著者
河田 興
出版者
香川医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

(目的)今日成人領域においては、パルス式色素希釈法の原理を用いたDDGアナライザ(DDG-2001日本光電工業社製)を用いて心拍出量や循環血液量といったパラメータを低侵襲で、採血することなしにベッドサイドで繰り返し測定することができ、ICUなど適切な循環管理が必要な場面で実際に臨床応用されている。しかし新生児では組織の測定に及ぼす影響が成人と異なることが予想され、パルス式色素希釈法の臨床応用はまだ行われていない。本研究では、新生児においてこの方法が応用可能であるかについて、新生児に応用し、臨床データを収集しその有用性の検討及び新生児の循環動態の生理学的特異性やその発達的変化を明らかにするとともに、この方法を臨床応用しNICUにおいて循環動態の適切な把握を行い、超低出生体重児や重症仮死児などの予後の改善に貢献することを究極の目的とするものである。(研究方法)新生児を用いた研究を行った。(対象および方法)出生体重503-3556g(平均1724g)の20例について日令0-129(平均24)に測定を行った。ICG(0.2mg-0.5mg/kg)を上肢の末梢より静注し、循環血液量、心拍出量の測定はDDGアナライザ(DDG-2001日本光電工業製)で測定をおこなった。(結果)循環血液量(平均±標準偏差)は101.5±31.1ml/kgであった。また心拍出量(平均±標準偏差)は192.0±81.6ml/kg/minであった。パルス式色素希釈法による循環血液量ならびに心拍出量の測定は新生児にも応用可能であり、この方法は新生児の適切な管理および治療を行うために循環動態等を把握する上で大変有用であると考えられる。この方法の新生児領域へ更なる普及が必要であると思われた。
著者
金子 守恵
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

アフリカの人々による「ものをつくり・つかう方法(=技術)」が製作者と利用者のものと身体を介したコミュニケーションにより創造され続けていることをライフヒストリー法により描いた。個々の製作者が身体を介して試行錯誤し環境と独自の関わり方を見いだしていること、その視点を技術文化複合に加える重要性を提示した。個々人の技術的な差異に積極的な価値を付与していく事が内発的発展を展開する可能性につながると提起した。
著者
石田 千晃
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、ICTが現代日本社会において苦境に陥りがちな人々やその支援者にどのように活用されており、どのような教育的実践が、既存のフォーマルな仕組み(それによる社会構造)を可視化・相対化する契機を含んでいるのかを、検証することを目的とした。主な調査対象は、1. ボランティア団体、NPO団体、2.ボランティアやNPO団体にプラットフォームを提供する事業組織で、活動内容(事業内容)、教育・学習実践、ICTの活用方法をインタビューやアンケート調査で聴取し、それぞれの位相における実態を明らかにした。1.2と学習活動の性質を比較するため、3.自身の教育実践も分析対象とした。
著者
川中 宣太
出版者
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

