテゴリー生成の一般理論の構築が目指された。そこでは、<カテゴリー生成の過程にとって具体的な身体的経験が根底において機能し、特に抽象的概念の形成やその理解にはメタファが深く関与している>ことが明らかとなった。また、その成果を承けて具体的に基本的な「哲学概念」を事例として、概念形成を最新の認知言語学のアナロジーやメタファに関する理論によって解明し、それぞれの基本的な哲学概念の根底に秘められている「根本的経験」の解明をするとともに、最終的にはアナロジーやメタファに関わる人間の根源的認知能力を現象学的観点から解明した
著者
燕 軍 相澤 幸夫 磯貝 純夫 人見 次郎
出版者
岩手医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

僧帽筋の二重神経支配について数多くの研究がなされたが、主に支配神経のニューロンの局在分布に注目し、これらの運動ニューロンの軸索が副神経と頚神経前枝の2つルートを通って筋に入ることが明らかになった。しかし、二つルートを経由するニューロン局在の違いの有無、頚神経経由する線維に運動成分について、もっと具体的に論じていない。我々は、実験動物(ラット)を利用し蛍光色素DiIと組織化学染色法で頚神経前枝と副神経との交通枝を経由して僧帽筋に分布する神経線維の筋内分布領域も同定し、さらに、ニューロンの逆行性標識に信頼性の高い蛍光色素DiIとDiOを用いて、副神経の運動ニューロンの分布を調べ、3D再構築法を加えて立体的にこのニューロングループの脊髄前角内の局在を観察した。結果、僧帽筋を支配する線維の運動ニューロンは、副神経根を経由するものと頚神経前根を経由する二種類のニューロンが脊髄前角の同じ領域に存在しているけれども、主には背側に向かって走行し脊髄の背外側から出る軸索と、腹側に向かい脊髄を出るものがあることを初めて明らかにした。さらに、同じ領域に局在している、副神経根を経由する線維は主にαニューロンで、頚神経前根を経由する線維は主にγニューロンであることも明らかにした。一方、頚神経由来する線維の末梢の筋内分布を調べた結果、筋紡錘に分布する線維が多数認められ、また運動終板に分布する少数の線維も認められ、γ運動線維とα運動線維と判断できた。これらの実験により、僧帽筋を支配する運動ニューロンの脊髄前角における局在領域とニューロンの種類は、筋内の分布様式と一致し、僧帽筋の二重神経支配の仕組みが明らかとなった。しかも、本研究の結果によって、臨床に副神経切断されたにもかかわらず、僧帽筋の「弱い」随意運動が依然観察される結果に対しても説明できる。一方、副神経核のニューロンは同じ領域に局在しているにもかかわらず、軸索の伸長が背腹両方向であることについて、ラット胚を用いて解析も進めている。