著者
中道 範隆 加藤 将夫
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

中枢神経系細胞に発現する膜輸送体OCTN1の生理学的役割を解明する目的で、OCTN1による神経細胞の機能制御メカニズムおよびそのうつ病治療への応用の可能性について検討した。その結果、OCTN1による水溶性アミノ酸ergothioneineの取り込みは、mTORの活性化を介して神経栄養因子を誘導し、神経細胞への分化を促進することが示された。また、同作用を介して海馬歯状回における神経新生を促進することにより、抗うつ効果を発揮する可能性がある。さらに、OCTN1が抗うつ薬の効果に影響を及ぼす可能性も示された。
著者
渋谷 哲也
出版者
東京国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

戦後ドイツ映画における移民表象の変遷を辿りながら、移民をめぐる社会状況の変化を考察した。とりわけ日本では無名ながらドイツでは高い評価を受けているトルコ系移民二世の映画作家トーマス・アルスランの作品を取り上げ、トルコや移民というテーマを扱う際にいかに紋切り型的表現から距離を取り、社会の多様性を浮き彫りにする手法を明らかにした。
著者
小野沢 あかね
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究はオーラル・ヒストリーの手法を重視し、戦後沖縄のコザ市における次の3つの問題を、特に(2)を中心に明らかにした。(1)復帰以前の沖縄における米兵向けバーの経営実態とその歴史的変化、(2)米兵向けバーで働いた数人の女性従業員の「労働」、賃金、借金、「労働」意識、自己認識、ひいてはそのライフ・ヒストリー、(3)コザ市におけるバー以外の商店の営業実態と、それらの商店と米兵向けバー・ホステスとの関係、である。
著者
吉江 崇
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、鎌倉時代史研究には欠かせない『平戸記』(有識の貴族として宮廷社会で重んじられた平経高の日記)について、信頼するに足る新たな校訂本を作成し、同時代史研究の新たな発展を目指すものである。また、『平戸記』のもつ史料的価値に鑑み、作成した新訂本を用いながら内容の考察をすすめ、それを論文集としてまとめることで、鎌倉時代史研究の進展の可能性を提起したいと考える。
著者
水野 俊平
出版者
北海商科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

「外邦図(朝鮮)」は朝鮮で最初に刊行された5万分1地形図である。この地形図の地名には漢字の地名にカタカナで振り仮名が付されている。この振り仮名を通して、当時の朝鮮地名の実相を明らかにすることができる。調査の結果、地形図から44、181個の地名を抽出することができた。この地名の読み方を分析した結果、音読・訓読・音訓混合の3種類が混在していることが判明し、約65%が音読であった。また、同じ地点に幾つかの地名が併存する「多重性」を備えていることが明らかになった。「外邦図(朝鮮)」の地名を分析した結果、文献資料では把握できなかった古語の分布や方言語彙の分布、音韻変化の様相を解明することができた。
著者
安藤 英由樹
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

人間が思考の道具として利用している独り言や内言に着目し、それを人工的に作り出すことで、主体感や関与感、情報の理解・判断の精度を向上させる。内言・独り言で使用される自分声は、外部で聞こえる声と異なり、頭部内の骨導音であるため、予め外部で記録した音声を変換して骨導音を作成し、それを適切なタイミングで提示することで、あたかも自分の意思として自然に行動を促すことを実現することを目的とする。さらに,ELSIの観点に基づいて問題のない範囲を規定において、無意識的な誘導技術は悪意のある誘導手法へと容易に転用できることが予想されるため、どのような条件において利用すべきかについて検討を行う。初年度に引き続き,内言として刺激を行うための音声を生成について検討を進めた.その結果,発生された音声から,頭の中で響く自分声へと変換するためのフィルタ手法として,従来手法では不十分であった,骨と空気の伝導モデルを再構築し簡便に擬似内言を生成する方法を実現した.具体的には,骨と空気の伝導音を別々に測定し、両方の音の比に重みを付け,それらを合成して,実験協力者に聞かせ,この重みの比率を変化させることで,実験協力者がもっともらしく,自分の頭の中で聞こえる声と感じられるパラメタの抽出し実装する方法が実現できた.さらに,当該手法で音声情報の提示を行ったときと,単なる録音された音声情報の提示を行った場合とでは,前者のほうが精神的な作業負荷を増加させることなく,かつ意思決定などの情報処理にバイアスをかけることができるという実験を行い,その効果を確認した.
著者
北村 繁幸 佐能 正剛 清水 良 杉原 数美 藤本 成明 渡部 容子
出版者
日本薬科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-10-21