近年、PAMELAやFermiなどの観測を機に、宇宙線の電子・陽電子成分の起源とそのスペクトルの特徴を理論的に調べる研究が急速に進展している。申請者らは、もし超新星残骸において宇宙線が加速されているとすれば、その近傍に分子雲のような密度の高い領域があった場合、宇宙線陽子とガスとの相互作用によって陽電子が生成されるはずということに着目した。この陽電子が分子雲中で充分に冷却された場合、電子と対消滅する際に511keVライン光子が出ることが期待される。我々はこのライン光子の強度をFermiでガンマ線が確認されているような超新星残骸と分子雲について評価し、将来の観測で充分見える可能性があることを指摘した(Ohira et al. 2011a submitted)。このラインが見つかれば超新星残骸において陽電子がどれほど生成されているかを確実に知ることができると考えられる。また、我々は超新星残骸において加速された電子がどのように星間空間に逃走するか、その電子が作る放射スペクトルがどのような形になるかについても、加速中の放射によるエネルギー損失の影響も考慮に入れて調べた(Ohira et al. 2011b submitted)。これにより、宇宙線電子・陽電子源の有力な候補として考えられている超新星残骸から実際にどの程度電子が逃走できているかを知ることが可能になったと言える。また、超新星残骸とは別にガンマ線バースト(GRB)も宇宙線電子・陽電子の源として有力な候補とされている。このGRBが示す激しい光度変動は、相対論的なジェット中で起こる内部衝撃波で電子が非熱的な加速を受けたためと考えられているが、内部衝撃波が起こるようなジェットの非一様性の起源についてはまだ分かっていない。我々はGRBの中心エンジンとして星程度の質量のブラックホールとそれを取り巻く星程度の質量の高温降着円盤を考え、特にこれまで考えられていなかった円盤中の対流による円盤構造の変化について詳しく調べた。その結果、比較的低い質量降着率において円盤に不安定なブランチが存在することを示すことが分かった(Kawanaka & Kohri 2012)。この不安定性により円盤から駆動されるジェットの内部に非一様性が生まれたと考えられ、GRBの激しい光度変動に繋がったという仮説が成り立つ。
著者
天野 徹哉 玉利 光太郎 内田 茂博 伊藤 秀幸 田中 繁治 森川 真也
出版者
常葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では,人工膝関節全置換術(TKA)適用患者の身体機能と運動機能の測定を行い,(1)術後早期の機能回復を明らかにすること,(2)各機能の標準値について検討することを目的とした。本研究の結果より,術後14日目という短期間では,膝関節筋力・膝屈曲ROMと歩行速度は,術前機能まで回復しないことが明らかになった。また,各機能の関連因子を基に階級分けを行い,TKA前の身体機能検査と運動機能検査の標準値を算出した。本研究で得られた知見は,理学療法士が変形性膝関節症患者の機能低下を解釈する際の一助になるとともに,理学療法の効果判定をする際の目標値になると考える。
著者
折田 明子
出版者
中央大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、インターネット上で発生している相互扶助において匿名性が果たす役割に着目し、匿名性を是非ではなく構造的に理解することによってメリットを活用しデメリットを低減するための設計可能性を提示するものである。先行研究調査、事例調査、ユーザへのアンケート調査の結果から、匿名性を決定する要素である「リンク可能性」およびそれを扱う「レイヤ」に対する設計可能性が示唆された。
著者
川人 潤子 島崎 悠子
出版者
比治山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は,抑うつに関連する自己複雑性と知能の関連を明らかにし,個人の知能特性に応じた抑うつを改善するためのプログラムの開発および効果の検証を目的とした。大学生を対象とした研究の結果,知能のうち作動記憶ならびに肯定的自己複雑性への働きかけが抑うつ低減に影響する可能性が示唆された。さらに,うつ病患者を対象とした研究においては,知能のうち作動記憶や処理速度,さらに否定的自己複雑性への働きかけがうつ病の再発予防において重要である可能性が示唆された。これらのことから,抑うつ予防と再発予防において,知能のうち作動記憶や処理速度に応じた心理療法や心理教育が重要であると考えられた。
著者
中野 泰
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

成果は、現在検討中であるが、要点は以下のようにまとめられる。1.韓国全羅南道木浦においては鮮魚販売が中心であり、活魚については、現在においても競売制度は整備されてなく、活魚市場は存在しないと言える。だが、刺身団地では近隣地域から輸送された活魚の販売を行い、特にナクチやオドリと称するイイダコ・エビの生食が顕著である。2.木浦の活魚販売店は、ナクチを中心に通年の販売を行う傾向があり、ナクチ生産の中心地の一つ務安郡は、海岸部が湿地帯であるにも関わらず、その環境の構造的制約を越えてナクチ生産に特化している。3.務安郡で行われる儀礼については、村行事はキリスト教の影響により簡素化されているが、祖先祭祀については現在も良く行われている。4,ナクチの生食は朝鮮時代より行われ、ことわざも少なからず伝承され、身体強壮の意義を有している。ナクチは生食ではないが、古くから祖先祭祀にも供されてきた。エビの生食は、植民地時代に伝えられた漁業法により.捕獲され、オドリという日本語による命名がなされている。5.上記の生食は、現在でも、高価なため、日常ではなく、来客時や飲酒時などの非日常的な場に食される傾向がある。以上から、韓国における活魚市場の形成は、朝鮮戦争後に進み、南海岸の釜山が先駆け、木浦などの西南海岸、及び、束草市などの東海岸がそれに続いたものと考えられる。生食は、生産者の習俗として古くから行われている。東海岸の発酵食品(シッケ)やイイダコは朝鮮時代に遡る食文化であり、現在も食文化の地域性が明瞭に窺える,活魚市場の形成は、植民地時代にもたらされた日本漁業を支えにしてはいるが、生食が顕著な食習慣となった高度経済成長期以後と認められる。活魚生産に特化した生産者の生業や民俗文化の様相は、観光客に対応した漁民達の生活戦略の賜物と考えられる。
著者
BERTELLI Antonio
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

