著者
濱西 伸治 青木 良浩 和田 仁
出版者
宮城工業高等専門学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

まず,ヒトから計測可能な三種類の聴覚由来の生体反応を剣道の練習前後で測定した.その結果,DPOAEレベルは剣道の練習前後では有意な変化は見られなかった一方で,剣道の練習は,感覚細胞よりも脳の中枢により大きな影響を及ぼしていることが示唆された.また,FEM解析ソフトを用いて,面の打突部に打撃を与えたときの応力分布を解析した.その結果,打撃によって耳部よりも,頭頂部でのダメージが大きくなることが示唆された.
著者
大庭 伸也
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

大型ゲンゴロウ類の仲間の多くは絶滅の危機に瀕している。ゲンゴロウとクロゲンゴロウの個体数は減少しているが、それらの近縁種のコガタノゲンゴロウ(コガタノ)は増加傾向にある。諸形質について種間で比較したところ、コガタノは他の2種に比べ、①高温下で幼虫の生存率及び成長速度が高まること、②成虫は活発に飛翔すること、③地域間(本州から南西諸島)で遺伝的変異がほとんどないことが判明した。以上の結果から、近年の地球温暖化の影響でコガタノが増加し、成虫は高い移動分散能力を持つことから、過去に減少または絶滅した地域へと再定着していると考えられた。
著者
曽田 公輔
出版者
鳥取大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ベトナムの家禽群における鳥インフルエンザウイルスの流行を制御するために、流行ウイルスの家禽に対する病原性を評価する必要がある。本年度は前年度までに検証したウイルス株に加え、複数のベトナムの家禽由来のH5亜型高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)およびH6,9亜型の鳥インフルエンザウイルスのアヒルに対する病原性を検討した。さらに研究実施者の所属機関である鳥取大学における2017-18シーズンの国内の鳥インフルエンザ確定診断において分離されたH5亜型ウイルスについても同様の解析を行った。近年東アジア地域ではclade2.3.4.4に属するH5N6亜型ウイルスが家禽に浸潤しているが、その走りであるDuck/Vietnam/LBM751/2014株を接種したアヒルは6-8日目に死亡した。直近に日本国内で分離されたMute swan/Shimane/3211A001/2017を接種したアヒルは半数が接種後2週間生残した。一方でclade2.3.4.4 HPAIVの祖先にあたるclade2.3.4 HPAIVであるDuck/Vietnam/G12/2008 (H5N1)を接種したアヒルは2-3日で全羽死亡した。前年度の成績も合わせると、H5亜型HPAIVのアヒルに対する病原性は現在にいたるまで次第に減弱してきていることが示された。ベトナムで分離されたH6およびH9亜型の鳥インフルエンザウイルスを接種したアヒルは、ウイルス排出が認められた一方、2週間生残した。最終年度は上記の単独のウイルス接種試験の結果を基に、H5亜型HPAIVおよび鳥インフルエンザウイルスがアヒルに共感染した場合、すなわちベトナムの家禽で実際に起こっているウイルス感染状況をモデル化し、今後の防疫に有用な情報を得る予定である。
著者
木村 草太
出版者
首都大学東京
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

アメリカ法とドイツ法の研究から、平等権と平等原則の内容を整理した。また、アメリカの最高裁判所、ドイツの憲法裁判所の判例研究からこの分野の訴訟における道具立てを整理した。これらを前提に、非嫡出子の法定相続分、ムスリム情報収集事件、公務員の政治活動、憲法における外国人の地位、アメリカ憲法第14修正の最新判例、自治体間の平等、一票の格差、同性婚、夫婦別姓について研究し、その成果を論文まとめた。
著者
熊谷 奈緒子
出版者
国際大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

