著者
井原 伸浩
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、1970年代における日本の対東南アジア外交政策、とりわけ東南アジア諸国連合(the Association of Southeast Asian Nations: ASEAN)との協力関係を形成するため、いかなる外交的シグナルを日本政府が域内諸国に送ったかを分析した。とりわけ、1)現地の反日感情を校正する要因として、いかなるものがあったか、2)こうした反日感情を緩和するために、日本政府はいかなる取り組みを行ったか、を歴史的アプローチを用いて明らかにした。
著者
岩國 亜紀子
出版者
兵庫県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

つわりを持つ妊婦11名に、1日1回7日間、副交感神経機能を亢進させる足部マッサージと腹式呼吸(以下、本介入)を行った。本介入実施前後にVAS(Visual Analogue Scale)を用いて嘔気程度を測定した結果、全介入期間において6.2~12.8(9.3±2.7)の減少が見られた。加えて、リラックスや、体内の空気や血流の改善を感じて嘔気の軽減が見られたと捉えた妊婦は7名(63.6%)であった。これらより、本介入実施後に嘔気が軽減したことが明らかとなった。また、本介入実施後に収縮期血圧及び/又は脈拍数が低下したものは全実施回数72回の内、58回(80.6%)であった。加えて、副交感神経機能の亢進に伴う変化は10名(91.0%)より述べられており、足先・手・全身の温かさや、それに伴う足の冷えや全身の寒さの軽減、「気持ちがほどける、気持ちのよさ」など精神的落ち着き等が感じられていた。これらより、本介入によって副交感神経が亢進したことが推察された。本研究の妊婦には、交感神経機能が亢進していることが推察された妊婦と、両自律神経機能が亢進していることが推察された妊婦の2パターンが見られたものの、両自律神経機能が亢進した妊婦は少なく、パターンによって本介入の反応に違いは見られなかった。しかし、妊婦に見られるつわり症状には自律神経機能が大きく関与しており、妊婦の自律神経機能を査定することはつわり及びその効果的な対処法を解明する上で重要である。今後は、心拍RR間隔変動、尿中ノルアドレナリン濃度など客観的評価指標を用いて適切に自律神経機能の評価を行い、パターン査定項目の洗練及び本介入の反応の違いを明らかにする必要があると考える。
著者
松本 高太郎
出版者
帯広畜産大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

北海道十勝管内ののべ66 個体のエゾリスから、血液41 検体、脾臓29 検体、及び体表のノミ475 匹を採取した。エゾリスの血液及び脾臓からはリケッチア属細菌は検出されなかったが、種の同定が可能であったノミ342 匹のうち69 匹(20.2%)からリケッチアが検出された。4 種類の遺伝子の部分配列を決定し、これらは全てRickettsiafelisと近縁であった。また、ノミ15 匹からリケッチア属細菌の分離を試み、うち1 匹からリケッチア属細菌の分離に成功した。
著者
五十嵐 豊
出版者
日本医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

高出力のマイクロ波照射による脳損傷の病態はほとんど知られていないため、定量的にラットの脳にマイクロ波を照射する新しい脳損傷モデルを作製し、メタボローム解析を行った。照射1時間後にATPが照射前の0.3倍へ減少し、解糖系の代謝物の上昇がみられ、また多くのアミノ酸が増加した。照射直後より脳細胞へのエネルギーの供給が滞り、蛋白分解が進んだことから、微小血管の損傷による病態に近いと考えられた。高出力のマイクロ波による新たな脳損傷のモデルは、外傷性脳損傷のモデルより脳虚血に近い病態である可能性が示唆された。
著者
森 博世
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では、骨格筋萎縮性疾患に対するmyostatin siRNA(Mstn-siRNA)およびmyostatinの受容体であるactivin type IIB受容体の細胞外領域Fc融合タンパク (ActRIIB-Fc)の共投与による効果を検討した。共投与を行ったマウスは、それぞれの単独投与と比較して骨格筋重量と筋線維断面積の有意な増加とともに、myogeninの遺伝子発現の亢進および筋萎縮関連遺伝子であるMuRF-1 およびAtrogin-1 の発現低下を認めた。これらの結果より、Mstn-siRNAとActRIIB-Fcの共投与は骨格筋萎縮疾患の有効な治療法となる可能性が示唆された。
著者
大坪 亮介
出版者
大阪市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

