著者
奈邉 健 松田 将也
出版者
摂南大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

IL-33のアレルギー性産生機序を解析し、難治性喘息におけるIL-33の役割を解析した。感作マウス肺内に抗原を投与した際のIL-33産生には、肺胞マクロファージ内への抗原-IgG複合体の取り込みを介する機序が関与することが示唆された。一方、難治性喘息モデルとして開発したステロイド抵抗性喘息モデルにおいて、IL-33産生はステロイド感受性であったが、IL-33受容体を有する2型自然リンパ球の肺への浸潤はステロイド抵抗性であった。さらに、IL-33受容体の遺伝子が肺において発現増強していた。以上より、難治性喘息において、IL-33の産生よりむしろIL-33受容体の活性化が増強していると考えられた。
著者
佐藤 卓
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

着床前遺伝子診断の実際では, 稀少なDNA量の遺伝子増幅の際に, 例えば対立アリルの一方のみが増幅されないアレルドロップアウト現象の出現が知られ, 誤診断の原因となる. 現在までに利用可能な各種全ゲノム増幅技術 (WGA) を比較した. その結果, WGAの違いによって, 検出されやすい遺伝子変異が異なる事象が観察された. また, WGA毎に増幅されやすい遺伝子領域が異なり, それは, 同一の遺伝子領域においてさえも, 増幅のバイアスは観察された. いずれのWGAを採用しても, あらゆる遺伝子においてADOは観察される結果を得た. 現時点では, MDA法が最も汎用性が高い.
著者
高村 仁知
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

魚臭の主成分は、トリメチルアミンなどのアミン類であるとされている。しかし、アミン類のが魚のにおいを決定しているのではない。実際に生成する魚臭にはアミン類以外の成分も多く含まれている。しかも、実際に食卓にのぽる魚料理ではアミン臭は全くなく、他の成分が「魚くさい」においに寄与していると考えられる。本研究は、魚の持つにおい成分について、ガスクロマトグラフおよびガスクロマトグラフー質量分析計などの機器分析法とガスクロマトグラフーオルファクトメトリー(においかぎ)法によるにおい判別法とを用いて、真の魚臭成分の構造や生成量を明らかにするとともに、それらの生成機構、生成条件を解明すること、さらに調理によってこれらを抑制する方法を明らかにすることを目的として遂行した。試料として、「マイワシ」を用い、新鮮魚、および室温放置により劣化された魚について、固相微量抽出法を用いてにおい成分を吸着させ、ガスクロマトグラフ-質量分析計およびガスクロマトグラフ-オルファクトメトリー(においかぎ)により、におい成分の解析を行った。その結果、魚の劣化過程において、トリメチルアミンは確かに生成するものの、pHを塩基性にしない限り、揮発性が乏しいため、いわゆる「魚臭い」においの原因ではないことを明らかにした。また、においかぎ分析により、多くの非アミン化合物、特に脂質に由来すると考えられるカルボニル化合物等が、不快なにおいを有し、これらが魚臭いにおいの主要な原因物質であることを明らかにし、特に2,3-pentanedione、hexanal、1-penten-3-o1が多く存在することを見いだした。これらはいずれも脂質に由来する化合物と考えられる。従って、抗酸化成分を有する調味料や食素材とともに調理することで、魚臭を抑制することができると考えられる。
著者
西本 寮子
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本年度は、大庭賢兼の事跡のうち、まず「詠百首和歌」について再検討を行うこととし、翻字の見直し作業から着手した。ついで、『伊勢物語』諸注集成について、情報を収集に努めた。さらに『太平記』の書き入れについて確認作業を進めた。吉川本太平記について、入手ずみの写真版の確認作業を進めた。固有名詞を中心に線引があることはよく知られているところであるが、その記主及び、本文を利用したのが誰であるのかは明らかにされてこなかったことから、何らかの手がかりが得られるのではないかと考えて作業を進めている。しかしながら、現時点では有力な手がかりは見いだせていない。これについては次のような見通しを立てている。毛利氏周辺にはいくつかの『太平記』伝本が伝わっており、伝本の中には元就の側近が関与したと思われるものもある。元就自身は吉川元春が書写した吉川家本の目録を記してているが、元就の孫の輝元所用本の注記には側近の名が認められる。吉川本は元春が書写したあと、元長や広家などが歴史や教養を身につけるために利用した可能性が高い。吉川家文書の元長自筆書状からは、元長が『太平記』に通じていたと考えられる文書の存在が確認できるからである。急成長を遂げた同一文化圏の中で、『太平記』がどのような意味を持っていたのか、検討を深めることができそうであるとの感触を得ている。また、大庭賢兼と元長の間には親交があったことから、元長の教養形成に賢兼が大きな意味を持っていたといえる。これらについて手がかりを求めて引き続き調査を続ける。なお、29年度は、毛利元就を始発点とする文化活動の広がりを考察するのに有益な資料を入手した。慶長三年二月十日興業の賦何木連歌一巻である。毛利元康が発句を詠じ、玄仲、晶叱、紹巴、景敏、友詮ら毛利家周辺で活躍した人物や連歌師等が参加している。時代は下るが毛利氏の文化活動の広がりの考察に利用したい。
著者
五箇 公一 立田 晴記 今藤 夏子 国武 陽子
出版者
独立行政法人国立環境研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