この研究はアジア女性基金を戦争責任のディスコースの中で位置づけることで、戦後65年余りを経ても今だに争点となっている戦争責任の性質、果たし方という問題の根底に横たわる要素を明らかにした。その要素とは、保守派、リベラル双方がそれぞれに持つ日本国の概念を基盤とした存在論的安心(ontologicalsecurity)が硬直化しているため、有意義な議論が行われていないということである。具体的には当研究はアジア女性基金による元「慰安婦」への官民共同の道義補償事業への評価を対象とした。アジア女性基金の「官民」共同での「道義的」補償という考えが各派の拠って立つ存在論的安心を脅かすと各派が警戒したため、客観的歴史事実に基づく対話(基金の各派の対話)でさえ困難になり、終にはアジア女性基金の官民共同の道義的補償事業の意義についての国内での合意が不可能になり、それによりアジア女性基金の道義的補償の信頼性に対して一部の元「慰安婦」と彼女らの支援団体が疑念を持ち、補償を拒否するという事態になったことを明らかにした。この研究には2つの学問的貢献がある。第一に、官民共同での道義的補償という国内的にも国際的にも新しい形での補償を提示したアジア女性基金の研究という未だ初期段階にある研究対象を扱い、第二に、戦争責任論争を国際人道規範の内包化過程と位置づけることによって、日本の戦争責任の問題を国際関係の枠組みの中で、具体的にはコンストラクティヴィズムの中における存在論的安心の概念の役割を通じて明らかにした。
著者
山中 千恵
出版者
仁愛大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究を通じて日本の戦争体験を描いたマンガやアニメが受容されるとき、作品の評価や作品の読書・視聴体験が、かならずしも各国における戦争の記憶や日本の歴史的問題と直接的にむすびつけられて語られるわけではないということが明らかになった。語りは、受容された国におけるマンガ・アニメ文化の位置づけと、読者の「メディア体験史」との関係から、異なるやり方で歴史意識と接続される。以上の結果から、今後の研究において、個人の記憶と集合的記憶の間にメディア体験それ自体が生み出す記憶という中間領域を想定し、考察を進める必要があることがわかった。
著者
松隈 浩之
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本年度は昨年に引き続き調査を行うとともに、調査結果にもとづいたコンテンツ制作を行った。●調査結果調査対象は前年と同様アヌシーアニメーション国際映画祭とし、前年の調査で不足していたマーケットやリクルートといったビジネス面にも比重をおいての調査とした。調査内容はアニメーション表現、手法の動向、各国の取り組み、3DCGの活用状況と今後の可能性を主としており、本研究院が刊行する紀要vol.8に報告資料として採択、掲載されている。結果として、世界のアニメーション業界における3DCGの需要は企業ベースのみならず、学生を含む個人単位でも確実に増加していることが判明した。一方で、日本における3DCGの受入状況は現場の作業環境から消費者の支持獲得に至るまで、浸透しているとは言えず、3DCGとどのように向き合っていくかが課題となっている。以上の点から、今回の3DCGによる新しい表現への取り組みの有用性を確信することができた。●制作日本の伝統的な光源を用いたフル3DCG映像作品を制作するにあたり、ベースとなる舞台を佐賀市三瀬村やまびこ交流館とした。本建造物は江戸時代より続く寄棟づくりによる農家を保存したものであり、障子や畳、漆喰の壁などによる日本の伝統的な光環境を有している。建造物内で撮影によりHDRパノラマ画像を採取し、イメージベースドライティングの技術を用いて3DCG内の光源へと変換、日本的なライティングを施したイメージを作成した。また、作品の題材を架空の妖怪による寸劇とし、ストーリー構成おこなった。日本らしさを有した作品に仕上がったと確信している。今後、同じ手法をベースにより多くの作品を制作し、本課題の有用性をさらに確固たるものへとしていきたい。
著者
吉田 綾乃
出版者
東北福祉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究の成果は以下の3点に集約される.1.ワーキングメモリキャパシティが乏しい者がピースミール処理を志向することは不適応に結びつく.2.キャパシティが乏しい者は対人認知においてカテゴリー依存型処理を行いやすい.3.キャパシティが豊富な者は認知資源が確保可能な場合にはピースミール処理を行うことができる.すなわち、ワーキングメモリキャパシティの個人差が対人的な情報処理過程において重要な機能を果たしていることが明らかになった.
著者
中山 寿子
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