今年度は、「現在までの進捗状況」の項で述べたように、研究の遂行に遅れが生じた。そうした状況ではあるが、高野山大学図書館にて『頼円師記』という資料を確認できたことは一つの収穫であった。本資料についての専論はないと見られる。その上、高野山大学図書館に複写依頼をしてから実際に複写物が届くまで、三ヶ月程度の期間を要したため、いまだ当該資料の詳細は明らかではない。本資料に記される頼円が、本研究で研究対象とする頼円その人かどうかという点にまで立ち返り、慎重に考察を進めていく必要がある。とはいえ、本資料は醍醐寺三宝院流に関わる記述を含む上、南朝天授三年(1377)の年号も見える。こうした記述は、先行研究で指摘される頼円をめぐる環境とも重なると思われる。以上から、本資料は従来あまり注目されてこなかった頼円に関わると思われ、本研究当初の目的である、一心院における文芸生成の実態に迫る上で有益な資料である可能性が高い。当該資料の分析と同時に、今後も関連資料の探索を進めていきたい。一方、本研究を着想する端緒となった『太平記』における真言関係記事に関しては、研究発表とそれに基づく論文刊行という成果が得られた。すなわち、従来出典が指摘されてこなかった『太平記』巻三十五「北野通夜物語」の説話が、実は弘法大師伝の一つ『高野山大師行状図画』を典拠としていることを明らかにした。さらに典拠の存在を視野に入れることにより、説話引用の文脈が浮かび上がってくることを指摘した。『高野大師行状図画』が『太平記』巻十二の説話の典拠であることは以前より知られていたが、新たに「北野通夜物語」でも該書の利用が明らかとなった。これは真言と『太平記』との関わりを考える上で注目すべき事例といえる。
著者
千田 有紀
出版者
武蔵大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、日米の性暴力への取り組みを、とくに暴力主体である男性に焦点をあて、調査、分析するものであった。「男性性」のあり方を理論的に検討したあとで、アメリカで行われている男性への暴力への取り組みを調査することによって、男性を暴力の「主体」としないためにどのようなプログラムが有効であり、何が必要とされているのかを考察した。とくに暴力の「予防」プログラムについての具体的な知見が得られたことは、重要な成果であった。
著者
鈴木 みゆき
出版者
兵庫医療大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

回復期脳卒中患者に対する排尿援助の実態を明らかにするとともに、入院中の筋肉量の変化量の意義を示し、入院中の筋肉量の変化量を用いて、トイレ排尿誘導を行っていることの評価をした。入院中のADLの変化に入院中の筋肉量の変化量が関係していることが明らかとなり、看護援助の評価指標として筋肉量の変化量を用いることができると確認した。トイレ排尿誘導を実施しているか否かにより、入院中の筋肉量の変化量に有意な違いは認められなかった。少数での検討であったため、今後データ収集を重ねるとともに、より積極的に意図した能動的動作を取り入れた排尿誘導法の検討が課題であることが明らかとなった。
著者
石井 雄隆
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は,コンピュータのキー入力ログを用いたライティングプロセス可視化コーパスの構築と英語学習者のライティングプロセスの解明である.はじめに,キー入力記録システムを用いて,学習者のライティングプロセスデータを収集し,英語学習者のキー入力ログ情報を含んだ学習者コーパスを構築する.その後,それらのデータにライティングの評価や品詞情報などのアノテーションを行う.最後に,完成したプロダクトに関する指標とライティング執筆中のプロセスの指標を用いて,プロセスとプロダクトの関係性や評価に寄与する特徴量などを調査し,英語学習者のキー入力ログを用いた新しいライティングプロセス研究の可能性を検討する.平成28年度は,データ収集を行う前にコーパスのデザインを詳細に検討した.具体的には,目標言語(モード,ジャンル,文体,トピック),タスク(データ採取,誘出,参考図書,時間制限)について検討し,また,学習者の情報として,性別,年齢,大学名・専攻・学年,資格(英語テストのスコア)の取得状況,英語学習歴,海外滞在歴,英語の使用頻度,作文を書くことに対する自信度を収集することを検討した.また,心理的な変数としてconcentration, time pressure, anxiety, stress, difficulty, interest, ability, motivationから構成されるタスク遂行に関する主観的困難度やライティングプロセスに関する質問紙を用いることなどを含め詳細にデザインを検討した.平成29年度は,データ収集に着手した.また収集したデータにおけるキー入力記録システムから得られた基本的な特徴量(総語数,初入力時間,一分あたりのキー入力数,一分あたりの語数,削除キーの打鍵数に基づいた一分あたりの推敲回数,前半/中盤/後半の推敲回数など)を計算し,基礎的な分析を終えた.
著者
渡部 邦昭
出版者
九州歴史資料館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、戦前期において軍事に関係する輸送を行っていた博多湾鉄道汽船および朝倉軌道という二つの地域交通事業者を取り上げ、軍事輸送がその経営にどのような意味を持っていたのかという点を明らかにした。具体的には、次の二点が判明している。一点目は、地域交通事業者が軍事輸送から得られる利益は、必ずしも常に大きいものではなかったという点である。二点目は、軍部や行政は軍事輸送の必要上、事業者にとっては採算性の低い輸送事業の実施を期待したが、その期待は事業者側も認識していたという点である。この二点から、軍事輸送に対する事業者と軍部の利害が、必ずしも一致しているとはいえないことを明らかにした。
著者
鈴木 建治
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、サハリン島で内耳土鍋(器体内部に環状の取っ手をもつ土器)が出現する時期について検討した。内耳土鍋研究は、北海道・サハリン島・千島列島におけるアイヌ文化の成立過程を考える上で、非常に重要な研究分野である。研究の結果、サハリン島で内耳土鍋が出現した時期は11世紀中頃から13世紀前半であることが判明した。
著者
竹田 修三 渡辺 和人 山本 郁男 山折 大
出版者
北陸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