日本産およびアジア諸国産のヒラタクワガタ地域系統の系統関係がミトコンドリアDNA分析によって明らかにされ、アジアの大陸分化プロセスにあわせてヒラタクワガタ地域系統の種分化が進行したことが示された。交雑実験により、ヒラタクワガタ系統間の交雑は遺伝的距離が大きいほど交雑和合性が高い傾向が示された。楕円フーリエ解析による大顎形態分析の結果、雑種個体雄成虫は親系統雄の形態とは異なる大顎形態を示すが、雌親系統の形態的特徴が強く示される傾向があることが示され、ヒラタクワガタの大顎形態には母性効果があることが判明した。生殖操作に関与するWolbachiaの感染は、調査した個体すべてから検出はされなかった。
著者
北脇 知己
出版者
関西医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

この研究では、自転車ペダリング動作を評価するための指標を確立することを目的として、クランクとペダルの回転変動状態を正確に計測し、その変動成分を解析して自転車ペダリング動作中の筋活動状態を推定することで、自転車ペダリング動作スキルを計測可能なデバイスを構築するとともに評価指標について研究を行います。さらに、この新しいスキル指標を用いて高スキルペダリング技術の習得法についても検討し明らかにします。
著者
Nelson Steven
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

日本で古代から中世にかけて盛んに演奏されたものの、後に伝承が途絶えてしまった琵琶の独奏曲、すなわち琵琶の「撥合」(かきあわせ)と「手」(て)について、その全貌を明らかにするべく、現存楽譜の翻刻と五線譜化を行った。琵琶奏者、中村かほる氏の協力を得て舞台での復元試演を行い、秘曲として重視された4曲を含め、代表的な撥合と手を録音し、後の発信に備えた。調絃を確かめるための小曲である撥合には、主要音の同音反復の音型が多く、調性は日本化された音階理論に基づいている。一方、手は伝来当初の諸特徴がよく保持され、調性については撥合と同様の変容は見られない。
著者
小島 俊彰 小林 正史 久世 建二
出版者
金沢美術工芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