小脳登上線維シナプス刈り込みへミクログリアが関与するか、関与するならばどのような機序であるかを明らかにする研究を行った。ミクログリアを枯渇させる薬剤または活性化を抑制する薬剤を小脳皮質に投与したマウスや、脳内のミクログリアが減少した遺伝子改変マウスを用いた実験から、登上線維が正常に1本化するためには生後2週目にミクログリアが存在することが必要であることを明らかにした。作用機序に関して、ミクログリアが不要な登上線維を貪食していないことを示唆する結果を得たほか、一本化に重要であることが既に報告されているシナプスの機能に作用することによって登上線維シナプスの発達を制御することを示唆する結果を得た。
著者
森 博世
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では、骨格筋萎縮性疾患に対するmyostatin siRNA(Mstn-siRNA)およびmyostatinの受容体であるactivin type IIB受容体の細胞外領域Fc融合タンパク (ActRIIB-Fc)の共投与による効果を検討した。共投与を行ったマウスは、それぞれの単独投与と比較して骨格筋重量と筋線維断面積の有意な増加とともに、myogeninの遺伝子発現の亢進および筋萎縮関連遺伝子であるMuRF-1 およびAtrogin-1 の発現低下を認めた。これらの結果より、Mstn-siRNAとActRIIB-Fcの共投与は骨格筋萎縮疾患の有効な治療法となる可能性が示唆された。
著者
森 健人
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

これまで博物館の収蔵標本は概ね科学の発展のために収集されてきたといっても過言ではない。しかし,博物標本は自然物である。自然物の役割は科学的研究活動にのみ限定されるべきなのであろうか。申請者はそうは思わない。芸術,エンターテイメントを含めあらゆる文化的創作活動に対しても自然物たる博物館標本は貢献できる可能性が秘められている。しかしながら,標本の保守管理上の制約から「誰でも」「自由に」博物館の標本にアクセスできる環境を構築するためには膨大なコストが必要となり,ただちにそれを実現することは不可能である。そこで博物館標本の3Dモデルが重要となってくる。3Dモデルを活用すれば,「誰でも」「自由に」閲覧する環境を比較的低コストで整えることができる。また,「博物館標本に自由にアクセスできる環境」に慣れていない一般観覧者に対しても「確実にクリーン」で且つ「損壊の恐れがない」3Dモデルとの接触は良い導入になると考える。上記を踏まえて,本研究ではフォトグラメトリー(写真測量)を用いて効果的に博物館標本を3Dモデル化する方法を検証し,如何にして公開するかを模索するものである。博物館標本の3Dモデルを公開する方法として申請者は3種の方法を考えた。1)インターネット上での3Dモデル閲覧サイトの公開,2)3Dプリントを利用した博物館内におけるハンズオン展示,3)3Dプリントを利用した博物館外におけるハンズオン展示。1)についてはYoshimoto3D(β)として国立科学博物館HP上にデータベースを掲載した(http://www.kahaku.go.jp/research/db/zoology/yoshimoto/database/index3D.html)。2)については複数の博物館で試験的に公開を行った。3)については現在「路上博物館」という館外展示を試験的に展開している。
著者
佐々木 哲也 中垣 慶子 佐栁 友規 真鍋 朋子
出版者
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ヒトの脳では、新生児から子供の時期にかけてシナプスが急速に増えた後、大人になるにつれて減っていく。自閉症患者の脳では、シナプスの刈り込みがうまくいかず、余分な神経回路が残っていると考えられている。私たちは霊長類であるマーモセットを使って自閉症の原因に迫ろうとしている。まずマーモセットの脳で「刈り込み」が起こっていることを確認し、さらにバルプロ酸を妊娠しているサルに与えて自閉症の症状を示す霊長類モデルを作り出すことに成功した。本研究では、その脳でシナプスの「刈り込み」が不十分であることを見つけた。ヒト自閉症脳の特徴を反映したサルを用いることで、新しい治療法の開発に貢献できると期待される。
著者
千田 有紀
出版者
武蔵大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、日米の性暴力への取り組みを、とくに暴力主体である男性に焦点をあて、調査、分析するものであった。「男性性」のあり方を理論的に検討したあとで、アメリカで行われている男性への暴力への取り組みを調査することによって、男性を暴力の「主体」としないためにどのようなプログラムが有効であり、何が必要とされているのかを考察した。とくに暴力の「予防」プログラムについての具体的な知見が得られたことは、重要な成果であった。
著者
鈴木 みゆき
出版者
兵庫医療大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