米国において、大麻主成分のテトラヒドロカンナビノール(THC)はがん患者などでモルヒネが効かない重篤な痛み緩和の目的で投与される。本研究は、がん患者、特に乳がんに注目し、THCの臨床適正使用に向けた基礎研究である。THCは分子中に、女性ホルモンと類似した部分を有していた。女性ホルモンは乳がん増殖を促進したが、THCの共存下でその効果が消失した。低女性ホルモン条件下(閉経後乳がんモデル)でTHCを添加した場合、逆に増殖の促進が見られた。本研究により、THCは女性ホルモンと相互作用し、乳がん増殖に影響を与える可能性が示唆された。
著者
今村 信隆
出版者
京都造形芸術大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

ミュージアム(特に美術館)における声という問題を扱う本研究では、博物館学はもとより、美学・美術史や美術批評史といった幅広い分野にまたがる資料にあたる必要がある。本年度は、そのなかでも議論の出発点になると考えられる一七世紀フランスの絵画論を中心に精読を行い、問題点の整理を試みた。その結果、次の二点が明らかになってきた。第一に、当時の代表的な絵画理論家であるロジェ・ド・ピールとアンドレ・フェリビアンの対話編のなかで、話者たちの声、話しぶり、会話における洗練度などが、議論の運びそのものにも影響を与えるような重要な要素になっているということである。このうち、ド・ピールについてはすでにある程度の指摘をしたことがあるが、フェリビアンについても同様の指摘が可能であることが判明した。第二に、しかしその一方で、王立絵画彫刻アカデミーにおいて口頭で行われていたはずの「会議」においては、話者の声色や話しぶりといった要素は削減され、あくまでも文書として刊行することが目指されていくというプロセスが、明らかになった。アカデミーにおいては、口頭でのやり取りのなかにあった多様な意見の存在が整理され、批判とそれに対する反証というかたちで、統一の見解がもたらされようとしているのである。このことは、制度としてのアカデミーにも大いに関わる問題であり、同時に、美術作品をみるという制度としても、以後の鑑賞経験の土台になっていく出来事であると考えられる。上記の二点の関係については、現在、まとまった論考を準備しているところである。また、本研究の終着点にあたると思われる20世紀の美術批評史についても、本年度はクレメント・グリーンバーグを中心に再整理を試みた。特に、比喩としての「詩」が議論される個所において、朗読や声が本質的でないものの例示として語られていることが見いだされ、今後の研究の指針が得られたところである。
著者
黒崎 直子
出版者
千葉工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、血液中にあるエイズウイルス(HIV-1)が宿主であるヒトの死後、どの程度の期間感染力を有しているのかを検証し、また血液の死後変化(変性や腐敗)がその感染力の維持にどのように影響するのかを明らかにすることである。本年度は、温度条件や保存期間を複数のパターンに設定してHIV感染者の血液を保存し、溶血や変性を起こした血液中において、ウイルス感染が可能であるかについて検証した。具体的には、3種類の温度条件下(4℃,室温(22℃〜23℃),37℃)で保存したエイズウイルス感染血液中のウイルスタンパク質(HIV-1_<gag>p24)を経時的に定量した。その結果、室温保存の血中のウイルスタンパク質量は20日間増加しなかったが、37℃で保存した血中では1日目で一度増加するが、その後減少した。しかし、4℃で保存した血中では15日間に渡ってウイルスタンパク質量が増加し、その後20日目で減少した。つぎにウイルス感染血液を新鮮血液(ウイルス非感染血液)と接触(共培養)させて、新鮮血液にウイルスを感染させる二次感染モデルを作成し、保存血液からも二次感染が成立するか検討した。その結果、3種類の温度条件下で感染9日目までウイルスRNAが検出された。4℃で保存したウイルス感染血液は13日目でもウイルスRNAが検出された。以上のことから、ウイルス感染血液は複数の温度条件で保存された場合でも、感染能力を維持されることを示唆している。血液検体に存在するウイルス量により、本研究で行った保存期間より長期間感染能力を維持していることが考えられるので、司法解剖などの死後日数の経過した死体を解剖する際にもウイルス感染の危険性を十分注意する必要があると考えられる。
著者
小布施 祈恵子
出版者
神戸市外国語大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では1970年代に独自の布教方法によって多数の日本人信者を獲得されたとされる日本イスラム教団の活動内容を解明し、日本イスラーム受容史における同教団の活動の位置を検討した。その結果、同教団の活動にはイスラームの土着化・日本化と呼べる要素も見られるものの、教団設立者が「大先生」と呼ばれ「癒し」の役割を担っていたこと、教団が集団入信式など大規模な儀式を重視していたこと、ムスリムであることより教団への帰属意識が強調されていたことなどの点からむしろ同教団は「新宗教」として位置づけることができるのではないかとの結論に至った。
著者
戸次 加奈江
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究では、室内外の環境中で有害性が指摘されるイソシアネートについて、フィルターと個体捕集の組み合わせにより粒子及びガス状成分を対象とした新たな測定方法(GFF_SCX-DBAカートリッジ)を確立した。本手法について、イソシアネートの発生源を有する作業環境中での妥当性評価と,一般住宅での汚染実態調査を行ったところ、測定手法の精度及び安定性が確認され、一般住宅からは、イソシアン酸(ICA)、メチルイソシアネート(MIC)、プロピルイソシアネート(PIC)など揮発性の高い数種類のイソシアネートが検出された。
著者
御前 明洋
出版者
北九州市立自然史・歴史博物館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