以下の点で「野焼き方法は土器の形、大きさ、作りに応じた工夫が施されている」ことが明らかにされた。(1) 弥生時代の甕棺の野焼き方法: 縄文・弥生時代において最も大型であり、高度な製作技術が要求される甕棺について、福岡県小郡市の津古空前遺跡(弥生中期前半)と横隈狐塚遺跡(中期中葉〜後半)の黒斑を詳細に観察し、2回の野焼き実験を行った結果、前者では丸太を芯にした粘土円柱の支え棒を用いて野焼き時に土器を斜めに立ち上げて設置していたのに対し、後者では横倒しに設置するように変化したことが明らかにされた。この変化の理由として、「円筒形に近い形の前者では内面下部まで燃焼ガスがゆき渡るように角度を付けて土器を設置したのに対し、寸胴形に変化した後者ではその必要がなくなったため、簡便な横倒しの設置になった」という仮説が提示された。(2) 弥生時代の赤塗土器の野焼き方法: 赤塗土器が最も盛行する北部九州の弥生中期土器と長野地方の弥生後期土器(松原遺跡)の黒斑を観察した結果、1)弥生時代の赤塗土器は黒斑が少ない、2)松原遺跡では、赤塗土器の盛行に伴い土器を横倒しにし、薪燃料を多用する(側面と上部に薪を立てかける、その上を草燃料で覆う)号焼き宣法に変化する、3)縄文時代の赤塗は全て焼成後なのに対し、弥生時代の赤塗は全て焼成前に施されるようになる、などの点が明らかにされた。そして、電気窯による赤塗粘土板の焼成実験により、1)薪を多用するのは赤塗の定着度を高めるためである、2)赤塗土器に黒斑が少ないのは、ベンガラのために炭素が酸化しやすいためである、3)弥生時代の焼式前赤塗は、野焼き時に黒斑を付けないで焼くことが可能な「覆い形野焼き」に対応したものである、の3点が示された。(3) 縄文土器の野焼き方法: 4回の野焼き実験と東北地方の縄文土器(前・中期の三内丸山・板留(2)・滝の沢遺跡、および縄文晩期の九年橋遺跡)の黒斑を観察し、「内面に薪を入れて直立した状態で野焼きし、底部を加熱するため後半段階で横倒しにする」という野焼き方法を明らかにした。外面黒色化(褐色化)手法が縄文時代に盛行するが弥生時代にはほぼ消失する理由として、「一度全体を明色に焼き上げた後に、有機物を掛けて炭素を吸着させる黒色土器は、上述の開放型野焼きには適するが、弥生時代の覆い型野焼きには適さない」ことを明らかにした。
著者
三田村 敏正 松木 伸浩 吉岡 明良 田渕 研
出版者
福島県農業総合センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

東北地方太平洋沖地震とそれに伴う東京電力福島第一原子力発電所事故により、営農中断し、その後再開した水田において、生物相の変化を明らかにするため、営農中断し表土剥ぎおよび客土を実施、営農中断し、表土剥ぎなし、営農中断なし、のほ場を平野部と山間部、さらには栽培方法として、直播と移植に分け、16地区42枚の調査ほ場を設定した。調査は「農業に有用な生物多様性の指標生物調査・評価マニュアル」により、ダルマガエル類、アカネ類・イトトンボ類、水生昆虫類、アシナガグモ類について行った。ダルマガエル類は小高区金谷で、営農再開後3年目でニホンアカガエルが初確認された。また、トウキョウダルマガエルは、営農を中断した地域で少ない傾向であった。アカネ類羽化殻は富岡町以外のすべての調査地で確認された。アカネ類の羽化時期は地域によって差がみられた。イトトンボ類は6種が確認され、アジアイトトンボが最も多かった。水生昆虫は営農中断ありでは21種、営農中断なしは13種が確認され、営農中断ありが多い傾向であった。。キイロヒラタガムシ、コミズムシ属、ヒメアメンボは前年同様、多くのほ場で、また、ヒメゲンゴロウ、ホソセスジゲンゴロウ、マメガムシ、トゲバゴマフガムシ、ミズカマキリ、メミズムシは営農中断ありのほ場でのみ確認された。アシナガグモ類ではほとんどがアシナガグモ属5種であった。トガリアシナガグモとヤサガタアシナガグモは営農を中断した地域で少なく、ハラビロアシナガグモは山間部で多い傾向であった。また、2019年度は装置の基盤に結露の影響を受けにくいような処理を施し防水性を高めるとともに、秋季には昨年度より1地区増やした6地区の水田に合計18台の自動撮影装置を設置して、自動撮影枚数と見取り調査によるアカネ類密度との相関を検討した。その結果、昨年度同様にアカネ類の自動撮影枚数と見取り調査によるアカネ類密度には正の相関が見られた。
著者
北村 義浩
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、(+)一本鎖RNAをゲノムとして有するレトロウイルスである。レセプターを介し標的細胞に進入した後、感染細胞の細胞質でゲノムRNAは逆転写酵素(RT)によって線状2本鎖DNAに変換される。この相補DNA分子はHIVの組み込み酵素(IN)を含む様々なタンパク質とともに巨大な核酸・タンパク質複合体(組み込み前複合体PIC)を形成する。しかし、この構造について、相補DNA、RT,INが含まれること以外はほとんど分かっていない。PICにVpr、MA、などウイルスタンパク質の他、さらに、宿主のHMG-I (Y)タンパク質などが共存しているという報告が散見されるもののその報告者とは異なる研究者による厳密な検証はなされていない。メカニズムは不明であるが、PICは細胞質から細胞核に移行し、細胞核内で宿主ゲノムDNAに組み込みを起こしてプロウイルスとなる。逆転写反応以降のステップのメカニズムを明らかにし、これをベクター開発に応用することを目的とし研究を行った。HIVのウイルス中央多プリン配列(cPPT)を挿入したHIVベクターの遺伝子導入効率はそのcPPTの長さあるいは、cPPTの近傍領域の配列に依存する場合があることを示した。従来の定説ではcPPTは核移行効率に関わるとされていたが、そうではなく核移行後のなんらかのステップに重要であることを明らかにした。cPPTの近傍領域にはHIVベクターのRNA量を低下させる働きのあることも明らかにした。
著者
阪本 久美子
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