回復期脳卒中患者に対する排尿援助の実態を明らかにするとともに、入院中の筋肉量の変化量の意義を示し、入院中の筋肉量の変化量を用いて、トイレ排尿誘導を行っていることの評価をした。入院中のADLの変化に入院中の筋肉量の変化量が関係していることが明らかとなり、看護援助の評価指標として筋肉量の変化量を用いることができると確認した。トイレ排尿誘導を実施しているか否かにより、入院中の筋肉量の変化量に有意な違いは認められなかった。少数での検討であったため、今後データ収集を重ねるとともに、より積極的に意図した能動的動作を取り入れた排尿誘導法の検討が課題であることが明らかとなった。
著者
石井 雄隆
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は,コンピュータのキー入力ログを用いたライティングプロセス可視化コーパスの構築と英語学習者のライティングプロセスの解明である.はじめに,キー入力記録システムを用いて,学習者のライティングプロセスデータを収集し,英語学習者のキー入力ログ情報を含んだ学習者コーパスを構築する.その後,それらのデータにライティングの評価や品詞情報などのアノテーションを行う.最後に,完成したプロダクトに関する指標とライティング執筆中のプロセスの指標を用いて,プロセスとプロダクトの関係性や評価に寄与する特徴量などを調査し,英語学習者のキー入力ログを用いた新しいライティングプロセス研究の可能性を検討する.平成28年度は,データ収集を行う前にコーパスのデザインを詳細に検討した.具体的には,目標言語(モード,ジャンル,文体,トピック),タスク(データ採取,誘出,参考図書,時間制限)について検討し,また,学習者の情報として,性別,年齢,大学名・専攻・学年,資格(英語テストのスコア)の取得状況,英語学習歴,海外滞在歴,英語の使用頻度,作文を書くことに対する自信度を収集することを検討した.また,心理的な変数としてconcentration, time pressure, anxiety, stress, difficulty, interest, ability, motivationから構成されるタスク遂行に関する主観的困難度やライティングプロセスに関する質問紙を用いることなどを含め詳細にデザインを検討した.平成29年度は,データ収集に着手した.また収集したデータにおけるキー入力記録システムから得られた基本的な特徴量(総語数,初入力時間,一分あたりのキー入力数,一分あたりの語数,削除キーの打鍵数に基づいた一分あたりの推敲回数,前半/中盤/後半の推敲回数など)を計算し,基礎的な分析を終えた.
著者
渡部 邦昭
出版者
九州歴史資料館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、戦前期において軍事に関係する輸送を行っていた博多湾鉄道汽船および朝倉軌道という二つの地域交通事業者を取り上げ、軍事輸送がその経営にどのような意味を持っていたのかという点を明らかにした。具体的には、次の二点が判明している。一点目は、地域交通事業者が軍事輸送から得られる利益は、必ずしも常に大きいものではなかったという点である。二点目は、軍部や行政は軍事輸送の必要上、事業者にとっては採算性の低い輸送事業の実施を期待したが、その期待は事業者側も認識していたという点である。この二点から、軍事輸送に対する事業者と軍部の利害が、必ずしも一致しているとはいえないことを明らかにした。
著者
宇都宮 由佳
出版者
大妻女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

東アジアの人々にとって,ポルトガル伝統菓子から最も影響を受けたことは菓子に卵を使用することであった.日本・タイ・ゴア(インド)には,Fios de ovos(鶏卵素麺)が共通して伝播していたことが明らかとなり,ポルトガル最初の料理書「Arte de Cozinha」(1680年)には「Fios de Letria」と記載されていた.ゴアではLetriaと呼ばれ,ポルトガル系キリスト教徒の家庭で母から娘に作り方が伝えられていた.日本では,福岡藩の御用菓子だったため,広く知られていなかったが,タイでは,宮廷から上流階級そして庶民へと広まり,さらにアレンジされたものが作られていた.
著者
荒川 友博
出版者
摂南大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

