著者
西田 基宏
出版者
大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設)
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

我々は硫化水素(H2S/HS-)が心筋梗塞後に生成される親電子物質を求核置換反応により直接消去し,慢性心不全を抑制する可能性を明らかにした.しかし,H2S/HS-が求核シグナルとして働く分子実体かどうかについては不明であった.本研究では、内因性活性硫黄の分子実体を明らかにし,硫黄蓄積を主眼とした慢性心不全治療法の有効性を確立させることを目的とした.その結果,タンパク質などに含まれるシステインのポリ硫黄鎖が活性硫黄の分子実体として働くことが明らかとなった.さらに,ポリ硫黄を多く含む食品をマウスに摂取させることで,H2S/HS-よりもはるかに強い心筋保護効果が得られることを確認した.
著者
半藤 逸樹 辻村 優英
出版者
新潟大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

多極政府モデルを「善意のシステム化」を維持するクラウド・ガバナンスと仮定した上で,HANDYモデルと結合させて自由度6の力学系を構築し,パラメータの調整を行った.社会変革のシナリオについては,ステークホルダー会議でのフィードバックを取り入れた.Android/iOS対応 アプリ「環境観でつながる世界」によって,地球環境問題に関する大衆(クラウド)の価値観ネットワークの基礎データを収集し,ネットワークの時系列変化を可視化した.「善意のシステム化」モデルについては,アプリの運用再開後に再度調整を行い,2019年に公開する予定である.
著者
小山 友介
出版者
芝浦工業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

近年アニメ聖地巡礼が話題となっている.本研究では4地域での来訪者調査および複数個所での関係者ヒアリングを元に,アニメ聖地巡礼が地域に与える影響を考察した.アニメ聖地巡礼者は当初は作品の舞台を見るためにその地域を訪問するが,一部の巡礼者は現地の人との交流や同行の士である聖地巡礼者の交流のために熱心なリピーター化する.熱心なリピーターは地域に利するように見えるが,排他的な雰囲気を醸成し,他の一見的な来訪者を寄せ付けなくするリスクを伴っている.また,多くの人が現地を訪ねる期間はそれほど長くなく,聖地となった街は最終的な着地点をどうするかについて対処が必要となる.
著者
岡部 篤行 山田 育穂
出版者
青山学院大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、空間自己相関を検定する統計量として頻繁に使用されているモランのI指標の正確な使用方法を提案したものである。多くの既存研究では、研究対象地域を構成するゾーン数がせいぜい100程度であれば、モランのI指標に正規性が仮定できるとして、空間自己相関がないという帰無仮説の統計的検定が行われている。本研究は、そのような多くのゾーン数であっても正規性は仮定できないことを示し、通常の利用方法は間違いを起こしやすいことを指摘した。この欠点を克服すべく、本研究では膨大な数のモンテカルロシミュレーションを行い、帰無仮説の元での限界値の数表を作成した。この数表を使うことで正確な統計的検定が可能となった。
著者
鶴若 祐介
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

洞窟など地底湖に生息する生物のほとんどは、眼が退化している。しかしながら、それらの生物より遥かに長い時代を暗黒世界に生きる深海生物は、なぜ眼が退化していないのであろう?眼は機能しているのだろうか?その問いの答えが本研究結果から示された。深海魚ヤマトコブシカジカは、しっかりと眼で対象物を認識し、さらには色を学習し、暗闇でも識別できることが示唆された。また、眼を持たない原始的な生物である深海イソギンチャクは光を識別し、波長の変化を感知できることが分かった。
著者
中山 敬一
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

我々は高感度質量分析計による定量的リン酸化プロテオミクス技術を用いて、のべ20000を超えるリン酸化について定量解析を行った結果、mTORC1の下流分子として転写因子FOXK1を含む36分子を同定した。さらにFOXK1によって誘導される遺伝子として、単球の遊走因子である炎症性ケモカインのCCL2を同定した。腫瘍細胞の皮下移植実験の結果、ラパマイシン投与、FOXK1の抑制、CCL2の抑制によって、それぞれTAMの浸潤抑制が認められた。このことより、mTORC1-FOXK1-CCL2経路は栄養シグナルと炎症をつなぎ、がんの発生や進展に重要な役割を持つことが明らかとなった。
著者
曽根田 瞬 川村 智行
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

