著者
小林 敏生 影山 隆之 久保 陽子
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

定年退職時期にある男性労働者への健康支援策を構築するために,メンタルヘルスへの影響要因を明らかにすることを目的として,健康感,生活満足度,ストレス関連項目,抑うつ度,および Social Capital(SC)について,インタビュー調査と質問紙調査を行った.その結果,メンタルヘルスは退職に向って改善を示し,その改善には,ストレスの低下,適切なコーピング特性,高い SC が関与していた.退職期の労働者のメンタルヘルスの保持には,職場のストレス対策に加えて,労働者個人の SC を高めることが重要と考えられた.
著者
村田 成範 木下 健司 増見 恭子 林田 真梨子
出版者
武庫川女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究における教育活動として、当初の高等学校での出前講義・実験および大学での初年次教育に加え、小学生とその保護者、飲料関連企業、薬局などで、遺伝子検査を含むゲノム科学リテラシーセミナーを実施し、遺伝子に関する教育方法および解析技術を改良した。アルコール遺伝子検査を行った大学では3年次以降での追跡調査も開始した。教育方法の改善に加えて、高校での遺伝子実験法の改良により、生徒自身が実験を主導できる実験系プロトコールを開発し、個人情報取り扱いを含めた高校生主体プロジェクトの開始に向けた検討を行った。また大学でのアドバンス科目用として遺伝子情報取り扱いのための基礎技術も開発した。
著者
岡田 智秀 横内 憲久 川田 佳子
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究目的は海岸構造物に依存しない新たな海岸まちづくり方策を導くため、その先進事例である米国ハワイ州の「海岸線セットバックルール」の運用実態や、日本国内の伝統的海岸防災施設の成立要件・土地制度等の分析を通じて、日本型セットバックルールのあり方を導く。本成果としてハワイ主要4島の「海岸線セットバックルール」の制度的特徴,成功・失敗例の要因,促進方策,ハワイ島津波セットバック(KAIKO Project)の実態を明らかにし,当制度のわが国への導入可能性を考究するため,東北被災地の復興まちづくりにおける「海岸線セットバックルール」の適用可能性や,当制度非導入地域における海岸まちづくり方策を導出した.
著者
金田 幸恵
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

雲や降水を直接計算し、より現実的な台風の内部構造を表現する極めて高解像度の雲解像モデルを用いて、極端に強い台風の急激な中心気圧低下メカニズムを調査した。まず最低中心気圧877hPaに達した歴史的顕著台風・1958年9月狩野川台風の24時間当たり90hPaを上回る急激な中心気圧低下の再現に成功した。水平解像度を変えた感度実験から、発達に伴う内部構造やプロセスの解像度依存性と対応する中心気圧低下量(発達率)を明らかにした。さらに温暖化実験を実施し、将来温暖化気候下で極端に強い台風がより急激な中心気圧低下を経て、より強い台風に発達する可能性を示唆した。
著者
竹島 久志 金森 克浩
出版者
仙台高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、障害児・者を含めた多様な運動・知的特性を有する学習者が利用できる学習ソフトを増やすことを目的に、スキャン入力等のアクセシビリティ機能を容易に学習ソフトに組み込むための「アクセシビリティ機能ライブラリの開発」と、学習ソフトが備えるべき「アクセシビリティ適用指針の検討」を実施した。開発したアクセシビリティ機能ライブラリには、多様な入力方式および多様な視覚・聴覚フォーカスを備えることができた。本ライブラリをWebで公開すると共に、サンプル学習ソフトの制作、利用講習会を実施しその有用性が確認した。加えて、アクセシビリティ適用指針の案を提案した。
著者
吉田 浩
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