この3年間で、幕末・明治初期の日伊交流史に関する研究を大いに進めることができた。この研究の最終目的は幕末・明治初期の日本におけるイタリアの役割の重要性を理解し、明らかにすることである。イタリア(ミラノ、トリノ、ローマなど)や日本(東京、横浜など)で数多くの日本・イタリア関係未刊史料を発見し、収集することができた。これらの資料を学術専門書(現在執筆中)、研究論文、研究発表や講演会の準備に利用することができ、今後の研究課題にも大変役立つものもあると考えられる。
著者
馬場 健彦 南 博文 郭 維倫 李 素馨 姚 卿中 ヤン ポリフカ
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本課題は人口減少時代を前提とし、安心・安全な居住地運営を維持する為の要因を検討した。条件統制の為に中流向け集合住宅団地を対象とし、日本国内で2か所の参加調査を行った。また日本と文化や気候等の差異のある台湾・ドイツの住宅地にて調査を行った。日本の集合住宅団地の運営を担当する自治会は、台湾・ドイツと比較して、住民交流・親睦のソフトウェアにおいて優れていた。これは集会所等の充実した施設に支えられていた。台湾の行政単位「里」の運営はリーダー公選と参加自由度の高さの二点の特徴をもち、合理性が認められた
著者
天田 城介
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、アメリカ合衆国(以下、米国と記す)において様々な高齢者団体・組織からの要求や異議申し立てとそれに対応する当該政府の政治的判断・選択・交渉を通じて形成される<高齢者医療福祉制度>をめぐる政治を構築主義の視点から読み解きつつ、米国の高齢者はいかにして諸制度を利用し、またそれらが人々の語りによって表象されているのかを明らかにすることを通じて「米国の高齢者医療福祉制度における老いと死をめぐる表象の政治」を解明することである。平成19年度においては、米国においてインテンシブな調査研究ならびに研究報告を行なった。また、平成17年度・平成18年度に引き続き、米国ならびに日本における高齢者医療福祉制度に対する社会政策に関する資料分析を中心に進め、広範な先行諸研究の文献研究を行った。その具体的成果としては、第一に、研究の認識論的ベースを確定するにあたり、老いの哲学的・倫理学的研究を行なった。実際に、日本倫理学会第58回大会シンポジウム「老い」にてシンポジストとして報告したところである。その成果も『倫理学年報』で報告した。第二に、米国における老いの倫理や政策をめぐる議論を踏まえつつ、2006年10月29日に開催された第25回日本医学哲学・倫理学会大会のシンポジウムの報告の成果として『医学哲学 医学倫理』に論文としてまとめた。上記以外にも上記のような老いをめぐる倫理学的研究を下地に幾つかの論文を報告しており、現在、その集大成として米国における高齢者医療福祉政策をめぐる老いと死をめぐる表象の政治学をまとめているところである。
著者
松吉 大輔
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

これまでの視覚的ワーキングメモリ研究は、ヒトは常に3-4個の物体を保持できると仮定してきた。しかし、申請者の研究は、その仮定が必ずしも正しくない事を明らかにした。具体的には、従来3個程度の物体を保持できていた人であっても、大量の物体を呈示された場合には2個程度しか保持できなくなることを見出した。また、高齢者においてはそれがより顕著であり、通常は2個の物体が保持できるにもかかわらず、大量の物体が呈示されると、1個しか保持できなくなることが明らかになった。そして、この記憶不全は、頭頂葉ではなく後頭葉の活動低下により媒介され、頭頂葉から後頭葉への信号伝達の失敗に起因している可能性を示した。
著者
伊藤 陽子
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

これまでTALENをはじめ人工ヌクレアーゼの活性評価としては、培養細胞や受精卵を用いたin vivoアッセイが広く用いられてきた。しかし、in vivoアッセイのみではTALENタンパク質の性質を十分理解するのは困難である。そこでまず、活性のある組換えTALEN・TALEタンパク質を調整し、in vitroでのTALEN活性評価系を確立し、super-active TALENはDNA結合活性が高いことを明らかにした。更に、構造生物学的実験も行い、TALEタンパク質の高活性化機構を詳細に調べた。この様なin vitroでの活性評価は、更なる人工ヌクレアーゼ応用研究に貢献できると思われる。
著者
高橋 大輔
出版者
足利工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は「固体ヘリウム4に発現する低温物性異常が転位運動のみで理解できるか」の問題提起のもと,以下の手法で実施された。(1)転位運動による固体弾性変化がねじれ振子の共鳴周波数変化に与える影響の有限要素法を用いた定量的評価。(2)定常回転下における剪断・体積弾性率の直接測定。結果,(1)により固体弾性変化がねじれ振子の周波数変化を定量的に説明することが明らかになった。しかし,(2)より回転下の弾性率にねじれ振子実験で観測された回転数依存性を持つ固体ヘリウム4物性量の“量子化”は観測されなかった。本研究により,転位運動は固体ヘリウム物性異常のすべてを説明しないことが明らかになった。
著者
齋藤 佳菜子
出版者
三重大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012