1型糖尿病におけるカーボカウントは、食事の炭水化物量を把握し投与インスリン量を決定するのに有用だが、実践するには知識と経験が必要で、特に小児の患者において普及しているとは言い難い。そこで、食事選択をもっと自由にしQOLを改善することを目標に、カーボカウント導入を支援する携帯端末用アプリの開発を計画した。患児と保護者に行ったアンケートでは、インターネット接続せずに使用できることが要望として上がった。開発は進んでいたが、2014年11月25日に施行された「医薬品医療機器等法」により、ソフトウェア単体でも医療機器としてみなされる可能性が浮上し、アプリを配布して効果を検証することは困難な状況となった。
著者
小野 憲司 赤倉 康寛 神田 正美
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

2011年の東日本大震災によるサプライチェーンの寸断から我が国のモノづくり産業が全国規模、世界規模で操業停止した経験に鑑み本研究では、震災の影響が著しかった自動車産業サプライチェーンのモデル化と、災害がサプライチェーンに及ぼす負のインパクトの測定、サプライチェーンマネジメント(SCM)改善策の効果の評価を行った。SCM改善策の評価結果は、①部品在庫の積み増しの効果は低い、②部品調達は海外よりも国内への分散化が効果的、③災害によって生じたサプライチェーンの隘路に対する共同復旧支援の効果は高い等の結果が得られ、我が国の製造業全般の災害時SCMのあり方に示唆を与えるものとなった。
著者
市川 哲雄 誉田 栄一 矢儀 一智 南 憲一
出版者
徳島大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

アンケート調査でフレイル得点もオーラルフレイル得点も年齢とともに一様の増加傾向を示した.歯が悪いこと,唾液,食べこぼしがフレイル得点に関係していた.食生活と摂食行動は 40歳以降で適正な方向に推移した.オトガイ舌骨筋断面積と開口力,舌圧,嚥下の持続時間に比例し,筋量と咀嚼・嚥下機能との関連性が示された.咬合支持喪失群においては,速筋化が見られた.生体電気インピーダンス分析で,上腕と咬合力に相関が,舌圧は認められなかった.以上の結果,筋量関係が最も有効であり,バイオマーカーとしても筋量を示す指標が重要であり,当初予想した速筋,遅筋等の運動速度については指標になり得る知見は得られなかった.
著者
寺尾 裕
出版者
東海大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

流体中円柱のVIMを用いた発電装置で、低速流中の基礎研究を行った。これは流体中左右に振動する振子で、円柱上部にフープ式発電装置を組み込んだ。本システム性能把握のため、小型模型を製作、またその計測に新制作のData Loggerで、発電量とフープ運動を計測した。これより円柱の発電効率の良い配置を見出すことができた。またフープ式発電装置と、振動円柱は2重振子を構成し、その振子運動は強非線形復元力下での大振幅運動となる。その解析のため新たな振子運動方程式を構築、数値解析を行い、この運動系にはカオスが発生する発生領域が分かった。またカオス発生を制御すれば高性能の発電性能を発揮できる可能性がある。
著者
田中 祐次 西原 陽子
出版者
東京女子医科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

いくつかの患者、家族そして医師の間の会話文を解析した。そして、データを分析するためのいくつかのデータマイニングを組み合わせることができる統合環境のプロトタイプを完成させた。
著者
佐塚 隆志 春日 重光
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

