著者
高橋 沙奈美
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成29年度は、これまで調査してきたサンクト・ペテルブルグの聖クセーニヤについて、査読誌に論文を投稿し、掲載された。また、最後の皇帝ニコライ二世一家殺害事件に対するソ連国内での歴史認識を明らかにし、一家に対する崇敬について調査した。この結果について、国際学会で報告することができた。12月にはアメリカのシカゴ主教区とニューヨーク州の在外ロシア正教会聖シノド・アルヒーフ、およびジョルダンビリーの聖三位一体修道院の図書館で調査を行うことができた。シカゴでは、在外教会におけるニコライ二世一家列聖に関わった司祭の妻に話を聞くことができた。また、彼女自身が1970年代にツーリストとしてレニングラードの聖クセーニヤの墓を訪れた経験についても明らかになった。聖シノドおよび聖三位一体修道院での資料集では、クロンシュタットの聖イオアン神父、聖クセーニヤ、皇帝一家の崇敬と列聖に関する大量の一次資料および、新聞・雑誌記事を手に入れることができた。在外教会が列聖に踏み切るに至った経緯として、在外教会を本国のロシア教会に従属するものではなく、真のロシア教会と考えた府主教フィラレート(ボズネセンスキー)が指導者となったことが、重要な意味をもっていたことを明らかにした。また、イオアン神父やクセーニヤの列聖に向けては、一般信徒からなる兄弟会/姉妹会がイニシアティブを取って、奇跡譚を収集し、イオアンやクセーニヤの文化的表象の造形に大きく貢献していたことがわかってきた。一方の皇帝一家の列聖に関しては、歴史認識が大きな問題となった。皇帝一家の運命をどのように表象し、普及するかという問題が極めて重要であり、これに高位聖職者や知識人などのロシア人ディアスポラのエリートが大きく関わっていたことが、さまざまな資料から明らかになってきた。
著者
杉本 晃久
出版者
統計数理研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

我々は,edge-to-edgeタイル張り内でn個のタイルが1点に会する点をn価の集結点と呼ぶことにする.凸五角形タイル張り問題に関して,私はタイル張り内の集結点の性質に注目して研究を進めている.ここで,五角形で構成されたedge-to-edgeでかつnormalであるタイル張りをTとする.このとき,五角形タイル張りT内のそれぞれの五角形が同数の2種類の集結点(m個の3価集結点と5-m個のk価集結点)で構成されていると仮定すると,その五角形タイル張りTは4価と3価集結点((m,k)=(3,4))のみで出来ている場合か6価と3価集結点((m,k)=(4,6))のみで出来ている場合しか存在しないと証明した.球面上の円である球帽を用いた最密充填問題(Tammesの問題)の球帽個数N=10〜12に関して,私独自の系統的な方法で得た結果をまとめ,論文として発表した(その結果,N=1〜12に関して,私の方法で求めた結果とTammesの問題の解が完全に対応しているという興味深い事実を見いだした).とくにN=10に関して,いままでDanzerによって球帽の角直径が[1.154479,1.154480]と範囲のみで示されていたが,私は閉じた解(数式)を示した(私は約3年前に初めてN=10の場合の閉じた解を得たが,その数式はかなり長いものであった.本年度,私は3年前に得られた結果を再考し,以前と比べ格段に短い数式を導き出すことに成功しそれを発表した).
著者
小泉 元宏
出版者
鳥取大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、近年急増するアートプロジェクト(AP)を事例に、その地域社会における社会的・文化的影響を、アーティストやAPに関わる市民の社会関係に関する調査から研究してきた。結果、APが、人々の暮らしに密接に関わった場合、市民が潜在的に持つ多様な技能や知識を引き出し、それが市民も交えた新たな文化・社会活動を生むきっかけとなりうることが示された。しかし創造性を持った人々に対する地域活性化に向けた過度な期待は、時にAPにおける市民の役割に目を向けることを阻む場合もあり、既存の創造階級論の見直しの必要性が示唆された。以上の成果は国際学会報告・国際誌への論文投稿等を通じて積極的に国内外に発表している。
著者
臼田 春樹 和田 孝一郎 岡本 貴行 田中 徹也 新林 友美
出版者
島根大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