1861年の農奴解放以後の近代化政策の過程で、慣習法の世界に生きていた農民を西欧的な私的所有権の絶対を基礎とする新民法にいかに包摂しようと政府は試みたのか、農民の法実践はどのようなものであったのかを明らかにすることが本研究の目的である。その際の議論の焦点の一つは農民の所有観念である。農民は私的所有権と矛盾する「家族所有」といわれる観念を農民は有していたと考えられており、その実態分析と法的扱いが問題を解く鍵であった。この点につき、農民の裁判例、各種政府委員会と論壇での議論について資料を検討した結果、以下のような結論を得た。農民財産の特殊性について政府は19世紀半ばにはすでに注目しており、農奴解放令で個人所有権を意味する条項を挿入しようという考えにたいし、家族の共同所有を主張する考えが対立し、法令上の混乱が生じた。しかし司法政策では、農業経営の安定性にたいする配慮から一貫して農民財産を家族所有と認定しつづけた。実際の農民法慣習では、郷裁判所が怠惰な家長にたいする権利の制限を命ずるなど、たしかに家族所有とみられる裁判例が豊富に存在する。他方で家長の事実上の財産管理権は健全経営をおこなっている限り無制限であり、この点をみれば家長の個人財産と考えることもできる。さらに時代が進むと、家族メンバーの労働による個別財産がふえ、農民世界に個別所有権の概念も広がってきた。世紀転換期には家長の個人所有権と家族メンバーの世帯財産にたいする権利の間で闘争が生じるようになったと考えられる。そして遂にストルィピン改革では家長の個人所有権が法的に認められるようになった。それが農民の法慣習の変化を法律が追認したものであるか、あるいは政府による積極的な政策の転換であるかについては、これからの課題として検討したい。
著者
坂本 保夫 佐々木 洋 佐々木 一之 山本 奈未 佐々木 洋
出版者
東北文化学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、紫外線によって発色・退色する調光型フィルターと、可視光線(主に黄色)の狭帯域吸収という2種類の特性な異なるフィルターを1枚のレンズとして合成作成し、中高年者・白内障患者の視機能に対して改善効果の高い発色濃度と吸収率の組合せ、および安全性を考えた調光濃度設定を探索した。最終的には特殊眼鏡の日常生活上での有効性を装用モニターで実施した。本検討では、屋外と屋内の移動における調光の悪影響はなく、本特殊眼鏡の有効性と有用性を確認することができた。
著者
馬場 優 藤井 正人 加藤 靖正
出版者
奥羽大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

頭頸部扁平上皮癌患者に対する治療の進歩にもかかわらず、その生存率は有意に改善されていない。それゆえ、今回、私はアフリカの食物Mundulea sericea由来の天然物デグエリンの抗腫瘍効果を調査した。デグエリンは舌癌由来細胞株においてEGFで活性化されたAKTを阻害することに伴いアポトーシスを誘導することを示した。また、デグエリンは舌癌由来細胞株においてIGF1R-AKT pathwayを抑制することによりアポトーシスを誘導することを示した。IGF1R-AKT pathwayがEGFR阻害剤耐性機構の一つであると推察されているため、デグエリンがEGFR阻害剤耐性を克服する可能性が示唆された。
著者
細見 和之
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

イツハク・カツェネルソンがワルシャワ・ゲットーで書いたイディッシュ語作品を読み込むとともに、ワルシャワのユダヤ史研究所、エルサレムのヤド・ヴァシェム、ニューヨークのユダヤ文化研究センター(YIVO)を訪れて関係資料を調査することによって、ゲットー蜂起に象徴される武装による抵抗ではなく、カツェネルソンらの周辺で行われた文化活動を背景としたユダヤ人の精神的な抵抗の意義を確認することができた。
著者
龍村 あや子
出版者
京都市立芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