セレンは酸化ストレス防御系において重要な役割を演じている必須微量元素である。本研究では、セレンによるストレス制御がアレルギー性疾患に与える影響を検討した。その結果、食品中に多く含まれるセレン化合物であるセレノメチオニンの投与が即時型および慢性皮膚アレルギー反応を抑制することを明らかにした。また、セレン欠乏状態によって、即時型および慢性皮膚アレルギー反応が増悪化することを明らかにした。
著者
大坪 亮介
出版者
大阪市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

今年度は、「現在までの進捗状況」の項で述べたように、研究の遂行に遅れが生じた。そうした状況ではあるが、高野山大学図書館にて『頼円師記』という資料を確認できたことは一つの収穫であった。本資料についての専論はないと見られる。その上、高野山大学図書館に複写依頼をしてから実際に複写物が届くまで、三ヶ月程度の期間を要したため、いまだ当該資料の詳細は明らかではない。本資料に記される頼円が、本研究で研究対象とする頼円その人かどうかという点にまで立ち返り、慎重に考察を進めていく必要がある。とはいえ、本資料は醍醐寺三宝院流に関わる記述を含む上、南朝天授三年(1377)の年号も見える。こうした記述は、先行研究で指摘される頼円をめぐる環境とも重なると思われる。以上から、本資料は従来あまり注目されてこなかった頼円に関わると思われ、本研究当初の目的である、一心院における文芸生成の実態に迫る上で有益な資料である可能性が高い。当該資料の分析と同時に、今後も関連資料の探索を進めていきたい。一方、本研究を着想する端緒となった『太平記』における真言関係記事に関しては、研究発表とそれに基づく論文刊行という成果が得られた。すなわち、従来出典が指摘されてこなかった『太平記』巻三十五「北野通夜物語」の説話が、実は弘法大師伝の一つ『高野山大師行状図画』を典拠としていることを明らかにした。さらに典拠の存在を視野に入れることにより、説話引用の文脈が浮かび上がってくることを指摘した。『高野大師行状図画』が『太平記』巻十二の説話の典拠であることは以前より知られていたが、新たに「北野通夜物語」でも該書の利用が明らかとなった。これは真言と『太平記』との関わりを考える上で注目すべき事例といえる。
著者
夏目 琢史
出版者
国士舘大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成29年度は、遠江国井伊谷と彦根藩等の交流を中心に分析を進めると同時に、新たに確認した井伊谷町中井家文書(個人蔵)の調査を中心に実施した。前者については、とくに近世後期の彦根系譜方の動向に着目し、彼らが井伊谷でどのような歴史調査を実施していたのかについて具体的に明らかにしていった。そのなかで、井伊谷だけではなく、周辺の地域(引佐地方を中心とする)の旧家の協力を得て、遠江井伊氏についての調査が進められていった点が確認されたことには一定の意味があった。つまり、こうした旧家のなかには、地元に史料を残すものがあり(東光院・中井家など)、彦根藩側の史料と地元にのこる史料の双方から裏づけることができた。彦根藩の系譜方による由緒向調査が、遠江国井伊谷周辺(旗本近藤氏領)の地域社会に少なからず影響を与えている点は注目される。後者の点については、新たに確認された井伊谷町中井家文書(引佐町史収録分とは別)の目録作成を進めることができた。この史料群は近世中期の史料が大半を占めており、なかには日記などのまとまった記録もみられ、今後の研究の進展が大いに期待されるところである。とくに、これまでほとんど確認されていなかった中井家が井伊谷の本陣をつとめていた際の史料がみつかった点は重要である。中井家は、近世後期になると遠江井伊氏の歴史研究を進めていくが、その背景にどのような要因があったのか、引き続き、この史料群の調査を進めていく予定である。平成29年度は、ひとまず、こうした研究を進めていくうえでの基礎となる目録作成作業を重点的におこなった。