腸粘膜バリアの慢性的な低下(leaky gut syndrome: LGS)は全身疾患の発症に深く関与することが示唆されている。しかし、ヒトに使用可能で適切にLGSを評価する方法は確立していない。本研究では、軽度、中等度、重度のLGSを呈するマウスモデルを確立し、これらを用いてLGSの新規診断指標(試薬K)を確立した。また、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)とクローン病を誘発したマウスでは、発症初期の段階でLGSが生じることが試薬Kによって判明した。特にクローン病の小腸ではLGS状態と炎症の両方に関連する内因性因子の発現が増加しており、LGSがクローン病の発症に関与する可能性が示唆された。
著者
東村 泰希
出版者
石川県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

低亜鉛血症は大腸がん発症のリスクとされているが、その分子機序は明らかでない。大腸がんの発症には慢性的な腸管炎症が関与する。申請者が施行した先行研究より、macrophage(Mph)において、細胞内亜鉛濃度の変化に伴い、インターフェロン応答型転写因子であるIRF5の細胞内局在が変化することを見出している。しかし、腸管炎症や大腸発がん過程におけるIRF5 の機能に関しては不明であった。申請者は本課題において、Mphが亜鉛欠乏状態に陥ることで、①IRF5の核内移行が促進→②炎症性サイトカインIL23p19の発現亢進→③炎症性リンパ球であるTh17の活性化→④大腸炎の増悪、という現象を明らかにした。
著者
細川 まゆ子
出版者
順天堂大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

近年、アジアの地方部では骨フッ素症以外の健康被害として飲料水を介してフッ素を大量に摂取している児童のIQが低下した報告がある。そこで本研究では、児童のIQ低下が認められた濃度と同程度のフッ素(5、25、50 ppm)を飲料水に混ぜ妊娠期のICRマウスと離乳後の仔に自由摂取させ、記憶学習能力に影響を及ぼすかを検討した。胎児期のフッ素投与により、雌雄共にY-mazeとBarnes迷路の結果から認知機能の低下が示唆された。また、高架式十字迷路では、雄のみ対照群に比べ全ての群でオープンアームへの滞在時間が長かったことから不安感を示さなかった事が考えられ、交感神経系への影響が示唆される。
著者
田中 真一
出版者
神戸女学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、名古屋方言の韻律構造(リズム・アクセント・イントネーションの構造)を明らかにすることを目標とし、一般言語学的観点からの調査および分析を行った。その結果として、アクセントおよびピッチに、種々の音韻構造が関与することを明らかにした。また、フィールドワーク調査による名古屋方言の録音の作業を通して、方言音声の記録という性格を持たせることを目標とした。
著者
佐々木 哲也 中垣 慶子 佐栁 友規 真鍋 朋子
出版者
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ヒトの脳では、新生児から子供の時期にかけてシナプスが急速に増えた後、大人になるにつれて減っていく。自閉症患者の脳では、シナプスの刈り込みがうまくいかず、余分な神経回路が残っていると考えられている。私たちは霊長類であるマーモセットを使って自閉症の原因に迫ろうとしている。まずマーモセットの脳で「刈り込み」が起こっていることを確認し、さらにバルプロ酸を妊娠しているサルに与えて自閉症の症状を示す霊長類モデルを作り出すことに成功した。本研究では、その脳でシナプスの「刈り込み」が不十分であることを見つけた。ヒト自閉症脳の特徴を反映したサルを用いることで、新しい治療法の開発に貢献できると期待される。
著者
羅 成圭
出版者
福岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

血中ビタミンD濃度が高いと持久力(有酸素性運動能力)が高いということが知られている。持久力には骨格筋のミトコンドリアが重要である。そこで我々は、ビタミンDと運動が骨格筋のミトコンドリアに及ぼす影響を検証した。ビタミンDを含まない食餌で実験動物を9週間飼育すると、骨格筋のミトコンドリア新生の指標であるPGC-1αや分裂の指標となるDrp1が減少した。しかし、融合にかかわるOPA1や品質管理にかかわるParkinは変化しなかった。一方で、通常の食餌で飼育した実験動物に運動トレーニングをおこなうと、骨格筋のビタミンD受容体が増加し、運動が骨格筋へのビタミンDの作用を高める可能性が示された。
著者
南宮 湖
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