舞台上の役者が登場人物を具現化する際、役者の性が登場人物の性と異なると、観客は性別の「ずれ」を認識することになる。これが、異性配役という趣向により生じる独特の効果として現れる。本研究では、シェイクスピア作品上演における観客側、つまり受容側を研究対象とし、受容における異性配役の効果を検証した。特に、異性配役が誘発する観客の「笑い」、異性配役が醸し出す「魅力」に着目し、基盤となる文献調査から始まり、ファンクラブへの調査、観客インタビューを含めた実地調査を実施した。その結果、異性配役に関する観客論を実証的な方向で発展させ、本来捉えどころがない観客の実態を把握する上での有意義な考察が行われた。
著者
阿由葉 司
出版者
千葉県立中央博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

三方を海に囲まれた房総地方では、古くから漁業が盛んで、特に江戸時代以降は九十九里地方でのイワシの地引網漁業や、東京湾での海苔養殖など特徴的な漁業が展開してきた。こうした房総地方の漁業は、江戸時代に紀伊半島を中心とした関西地方との密接なつながりが指摘されてきたが、それ以外に東北地方の三陸沿岸地域とのつながりも認められるところである。本研究は、こうした両地域の地域間交流の実態を、特に漁民の広域移動や漁民信仰の観点から捉えることを目的とし、平成12年度から研究をおこなってきたものである。研究最終年度である平成15年度については、これまでおこなってきた三陸地域での調査を総括、整理する作業を中心に実施したところである。こうした作業のなかで、岩手県釜石市およびそこに隣接する大槌町において三陸地方と房総半島との関係を推測させる事例の確認ができた。これは三陸沿岸地域に広範に分布している「鹿踊り」という伝統芸能のなかに「房州踊り」と俗称されるものが散見し、こうした地域がかつて漁労技術の継承を三陸と房総のあいだでおこなってきた地域であることも判明した。なお、歴史的に重要な関連を持つと思われる「前川家文書」(旧水産庁所蔵)について当初調査をおこなう計画であったが、現在同史料を所蔵する中央水産研究センターにおいて、継続的な整理が進行中であったため、本研究のなかで調査をすることは見合わせ、整理の完了をまつこととした。
著者
河合 崇行
出版者
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