生活用品に含まれる化学物質は日常生活を豊かにするうえで欠かせない。生活用品には、防腐剤、品質の維持、着色料、着香料、柔軟剤、可塑剤、紫外線吸収剤や難燃剤などがあり、多かれ少なかれ化学物質が含まれている。本研究課題では、生活用品に含まれる化学物質を広く取り上げ、生体機能維持に重要な働きをする核内受容体に対する活性化についての検討を行った。その結果、幾つかの化学物質が核内受容体を活性化することを見出した。さらに、それぞれの核内受容体の活性化に対応したシトクロムP450分子種が誘導されることを明らかにした。また、近年使用量が増えているリン系難燃剤が薬物代謝酵素活性へ直接的な影響を及ぼすことを示した。
著者
宮田 敏之
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究の成果は次の三点に整理しうる。(1)タイ農業・貿易統計等により、1980年代以降、ジャスミン・ライスの生産・輸出経済が急速な発展したことを明らかにした。(2)産地として有名な東北タイの「トゥングラー・ローン・ハイ」地域におけるジャスミン・ライスの栽培と精米業が、タイ政府の地域開発計画(道路、灌漑等)の実施や海外の需要に刺激されて、1980年代以降急速に発展したことを明らかにした。(3)海外市場の重要性、特に、1970年代以降、香港においてジャスミン・ライスに対する需要が拡大したこと、さらに2000年代以降、経済成長に伴い、中国広東省を中心に、その需要が急拡大したことと、米の不正混入問題等を指摘した。
著者
三宅 昭良
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

今回の研究によって、エズラ・パウンドのファシズム傾斜の全容、ウィリアム・ダッドリー・ペリーの心霊主義とファシズムの関係、ペリーのパウンドにあたえた影響は解明できた。パウンドにおいては<アメリカ>という問題がきわめて重要である。理想の<アメリカ>が現実の歴史と政治から失われてゆく思いから、ファシズムと反ユダヤ主義に傾倒してゆくのであった。その課程で、ペリーの「南北戦争とリンカーンの死の秘密」という論文を読んだことが、パウンドにとっては決定的であった。南北戦争というアメリカ史上最大の国家的危機がユダヤ人による陰謀であったという暴論に衝撃を受け、「ユダヤ人問題」の研究に彼ははいるのである。その意味でペリーの反ユダヤ主義が詩人にあたえた影響は重大である。ペリーのファシズムは反ユダヤ主義思想、銀シャツ党の活動、心霊主義、経済改革論の4つの柱から成る。今回の研究では銀シャツ党の活動の概要、心霊主義の核心、そして心霊主義と反ユダヤ主義、さらに経済改革論とそれらの関係の解明を試みた。彼の人種理論はグラントなどの黄禍論的人種主義と同種のものであるが、それに宇宙論的妄想をかぶせたところにその特徴がある。すなわち、地上にさまざまな人種が存在するのは、宇宙から人類の祖先が移住してきたところに原因があるとする説である。そしてユダヤ人を含む黄色人種は「優秀な支配人種たる白人種を脅かす危険な存在」という、例の黄禍論に接続するのである。また、ペリーの経済改革論は実行不可能な空想的ユートピアにすぎず、オカルト的人種論と同じメンタリティの所産であることがよく分かる内容である。そしてこの建設的価値が彼の反ユダヤ主義を支えるもうひとつの思想的軸なのである。
著者
齋藤 文俊
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は、明治初期という、漢文訓読体が優勢であった時代に、「日本語」がどのように意識されていたのかを明らかにするため、漢訳聖書の影響をうけて翻訳された複数の「聖書」を資料としてとりあげ、漢文訓読語法や当時の俗語などの「やさしい日本語」がどのようにその中に含まれているのかを調査していく。また、同じように漢訳聖書の影響を受けた、近代の韓国(朝鮮)語訳聖書の場合と比較考察していくことにより、多角的に明治初期における「日本語意識」の形成過程を明らかにしていくことを目指している。2年目である平成30年度においても、明治期における聖書翻訳に関する先行研究の整理を行うとともに、基本資料の収集と整理を行い、データベース作成準備を行った。これらの作業は、3年目の平成31年(令和元年)度においても継続して行っていく。さらに、今年度においては、聖書以外の翻訳小説にも調査範囲を広げ、特に、漢文訓読体で翻訳された『欧洲奇事花柳春話』と、和文体で書かれた『通俗花柳春話』を対照させ、その中で用いられている漢文訓読語法を調査することにより、両者に見られる日本語意識についても考察を行った。その成果の一部は、「明治初期における聖書の翻訳と日本語意識──漢文訓読語法「欲ス」を例に──」(沖森卓也教授退職記念『歴史言語学の射程』2018年11月、三省堂、PP.497-506)として発表した。明治初期には、このように、同一の内容を漢文訓読体で記したものと、「通俗」という角書を付して、易しい文体で記した小説類が複数存在するので、それらを調査することにより、明治初期の日本語意識を解明していくことが可能になる。
著者
関 明穂 鈴木 久雄 中塚 幹也
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