IL-17は、癌周辺の炎症と血管増生を誘導することで癌細胞の増殖を促進する反面、細胞傷害性T細胞の活性化を介して腫瘍抑制的にも作用する。一方、癌の転移におけるIL-17の役割は殆ど明らかになっていない。癌の転移は「浸潤能の獲得」「浸潤」「血管内流入」「血中での生存」「血管外流出」「遠隔組織での増殖」のステップからなる。申請者はマウス乳癌自然転移株4T1をIL-17欠損マウス乳腺内に同所移植したところ、著明に肺転移が抑制されることを見いだした。そこで、本研究ではIL-17が転移のどの相に影響するか調べるために、4T1細胞を野生型およびIL-17欠損マウスにそれぞれ静脈内移入した。その結果、両群で生存に差を認めなかった。このことより、IL-17の肺転移促進作用は転移形成の早期(血管内流入まで)に何らかの作用を及ぼすと考えられた。次に、転移形成の早期段階での腫瘍環境について調べるために、担癌14日目および21日目に腫瘍組織を摘出し、コラゲナーゼ処理にて単細胞に分離し、フローサイトメトリーを用いて腫瘍浸潤細胞を解析した。その,結果14日目の時点で野生型とIL-17欠損マウスではCD11b+Ly6C+単球とCD11b+F4/80+マクロファージの比率が異なり、IL-17欠損マウスではF4/80マクロファージへの分化が遅れることが示唆された。21日目では両群ともF4/80+マクロファージが大部分を占めていた。また、腫瘍局所に浸潤するリンパ球を解析したところ、14日目の時点で1L-17欠損マウスにおいて明らかにFoxp3+制御性T細胞の浸潤が減少していた。同時に、所属リンパ節と脾臓細胞を解析したが、腫瘍局所と同様の結果が得られた。申請者は腫瘍浸潤マクロファージに着目し、このマクロファージの表面マーカーを解析した。その結果、IL-17欠損マウス腫瘍に浸潤するマクロファージは野生型に比べてCD206(mannose receptor)の発現が低く、class II発現が高く、よりM2マクロファージの性質を帯びていることが示唆された。これらの結果から、IL-17は腫瘍局所において、M2マクロファージへの分化を促進することで転移を促進する機序が示唆された(第71回日本癌学会学術総会ポスター発表)。
著者
高橋 雅樹
出版者
静岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本年度は、これまでに疑似結晶分子構造を有するアントラセン-ペリレンデンドリマーの光捕集分子機能を応用した「多チャンネル分子センサー」の基礎概念の確立を試みた。具体的には、ペリレンをコアに配し、その両末端に2残基のアントラセンを配したアントラセン-ペリレン連結体を「多チャンネル分子センサー」として構築し、その内部に発現するエネルギー捕集を伴った分子センサー機能の開発について検討を行った。まず、「アントラセン-ペリレン連結体」の基本部分であるアントラセン及びペリレン単体化合物のセンサー機能について検討を行った。各化合物の構造末端にセンサーのスイッチ機能の役割を果たすアミノ基を導入し、pH変化による蛍光発光強度の変化について検討した。その結果、各分子への塩酸を始めとした酸の添加により、アントラセン単体分子では約10倍、ペリレン単体分子では約2倍の発光強度の増加が認められ、アミノ基によるスイッチ機能が利用可能であることを確認した。つぎに、これらの発色団がアミノ基を介し結合した構造を有する「アントラセン-ペリレン連結体」について、pH変化による蛍光発光強度変化について検討を行った。励起波長をアントラセンの吸収領域に合わせ蛍光発光測定を行った場合、pH変化に関わりなく一定強度のペリレン発光を与える一方、励起波長をペリレンの吸収領域に合わせ観測を行った場合、pH変化に応じペリレンの蛍光発光強度が増減しセンサー機能の発現が認められた。以上のことから、「アントラセン-ペリレン連結体」は、測定に用いる励起波長に応じ、センサー機能と非センサー機能の使い分けが可能な「多チャンネル分子センサー」として有用なナノフォトニクス分子素子であることを明らかにした。
著者
池添 貢司
出版者
独立行政法人情報通信研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