認知時間に差がある2種の味を混和した際の味変化について調べた。ヒト用の実験装置は精度が維持できなかったので、マウス行動学を利用して解析することにした。甘味と甘味を混合した場合は、認知時間差の大きい組み合わせほど大きな甘味増強が起きる現象が見られた。塩味と甘味を混合した場合は、甘味増強が見られたものの、認知時間の早いイオン性の甘味との組み合わせで大きな増強が見られた。
著者
酒井 恵美子 中田 敏夫
出版者
中京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

従来、標準語としてはかなり相違の多い国定第Ⅰ期国語読本の言語が6年後の国定第Ⅱ期になると、なぜ標準語との一致を見たのかが問題とされてきた。今回台湾統治資料の中にある台湾読本第Ⅰ期の図書審査審議記録とこの教科書の編纂者と彼らを巡る人々との関係を探ることにより、教科書執筆者はすでにいくつかの文体をかき分けていたこと、図書審査会でも標準語についてまだ厳格な一致がなかったことがわかった。つまり、編纂段階で文体を決定さえすれば、やや冒険的な国定第Ⅰ期の文体も標準語につながる第Ⅱ期の文体も可能だったのである。台湾での決定に影響を与えることができた上田万年、小川尚義についてはさらに考察が必要である。
著者
亀山 郁夫
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、スターリン時代における検閲システムを、主として権力の側から考察するものである。研究のテーマそのものは、ソ連崩壊後、にわかに浮上してきたトピックで、ロシア国内および国外でも地道な研究が続けられている。それらの実績にかんがみ、この3年間にわたって、主として2004年に没後50年をむかえたセルゲイ・プロコフィエフ、2006年に生誕100年を迎えるドミートリー・ショスタコーヴィチとスターリン権力との相互関係について調べ、さらに私がいま試みているスターリン学(stalinology)の構築に向けて、次のような論文を発表した。なお、現在、私は、ここに掲げる論文とは別個に、本科研費の助成による成果として、『大検閲官スターリン-20世紀ロシアにおける文化と政治権力のカコフォニー』と題する著作を準備しており、2005年10月に小学館から刊行される予定である。1 プロコフィエフとスターリン権力を扱った論文では、約15年にわたった異国放浪の末に、1936年にソビエトへの帰還を決意した理由と動機を明らかにし、その後、約3年間において作曲されたソビエト礼賛ないしスターリン礼賛の音楽の政治的意味と、それに対する、実質的には当時のソビエト最高の検閲機関の対応を歴史的に意味づけ、そのなかで純粋に芸術的な営みとしてどう成り立っているかを分析した。2 ドミートリー・ショスタコーヴィチの1920年代の作品における音楽的実験が、スターリン体制の確立のもとでどのような変貌を強いられるかを考察した(ただしこの論文は未完である)。3 遺伝学者ルイセンコおよび言語学者マルの二人とスターリン権力との関係を扱った論文では、従来の彼らに対する評価をあらため、ロシア・アヴァンギャルド運動および詩学、世界観との観点から新たな照明を当てることによって、その現代的な意味を浮かびあがらせた。4 メイエルホリドとスターリン権力との関係を扱った論文では、これまであまり知られることのなかった最晩年の彼の伝記上の謎、とりわけその死の真相をめぐって、最新の資料を用いながら明らかにした。5 ボリス・パステルナークにおけるスターリン崇拝の現実と、彼の代表作『ドクトル・ジバゴ』の時代設定の問題の相関性について考察し、彼がスターリンへの傾斜を強める1929年以降の時代がこの小説の時代の枠組みには入ることが不可能だった理由を明らかにした。
著者
高柳 敏幸
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

放射線照射によって生成する2次電子のエネルギーがイオン化エネルギーより低い場合でも生体損傷を起こすことが最近指摘されている。本研究課題では、低エネルギー電子による生体分子の損傷過程を分子レベルで解明するために、理論的な立場から研究を行った。水や極性分子による余剰電子の束縛機構を理論的に明らかにし、軽い原子の核量子効果の重要性を指摘した。また、低エネルギー電子による多原子分子の解離性電子付着過程の断面積を計算する計算コードを開発した。