性同一性障害の人の体力・運動能力測定を前年度に引き続き実施した。これまでに測定に協力していただいたのは20歳代のトランス女性で、全員がホルモン療法を受けていた。測定を行った人の体格、体力・運動能力測定の結果は、同年代の男性・女性の基準値がオーバーラップしている範囲内であったが、測定数が少ないため、さらに例数を増やして検討を行う必要がある。また、性同一性障害・トランスジェンダーの人がマラソン大会に参加することについてのアンケート調査を、大会の主催者を対象として実施した。449件(回収率47%)の回答のうち、時間計測を行っていて男女別の種目があるとの回答があった395大会について分析した。これまでに性同一性障害・トランスジェンダーの人が参加したことがあるとの回答が14大会(3.6%)からあった。もし、性同一性障害・トランスジェンダーの人から「男女どちらのカテゴリーで参加可能か」との問い合わせがあった場合、どう回答するかを聞いたところ、「本人の申告する性別で参加してもらう」が約4割で最も多く、次いで「その人の状況に応じて判断する」「戸籍上の性別で参加してもらう」の順であった。また、性同一性障害・トランスジェンダーの人がマラソン大会に参加する場合に問題が生じる可能性があることとして、約8割が「更衣室」を、約6割が「トイレ」「上位入賞時の扱い」「男女どちらのカテゴリーで参加するか」と回答していた。マラソンは順位を争う競技スポーツの側面と、多くの市民ランナーが参加する健康スポーツの側面とを有している。マラソン大会の主催者は健康スポーツの観点から多くの人に本人の希望に添った形で参加してもらいたいとの思いがある一方で、競技スポーツの観点から競技の公平性を保つために、どのような条件で性同一性障害・トランスジェンダーの人の参加を認めるのがよいのかが課題であると考えているものと思われた。
著者
佐藤 征弥 瀬田 勝哉
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、イチョウが日本に伝来し、広がっていった歴史をDNA分析や木にまつわる伝説を調査することにより明らかにすることを試みた。そして日本、韓国、中国でイチョウのDNAタイプの相違点を見いだし、伝播ルートについて考察した。また巨樹の文献史料の調査により、日本と朝鮮半島におけるイチョウや他の巨樹の伝説の相違点を見つけ、その背景にある文化や歴史の違いを明らかにした。
著者
青山 晃治
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