種子高糖性のSugary Feteritaと種子低糖性の那系MS-3Bの雑種F2集団の分離比を調べた結果、種子高糖性は劣性の1遺伝子による支配であると予想された。ラフマッピングの結果、原因遺伝子は第7染色体長腕に座乗していることが示唆された。この候補領域にはスイートコーンの種子高糖性の原因遺伝子であり、デンプン合成系酵素をコードするSU1のオルソログ(SbSU1)が確認された。 SbSU1の塩基配列を両親品種で調べた結果、SbSU1では2ヶ所で1アミノ酸置換を引き起こす多型が見出され、他の植物のSU1との比較からSugary Feteritaのアリルが変異型と考えられた。Sugary Feteritaの原品種Feterita(種子低糖性)では、種子での貯蔵デンプン合成が盛んな開花後11日頃にSbSU1の高発現が確認された。これらのことから、Sugary Feteritaではこの変異によって種子でのデンプン合成に障害が生じ、糖が蓄積する可能性が示唆された。
著者
久保田 賢一 久保田 真弓 岸 磨貴子 今野 貴之 山本 良太 関本 春菜 鳥井 新太 井上 彩子 上館 美緒里 (山口 美緒里)
出版者
関西大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は、高等教育におけるグローバル人材を育成する学習環境をデザインするための要件を明らかにすることである。事例としてグローバルなフィールドで働く卒業生を多く輩出するX大学を取り上げ、卒業生に対する調査から現在とつながる学習環境について抽出した。結果、①大学入学前の学生個々の経験とグローバルなフィールドで働くことの接続、②本当にやりたいことの問い直しの機会、③意思を後押しする他者関係、④グローバルなフィールドで働くための領域設定と能力形成の機会、が学習環境として重要であることが示唆された。
著者
山崎 新太郎 田房 友典
出版者
北見工業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では沿岸水域における地すべり地形の発見と,地形から考えられる地すべりと津波の関係を分析するために,過去の浅深測量成果から疑わしい地形を調査し,さらにその調査を効率的に進めるためのシステムの開発を行った.特に,低コストで運用可能な高解像度ソナーやサイドスキャンソナーを持ち,リアルタイム走査位置を遠隔で受信し,さらに遠隔操作によって水域を網羅的に調査する無人船システムの開発に成功した.これにより,水底地形と底質の効率的な調査が可能になった.筆者らは,その調査システムの全部または一部を利用して,国内5箇所の水域を調査し,沿岸水域で発生した地すべりの地形および地質構造を複数確認した.
著者
永田 晴紀
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

著者らは、軸方向に多数の微小ポートを有する固体燃料のポート出口端面で微小拡散火炎群を保持する「端面燃焼式ハイブリッドロケット」を提案してきたが、燃料の製作が困難なため実証実験を見送って来た。近年の3Dプリンタの発展により複雑な燃料形状が製作可能となり、世界で初めて端面燃焼式ハイブリッドロケットの実証実験を実施した。燃焼実験の結果、初期の非定常期間を経て、燃焼中に燃料-酸化剤比が一定に保たれる定常燃焼への移行が確認された。ポート内径が0.2~0.5 mmの単ポート燃料試料を用いた燃焼実験も実施した。燃え広がり燃焼と安定燃焼の2つのモードが観察され、両モードを分ける臨界摩擦速度が確認された。
著者
中野 等
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は豊臣家・豊臣政権の文書論構築を目指したものである。秀吉の文書は単独で機能することもあるが、多くの場合奉行の副状あるいは奉書を伴っており、これらの副状や奉書が具体的かつ詳細に政権の指示を伝達することがある。本研究の大きな成果は単著『石田三成伝』(平成29年1月、吉川弘文館)の刊行である。また、平成28年9月に早稲田大学で実施された日本古文書学会での報告が、大きな成果としてあげられる。これは「豊臣政権の奉行発給・受給文書に関する一考察」と題して、政権論の中で大きな比重をしめてきたいわゆる「取次論」について、文書機能論の立場から再考を促すものである。
著者
羽田 康一 佐野 好則 山口 京一郎
出版者
東京藝術大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