白亜紀の軟体動物殻表面には付着生物化石が普通に見られることがわかった.ノストセラス科アンモノイドPravitocerasやDidymocerasの殻表面に高い頻度でナミマガシワ科二枚貝が付着していたことを明らかにし,その産状の解析から,これらのノストセラス科異常巻アンモノイドの古生態の推定を行った.大型アンモノイドに付着するベッコウガキ科二枚貝の産状より詳細な埋没過程を復元した.
著者
上野 淳也
出版者
別府大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

日本へ大砲(後装砲)が伝来した過程とその展開を明らかとする為、欧州・東南アジア及び国内で実測と金属サンプルの採取調査をおこなった。ロシア砲兵博物館では、大友宗麟のものとされる大砲の分析結果を発表し、フランス軍事博物館及び王立ベルギー軍事博物館では戦国武将藤堂高虎と佐竹義宣のものと考えられる和製大砲を発見した。国立マレーシア博物館ではイスラム砲の調査を、ポルトガル・スペインでは伝来大砲のルーツに関する調査を実施した。戦国時代の和製大砲は、西欧砲にルーツを持ち、伝播過程において東南アジアのイスラム系技術がこれに大きな影響を与えて成立したものである事を、理科学的な裏付けをもって説明できた。
著者
佐々木 浩雄
出版者
龍谷大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、15年戦争下に数多く創出され、国家的に奨励された集団体操に着目し、国民の体力向上や身体の規律化が、なぜ体操で、どのように行われようとしたかについて検討することを目的とした。研究を通じて、この時期に創案・実施された種々の体操を網羅的に示し、工場、農村、各種団体における体操普及の実相を、体操を普及・指導した人々の言説編成や文部省、厚生省および関係諸団体を中心とした戦時体制への動きとともに論じた。
著者
深田 淳太郎
出版者
三重大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では第二次大戦において海外に残された遺骨の収容活動の変遷と現在の状況を、フィールドワークを通して明らかにした。この変遷は、戦没者が「個人」と「集合的戦没者」の二つの側面の間を揺れ動いてきたものとして理解できた。戦没者を直接見知った世代が遺骨収集活動において求めたのは、自分の家族や友人という「個人」であった。一方で1990年代以降、直接の関係が無い世代が収集活動に関わるようになると、戦没者は集合的にあるいは「数字」として取り扱われる傾向が強くなった。近年DNA鑑定が導入され、再び「個人化」への揺り戻しが起こっているが、これはかつての誰かの家族や友人としての「個人」とは異なってきている。