2009年に出現した新型インフルエンザウイルス(A/H1N1/pdm)では、肥満患者における重症化の病態が新たに注目された。また、近年、肥満における慢性炎症とその免疫機構が注目されており、本研究では、肥満マウスウスモデルを用いて免疫学的検討を行い、インフルエンザウイルス感染において肥満が病態を重症化させる機序に迫ることを目的とした。肥満モデルマウスにインフルエンザウイルス(A/H1N1/PR8)を感染させると、通常マウスと比較して、有意に生存率が低下し、顕著な体重減少を認めた。感染後1日目、3日目、5日目でそれぞれ、気管支肺胞洗浄液中のウイルス量の増加が見られた。また気管支肺胞洗浄液の上清及び血清中の炎症性サイトカイン(TNFα,IFNγ)が、感染後1日目では、肥満モデルマウス群で低下していたのに対し、感染後5日目では、肥満モデルマウス群で顕著に上昇していた。また、肥満モデルマウスの病理組織を観察すると、インフルエンザウイルス感染前の定常状態で、気管支周囲に脂肪組織を認め、インフルエンザウイルス感染5日目には、気管支周囲に認めた脂肪組織の周辺に顕著な炎症細胞浸潤が見られた。以上より、肥満モデルマウスにおいて、感染初期では、免疫応答が惹起されず、インフルエンザウイルスが、より増殖していく一方で、感染後期においては炎症が遷延することで、病態の重症化に寄与していることが示唆された。今後、形質細胞様樹状細胞からのI型インターフェロン(IFNα.β)産生やマクロファージからの炎症性サイトカイン産生に注目して、肥満モデルマウス群で、インフルエンザウイルスの重症化機構に関して更なる解析を続けていく予定である。
著者
高橋 大輔
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究では、発症初期の未治療の関節リウマチ患者の腸管内において、腸内細菌が食物繊維を資化して産生する短鎖脂肪酸の1つである酪酸が顕著に低いことを明らかにした。さらに、酪酸がマウスの自己免疫性関節リウマチモデルの発症を抑制することを見出した。酪酸は、濾胞制御性T細胞数を増加させ、関節炎の発症に必要な自己抗体の産生を抑制していた。さらに、新規に濾胞制御性T細胞培養系を開発し、酪酸による濾胞制御性T細胞の分化誘導メカニズムを検証した。その結果、酪酸はそのヒストン脱アセチル化酵素阻害作用を介して、分化に重要な転写抑制因子Bcl-6の発現を誘導することでその分化を促進していることを明らかにした。
著者
山際 晶子
出版者
北海道開拓記念館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の調査で明らかとなった18件の「義経蝦夷渡伝説図」を一覧に整理した。そのうえで、各図を絵の内容ごとに三つのグループに分類した。すなわち、蝦夷地に渡る義経一行を描いた図、義経一行と蝦夷人の合戦を描いた図、義経と彼に敬意をはらう様子のアイヌを描いた図、の三つである。この三つ目のグループに属する作例は、主に、北海道と関わりの深い作者の手によるもの、北海道の神社に所蔵されるものであり、この図は北海道で独自に発展し、定型化したとみられる。さらに画像の分析から、この図は、義経以外の伝説的な人物を描いた図を参考にして、生み出された可能性が高いことが明らかとなった。
著者
村山 綾
出版者
近畿大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では、(1)宗教性の程度によって、不運に対する公正推論(公正な世界の存在を求めるがために行う、「悪いことをしたら必ず罰を受ける」に代表されるような非合理的な推論)のしやすさに関する文化差が説明できるのか、(2)公正推論と時間認識との関連を検討した。そして、(1)日本人はアメリカ人よりも宗教への熱心さや信仰心が低く、遠い未来の補償をもって現状の不公正を回復しようとする推論を行いにくいことが示された。また、日本人では、現在に対してポジティブな印象を持つ若者と高齢者、および、将来の見通しを立て、未来に向かって計画的に行動しようとする高齢者において、究極的公正推論が行われやすいことが示された。
著者
中山 寿子
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