3年間に渡って次の研究活動を行った。1)当該期間中に出版された著書・論文:アドルノの『マーラー』の単独訳出版(法政大学出版局)、アドルノの『音楽社会学』(平凡社)の解説執筆、「音楽と時間-世界化の時代の音楽時間論」(『民族芸術』)、ドイツで独語単行本に執筆"Wie die Zeit vergeht. Musikalische Zeit in West und Ost angesichts der Globalisierung."Musik in der Zeit. Zeit in der Musik(Velbruck Verl.)、「ワーグナー論における一つの流れ」(京都市立芸術大学音楽学部研究紀要)、「アドルノ理論と民族音楽学」『民族音楽学の課題と方法』(世界思想社)、「音楽社会学の課題と展望-近代化とグロバリゼーションをめぐって」『音楽(音文化)研究の課題と方法』(中部高等学術研究所)2)平成14年度に出版される予定の著書・論文:「グローバル化時代のアドルノ理論-音楽と自然の問題を中心に」『アドルノ論集』(仮題、平凡社)「パン・アフリカン・ミュージックと現代の音楽文化」民族音楽学を学ぶ人のために』(世界思想社)「ベートーヴェンの後期様式をめぐるアドルノの思索とその源湶」『角倉一朗先生退官記念論文集』(仮題、音楽之友社)3)研究発表 平成11年度:音楽学会大会シンポジウムでダールハウスのベートーヴェン論について発表。民俗音楽学会大会のシンポジウムでヨサコイ・ソーラン祭りについて発表。平成12年度:音楽学会大会でのシンポジウム「ドイツと日本1930 45」の企画・司会。東京ゲーティンステイテュート主催のシンポジウムでドィツと日本の音楽批評について発表。中部高等学術研究所で<近代化>と<グロバリゼーション>について音楽社会学的観点から発表。4)アジアの音楽文化の現状に関する予備調査を中国の西安市・寧夏回族自治区(11年)、インドのムンバイ・アグラ・ジャイプール・デリー(11年)において行った。5)研究資料収集をドイツ・イタリア・フランス・トリニダードトバゴで行った。
著者
安武 敦子 才津 祐美子 渡辺 貴史 佐々木 謙二 迫 宏幸
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-07-18

日本で加速度的に高齢化が進むなか,離島はその先陣を切って進んでいるといえる。離島集落は管理能力不全が起こり始め,集落の再編期に直面するなか,コンパクト化に向けて進んでいく傾向が見られる。しかし予備調査から,離島では相当の対価を支払っても,現住地に居住継続したいという結果を得た。地域の特色と居住傾向がどう関係しているのかを見ると,結果として居住者の満足度や生きがいの差は立地や利便性と強い関連性は見いだせない。隔絶性の高い地域で,高齢者が自発的に活動に参加し,また廃校の活用においても,多くの主体によって複数の空間が複数の用途に柔軟に活用されるなど,地域や個人の自立性が高いことが推察できる。
著者
泉 友則
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

組織損傷時に様々な細胞内タンパク質が漏出するが、細胞外での機能的影響の多くは不明である。細胞外で機能し、細胞応答に影響を与える細胞内タンパク質を特徴づけるために、細胞表面標識と質量分析に基づく同定技術を用いて、細胞表面結合タンパク質を選択的に解析した。U937細胞表面から405種類の細胞内タンパク質を含む計454種類のタンパク質を同定した。これらのサブセットには、様々な高含量タンパク質に加えて、HMGB1などの臨床マーカーも含まれていた。405種類中、162種類については、損傷時にHEK293細胞から漏出することが明らかになり、特定のタンパク質については、シグナル伝達経路への影響も確認された。
著者
宮崎 謙一
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