Alzheimer病(AD)患者の脳内では、酸化ストレスの亢進と抗酸化物質であるグルタチオン(GSH)の減少が報告されており、神経細胞内のGSHを増加させることはADの進行に対し抑制的に働くと考えられる。しかし、末梢投与されたGSHは血液脳関門を通過できないため有効な治療法となり得ない。本研究では、神経GSH産生を抑制するmicroRNA(miR-96-5p)に対し、そのinhibitor(miR-96-5p anti-miR)を経鼻投与することにより脳内GSH産生を促進し神経変性抑制効果を発揮するかどうかを明らかにすることが第一の目的である。まず、経鼻投与によるanti-miRの中枢移行性を確認するために、蛍光標識されたmiR-96-5p anti-miRをC57BL6マウスの鼻腔内に投与する実験を行った。経鼻投与3日後に採取した脳組織から海馬組織切片を作成し、miR-96-5p anti-miRの中枢移行性を共焦点蛍光顕微鏡下で確認したところ、海馬神経細胞層CA1~CA2にかけて蛍光が確認され、経鼻投与によるanti-miRの中枢神経(海馬)への移行性が示唆された。さらに、miR-96-5p anti-miRの経鼻投与による海馬GSH量の変化について、GSH蛍光標識であるCMFDAを用いて検討した。対照群には、生理食塩水およびscrambled anti-miRを同様に投与した。miR-96-5p anti-miR投与群においては、経鼻投与3日後に海馬神経細胞層のCMFDA蛍光シグナルの増強が確認された。この結果から、miR-96-5p anti-miRの経鼻投与により海馬GSH量は増加すると考えられた。現在、海馬サンプルを用いたHPLCによるGSH測定を行っているが、統計学的評価を行うためのサンプル数には至っていない。
著者
岩野 正之 斎藤 能彦 赤井 靖宏
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

われわれは、間質線維化の進展に尿細管上皮細胞のfibroblast specific protein 1(FSP1)陽性線維芽細胞への形質変異(EMT)が重要な役割を果たすことを明らかにしている。また一方では、慢性虚血による尿細管上皮細胞の低酸素暴露が間質線維化の進展に関与すると考えられている。本研究で、われわれは低酸素応答で中心的な役割を果たすことが知られているhypoxia inducible factor-1α(HIF-1α)がEMTの協力な誘導因子であることを、初代近位尿細管上皮細胞を用いた実験系で明らかにし、HIF-1α阻害薬であるYC-1に初代近位尿細管上皮細胞におけるEMTの抑制効果があることを示した。また、Cre-loxPシステムを用いてHIF-1α遺伝子を尿細管上皮細胞特異的にターゲッティングした遺伝子改変マウスにおいては、一側尿管閉塞(UUO)マウスで誘導される間質線維化の進展が抑制されることを明らかにした。さらに、尿管に、連日30μ/g・mouseのYC-1を腹腔内投与することで、尿管閉塞後8日目のUUOマウスにおけるFSP1陽性細胞数は有意に現象し、タイプ1コラーゲン染色で評価した間質線維化面積も有意に減少することを示した。以上の結果より、慢性低酸素刺激で誘導された尿細管上皮細胞におけるHIF-1αの発現が、EMTによる間質線維化の進展に関与すること、およびHIF-1α阻害薬が間質線維化の新しい治療薬となる可能性が示された。
著者
小林 和幸
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、貴族院議員の政治活動を、その活動の背景となった出身や経歴などの「政治的基盤」と関連づけて検討するものである。本研究で以下の諸点で成果を得た。まず、華族議員の政治基盤を華族令改正問題から検討した。また、勅選議員の活動に関連して「幸倶楽部」関係史料を刊行した。さらに大正期の貴族院改革と関連付けて貴族院の議席変更論議を検討し、昭和期の貴族院については美濃部達吉の「天皇機関説」排撃での貴族院内会派の動向を検討した。また、明治期の「国民主義」の思想的基盤を持つ政治勢力を論じたほか、貴族院の会派研究会の初期会則を発見紹介、多額納税者議員「鎌田勝太郎関係文書」を整理し、目録刊行の準備を進めた。
著者
関根 康正
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