小脳登上線維シナプス刈り込みへミクログリアが関与するか、関与するならばどのような機序であるかを明らかにする研究を行った。ミクログリアを枯渇させる薬剤または活性化を抑制する薬剤を小脳皮質に投与したマウスや、脳内のミクログリアが減少した遺伝子改変マウスを用いた実験から、登上線維が正常に1本化するためには生後2週目にミクログリアが存在することが必要であることを明らかにした。作用機序に関して、ミクログリアが不要な登上線維を貪食していないことを示唆する結果を得たほか、一本化に重要であることが既に報告されているシナプスの機能に作用することによって登上線維シナプスの発達を制御することを示唆する結果を得た。
著者
曽田 公輔
出版者
鳥取大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ベトナムの家禽群における鳥インフルエンザウイルスの流行を制御するために、流行ウイルスの家禽に対する病原性を評価する必要がある。本年度は前年度までに検証したウイルス株に加え、複数のベトナムの家禽由来のH5亜型高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)およびH6,9亜型の鳥インフルエンザウイルスのアヒルに対する病原性を検討した。さらに研究実施者の所属機関である鳥取大学における2017-18シーズンの国内の鳥インフルエンザ確定診断において分離されたH5亜型ウイルスについても同様の解析を行った。近年東アジア地域ではclade2.3.4.4に属するH5N6亜型ウイルスが家禽に浸潤しているが、その走りであるDuck/Vietnam/LBM751/2014株を接種したアヒルは6-8日目に死亡した。直近に日本国内で分離されたMute swan/Shimane/3211A001/2017を接種したアヒルは半数が接種後2週間生残した。一方でclade2.3.4.4 HPAIVの祖先にあたるclade2.3.4 HPAIVであるDuck/Vietnam/G12/2008 (H5N1)を接種したアヒルは2-3日で全羽死亡した。前年度の成績も合わせると、H5亜型HPAIVのアヒルに対する病原性は現在にいたるまで次第に減弱してきていることが示された。ベトナムで分離されたH6およびH9亜型の鳥インフルエンザウイルスを接種したアヒルは、ウイルス排出が認められた一方、2週間生残した。最終年度は上記の単独のウイルス接種試験の結果を基に、H5亜型HPAIVおよび鳥インフルエンザウイルスがアヒルに共感染した場合、すなわちベトナムの家禽で実際に起こっているウイルス感染状況をモデル化し、今後の防疫に有用な情報を得る予定である。
著者
熊谷 奈緒子
出版者
国際大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