絶対音感は、単独に提示された音の音楽的音名を他の音を基準として比較することなしに答えることができる能力であるが、このような能力をこどもの頃に獲得すると、音高関係を処理する能力が十分に発達しないままにすぎてしまうという可能性がある。そこで、絶対音感保有者と非保有者のメロディの比較再認課題の遂行成績を比較する実験を、日本とポーランドの音楽専攻学生を被験者にして行った。被験者に、標準メロディをハ長調で記譜された楽譜の形で提示し、比較メロディを3通りの異なる調で聴覚的に提示して、これらが同じか違うかという再認判断を求めた。その結果、絶対音感を持たない被験者は、相対音高情報を用いることによって、比較メロディがどの調性で出された場合でも同じような正確さで判断することができた。これに対して絶対音感を持つ被験者は、楽譜のメロディと聴覚的メロディの調が一致する条件では高い正答率を示したが、不一致の条件では判断が不正確になった。日本とポーランドの音楽学生は基本的には同様の傾向を示した。ただ不一致条件で絶対音感保有者が成績の低下を示す傾向は、ポーランドの被験者よりも日本の被験者で顕著に見られた。また絶対音感を持たない被験者ではポーランドの学生の方が日本の学生よりも全体に高い成績を示した。以上の結果から、絶対音感保有者が音楽的高さを相対的にとらえる聞き方が弱いという傾向は、日本の音楽学生により顕著に見られるものであると言える。この実験の結果から、絶対音感保有者が、音楽的音高を調性の枠組みの中で聞こうとせずに絶対的に聞こうとする傾向があることが示されたが、今後このような認知処理のしかたの詳細を、処理の自動化の観点から検討していく予定である。
著者
菱沼 典子 大久保 暢子 佐居 由美 加藤木 真史 伊東 美奈子 大橋 久美子
出版者
聖路加国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、看護技術の構成要素を科学性と病者-看護職の人間関係の両側面から、定義する目的で、看護技術の実態調査や文献検討、人間関係と看護技術に関する質問紙調査と面接調査を行った。その結果、看護技術は①目的、②方法、③安全性、④生体反応、⑤生理学的理論背景、⑥効果を得る確率と有効性から構成され、これらの根拠が示される必要があると結論付けられた。病者-看護職の人間関係は看護技術のパフォーマンスと病者・看護職両者の効果に影響し、看護実践の要素であることがわかった。
著者
葛西 敦子 三村 由香里 松枝 睦美 佐藤 伸子 中下 富子
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

養護教諭は,「子どものからだをみる」視点であるフィジカルアセスメントの知識・技能を身につけることが必須である。本研究の目的は,養護教諭養成教育や現職養護教諭研修において実践できるフィジカルアセスメント教育のプログラムを構築することである。そこで,(1)養護教諭養成大学の教員を対象とし「子どものからだをみる」フィジカルアセスメント教育に関する実態調査-養成背景別(教育系・学際系・看護系)の比較-,(2)養護教諭への模擬事例を用いたフィジカルアセスメント教育プログラムの実践および評価,(3)養護教諭養成課程学生への「頭が痛い」と訴える子どものフィジカルアセスメント教育プログラムの評価を行った。
著者
小林 範之 西山 竜朗
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では,ため池堤体の劣化度と動特性関係の明確化と性能劣化予測モデルの構築を目的とした.愛媛県の3つのため池で比抵抗電気探査,表面波探査および常時微動計測を実施した.また,地下水位-固有振動数関係の明確化のために,実験土槽内で模擬地盤を作成し,常時微動計測を実施した.固有振動数と地下水位の上昇による地盤の強度や有効応力の低下には相関があり,当初からの強度低下や有効応力の減少を劣化度とすれば,劣化度-動特性関係が求められ,常時微動計測によりため池堤体の劣化を推定できる可能性を示唆した.また,モンテカルロフィルタを用いてため池堤体の減衰定数と剛性を推定し,堤体の性能劣化の予測を試みた.
著者
徐 ふぁ
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究では、リスクマネジメントの枠組みを用いてビジネスリスクを研究した。具体的に、IT情報システム開発や自動車組み込みソフトウェア開発などに潜在するリスクを研究対象として、各ビジネス領域に特有な性質を十分考慮し、リスクのアセスメントとマネジメントの各段階に適用できる方法、モデル、技法およびツールを活用し、リスクマネジメントシステムを構築をした。また、リスクや不確実性が存在する両面性市場において、様々なビジネス戦略、たとえば、ショッピングモールとサービスプロバイダである店舗の間における収益配分戦略、スマートフォン市場における収益配分戦略や購入サポート戦略などを意思決定問題として研究した。
著者
松原 幸夫 尾田 雅文 川崎 一正 小浦方 格 平沢 信康
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究の目的は、日本の大学教育において未だ十分には達成されていない高度熟練技術分野における人材育成法を活用した教育カリキュラムを開発することにある。本研究は、現在最先端技術分野において、高度な熟練技術を保有し先進的な取り組みをしている企業(以下「先進企業」という)の人材育成法および日本と欧州の伝統的技術伝承法に関するこれまでの研究成果を検証、統合し推進される。
著者
松村 美代 南部 裕之 安藤 彰
出版者
関西医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