4年間にわたった本研究では、それぞれ特徴的な場所を調査でき収穫は大きく、当初予想していなかった問題視角も明らかにすることができた。以下に箇条書きの形で、総括的論点をまとめておきたい。1 共同体の解体と個人化の影響:ケガレ観念は深く共同体との存在に根ざしていることが改めて明らかになり、それによって、個人レベルになっても解体しないケガレ観念と共同体の解体とともに希薄になるケガレ観念とがあることが明白になった。共同性において支えられてきた生活・生産の危機は、今日のように近代化し個人化した生活・生産スタイルになると、祈祷師や「オガミヤサン」に不漁の原因などの個人の身の上に起こった不幸・苦悩の解決を求めて足を運ぷという個人処理の方向に進むことになり、かえって伝統民俗文化の一部の捻れた形での(商業主義の入り込んだ)再活性化を呈することになる。2 水平的共同性と垂直的共同性の区別と絡み合い:社会的階層性や社会的差別につながる「浄・不浄」イデオロギーは、それぞれの地域でそのイデオロギー内容や歴史的な絡み合いの経緯を異にしながらも、支配イデオロギーとしての位置を占めてきた。壱岐・対馬では天童信仰という神道が、奈良では仏教を背景にした王権が、沖縄では公儀のノロ制度を持った王権や後の薩摩支配以降のその変容と仏教の流入が、そうした階層化をもたらすイデオロギーとして「浄・不浄」観念を浸透させてきた。ここで丁寧に現実を観察し分析しなければならない大事な点は、こうした支配イデオロギーの下に組み込まれた村落地縁共同体や血縁共同体が、支配の具になった「不浄」としてケガレ観念で完全に下まで塗り替えられたのかという点である。結論的には、列島のどこにおいても水平的な共同性とでも呼ぶべき次元が、垂直的な「浄・不浄」イデオロギーに貫かれた国家共同体の権力システムには完全には繰り込まれない、生活の共同性を維持しそれが生きられてきたとうことである。これは基層文化として連綿とあったものというより、支配イデオロギーの抑圧空間の中で庶民の反応として再生産、再創造されながら存在してきたものと見なすことの方は妥当であろう。関係論で考える必要がある。3 近代化・都市化:火葬の浸透の決定的影響:火葬は言うまでもなく決定的な葬送民俗文化の変更を引き起こしている。本土における土葬から火葬への変化は、葬儀の近代化・都市化を意味し、それは単に葬送方法が変わっただけでなく、村落社会の解体であり、共同性の解体を意味し、資本主義的な外部経済、形式的な(パッケージ化された)葬式仏教の受容を招くのである。こうなると、葬儀社主導の仏教イデオロギーが浸透してきて、ケガレ観念も「不浄」観念に引き寄せられて、それまでの「ケガレ」のダイナミズムが失われていくことが予想できる。とはいえ、問題は残っている。「不浄」理解だけでは対応できない、深みのある機微に富んだケガレ観念の考察を必要とした人生の危機問題は未解決のまま残されているので、人々は「自分探し」という自己肯定物語を求めて彷徨い歩き続けることになっている。その亀裂が深刻化している。この研究プロジェクトはこの点に関心を持って組まれた。民俗文化の喪失はどのように代替されていくのだろうか。ケガレ観念をこの現代においてこそ改めて問うことの意義がそこにある。
著者
嶋崎 善章
出版者
秋田県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、外来生物法施行当初と現在の八郎湖のレクリエーション利用価値を推定し比較した。実際に釣りで訪れた人々を対象にしたアンケート調査と過去に収集されたデータを基に、トラベルコスト法で推定した年間の利用価値は、2003 年から 2011 年の間に推定で 3分の1以下(6.1 億円→1.8 億円)に減少していることが分かった。
著者
遊間 義一 金澤 雄一郎
出版者
兵庫教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は,日本全国の刑事施設に収容された性犯罪受刑者598名を出所後3-5年間追跡したデータを基に,性犯罪者処遇プログラム(以下プログラムという)の再犯抑止効果を,傾向スコアを用いて交絡因子の影響を除いたうえで,パラメトリックな生存分析により評価したものである。その結果,(1)再犯の経過は,痴漢で受刑した者(痴漢群)とそれ以外の者(非痴漢群)では異なっていること,(2)痴漢群では,プログラムは有意な再犯抑止効果を持たないこと,(3)非痴漢群では,プログラムの効果は出所後500日程度まで存在すること,(4)痴漢群では,非痴漢群より,プログラム受講の有無に関わらず再犯率が高いこと,が分かった。