霊長類の左右の眼それぞれに投影される外界の像の間には、ずれ(両眼視差)が生じる。両眼視差は奥行き知覚ための手がかりとなり、多くの視覚関連領野で処理される。本研究課題では、両眼視差情報の情報処理に関わる神経回路を解明するための計測技術として、げっ歯類などの小動物で用いられていた生体内2光子カルシウムイメージング法をサルの視覚野で確立した。この方法を用いてサルの一次視覚野細胞の、応答特性に基づいた空間的な配列を細胞レベルの分解能で明らかにし、論文発表を行った。
著者
坂井 南美
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

最近の研究で、低質量Class 0原始星近傍の化学組成に多様性があることがわかってきた。本研究では、その1つの典型であるWarm Carbon-Chain Chemistry(WCCC)天体に着目し、その起源と、Class I段階への進化について観測的に調べた。主な結果は以下のとおりである。まず、WCCC天体IRAS15398-3359の近傍に炭素鎖分子に恵まれる若い星なしコアLupus-1Aを発見した。もう一つのWCCC天体L1527にも同様の星なしコアTMC-1が存在することを考えると、この結果はWCCCが星形成時の速やかな収縮に起因していることを支持する。第2に、WCCC 天体L1527について、炭素鎖分子の分布をPdBI干渉計によって高空間分解能観測で調べた。その結果、炭素鎖分子の分布は原始星近傍に集中しており、CH_4の蒸発によってWCCCが引き起こされていることが確かめられた。さらに、原始星へ落ち込むガスの中にも炭素鎖分子が存在することがわかった。このことは、炭素鎖分子が原始惑星系円盤にもたらされる可能性を意味する。また、実際に進化の進んだClass I天体で、WCCCの進化形と考えられる天体を探したところ、実際にその候補をL1527の近傍に見出すことができた。本研究により、WCCC天体が原始惑星系円盤に向けてどのように進化するかという問題に対して、重要な知見を得ることができた。
著者
安藤 知子
出版者
上越教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

昨年度に引き続き、S県S市M中学校における観察調査を実施した。今年度は、隔週ごとに2〜3日のペースで訪問し、二つの観点から軸を設定して焦点化したデータ収集を行った。第一の観点は「地域教育改革」の影響である。S市では今年度から、市内中学校で通学区の弾力化(5月から9月までの間、転校を理由を聞かずに認める)を実施することになった。このため、特に1学年の学級経営計画で転校を想定せざるをえず、教育改革によって子どもに寄り添った教育実践が妨げられているという意識が若干観察された。この制度改革は、保護者が学校を主体的に選択する機会の導入によって、各学校が教育活動の特色を明確にし、保護者や地域住民との深い信頼関係を構築するよう意図するものであったが、現実には教職員の意識を変えるような契機にはなりえていないことがうかがわれた。第二の観点は、組織内部でのコミュニケーションの態様である。M中学校の場合には、多くの活動が計画的合理的に遂行されるというよりは、状況に応じてその場にいるメンバー間で臨機応変に解決される様子がうかがわれた。このことが、学校組織の役割規範を柔軟で解釈の幅のあるものにするため、個々の教員にとっては、〔子ども理解〕と〔学校の組織成員としての役割〕間での葛藤を引き起こさずに済むように機能しているものと考えられた。しかし、このような解釈の幅広さが反面では行動選択の難しさにつながる場合もあり、この点が課題でもあることが明らかになった。これらの研究成果のうち、第一の観点に関連して日本学校教育学会機関誌第19号で報告した。また第二の観点を含めて、教員個々人の意識や学校の組織文化等に着目した研究成果を大塚学校経営研究会等で発表しているが、この点については、今後さらに詳細な分析を進める予定である。
著者
猪瀬 昌延
出版者
信州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は可塑性のある造形素材を用いて触覚による表現の可能性を考察した。対象は生徒児童及びその保護者とし、研究期間内に5回のワークショップを行った。そこで明らかになったことは可塑材や泥素材に働きかけた自己を素材に写し取られた自己として鑑賞の対象とすることである。このことは自らの行為を客観的な対象として捉え直し認識することを可能にし、新たな自己の形成に関わるものであると考えられる。また、意思を直接写し取った触覚による表現を純粋に芸術表現活動と捉えることを可能にした。