培養ブタ虹彩上皮細胞に1μMのprostamideとPGF2αを含む緩衝液を還流して連続的に作用させ、蛍光顕微鏡アクアコスモスを用いてカルシウムイメージングを行った。同一視野の中で反応する細胞をカウントして細胞内カルシウムの上昇度を計測したところ、ほとんど全ての細胞で反応が見られなかった。同様に隅角線維柱帯、毛様体の組織培養から得られた隅角線維柱帯細胞、毛様体上皮細胞におけるカルシウムイメージングを行ったが陽性反応は見られなかった。このことから1μMのprostamideとPGF2αではブタ培養虹彩上皮細胞、隅角線維柱帯細胞、毛様体上皮細胞において細胞内情報伝達のトリガーである細胞内カルシウム濃度を上昇させるような生理活性がない可能性が示唆された。同様の実験を当院眼科で緑内障に対する線維柱帯切除術を行う際に同意を得た患者から得られた線維柱帯細胞を用いて行い、ブタとヒトの種差の有無を検討した。結果はブタ線維柱帯細胞と同じく1μMのprostamideとPGF2αを作用させたところほとんど全ての細胞で反応が見られなかった。これらの結果から当該実験系ではブタ線維柱帯細胞とヒト線維柱帯細胞では種による差がないものと考えられた。同様に培養ヒト隅角線維柱帯細胞における各種プロスタグランジン誘導体に対する細胞内カルシウムの上昇は見られず、ブタおよびヒト隅角線維柱帯細胞に対してプロスタグランジンは少なくとも細胞内カルシウム濃度の上昇を引き金とした細胞内シグナル伝達を引き起こさない可能性が示された。今回の実験で用いた培養細胞はブタ、ヒトともに初代培養系であったため継代を重ねると細胞分裂の限界が訪れた。このように老化に陥った線維柱帯細胞について老化のマーカーであるテロメアの短縮とガラクトシダーゼ活性の変化を検討したところ培養線維柱帯細胞も細胞老化の特徴を示し、アクアポリン1などの遺伝子発現も変化することが明らかになった。この線維柱帯細胞の細胞老化の現象についてはBritish Journal of Ophthalmology誌に公表した。
著者
寺原 和孝 横田 恭子 岩渕 龍太郎
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究はHIV-1感染伝播における樹状細胞の役割についてヒト化マウスモデルで明らかにすることを目的とした。ヒト化マウスは樹状細胞等の骨髄系細胞の分化が乏しいため、まず、ヒト由来サイトカインであるGM-CSFおよびFlt3-Lの導入による樹状細胞の分化誘導について検討したところ、骨髄系樹状細胞亜集団であるBDCA-1+ MDC1およびBDCA-3+ MDC2の顕著な分化誘導が可能となった。そして、これらヒト化マウスにHIV-1を感染させた結果、感染前の単球数と感染後1週目の血中ウイルス量が有意に相関した。つまり、HIV-1初期感染において樹状細胞がその伝播効率に関与することが推察された。