この研究はアジア女性基金を戦争責任のディスコースの中で位置づけることで、戦後65年余りを経ても今だに争点となっている戦争責任の性質、果たし方という問題の根底に横たわる要素を明らかにした。その要素とは、保守派、リベラル双方がそれぞれに持つ日本国の概念を基盤とした存在論的安心(ontologicalsecurity)が硬直化しているため、有意義な議論が行われていないということである。具体的には当研究はアジア女性基金による元「慰安婦」への官民共同の道義補償事業への評価を対象とした。アジア女性基金の「官民」共同での「道義的」補償という考えが各派の拠って立つ存在論的安心を脅かすと各派が警戒したため、客観的歴史事実に基づく対話(基金の各派の対話)でさえ困難になり、終にはアジア女性基金の官民共同の道義的補償事業の意義についての国内での合意が不可能になり、それによりアジア女性基金の道義的補償の信頼性に対して一部の元「慰安婦」と彼女らの支援団体が疑念を持ち、補償を拒否するという事態になったことを明らかにした。この研究には2つの学問的貢献がある。第一に、官民共同での道義的補償という国内的にも国際的にも新しい形での補償を提示したアジア女性基金の研究という未だ初期段階にある研究対象を扱い、第二に、戦争責任論争を国際人道規範の内包化過程と位置づけることによって、日本の戦争責任の問題を国際関係の枠組みの中で、具体的にはコンストラクティヴィズムの中における存在論的安心の概念の役割を通じて明らかにした。
著者
山中 千恵
出版者
仁愛大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究を通じて日本の戦争体験を描いたマンガやアニメが受容されるとき、作品の評価や作品の読書・視聴体験が、かならずしも各国における戦争の記憶や日本の歴史的問題と直接的にむすびつけられて語られるわけではないということが明らかになった。語りは、受容された国におけるマンガ・アニメ文化の位置づけと、読者の「メディア体験史」との関係から、異なるやり方で歴史意識と接続される。以上の結果から、今後の研究において、個人の記憶と集合的記憶の間にメディア体験それ自体が生み出す記憶という中間領域を想定し、考察を進める必要があることがわかった。
著者
松隈 浩之
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本年度は昨年に引き続き調査を行うとともに、調査結果にもとづいたコンテンツ制作を行った。●調査結果調査対象は前年と同様アヌシーアニメーション国際映画祭とし、前年の調査で不足していたマーケットやリクルートといったビジネス面にも比重をおいての調査とした。調査内容はアニメーション表現、手法の動向、各国の取り組み、3DCGの活用状況と今後の可能性を主としており、本研究院が刊行する紀要vol.8に報告資料として採択、掲載されている。結果として、世界のアニメーション業界における3DCGの需要は企業ベースのみならず、学生を含む個人単位でも確実に増加していることが判明した。一方で、日本における3DCGの受入状況は現場の作業環境から消費者の支持獲得に至るまで、浸透しているとは言えず、3DCGとどのように向き合っていくかが課題となっている。以上の点から、今回の3DCGによる新しい表現への取り組みの有用性を確信することができた。●制作日本の伝統的な光源を用いたフル3DCG映像作品を制作するにあたり、ベースとなる舞台を佐賀市三瀬村やまびこ交流館とした。本建造物は江戸時代より続く寄棟づくりによる農家を保存したものであり、障子や畳、漆喰の壁などによる日本の伝統的な光環境を有している。建造物内で撮影によりHDRパノラマ画像を採取し、イメージベースドライティングの技術を用いて3DCG内の光源へと変換、日本的なライティングを施したイメージを作成した。また、作品の題材を架空の妖怪による寸劇とし、ストーリー構成おこなった。日本らしさを有した作品に仕上がったと確信している。今後、同じ手法をベースにより多くの作品を制作し、本課題の有用性をさらに確固たるものへとしていきたい。
著者
吉田 綾乃
出版者
東北福祉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究の成果は以下の3点に集約される.1.ワーキングメモリキャパシティが乏しい者がピースミール処理を志向することは不適応に結びつく.2.キャパシティが乏しい者は対人認知においてカテゴリー依存型処理を行いやすい.3.キャパシティが豊富な者は認知資源が確保可能な場合にはピースミール処理を行うことができる.すなわち、ワーキングメモリキャパシティの個人差が対人的な情報処理過程において重要な機能を果たしていることが明らかになった.
著者
OLAH Csaba
出版者
国際基督教大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

2020年度は主に二つのテーマについて研究を遂行してきた。一つには、これまでに収集してきた日記や文書からのデータを分析し、中世日本における唐物消費の実態状況について検討した。唐物の財産としての要素に注目し、国内での入手経路や売却、質入、贈与に関する事例を分析してきた。困窮を理由に唐物を売却・質入したり、あるいは経済的余裕があって唐物を収集したりするといった事例から、唐物流通に関わる禅僧の存在が浮かび、彼らの目利きとしての役割が見えた。禅僧が遣明使節の目利きとして起用された背景には、禅僧の唐物に対する知識、あるいは禅僧の国内における唐物流通への関与が大きく影響したことが再確認できた。美術史分野における唐物研究から知見を得て、中世における美術品としての唐物の価値や、価格の判断基準について知識を深めた。唐物輸入に関しては、宝徳年間および文明年間の遣明使節に関する記録に基づき、遣明船の出発前の唐物注文およびそのための資金提供、そして帰国後の積載貨物の荷降ろし作業の事例について再検討を行った。もう一つには、遣明使節による唐物入手の実態について検討した。『初渡集』『再渡集』の事例から、中国滞在中の唐物の入手経路や購入価格、購入のための資金調達などについて明らかにした。さらに『壬申入明記』を二つの視点から分析した。一つ目は、日本商品に対して明朝が支給する買取価格(給価)をめぐる寧波・南京・杭州での折衝の流れを再現し、給価およびその後の中国での貿易活動との関連性について考察した。二つ目は、華人との私貿易の時に起きた納品滞納の事件について分析し、実は二つの事件が記録されており、個別の検討が必要であるという新事実が明らかになった。