紀元3世紀に2人のフィロストラトスが書いた『エイコネス』(絵たち)は古代エクフラシスの代表作である。本研究では、『エイコネス』各章の記述において、造形の伝統と文学の伝統がどのように混在しているかを精細に考察し、また各作品中の複数場面を明確に区別することに努めた。個々のモチーフや描法、構図が出現したおおよその年代を、場合によってはその特定の典拠まで、推定できる事例は多い。フィロストラトス『エイコネス』全80数章と、彫刻を扱ったカッリストラトス『エクフラセイス』全14章の翻訳註解に加え、エクフラシス、第二期ソフィストなどの問題についても考察し、さらに一部の章について再現図を制作した。
著者
佐藤 誠 赤羽 克仁
出版者
東京工業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

日本の重要な無形文化財である「あやつり人形」遣いの技能を特徴別に分類し、技能の記録、技能の難易度の数値化を行い、糸を使った芸術表現を提示するために年度ごとに設定された研究目標に向かって研究開発を行った。・平成26年度【生き生きとしたあやつり人形の要因の解明】・平成27年度【あやつり人形を工学的に再現】以上の研究開発を行い、操作性、有効性、実用性などの評価実験を行い、今後の課題を明らかにした。
著者
竹田 隆一 坂井 伸之
出版者
山形大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

初年度は実績概要について、(1)力学モデルと運動法則によって合理的な動作の原理を解明する。(2)理論に基づいた指導法を開発し、主に中学校体育で活用できる指導書を作成する。(3)外国人も理解できる指導書を作成する。の3項目を示した。これを踏まえ、昨年度は、(1)について、新たな知見を積み重ねることができた。具体的には、「多段階ブレーキ効果」と「下肢の支点移動」である。「多段階ブレーキ効果」は、初年度示した「ブレーキ効果」のい理論を更に深化させたもので、竹刀の振り下ろし時に、前方に移動する竹刀に、はじめに左手のブレーキがかかり、次いで右手のブレーキがかかる、つまり二重のブレーキが働くわけである。それによって、竹刀の先端に勢いがつき、速い振りとなるのである。また、「下肢の支点移動」とは、左脚で蹴り、右足で踏み込む(作用反作用効果)局面において、左脚の一点を支点にして、上肢が動くわけだが、そのとき、左脚の支点が移動しながら上肢が前方に移動することである。これによって、より勢いをつけて踏み込み運動が遂行されることがわかった。さらに、(2)については、物理学的理論を深める一方で、指導法の基礎について深めた。初年度は、①エレベーター効果を得るために、送り足を連続しておこなうこと。②上肢と下肢の作用・反作用効果を得るために、ギャロップ運動を利用すること。③打突運動においてブレーキ効果を得るために、実際に物を打つこと。を示したが、昨年度は、それらを検証し、さらに、「多段階ブレーキ効果」を効果的に遂行できることを目的に「跳ね上げ竹刀振り」の練習法を考察した。また、上肢と下肢の協応を効果的に練習できる「跳躍正面打ちからの面打ち」を効果的で有効な練習法と考察した。
著者
大津 由紀雄
出版者
慶應義塾大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

ことばへの気づき(メタ言語意識)を仲介として母語教育と外国語教育を言語教育として統合させる試みの暫定的とりまとめを行った。これまで、このような試みが体系的に成されてこなかった理由が、統合のための基盤となるべき、「ことば」という観点が決定的に欠けていることにあることがわかったことに基づき、どのような形で「ことば」という観点を学校教育に導入するべきであるかを検討した。さらに、教材の開発と授業実践を続けることによって、本研究の成果が学校教育の現場に直接役立つよう努力した。この作業のために、以前から交流のある小中高の先生との会合を重ね、その成果を「毎日小学生新聞」に「ヤバい!ことばの力」と題する連載として公表した。さらに、教員育成のためのカリキュラムの開発のため、夏と冬に教員のためのことばワークショップを主宰した。また、前年度に引き続き、現実の社会問題としての小学校英語の問題、および、高等学校英語の問題についても、上述の言語教育の視点から分析し、その成果を論文、単行本、講演会などの形で、広く知ってもらえるよう努力した。こうした研究成果のまとめの一環として、2010年に慶應義塾大学三田キャンパスにおいて、言語教育シンポジウム「」を企画し、理論と実践の両面から言語教育のあるべき姿を追求した。